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2019年7月

2019年7月31日 (水)

強盗・強制性交等被告事件で無罪とされた事案

前橋地裁H30.5.23    
 
<事案>
刑法241条1項の強盗・強制性交等罪に問われた事案
 
<被告人主張>
Aとの間では本件性交を行うことにつき同意があり、被告人が、本件暴行・脅迫をしたことはなく、本件性交後に現金を要求したこともない

本件暴行・脅迫及び本件要求行為を直接証明するための証拠であるAの証言の信用性を争い、無罪を主張。 
 
<規定>
刑法 第二四一条(強盗・強制性交等及び同致死)
強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強制性交等の罪(第百七十九条第二項の罪を除く。以下この項において同じ。)若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。
 
<判断>
Aの証言は間違いなく信用できるとまでは評価できず、また、被告人の供述は信用できないとはいえない

本件暴行・脅迫及び本件要求行為のいずれの認定にも合理的な疑いが残る
⇒被告人は無罪。 
 
<解説> 
●本判決は、争点を理解、判断するために必要な範囲で動かし難い事実を認定した上で、

Aの証言の信用性を高める方向に働く事情:
①他の者の証言による裏付け、
②証言内容の合理性・具体性
③虚偽の証言の動機

Aの証言の信用性を低める方向に働く事情:
①他の証拠との不一致
②証言内容の不合理性や不自然さ 
その過程において、証言の核心部分とそれ以外を区別するとともに、
性犯罪に直面した被害者の心理状態にも留意。
 
●被告人の供述と被害者の供述が対立

被害者の供述の信用性は、被告人の供述との違いを踏まえ、
争点判断の分岐点とそこに直結する被害者の供述の核心部分を強く意識し、
各場面における検討は、そこにつながるかどうかを意識して検討することが必要。

本件:
争点は本件暴行・脅迫の有無及び本件要求行為の有無

それらの有無に関してAが意識的に虚偽供述をしているかが判断の対象であり、
それに関連するAの証言の核心部分に注目すべき。

本判決:
①BやCの証言が、本件暴行・脅迫等の有無に関するAの証言を直接的に裏付けるものではないこと、
本件暴行・脅迫や本件要求行為と整合しないAの行動に関する客観的証拠(銀行のATMの防犯カメラ映像等)
存在すべき客観的証拠(Aの下着や受傷に関する証拠等)がないこと
Aの証言する事実経過には本件暴行・脅迫があったとすれば不自然・不合理な内容が含まれていること
などを、争点判断の重要な分岐点として指摘。

本件暴行・脅迫及び本件要求行為の有無に関連する核心部分とそうでない部分の区別が意識されている。
 
●性犯罪被害者の供述内容の合理性・自然性を検討する際には、性犯罪の危機に瀕した被害者の心理状態に十分留意し、慎重に検討する必要。 

判例時報2405

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2019年7月30日 (火)

自動車死傷法2条5号の危険運転致死傷罪の共同正犯が肯定された事案

最高裁H30.10.23      
 
<判断>
被告人とAが、それぞれ自動車を運転し、赤色信号を殊更に無視して本件交差点に進入し、被害者5名が乗車する自動車にA運転車両が衝突するなどしてうち4名を死亡させ、1名に重傷を負わせた交通事故について、
被告人とAが、互いに、相手が本件交差点において赤色信号を殊更に無視する意思であることを認識しながら、相手の運転行為にも触発され、速度を競うように高速度のまま本件交差点を通過する意図の下に赤色信号を殊更に無視する意思を強め合い、時速100kmを上回る高速度で一体となって自車を本件交差点に進入させたなどの本件事実関係の下では、被告人は、A運転車両による死傷の結果も含め、自動車死傷法2条5号の危険運転致死傷罪の共同正犯が成立する。 
 
<解説> 
●立法担当者解説:
危険運転致死傷罪は、
一次的には人の生命・身体の安全を、二次的には交通の安全を保護法益とする犯罪であり、
故意に危険な自動車の運転行為を行い、その結果人を死傷させた者を、
その行為の実質的危険性に照らし、
暴行により他人を死傷させた者に準じて処罰しようとするものであって、
暴行の結果的加重犯としての傷害罪、傷害致死罪に類似した犯罪類型。 

危険運転致死傷罪の共同正犯の理論構成
A:被害者4名に対する危険運転致死傷罪の実行行為を(現に衝突行為を起こした)Aの危険運転行為と捉えた上で、被告人とAの走行態様が互いに相手の赤色信号殊更無視の意思決定を強化し、また、拘束し合う作用を有しており、被告人に共謀共同正犯が成立
〇B:本件危険運転致死傷罪の実行行為を「被告人とA双方の危険運転行為」と捉えた上で、被告人とAが黙示の共謀により共同して各自の危険運転行為を行っており、被告人にも実行共同正犯が成立

本判決:
「被告人とAとは、赤色信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する意思を暗黙に相通じた上、共同して危険運転行為を行ったものといえる」⇒B説。
 
● 共同正犯が成立するには、
共犯者間に、共同実行の意思(共謀)及び、共同実行の事実が存することが必要。
but
判例上、実行行為を分担しない共謀者にも共同正犯が成立し得る、共謀共同正犯を肯定。 
今日の学説上、
共同正犯の成否の問題を、
不可罰の関与行為と広義の共犯の区別(共犯性)
広義の広範の成立を前提とした共同正犯と狭義の共犯の区別(正犯性)
の2つに分けて捉え、それぞれ異なる基準によって判断する見解が有力。

片面的共同正犯を否定する判例・通説
共謀の存在が共同正犯と同時犯ないし片面的共犯を区別する要素(相互性・共同性)ともなる。
 
● A:本件を共謀共同正犯と捉える見解

一連の走行態様等から、お互いが高速度のまま減速することなく、本件交差点に向かって走行し続けたことが、相手の赤色信号殊更無視の意思決定を許可し、また、拘束し合うという強い心理的因果を相互に及ぼしており、そのような被告人とAの「共謀」が共犯性のみならず正犯性をも基礎付けると捉えている。
vs.
①無謀な高速度走行をする者が必ずしも赤色信号を殊更無視して走行するわけではない。
②被告人とAとの間には、赤色信号を殊更無視して本件交差点に進入することについての明示的な事前共謀はなく、本件事故直前にも共に赤色信号殊更無視に及んでいた等の事情もない。
③本件交差点手前において先行していたのはA車であり、本件交差点に赤色信号を殊更無視して進入することについての意思決定も、どちらかといえばAに主導権があったとみるのが自然。

両者の運転行為が互いに相手の赤色信号殊更無視の意思を強め合う関係にあったという意味において、前記の「共犯性」及び「相互性」を満たす程度の黙示の共謀があったとはいえようが、
それを超えて、共謀のみで被告人の「正犯性」を基礎付ける程度の強い心理的因果が及んでいたといってよいかは、なお疑問の余地がある。 

B:本件を実行行為共同正犯と捉える場合

被害者車両と衝突しておらず、被害者4名の死傷の結果には何らの直接的因果関係が及んでいない被告人の危険運転行為が、被害者4名に対する本件危険運転致死傷罪の(共同)実行行為といえるか?

付加的共同正犯:
甲と乙が殺意をもって共謀の上、丙を狙って同時にピストルを発射⇒甲の弾丸が命中して丙を死亡させたが、乙の弾丸は外れて命中しなかった場合の乙。

共同正犯に当たること自体は、学説上もおおむね異論はないが、共犯の処罰根拠を共犯行為による法益侵害の惹起に求める今日の多数説の立場から、自らの実行行為が最終的な結果に何ら物理的因果関係を及ぼしていない付加的共同正犯が正犯として処罰される根拠につき、単に実行行為を行ったという形式的な理由にとどまらない実質的な理由付けが必要との問題意識。

①赤色信号殊更無視による危険運転致死傷罪の実行行為は、通常、赤色信号の交差点を通過するごく短時間に限られている
②本罪の故意は「赤色信号を殊更に無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転すること」であって、法益侵害結果の認識はもちろんのこと、暴行や通行妨害目的のような特定の客体に対する他害の意思すら要求されず、共犯者間の共謀の内容も前記運転行為の共同以上に要求し得ない

赤色信号殊更無視による危険運転致死傷罪において、被害者の死傷結果に直接的因果関係を及ぼしていない実行行為者の「正犯」性を肯定するためには、その行為が現に死傷の結果を生じさせた共犯者の行為と「一体となって」行なわれ否か(=時間的・場所的接近性)が、客観的にも主観的にも重要なファクターになる。

本決定が、被告人に共同正犯が成立する事情の1つとして、
「被告人とAが時速100kmを上回る高速度で「一体となって」本件交差点に進入した」ことを挙げているのは、このような理解による。

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2019年7月29日 (月)

側溝への転落と道路の管理の瑕疵(肯定)

福島地裁H30.9.11       
 
<規定>
国賠法 第2条〔営造物の設置管理の瑕疵と賠償責任、求償権〕
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
②前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
 
<判断> 
●本件道路の管理の瑕疵を認定し、過失相殺及び寄与度減額をする旨の判断をし、その余を棄却。 
 







本件事故当時、歩行者が夜間に通行する際に、本件側溝に転落し、負傷する事故が発生する危険性が客観的に存在するものであり、かつそれが通常の予測の範囲を超えるものでもなかった。 

