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2019年8月

2019年8月31日 (土)

解離性同一性障害と責任能力

東京高裁H30.2.27    
 
<事案>
窃盗(万引き)により執行猶予中の被告人が、同一日に、三店舗において、靴、化粧品、衣服等多数の物品を万引きした事案。 
 
<争点>
被告人が本件各犯行当時、
① 解離性同一性障害にり患していたか否か
②主人格とは別の人格状態にあったのか否か
③被告人の責任能力の有無・程度
 
<原判決>
被告人は本件各犯行当時、
①解離性同一性障害にり患していたが、
②主人格と別の人格状態にあった旨の被告人の原審公判供述は信用出来ないとして、
③完全責任能力を肯定。 
 
<判断>
●争点①②を肯定した上で、心神耗弱を認定し、原判決を破棄。 
 
●責任能力の判断基準 
弁護人:
副人格の行為について主人格が責任を負うべきではないという見解を前提に、副人格の状態で犯行に及んだ場合、一律に責任能力を欠く旨主張。
本判決:
解離性同一性障害における人格状態のありようについて、同障害の診断基準を踏まえて検討した上で、副人格の状態であるとの一事によって責任能力が否定されるのは明らかに不合理

解離性同一性障害にり患した者の責任能力の判断基準について、副人格が現れた点を含む同障害の症状の態様や程度によって、どのような影響を受け、犯行に及んだかを検討し、その責任能力を判断すべき
 
●本件事例へのあてはめ 
①被告人は、本件当時、人格状態が交代したこと自体について認識していたが、主人格が人格状態をコントロール等することはできない上、主人格が交代した副人格の行為中に副人格の行為を認識したり、影響を与えたりすることもできなかった。
②副人格が被告人の状況を認識して内省を深められるかも一切明らかでなく、社会生活を送る上で副人格の状態にある被告人が内省を深める機会を持ちえたとも認められない。
③主人格である被告人が内省、後悔しても、副人格に影響を与えて副人格の内省が深まるような関係にないと認められる。

副人格の人格状態にあった被告人が、万引きについて、是非を弁識し行動を制御し得たと認めるには合理的疑いが残る⇒完全責任能力は認められない。

①被告人は、周囲の注目を引くことなく本件犯行を実行できた⇒副人格の人格状態になったからといって、周囲の状況を認識する能力や目的合理的な行動をとる能力が障害されていたとは認められない
②店員の様子を気にしながら商品をリュックサック等に隠し入れていた⇒副人格の状態にあった被告人が万引きが許されない行為であるとの意識を全く欠いていたとは認められない
③副人格は主人格が欲していたジャムも万引き⇒主人格の願望を実現したという側面もうかがわれる
④副人格は、主人格と趣味や性格が異なるが全く相容れない人格状態とは認められない

副人格の状態にあった被告人は、社会生活一般に関して相応の判断能力や行動制御能力を備えているように見られるのであって、主人格の状態の被告人と断絶したものではないなどとして、心神耗弱を肯定
 
<解説>
●解離性同一性障害にり患した者の責任能力の判断基準
A:行為者人格的アプローチ:
行為時の副人格に対して完全な責任能力を問うことが可能であるという考え方

B:グローバルアプローチ:
犯行時の人格以外の主人格を含めて、1個の人間⇒その人間に対して、行為時の人格のみを根拠に刑罰を科すことはできないとする考え方。
主人格と行為時人格との関連(記憶の存否・程度等)を問題とすべき。
b1:常に責任無能力とする見解
b2:主人格が交代人格の行動を関知、コントロールできなければ常に責任無能力とする見解
b3:犯行時の人格にかかわらず、是非弁別能力・行動制御能力を欠く場合のみ責任無能力とする説
 
●東京高裁H30.7.10:
被告人が多重人格障害にり患し、昏睡強盗を行った当時に第2人格が出現していた可能性があるとされた事案において、
多重人格障害にり患し複数の人格が出現する場合でも、同障害そのものを理由として直ちに責任能力を否定することは相当ではなく、
当該行為時に現れていた人格の性質・特徴等も踏まえ、行為時やその前後における言動等を総合して、責任能力の有無・程度を判断するのが相当。
①犯行動機が合理的で了解可能であり、
②高度な現実認識や知的判断の下で行われて計画的犯行であって、
③犯行時の行動も被告人の普段の人格から大きくかい離しておらず、
④本件が第二人格の出現によって初めて犯されるに至った犯行であるともいえない

完全責任能力を肯定。 

判例時報2409

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2019年8月30日 (金)

パブリシティ権侵害で、独占的利用許諾を受けた者による損害賠償請求(肯定)

大阪高裁H29.11.16      
 
<事案>
フィットネスプログラム「Rimix」のマスタートレーナーAの画像をホームページ等に掲載したYの行為が、Aのパブリシティ権につき独占的利用許諾を受けているXの独占的利用権を侵害する不法行為に当たるとして、Xによる不法行為に基づく損害賠償請求。 
X:フィットネスプログラム「Rimix」を中国、台湾地区で運営する株式会社。
同地区の短答マスタートレーナーつぃて日本、中国及び台湾で活躍するAは、その夫が代表取締役を努めるXにそのパブリシティ権について独占的利用許諾を行い、XがAのパブリシティ権に関する契約の交渉・締結を行い、対価を取得。
Y:フィットネス関係の衣料品を製造販売する株式会社。
 
<争点>
①パブリシティ権侵害による不法行為の成否
②パブリシティ権侵害による損害額
 
<判断> 
●争点①について 
最高裁H24.2.2の判旨を確認し、
パブリシティ権の利用許諾契約の有効性と、第三者による肖像等の無断使用が独占的利用許諾者との関係で不法行為となる場合について、

パブリシティ権は、人格権に由来する権利の1内容を構成するもので、一身に専属し、譲渡や相続の対象とならない
しかし、その内容自体に着目すれば、肖像等の商業的価値を抽出、純化させ、名誉権、肖像権、プライバシー等の人格権ないし人格的利益とは切り離されている
パブリシティ権の利用許諾契約は不合理なものであるとはいえず、公序良俗違反となるものではない

パブリシティ権の独占的利用許諾を受けた者が現実に市場を独占しているような場合に、第三者が無断で肖像等を利用するときは、同許諾を受けた者は、その分損害を被ることになる⇒少なくとも警告等をしてもなお、当該第三者が利用を継続するような場合には、債権侵害としての故意が認められ、同居諾を受けた者との関係でも不法行為が成立する。

①Aは中国・台湾地域のマスタートレーナーとして認定され、台湾のテレビ番組に出演するなどしており、
②日本のRitmix愛好家の間においてもマスタートレーナーとしてのAの肖像権は一定の顧客吸引力を有していた

裁判所はAがパブリシティ権を有していると認めるのが相当

X代表者が中国、台湾において「RITMIX」等の商標権を取得しており、AとYとの間のライダー契約のA側の交渉を行っていた
YはXがAのパブリシティ権の独占利用許諾を受けていたことを認識できた。

①XとYとの協議の継続中は、YがAの画像をウェブサイト等に掲載することにつきXの承諾があったと認められる
②本件通知によりYがXとの協議を終了させたことにより、XによるAの画像掲載の承諾も撤回された

Yが自ら本件通知を行いながら、Aの画像を削除せずに、Aの肖像等を広告として使用したと評価できる

Yの行為が、「Aのパブリシティ権に係るXの独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると認められる」とした。
 
●争点②について 
Xが独占的に利用を許諾されたAのパブリシティ権は、肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利

Xは、Yの行為により、画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害を受けたものと認められる。
①ライダー契約の交渉において、1か月あたり6万円の商品を無償提供するとのYの提案に、Xは応じていないとの事情
②Aの顧客吸引力の程度、内容、Aの画像の掲載場所の数、掲載期間等を総合考慮

1か月当たりのYの行為による損害額を10万円とするのが相当
 
● 画像の掲載期間について、Aの画像がYの管理するサイトから削除されたと明確に判明するのは、平成28年3月17日に削除されたインターネットショッピングモールQに係るものしかない
⇒平成28年3月17日までの間、YはAの画像を継続してウェブサイト等に掲載していたと推認するのが相当。

Yが本件通知から掲載画像すべてを削除するまでに一定期間を要すると認められる⇒本件通知のあった平成27年3月25日から平成28年3月17日までの間のうち、11か月分である110万円の損害をXが被ったと認めるのが相当。
 
<解説> 
パブリシティ権について平成24年最判:
氏名、肖像等(あわせて「肖像等」という)が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を、排他的に利用する権利と定義し、その法的性質を人格権に由来する権利とする判断を示した。

パブリシティ権侵害として不法行為法上違法となる場合として、肖像等の無断利用のうち、
①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
③肖像等を商品等の広告として利用するなど、
専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合
との判断。
他方で、パブリシティ権の定義、法的性質、侵害判断基準以外の論点については、判断が示されておらず、今なお議論が続いている。

平成24年最判の調査官解説:
判示事項ではないとしつつ、
パブリシティ権は名誉、プライバシー権等の人格権ないし人格的利益とは切り離されているその利用許諾契約は民法90条にいう公序良俗に反するものではなく、有効
利用許諾を受けた者の損害賠償請求につき、自由競争の範囲を超えて債権侵害として不法行為を構成する場合には認められるとする。

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2019年8月28日 (水)

私募債である特別目的会社の社債の引受・販売と損害賠償責任

那覇地裁H30.7.13      
 
<事案>
Xらは、Y(証券会社)から、レセプト債と呼ばれる金融商品(「本件社債」)を購入⇒その発行体の特別目的会社(SPC)等が破産⇒元本の償還を受けることができなくなり、損害を被った。
Xらは、Yによる引受審査義務(引受証券会社が、証券引受けに際し、適切な引受審査を行う義務)及び説明義務の違反あり⇒
Yに対し
主位的に不法行為又は金販法5条による損害賠償請求として、
予備的に消費者契約法により本件社債の売買契約を取り消したとして、
本件社債の代金相当額等の支払を求めた。
 
<争点>
①引受審査義務違反を原因とする請求が認められるか
②説明義務違反を原因とする請求が認められるか
③消費者契約法による売買契約の取消しが可能か 
 
<判断・解説>
●争点①:引受審査義務違反について
引受審査引受証券会社において、引受対象の有価証券について資料や情報を収集した上で、当該有価証券の引き受けが適当であるか否かを判断する手続。
Xら:
Yが本件社債を引き受けて顧客に販売するに当たり、顧客に対する私法上の注意義務として引受審査義務を負い、その内容は、本件社債は私募債であるものの、その発行が公募規制を潜脱するものであることを踏まえ、公募規制に変わる信用性を付与し得る程度、すなわち財務諸表の法定監査やそれを含む有価証券報告書等の作成義務、法定の賠償責任、情報開示義務がなこと等をすべて補完し得るものでなければならないと主張。
but
本判決:
引受審査の根拠(金商法17条、21条により、投資者保護の観点から引受証券会社に求められる「相当な注意」義務を果たすためのもの)のほか、引受証券会社の証券市場における社会的役割や、証券会社に対する投資者の期待等を踏まえつつも、これをもって個々の投資家に対する法的義務を構成するとはいえない

Xらの主張する内容の引受審査義務を否定
一般的な不法行為責任を負うかの判断において、過失が認められるかという観点で検討されるものにとどまる

これは公募債券の場合でも異ならない⇒公募規制潜脱の有無は引受審査義務違反による不法行為責任の有無を左右しない。

◎金融商品の商品適格自体に着目し、その審査を証券会社の責任とするか否かという問題。
いかなる投資家に対しても適合性を有せず、健全な証券市場の確保の観点から証券市場に流通させることがおよそ不適切な有価証券を、証券会社が漫然と引き受けて販売した場合に、不法行為責任が生じ得ることは異論がない。

