厚生年金保険の被保険者の死亡に伴う別居中の妻の遺族厚生年金不支給決定処分取消請求(肯定)
福岡高裁H29.6.20
<事案>
X(外国籍)は、厚生年金保険の被保険者である夫Aが死亡したことを理由に、処分行政庁である厚生労働大臣に対し、遺族厚生年金の裁定を請求⇒生計同一性要件(厚年法59条1項)を満たさないとして不支給決定⇒同決定は亡夫Aによる生計維持関係を認めなかった違法があると主張し、Y(国)に対して取消しを求めて提訴。
Aは婚姻後10年間同居して生計維持関係にあったが、Xに離婚を申出て別居し、音信不通となり生活費も支給しないまま別居の約9か月後に死亡。
Xは、別居期間中に離婚調停を申し立てた。
<原審>
遺族厚生年金の受給要件に関する「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(平成23年3月23日発0323第1号厚生労働省年金局長通知)を前提として、
①生活費不支給の事情や、
②Xが離婚調停を申し立てた等の事情
⇒
生計同一性要件を満たさないと判断。
例外条項(認定基準の定める生活同一に関する認定要件・収入に関する要件を満たさないが、これにより生計維持関係を認めないことが、実態と著しくかけ離れ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、例外とする旨規定。)の適用も否定。
<判断>
原判決を取り消し、Xの請求を認容し遺族厚生年金不支給決定を取り消す判決。
①生計同一性要件を満たさない
but
②XのAと離婚する確定的な意思は認めず、婚姻期間の10年間はAが生活費を渡していた⇒別居期間の約9か月間も生活費を支払う義務がある
③Xは離婚調停を申し立てたが混乱していたものであり、別居につき帰責事由はなく、Aによる悪意の遺棄
⇒
このような事実関係の下において生計維持関係がないとすることは、生計維持のため必要な生活費等の支払が正当な理由なく停止されているだけであるという実態を看過している点で、実態と著しく懸け離れ、社会通念上妥当性を欠くというべき。
⇒
本件例外条項を適用。
<解説>
本件例外条項につき、厚年法の目的である「遺族の生活の安定と福祉の向上」(同条1条)の観点から解釈・当てはめをしている。
生計同一要件・生計維持要件に関するもの:
①昭和60年法律第34号による改正前の厚年法の通算老齢年金の受給権者であった亡Aが失踪宣告によって死亡したものとみなされた⇒亡Aの配偶者であった控訴人がした亡Aの通算老齢年金の未支給保険給付(厚年法37条1項)の請求に対する旧社会保険庁長官の不支給処分について、生計同一要件が認められるとして取り消された事例。(東京高裁H22.8.25)
②厚生年金保険の被保険者の死亡に伴い別居中の妻がした遺族厚生年金の裁定の請求に対する旧社会保険庁長官の不支給決定について、やむをえない事情により別居していたいもので厚年法59条1項にいう生計維持要件が認められるとして、同決定を違法として取り消した事例。(東京地裁H23.11.8)
生計維持関係等の認定基準の例外条項に関するもの:
③不倫相手と同居後死亡した夫の妻に対する遺族厚生年金を支給しない旨の厚生労働大臣の決定につき、「生計維持関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、社会通念上妥当性を欠くことになる」という生計維持関係等の認定基準の例外条項に該当すると判断され、不支給処分の取消請求及び支給裁定の義務付け請求が認容された事例。(東京地裁H28.2.26)
判例時報2399
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