本件道路が前記のような状況である一方で、
管理者であるYが、特段の事情がないにもかかわらず、本件事故当時に防護柵や本件側溝の注意喚起を促す看板、道路照明施設を設置するなどの本件側溝への転落事故を未然に防止するための措置を講じていなかった

本件道路に管理の瑕疵があると認めるのが相当。

尚、防護柵や道路照明施設等については、いずれも一般的な道路管理の観点から設置基準が定められているが、当該道路に具体的な危険性が存在している以上、前記各基準に従っていればそれ以上の措置を講じる必要がないということにはならない
 
● ・・・・左側通行はやむを得ないものであったといえ、道交法10条1項に違反するものとは認められない。
but
①Xは、道路を通行する歩行者として、道路やその周辺の状況に応じて自らの安全にも注意して通行すべきところ、
本件道路が左右に湾曲して見通しがきかない以上、車両の通行量も相応にあり、しかも左右の路側帯も充分に確保されていないことについては転落場所付近に至る前に認識できるはずであるが、あえて本件道路を通行し、結果的に本件道路の脇の本件側溝の存在に気付かずに転落

本件事故当時に転落場所付近が暗く、本件側溝が認識しづらかったことを踏まえても、Xにも相応の過失があるといわざるを得ず、その割合としては4割と認めるのが相当。 
 
● Xの既往症として頚椎後縦靭帯骨化症の存在が認められるところ、
本件事故後の医師の診断内容や、本件事故によりXの頚椎に骨折や脱臼が生じていないのに後遺障害が生じていた

Xの既往症がXの治療の長期化や後遺症の程度に相応の影響を与えていたものと考えられる。 
but
①本件事故前においては、Xには頚部痛がある程度であり、他に前記疾患に伴う顕著な症状は発現していなかった
②頚椎後縦靭帯骨化症が、発症原因が判らないいわゆる難病の一種であるが、近年、特に本邦においては決して稀な疾患ではないこと
③本件事故の態様からすればXの頚部への衝撃が決して小さくなく、前記疾患がなくとも相当程度の傷害が生じた可能性が高い

原告の前記疾患による素因減額の割合としては3割と認めるのが相当。

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2019年7月28日 (日)

引き続いての一時保育の承認を求めた事案

大阪高裁H30.6.15      
 
<事案>
原審申立人は、抗告人らと児童らとを分離することが必要であると判断しており、児童らについて児福法28条1項1号の承認申立て、抗告人らについて同法33条の7による親権停止の申立てをする予定。 
 
<原審>
本件一時保護(平成30年5月)から2か月を経過して以降も、引き続き一時保護を継続することが必要⇒原審申立人の申立てを承認。 
 
<判断>
●原審申立人の申立てを認容し、抗告を棄却。 
 
●引き続き一時保護を行う必要性(児福法33条4項)について 
◎児童の安全を確保し適切な保護を図る必要性 
①抗告人らによる児童らの監護状況は、本件一時保護の段階から劣悪であって、子の福祉を著しく害するものであり、
②その状況は二か月を経過した時点においても改善された形跡は全くなく、返って悪化している

平成30年5月以降も児童らの安全を確保し、適切な保護を図るには、引き続き児童らの一時保護を行う必要がある
 
◎児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握する必要性 
①原審申立人は、児童らについて施設入所に係る承認の申立て(児福法28条1項1号)や抗告人らについて親権停止の申立て(児福法33条の7)をする予定⇒そのためには、児童らの学校等や医療機関に対する照会、抗告人らの虐待、監護懈怠の有無を調査する必要
②児童らが5名と多数である上、その中には精神疾患や発達遅滞が窺われる者もあり、抱える問題が深刻⇒前記の調査等を尽くすためには2か月を超える期間を要する
 
●引き続き一時保護を行うことが親権者の意に反すること(児福法33条5項)は明らか⇒本件申立ては児福法33条4項、5項の要件を満たしている。

本件一時保護から2か月を経過して以降も、引き続き一時保護を継続することが必要
 
<解説>
●児童福祉法及び児童虐待に防止等に関する法律の一部を改正する法律が、平成30年4月2日から施行。 

主な内容:
①保護者への指導勧告の拡大
二か月を超える一時保護への司法審査の導入
③接見禁止命令の拡大等

②の引き続きの一時保護と司法審査については、家庭裁判所や児童相談所における実務への影響が大きいとされる。
 
●児福法33条1項、2項、4項の規定

引き続いての一時保護の承認を得るためには、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、2か月を超えて引き続き一時保護を行うことが必要であることを要する。 

その審理に当たっては、
当初の一時保護を必要と認める根拠・理由となった事情は何かを認定した上で、
引き続いての一時保護を行う時点までにそのような事情が引き続いて存在しているのか、その後、事情の変更があったのかどうかを認定して判断。

その際、児童相談所等が、当初の一時保護期間中に適切な指導を行ったかどうかは、承認審判に当たり考慮される事情とはならないと考えられている。

家裁は、2か月を超える「時点」における児童相談所による「必要性」の判断をチェックするのに止まり、一時保護の適法性「全般」を審査するものではない。

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2019年7月26日 (金)

土地内に石綿(アスベスト)を含有するスレート片が混入⇒売買契約の瑕疵(肯定)

東京高裁H30.6.28      
 
<事案>
XがYに対し、本件売買契約に基づいて引渡しを受けた本件土地から広範囲にわたって発見されたスレート片が石綿を含有⇒
本件売買契約に基づく瑕疵除去義務の不履行又は本件売買契約上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、
本件スレート片の撤去及び処分費用、物流ターミナルの建設工事が遅れたことに伴う追加費用、逸失利益、弁護士費用の合計約85億円及び遅延損害金の支払を求めた。 

本件は、契約上の責任を追及するものであるところ、
本件売買契約において、
Xは、本件不動産に「隠れたる瑕疵」がある場合には、Yに対して損害賠償を請求することができる(同契約11条1項)。
Yが重要事項説明書において約束した事項は本件売買契約に基づくYの義務を構成するところ(同契約9条2項)、重要事項説明書においては、「土間コンクリート又は地中障害物(杭を含む。)等、本件建物の敷地部分を除く本件土地の地中障害物その他の瑕疵(土壌汚染を除く。)を除去し又は修補すること」等が特記事項として売主要達成事項とされており、本件では、これらの「瑕疵」の意義が主要な争点の1つ。
 
<争点>
(1)Yの債務不履行責任又は瑕疵担保責任の成否(争点①)
(2)Xに生じた損害(争点②)
 
<原審> 
●争点① 
重要事項説明書における前記特記事項につき

本件土地の利用を妨げ、ひいては本件土地の交換価値を下げることが明らかなものの除去義務を売主に課し、買主に不測の損害を与えることを回避しようとするもの⇒物理的に本件土地の利用を妨げるものに限定すべき理由はなく、法令において環境基準が定められた有害物質による土壌汚染の場合を除き、売買契約当時には明らかでなかった本件土地の交換価値を損なう事情を広く含むものと解するのが相当。

本件売買契約1条1項は、民法570条の瑕疵担保責任を売買契約の内容に取り込んだものというべきであり、・・・取引の通念からみて売買の目的物に何らかの欠陥がありその瑕疵が取引上一般に要求される程度の注意をしても発見できない場合に売主が負うべき責任を定めたものと解するのが相当

本件スレート片は、産業廃棄物処理法令にいう「石綿含有産業廃棄物」に該当⇒産業廃棄物処理法令にのっとった厳格な処理が求められる。
本件土地の地中には、・・・Xに知られていなかった本件スレート片が大量に混入していたのであるから、そのために多額の費用を必要とし、本件土地の交換価値が損なわれていたことは明らか。
Yの除去義務及び債務不履行責任等を認めた。
 
●争点② 
①本件新築工事において元々予定されていた掘削深度(原設計値)よりも深く掘削したことは本件土地の利用目的に照らし通常予定された範囲を超えたもの
⇒本件スレート片の撤去・処分費用の前記掘削深度(原設計値)を超えて追加して掘削した部分(「追加掘削部分」)に係るものについて損害賠償を求めることはできない。
②外部から搬入した建設残土に石綿を含有したスレート片等の産業廃棄物が混入していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、同部分に係る撤去・処分費用についても損害賠償を求めることはできない。
③本件スレート片発見前にA社が既に搬出済みの土壌にも本件土地と同様に本件スレート片が大量に混入していたものと認められる。

XがAに対して支払った土壌の撤去・処分費用約63億円のうち、前記①②により掘削等した土量に応じて按分した額を控除した金額42億円、
本件新築工事の遅延に伴う追加費用及びXの逸失利益のうち同様に前記①②に対応する額を控除した約13億円、
弁護士費用の
合計約56億円の損害が生じたものと認められる⇒Xの請求を一部認容。
 
<判断>
●Yからの公訴を一部容れ、認容されるXの損害額を損害金元金で約3億3500万円増額。 
 
●争点①
本件売買契約11条1項の定めは
民法570条の瑕疵担保責任を売買契約の内容に取り込んだものというべきである」などとして、
本件売買契約11条1項及び9条2項にいう「瑕疵」とは「民法570条における「瑕疵」と同様に、X及びYの合意や本件売買契約の趣旨に照らし、予定された品質・性能を欠く場合をいうもの」と解される。

最高裁H22.6.1を参照しつつ、
売買契約の当事者間においてどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引概念をしんしゃくして判断すべき。
本件スレート片は、産業廃棄物に該当するのみならず、少なくともその大部分が「石綿含有廃棄物」に該当するものと認定。