本判決:
Yが本件社債を初めて引き受けるに際して行った引受審査は問題のないものであったものの、その後については、発行体が決算報告書上債務超過となるなどしている⇒引受審査が不十分であったという余地がある。
but
本件社債が未償還となった原因は、発行体の粉飾決算等による資金繰り破綻であるところ、Yが適切な引受審査を行ったとしても、粉飾決算等を知ることができ、本件社債の販売をしなかったとまでは認められない。
損害との因果関係を否定

●争点②:説明義務違反について 
Yは、顧客の年齢、知識、投資経験、投資顧問及び理解力等その属性に応じて、取引に伴うリスクの内容とその仕組み等について説明すべき信義則上の義務を負っており、
ことに本件社債のようなSPCの発行する社債については、発行体であるSPCの資産の内容やその運用の仕組みについても概要を説明する義務がある。
本件社債の発行大河債務超過となっているという情報は、本件社債のリスクを把握するに当たって重要⇒この点の説明を欠いたことは、Xらに対する説明義務違反となる余地がある。
but
債務超過以外の点については、本件社債の提案書に記載があるものであって、同提案書に基づいて必要が説明がされた⇒説明義務違反を否定

●争点③:消費者契約法による取消し 
Xら:Yによる本件社債売買の勧誘に際して、消費者契約法4条1項1号所定の不実告知(重要事実について事実と異なることを告げること)又は同条2項所定の不利益事実の不告知(重要事項について消費者の不利益となる事実を故意に告げなかったこと)があったと主張。

本判決:
Yが、本件社債につき安全性の高い商品であると説明したことを認定。
but
これは主観的な評価にとどまり、「事実と異なること」には当たらない
不利益事実に当たる元本欠損のおそれについては説明がされている。
元本の償還がされない可能性が高いことについては説明されていない。
but
発行体の粉飾決算や資金繰り破たんについてまでYが知っていたとは認められない。

「故意」による不利益事実の不告知には当たらない

判例時報2409

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2019年8月27日 (火)

福島第一原発事故により避難指定区域となった地域に所在した介護老人保健施設の営業損害等について原子力損害の賠償に関する法律3条1項に基づく損害賠償請求を一部認めた事案

福島地裁H30.11.20      
 
<事案>
福島県双葉郡浪江町に介護老人保健施設を設置・運営していたいXが、平成23年3月11日に発生した福島第一原発の事故により、本件施設の営業をすることができなくなったと主張⇒Y社に対し、原賠法3条1項本文に基づき、本件施設に関する平成29年3月から平成58年2月までの期間の営業損害等の賠償を求めた。
 
<判断>
Xが本件事故前と同じ又は同等の営業を再開するためには、少なくとも避難指示の解除時点(平成29年3月31日)から10年を要するものと認定する一方で、
避難指示が解除されたことによりXの営業活動における支障の程度も段階的に低減することを考慮し、Xの営業損害を段階的に算定した上で、Xの請求の一部を認容。 
●避難指示区域内で事業を営んでいた事業者の営業損害:
当該事業者が従前と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能と認められる時点までの間に得ることができなかった利益の限度で賠償を認めるのが相当。 

●Xが転業又は移転することが困難であったこと 
老人介護保健施設は、その性質上、他の事業に転換することは不可能又は著しく困難⇒他の事業への転換に要する期間を想定して営業損害を考えることはできない。
①老人介護保険施設ではあらかじめ高齢者福祉圏域が設けられ、圏域ごとに必要入所定員総数が定められており、これを超える場合は県知事が開設許可を付与しないこともあり得る
②福島県内の他の高齢者福祉圏域の入所定員数

Xが福島県内の他の高齢者福祉圏域に本件施設を移転させようとした場合、開設許可を得るのは困難であることが予想される。
同一の高齢福祉圏域内で本件施設を移転する場合には、前記のような障害はない
but
①福島県内における医療・介護職の慢性的な人材不足
②働き手となる世代で帰還する意向を有している者がそれ程多くない

同一の高齢者福祉圏域内で移転しても直ちに必要な人材を確保することが困難な状態にあった。

具体的な営業拠点の移転を計画していたなどの特別の事情がないXにおいて、高齢者福祉圏域の内外にかかわらず営業拠点の移転を要求することはXに不可能を強いるに等しく、営業拠点を移転することを前提とすることは相当ではない

●Xが本件施設の現所在地で本件事故前と同じ又は同等営業活動を再開できる時期 
本件施設の営業を停止するに至った直接の要因である避難指示は、平成29年3月31日に解除されており、この時点では営業再開に対する支障は解消。
but
・・・・
避難指示が解除されても直ちに本件事故前と同じ又は同等の営業活動を再開するのは不可能か著しく困難であり、同レベルに回復するためには避難指示解除後も相当の期間を要する
①65歳以上の高齢者においては帰還の意向が高く、介護老人保健施設の需要はある程度回復が見込まれる
②福島県による積極的な人材確保対策により今後は人材確保の点でもその効果がある程度見込まれる、
③福島県による積極的な人材確保対策により今後は人材確保の点でもその効果がある程度見込まれる
④福島県全体としては、非難指示区域が狭くなり、着実に復興の道を歩み、徐々にではあるが本件事故による影響も収束に向かっている
⑤地域住民のXに対する信頼・依存度は相当に高い
⑥本件施設の所在地が避難指示解除準備区域として復興の拠点と捉えられていること等の事情

遅くとも避難指示の解除時点(平成29年3月31日)から10年を経過した平成39年3月までには従前と同程度の事業ができるまでに回復するものと推定される。

Y:Xの本件施設に関する営業損失の賠償期間については損失補償基準要綱等を参考にすべきと主張
vs.
本件事故は突然かつ広範囲に被害を生じさせ、また、その被害も長期にわたって継続するものであり、公共用地の収用のように事前の準備期間や熟慮期間などを経て法令等に基づいた各種の手続が実施され、代替地も用意されているケースとは明らかに前提状況が異なる

損失補償基準要綱等の考えを参考に営業損害の賠償期間を考えるのは相当ではない。

●Xの営業損害の額 
①本件施設が所在地においても本件事故前と同じ又は同等の営業活動をするためには、避難指示の解除時点から少なくとも10年を要する
but
②浪江町の多くの地域の避難指示が解除され、今後は徐々にではあるが住民の帰還等が進んでいくことが予測されること等

Xにおける本件施設の営業活動の支障の程度についても平成29年3月31日以降に段階的に低減していくものと推測され、営業活動に与える支障の割合の低減に合わせて段階的に算定するのが相当
 
<解説>
本判決:
①本件事故により営業活動が将来的に不能になったものとは考えず、むしろ再開可能であることを前提として、本件事故の影響で営業活動が停止していた期間中の逸失利益を損害そ捉え、従前と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能と認められる時点までの間の逸失利益の限度で賠償を認めた
本件事故かによる営業活動への支障が段階的に低減していくことを考慮し、その割合に合せて段階的な算定。 

判例時報2409

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2019年8月26日 (月)

建売住宅の販売について、消費者契約法4条2項に基づく解除を認めた事案

名古屋高裁H30.5.30      
 
<事案>
Xは、建売住宅の販売等を目的とする会社である被控訴人(Y)から、土地及び建物(「本件不動産」)を購入
but
本件不動産は、市の風致地区内建築等規制条例の定める緑化率を充足しておらず、条例に違反する状態にあった。
Xは、Yが緑化率不足という条例違反があることを秘してXに本件不動産を売却⇒
Yに対し、
売買契約の錯誤無効
詐欺取消し
消費者契約法4条2項に基づく取消し
瑕疵担保責任に基づく解除
を主張して、
売買代金等の返還を求めると共に、違約金及び不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めた。
 
<原判決>
緑化率不足という条例違反について、
これに関する錯誤は意思表示の主要部分をなすものではなく、その瑕疵は売買契約の目的を達することができないものとはいえない⇒錯誤無効及び瑕疵担保責任による解除の主張を否定。
Yの従業員は、緑化率不足を失念して、Xに対し本件不動産を売却⇒YがXを欺罔したとか、故意に条例違反を告げなかったとは認められない。
 
<判断>
瑕疵担保責任による解除について、
契約の目的を達することができなくなるようなものではない⇒否定。 

消費者契約法4条2項に基づく取消しについて、
Yは、緑化率の不足という条例違反の事実を認識していながら、これを消費者であるXに故意に告げなかった⇒同項による取消しを認め
Yに対し、
Xから、本件不動産につき抵当権設定登記の抹消登記手続を経た上で、
土地については所有権移転登記の抹消登記手続、
建物については真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記を受けること、
本件不動産の引渡しを受けることと引換えに、
売買代金等の返還することなどを命じた。

Xの損害賠償請求については、Xの主張する損害は、Yが緑化率不足を告げないで本件不動産を売却したこととの間に相当因果関係があるとはいえないなどとして、これを棄却。
 
<解説>
本判決:
Y自身が条例に基づく許可を申請し、芝を貼るなどして条例の定める緑化率を達成し、行為完了届を提出したが、その後まもなくデッキテラスを設置するため、芝を撤去し、条例の要求する緑化率を充足しなくなったにもかかわらず、他の部分で緑化面積を確保することのないまま、本件不動産の販売を開始したという事実経過⇒特段の事情のない限り、Yは、条例違反の事実を認識しており、かつ、購入希望の消費者が条例違反の事実を認識していないことを知りながら、条例違反の事実を告げなかったものと推認するのが相当。

芝を撤去した免責分について他の箇所を緑化すべきところを失念した旨のYの従業員の説明については、不自然な点が多々あり、その信用性には重大な疑問があるとして排斥。 

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2019年8月25日 (日)

使用貸借の土地の譲受人による建物収去土地明渡請求権を権利濫用とし、1億円の立退料を支払うことで権利濫用とならないとした事案

東京高裁H30.5.23      
 
<事案>
A所有の本件土地上にAの子Y1・Y2所有の本件建物が存在。
Aから転買によって本件土地を買い受けたXからYらに対し土地明渡を求めるもの。
A・E・F・Xらが一堂に会して、2つの契約を締結。
①本件土地をAからFへ6400万円で売却する売買契約(「第1売買契約」)
Aの説明によれば本件土地利用は使用貸借で、Aの強い希望により本件売買契約をYらに通知・確認せず、現状のまま売却。
②本件土地をFからXへ6827万円余で転売(「第2売買契約」)
その際、登記手続については、Fを省略し、AからXへの中間省略登記をするものとされた。
 
<原審> 
本件土地の売買価格の低廉さ(更地価格は2億6000万円超であるが、売買価格はいずれも6000万円台)
②本件第売買契約と第2売買契約を同時に行い、しかも本件土地上に存する建物所有者・居住者に管理関係を尋ねることなく秘して行うとうい取引行為の異常さ
③高齢かつ脳梗塞・狭心症・心筋梗塞等で入退院を繰り返しているY1につき、自己のあずかり知らぬところで行われた本件順次売買によって、Xに対し、多額に及ぶと想定される本件建物の収去費用を負担して本件土地を明け渡さなければならなくなるという結果は、均衡を大きく欠く

