形式上の要件に適合しない申請であることを理由とした行政手続法7条に基づく申請に対する拒否処分が違法とされた事案
山形地裁H30.8.21
<事案>
採石業を営むXは、森林法10条の2第1項に基づく開発行為の変更許可申請をするに当たって、処分行政庁が制定した規則(「Y規則」)において、申請に添付すべきと定められていた、地方公共団体等との間における残置森林等の保全に関する協定等を証する書面を添付しなかった⇒処分行政庁は、保全協定等は、森林法施行規則4条の規定する申請書に添付すべき書類に含まれるものであり、本件変更許可申請は、法令上要求されている書類に不備があるとして、行手法7条に基づき拒否処分をした
⇒
Xが、Y(山形県)に対し、本件変更許可申請は法令に定められた申請の形式上の要件を満たしていると主張して、本件処分の取消を求めた。
<規定>
行政手続法 第7条(申請に対する審査、応答)
行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。
<判断>
行手法7条の「申請の形式上の要件」とは、申請が有効に成立するために法令において必要とされる要件のうち、当該申請書の記載、添付書類等から外形上明確に判断し得るものをいい、それは法令の規定する実体的要件の判断のために不可欠となる必要最小限のものに限られると解するのが相当。
森林開発許可に係る判断を担う都道府県知事は、
森林法及び同法施行規則の規定に反しない限り、
規則所定の計画書として必要な具体的事項を定めることができる。
but
Y規則において規定されている添付書類の全てが、必ずしも「申請の形式上の要件」となるわけではない。
保全協定等の性質や、関連通達における保全協定等の有無の位置付け、Xが本件変更許可申請に添付した計画書の記載内容などを考慮
⇒
Y規則が、森林法施行規則4条所定の「開発行為に関する計画書」に添付すべき書類として保全協定等を規定しているのは、当該申請に関して法令の規定する実体的要件の判断のためぬい不可欠となる必要最小限のものとして申請の形式上の要件とする趣旨ではなく、申請に係る審査をより厳密に行うこと等を目的として資料の提出を求めているものにすぎない
⇒
保全協定等の添付が「申請の形式上の要件」になると解することは、森林法及び同法施行規則に反する。
⇒
本件処分は違法であるとして、これを取り消した。
<解説>
●行手法7条は、いわゆる申請権の具体化として、
①行政庁について、申請が到達したときに遅滞なく当該申請の審査を開始する義務が生ずる旨を確認的に規定し、
②行政庁の応答義務のうち、特に、当該申請が申請の形式上の要件に適合しない場合について、申請者がいたずらに不安定な立場に置かれることを防止するため、行政庁の措置義務(当該申請の補正を求めて審査を継続するか、当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない)と規定したものであり、
いわゆる申請後受理前の行政指導を否定するために「受理」の観念を排除し、申請に対する処分の迅速で公正な処理を確保しようとするもの。
●行手法7条が規定している「法令に定められた申請の形式上の要件」とは、申請が有効に成立するために法令において必要とされる要件のうち、当該申請書の記載、添付書類等から外形上明確に判断し得るものをいい、ほとんど、同条が例示に掲げた事項(「申請書に必要な書類が添付されていること」など)で尽きていると考えられる。
このような形式上の要件に対し、
申請をすることができる事項についての申請であることや、
申請資格を有する者による申請であること、
申請内容が真正であること
などについては、
一般に、申請の内容審査を経ないと判断できない問題
⇒「申請の形式上の要件」には該当しないと解されている。
判例時報2397
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