貨物j同社運送事業を営む会社(X)の物流ターミナル及び公園として利用するための土地の売買に当たっては、売買対象物である本件土地の品質・性質として、人の健康に危害を及ぼすおそれがあるために法令上規制されている物質が本件土地(表層部及び工事が予定された地中)に残置等されていないことが当然に予定されていたものであるところ、
本件スレート片は、少なくともその大部分が法令の基準値を大きく超える石綿を含有し「石綿含有産業廃棄物」に該当する上、本件土地の表層及び土壌内に広くまんべんなく混入

本件土地にそのような本件スレート片がなんべんなく混入していることが、物流ターミナルの建設予定地及び公園の予定地である本件土地に予定されていた品質・性能を満たすものでないことは明らかであり、これは、本件売買契約上の「瑕疵」に当たる。

売主であるYは。本件土地に前記「瑕疵」があることによって買主であるXが被った損害を賠償する義務がある。
 
●争点② 
本件スレート片が含まれる本件土地の土壌を土壌事撤去・処分したことは不合理とはいえない。
but
工事が予定されていない深度の土壌についても人の健康に危害を及ぼすおそれがあるために法令上規制されている物質が残置等されていないことまで本件売買契約上予定されていたとは認められず追加掘削部分の土壌に混入したスレート片を撤去・処分しなくても計画掘削部分の土壌に痕有したスレート片を撤去・処分することは可能

原審と同様、追加掘削部分に係るスレート片の撤去・処分費用については、Yが賠償すべき損害とはいえない
but
原審とは異なり、Yから請け負ったB社が本件土地上の既存建物を撤去した際に地下水槽(ピット)を埋め戻した部分にも本件スレート片が存在していたとの事実を認定し、その撤去・処分費用についてもYが賠償すべき損害と認めた。
 
<解説> 
民法570条の「瑕疵」の意義について、
A:その種類のものとして通常有すべき品質・性能を欠いていることとする「客観的瑕疵概念」
〇B:売買契約において予定された品質・性能を欠いていることとする「主観的瑕疵概念」(通説)

平成22年最判:
Bに立って、売買契約締結当時、土壌に含まれているふっ素について法令に基づく規制の対象となっておらず、当時の取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったなどの事案⇒売買契約の目的物である土地の土壌に前記売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことは、民法570条の瑕疵には当たらない。

原判決:本件土地の地中に本件スレート片が大量に混入しており、そのために多額の費用を必要とし、本件土地の交換価値が損なわれていることを重視
本判決:「交換価値」という用語は使われず、「予定されていた品質・性能」という用語が繰り返し使われている。
 
●売買契約の目的物である土地から汚染物質等が見つかった場合の売主の責任等問題となった事案

①別荘建築の目的で平成22年に購入した土地の地中にアスベストを含む障害物があることが見つかった事案につき、特約による除斥期間の経過により瑕疵担保責任は否定したが、錯誤無効を認めたもの。

②宅地開発をする予定で平成23年に購入した農業試験場等の跡地の地中から大量の埋設物が見つかった事案につき、「隠れ瑕疵」に当たるとしたが、瑕疵担保責任免除特約により責任を否定したもの。

③産業再生活用地とする予定で平成16年に購入した工場跡地の土壌がアスベストを含有していた事案につき、契約当時の法令の定めや実務的取扱い等に照らし、売買契約において求められていた性能を認定した上で、瑕疵を否定したもの。

④ガソリンスタンド用地として平成10年に購入した工場跡地の土壌から環境基準を大幅に超えるトリクロロエチレン等の汚染物質が検出された事案につき、予定された品質を欠いていたと解することはできないとして、瑕疵を否定したもの。

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民訴法324条に基づく移送決定の取消しの可否

最高裁H30.12.18      
 
<規定>
民訴法 第324条(最高裁判所への移送)
上告裁判所である高等裁判所は、最高裁判所規則で定める事由があるときは、決定で、事件を最高裁判所に移送しなければならない。

民訴規則 第203条(最高裁判所への移送・法第三百二十四条)
法第三百二十四条(最高裁判所への移送)の規定により、上告裁判所である高等裁判所が事件を最高裁判所に移送する場合は、憲法その他の法令の解釈について、その高等裁判所の意見が最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反するときとする。
 
<事案>
上告裁判所である高松高裁が、自らの法令解釈に関する意見が最高裁の判例と相反するために民訴規則203条所定の事由がある⇒民訴法324条に基づき事件を最高裁に移送する旨の決定。
 
<判断>
最高裁は、民訴規則203条所定の事由があるとしてされた民訴賞324条に基づく移送決定について、当該事由がないと認めるときは、これを取り消すことができると判断。
前記意見は最高裁の判例と相反するものではなく、民訴規則203条所定の事由はない
⇒本件移送決定を取り消す決定。 
 
<解説>
●民訴法324条
全国に複数ある高裁の間で判例の矛盾抵触を生ずる可能性を避け、法令解釈の統一を図るという上告制度の機能を全うするためのもの。

●民訴法324条に基づく移送決定の拘束力 
A:最高裁は民訴法22条により高裁の移送決定に拘束され、これを取り消して事件を原審に戻したり、他の裁判所に再移送することはできない。

〇B:最高裁は、高裁の移送決定に拘束されず、事件が移送の必要性のないものであることを判示して移送決定を取り消すことができる

民訴法324条による移送は、民訴法の総則に規定された移送とは異なり、当事者の便益を考慮してされるものではなく、法令解釈の統一を図るためにされるもの⇒その必要性の有無は最上級審である最高裁の判断に委ねられるべき


平成8年の民訴法改正の際、最高裁の機能を充実させる制度として、最高裁が自ら対象事件に法令解釈に関する重要な事項が含まれるか否かの判断をする上告受理制度が採用されたこととも整合的。

本決定:
①民訴法22条1項について、その趣旨に照らし、民訴法324条による移送の場合に適用されると解すべきではない
②民訴規則203条の趣旨が法令解釈の統一を図ることにある⇒同条所定の事由の有無について最高裁の判断が高裁の判断に優先するというべき

民訴法324条に基づく移送決定は最高裁を拘束しない。

●判例相反について 
本件移送決定:
「債権執行の申立てをした債権者が当該債権執行の手続において配当等により請求債権の一部について満足を得た後に当該申立てを取り下げた場合、当該申立てに係る差押えによる時効中断の効力が民法154条により初めから生じなかったことになると解するのは相当ではない」という法令解釈に関する意見が最高裁H11.9.9に相反する⇒民訴規則203条所定の事由があるとしてされた。

本決定:
前記意見は平成11年最判とは前提を異にしており、これに相反しない。

◎ 民訴規則203条の規定は、上告受理制度に係る民訴法318条1項と平仄を合わせたものとなっており、同項にいう判例とは、具体的事件の解決に不可欠であった論点について法律判断のされたものをいうと説明されているものの、
具体的事案において判決のどの判断部分をもって判例と捉えるかは必ずしも明らかでないこともある

平成11年最判執行手続において請求債権の一部又は全部の満足を得ることなく当該執行手続に係る申立てが取り下げられた場合についての判断
前記意見:執行手続において請求債権の一部につき満足を得た後に当該執行手に係る申立てが取り下げられた場合についてのもの

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2019年7月23日 (火)

債務免除益の所得区分(税法)

東京地裁H30.4.19      
 
<事案>
農業等を営んでいたXが、A農業協同組合に対する借入金債務につき債務免除(「本件債務免除」)を受けたことによる債務免除益(「本件債務免除益」)を一時所得として所得税の修正申告⇒処分行政庁から、本件債務免除益は、その借入れの目的に応じて、事業所得、不動産所得あるいは一時所得に該当することとして更正等の処分を受けた⇒本件更正処分等の取消しを求めた。 
 
<判断>
借入金の債務免除益の所得区分の判断においては、当該借入れの目的や当該債務免除に至った経緯等を総合的に考慮して判断するのが相当。
不動産貸付業務の用に供される建物の建築資金に充てるため、あるいは農業用機械の購入資金に充てるための借入れに係る借入金については、
Xの不動産貸付業務あるいは事業(農業)の運転資金的性質を有している
⇒それらの借入金の返済に充てられた部分に係る債務免除益については、それぞれ不動産貸付業務あるいは事業の遂行による収入ということができる
不動産所得あるいは事業所得に当たる。

本件債務免除の対象となった本件借入金は、本件旧借入金の借換え及び組替えがされたものであって、本件旧借入金そのものではない
but
前記の点は単なる借換え等にすぎない
⇒実質的にはなお不動産貸付業務あるいは事業の運転資金的性質を有しているものと評価できる。
 
<解説>
債務免除益については、いわゆる包括的所得概念を前提として原則として所得に当たると考えられている。

債務免除益が所得となる根拠としては、
「債務の免除からは、借主の受取金額と、借主の債務返済のための支払金額の差だけ、借主に所得が生じることになる」という見解。

不動産所得に当たるか否かについては、所得税法26条1項が不動産所得を不動産の貸付けによる所得などと規定しており、その文言に照らして、借入金の債務免除益まで不動産所得の対象に含め得るかは、なお議論されるべき問題

債務免除益の所得区分に関して、
借入金の債務免除益が所得税法28条1項にいう賞与又は給与に当たると判断した最高裁H27.10.8

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2019年7月20日 (土)