XがYらに対する建物収去土地明渡しを請求することは権利の濫用として許されない
   
Xは控訴し、その際、予備的に、5000万円の支払と引換えによる本件請求を追加
 
<判断>
主位的請求:
使用借権者であるYらは・・・Xに対抗し得る占有権原を有していない⇒権利の濫用に当たるとの特段の事情が認められない限り、本件土地の所有権に基づき、Xは、Yらに対して、本件建物を収去し、本件土地の明渡しを求めることができる。
but
本件ではその特段の事情が認められる⇒原審同様、Xの請求は権利濫用に当たる。

予備的請求:
立退料を「1億円」として、その引換給付を求めた
 
<解説>
使用貸借は無償契約
⇒返還の時期を定めなかったときは、貸主は、契約目的に従い使用及び収益が終わった時に(ただし、その使用及び収益が終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過した時は)、直ちに返還を請求でき(民法597条2項)
返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる(同条3項)。
使用貸借においても、貸主・借主の「信頼関係」が基礎となっていることは、賃貸借と同様。

無条件の明渡請求は、信義則に反し権利濫用となるとの誹りを免れないが、その際、貸主と借主との間の信頼関係破壊の程度に応じた調整機能を果たすものとして、賃貸借契約における明渡請求につき正当事由の補強として認められる「立退料」が承認されるべきであり、これによって、権利濫用となるとの誹りを免れることができる。(大阪高裁H2.9.25、文献)
以上の借主保護の法理は、当事者間の問題。

使用貸借の目的物が第三者に譲渡され、その譲受人(新所有者)空借主に対し明渡請求がされた場合は、前記の当事者間の諸事情は、原則として問題とならない
←使用貸借に対抗力がない以上、貸主がその地位を引き継ぐ理由はない。
but
その場合でも、第三者からの明渡請求について、これを権利濫用と認め、その上で、立退料(補償金)の支払により権利濫用とならないといのが本判例

裁判所が申出額を超えた立退料の額を認めた判例(最高裁昭和46.11.25)
財産上の給付が、正当の事由の存否に関する判断をもっぱら妥当性判断に基づく紛争処理に導きかねず、適切な運用が要求されるとの指摘。

判例時報2409

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2019年8月24日 (土)

外国裁判所の判決に係る訴訟手続と民事訴訟法118条3号にいう公の秩序

最高裁H31.1.18      
 
<事案>
上告人らが、米国カリフォルニア州の裁判所で被上告人に対して損害賠償を命ずる確定判決を取得⇒日本の裁判所において当該外国裁判所の確定判決についての執行判決を求めた。 
 
<事実関係>
上告人らは、平成25年3月、米国カリフォルニア州オレンジ郡上位裁判所(「本件外国裁判所」)に対し、被上告人外数名を被告として損害賠償を求める訴えを提起。

被上告人は、弁護士を代理人に選任して応訴したが、訴訟手続の途中で同弁護士が本件外国裁判所の許可を得て辞任。
被上告人がその後の期日に出頭せず⇒上告人らの申立てにより、手続の進行を怠ったことを理由とする欠缺(デフォルト)の登録

本件外国裁判所は、上告人らの申立てにより、平成27年3月、被上告人に対し、約27万5500米国ドルの支払を命ずる、カリフォルニア州民訴法上の欠席判決を言い渡し、本件外国判決は、同月、本件外国裁判所において登録された。

上告人らの代理人は、平成27年3月、被上告人に対し、本件外国判決に関し、判決書の写しを添付した判決登録通知を、誤った住所を宛て先として普通郵便で発送。前記通知が被上告人に届いたとはいえない。

被上告人は、本件外国判決の登録の日から180日の控訴期間内に控訴せず、その他の不服申立ても所定期間内にしなかったことから、本件外国判決は確定。
 
<規定>
民訴法 第118条(外国裁判所の確定判決の効力)
外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと
四 相互の保証があること。
 
<原審>
敗訴当事者に対する判決の送達は、裁判所の判断に対して不服を申し立てる権利を手続的に保障するものとして、我が国の裁判制度を規律する法規範の内容となっており、民訴法118条3号にいう公の秩序の内容を成している。
本件外国判決は、被上告人に対する判決の送達がなされないまま確定
⇒その訴訟手続は同号にいう公の秩序に反する。
 
<判断>
我が国の民訴法は、訴訟当事者に判決の内容を了知させ又は了知する機会を実質的に与えることにより、当該判決に対する不服申立ての機会を与えることを訴訟法秩序の根幹を成す重要な手続として保障

外国判決に係る訴訟手続にいて、当該外国判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず、実際には訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより、不服申立ての機会が与えられないまま確定した当該判決に係る訴訟手続は、民訴法118条3号にいう公の秩序に反する

本件において、判決の内容の了知がされ又は了知の実質的な機会が与えられることにより不服申立ての機会が与えられていたか否かについて更に審理を尽くす必要があるとして、原判決を破棄して原審に差し戻した。 
 
<解説> 
●米国カリフォルニア州の民訴制度における判決の送達
カリフォルニア州の民事訴訟制度においては、我が国のような判決書の送達制度は見当たらず、これに代えて、判決の裁判所への登録を知らせる判決登録通知が、原則として勝訴当事者から相手方当事者に対し送達がされることとなっている。
but
控訴期間は、同州裁判所規則により、判決登録の日から180日又は判決登録通知が送達されたことが証明された場合にはその送達の日から60日のいずれか早い日の経過により確定

判決登録通知が送達されたことが定かでない本件のような場合でも、判決登録から180日を経過したことによって控訴期間が満了。
本件は、被告について裁判の途中で代理人弁護士が辞任し、カリフォルニア州民訴法上の欠席判決(デフォルト・ジャッジメント)がされた事案。

同州の民訴法では、欠席判決がされるまでには、欠席の登録の前提としての欠席登録申請書の送達や、欠席判決の前提としての欠席判決申請書の送達手続が必要であるなど、欠席当事者に対しても種々の手続保障が存することがうかがわれる。

弁護士が辞任する際にも、裁判所による辞任許可の決定が必要で、そのための自認許可申請書の本人への送達手続が必要となっているなど、その後の手続についての注意喚起も行われている。

州によっては当事者が判決等の裁判書類をインターネットで閲覧できる仕組みも整備されている。
 
外国裁判所の判決が民訴法118条により我が国においてその効力を認められるためには、同条3号により、判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないことが要件とする。 
その制度やそれに基づいた手続が我が国の法秩序の基本原則なしい基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決に係る訴訟手続は、同条3号にいう公の秩序に反する。(最高裁H9.7.11)
 
●我が国における判決の送達に関する基本原則ないし基本理念:
判決書は当事者に送達(255条)。
判決に対する不服申立ては判決書の送達を受けた日から所定の不変期間内に提起しなければならず、判決は前記期間の満了前には確定しない(116条、285条、313条)。
送達は、 裁判所の職権によって、送達すべき書類を受送達者に交付するか、少なくとも所定の同居者等に交付し又は送達すべき場所に差し置くことが原則。

当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れないなど前記の送達方法によることのできない事情⇒公示送達等が例外的に認められる。
外国判決が民訴法118条により我が国においてその効力を認められる要件としては、「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」を受けたことが掲げられている(同条2号)のに対し、判決の送達についてはそのような明示的な規定が置かれていない。

外国判決に係る訴訟手続において、判決書の送達がされていないことの一事をもって直ちに民訴法118条3号にいう公の秩序に反するものと解することはできない。
 
●本判決:
判決書の内容を了知させ又は了知する機会を実質的に与えることに加えて、これにより「不服申立ての機会を与えること」を重ねて記載。

適時に、相当な方法で了知される必要があるという趣旨や、その了知の程度は、不服申立てをするに足りる程度であるという意味が含まれているものと解される。 

判例時報2409

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2019年8月23日 (金)

県知事が産廃処理施設の設置許可処分取り消し⇒環境大臣が取消処分を取り消し⇒その裁決の取消請求

名古屋高裁H30.4.13      
 
<事案>
株式会社Aは、岐阜県B市内において、産業廃棄物処理施設の設置を計画⇒廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき、設置許可を申請⇒岐阜県知事は平成21年11月30日に設置許可⇒岐阜県知事は、平成22年7月30日に本件設置許可処分を取り消す旨の処分⇒Aが審査請求⇒環境大臣は、本件取消処分を取り消す旨の裁決⇒
周辺住民であるXら175名が、国に対して、本件裁決の取消しを求めた事案
 
<原審>
本家施設の設置予定地から半径2キロメートル圏外に居住するXらについては、原告適格がない。 

A代表者は、本件施設の設置予定地の町内会常会において、本件施設の設置を説明し、町内会の代表者らから承諾書を得ている⇒従前適正処理条例が定める周辺住民への周知義務を履行したといえる⇒適正配置要件が欠けているとはいえない。

Aは、岐阜県に対して、周辺住民への説明状況について虚偽の回答。
but
本件許可を受けられなかった者とはいえない⇒不正の手段で許可を受けたとはいえず、また、「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがある」ともいえない

本件裁決が違法であるとは認められない。
 
<判断>
原告適格については、原審判決と同様の判断。
廃棄物処理法は、産業廃棄物処理施設の設置許可申請者に対し、周辺住民に対して申請の内容を周知することを義務づけていると認めることはできない。

従前適正処理条例が定める周辺住民への周知義務を履行していないことは本件取消事由に該当しないし、適正配置要件を欠くことにもならない。

本件裁決が違法であるとは認められない。

控訴審で訴訟承継した控訴人らについて、
本件裁決の取消しを求める法律上の利益は、一身専属的なもので相続の対象とならない⇒控訴を却下。
 
<解説>
原告適格について、
判例に沿って、本件施設の規模や内容を考慮し、その設置により生活環境に影響が及ぶおそれのある地域の範囲を判断。 

判例時報2409

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2019年8月22日 (木)

詐欺の故意・共謀が争われた事案

高松高裁H30.3.1      
 
<事案>
キャッシュカードを詐取した詐欺の事案。 
 
<判断>
被告人は、平成28年5月頃までに、Z1から1回2万円の報酬でキャッシュカードを使ってATMから現金を引き出す「仕事」を引き受けた。
被告人の公判供述⇒その時点で、被告人は、そのカードが詐欺によって入手される又は入手されたカードであると認識していたという原認定は是認できる。 

原判決:被告人が各詐欺の実行前に各回の「仕事」を引き受けて、徳島市に移動⇒各詐欺の故意及び共謀を認めた。
but
これを認めるためには、各「仕事」を引き受けた時点において、もしくは各詐欺が行われる時点までに、被告人が、これから詐欺が行われるであろうことを認識している必要がある。

この種の一連の犯行では、被害者が詐欺に気付く前に速やかに現金を引き出す必要があり、詐欺の実行前に現金引出役を確保して待機させておく場合が少なくない⇒こうした仕組みを知っていれば、現金引出しの依頼を受けるに当たり、これからキャッシュカードをだまし取る可能性があることも思い至る。
but
5月の詐欺については、被告人が「仕事」を誘われたのは5月頃で、5月の詐欺の前に「仕事」をしたのは2回であり、Z1からの説明も簡単なもの
⇒それ以前い被告人が前記知識を有していたとは認められず、これから詐欺が行われるであろうことを未必的にせよ認識したことは認められない。

9月の詐欺については、
①5月の引出しの際に待機していたがキャッシュカードを受け取るにいたらなかった経験をしたこと、
②その後、同様の指示を受けて約20件の引出しを繰り返したこと

被告人は、9月の詐欺に係る「仕事」を引き受けた時点において、既にい一連の犯行の仕組みを相当程度理解しており、指示役と通じた者が、これからキャッシュカードをだまし取ることを未必的に認識していたと認定することができる。

