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2019年5月

2019年5月30日 (木)

「全店一括順位付け方式」による債権差押命令の申立てが適法とされた事案。

名古屋高裁金沢支部H30.6.20       
 
<事案>
X(抗告人、債権者)は、調書判決の正本を債務名義として、債務名義に表示された請求権と執行費用を請求債権として、Y(相手方、債務者)が第三債務者(Z銀行)に対して有する預金債権の全部を対象として、差押債権額に満つるまでの債権差押命令の申立て。 
Xは、差し押さえるべき預金債権について、第三債務者の「複数の店舗に預金があるときは、店舗番号の若い順による」とした上で、同一店舗扱いの預金債権については差押え有無やその種別等による順位を付して差し押さえることを求めた(いわゆる「全店一括順位付け方式」)
 
<原決定>
大規模金融機関である第三債務者の全ての店舗を対象として順位付けをするものであり、第三債務者において、差押命令の送達時点で速やかにかつ確実に差し押さえられた債権を識別することができないとして、最高裁H23.9.20を引用し、差押債権の特定を欠き不適法⇒却下。 
 
<判断>  
平成23年最決は、本店及び複数の支店(人的・物的設備を有する店舗等)を持つ大規模金融機関を念頭に置き、・・・これに応じた差押債権の特定の要請を図ったものであり、全ての金融機関に当てはまるのではなく、当該金融機関の個性ないし特性によっては、取扱店舗の表示を一箇所に固定せずとも差押債権の特定の要請を満たす場合があり、そのような場合についてまで一律に差押命令の申立てを不適当とすべきものとは解されない。
 
近時のいわゆるインターネット専業銀行においては、人的・物的設備を有する実店舗を設けず、これを設けていたとしても預金債権の管理を本店等の一箇所で行っている金融機関がみられるところ、このような金融機関を第三債務者とする債権差押命令の申立てにおいては、差押債権である預金債権の表示において、取扱店舗を特定せずとも、前記にいう差押債権の特定の要請を満たすものとみて差し支えない。
 
①本件の第三債務者であるZ銀行は、預金債権の差押えにおいて、取扱店舗を特定していなくとも、本店等いずれかの担当部署において、氏名と住所により全店検索を行って対象債権の特定作業をしていると認められ、
預金債権の差押命令の送達を受けた場合の作業において、取扱店舗の特定の有無にかかわらず、全店検索及びその後の対処を同一部署で一括して実施しており、差押債権の識別について各別の負担を要しないことが推認される。
②Z銀行自身、差押債権の特定の方法として、全店一括順位付け方式のうち複数の店舗に預金があるときは店舗番号の若い順によるとの方式を望ましいと弁護士会照会に回答。

Xがした差し押さえるべき預金債権の特定によって、差押債権の識別に格別の負担をかけないことを容易に認めうる。 

⇒本件では、差押債権の特定に欠けるところはない。

 
<解説>
●債務者の差異三債務者である金融機関に対する全店舗及び全種類の預金債権を対象とする「全店舗一括順位付け方式」による債権差押命令の申立てにつき、原決定が引用する平成23年最決とは第三債務者である金融機関の個性ないし特性が異なり、差押債権の特定に欠けるところはないとしたケース。 
 
債権執行における債権の特定は、その債権の被差押適格の判定及びその申立てに基づいて発令される差押命令の効力範囲の認識に資するもので、観念上の存在であり、公示制度もない
債権者に過度の要求をすべきでなく、他の債権と識別できる程度に表示されることを要する。 

預金債権の差押えは、当該取扱店舗(本店又は各支店)ごとに、預金の種類、口座番号等により順序を付して差押債権の特定をするのが執行実務の原則。

銀行における預金債権の管理が取扱店舗ごとにされてきたことから、迅速な差押えの効力の発生と銀行の事務処理の負担に配慮。

取扱店舗を特定しない申立てや複数の支店における預金債権に順序を付する方法(全店一括順位付け方式、支店間視点番号順序方式)による申立てについては、債権の特定はなく不適法であると解するのが伝統的見解。
but
その後、こうした申立ても債権の特定ありとして適法とする決定例がみられるようになり、抗告審レベルでは二分する状況。

最高裁H23.9.20:
債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定は、その送達を受けた第三債務者において、差押えの効力が前記送達の時点で生ずることにそぐわない自体とならない程度に速やかにかつ確実にその債権を識別することができるものであることを要する。
大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ては差押債権の特定を欠き不適法。
 
