飯塚事件再審即時抗告審決定
福岡高裁H30.2.6
<事案>
有罪の確定判決(死体遺棄、略取誘拐、殺人の罪による死刑判決)について、福岡地裁H26.3.31の再審請求決定に対する即時抗告審決定
<証拠>
●自白はなく、状況証拠のみによって事実認定が行われた。
●A有罪方向の証拠
①犯行の日時場所に近接して、事件本人所有の車と似た車を見たとのTの目撃供述
②本人は事件関係場所の土地鑑を有しておりかつ事件当日のアリバイがない
③本人所有の車両から血痕及び尿痕が検出され、かつ血痕は被害者と血液型及びDNA型のGc型が同じであるとの鑑定結果
④被害者両名の着衣に本人所有のシートの繊維と類似する繊維片が付着していたとの鑑定結果
⑤被害者の膣内部およびその周辺から採取された血液の血液型が本人の血液型(B型)と同一であるといとの鑑定結果並びに本人が当時亀頭包皮炎にり患していて出血傾向があったとの診断結果
●B無罪方向の証拠
①HLADQα型のDNA型判定では、真犯人は〇〇型であるのに対して本人××型であるとする鑑定結果(本田一次鑑定)
②MCT118型鑑定の原資料で認められる△△型が真犯人のDNA型であり、本人の型と一致しないとする鑑定結果(本田二次鑑定)
③HLA-DQB型及びミトコンドリアDNA型による各DNA型判定では、真犯人由来と考えられる資料から本人の型が検出されなかったとする鑑定結果(石山鑑定)
④被害者の膣内部及びその周辺から採取された血液の血液型(真犯人の型)はAB型であって本人の血液型(B型)と異なるとする鑑定結果(本田三次鑑定)
<主張>
Tの目撃供述(A①):
目撃実験結果と比較してT供述が詳細に過ぎ、結果を既に知っていた捜査官による誘導があった
本人所有の車のシートにあった血痕と尿痕(A③):
血痕や尿痕は他の機会に付着した可能性
血痕の血液型やGc型のDNA型はその種類の少なさに照らして犯人特定の手段にはならない
被害者の衣服に付着していた繊維と染料の鑑定結果(A④):
問題の繊維の原糸は本人所有車両以外にも他車・他種の車両のシートに広く使われており、また繊維の線量配合比のスペクトラム分析に誤りがある
被害者の膣内部およびその周辺から採取された血液の血液型の鑑定結果(A⑤):
資料採取の方法及びその鑑定方法の科学性に問題があり、血液型を本人と同型のB型とした点は誤りで、採取された血液の型は本田三次鑑定のようにAB型
本人の亀頭包皮炎は当時治癒していた
<判断>
●無罪方向の証拠に対する判断
B①について::
犯人のDNAが壊れていた可能性や検出感度の差によってそのような結果になったとも考えられる。
B②について:
本田二次鑑定が真犯人の型という××型は、エキストラバンド(電気泳動時に生じる虚像)であり、真犯人の型ではない。
足利事件と異なり、現場資料の再鑑定が実施できない本件では、本田二次鑑定を前提としても、犯人と本人のMCT118型が一致したと認めることはできないが、逆に一致しないとも認めることもできない。
B③について:
対象資料が少なかったために検出できなかった可能性がある
B④について:
A型とB型との反応に強弱が認められる⇒資料(真犯人)の血液型はAB型ではない。
●
これらの情況事実は、いずれも単独では事件本人を犯人と断定することができるものではないが、それぞれ独立した証拠によって認められ、事件本人が犯人であることが重層的に絞り込まれている。
事件本人以外に、こうした事実関係のすべてを説明できる者が存在する可能性は抽象的なものにとどまると考えられ、事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がなされていると認められる。
<解説>
情況証拠によって認定される情況事実の証明の程度については、その各々について合理的な疑いを超えた証明が必要であるとするのが通説。
白鳥決定(最高裁昭和50.5.20)を前提とすれば、その理は通常審と再審とで異ならない。
本件:
各積極的情況事実の立証に関してそれぞれ請求人側からこれを弾劾する主張と証拠が提出されている。
本決定が「合理的な疑いを超えた高度の立証」という文言を使っているのは、その末尾における総合評価の場面だけであり、そこに動員された情況事実の証明度に関しては、請求人側の主張を排斥するに止まり、その証明程度については明言されていない。
本決定は、提出された消極的な情況証拠について、他の解釈を容れる可能性があるとしてこれらを排斥。
but
「疑わしきは被告人の利益に」という原則との関係で、これら消極的情況事実の立証の程度が問題に。
総合評価の際には、これらの消極的情況事実がそれぞれ独立して重層的に存在している状況も考慮される必要。
判例時報2396
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