有罪⇒事実誤認で無罪⇒有罪(最高裁)

最高裁H30.7.13    
 
<事案>
被告人が、約2週間前まで店長を務めていたホテルの事務所で金品を物色中、支配人Cに発見されたことから、金品を強取しようと考え、殺意をもってCの頭部を壁面に衝突させ、頸部をひも様のもので絞めつけるなどして犯行を抑圧し、現金約43万2910円を強取し、その際、前記暴行により、Cに遷延性意識障害を伴う右側頭骨骨折、脳挫傷、硬膜下血腫等の傷害を負わせ、6年後に死亡させて殺害したとされる強盗殺人の事案。 
 
<一審>
被告人を本件の犯人と認定し、懲役18年 
 
<原審>
被告人を犯人と認定した第一審判決には事実誤認がある⇒第一審判決を破棄し、被告人に対し無罪の言渡し。 
 
<判断>
被告人を殺人及び窃盗の犯人と認めて有罪とした第一審判決に事実誤認があるとした原判決は、全体として、第一審判決の説示を分断して個別に検討するのみで、情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実の総合評価という観点からの検討を欠いており、第一審判決が論理則、経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえず刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり、同法411条1号により破棄を免れない。
 
<規定>
刑訴法 第三八二条[事実誤認と判決影響明白性]
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。

刑訴法 刑訴法 第四一一条[著反正義事由による職権破棄]
上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
二 刑の量定が甚しく不当であること。
三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。
 
<解説> 
●控訴審における事実誤認の審査方法:
A:原判決の事実認定に論理則・経験則違反があることを事実誤認と捉える論理則・経験則違反説
B:第一審判決に示された心証ないし認定と控訴審裁判官のそれとが一致しないことを事実誤認と捉える心証優先説(心証比較説)
最高裁H24.2.13は、論理則・経験則違反説を採用することを明らかにし、
最高裁H26.3.20は、刑訴法382条の解釈適用に関し、第一審判決が有罪の場合であっても、論理則・経験則違反説が妥当する旨を示した。
 
●情況証拠による事実認定について 
最高裁H19.10.16:
刑事裁判における有罪の認定に当たっては、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要。
合理的な疑いを差し挟む余地がないとは、
反対事実が存在する疑いを全く残さない場合をいうものではなく、
抽象的な可能性としては反対事実が存在するとの疑いをいれる余地があっても、
健全な社会常識に照らして、その疑いに合理性がないと一般的に判断される場合には、
有罪判決を可能にする趣旨。
このことは、直接証拠によって事実認定をすべき場合と、情況証拠によって事実認定をすべき場合とで、何ら異なるところはないというべき。

最高裁H22.4.27:
刑事裁判における有罪の認定に当たっては、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要であるところ、
情況証拠によって事実認定をすべき場合であっても、直接証拠によって事実認定をする場合と比べて立証の程度に差があるわけではないが(平成19年判決参照)、
直接証拠がないのであるから、
情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要する
ものというべきである。

本件判示のいうような事実関係の存在を、
〇A:総合認定の結果として要求するのか

B:総合認定に参加している具体的な間接事実中に要求するのか
vs.
自由心証主義(刑訴法318条)に抵触し、間接証拠による総合評価という概念を否定するに等しい
「事実」ではなく「事実関係」
⇒これが、決め手となる1個の事実を総合判断した評価として、
「被告人が犯人でないとしならば合理的に説明することができない(あるいは少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれている」という心証に達することを求めているもの。

個々の間接事実それ自体は被告人以外の者による犯行の可能性を否定するだけの推認力を有しないが、それらの間接事実が示す犯人の条件を同時に満たす者は被告人以外にはあり得ない場合がある
but
全ての間接事実を総合しても被告人以外の者による犯行であるとの合理的な疑いを差し挟む余地があるにもかかわらず、「被告人が犯人であることを前提とすれば全ての事実が矛盾なく説明できる」との一面的な評価のみをもって被告人を有罪とすることは許されない。
また、およそ推認力の乏しい間接事実のみををいくら積み重ねたところで、「合理的な疑いを差し挟む余地のない」程度の証明に達することは想定し難い
but
情況証拠による事実認定は、情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実を積極・消極の両面から総合評価することにより、「合理的な疑いを差し挟む余地のない」程度の立証に達していると判断できるか否かという観点から行うべきものであって、
有罪の認定をする前提として、総合評価の基礎となる個々の間接事実それ自体が、「被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは少なくとも説明が極めて困難である)」という程度の推認力を有することは要しない。
 
●本判決:
原判断には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとしたが、
具体的には、
①本件犯人が現場事務所から少なくとも2百数十枚の千円札を奪取し、その約12時間後に被告人がATMから自己名義の預金口座に230枚の千円札を入金したという客観的事実自体の推認力を検討していない点
②千円札所持の経緯に関する被告人の説明が信用できないとした第一審判決の理由の説示を分断し、理由をほとんど示さないまま、被告人の説明によれば第一審判決の判断は不合理であるなどと結論付けている
被告人が本件発生時刻前後の40分間以上にわたり本件ホテル付近にいた事実の推認力について、千円札に関する間接事実との総合考慮を欠いている点
の3点を挙げている。

一般に、情況証拠による事実認定は、
間接証拠による間接事実の認定
認定された間接事実による要証事実の推認
の2つの過程を経るものと理解されており、
控訴審の事実誤認の審査もこれらの2つの過程に関する第一審の判断に論理則・経験則違反がないか否かという観点から行うべきものと解されるところ、
本判決は、原判決が②の観点からの検討を欠いている点で刑訴法382条に違反するものとした。

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2019年7月17日 (水)

STR型によるDNA型鑑定の信用性を否定した原判決が最高裁で破棄

最高裁H30.5.10      
 
<事案>
被告人(当時27歳)が、正当な理由がないのに、他人が看守するマンションに侵入して、マンション内通路において、自己の陰茎を露出して手淫した上、射精したという、邸宅侵入、公然わいせつの事案。 
 
<争点>
被告人は、犯人性を争い、無罪を主張。
犯人性に関する証拠は、犯行現場で採取された精液様の遺留物について実施された2つのDNA型鑑定のみ。 
 
<一審>
被告人を犯人と認めて犯罪事実を二に停止、懲役1年の実刑に処した、。 
 
<原審>
本件資料に他人のDNAが混合した疑いを払拭することができず、本件鑑定の信用性には疑問があり、被告人と犯人との同一性については合理的疑いが残る。
⇒第一審判決を破棄し無罪。 
   
検察官が上告。
 
<判断>
検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、実質は事実誤認の主張であって適法な上告趣意に当たらない。
but
職権により、本件鑑定の信用性に関する原判決の判断には重大ない事実誤認がある⇒原判決を破棄し、被告人の控訴を棄却。 
 
<解説>
①捜査段階で実施された科捜研の鑑定
②第一審で実施された大学教授による本件鑑定
本件鑑定で、14座位のSTR型が一致したもおの、1座位で被告人と一致する2つのSTR型に加え、3つ目のSTR型をわずかに検出 

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2019年7月15日 (月)

市がチェック・オフの中止を通告⇒不当労働行為に該当するとされた事案

東京高裁H30.8.30      
 
<事案>
地自法に基づく普通地方公共団体であるX市(大阪市)は、地方公営企業等の労働関係に関する法律が適用又は準用される職員によって構成される労働組合であるZ1からZ4との間で、組合費について職員給与から天引きするチェック・オフ協定を締結していた。
X市では・・・平成24年2月から3月にかけて、Zらに対し、チェック・オフを中止すること、移行期間を約1年間とすること等を内容とする通告を行った。

大阪府労働委員会は、X市が行った本件通告が支配介入の不当労働行為であるとするZらの申立てに基づき、本件通告の撤回、文書手交等を命じる救済命令⇒X市はこれを不服として中央労働委員会に再審査申立て⇒中央労働委員会も本件通告が支配介入の不当労働行為に該当すると判断し、労働委員会認定型の文書手交を命じる再審査命令⇒X市が、再審査命令の取消しを求めた事案。
 
<原審>
①チェック・オフが労働組合に対する便宜供与であり、これを行うか否かは原則として使用者の裁量に委ねられる
②チェック・オフが一定期間継続されているとしても、そのことから直ちに使用者がこれを継続すべき義務を負うと解すべき法的根拠がない

チェック・オフの廃止に当たって実体法上の法理的理由までを必要と解するのは相当ではない。
チェック・オフが労働組合の財政を確固たるものとし、組織の維持強化に資するものであって、廃止によって労働組合に少なからぬ不利益を与える可能性があることも考慮に入れ、
支配介入の判断要素のうち、チェック・オフ廃止により労働組合が受ける不利益の程度と、廃止を求める使用者側の目的、動機等を中心とした衡量判断をすべきと判示し、
①X市の政策には一応の合理性があると評価できるものの、本件通告がZらを弱体させる効果を有することをX市が十分認識した上で本件通告を行っていること
②必要な手続的配慮を行わず、Zらに一定の支障が生じていること等

支配介入に該当。
 
<判断>
便宜供与であるチェック・オフを開始するか否かは使用者の裁量判断
but
前記のチェック・オフ開始による労働組合のメリットや廃止によるデメリットがある

チェック・オフが行われている場合にはそれを前提とした労働組合の活動、運営が行われ、労使関係が形成されており、その廃止は労働組合の活動、運営や労使関係に影響を与える