被告人は、
(1)
①現金引出しがキャッシュカード詐欺の実質的利益を確保するための不可欠な行為であることや、
②確実に現金を引き出すためには、引出役が現地で待機している必要があることを認識していたと推認することができる
(2)一連の犯行に深くかかわっていたZ1の指示を受けて、約5か月の間、報酬約束の元、現金引出役として多数回行動してきたという被告人の立場

Z1らと詐欺についても共謀していたものと認められる。
 
<解説>
●一連の犯行に深くかかわっていれば、キャッシュカードの詐欺の(広義の)共犯になり得るが、引出し以外の関与を示す証拠が乏しい場合は、現金の窃盗だけを起訴されることが多かった。 
●振り込め詐欺の出し子について、振り込め詐欺の被害金をATMから引き出す行為は、それが自己の口座からであっても窃盗罪に当たるとされている。

引出役について振り込め詐欺の共犯の成否が問題となった事例:
神戸地裁H24.3.7:
ATMからの引出行為を反復していた者がATMからの窃盗ではなく、特殊詐欺の被害者に対する組織犯罪処罰法上の組織的詐欺として起訴された事案において、被告人が詐欺の被害金であると認識していたとは認められないとして無罪とした。(控訴審は有罪)

広島高裁H25.4.23:
架空会社の社債募集を仮装した詐欺につき、被告人は単なる引出行為にとどまらず、共犯者の指示に従って、虚偽のパンフレットの送付、口座の凍結確認、引出後の送金などによって深く関与していたとして、詐欺の共同正犯を肯定。

●被告人は、キャッシュカードが詐欺等に係るものであると認識していたことは認めていたものの、控訴審において、現金引出しを指示された時点では既にカードが手に入っていると思っていたと供述。

被告人が客観的に詐欺を促進する行為をした時点において、主観的に詐欺は既遂に至っていると思っていたというのであるから、被告人には、現金引出しを引き受けたことが詐欺の実行を促進することの認識、すなわち詐欺の故意はなく、実行犯ないしこれを相通じた者(Z1)との間での意思連絡も存在しないこととなる(詐欺の幇助にもならない)。

類似行為の反復から故意を推認:
最高裁H30.12.11:
現金送付型特殊詐欺の受け子の故意に関し、被告人が約20回異なるマンションの空室で異なる名宛人になりすまして、配達された荷物を受取回収役渡していた⇒荷物が詐欺を含む犯罪に基づき送付されたことを十分に想起させるものであると説示。

被告人は「だましたカードを持ってくるとは聞いていました」
⇒自分の受け取るカードが既にだまし取ったものであろうと、これからだまし取るものであろうと、どちらでも構わないつもりであったともいえる。
but
指示役からの簡単な説明と、被告人の乏しい経験

5月に現金引出しを引き受けた時点では、既にキャッシュカードをだまし取っているのか、これからだまし取るのかについて、被告人が格別意識していたとは認められず、結局、未必的にせよ、これから関係者がだまし取るという認識が被告人にあったとは認められないということ。


①一連の犯行における引出役の重要性
②被告人がZ1を指示役とする同種の犯行に多数回関与して、報酬を得ていたこと等
⇒9月の詐欺について共謀共同正犯を肯定。
but
①被告人の詐欺に対する貢献は限定的
②被告人に詐欺に加担する意思があってもなくても報酬額は同じであった可能性もある
⇒共同正犯性については議論の余地もある。 

千葉地裁H30.1.23:
現金送付型特殊詐欺において、送付先で被害金の入った宅配便を受け取り、これを運搬して詐欺の関係者に交付したバイク便会社従業員(ライダー。同社経営者は自身の裁判で詐欺の共同正犯と認定された)につき、
被告人は、詐欺が既遂に達する前に運搬の依頼を受け、詐欺の被害金であることも認識していたが、意思連絡の程度も詐欺に対する寄与度も乏しいとして、詐欺の共同正犯も幇助犯も否定(予備的蘇秦の盗品等運搬罪を認めた。東京高裁H30.11.27もこれを是認し検察官控訴を棄却。)。

現金受取型又は送付型特殊詐欺の受け子の共同正犯性に否定的な見解もある

判例時報2407

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2019年8月21日 (水)

不正競争防止法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があるとされた事案

最高裁H30.12.3      
 
<事案>
自動車会社に勤務していた被告人が、同業他社への転職直前に、不正の利益を得る目的で、2度にわたり、勤務先会社のサーバーコンピュータに保存されていた営業秘密に係るデータファイル合計12件の複製を作成した不正競争法違反の事案。 
 
<争点>
不正競争法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」の有無等 
 
<規定>
不正競争防止法 第21条(罰則)
次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
三 営業秘密を保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者
 
<判断>
本件における「不正の利益を得る目的」の有無について、
勤務先会社のサーバーコンピュータに保存された営業秘密であるデータファイルへのアクセス権限を付与されていた従業員が、同社を退職して同業他社へ転職する直前に、同データファイルを私物のハードディスクに複製したこと、
当該複製は勤務先会社の業務遂行の目的によるものではなく、その他の正当な目的をうかがわせる事情もないこと等の本件事実関係の下では、
同従業員には、法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があったといえる
と職権判示して、原判決を是認。 
 
<解説> 
●営業秘密侵害罪に対する刑事処罰規定は、平成15年の不正競争法改正により新設された。
さらに平成21年の同法改正により、
①営業秘密を保有者から示された者(従業者等)が、営業秘密の管理に係る任務に背き、図利加害目的をもって営業秘密を領得する行為自体が新たに営業秘密侵害罪の対象とされるとともに、
②営業秘密侵害罪の目的要件が、「不正の競争の目的で」から「不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で」(図利加害目的)に改められた。
本件は、①の罪に問われているものであり、また、②の改正後の目的要件である「不正の利益を得る目的」の解釈適用が問題。
「不正に利益を得る目的」は、公序良俗又は信義則に反する形で不当な利益を図る目的」を意味し、自ら不正の利益を得る目的(自己図利目的)のみならず、第三者に不正の利益を得させる目的(第三者図利目的)も含む

具体例:
①金銭を得る目的で、第三者に対し営業秘密を不正開示する場合
②外国政府を利する目的で、営業秘密を外国政府関係者に不正開示する場合


図利加害目的が否定される具体例:
①公益の実現を図る目的で、事業者の不正情報を内部告発する場合
②労働者の正当な権利の実現を図る目的で、労使交渉により取得した保有者の営業秘密を、労働組合内部に開示する場合
③残業目的で、権限を有する上司の許可を得ずに営業秘密が記載された文書な等を自宅に持ち帰る場合

 
●本決定は、
従業員が同業他社への転職直前に営業秘密を領得した本件のような場合においては、当該領得につき勤務先の業務遂行目的がなく、その他の正当目的(内部告発・報道・労働組合活動等)もないのであれば、通常は消去法的に自己又は転職先等の第三者のために退職後に利用する目的があったことは合理的に推認できる旨の事実認定上の判断と、
そのような退職後の利用目的が認定できる以上、具体的な利用方法の如何にかかわらず、法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」はあたっといえる旨の法的判断を
本件の事実関係に即して示したもの。

判例時報2407

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2019年8月20日 (火)

年功序列型から成果主義型への就業規則の変更が違法とされた事例

名古屋地裁岡崎支部H30.4.27      
 
<事案>
Y社が人事及び賃金制度に関する就業規則を年功序列型から成果主義型へ変更

Y社の従業員であるXが、同変更が不利益変更に当たって違法であり、新たな就業規則に基づき行われた評価及び減給によって損害を被ったなどと主張して、不法行為に基づき、損害金等の支払を求めた。 
 
<判断>
就業規則の変更が、労働者に不利益を与える場合には、
労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の変更に係る事情に照らして合理的なものでなければならず、合理的といえない場合には、そのような就業規則の変更は、違法と評価される。 
Y社の就業規則の変更が不利益に変更に当たるとした上で、

不利益の程度について、
①従業員は、最低評価であるD評価を受けた場合に、減給となること
②その効果が次年度以降にも及ぶこと、
③降格処分の詮議対象となり得ること

非常に大きな不利益を受ける

変更の必要性について、経営上の必要性に基づいて行われたものであるとしたが、
内容の相当性について、
内容自体は概ね前記必要性に見合ったものとなっているとしたものの、
成果主義において公正な人事評価が必要であること、
特に、D評価においては、不利益が非常に大きいこと
公正な評価が制度的に担保される必要性が高い

一次評価者と二次評価者が同一の者になる場合があることを前提として、
二次評価のうち最低のD評価の具体的な基準が定められておらず
一次評価者と二次評価者が同一の場合には、複数の者が関与することによる一定の客観性を保つことができず
従業員が評価結果に不服がある場合に、他の者による再評価や評価に対する審査の機会はなく
修正が可能な制度や措置が設けられていない

評価の公正さが担保されていない

制度設計について、企業の裁量を前提としながらも、Y社の企業規模等を考慮して、D評価について評価の公正さが制度的に担保されていないことが著しく不相当

D評価の一次評価と二次評価とが同一の者による場合があるにもかかわらず、修正の可能性を担保する制度や措置を設けなかった点については、就業規則の変更について労働組合の同意があるなどのその他の変更に係る事情を考慮しても、著しく合理性を欠くものといわざるを得ず、
少なくとも一次評価と二次評価を同一の者が行う場合のD評価に係る部分については、違法なもの。
 
<解説>
就業規則の不利益変更については、
特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるというのが判例の考え方(最高裁)で、

労契法10条も、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、有効であるとする。
成果主義型の導入に関する学説では、特に制度内容の相当性判断について、制度設計の公正さ・透明さを求めるもの、制度設計については基本的に労使にゆだねられるべきであるとするものなどがある。
本判決は、制度設計の裁量を前提としながらも、制度の内容の相当性について、労働者の受ける不利益が重大なものであることから、公正な人事評価が制度的に担保される必要性を指摘し、重大な不利益を受ける評価に際して公正な人事評価が担保されていない部分について著しく不相当であるとした

判例時報2407

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2019年8月19日 (月)

種苗法の事案

大阪地裁H30.6.21      
 
<事案>
Xが、名称を「トットリフジタ1号」とする登録品種(「本件登録品種」)に係る育成者権(「本件育成者権」)を有するYに対し、トレイに培養土を敷き、これに常緑性の植物体を植栽してなる屋上緑化製品(「本件製品」)をXが販売した行為などにつき、本件育成者権を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないことなどの確認を求めた事案。 
 
<争点>
①本件被疑種苗が本件登録品種又は本件登録品種特性により明確に区別されない品種か
②Yの本件育成者権に基づく請求は、本件育成者権に係る品種登録に無効・取消理由があることにより、権利濫用として許されないか
③消尽の成否 
 
<判断> 
●認定事実
争点①について、本件被疑種苗は本件登録品種であると認定
争点③に関し、本件被疑種苗は正規に購入した本件登録品種を無許諾で増殖することにより得たもの 
 
●争点②について 
品種登録が重大・明白な瑕疵により無効とされる場合は、当該品種登録に係る育成者権の行使は許されない

キルビー事件(最高裁H12.4.11)を引用して、品種登録が種苗法49条1項1号所定の要件に違反して登録され、取り消されるべきことが明らかであるときは、当該品種登録に係る育成者権の行使は、権利の濫用に当たり許されない

特許法167条(平成13年法律63号による改正後のもの。)の「特許無効審判・・・の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」との規定の趣旨を、紛争の蒸し返し防止にあるとし、
同条に当たる事情があるときは、同法104条の3第1項の「当該特許が特許無効審判により・・・無効にされるべきものと認められるとき」に当たらず、特許権侵害訴訟における同条の主張は認められない