●執行裁判所は大量の案件を一律に処理する必要がある⇒差押債権の特定の有無は、差押債権の表示それ自体を基準に判断するのが原則。 
本件では、債権者が弁護士に依頼し、弁護士会照会の手順を踏んでおり、第三債務者である金融機関が「差押債権の特定の方法として、全店一括順位付け方式のうち複数の店舗に預金があるときは店舗番号の若い順によるとの方式を望ましい」と回答。

判例時報2399

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2019年5月29日 (水)

実施法の「(裁判所による)監護の権利」の侵害が問題となった事案。

大阪高裁H28.7.7      
 
<事案>
子の父であるX(シンガポール国籍)が、母であるY(インド国籍)に対し、Yによる連れ去りによりXの子に対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、子を常居所地国であるシンガポール共和国に返還することを求めた事案。 
 
<特殊性>
Y及び子の日本への入国前に、シンガポールの裁判所において、XとYの離婚を命じる判決がされ、既に確定。
同判決にには、XとYが子の共同監護権を有するものの、Yが子の世話及び監護の権利を有し、自己の費用により、子を自由に日本に転居させることができるとの条項(「本件転居条項」)が置かれていた。
その後、Xと子との面会交流が滞った⇒Xが、シンガポールの裁判所にに対し、本件転居条項の削除とシンガポールでのXと子との交流の内容の変更を求める申立て。
そのような状況で、Yが子とともに日本に転居。
Xは、本件転居条項の削除を求める申立てを取り下げた。
 
<規定>
実施法
第二七条(子の返還事由)
裁判所は、子の返還の申立てが次の各号に掲げる事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じなければならない。
一 子が十六歳に達していないこと。
二 子が日本国内に所在していること。
三 常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること
四 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと。
 
<判断>

X:共同監護権が認められている⇒自らが監護の権利を有していると主張 

原決定:
実施法が不法な連れ去り又は不法な留置がされた場合において子をその常居所地国に返還することを目的とするもの
監護の権利は居所指定権を有するかという観点から判断する必要。

本件では、Yが自由に子を日本に転居させることが許されており、Xにその点に介入する権限はない⇒Xの監護の権利を否定し、本決定もこの判断を是認
 

X:シンガポール法の一部を構成する英国コモンローでは、裁判所に監護権に関する事件が係属している間に一方の親が子を国外に連れ去った場合には、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(「ハーグ条約」) 3条aの裁判所の監護の権利の侵害に当たると認めた事例がある
⇒シンガポールの裁判所に本件転居条項の削除と求める手続が係属していた本件では、シンガポールの裁判所の監護の権利が侵害された
 
本決定:
裁判所の監護の権利を認める余地を肯定。

本件では、Yと子の日本への転居の時点では、シンガポールの裁判所において本件転居条項を含めて事件の審理がされていた
同裁判所が子に対して監護の権利を有していた可能性が認められる。
but
Yが子を連れてシンガポールから日本に出国した後、Yがシンガポール内に居住せず、かつ、裁判期日に出頭せずとも、審理を続行する上で法律上の障害にはならないにもかかわらず、Xが本件転居条項の変更を求める申立てを取下げ、裁判所もこれを許可したとの一連の経過
⇒シンガポールの裁判所が子に対して監護の権利を有しているとはいえない。
 
<解説>
国境を越えた子の連れ去り又は留置を違法なものとして、子の返還を求めるためには、当該連れ去り又は留置によって、監護の権利が侵害されたことを要する(実施法2条6号、7号、27条3号)。 
監護の権利については、ハーグ条約及び実施法に定義が置かれていないが、常居所地国の法令上、両親が共同で監護権又は居所指定権を有している場合はもちろん、監護権を有していない親が居所指定権を有している場合にも、ハーグ条約にいう監護の権利を有しているとの解釈が定着しつつあるとされている。
but
英国の裁判所は、このような監護の権利を拡張する特殊な法理を認めており、その1つが裁判所の監護の権利。

子の返還を求める親(いわゆるLBP)によって実体法上の監護権又は居所指定権に関する申立てがされると裁判所自身が子の居所を決定しる権原を取得し、ハーグ条約上の権利を有すると構成する法理。
⇒裁判所によってLBPに監護権や居所指定権が付与される前の手続係属中の段階で、子が国外に連れ去られた場合にも、LBPが子の返還を申し立てることを可能にする意義がある。

判例時報2399

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2019年5月28日 (火)