チェック・オフ廃止に当たっては、チェック・オフ廃止により労働組合に不利益を与えてもなお廃止せざるを得ない相当な理由の存在と、使用者による説明、労使間の協議、猶予期間の設置等の手続的配慮が必要

これらの要件を欠くチェック・オフの廃止は、廃止の目的、動機、その時期や状況、廃止が労働組合の運営や活動に及ぼし得る不利益、影響等を諸要素を総合考慮し、労働組合の弱体化、運営、活動に対する妨害の効果を持つ場合には支配介入に該当。

本件通告にはチェック・オフ廃止についての相当な理由があるとはいえず、手続的配慮の観点からも十分な対応がされたものとはいえず、Zらの弱体化又は活動に対する妨害効果を持つものと評価できる⇒不当労働行為に該当
 
<解説>
チェック・オフ:
労働組合と使用者との間で締結される協定に基づき、使用者が組合員である労働者の賃金から組合費を控除して、それらを一括して労働組合に引き渡すこと。 
労組法は、労働組合であるための要件の1つとして自主性を挙げ(同法2条)、使用者からの独立性を重要な内容としており、これを阻害するような便宜供与を原則として認めていない(同法2条、7条3号)。

便宜許与(特に経費援助)について労組法は基本的に否定的な立場を原則とする。
but
労組法2条2号ただし書、同法7条3号ただし書が労働時間内における有給での使用者との協議や交渉、労働組合の福利厚生基金への使用者の寄付、最小限の広さの事務所の供与を例外事由として明記しているように、便宜供与にも様々なものがある

労組法が否定する便宜供与に該当するかどうかは、形式的、画一的に判断できるものではなく、具体的、実質的に判断すべきと考えられている。

労組法上許容され得る便宜供与であっても、これを行うか否かは基本的に使用者の裁量にゆだねられており、労使間の合意又は労使慣行があって初めて便宜供与を受ける権利が生じるものであり、
便宜供与の継続期間にかかわらず、これを継続すべき法的義務を使用者が追うものでもなく、労使間の合意が失効すれば便宜供与を受ける権利も消滅する。
(最高裁昭和61.12.16)

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2019年7月13日 (土)

継続的不法行為に基づく損害賠償請求権の除斥期間の起算点

高知地裁H30.7.20      
 
<事案>
米国が昭和29年3月から同年5月にかけて、マーシャル諸島共和国ビキニ環礁及びその付近において核実験。
その周辺の海域において被ばくした漁船員及びその遺族並びにその支援者であるXらが、Y(国)に対し、Yが被ばくの事実及びその記録を平成26年9月19日に開示するまでの間隠匿したこと並びに被ばく者について追跡調査や生活支援等の実施をしなかったことが違法

主位的に、被ばくした漁船員は必要な治療を受ける権利等が侵害され、支援者は貴重な時間を浪費した
予備的に、前記被ばく資料の開示によりXらはYの違法行為を知って大きな怒りと衝撃を受けて損害が発生した

国賠法1条1項に基づき損害賠償請求。 
 
<判断>
被ばくについての証拠のない1名を除き、漁船員の本件核実験による被ばくの事実を認定した上で、本件訴訟提起時点で既に20年以上が経過していた日米合意、被ばく調査中止、本件国会答弁については除斥期間が経過し、
その他のXらが主張する厚生労働省の対応等からは、本件資料等の隠匿の事実は認められない。 
Xらが主張する本件資料等を開示すべき法的作為義務及び調査・支援等施策実施義務はない。
⇒Xらの請求はいずれも理由がない。
 
<解説>
●除斥期間と継続的不法行為について
 
◎Xら:
Yが、日米合意を成立させ、本件資料等を隠匿する方針を決めて以来、平成26年9月19日に本件資料を開示するまで本件資料等を隠匿するという作為及びこれを開示しないという不作為の連続する継続的不法行為を行ってきた⇒本件資料の開示までは除斥期間は進行しないなどと主張
民法724条後段の規定は除斥期間を定めたもの(判例)。

除斥期間起算点
加害行為が行われたときに損害が発生する不法行為⇒加害行為の時が起算点
身体に蓄積する物質が原因で他人の健康が害されることによる損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように、

当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生⇒当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点
。(以上、判例)

除斥期間の経過前に損害賠償請求権を行使することが現実的に困難であるなどの特段の事情がある場合⇒民法158条や160条の法意に照らして除斥期間経過後も一定期間は権利行使が認められる余地もある(最高裁H10.6.12、H21.4.28)。

民法 第158条(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。

民法 第160条(相続財産に関する時効の停止)
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
but
継続的不法行為が成立する場合の除斥期間の起算点について判断をした事例はない。

継続的不法行為については、消滅時効の起算日に関して、民法724条前段の「損害を・・・知った時」の要件該当性の問題として論じられてきた。
but
継続的不法行為であれば直ちに一体として消滅時効の成否が判断されるのではなく、当該連続する不法行為の時効の起算点を判断するに当たり、損害の性質に照らして、分断して捉えても支障がないものについては逐次的に時効が進行
(不動産の不法占有に関する大判昭和15.12.14)

大気汚染のように損害が累積する事案⇒損害の発生を分断して捉えることが適切でない⇒一体のものとして消滅時効が進行
 
◎ 本判決:
民法724条の「不法行為の時」としている

継続的不法行為の除斥期間は、不法行為つぃて一体とみることができるか(行為の一体性)の観点から検討しつつも、
前記消滅時効の議論を参考に、損害の性質上一体とみることができるか(損害の同一性)という観点からも検討し、
Xらの主張する作為及び不作為は、一体の行為をみることはできず、損害としても逐次的に発生すべき性質の損害であるとしてXらの主位的主張を排斥。 
Xらは、予備的に、本件資料の開示によって、精神的損害が発生した旨も主張。
but
除斥期間は、被害者の認識を問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたもの
⇒そのような法律構成は、除斥期間の制度趣旨を没却されるおそれがあり、認められない。

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2019年7月10日 (水)

婚姻費用の算定と、権利者の居住国(中国)の物価水準

東京高裁H30.4.19      
 
<事案>
中国に暮らす妻X(中国国籍)が、日本で暮らす夫Y(日本国籍)に対して、婚姻費用を求めた事案。 
 
<Yの主張等>
婚姻費用の算定にあたり、中国の物価水準も考慮して具体的な婚姻費用分担額を定めるべき。 
インターネット上の記事である「各国の生活費を一目瞭然にした世界地図」、
公益財団法人国際情報センター作成の「各国の物価水準(日本の物価との比較)」
Xの居住地のスーパーマーケットにおける食品の価格
などを証拠として提出。
 
<判断>
婚姻費用は権利者世帯の生活を保持するためのものであり、現実に必要としている費用を算定するのが本来
権利者が他国に居住し、その物価水準がわが国のそれと比較して格段に異なる場合には、婚姻費用の算定にあたり物価水準の相違を反映させるのが相当
②ニューヨークを基準値100とした場合、日本は90ないし100であるのに対し、中国は40ないし50であり、中国の大都市である上海や北京においても、食料品に関する物価水準は日本に比べて格段に低いことが窺われ、Xの居住地の食品価格はさらに安価である認められる
③Xの住む中国の物価水準は日本に比べて格段に低いことが認められるとしつつも、ここで示された数値をそのまま採用することはできない⇒日本を100とした場合、中国の物価水準は70とみるのが相当
④これを前提に生活費指数等を考慮して、YがXに対して負担すべき婚姻費用は月額47000円が相当。
 
<解説>
婚姻費用は権利者世帯の生活を保持するためのもので、現実に必要としている費用を算定すべき
権利者が他国に居住し、その物価水準が我が国のそれと比較して格段に異なる場合には、婚姻費用の算定にあたり物価水準の相違を反映させるとした判断は正当。 

日本在住の妻が外国在住の夫に対して婚姻費用の分担を求めた事案につき、日本とタイ国の物価を比較して生活費指数を日本の2分の1として婚姻費用を算定した大阪高裁H18.7.31

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2019年7月 7日 (日)

詐害行為取消しによる受益者の取消債権者への支払債務の履行遅滞となる時期

最高裁H30.12.14      
 
<事案>
債務者Aに対して約37億6000万円の債権を有する被上告人Xが、詐害行為取消権に基づき、Aの弟である上告人Y1及びAの妻である上告人Y2に対し、AとYらとの間の売買契約又は贈与契約の取消しを求めるとともに、Yらの各受領金相当額合計約2億8000万円及びこれらに対する各訴状送達日の翌日からの各遅延損害金の支払を求めるなどした事案。 
 
<争点>
詐害行為取消しによる受益者の取消債権者に対する受領済みの金員相当額の支払債務が履行遅滞となる時期 
 
<解説>
本件争点について
A:受益者の金員受領日
B:訴状送達日の翌日
C:判決確定日の翌日

詐害行為取消判決は形成判決であって(最高裁昭和40.3.26)、その判決の確定前に受領金返還債務が履行遅滞に陥ることはない。
but
形成判決の中には、将来効のあるもの(例えば、婚姻取消しの判決等)と、遡及効があるとされるもの(例えば、嫡出否認の判決等)があり、そのいずれであるかは、法律に規定がある場合のほかは、当該制度の趣旨や、いずれに解するかにより生ずる影響等によって定まる。
 
