被災者生活再建支援法に基づく支援金の支給決定⇒その後一部損壊に修正され、支給決定取り消し⇒不当利得返還請求(否定)
東京地裁H30.9.27
<事案>
X:被災者生活再建支援法の規定に基づき、宮城県から被災者保生活再建支援金の支給に関する事務の全部の委託を受けた被災者生活再建支援法人であり、東日本大震災に係る地震が発生した平成23年3月11日当時、仙台市A区に所在する建物に居住していたYらから、支援金の支給の申請を受け、Yらに対し、それぞれ支給決定をして支援金を支給
but
その後、本件支給決定を取り消す旨の各決定
⇒
Xが、行訴法4条の当事者訴訟として、Yらに対し、支給済みの支援金相当額の不当利得の返還及び遅延損害金の支払を求めた。
<解説>
支援法:
自然災害により被災世帯(全壊世帯、大規模半壊世帯等)となた世帯の世帯主に対し、当該世帯主の申請に基づき、支援金の支給を行うことを規定(支援法3条1項)
支援金の支給の申請の際、当該世帯が被災世帯であることを証する書面を提出しなければならない(被災者生活再建支援法施行令4条1項)ところ、
り災証明(災害による住家に係る被害認定をした結果を証明する文書として全国の各市町村において作成され、各種被災者支援制度における基礎資料として利用されている。)が、被災世帯であることを証する書面として利用されている。
り災諸運命が証明する被害の程度は、内閣府が定めた「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(「内閣府運用指針」)に基づき、一般的な住家を想定した損害割合により判定され、
建築士等の資格を有しない者が調査及び判定を行い得ることを前提として、第一次調査では、外観目視による損傷程度等の把握を行う。
東日本大震災による住家の被害の認定については、内閣府制作統括者(防災担当)付参事官の事務連絡により、さらに簡便な目視による状況把握ができることとされていた。
Xは、支援法11条1項所定の業務規程(「本件業務規程」)を定め、本件業務規程11条は、支援金の支給決定を取り消すことができる場合として、偽りその他不正の手段により支援金の支給を受けたとき(同条1号)等を規定。
<事実>
本件マンションは、合計9棟から成るマンション群のうちの1棟。
東日本大震災後の1回目の調査では一部損壊、2回目の調査では大規模半壊と判定⇒Yらは、2回目の調査に係るり災証明書を添付して支援金の支給を申請⇒Xから本件支給決定を受けて、支援金の支給を受けた。
A区は、一級建築士に依頼するなどして本件マンションについて3回目の調査を実施⇒被害の程度を一部損壊に修正⇒Xは、職権により、本件支給決定がその要件を欠くことになったとして、職権により、本件支給決定を取り消す旨の決定(本件取消決定)
<争点>
①行政処分は適法なものではなければならず、一旦された行政処分も、後にそれが違法であることが明らかになった場合には、法治主義の要請に基づき、権限を有する行政庁において法律上の特別の根拠なく、職権によりこれを取り消することができる。
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②支援金の支給決定のような授益的な行政処分については、これが取り消されることによって、当該処分による既得の権利利益や、当該処分が適法であり有効に存続するものと期待した者の信頼を害することになる。
⇒
判例は、
処分の取消によって生ずる不利益と、取消しをしないことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益を比較考量し、
当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができるものとする。
(最高裁昭和31.3.2)
<判断>
●
(1)自然災害により住宅に被害が生じた多数の被災者についてその支援の必要性が高い時期に生活再建資金を援助するという支援法の趣旨及び目的に照らし、
支援金は、被災者において速やかに生活再建のために支出することが当然に予定されており、住宅の被害の程度が事後的に修正された場合に支援金の返還を求められるとすれば、被災者が不安定な立場に置かれるばかりでなく、そのような修正がされていないときであっても、後に支援金の返還を求められる可能性を考慮して、これを速やかに生活再建のために支出することにちゅうちょを覚えるという事態に陥りかねない。
①そのような事態は、支援金制度の実行性を失わせるものであり、
②被災者に支給された支援金が生活再建のために支出された後になってその返還を求めることは、
被災者における生活再建のための支出計画に少なからぬ影響を及ぼすとともに、
支援金の支給がなければ存在しなかった負債を被災者に負わせることにもなり、かえって、被災者の生活再建に対する阻害要因となりかねない。
⇒
本件支給決定を取り消すことによるYらの不利益は大きい。
(2)
①支援金の支給についてYらに帰責性はない
②被害位認定調査の手続及び内容は、内閣府運用指針等に沿うものであり、2回目の調査の被害の判定における誤認は、建築の専門家による調査検討を経て初めて判明⇒2回目の調査の当時において公平・公正性及び適正性の観点から問題とされるものではなかった。
⇒
事後的な調査の結果に基づき被害の程度が修正されたというだけでは、適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや、多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれが生ずるとはいえない。
複数の建物の間で被災世帯該当性の判断に差異が生じることが直ちに不平等に当たるものではない。
処分の取消によって生ずる不利益>取消しをしないことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益
というべきであり、
本件支給決定を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認めることはできず、本件支給決定は、これを取り消すことができない
⇒本件取消決定は違法。
●
支援金の支給決定及びこれを取り消す旨の決定は、支援金の支給を申請した当該被災世帯の世帯主に対してにも効力を有するものであり、当該処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要に乏しい
⇒
当該処分の瑕疵が支援法の根幹についてのものであり、かつ、支援法に基づく被災者に対する支援行政の安定とその円滑な運営が要請されることを考慮してもなお出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として当該世帯主に処分による重大な不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵が必ずしも明白なものでなくても、当該処分は当然無効であると解するのが相当。(最高裁昭和48.4.26)
本件取消決定は、支援法の根幹にかかわる重大な瑕疵を有するものであり、前記例外的な事情があるというべき
⇒
本件取消決定が当然無効であり、不当利得返還請求権は発生しない。
判例時報2398
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