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2019年7月31日 (水)

強盗・強制性交等被告事件で無罪とされた事案

前橋地裁H30.5.23    
 
<事案>
刑法241条1項の強盗・強制性交等罪に問われた事案
 
<被告人主張>
Aとの間では本件性交を行うことにつき同意があり、被告人が、本件暴行・脅迫をしたことはなく、本件性交後に現金を要求したこともない

本件暴行・脅迫及び本件要求行為を直接証明するための証拠であるAの証言の信用性を争い、無罪を主張。 
 
<規定>
刑法 第二四一条(強盗・強制性交等及び同致死)
強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強制性交等の罪(第百七十九条第二項の罪を除く。以下この項において同じ。)若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。
 
<判断>
Aの証言は間違いなく信用できるとまでは評価できず、また、被告人の供述は信用できないとはいえない

本件暴行・脅迫及び本件要求行為のいずれの認定にも合理的な疑いが残る
⇒被告人は無罪。 
 
<解説> 
●本判決は、争点を理解、判断するために必要な範囲で動かし難い事実を認定した上で、

Aの証言の信用性を高める方向に働く事情:
①他の者の証言による裏付け、
②証言内容の合理性・具体性
③虚偽の証言の動機

Aの証言の信用性を低める方向に働く事情:
①他の証拠との不一致
②証言内容の不合理性や不自然さ 
その過程において、証言の核心部分とそれ以外を区別するとともに、
性犯罪に直面した被害者の心理状態にも留意。
 
●被告人の供述と被害者の供述が対立

被害者の供述の信用性は、被告人の供述との違いを踏まえ、
争点判断の分岐点とそこに直結する被害者の供述の核心部分を強く意識し、
各場面における検討は、そこにつながるかどうかを意識して検討することが必要。

本件:
争点は本件暴行・脅迫の有無及び本件要求行為の有無

それらの有無に関してAが意識的に虚偽供述をしているかが判断の対象であり、
それに関連するAの証言の核心部分に注目すべき。

本判決:
①BやCの証言が、本件暴行・脅迫等の有無に関するAの証言を直接的に裏付けるものではないこと、
本件暴行・脅迫や本件要求行為と整合しないAの行動に関する客観的証拠(銀行のATMの防犯カメラ映像等)
存在すべき客観的証拠(Aの下着や受傷に関する証拠等)がないこと
Aの証言する事実経過には本件暴行・脅迫があったとすれば不自然・不合理な内容が含まれていること
などを、争点判断の重要な分岐点として指摘。

本件暴行・脅迫及び本件要求行為の有無に関連する核心部分とそうでない部分の区別が意識されている。
 
●性犯罪被害者の供述内容の合理性・自然性を検討する際には、性犯罪の危機に瀕した被害者の心理状態に十分留意し、慎重に検討する必要。 

判例時報2405

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