<判断>
詐害行為取消権の趣旨(詐害行為を取り消した上、逸出した財産を回復して債務者の一般財産を保全することを目的とするものであることなど)
実質的な結論の妥当性(受領金返還債務が詐害行為取消判決の確定より前に遡って生じないとすれば、受益者は、受領済みの金員に係るそれまでの運用利益の全部を得ることができることとなり、相当ではないこと)

受領金返還債務は、詐害行為取消判決の確定により金員受領時に遡って生ずると解したと考えられる。

受領金返還債務は、訴状の送達の時点でも存在していたと理解でき、前記訴状の送達は民法412条3項の「履行の請求」に当たる。 
 
<解説>
●最高裁昭和50.12.1:
詐害行為取消しによる価格賠償請求の価格算定の基準時につき判断したもので、価格賠償をすべきときの価格の算定は、詐害行為取消の効果が生じた受益者において財産回復義務を負担する時、すなわち、詐害行為取消訴訟の認容判決確定時に最も接着した時点である事実審口頭弁論終結時を基準とするのが相当であるとする判示部分。

受益者に財産回復義務があることが確定するのは詐害行為取消判決の確定時であり、現物返還の場合であれば現実にその時点以降に返還をすることになる
⇒価格賠償の場合もその時点に最も近い時点の価格を基準に算定すべきであるとした。

受領金返還債務の発生時期が遡及するかどうかを問題にしておらず、本件争点に係る判断には結び付かない。

●受領金返還債務の法的性質:
×A:不法行為による損害賠償債務
vs.
現在の詐害行為取消制度を不法行為により一元的に説明するのは困難。

B:不当利得返還債務
C:衡平の見地から法が特に認めた法定債務
受領金返還債務については、その法的性質を不法行為による損害賠償債務とみることができない発生と同時に遅滞に陥ると解すべき理由はない
⇒民法412条3項により、履行の請求を受けた時に遅滞に陥る

詐害行為権と類似するとされる破産法上の否認権の行使の場合について、
受益者に対する受領済みの金員相当額の請求と共に金員受領時からの年6分の割合による附帯金の請求を認容すべきものとした最高裁昭和40.4.22.

金員受領日からの遅延損害金の請求について、同日からの法定利息の請求と読み替えてこれを認容すべきであると判断(受益者が金員受領日からの遅延損害金の支払義務を負わないが、同日からの法定利息の支払義務は負うとの判断の下、前記の読替えをしたとうかがわれる)。

法定利息の請求と遅延損害金の請求は別物(MKA)。

判例時報2403

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2019年7月 6日 (土)

共同相続人間での無償での相続分譲渡と民法903条1項の「贈与」

最高裁H30.10.19      
 
<事案>
X及びYは、いずれも亡Bとその妻亡Aの子であるところ、本件は、Xが、先に亡くなった亡Bの相続において亡Aから相続分の譲渡を受けたYに対し、前記相続分の譲渡によって遺留分を侵害された
⇒Yが一次相続で取得した不動産の一部についての遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求めた事案。 

本件相続分譲渡が、亡Aの相続において、その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与(民法1044条、903条)に当たるか否かが争われた。
 
<規定>
民法 第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
 
<判断>
共同相続人間でされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。 
 
<解説>
●相続分の譲渡
民法 第905条(相続分の取戻権)
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。

相続分の譲渡、共同相続人間の相続分の譲渡も許容される(判例・通説)。
相続分の譲渡は、方式、有償又は無償を問わず、当事者間の合意のみで成立する法律行為。
相続分の譲渡自体に遡及効を定める規程なし
相続分の譲渡の合意があると、譲渡の時点で譲渡人の相続分が譲渡人に移転

相続分の譲渡も、無償で相手方に自己の財産を譲渡する諾成契約である贈与(民法549条)と、本質に大きな違いがないように思われる
 
●問題点
相続分の譲渡が民法903条1項に規定する「贈与」に該当するか?
①「相続分」の譲渡をもって、贈与の対象といえるような具体的な「財産」ないし「財産的価値」の移転ということができるか
②財産的価値の移転といえるとしても、それは遺産分割がされるまでの間の暫定的な権利義務関係の移転⇒贈与と見ることができないのではないか?

③遺産分割が確定すれば最終的な権利移転が生ずる。
but遺産の分割は、相続開始の時に遡って効力を生じる(民法909条)
遡及効によって相続分の譲渡人は相続開始時から相続財産を取得しなかったことになる⇒当該譲渡人から譲受人に対する相続分の贈与があったとすることはできないのではないか?
 
●①「相続分」の譲渡が「財産」ないし「財産的価値」の移転といえるか

民法905条1項にいう「相続分」:
必ずしも民法900条の相続分(法定相続分の規定)等と同義ではなく、
「遺産分割前」において「積極財産のみならず消極財産も含めた包括的な相続財産全体に対して各共同相続人が有する割合的な持分」をいう(通説・判例)。

遺産共有説⇒相続分の譲渡に伴い、単に持分割合が変動するだけではなく個々の相続財産の共有持分の移転も生ずるものと解される。

当該相続分に財産的価値があるといえるのであれば相続分の譲渡によって財産的利益も移転。
債務も相続分の譲渡により移転
but
債権者との関係では譲渡人も法定相続分に応じた債務を免れない。(通説)
 
●②暫定的な効果にすぎないか
各相続人は相続分の割合に応じて被相続人の権利義務を承継し(民法899条)、相続分の譲渡を受けた者は、自己の相続分と譲渡を受けた相続分を合わせた相続分を有する者として遺産分割協議に参加でき、相続人は相続分に見合った価額の財産の分配を請求できる
その効果は暫定的なものではない

最高裁H24.1.26が相続分の指定に対する遺留分減殺請求を認めている
⇒指定相続分に財産的価値があることを前提としている。
 
●③遺産分割の遡及効との関係 
遺産分割の遡及効(909条)⇒相続分の譲渡人は相続開始時から相続財産を取得しなかったことになる⇒当該譲渡人から譲受人に対する相続持分の贈与があったとはいえないことになる
but
909条ただし書が、遺産分割の遡及効は第三者に対抗できないと規定
911条ないし913条は、各共同相続人は他の共同相続人に対し担保責任を負うと規定

法律の定める遡及効は擬制にすぎず、遺産分割の遡及効は、現実に遺産共有状態が存したという事実までもなかったとするものではない
少なくとも、本件のように、相続分の譲渡によってYが財産的利益を得ている場合、遺留分の算定に当たってこれを考慮すべきであるのは遺留分制度の趣旨にかなうものであり、このような場合にまで遡及効によって前記利益の移転がないと擬制することは相当でない。
 
●本判決:
共同相続人間での相続分の譲渡について民法903条1項の特別受益としての「贈与」に当たり得ること示した。
「婚姻、養子縁組、生計の資本」としての贈与かどうかは、なお個々の事案で検討されなければならない。
but
相続分を譲渡した場合には多くの場合は生計の資本といってよい場合が多いと思われる。
不相当な対価による場合には通常の贈与と同様に贈与とみなされることがあり得よう。
評価方法として「相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して」算定すること

贈与に当たるかを判断する場面での相続分の財産的価値は、譲渡の時点での相続分の価値を債務や特別受益等も含めて算定されることが想定されていると考えられる。

遺留分減殺請求の場合、遺留分を侵害されたと主張する者が、当該譲渡された相続分の価額を持ち戻し計算して自己の遺留分侵害額を主張するのが通常
⇒相続分に何らかの価値があることが当然の前提
⇒財産的価値が否定されて贈与性が否定される場面はかなり例外的な場面であることが想定される。
 
●残された問題 
持ち戻すべき価額の評価基準時特別受益一般と同じく相続開始時となる。
相続分を具体的相続分と解するか、特別受益等も考慮した法定相続分と解するか?

多数説:相続分の譲渡における相続分とは特別受益等を考慮せず法定相続分のみを切り離して贈与することが相続分を譲渡した者の意図とは考え難い⇒具体的相続分と解している。

相続分の価値の算定には積極財産のみならず特別受益等も考慮することになる

寄与分を考慮するか議論の余地。
持ち戻しをした後の具体的な遺留分侵害額の算定や、減殺の対象、請求額の計算も今後に残された問題。

判例時報2403

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2019年7月 5日 (金)

生活保護の不正受給での法78条に基づく費用徴収額決定における算定

最高裁H30.12.18      
 
<事案>
生活保護法に基づく保護を受けていたXが、同一世帯の構成員である長男の勤労収入を届け出ずに不正に保護を受けた⇒門真市福祉事務所所長から、法78条に基づき、勤労収入に係る額(源泉徴収に係る所得税の額を控除した後のもの。)等を徴収する旨の費用徴収額決定を受けるなどした⇒上告人(門真市)を相手にその取消し等を求めた。
 
<原審>
本件変更決定(長男の収入のうち収入認定の対象となる金額をXの世帯に係る同月以降の保護費から減額する旨の保護変更決定)の取消請求は棄却すべきもの。
①本件変更決定の後に長男が得た勤労収入の一部については法78条に基づく本件徴収額決定の対象に含めることができない⇒本件徴収額決定のうち一部(1万9930円)に関する部分を取り消し。
②本件勤労収入のうち本件基礎控除に相当する部分(38万4080円)についても、同部分は本件勤労収入の申告を適正にしていれば収入として認定されなかった⇒これを不正受給として法78条に基づき徴収することはできないとして、これを取り消し。
③本件徴収額決定のうち、その余の部分については、本件の事実関係において、これを法78条に基づき徴収することに裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとはいえないとする第一審の判決を是認。
   
