生活保護の不正受給での法78条に基づく費用徴収額決定における算定
最高裁H30.12.18
<事案>
生活保護法に基づく保護を受けていたXが、同一世帯の構成員である長男の勤労収入を届け出ずに不正に保護を受けた⇒門真市福祉事務所所長から、法78条に基づき、勤労収入に係る額(源泉徴収に係る所得税の額を控除した後のもの。)等を徴収する旨の費用徴収額決定を受けるなどした⇒上告人(門真市)を相手にその取消し等を求めた。
<原審>
本件変更決定(長男の収入のうち収入認定の対象となる金額をXの世帯に係る同月以降の保護費から減額する旨の保護変更決定)の取消請求は棄却すべきもの。
①本件変更決定の後に長男が得た勤労収入の一部については法78条に基づく本件徴収額決定の対象に含めることができない⇒本件徴収額決定のうち一部(1万9930円)に関する部分を取り消し。
②本件勤労収入のうち本件基礎控除に相当する部分(38万4080円)についても、同部分は本件勤労収入の申告を適正にしていれば収入として認定されなかった⇒これを不正受給として法78条に基づき徴収することはできないとして、これを取り消し。
③本件徴収額決定のうち、その余の部分については、本件の事実関係において、これを法78条に基づき徴収することに裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとはいえないとする第一審の判決を是認。
Yは、上記②に関する部分について、上告受理申立。
<判断>
法78条に基づき本件基礎控除額に相当する金額を徴収することが当然に違法となるか否か、本件の事実関係の下において本件基礎控除額に相当する額を徴収することにつき裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるといえるか否かが問題
⇒本判決はいずれも否定し、上記②の部分につき請求を棄却する旨の変更判決。
<解説>
●法78条は、当時、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。」と規定し、
この点についての厚労省の見解は、同条に基づく徴収の場合においては、保護の実施要領が定める収入認定の各規定に基づく各種控除は適用されず、必要最小限度の実費を除き、全て徴収の対象とすべきとするものであった。
●本判決:
基礎控除は、勤労収入の適正な届出がされた場合において、その額の全部又は一部を収入認定から除外するという保護の実施機関としての運用上の取扱いにすぎないことを確認した上で、
法78条の目的(=生活保護制度をその悪用から守る)に照らせば、適正な届出がされなかった場合にまで基礎控除相当額を被保護者に保持させておくべきものとはいえないと判断
⇒
勤労収入についての適正な届出をせずに不正に保護を受けた者に対する法78条に基づく費用徴収額決定に係る徴収額の算定に当たり、当該勤労収入に対応する起訴控除の額に相当する額を控除しないことは、違法であるとはいえない旨を明らかにした。
●法63条に基づく返還命令:
被保護者が、急迫等の場合ににおいて資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県等に対して、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関が定める額を返還しなければならない旨を規定。
法63条は、
①被保護者の権利義務について定めた方の第8章(現第10章)に置かれた規定であって、保護の実施機関が受給者に資力があることを認識しながら扶助費を支給した場合の事後調整についての規定と解すべきものとされ、
②返還すべき金額も保護の実施機関が定める額と規定
⇒
法7条から10条までの保護の原則の趣旨が及ぶものと解される。
(厚労省の見解も、法63条が適用される場合には、保護受給中に生じた勤労収入については基礎控除を含む各種控除を適用すべきとしている。)
●法78条は、平成25年法律第104号により改正されて生活保護法78条1項とされ、徴収金に40%の上乗せができるようになるなどの改正がされている。
判例時報2403
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