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2019年7月 3日 (水)

少年法20条の検察官送致決定への不服、責任能力が問題となった事案

名古屋高裁H30.3.23      
 
<事案>
少年による①②殺人未遂事件2件、③殺人事件、④現状建造物等放火未遂、殺人未遂罪、⑤⑥同様の目的から火炎瓶を製造し、その火炎瓶に転嫁して知人方の掃き出し窓を損壊したという火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、器物損壊事件 
家庭裁判所に係属⇒少年法20条による検察官送致決定⇒地方裁判所に公訴が提起。
 
<弁護人> 
家庭裁判所の検察官送致決定は違法・無効⇒本件公訴提起は違法・無効
①②事件について殺意無し
責任能力無し
 
<判断・解説>
●公訴提起の有効性
少年法が、検察官に対し原則的に公訴提起を義務付ける効力を備えた家庭裁判所のした中間処分としての性質を持つ検察官送致決定に対する不服申立制度を法定していない
⇒その決定自体が手続的な瑕疵を帯びる場合は格別、家庭裁判所の判断内容の当否に関する不服は、同法55条に基づく家庭裁判所への移送の当否を論ずる場合を除き、許されない。

本件の検察官送致決定の内容的な判断に関する不服を理由として、同決定に基づく公訴提起の違法や無効をいう所論は、それ自体として失当を免れない。

◎コメント
検察官送致決定決定の実態的瑕疵を争うことができなくなりそうだが、その射程範囲が問題。
非行時13歳であることを看過してなされた検察官送致決定は違法であり、その後の公訴提起もまた違法であると判示した仙台高裁昭和24.11.25。
少年法内における不服申立制度がないからこそ、刑事手続内での救済が必要とされるとの議論もあり得る。 
被告人は、家庭裁判所の検察官送致決定の後、成人後に起訴された。

検察官送致決定の起訴強制力は対象者の成人により失われるかに関連して、そのような経緯を経た刑事事件においても検察官送致決定が訴訟条件となるか?
原判決はこれを肯定。
本判決は、この点について、明示なし。
 
●殺意 
①投与されたタリウムの量は死亡例のある分量を超えている⇒各投与行為はいずれも各被害者を死亡させる客観的危険性の高い行為
被告人はタリウム等の毒性に強い関心を持ってそれらに関するウェブページを閲覧して致死量について知識を有していた⇒自己の行為により被害者が死亡する危険性があることを十分に認識しながらあえてその行為に及んだと推認
被告人の故意を認定
 
●本件各行為の精神状態 
A鑑定:
被告人は、特定不能の広範性発達障害またはアスペルガー症候群に分類される発達障害を有しているが、その障害の程度は重度ではなく、
また、気分変動がみられるが、躁状態は軽躁状態にとどまるから双極性Ⅱ型障害に該当するところ、犯行自体は幻覚や妄想という精神病症状に支配されておらず、被告人の自由な意思に基づく。
軽躁状態は犯行の実行に弾みを付けた点で一定の影響はあるが限定的。

B・C鑑定:
被告人の発達障害は自閉スペクトラム症であって、その程度は重篤であり、双極性障害も重度の躁状態を伴う双極性Ⅰ型障害。
これらの精神障害の影響により、犯罪に対する抑止力が働かない程度に気分の高揚した思考の揺るぎない状態にあり、すべてが許されるなどと考えが突き抜けてしまう誇大妄想状態に至ったため犯罪を実行に移した。

原判決:
A鑑定を信用できるとし、それに依拠した上で、
各犯行の動機、犯行時やその前後の被告人の行動、当時の被告人の認識や意識等を検討⇒各犯行時、被告人は完全責任能力を有していると判断

完全責任能力の範囲内ではあるが、精神症状が犯行に影響していること、その程度が犯行ごとに異なることも認定。

判例時報2402

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