Yは、上記②に関する部分について、上告受理申立。
 
<判断>
法78条に基づき本件基礎控除額に相当する金額を徴収することが当然に違法となるか否か、本件の事実関係の下において本件基礎控除額に相当する額を徴収することにつき裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるといえるか否かが問題
本判決はいずれも否定し、上記②の部分につき請求を棄却する旨の変更判決。 
 
<解説>  
●法78条は、当時、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。」と規定し、

この点についての厚労省の見解は、同条に基づく徴収の場合においては、保護の実施要領が定める収入認定の各規定に基づく各種控除は適用されず、必要最小限度の実費を除き、全て徴収の対象とすべきとするものであった。 
 
●本判決:
基礎控除は、勤労収入の適正な届出がされた場合において、その額の全部又は一部を収入認定から除外するという保護の実施機関としての運用上の取扱いにすぎないことを確認した上で、
法78条の目的(=生活保護制度をその悪用から守る)に照らせば、適正な届出がされなかった場合にまで基礎控除相当額を被保護者に保持させておくべきものとはいえないと判断

勤労収入についての適正な届出をせずに不正に保護を受けた者に対する法78条に基づく費用徴収額決定に係る徴収額の算定に当たり、当該勤労収入に対応する起訴控除の額に相当する額を控除しないことは、違法であるとはいえない旨を明らかにした。 
 
法63条に基づく返還命令:
被保護者が、急迫等の場合ににおいて資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県等に対して、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関が定める額を返還しなければならない旨を規定。

法63条は、
①被保護者の権利義務について定めた方の第8章(現第10章)に置かれた規定であって、保護の実施機関が受給者に資力があることを認識しながら扶助費を支給した場合の事後調整についての規定と解すべきものとされ、
②返還すべき金額も保護の実施機関が定める額と規定

法7条から10条までの保護の原則の趣旨が及ぶものと解される。
(厚労省の見解も、法63条が適用される場合には、保護受給中に生じた勤労収入については基礎控除を含む各種控除を適用すべきとしている。)
 
法78条は、平成25年法律第104号により改正されて生活保護法78条1項とされ、徴収金に40%の上乗せができるようになるなどの改正がされている。 

判例時報2403

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2019年7月 4日 (木)

平成29年衆議院議員選挙投票価値較差訴訟大法廷判決

最高裁H30.12.19       
 
<事案>
平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙について、各選挙区の選挙人であるXらが、衆議院小選挙区選出議員の選挙の選挙区割りに関する公選法の規定は憲法に違反し無効⇒本件選挙の前記各選挙区における選挙も無効であるなどと主張してい提起した選挙無効訴訟。 
 
<原審>
投票価値の格差の状況とアダムズ方式の採用の比重の置き方に軽重はあるものの、概要、平成28年改正法(衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律)及び平成29年改正法(平成28年改正法の一部を改正する法律)は、平成32年以降の大規模国勢調査の結果に基づきアダムズ方式を各都道府県への定数配分において適用することとし、それまでの較差是正の措置として、各都道府県の選挙区数の0増6現をするとともに、平成27年簡易国選調査の結果に基づき将来の見込人口を踏まえ同32年の大規模国勢調査の時点までに較差2倍未満となるよう本件区割規定を設けたものであり、本件選挙区割りの下において本件選挙当日における選挙人比最大格差が1.979倍であり、較差が2倍以上の選挙区が存在しないこと等を指摘し、本件選挙区割りが投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえない。 
 
<判断>
平成27年大法廷判決が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態は、平成29年改正法による改正後の平成28年改正法によって解消されたものと評価することができる。

本件選挙当時において、本件区割規定の定める本件選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず本件区割規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。 
 
<解説>
憲法判断の基本的枠組み 
衆議院議員の選挙に関しては、これまでの最高裁の類似の判例により、
定数配分又は選挙区割りが投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)に至っているか否か
②前記①の状態に至っている場合には、憲法上要求される合理的期間内に是正がなされなかったとして定数配分規定又は区割規定が憲法の規定に違反するに至っているか否か
③当該規定が憲法の規定に違反するに至っている場合には、選挙を無効とすることなく選挙の違法を宣言するにとどめるか否か
という判断の枠組み。

判例時報2403

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2019年7月 3日 (水)

少年法20条の検察官送致決定への不服、責任能力が問題となった事案

名古屋高裁H30.3.23      
 
<事案>
少年による①②殺人未遂事件2件、③殺人事件、④現状建造物等放火未遂、殺人未遂罪、⑤⑥同様の目的から火炎瓶を製造し、その火炎瓶に転嫁して知人方の掃き出し窓を損壊したという火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、器物損壊事件 
家庭裁判所に係属⇒少年法20条による検察官送致決定⇒地方裁判所に公訴が提起。
 
<弁護人> 
家庭裁判所の検察官送致決定は違法・無効⇒本件公訴提起は違法・無効
①②事件について殺意無し
責任能力無し
 
<判断・解説>
●公訴提起の有効性
少年法が、検察官に対し原則的に公訴提起を義務付ける効力を備えた家庭裁判所のした中間処分としての性質を持つ検察官送致決定に対する不服申立制度を法定していない
⇒その決定自体が手続的な瑕疵を帯びる場合は格別、家庭裁判所の判断内容の当否に関する不服は、同法55条に基づく家庭裁判所への移送の当否を論ずる場合を除き、許されない。

本件の検察官送致決定の内容的な判断に関する不服を理由として、同決定に基づく公訴提起の違法や無効をいう所論は、それ自体として失当を免れない。

◎コメント
検察官送致決定決定の実態的瑕疵を争うことができなくなりそうだが、その射程範囲が問題。
非行時13歳であることを看過してなされた検察官送致決定は違法であり、その後の公訴提起もまた違法であると判示した仙台高裁昭和24.11.25。
少年法内における不服申立制度がないからこそ、刑事手続内での救済が必要とされるとの議論もあり得る。 
被告人は、家庭裁判所の検察官送致決定の後、成人後に起訴された。

検察官送致決定の起訴強制力は対象者の成人により失われるかに関連して、そのような経緯を経た刑事事件においても検察官送致決定が訴訟条件となるか?
原判決はこれを肯定。
本判決は、この点について、明示なし。
 
●殺意 
①投与されたタリウムの量は死亡例のある分量を超えている⇒各投与行為はいずれも各被害者を死亡させる客観的危険性の高い行為
被告人はタリウム等の毒性に強い関心を持ってそれらに関するウェブページを閲覧して致死量について知識を有していた⇒自己の行為により被害者が死亡する危険性があることを十分に認識しながらあえてその行為に及んだと推認
被告人の故意を認定
 
●本件各行為の精神状態 
A鑑定:
被告人は、特定不能の広範性発達障害またはアスペルガー症候群に分類される発達障害を有しているが、その障害の程度は重度ではなく、
また、気分変動がみられるが、躁状態は軽躁状態にとどまるから双極性Ⅱ型障害に該当するところ、犯行自体は幻覚や妄想という精神病症状に支配されておらず、被告人の自由な意思に基づく。
軽躁状態は犯行の実行に弾みを付けた点で一定の影響はあるが限定的。

B・C鑑定:
被告人の発達障害は自閉スペクトラム症であって、その程度は重篤であり、双極性障害も重度の躁状態を伴う双極性Ⅰ型障害。
これらの精神障害の影響により、犯罪に対する抑止力が働かない程度に気分の高揚した思考の揺るぎない状態にあり、すべてが許されるなどと考えが突き抜けてしまう誇大妄想状態に至ったため犯罪を実行に移した。

原判決:
A鑑定を信用できるとし、それに依拠した上で、
各犯行の動機、犯行時やその前後の被告人の行動、当時の被告人の認識や意識等を検討⇒各犯行時、被告人は完全責任能力を有していると判断

完全責任能力の範囲内ではあるが、精神症状が犯行に影響していること、その程度が犯行ごとに異なることも認定。

判例時報2402

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2019年7月 2日 (火)

違法収集証拠法則により覚せい剤取締法違反の公訴事実について控訴審で無罪とされた事案

東京高裁H29.6.28      
 
<事案>
覚せい剤事犯(自己使用と所持)において、職務質問に引き続く現場の留め置きの適法性、令状請求手続の適法性が問題となった事例。 
 
<判断>
採取された被告人の尿は、一連の違法な手続によって得られたものであり、その違法の程度が令状主義の精神を没却する重大なもの

採取された尿及びこれと密接に関連する尿の鑑定書、さらには、別に差し押さえられた覚せい剤も、前記尿と密接に関連する資料を含む疎明資料によって発付された捜索差押許可状によって得られたことを理由に、証拠能力を否定

覚せい剤の使用及び所持のいずれの公訴事実についても、無罪。 
 
<解説>
●本判決の注目すべき点:
①職務質問を開始して約1時間後に、警察官が令状請求に入る旨を被告人に伝えたが、その時点では、被告人に薬物使用を疑わせるような具体的な身体的特徴を見出すことはできず、被告人が一貫して明確に所持品検査や尿の提出を拒否
合理的な時間内に任意の協力を得られない以上、職務質問を打ち切り、被告人の留め置きを解消せざるを得ず、それをしないで、令状の呈示まで約5時間留め置いたのは違法であると判断。