保護室収容を理由に(弁護人との)面会を許さない刑事施設の長の措置の違法性

最高裁H30.10.25       
 
<事案>
拘置所に被告人として勾留されていたX1及びその弁護人であったX2が、刑事収容法79条1項2号イに基づく保護室への収容を理由に拘置所職員がX1とX2との面会を許さなかったことにより、接見交通権を侵害された⇒Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求めた事案。 
 
<原審>
国賠法上の違法性なし⇒請求棄却。 
 
<判断>
刑事収容法79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等(弁護人又は弁護人となろうとする者)からあった場合に、その申出があった事実を未決拘禁者に告げないまま、保護室に収容中であることを理由として面会を許さない刑事施設の長の措置は、
未決拘禁者が精神的に著しく不安定であることなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる特段の事情がない限り、
未決拘禁者及び弁護人等の接見交通権を侵害するものとして、国賠法1条1項の適用上違法となると解するのが相当である。

X1は、本件申出があった事実を告げられればX2と面会するために大声を発するのをやめる可能性があったことを直ちに否定することはできず、原審の確定した事実のみをもって前記「特段の事情」があったものということはできない

原審を破棄し、「特段の事情」の有無等について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻した。
 
<規定>
憲法 第34条〔抑留・拘禁に対する保障〕
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

刑訴法 第三九条[被疑者・被告人との接見・授受]
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
 
刑事収容法 第七九条(保護室への収容)
刑務官は、被収容者が次の各号のいずれかに該当する場合には、刑事施設の長の命令により、その者を保護室に収容することができる。
一 自身を傷つけるおそれがあるとき。
二 次のイからハまでのいずれかに該当する場合において、刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるとき。

イ 刑務官の制止に従わず、大声又は騒音を発するとき。

ロ 他人に危害を加えるおそれがあるとき。

ハ 刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがあるとき。
 
<解説> 
被告人又は被疑者の接見交通権については、判例上も、身体を拘束された被告人または被疑者が弁護人等(弁護人又は弁護人となろうとする者)の援助を受けることができるための「刑事手続上最も重要な基本的権利」であり「憲法の保障に由来する」ものとされており、
弁護人等の接見交通権については、弁護人等の「固有権」の最も重要なものの1つであるとされている。(憲法34条前段、37条3項前段、刑訴法39条1項)
 
●本判決:
一般論として、刑事収容法が「保護室に収容されている未決拘禁者」と弁護人等との面会について特に定めを置いていないのは、
保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあったとしても、その許否を判断する時点において未決拘禁者が79条1項2号に該当する場合には、刑事施設の長が、刑事施設の規律及び秩序を維持するため、面会を許さない措置をとることができることを前提とする。
but
「面会の拒否を判断する時点において未決拘禁者が79条1項2号に該当する」というのは、当該時点の具体的な状況を踏まえて判断されなければならない。

未決拘禁者が刑事収容法79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている場合において面会の申出が弁護人等からあったときは、刑事施設の長は、例外的な場合を除き、弁護人等から面会の申出があったという事実を直ちに未決拘禁者の反応等を確認した上で、それでもなお未決拘禁者が同号に該当するか否かを判断し、該当しない場合には、直ちに保護室への収容を中止させて未決拘禁者と弁護人等との面会を許さなければならないという職務上の法的義務を負う

未決拘禁者が精神的に著しく不安定であるなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる「特段の事情」に当たる場合:
①未決拘禁者が極度の興奮による錯乱状態にある場合
②未決拘禁者が、上記申出があった事実を告げられても、その告知内容を理解すること又はこれに的確な対応をすることが著しく困難な状況にあるために、上記告知をすることが実質的に意味を持たないような場合(池上裁判官補足意見)

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2019年5月26日 (日)

厚生年金保険の被保険者の死亡に伴う別居中の妻の遺族厚生年金不支給決定処分取消請求(肯定)


福岡高裁H29.6.20      
 
<事案>
X(外国籍)は、厚生年金保険の被保険者である夫Aが死亡したことを理由に、処分行政庁である厚生労働大臣に対し、遺族厚生年金の裁定を請求⇒生計同一性要件(厚年法59条1項)を満たさないとして不支給決定⇒同決定は亡夫Aによる生計維持関係を認めなかった違法があると主張し、Y(国)に対して取消しを求めて提訴。 
Aは婚姻後10年間同居して生計維持関係にあったが、Xに離婚を申出て別居し、音信不通となり生活費も支給しないまま別居の約9か月後に死亡。
Xは、別居期間中に離婚調停を申し立てた。
 
