生産委託契約において、委託者の、受託者が工場の再稼働に伴う初期投資費用を回収し採算を維持することができるよう配慮すべき契約上の付随義務(肯定)
東京高裁H29.11.30
<事案>
XはYとの間で子供服の生産委託契約を締結。
Xは、Yに対し、
①主位的に、Yは年間1億5000万円の売上高に相当するだけの生産を委託する義務(「発注義務」)を負っていたのにこれを怠った
⇒債務不履行に基づき、契約期間を通じた発注不足額に相当する逸失利益合計3億1482万円余の損害賠償請求をし、
②予備的に、当初の契約期間については、最低売上高1億5000万円が維持されるとの信頼ないし期待を侵害して不測の損害を与えることのないよう配慮すべき契約上の付随義務ないし保護義務があるのにこれを怠った
⇒1億1070万円余の損害賠償請求。
<原審>
発注義務について否定。
契約上の付随義務ないし保護義務について:
本件契約に至る経緯や契約条項などの諸事情⇒Yが目安とされた生産委託規模に見合う水準の発注量を確保できるよう配慮すべき契約上の義務を負っていた。
but
目安となる受注に達しなかったものの、Y側も、発注量を維持するための相応の努力をしていたことが窺われる
⇒前記の配慮義務を怠ったと評価するに足りる事情を認めることはできない。
<判断>
原審と同様
①Yの要請を受けて、閉鎖していた工場を再稼働することになったこと、
②事業規模についても、早期の段階である程度の想定がされ、それに基づいて工場再稼働の計画が進められていたこと
③Xから覚書案が送付された後、格別の指摘がないまま7か月近く推移したにもかかわらず、向上の再稼働後に契約内容の修正を迫られ、事業撤退の困難な段階で契約が締結されてこと
④合理的な理由なく委託規模が著しく減少することのなよう努力するとの条項が設けられたこと等
⇒
少なくとも当初の契約期間は、Xが工場の再稼働に伴う初期投資費用を回収し、採算を維持することができるよう配慮すべき契約上の付随義務を負うものと認めた。
発注量が目安の3分の1にとどまったことについて、
新生児服の具体的な需要の推移等の関係で合理的な理由に基づき発注量が目安に満たなかった事情や努力義務を尽くしたとみるべき事情は認められない
⇒
付随義務違反による損害賠償請求を認めた。
<解説>
原判決、本判決とも、
①Yの要請を受けて、閉鎖していた工場を再稼働することになったこと、
②事業規模についても、早期の段階である程度の想定がされ、それに基づいて工場再稼働の計画が進められていたこと
③ そのための設備投資がおこなわれていたこと
等
⇒
工場再稼働に伴う初期投資費用を回収し、採算維持ができるように配慮すべき契約上の付随義務を認めた。
義務違反の成否について、
原審:発注量が目安に到達しなかったことについて、合理的な理由もなくそのような状況に至ったと断じることはできないとし、Y側にも相応の努力があったことを認めた。
控訴審:Y側に合理的な理由があったことが認められないとした。
~
発注量が目安に到達しなかった合理的な理由をY側で主張、立証することが必要となる。
契約上の付随義務について:
雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務
診療契約上の義務としての説明義務
不動産売買契約上の説明義務
等
~
いずれの契約においても、当該契約の内容や契約締結に至る経緯等から判断されている。
判例時報2397
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