種苗法51条が品種登録に対する異議申立ての期間制限を設けないこととしたのは、①育成者権が登録品種及び当該登録品種と特性により区別されない品種を業として利用する権利を専有するという強力な独占権であり、その存続期間が品種登録の日から原則として25年と長期間にわたり、②存続期間満了後にも存続期間中の侵害行為に対する権利行使が可能であるため、第三者の権利利益に与える影響が大きいことから、品種登録に対する異議申立てに特許無効審判に類似した機能を持たせる趣旨。

特許権侵害訴訟の場合と同様に、品種登録に対する異議申立てに係る決定が確定したときは、育成者権侵害訴訟において、当該異議申立ての当事者が、当該異議申立てと同一の事実及び証拠に基づく登録無効・取消事由を主張して権利濫用の主張をすることは、紛争の蒸し返しとして許されない
but
事案へのあてはめとしては、異議申立てとの証拠の同一性が認められない
⇒登録無効・取消事由の存否の判断に進み、登録無効・取消事由は存在しないと判断。

登録品種に種苗法49条1項2号所定の後発的取消事由が生じた場合は、当該登録品種に係る育成者権は保護されるべき実質的価値を欠くものとなったといえる。
but
その場合でも育成者権の消滅に後発的取消事由が生じた時点までの遡及効を認めなかったのは、登録品種の特性が保持されなくなったと判定するためには、審査時と同様の現地調査や栽培試験によってそのことを確認することを要するから、その確認ができた時点以前の特性喪失を認定することができないという点にある。

登録品種に後発的取消事由が生じ、侵害訴訟において当該登録品種に係る品種登録が取り消されるべきことが明らかになったときは、農林水産大臣による取消し前であっても、後発的取消事由の発生が明らかに認められる時点以後の当該登録品種に係る育成者権の行使は、権利の濫用に当たり許されない。
but
事案へのあてはめとして、後発的取消事由は存在しないとした。
 
●争点③について 
本判決:
種苗法21条4項本文及びただし書を指摘して、権利者から譲渡を受けた登録品種の種苗を再度譲渡した場合には、育成者権は消尽しており、当該種苗に対して育成者権の効力は及ばない
but
育成者権者から譲渡された登録品種の種苗を増殖した上で譲渡する場合、その増殖は登録品種の種苗の「生産」に当たる⇒同条ただし書の適用を受けることになり、当該種苗に対して育成者権の効力はなお及ぶ。
XはYから正規に購入した本件登録品種の種苗を無許諾で増殖し、それを使用して本件製品を販売
⇒Xが本件製品を販売した行為はYの本件育成者権を侵害するもの。
 
<解説>
●権利濫用法理の育成者権侵害訴訟への適用
キルビー事件最高裁判決が示した権利濫用法理が育成者権侵害訴訟にもあてはまることを示した。
 
●侵害訴訟における抗弁の制限 
本判決:
特許法167条及び同法104条の3を指摘して、確定した異議申立ての当事者が当該異議申立てと同一の事実及び証拠に基づく登録無効・取消事由を主張して権利濫用の抗弁を主張することは許されないと判示。
権利行使制限の抗弁は「当該特許が特許無効審判により・・・無効にされるべきものと認められるとき」(特許法104条の3第1項)に可能なものであるのに対し、
キルビー事件最高裁判決が示した権利濫用の抗弁は「当該特許に無効理由が存在することが明らかであるとき」に可能なもの。

無効審判を請求できない者・場面であっても、当該特許に無効理由が存在することが明らかでありさえすれば侵害訴訟において権利濫用の抗弁を主張できるか否かが問題

(商標権についての事案であり権利濫用の抗弁の趣旨がキルビー事件最高裁判決のそれと同一ではないが、商標法47条1項所定の除斥期間を経過した場合に権利行使制限の抗弁は主張できないが権利濫用の抗弁が主張できるとした判例として、最高裁H29.2.28)
特許無効審判を請求できない者・場面を規定する特許法167条について、平成23年特許法改正の立法担当者は、当事者及び参加人についての一事不再理効を残すこととした理由を、審決が確定した後に紛争の蒸し返しができることは不合理であるからと説明

知財高裁H30.12.18は、特許法167条の規定の趣旨は同一の当事者間では紛争の一回的解決を実現させる点にあり、既に確定した特許無効審判と同一の事件及び証拠に基づく場合は、権利行使制限の抗弁のみならず権利濫用の抗弁を主張することも許されないとしている。

判例時報2407

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2019年8月18日 (日)

居酒屋の店舗外観と不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」(否定)

名古屋地裁H30.9.13      
 
事案 飲食店の経営を業とするXが、
(1)自ら運営する寿司を主たる商品とする居酒屋「A」の標準的仕様として用いられている店舗外観(「店舗外観A」)が、原告の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)に当たる
(2)Yが出店した寿司を主たる商品とする居酒屋「B」において、店舗外観Aと類似する店舗外観を用いたことは不正競争行為に該当する

①不正競争法3条に基づく看板等の廃棄や、
②同法4条に基づく損害賠償金の支払
を求めた事案。
 
<争点>
店舗外観Aが、不正競争法2条1項1号の「商品等表示」に該当するか否か 
 
<判断>
店舗外観(店舗の外装、店内構造及び内装)は、通常それ自体は営業主体を識別させることを目的として選択されるものではないが、
場合によっては営業主体の店舗イメージを具現することを1つの目的として選択されることがあり、
店舗外装が特定の出所を表示する機能を有するに至る場合がある。 

①店舗外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており、
②当該外観が特定の事業者によって継続的・独占的に使用された期間の長さや、当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、
需要者において当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には、
店舗外観の全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当する場合があると解すべき。

店舗外観Aの各要素について、まず、個別的にみて、客観的に他の同種同業の店舗の外観とは異なる顕著な特徴があるか否かを検討⇒いずれの要素についても消極。

ア:関係証拠から、店舗外観Aの特徴としてXが主張する要素が、そもそもXの全ての店舗に共通した要素ではない⇒標準的仕様として考慮すること自体ができない
イ:前記アの問題を有しない要素についても、
(a)和風料理を主に提供する居酒屋であれば、看板から店舗の業種や雰囲気が伝わるようにするため、その看板を木目調とし、そこに記載する文字の表示に毛筆体を用いることも自然
(b)メニューが表示された看板を外側に掲げる以上、その主な目的が店舗のメニューや価格帯を認識させて集客力を高めることにあることは自明であり、メニューを値段と併せて表示する際に、比較的安価な商品を記載した看板が主に掲げられることも一般的

いずれの要素も、客観的に他の同種店舗の概観とは異なり、これによって営業主体としての原告が想起され得るといえるまでの顕著な特徴であるとは認められない

店舗外観Aの各要素を全体としてみても、その主要な特徴を全体としてみても、その主要な特徴を備えた和風料理を提供する店舗が他にも一定数あることなどから、前記のような顕著な特徴は認められない
店舗外観Aの商品等表示該当性を否定

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2019年8月17日 (土)

自動車の運転者に視野狭窄⇒重過失を肯定

旭川地裁H30.11.29      
 
<事案>
Aが自転車で横断歩道を走行中に、Yが保有・運転する自動車と衝突する交通事故が発生し、それによりAが死亡。
Aの夫及び子であるXらが、Yに対し、不法行為及び自賠法3条に基づき、損害賠償を求めた。
 
<争点>
①Aが本件横断歩道に侵入した際の信号の色
②過失割合 
 
<判断> 
●争点① 
①Aが、本件交通事故時59歳と比較的高齢
②本件交通事故の約1か月前に変形性股関節症と診断

Aの進行速度は、高齢者の自転車平気速度と成人の自転車平均速度の中間程度。

本件交通事故の発生場所や信号が青色に変わるタイミング
⇒Aは、歩行者信号が青色点滅から赤色に変わる直前に本件横断歩道に侵入。
 
●争点② 
横断歩道上での衝突事故⇒基本的な過失割合をA:3割、X:7割

①Aは青色点滅終了までに渡りきることが困難であると把握すべきであった
②歩行者信号が赤色に変わったのを把握した段階で引き返すこともできた
Aの過失を1割重く修正

Yが視野狭窄であったことについて、
Yは、両眼ともに視野狭窄であり、Yの視野は非常に狭く、自己が注目している部分の周辺以外はほとんど見えていない状況であり、Yが自動車を運転するのは危険であり、Yは、本件交通事故以前に、担当医師から自動車の運転が困難である旨伝えられており、自らの視野狭窄が重度であり自動車の運転が困難であるほどの病状であることを認識していた

Yは、自動車の運転を控えるべきであったといえるし、仮に運転するにしても、より慎重に安全確認を行うべきであったにもかかわらず、Yの対面信号が青色であることを確認し、Y車を発進させるに当たり、右方確認を怠っている

この過失は重く、
本件におけるYによる運転の危険性の高さや危険性の認識度を踏まえると、一般的に重過失の例として挙げられる酒酔い運転(道交法117条の2第1号)がなされた場合に匹敵するものとして取り扱うのが相当

Yの過失を2割重く修正し、過失割合を、A:2割、Y:8割とした。

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再審無罪⇒国賠請求(否定)

大阪地裁H31.1.8      
 
<事案>
①強制わいせつ及び強姦事件で一旦有罪判決を受けたが、再審において無罪判決を受けたX1とその妻X2が、警察官の捜査、検察官による公訴提起・公判維持行為及び勾留の継続並びに裁判官による判決行為がいずれも違法であるとして、国賠請求。
②X1が、再審請求審において検察官が裁判所から証拠一覧表を交付するよう命じられたのにこれを拒否した点を違法であるとして、国賠請求。 
 
<解説>
●未成年者の取調べ方法(警察官による捜査の違法性) 
原告ら:未成年者の取調べに当たっては専門家を関与させるなどの特別な配慮が必要であり、それをせずに年少者の虚偽供述を証拠化した場合には重大な過失がある。

裁判所:主張排斥
 
●被害者の性器の状態に関する証拠収集(捜査官による証拠収集と公訴定期の違法性) 
原告ら:診断は繰り返し強姦の被害に遭っていたというAの供述と矛盾⇒検察官はI医師から直接事情を聞くべき義務があり、また他の産婦人科のカルテ、診断の証拠もその取得可能性と義務があり、これらの義務を尽くしていれば有罪の嫌疑は存在しなかった。

裁判所:起訴検察官が、A及びBの捜査段階における供述を信用できるものと判断したこと及びこれを根拠に公訴を提起したことに不合理な点は認められず、過失はない。
 
●公判検事らの公訴維持等の違法性 
Eが受診していると供述していることを根拠に、検察官に対してその診断書や医療記録の取得の補充捜査を求め、これに応じなかった検察官の主作為の違法を主張。

裁判所:認めず。
 
●担当裁判所の判決行為の違法性 
排斥。
 
●裁判所の交付命令に対する拒否行為の違法性 
検事らが不服申立の手続をとらずに裁判所の訴訟指揮に従わなかったことの当否はおくとしても、再審請求人の証拠一覧表交付請求権は法律上保護された権利利益とはいえず、本件交付拒否行為によってX1の具体的な権利利益が侵害されたわけでもない
⇒これを排斥。
 
<解説>
最高裁H2.7.20:
再審により無罪判決が確定した場合であっても、裁判官がした裁判につき国賠法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が認められるためには、当該裁判官が、違法または不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合であることを要する。

法令の適用に誤りのあった事例に関する最高裁昭和57.3.12の趣旨を事実認定に関する誤りについても適用するとしたもの。 
vs.
「違法または不当な目的をもって裁判を」する例などおよそ想定できない
⇒多くの学説は批判的。

