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2019年8月15日 (木)

地方自治法237条2項の議会の議決があったとされた事例

最高裁H30.11.6       
 
<事案>
市の土地の譲渡につき、市の住民らが、当該譲渡は地自法237条2項にいう適正な対価なくしてされたにもかかわらず、同項の議会の議決によるものでないから違法⇒同法242条の2第1項4号に基づき、当該市長の職にあった者に対して損害賠償請求をすること等を求めた住民訴訟。 

鑑定評価額は7億1300万円とする鑑定書
事業実施者を公募し、予定価格を3億3777万8342円としたところ、A社から3億5000万円で応募。
 
<原審>
本件譲渡は適正な対価なくしてされたものであるとした上、
地自法237条2項の議会の議決がったということはできない

本件土地の適正な対価の下限であるという鑑定評価額の7割相当額と本件譲渡価格との対価との差額(1億4910万円)相当を認容。 
 
<判断>
普通地方公共団体の財産の譲渡又は貸付けが適正な対価によるものであるとして議会に提出された議案を可決する議決がされた場合であっても、当該譲渡等の対価に加えてそれが適正であるか否かを判定するために参照すべき価格が提示され、両者の間に大きなかい離があることを踏まえつつ当該譲渡等を行う必要性と妥当性について審議がされた上でこれを認める議決がされるなど、審議の実態に即して、当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを認める趣旨の議決がされたと評価することができるときは、地自法237条2項の議決があったというべき。 

普通地方公共団体の財産である土地の譲渡が適正な対価によるものであるとして議会に提出された議案を可決する議決につき、
不動産鑑定士による鑑定評価額と当該譲渡の価格との間に大きなかい離があることを踏まえて審議がされたこと、
②議会においては、当該土地の所在する地区に小中学校が移転するまでに、防犯や児童生徒の安全のため、当該土地が住宅地とされる必要がある旨の意見があったところ、2回の一般競争入札やその後の公募を経ても当該土地を譲渡することができず、更にその後行われた公募により譲渡先である事業実施者が選定されたという経緯を踏まえて審議がされたことなど
判示の事情の下においては、
当該議決をもって、地自法237条2項の議会の議決があったということができる
 
<解説>
●地自法237条2項は、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ適正な対価なくして譲渡し、貸し付けてはならない旨を規定するところ、
同項の議会の議決があった場合には、特段の事情のない限り、当該譲渡等を行ったことにつき首長は免責されるものと解されている。 

最高裁H17.11.17は、
同項の議会の議決があったというためには、財産の譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要する旨を判示
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平成17年最判の事案は、町有地から砂利を無償で採取した会社との間で、その後に町が対価の支払いを受ける旨の合意をし、これに基づき支払われた対価を財産収入として計上した補正予算が可決されたというものであるところ、
譲渡の対価が適正であれば議会の議決を要する事案ではなかったし、
譲渡がされる前に当該譲渡についての個別の議案が可決された事案ではない。

●本判決:
当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを認める趣旨の議決がされたといえるかについては、
審議の実態に即して評価すべき。

その趣旨の議決がされたと評価することができる場合の一例として、
当該譲渡等の対価に加えてそれが適正であるか否かを判定するために参照すべき価格が提示され、両社の間に大きなかい離があることを踏まえつつ当該譲渡等を行う必要性と妥当性について審議がされた上でこれを認める議決がされる場合を挙げている。

地自法237条2項、96条1項6号の趣旨につき、適正な対価によらずに財産の譲渡等を行う必要性と妥当性を議会において審議させ、当該譲渡等を行うかどうかを議会の判断に委ねることとしたものである旨の平成17年最判を受けてのもの。

判例時報2407

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