<原審>
遺族厚生年金の受給要件に関する「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(平成23年3月23日発0323第1号厚生労働省年金局長通知)を前提として、
①生活費不支給の事情や、
②Xが離婚調停を申し立てた等の事情

生計同一性要件を満たさないと判断。

例外条項認定基準の定める生活同一に関する認定要件・収入に関する要件を満たさないが、これにより生計維持関係を認めないことが、実態と著しくかけ離れ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、例外とする旨規定。)の適用も否定。 
 
<判断>
原判決を取り消し、Xの請求を認容し遺族厚生年金不支給決定を取り消す判決。
①生計同一性要件を満たさない
but
XのAと離婚する確定的な意思は認めず、婚姻期間の10年間はAが生活費を渡していた⇒別居期間の約9か月間も生活費を支払う義務がある
Xは離婚調停を申し立てたが混乱していたものであり、別居につき帰責事由はなく、Aによる悪意の遺棄

このような事実関係の下において生計維持関係がないとすることは、生計維持のため必要な生活費等の支払が正当な理由なく停止されているだけであるという実態を看過している点で、実態と著しく懸け離れ、社会通念上妥当性を欠くというべき。

本件例外条項を適用。
 
<解説> 
本件例外条項につき、厚年法の目的である「遺族の生活の安定と福祉の向上」(同条1条)の観点から解釈・当てはめをしている。 
生計同一要件・生計維持要件に関するもの:

①昭和60年法律第34号による改正前の厚年法の通算老齢年金の受給権者であった亡Aが失踪宣告によって死亡したものとみなされた⇒亡Aの配偶者であった控訴人がした亡Aの通算老齢年金の未支給保険給付(厚年法37条1項)の請求に対する旧社会保険庁長官の不支給処分について、生計同一要件が認められるとして取り消された事例。(東京高裁H22.8.25)

②厚生年金保険の被保険者の死亡に伴い別居中の妻がした遺族厚生年金の裁定の請求に対する旧社会保険庁長官の不支給決定について、やむをえない事情により別居していたいもので厚年法59条1項にいう生計維持要件が認められるとして、同決定を違法として取り消した事例。(東京地裁H23.11.8)

生計維持関係等の認定基準の例外条項に関するもの:
③不倫相手と同居後死亡した夫の妻に対する遺族厚生年金を支給しない旨の厚生労働大臣の決定につき、「生計維持関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、社会通念上妥当性を欠くことになる」という生計維持関係等の認定基準の例外条項に該当すると判断され、不支給処分の取消請求及び支給裁定の義務付け請求が認容された事例。(東京地裁H28.2.26)

判例時報2399

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2019年5月22日 (水)

大学教授の解雇(無効)事案


東京高裁H30.6.18    
 
<事案>
大学教授の解雇を巡る紛争。
学校法人である控訴人に雇用された被控訴人が、控訴人から懲戒解雇され、さらに、予備的に普通解雇された

これらの解雇が無効であると主張して、
控訴人に対し、
被控訴人が控訴人との雇用契約上の地位にあることの確認を求めると共に、
民法536条2項に基づき、懲戒解雇がされた月の翌月以降の賃金及び賞与を請求。
 
<原審>
いずれの解雇も無効⇒地位確認請求を認容。 

賃金請求:
解雇予告手当金の充当を認めて一部棄却。

賞与請求:
具体的な権利性が認められる部分のみを認容し、その余を棄却。
 
<争点>
①各解雇の有効性
②賞与請求権の具体的権利性の有無 
 
<判断> 
●被控訴人を懲戒解雇とすることは重きに失する
⇒懲戒解雇を無効とした原審の判断を維持。 

●普通解雇について:
控訴人の新たな主張:
①被控訴人が研究室に出金しなかったことが就業規則違反に当たる
②同僚等に対する恫喝的な言動、約2年半の無断欠勤、無届での多額の金員の受領行為があったことも考慮すると解雇事由に該当することを追加
①について:
教育・指導義務が免除された被控訴人には前記就業規則がそのまま適用されるとはいえない
②について:
これらの行為のうち証拠上認められるものを追加的に考慮しても解雇事由に該当するとはいえない

普通解雇を無効とした原審の判断を維持。
 
●民法536条2項に基づく賞与請求について、
原審が請求の請求の一部を棄却したのに対し、
本判決は、これを取り消して請求の全部を認容。 
 
<規定> 
民法 第536条(債務者の危険負担等)
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
 
<解説>
民法536条2項に基づいて賞与請求が認められるのは、具体的な権利性が認められる場合に限られる。
就業規則、労働協約、労使慣行等において支給基準が具体的に定まっており、その基準に従えば形式的に賞与支給額を算定することができる場合等。

