« JR福知山線脱線事故と歴代社長の刑事責任(業務上過失致死傷罪)(否定) | トップページ | 少年法20条の検察官送致決定への不服、責任能力が問題となった事案 »

2019年7月 2日 (火)

違法収集証拠法則により覚せい剤取締法違反の公訴事実について控訴審で無罪とされた事案

東京高裁H29.6.28      
 
<事案>
覚せい剤事犯(自己使用と所持)において、職務質問に引き続く現場の留め置きの適法性、令状請求手続の適法性が問題となった事例。 
 
<判断>
採取された被告人の尿は、一連の違法な手続によって得られたものであり、その違法の程度が令状主義の精神を没却する重大なもの

採取された尿及びこれと密接に関連する尿の鑑定書、さらには、別に差し押さえられた覚せい剤も、前記尿と密接に関連する資料を含む疎明資料によって発付された捜索差押許可状によって得られたことを理由に、証拠能力を否定

覚せい剤の使用及び所持のいずれの公訴事実についても、無罪。 
 
<解説>
●本判決の注目すべき点:
①職務質問を開始して約1時間後に、警察官が令状請求に入る旨を被告人に伝えたが、その時点では、被告人に薬物使用を疑わせるような具体的な身体的特徴を見出すことはできず、被告人が一貫して明確に所持品検査や尿の提出を拒否
合理的な時間内に任意の協力を得られない以上、職務質問を打ち切り、被告人の留め置きを解消せざるを得ず、それをしないで、令状の呈示まで約5時間留め置いたのは違法であると判断。

令状請求の際の資料となる捜査報告書に、警察官が、事実と異なる記載をした(捜査報告書には、被告人の目がきょろきょろする、目の焦点が合わず瞳孔が開く、周囲の状況を異常に警戒する、といった記載があるが、そのような状況があったかは相当疑問があると認定)ことは、令状請求に関する担当裁判官の判断を大きくゆがめるもので、そのような疎明資料を提出して、強制採尿令状の発付をえたことは、令状主義の精神を没却する重大な違法があると判断したこと。 

●第1の点:
職務質問開始から強制採尿令状の呈示まで約5時間経過。
but
適法に発付された令状を提示していれば、これだけ時間が経過していても違法とはならなかったと解される。 
警察官が、エンジンキーを回してスイッチを切ったり、エンジンキーを引き抜いて取り上げる行為も、状況によっては、強制手段とはいえず、許される。(判例)

●第2の点:
疎明資料とされた捜査報告書の作成者である警察官は、現場に到着してから約4分後に、令状請求に入る旨を告げた⇒その4分の間でこのような観察ができたかが問題とされ、現場の状況から見てそれはできないとの認定⇒警察官が、事実と異なる内容の疎明資料を作成したと認定。 
一般に、覚せい剤事犯の強制採尿令状の請求に当たり、捜査機関から提出される疎明資料は、
被告人が薬物犯罪歴のある者で、任意採尿や腕を見せるのを拒むなどの事例の外、
被疑者の様子として、目つきや、行動についての記載のある捜査報告書などがある。

目(付き)がきょろきょろしているとか、態度がそわそわしているとか、警察官と目を合わせないなどと、かなり、観察者である警察官が主観的に認定しかねない事項が多く、それを基礎付ける客観的な資料が無いか少ない場合が多い。
⇒警察官の誠実性が相当重要な要素となる。

令状主義は、権利を擁護するための憲法上の原則であり、その令状を取得するために事実と異なる記載のある資料を用いるなど、決してあってはならず、故意にそのような記載をしたと疑われる場合は、本件令状請求を却下すべき

●近時は、比較的早期に令状請求手続に入ることを対象者に伝えるようになってきている。

「二分論」が影響。
強制採尿令状請求の準備に着手した時点を基準として、それ以前の純粋に任意の段階と、それ以後の強制以降段階に分けて、それぞれの段階に応じて、留め置きの適法性を考えようとするもの。

令状請求ができるということは、それだけ嫌疑が高まっている⇒留め置きの必要性は高まっているし、留め置きの目的は、令状が発付された場合の執行のための対象者の所在確保となる。
but
手続の性質は依然として任意⇒それだけで許される措置が異なるとまでいえるかは疑問。 

判例時報2402

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« JR福知山線脱線事故と歴代社長の刑事責任(業務上過失致死傷罪)(否定) | トップページ | 少年法20条の検察官送致決定への不服、責任能力が問題となった事案 »

判例」カテゴリの記事

刑事」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« JR福知山線脱線事故と歴代社長の刑事責任(業務上過失致死傷罪)(否定) | トップページ | 少年法20条の検察官送致決定への不服、責任能力が問題となった事案 »