東京地裁H8.3.19:
違法性限定説を否定し、「普通の裁判官の少なくとも4分の3以上の裁判官がそのような事実誤認を冒さないであろうというような場合には「著しく不合理な事実認定」として違法と評価してよい」

同判決の控訴審(東京高裁H14.3.13):
この「4分の3」には言及せず、
前記最高裁昭和57.3.12にいう「特別の事情」とは、
通常の裁判官であれば到底あり得ないといえるほどの合理性がないことが明らかな場合」とした。

本件は、控訴審において、仮に原告が主張するような証拠調べが行われていれば、すなわち、「「真相は被告人の言うとおりではないか」という批判的な目を持って」いれば、弁護人申請の証拠調べが行われてその段階で無罪となった可能性がかなり高い事案。

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2019年8月16日 (金)

婚姻費用分担額と義務者の特有財産から生じる法定果実の収入認定等

大阪高裁H30.7.12      
 
<事案>
平成27年に婚姻、平成29年ころから別居
婚姻費用の審判の事案
Y:A社を経営しているが、役員はYのみで、その本店はY住所地にある。

Yの平成29年の役員報酬は年額504万円
ほかに自社株から200万円の配当

平成28年の給与収入:1128万円
公的年金:約128万円
配当所得:180万円
不動産所得:約20万円
長期一般譲渡所得:約176万円

平成27年の給与収入:1440万円
公的年金:約128万円

X:
A社から年額96万円の給与収入を得ていたが、平成29年9月に退職扱い。
平成30年からパートとして稼働、4月は約5万円、5月は約8万円の収入 

<原審>
標準算定方式に従い、Yに対し、婚姻費用の分担金として毎月末日限り月額8万5000円の支払を命じた。

Xの収入:
A社退職後は無職(0円)もやむを得ないが、
パート就労(平成30年2月)以降は、A社からの収入の半額程度(年額50万円)と認定。

Yの収入:
A社はYの1人会社⇒同社からの報酬は、いずれもYの世帯収入と評価できる。

X(年額96万円)及びY(年額50万円)をもって、Yの収入。

YのA社からの配当収入200万円は、これが夫婦の生活費に供されていたとは認められない⇒考慮せず。
 
<判断>
Yの収入については、
給与収入のほか、配当金、不動産収入及び年金収入を考慮し、Yに対し、婚姻費用の分担金として毎月末日限り月額13万円の支払を命じた。 

Yの特有財産からの収入であっても、これが双方の婚姻中の生活費の原資となっている⇒婚姻費用分担額の基礎となるべき収入となる
同居中の夫婦の生活費の原資は、Yの役員報酬に限られていたとは認められない

年金収入は職業費を必要とせず、標準算定方式では職費の割合が給与収入の20%程度⇒年金収入を給与収入に換算するには、年金額を0.8で除する方法によるのが相当。
 
<解説>
●夫婦の特有財産から生じた法定果実が、婚姻費用分担額を定めるに当たり、収入として考慮されるか? 
財産分与(民法768条):
夫婦が婚姻中形成した財産の清算⇒特有財産は分与対象財産から除かれるのが基本。

婚姻費用の分担義務(民法760条):
自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務(生活保持義務)

夫婦が婚姻前から保有する財産や、婚姻後相続により取得した財産などから生じる法定果実(賃料等)であっても、それが夫婦同居中の生活費の原資とされていたのであれば、別居してもそれと同程度の生活を保持させるという観点から、婚姻費用分担額の基礎とすべき収入となる。

問題は、それが夫婦同居中の生活費の原資とされていたかどうかの事実認定

原審:これを認めるに足りる資料がないとして排斥

抗告審:
給与収入のほか、配当金、不動産収入及び年金収入をYの収入に含め、これを基に標準算定方式・算定表に当てはめた金額(13万円)と従前YからXに支払われた生活費(15万円程度)とが近似
配当金等についても生活費の原資とされていたと認定
(夫婦の生活実態を考慮)
 
●年金収入を給与収入に換算する場合の、職業費(20%)の考慮の仕方
年金収入を給与収入に換算する方法:

年金収入には職業費がかからない

ア:年金額につき、職業費の割合(20%)を控除した0.8(1-0.2)で除する方法
vs.
給与収入は基礎収入+公租公課・特別経費+職業費から構成されている⇒全体を0.8で除すると本来分配されるべき基礎収入以外の部分(公租公課・特別経費)も膨らませてしまうことになる、。

イ:給与所得者の基礎収入割合を端的に職業費の割合(20%)を加えたものを基礎収入割合とする方法
vs.
年金受給者固有の職業費の割合自体が統計上明らかではなく、給与所得者の職業費の割合(20%)を便宜利用しているにすぎない。

いずれを採用しても、裁量の範囲内。

判例時報2407

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2019年8月15日 (木)

いわゆる横浜事件に関する国家賠償訴訟

東京高裁H30.10.24      
 
<事案>
いわゆる横浜事件に関する国家賠償訴訟 
 
<争点>
国賠法附則6項(「この法律施行前の行為に基づく損害については、なお従前の例による」)の解釈。 
法律の経過措置規定で「Aについては、なお従前の例による」という規定が置かれる場合においては、Aについての旧規定が存在するのが普通。
but
本件においては、旧規定(旧法令又は改正前の法令の規定)が存在しない状態。
国賠法施行直前においては、統治権に基づく権力的行動としての公務員の行為に基づく賠償責任について定めた実定法の規定が存在せず。
 
<判断>
従前とは施行直前の意味であるが、
施行直前の旧規定が存在しないところ、

施行直前の大審院判例は統治権に基づく権力的行動としての公務員の行為に基づく損害につき国は賠償責任を負わないと判示
昭和22年の国賠法制定の国会審議の過程においても「従前の例による」の解釈が統治権に基づく権力的行動としての公務員の行為に基づく損害につき国は賠償責任を負わないというものになることを前提として質疑が行われた。

国賠法附則6項の解釈として、統治権に基づく権力的行動としての公務員の行為であって国賠法施行前に行われたものに基づく損害については国は賠償責任を負わないと判断
 
<解説>
控訴審判決に対しては、上告及び上告受理の申立てがあったが、期限内に上告理由書等の提出がなかった

民訴法316条1項及び318条5項の規定により、原裁判所が上告等を却下。 

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地方自治法237条2項の議会の議決があったとされた事例

最高裁H30.11.6       
 
<事案>
市の土地の譲渡につき、市の住民らが、当該譲渡は地自法237条2項にいう適正な対価なくしてされたにもかかわらず、同項の議会の議決によるものでないから違法⇒同法242条の2第1項4号に基づき、当該市長の職にあった者に対して損害賠償請求をすること等を求めた住民訴訟。 

鑑定評価額は7億1300万円とする鑑定書
事業実施者を公募し、予定価格を3億3777万8342円としたところ、A社から3億5000万円で応募。
 
<原審>
本件譲渡は適正な対価なくしてされたものであるとした上、
地自法237条2項の議会の議決がったということはできない

本件土地の適正な対価の下限であるという鑑定評価額の7割相当額と本件譲渡価格との対価との差額(1億4910万円)相当を認容。 
 
<判断>
普通地方公共団体の財産の譲渡又は貸付けが適正な対価によるものであるとして議会に提出された議案を可決する議決がされた場合であっても、当該譲渡等の対価に加えてそれが適正であるか否かを判定するために参照すべき価格が提示され、両者の間に大きなかい離があることを踏まえつつ当該譲渡等を行う必要性と妥当性について審議がされた上でこれを認める議決がされるなど、審議の実態に即して、当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを認める趣旨の議決がされたと評価することができるときは、地自法237条2項の議決があったというべき。 

普通地方公共団体の財産である土地の譲渡が適正な対価によるものであるとして議会に提出された議案を可決する議決につき、
不動産鑑定士による鑑定評価額と当該譲渡の価格との間に大きなかい離があることを踏まえて審議がされたこと、
②議会においては、当該土地の所在する地区に小中学校が移転するまでに、防犯や児童生徒の安全のため、当該土地が住宅地とされる必要がある旨の意見があったところ、2回の一般競争入札やその後の公募を経ても当該土地を譲渡することができず、更にその後行われた公募により譲渡先である事業実施者が選定されたという経緯を踏まえて審議がされたことなど
判示の事情の下においては、
当該議決をもって、地自法237条2項の議会の議決があったということができる
 
<解説>
●地自法237条2項は、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ適正な対価なくして譲渡し、貸し付けてはならない旨を規定するところ、
同項の議会の議決があった場合には、特段の事情のない限り、当該譲渡等を行ったことにつき首長は免責されるものと解されている。 

最高裁H17.11.17は、
同項の議会の議決があったというためには、財産の譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要する旨を判示
but
平成17年最判の事案は、町有地から砂利を無償で採取した会社との間で、その後に町が対価の支払いを受ける旨の合意をし、これに基づき支払われた対価を財産収入として計上した補正予算が可決されたというものであるところ、
譲渡の対価が適正であれば議会の議決を要する事案ではなかったし、
譲渡がされる前に当該譲渡についての個別の議案が可決された事案ではない。

●本判決:
当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを認める趣旨の議決がされたといえるかについては、
審議の実態に即して評価すべき。

その趣旨の議決がされたと評価することができる場合の一例として、
当該譲渡等の対価に加えてそれが適正であるか否かを判定するために参照すべき価格が提示され、両社の間に大きなかい離があることを踏まえつつ当該譲渡等を行う必要性と妥当性について審議がされた上でこれを認める議決がされる場合を挙げている。

地自法237条2項、96条1項6号の趣旨につき、適正な対価によらずに財産の譲渡等を行う必要性と妥当性を議会において審議させ、当該譲渡等を行うかどうかを議会の判断に委ねることとしたものである旨の平成17年最判を受けてのもの。

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2019年8月14日 (水)

殺人等7事件で一部無罪となった事案

神戸地裁H30.11.8      
 
<事案>
パチンコ店の実質的経営者であった被告人が、Xら共犯者と共謀し
①被告人から10億円を借入れたR社が、その返済を滞らせ、更に借入時にR社が資力を偽っていたことが判明した件に関連して、
ア:R社代表取締役であるVaをマンション内の檻等に約1年2か月監禁の上(逮捕監禁、Va第1事件)殺害し(殺人、Va第2事件)、
イ:R社財務担当役員のVbを拉致・監禁等して死亡させ(逮捕監禁致傷、Vb第2事件)

②被告人の父が暴力団T会関係者とのトラブルで死亡させられた件に関連して、
ア:T会元組員のVdを拉致・監禁等して死亡させ(生命身体加害略取・逮捕監禁致死、Vd事件)
イ:T会元組員で前記父親死亡の件で処罰されたVcを監禁等した(生命身体加害略取・逮捕監禁致傷、Vc第1事件)後、殺害し(生命身体加害略取・逮捕監禁、・殺人、Vc第2事件)

③パチンコ店の従業員で被告人の下から逃走したVeを倉庫内に約1か月監禁した(逮捕監禁、Ve事件)

前記7事件以外にも、公判前整理手続において裁判員裁判審理事件から分離された5事件が存在
 
<主張>
検察官:全7事件について被告人は首謀者として犯行を主導した旨主張
弁護人:ほぼ全面的に公訴事実を争うとともに、著しい捜査の違法等を理由に控訴棄却を主張。