令状請求の際の資料となる捜査報告書に、警察官が、事実と異なる記載をした(捜査報告書には、被告人の目がきょろきょろする、目の焦点が合わず瞳孔が開く、周囲の状況を異常に警戒する、といった記載があるが、そのような状況があったかは相当疑問があると認定)ことは、令状請求に関する担当裁判官の判断を大きくゆがめるもので、そのような疎明資料を提出して、強制採尿令状の発付をえたことは、令状主義の精神を没却する重大な違法があると判断したこと。 

●第1の点:
職務質問開始から強制採尿令状の呈示まで約5時間経過。
but
適法に発付された令状を提示していれば、これだけ時間が経過していても違法とはならなかったと解される。 
警察官が、エンジンキーを回してスイッチを切ったり、エンジンキーを引き抜いて取り上げる行為も、状況によっては、強制手段とはいえず、許される。(判例)

●第2の点:
疎明資料とされた捜査報告書の作成者である警察官は、現場に到着してから約4分後に、令状請求に入る旨を告げた⇒その4分の間でこのような観察ができたかが問題とされ、現場の状況から見てそれはできないとの認定⇒警察官が、事実と異なる内容の疎明資料を作成したと認定。 
一般に、覚せい剤事犯の強制採尿令状の請求に当たり、捜査機関から提出される疎明資料は、
被告人が薬物犯罪歴のある者で、任意採尿や腕を見せるのを拒むなどの事例の外、
被疑者の様子として、目つきや、行動についての記載のある捜査報告書などがある。

目(付き)がきょろきょろしているとか、態度がそわそわしているとか、警察官と目を合わせないなどと、かなり、観察者である警察官が主観的に認定しかねない事項が多く、それを基礎付ける客観的な資料が無いか少ない場合が多い。
⇒警察官の誠実性が相当重要な要素となる。

令状主義は、権利を擁護するための憲法上の原則であり、その令状を取得するために事実と異なる記載のある資料を用いるなど、決してあってはならず、故意にそのような記載をしたと疑われる場合は、本件令状請求を却下すべき

●近時は、比較的早期に令状請求手続に入ることを対象者に伝えるようになってきている。

「二分論」が影響。
強制採尿令状請求の準備に着手した時点を基準として、それ以前の純粋に任意の段階と、それ以後の強制以降段階に分けて、それぞれの段階に応じて、留め置きの適法性を考えようとするもの。

令状請求ができるということは、それだけ嫌疑が高まっている⇒留め置きの必要性は高まっているし、留め置きの目的は、令状が発付された場合の執行のための対象者の所在確保となる。
but
手続の性質は依然として任意⇒それだけで許される措置が異なるとまでいえるかは疑問。 

判例時報2402

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2019年7月 1日 (月)

JR福知山線脱線事故と歴代社長の刑事責任(業務上過失致死傷罪)(否定)

最高裁H29.6.12      
 
<事案>
JR福知山線脱線事故について、JR西日本の歴代社長であった被告人3名が、検察審査会の強制起訴議決により指定弁護士から強制起訴された業務上過失致死の事案。 
 
<公訴事実>
被告人らにおいて、ATS整備の主管部門を統括する鉄道本部長に対し、ATSを本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったのに、これを怠った過失があるとするもの。 
 
<争点>
指定弁護士:
被告人らにおいて、運転士が適切な制動措置をとらないまま本件曲線に侵入することにより、本件曲線において列車の脱線転覆事故が発生する危険性を予見できた旨主張⇒被告人らの具体的予見可能性の有無が争点。 
 
<解説> 
●学説上、予見可能性が過失犯の成立に必要な要件であることはおおむね異論がないが、どのような場合に予見可能性を肯定することが許されるかについて、過失犯の構造に対する理解((修正)旧過失論、新過失論、新・新過失論)の対立と密接に関連して、見解が分かれる。
A:具体的予見可能性を要求する見解
B:課されるべき義務の内容如何によっては低い予見可能性で足りるとする危惧感説
C:注意義務が設定される時点の抽象的な危険の予見可能性で足りる

予見可能性の対象:
A:故意犯と同様に、結果及び因果経過の基本的部分が予見可能性の対象となる
B:現実の因果経過についての予見可能性は不要
 
●判例上、
弥彦神社事件決定(最高裁昭和42.5.25):
過失とは結果の予見可能性とその義務、結果の回避可能性とその義務によって構成される注意義務に違反すること

予見可能性の対象・程度に関し
北大電気メス事件控訴審判決(札幌高裁昭和31.3.18)をはじめとする下級審判例・裁判例:
結果及び因果関係の基本的部分を予見対象とする具体的予見可能性説を採用していると評価 

予見可能性の有無が争われた最高裁判例:
ホテルの防火防災対策の不備を認識いったん火災が起これば初期消火の失敗等により本格的な火災に発展し、宿泊客らに死傷の危険の及ぶおそれがあることは容易に予見できたとして経営者の過失を肯定(川治プリンスホテル事件、最高裁H2.11.16、ホテルニュージャパン事件(最高裁H5.11.25)

現実に生じた因果関係を具体的に予見できなかったとしても、ある程度抽象化された因果経過は予見可能だったとして工事施工者の過失を認めた、近鉄生駒トンネル火災事件決定(最高裁H12.12.20)

具体的予見可能性を厳格に要求する立場には立っていない
 
<判断・解説> 
●本決定:
本件公訴事実が、
①鉄道本部長に対してATSを本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務違反を問うものであること、及び
②被告人らにおいて、運転士が適切な制動措置をとらないまま本家曲線に侵入することにより、本件曲線において列車の脱線転覆事故が発生する危険性を予見できたこと
を前提とすることを指摘。 

本件公訴事実:
「JR西日本管内に数多くある曲線のうち、本件曲線に特化された脱線転覆事故発生の危険性の認識(可能性)」を前提とする本件曲線へのATS整備指示義務を問うもの
そのような危険性の認識可能性がなければ、被告人らにこれを根拠とする本件公訴事実記載の注意義務があったとはいえないであろう。
 
●本決定:
①本件事故以前の法令上、ATSに速度照査機能を備えることも、曲線にATSを整備することも義務付けられておらず、大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかった
②本件事故後に改正された国土交通省令及びその解釈基準等で示された転覆危険率を用いて脱線転覆の危険性を判別し、ATSの整備箇所を選別する方法は、本件事故以前において、JR西日本はもとより、国内の他の鉄道事業者でも採用されていなかった
③JR西日本の職掌上、曲線へのATS整備は線路の安全対策に関する事項を所管する鉄道本部長の判断に委ねられており、被告人ら代表取締役においてかかる判断の前提となる個別の曲線の危険性に関する情報に接する機会は乏しかった
④JR西日本の組織内において、本件曲線における脱線転覆事故発生の危険性が他の曲線におけるそれよりも高いと認識されていた事情もうかがわれない
こと等

被告人らが、管内に2000か所以上も存在する同種曲線の中から、特に本件曲線を脱線転覆事故発生の危険性が高い曲線として認識できたとは認められない
 
●指定弁護士:
本件曲線において列車の脱線事故が発生する危険性の認識に関し、
「運転士がひとたび大幅な速度超過をするば脱線転覆事故が発生する」という程度の認識があれば足りる

本決定:
本件事故以前の法令上、ATSに速度照査機能を備えることも、曲線にATSを整備することも義務付けられておらず、大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかったこと等の本件事実関係

上記の程度の認識をもって、本件公訴事実に係る注意義務の発生根拠とすることはできない
 
<解説> 
●本決定の前段:
公訴事実記載の「本件曲線に特化された脱線転覆事故発生の危険性の認識(可能性)」 を否定
but
実体法上、本件の訴因である「鉄道本部長に対してATSを本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務」の発生根拠は、
必ずしもそのような本件曲線に特化された予見可能性がある場合に限られるものではない。

本件と同様に経営者の管理・監督過失が問われた前掲の川治プリンスホテル事件、ホテルニュージャパン事件の各決定は、
「いったん火災が起これば初期消火の失敗等により本格的な家裁に発展し、宿泊客らに死傷の危険の及ぶおそれがあることは容易に予見できた」という程度の予見可能性をもって経営者の過失を肯定

現実に生じた火災の原因・場所等、具体的火災の発生の予見可能性は問題とされていない。
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これらの判例において経営者の過失が肯定されたのは、
小貫裁判官の補足意見が指摘するとおり、
火災発生の期k背んがあることを前提として法令上の義務付けられた防災体制や防火設備の不備を認識しながら対策を怠っていた等、一定の義務発生の基礎となる事情が存在したからであって、
前記の程度の予見可能性のみによって過失が肯定されたわけではない。

どの程度の予見可能性があれば過失が認められるかは、個々の具体的な事実関係に応じ、問われている注意義務ないし結果回避義務との関係で相対的に判断されるべきもの。これを所論が援用する判例との関係でみると、火災発生の危険があることを前提として法令上義務付けられた防災体制や防火設備の不備を認識しながら対策を怠っていた等、一定の義務発生の基礎となる事情が存在する大規模火災事例における予見可能性の問題と、そのような事情が存在したとは認められない本件のそれを同視することは相当ではない」
(MKA:義務違反⇒抽象的予見可能性でいい?予見可能性+義務違反⇒過失?)

結果回避義務(又は作為義務)の有無を判断する上で、以上のような法令上の規定の有無や同業者間における一般的な対策状況は、重要な考慮要素になり得る。

判例時報2402

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