年功序列型から成果主義型への就業規則の変更が違法とされた事例
名古屋地裁岡崎支部H30.4.27
<事案>
Y社が人事及び賃金制度に関する就業規則を年功序列型から成果主義型へ変更
⇒
Y社の従業員であるXが、同変更が不利益変更に当たって違法であり、新たな就業規則に基づき行われた評価及び減給によって損害を被ったなどと主張して、不法行為に基づき、損害金等の支払を求めた。
<判断>
就業規則の変更が、労働者に不利益を与える場合には、
労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の変更に係る事情に照らして合理的なものでなければならず、合理的といえない場合には、そのような就業規則の変更は、違法と評価される。
Y社の就業規則の変更が不利益に変更に当たるとした上で、
不利益の程度について、
①従業員は、最低評価であるD評価を受けた場合に、減給となること
②その効果が次年度以降にも及ぶこと、
③降格処分の詮議対象となり得ること
⇒
非常に大きな不利益を受ける。
変更の必要性について、経営上の必要性に基づいて行われたものであるとしたが、
内容の相当性について、
内容自体は概ね前記必要性に見合ったものとなっているとしたものの、
①成果主義において公正な人事評価が必要であること、
②特に、D評価においては、不利益が非常に大きいこと
⇒公正な評価が制度的に担保される必要性が高い。
一次評価者と二次評価者が同一の者になる場合があることを前提として、
①二次評価のうち最低のD評価の具体的な基準が定められておらず、
②一次評価者と二次評価者が同一の場合には、複数の者が関与することによる一定の客観性を保つことができず、
③従業員が評価結果に不服がある場合に、他の者による再評価や評価に対する審査の機会はなく、
④修正が可能な制度や措置が設けられていない
⇒
評価の公正さが担保されていない。
制度設計について、企業の裁量を前提としながらも、Y社の企業規模等を考慮して、D評価について評価の公正さが制度的に担保されていないことが著しく不相当。
⇒
D評価の一次評価と二次評価とが同一の者による場合があるにもかかわらず、修正の可能性を担保する制度や措置を設けなかった点については、就業規則の変更について労働組合の同意があるなどのその他の変更に係る事情を考慮しても、著しく合理性を欠くものといわざるを得ず、
少なくとも一次評価と二次評価を同一の者が行う場合のD評価に係る部分については、違法なもの。
<解説>
就業規則の不利益変更については、
特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるというのが判例の考え方(最高裁)で、
労契法10条も、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、有効であるとする。
成果主義型の導入に関する学説では、特に制度内容の相当性判断について、制度設計の公正さ・透明さを求めるもの、制度設計については基本的に労使にゆだねられるべきであるとするものなどがある。
本判決は、制度設計の裁量を前提としながらも、制度の内容の相当性について、労働者の受ける不利益が重大なものであることから、公正な人事評価が制度的に担保される必要性を指摘し、重大な不利益を受ける評価に際して公正な人事評価が担保されていない部分について著しく不相当であるとした。
判例時報2407
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