被告人と共犯者らとの共謀の有無が争われたほか、
遺体未発見のVa・Vdに関しては死亡事件そのものが争われ、Vcの殺人に関しても死因や殺意の有無が争われた。 
 
<判断>
Va第2事件(殺人)について、
Xが被告人と共謀してVaを殺害した可能性はかなりの程度考えられるものの、
そこにXがVaを殺害したと考えなければ合意理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が存在するといえるかにはなお疑問が残る
XによるVaの殺害が、常識に照らして間違いないといえる程度に立証されているとはいい難い

実行犯による被害者殺害の立証が不十分であるとの理由で、被告人を無罪。 

最高裁H22.4.27が、犯人性が争点となった事案において、情況証拠によって有罪を認定するには、「情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要する」と説示。

実行犯による殺害に関する直接証拠がないVa第2事件においても、同様の枠組みから検討を重ねて結論を導いた。

Va第2事件以外の全事件について、いずれも有罪。
公訴棄却の主張についても「本件各公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に当たらない」などとして排斥
⇒被告人を無期懲役。
 
<解説>
公判審理の期間が長期(職務従事予定期間207日、公判回数70回)に

①事件数が多いうえに、ほぼ全面的に公訴事実が争われており、争点が多岐にわたった
②共犯者ほか関係者が多数存在した上に、被害者2名の遺体が未発見とされ、さらに、全事件について主要な実行犯として関与したとされるXも被告人との共謀等を否認
総じて直接証拠が乏しく、検察官が多数の証人によって様々な間接事実を積み上げる立証構造となった
重要な証拠太の同一性・真正等についても争われ、捜査官証人による証拠物の押収過程等の立証も相当の分量となった
④人獣鑑定や死因等に関する専門家証人による立証・反証も一定の分量になった
区分審理制度(裁判員法71条以下)
but
多数の重要証人や三木倉庫といった犯行場所等が複数事件にまたがって登場するなど、各事件の相互関連性が強い⇒区分審理には適さないとの判断がされたものと考えられる。
著しく長期にわたる事件に関しては、平成27年改正により新設された裁判員対象事件からの除外規定(裁判員法3条の2)の適用。
but
本件では、当事者から同規定の適用に係る請求はなされていないようである。

判例時報2406

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2019年8月13日 (火)

GPS捜査で違法収集証拠排除法則⇒一部無罪の事案

東京高裁H30.3.22      
 
<概要>
GPS捜査が行われた可能性を認め、検察官に対して、改めて事実関係を確認した上で、答弁書を提出するよう求め、検察官もGPS捜査が行われたことを認める答弁書を提出。

GPS捜査の実施状況に関する報告書等の取調べや、当該捜査に従事した警察官2名の証人尋問

無令状で行われた本件GPS捜査について、違法の重大性と排除相当性の2要件を認めて、違法収集証拠排除法則を適用し、当該捜査から直接得られ、または密接に関連する証拠と判定された証拠の証拠能力を否定。

2件については無罪、
残る2件についてはその他の証拠のみによっても有罪(懲役2年6月) 
 
<争点>
①本件GPS捜査が違法であるか
②(①を前提として)違法収集証拠排除法則が適用されるか
③(②を前提として)証拠能力が否定される証拠の範囲
 
<判断> 
●争点①について 
最高裁H29.3.15(「大法廷判決」)を挙げて、これと異なる考え方を採るべき理由がない。

本件GPS捜査は大法廷判決前に行われたものであり、当時の警察庁の運用要領に基づいて実施されたもの
but
大法廷判決の見解は普遍的に妥当する

無令状で、秘かに被告人使用車両にGPS端末を装着して行われた本件GPS捜査は違法
 
●争点②について 
本件GPS捜査の期間や位置情報の検索回数のほか、警察官らが、被告人の公道確認時に失尾した場合のみならず、直接の必要性がない場合にも検索を行っていた

行動把握の継続性、網羅性を認め、プライバシー侵害を認定

①警察官らが、捜査関係書類等への不記載、検索履歴の消去など、GPS捜査の実施が判明しないように意を用いていた
原審証人尋問において、事前に隠ぺいの意を通じた上で、意図的に事実と異なる証言

令状主義の精神を没却するような重大な違法を認め、違法収集証拠排除法則を適用
 
●争点③について 
原判決が有罪を認定した主たる間接事実は、
2件については、ア「被告人が、窃盗被害発生日時の当日中に、被害品の一部を換金処分した事実」であり、
残る2件については、イ「被告人が、窃盗(未遂)被害発生日時と合致する日時に、被害者方敷地内に出入りした事実」
アを基礎付ける証拠は、本件GPS捜査以前の捜査で獲得した証拠が主要なもの⇒密接関連性を否定し、証拠能力を肯定
イを基礎付ける証拠は、本件GPS捜査によって得られた位置情報を用いて行動確認したことによって得られた被告人の写真などを中核とするもの⇒密接関連性を認め、証拠能力を否定
 
<解説> 
●判決①~⑤
無令状のGPS捜査は違法
残る問題点は、当該GPS捜査の違法の程度、証拠排除する範囲。

⑤判決:
GPS捜査が検証許可状の発付を得た上で実施⇒違法の重大性を否定し、そもそも違法収集証拠排除法則が適用されていない。
(無令状の)GPS捜査と密接に関連するものとして排除する証拠に関して、
①別の手段によっても獲得された可能性がある、あるいは、
②新たな令状が発付されて押収されたことなど
⇒関連性が稀釈されたとして、排除すべき証拠の範囲をやや狭く解した裁判例。
このような稀釈に言及せずに証拠排除を認めた裁判例(①判決)。

本判決:
違法なGPS捜査との関連性を詳しく検討した上で、密接に関連する証拠でないとは言い切れないなどとして、排除すべき証拠の範囲を広めに認めた
~①判決と似た傾向のもの。
 
●警視庁が、本件GPS捜査を実施した警部につき、GPS端末を使った捜査を隠すために部下2名に偽証を指示したとして書類送検し、停職6か月の懲戒処分に処したとの新聞報道。 

判例時報2406

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2019年8月12日 (月)

犯人蔵匿の故意が問題となった事案

大阪高裁H30.9.25      
     
<原審>
①被告人がAを自己の居室301号室に居住させていた
②AはZ(昭和46年11月14日に発生した「渋谷暴動事件」(凶器準備集合、公務執行妨害、傷害、賢首建造物等放火及び殺人の各被疑事実)の犯人)である
③被告人は、Zについて、殺人事件等の罪を犯した犯人として逮捕状が発せられ、逃亡中の者であることを認識していた
④被告人は、AがZであると認識していた

被告人は「Zが殺人事件等の罪を犯した犯人として逮捕状が発せられ、逃走中の者であることを知りながら」犯人を蔵匿したと認定して有罪。
 
<判断>
原審認定の①②を是認。
④については、原審が摘示した諸事情から、被告人においてAが「Z」であると認識していたと結論づけることはできない⇒経験則違反による事実誤認。
but
犯人蔵匿の故意の成立には、Aが「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」であることの認識があれば足り、
被告人において「Z」という個人に関する具体的な認識はなくとも、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」の認識があったことは推認できる。

犯人蔵匿罪の成立自体は肯定。
ただし、
原審の判断とは異なり、Aの「Z」についての具体的認識を否定した点で「縮小認定」になり、量刑上重要な差が生じる

この認定レベルでの事実誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかだとして原判決を破棄し、改めて、控訴審の認定した事実に基づき犯人蔵匿の罪で有罪とした。

判例時報2406

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2019年8月11日 (日)

勾留の裁判に対する準抗告決定⇒検察官からの特別抗告が棄却された事案

最高裁H30.10.31      
 
<事案>
規制薬物として取得した物の所持罪(国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反、前回被疑事実)により現行犯逮捕、勾留⇒勾留満了の10月10日に処分保留で保釈⇒大麻取締法違反被疑事実(本件被疑事実)で逮捕、勾留請求。

原々審:刑訴法60条1項2号、3号の事由があるものと認めて被疑者を勾留⇒弁護人が準抗告

<原審>
準抗告をいれて、原々審を取り消し。 

一般に、大麻の密輸入者が、密輸入した大麻を所持した場合の両者の罪数関係は、
その所持が輸入行為に伴う必然的結果として一時的になされるにすぎないと認められるとき⇒密輸入の罪に吸収されて所持の別罪を構成しない
その所持が輸入行為の必然的結果を離れて社会通念上別個独立の行為として評価⇒両者は併合罪の関係

本件:
被疑者が貨物を受け取った時点と、現行犯逮捕された時点とでは、日時・場所が近接しており、
受け取った貨物についても、未だ開封もせず、車のトランクに載せたのみ
but
被疑者が配送先で貨物を受け取ったのみならず、これを持ち運んで、共犯者が乗車し、かつ移動性の高い車のトランクに積み込もうとしたことを重視すれば、その時点における所持は、輸入行為に伴う必然的結果ではなく、社会通念上別個独立の行為を評価される余地もないわけではない。
but
仮にそのように評価して、両事実は一罪関係にはないと解したとしても、
前回被疑事実と本件被疑事実とは一連一体の事実で、関係者も同一であり、必要とされる捜査の内容もその大半が共通するものと考えられる。
このような両事実の実質的同一性や、両事実が一罪関係に立つ場合との均衡等

捜査機関は、前回勾留中に、本件勾留請求にかかる被疑事実の捜査についても、同時に処理することが義務付けられていたと解するのが相当であり、これに反して再度の勾留請求を認めることは、勾留の期間を厳格に制限した法の趣旨を逸脱するものとして許されない。
 
<規定>
刑訴法 第四一一条[著反正義事由による職権破棄]
上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
二 刑の量定が甚しく不当であること。
三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。

刑訴法 第四三三条[特別抗告]
この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、第四百五条に規定する事由があることを理由とする場合に限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
②前項の抗告の提起期間は、五日とする。
刑訴法 第四〇五条[上告のできる判決、上告申立理由]
高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
 
<判断>
本件抗告の趣旨は刑訴法433条の抗告理由に当たらないとしつつ、
原決定が、本件勾留の被疑事実である大麻の営利目的輸入と、本件勾留請求に先立つ勾留の被疑事実である規制薬物として取得した大麻の代替物の所持との実質的同一性や、両事実が一罪喚起に立つ場合との均衡等のみから、前件の勾留中に本件勾留の被疑事実に関する捜査の同時処理が義務付けられていた旨説示した点は是認できないが、
いまだ同法411条を準用すべきものとまでは認められない
旨職権判示し、結論においては特別抗告を棄却。 
 
<解説> 
●勾留の単位は個々の犯罪の事実であり(事件単位の原則)、
1個の犯罪事実については1つの勾留しか許されない(一罪一勾留の原則)。 
ここでいう「1個の犯罪事実」か否かは、実体法上の罪数関係を基準とする見解が通説であり、実務の大勢。

先行する勾留の被疑事実と併合罪関係にある別の被疑事実による再勾留は、例えば先行する勾留が違法な別件勾留であるような例外的な場合を除き、許されることになる。
例えば先行勾留における先行被疑事件の捜査の結果として本件被疑事実に関する証拠も相当程度収取されたなど、捜査経緯や証拠関係等を踏まえて両被疑事実の同時処理の可能性を具体的に検討した上で、勾留の必要性がないことを理由に再度の勾留請求を却下することはあり得る。
 
● 特別抗告には刑訴法411条が準用される(最高裁昭和26.4.13)
⇒原決定の法令違反を理由とする取消しは、いわゆる著反正義が認められる場合に限られる。

判例時報2406

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2019年8月 9日 (金)