他方、賞与支給額が使用者の考査査定を経て定まるような場合、査定が行われていない⇒具体的な賞与請求権は発生していない。

原審:
控訴人の従業員の賞与は「支給係数」が定まらなければ賞与の額が定まらないところ、この「支給係数」は、形式的に定まっているものではなく、入学者数等諸般の事情を考慮して定められるもの
⇒具体的な権利性は認められない
⇒「支給係数」が明らかな限度で賞与請求を認容

控訴審:
「支給係数」についての立証が新たにされ、賞与の支給額は画一的に給与の5.25か月分と算定
⇒控訴人の賞与額もこれに従って形式的に算定することができるため、具体的権利性が認められるとした。

判例時報2398

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2019年5月21日 (火)

金商法19条2項(賠償の責めに任じない損害の額)と民訴法248条の類推

最高裁H30.10.11       
 
<事案>
東京証券取引所第一部に上場されていたYの株式を募集等により取得した投資者であるXらが、Yが提出した有価証券届出書に係る参考書類のうちに重要な事項についての虚偽の記載があり、それにより損害を被った⇒Yに対し、民法709条、会社法350条、金商法18条1項又は平成26年法律第44号改正前の金商法21条の2第1項に基づき損害賠償等を請求。
 
<原審>
①民法709条又は会社法350条に基づく損害賠償請求には理由がない 
②改正前金商法21条の2第1項に基づく損害賠償請求について:
平成18年9月中間期半期報告書及び平成19年3月期有価証券報告書に虚偽の記載がある⇒同条2項に基づき推定した損害額(1株69.66円)から同条5項により賠償の責めに任じない額として認められる相当な額(6割)を控除した額がYの負担すべき賠償責任額
③金商法18条1項に基づく損害賠償請求について:
第三者募集に係る有価証券届出書の参照書類である平成18年9月中間期半期報告書に虚偽の記載があると認められ、同法19条1項に基づいて算定した賠償責任額から、同条2項により認定した賠償の責めに任じない額(1株30円)及び民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない額として認められる相当な額(6割)を控除した額がYの負担すべき賠償責任額であるとして、Xらの請求を一部認容。
 
<解説・判断>   
金商法18条1項本文:
重要な事項にについて虚偽記載等のある有価証券届出書を提出した者に無過失損害賠償責任を負わせるものと規定。
同法19条1項は、同法18条1項の賠償責任額として、取得価額から処分価額等を控除した額を法定。

その上で、同法19条2項は、同条1項の額から、有価証券届出書の虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じたことが賠償責任者によって証明されたものを賠償の責めに任じないものとして減ずることを定めている

同法5条4項の適用を受ける有価証券届出書に係る参照書類については、同法23条の2により、有価証券届出書を同参考書類に読み替えるなどして同法18条1項及び19条が適用されることになる。 
 
最高裁における争点:
金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において、裁判所が民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができるか?
 
金商法18条1項及び19条:
請求者にとって容易に立証することができる一定の額を賠償責任額として法定した上で、その額から、虚偽記載等による値下がり以外の事情による値下がりであることが賠償責任者によって証明されたものを減額するという方式を採用し、これにより損害填補等の目的を実現しつつ、事案医即した損害賠償額を算定しようとするもの。

同法18条1項に基づく損害賠償責任が原状回復的なものであるとされていることを厳格に捉えることができない。

①同法18条1項に基づく損害賠償責任が生ずる場合が、有価証券届出書のうちに虚偽記載等がなければ投資者が当該有価証券を取得することがないときに限られない
②同法19条2項による減額の抗弁を認めている


虚偽記載等による値下がり以外の事情により値下がりがあると認められるものの、性質上その額を立証することが極めて困難である場合に、そうした減額を全く認めないというのは、当事者間の衡平の観点から相当ではなく、事案に即した損害賠償額の算定という趣旨にも反する
①金商法19条が政策的に設けられたものであること、
②民訴法248条が原告や権利者保護の観点から設けられたという同条の沿革
③不法行為等における「損害」は責任原因との間に相当因果関係があるのに対し、金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害は責任原因との間に相当因果関係がないこと等