ディスクリプションメタタグ、タイトルタグ、キーワードメタタグとして使用と商標的使用

大阪地裁H29.1.19      
 
<事案>
X:アルカリイオンの整水器・浄水器のリース及びレンタル並びに健康器具の販売、健康食品の販売等を主たる業務とする会社。
Y:自動二輪車、自動車、自動車の本体及び部品の売買及び輸出入等を主たる業務とする会社。 
X商標:「バイクリフター」「BIKELIFTER」
Y標章:「バイクシフター」「bike shifter」
 
<判断> 
●X商標とY標章1の類否 
要部:
「バイク」と「リフター」は、いずれかを要部として捉えることは相当ではなく、これらを一体のものとして観察すべき

外観:
7文字中、比較的注視されにくい中間の4文字目の1文字のみが相違するにとどまり、それ以外は同一
⇒全体として類似

呼称:
7音中の4音目の「り」と「し」の部分のみが相違するのみで、母音を共通
⇒類似

観念:
「オートバイを持ち上げ移動させるもの」と、「オートバイを移動させるもの」
⇒類似
 
●平成28年9月以降の商標権侵害の成否 
平成28年10月28日時点においても、Yのホームページの各所にY商品を「バイクシフター」とする記載が残存し、同年9月29日時点においては、その商品購入図面に「バイクシフター」という商品名が残存。
YAHOOショッピングサイトでの表示は、Yがしたものとは認められない

前記記載に接した需要者は、同ホームページにおいて写真とともに掲載されているY商品が「バイクムーバー」であるとともに「バイクシフター」でもあると認識すると認めるのが相当。
 
メタタグ又はタイトルタグにおける使用による商標権侵害の成否 
一般に事業者がその商品又は役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は、その商品又は役務に関する広告

インターネットの検索サイトの検索結果画面において表示される当該頁の説明についても、同様に、その商品又は役務に関する広告であるというべき。

これが表示されるようにhtmlファイルにディスクリプションメタタグないしタイトルタグを記載することは、商品又は役務に関するウェブサイトが検索サイトの検索にヒットした場合に、その検索結果画面にそれらのディスクリプションメタタグないしタイトルタグを表示させ、ユーザーにそれらを視認させるに至るもの

商標法2条3項8号所定の商品又は役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する使用行為に当たるとして、商標的使用を肯定。

●キーワードメタタグにおける使用 
キーワードメタタグは、Yのウェブサイトを検索結果としてヒットさせる機能を有するにすぎず、ブラウザの表示からソース機能をクリックするなど、需要者が意識的に所定の操作をして初めて視認されるものであり、これら操作がない場合には、検索結果の表示画面のYのウェブサイトの欄にそのキーワードが表示されることはない

商標法は、商標の出所識別機能に基づき、その保護により商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ることを目的の1つとしている(商標法1条)ところ、商標による出所識別は、需要者が当該商標を知覚によって認識することを通じて行われる

その保護・禁止を対象とする商標法2条3項所定の「使用」も、このような知覚による認識が行われる態様での使用行為を規定したものと解するのが相当であり、同項8号所定の「商品・・・に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」というのも、同号の「広告・・・に標章を付して展示し、若しくは頒布し」と同様に、広告の内容自体においてその標識が知覚により認識し得ることを要すると解するのが相当。

本件でのキーワードメタタグにおけるX商標の使用は、表示される検察結果たるYのウェブサイトの広告の内容自体において、X商標が知覚により認識される態様で使用されているものではない
⇒商標法2条3項8号所定の使用行為に当たらない。
 
<解説> 
学説においては、キーワードメタタグに関し、商標的使用を否定する見解が多数。
but
「メタタグは、目的のウエブサイトにおいて、「表示」、「ソース」の順にクリックすると視聴できる。また、サーチエンジンの検索欄の入力の際、サーチエンジンを通じて視認できているといえなくもない。
ちょうど、ファックスを通じて特定の商標を受け手に伝え、受け手が手足としてその商標の付された広告文を探すという関係にあるのではないか。
リアルワールドの問題とすると、この場合、商標の視認性を欠くことを理由に商標権の侵害を否定できないように思われる」
として、キーワードメタタグの商標的使用を肯定する方向性の見解もある。(土肥)

本判決:
キーワードメタタグについて商標的使用を否定。
ディスクリプションメタタグ、タイトルタグについては、従来の裁判例どおり、商標的使用を肯定。

判例時報2406

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2019年8月 7日 (水)

カラーボックスの使用による化学物質過敏症発症⇒販売業者に損害賠償請求(肯定)

高松地裁H30.4.27      
 
<事案>
Yの経営するホームセンターで、Yが製造委託して販売しているカラーボックス6個を購入して使用⇒化学物質に対する過敏症を発症
Yに対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求めた。 
 
<争点>
①本件カラーボックスによって化学物質過敏症を発症したか及びその程度
② Yの過失・不完全履行
 
<判断> 
●争点①について 
①Xは、本件カラーボックスとの接触後、気分不良、のどの痛み、呼吸の違和感等の症状を感じるようになった
②ホルムアルデヒドは人体にとって有害な化学物質であり、前記症状は、ホルムアルデヒドによって人体に生じるとされる症状と矛盾がない
③本件カラーボックスは、1個で試験室内に少なくとも800ug/?のホルムアルデヒドを拡散させるものであった
④Xは、本件カラーボックスの使用を中止した後も様々な化学物質に過敏な反応を示すようになった
⑤化学物質から離れると症状が軽快する
⑥気分不良、困窮の違和感、手足の神経症状、顔面の痺れなど多岐にわたる症状がある
⑦医師がXについて化学物質過敏症と診断

Xは、本件カラーボックスへの接触を契機として、化学物質に対する過敏症を獲得

①Xは、その後さまざまな症状を訴えるようになっている
②後の通院時に当初からの症状として述べた内容は、実際に当初の通院時に訴えていた症状より重いものとなっている
③本件訴訟においては、更に当初から激しい症状が生じていたかのように供述⇒Xの諸症状の中には誇張されたものや心因性要因によるものも多い

Xの症状のうち、本件カラーボックスから放散されたホルムアルデヒドの接触に起因して発生したものは、本件カラーボックス購入後に医療機関に対して訴えていた、化学物質に接すると気分不良をきたす程度のものにとどまるというべきであり、その程度は後遺障害等級14級相当
 
●争点②について
本件カラーボックスは、1個でも800ug/?という、室内濃度指針値を大幅に上回るホルムアルデヒドを放散する商品であり、目や鼻への刺激症状を生じさせ、一定の人に価額物質過敏症を発生させる危険を内包していた

このような本件カラーボックスを漫然と販売したYには、
人体に悪影響を及ぼす程度のホルムアルデヒドを拡散させるような家具を顧客に販売しないようにする注意義務に違反した過失がある

判例時報2406

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2019年8月 6日 (火)

司法書士の司法書士会員への監督指導などを行っている公益社団法人への業務報告義務(肯定)

東京地裁H30.5.25      
 
<事案>
司法書士であるXが、
司法書士または司法書士法人を会員とし、会員への成年後見等の事件紹介及び家庭裁判所への成年後見人等候補者としての会員の推薦、会員への指導監督などを行っている公益法人であるYに対して、
司法書士法24条に規定する秘密保持義務に反すること、
成年被後見人等のプライバシー侵害に当たることを理由として、
Yに対する業務報告義務がないことの確認、
XがYにより事件紹介を受ける権利を有することの確認、
Xが業務報告をしないことを理由としてYは後見人候補者名簿及び後見監督人候補者名簿からXを削除してはならず、除名処分をしてはならないことを求めた事案。 
 
<規定>
司法書士法第二四条(秘密保持の義務)
司法書士又は司法書士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。
 
<判断>
●司法書士法24条にいう「業務」とは、司法書士の本来業務をいい、本件報告事項の報告は、これに当たらない。

Yが会員に対して本件報告事項の報告義務を課すことが司法書士法24条に反するとはいえない。


プライバシーに係る情報を他人に開示することが違法となるか否かは、プライバシーに係る情報の内容と、開示の相手方の範囲、開示の方法、開示の状況等の開示の態様とを総合的に考慮して判断するのが相当。
①開示の相手方はYに限られ、
②開示の目的は、成年後見人等に就任したYの会員である司法書士に対する監督の一環
③開示の範囲も、その監督に必要な最小限にとどまっており、
④当該司法書士がYに対して本件報告事項を開示することは、当該司法書士の適法かつ適正な職務の遂行を担保し、ひいては成年被後見人等の利益にも資する

本件報告事項が秘匿性の高い情報を含むものであることを勘案しても、本件報告事項の開示がプライバシーに係る情報を他者に開示するものとして違法であるということはできない。
 
<解説>
プライバシーについては、これを侵害した場合については不法行為になる(最高裁H15.3.14、最高裁H15.9.12)。
but
プライバシーについて侵害があっても正当な事由がるときには不法行為は成立しないとされている(東京地裁H2.8.29)。

判例時報2406

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2019年8月 5日 (月)

麻酔管理の過誤と認めた医療過誤事案

東京地裁H30.6.21      
 
<事案>
無脾症候群、完全型心内膜床欠損症、肺動脈閉鎖、左心室低形成、共通房失弁閉鎖不全、左BTシャント術後といった重症な先天性心疾患にり患していたA(平成16年7月生、平成18年12月死亡)が、Yの開設する心臓外科等を専門とするH1病院において、双方向グレン手術の適応判断のための心臓カテーテル検査⇒循環動態が著しく悪化⇒検査中止後に低酸素脳症を発症して死亡

Aの両親X1、X2が、本件検査を担当したH1病院の小児科医らには、
吸入麻酔薬フローセンを使用した注意義務違反ないし過失、本件検査中のフローセン濃度管理、血圧測定及び抹消静脈路の確保に関する注意義務違反ないし過失あり⇒Yに対し、債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として、合計5915万円余及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断> 
●フローセンの使用方法をもって、注意義務違反ないし過失があったとはいえない。 
 
●麻酔管理の過失を肯定 
本件検査において、
①医師は麻酔の深度は検査に必要な最低限度の深さに止めることができるように麻酔管理を十分に行うとともに、
②急変のリスクに的確に対応するための対策を十全に行うことが当然の前提となっていた。
but
Aは、担当医師であったD1医師がカテーテル室を退室した午後2時52、53分頃には、体動が消失し、呼吸及び脈拍が安定していた
⇒その時点でフローセンの濃度を3%から1.0ないし1.5%まで下げることを検討してしかるべきところこれを行っていない。
⇒麻酔管理に過失があった。
 
●麻酔管理の過失と結果との間の因果関係 
麻酔導入開始から5分ほどが経過した午後2時52、53分頃の時点でフローセンの濃度を低下させていれば、Aが本件検査中に著しい循環抑制に陥ることを回避し得た⇒相当因果関係を肯定。
 
●Aの逸失利益 
X1、X2の主張:
Aの逸失利益について、基礎収入を554万6000円(平成18年賃金センサス男性労働者平均賃金)、就労可能年数を16歳から67歳までの51年、生活費控除を50%として、2307万9679円と主張。

判断:
Aの疾患等を考慮
⇒就労が可能なのは16歳から24歳までの8年間であり、
その後については、心不全や蛋白漏出性胃腸症など様々な合併症が出現することが見込まれる
就労が可能であった高度の蓋然性があるとは認められないとして逸失利益を否定

逸失利益算定の基礎となる収入は20歳から24歳の男性労働者の平均賃金である293万500円として、逸失利益478万3162円の限度で認め、その余は理由がない。 

Yは、X1、X2のそれぞれに1624万391円(合計すると3248万782円)及びこれに対する遅延損害金を支払うよう命じた。

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