被告ないし義務者からの減額の抗弁を定めた同行の「その全部又は一部」に民訴法248条の「損害額」を適用することができると解することは難しい。

but
民訴法248条に係る制度の本質は、当事者間の衡平を図ることをその趣旨とするもの
②金商法19条2項の適用に際し、請求権者に生じた損害が有価証券届出書の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を立証することが極めて困難である場合をみると、立証責任を負う者について原告ないし請求権者と被告ないし義務者との違いがあるものの、民訴法248条を適用すべき状況に類似

金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において、裁判所が民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができる旨を判示し、肯定説のうち類推適用説を採用。

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2019年5月20日 (月)

自動車保険契約での偶然性の立証と故意免責の立証

東京地裁H30.1.31      
 
<事案>
Xは、遺産分割協議により、Aの前記保険金を相続したと主張し、Yに対し、
人身傷害補償保険金3000万円、
搭乗者傷害保険金1000万円
車両保険金45万円
傷害総合保険金850万円
の合計4897万円の支払を請求。 
 
<解説・判断> 
●本件自動車保険契約に基づく人身傷害補償保険及び搭乗者所外保険、本件傷害総合保険契約に基づく障害保険の支払要件:
約款では、「急激かつ偶然な外来の事故」(「偶然性の事故」)によって身体に傷害が発生することが必要とされている。

保険金請求者が「偶然性の事故」であることを主張立証しなければならないのか、
保険会社が「偶然性の事故」でないこと(換言すれば、事故が故意に夜ものであること)を主張立証しなければならないのか
が問題。
 
本判決:
保険金請求者が主張立証すべきことを当然の前提としている。
Aが県道を北方から南方に向かって走行してきてガードレールの切れ目に差し掛かった際に、不注意又は不可抗力により保険自動車を右旋回させた可能性は極めて低いと言わざるを得ない
本件事故が偶然により発生したものと認めることはできない

本件自動車保険契約に基づく人身傷害補償保険及び搭乗者傷害保険、本件傷害総合保険契約に基づく傷害保険の支払請求は否定。

●本件自動車保険契約に基づく車両保険の支払要件として、
約款では、
「盗難、盗難以外の・・・その他偶然な事故」について、保険金を支払うと規定。
⇒「偶然な事故」であることは、保険金請求者が主張立証すべきことのようにみえないではない。

本判決:
本件事故は偶然性があるとは認められない。
しかしながら、本件事故に偶然性が認められないからといって、直ちに被告に故意免責が認められるものではない。

本件においては、Aが自殺をほのめかす言動をしていたといった事情が認められないというだけでなく、その生活状況から見ても、自殺する動機が存在したなどの事情もうかがわれない

本件事故が、・・・Aの故意によって生じたものとまで認めるには足りない⇒故意免責を認めることはできない

車両保険に係る保険金として45万円の支払を認め、その余の請求を棄却。
 
●最高裁H13.4.20:
普通傷害保険契約の約款に基づき死亡保険金の支払を請求する場合における「偶然な事故」についての主張立証責任は、保険金請求をする者にある。 

最高裁H18.6.1:
「衝突、接触・・・その他偶然な事故」を保険事故とする自家用自動車総合保険契約の約款に基づき、車両の水没が保険事故に該当するとして、保険者に対して車両保険の支払を請求する者は、事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張、立証すべき責任を負わない

車両保険については、保険会社において、故意免責の主張立証責任を負うことを判示。

判例時報2398

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2019年5月19日 (日)

ウィーン条約実施法で、子を常居地国に返還することを命じる終局決定が確定⇒拘束者がそれに従わないまま子を監護⇒人身保護請求(肯定)

名古屋高裁H30.7.17      
 
<事案>
XとYは夫婦であり、いずれも日本人。
被拘束者は、両名の二男であり、米国で出生し、同国と日本の二重国籍を有している。 
Xは、Yを相手方として、平成28年7月25日、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づく被拘束者の返還命令を申し立て⇒東京家裁は、同年9月16日、Yに対し、被拘束者を米国に返還するよう命じる決定をし、この決定は確定。
Xは、本件返還決定を受けて、東京家裁に代替執行を申し立て、その授権決定を得て、平成29年5月8日、執行官による解放実施が行われたが、不能に終わった。
 
申立 Xは、同年7月1日、被拘束者の解放を求めて人身保護請求を申し立てた。

その理由:
Yは、本件返還決定が確定しているにもかかわらず、被拘束者の返還に応じずに拘束を継続しているが、
別件米国の裁判により、Yは被拘束者の監護権を失い、監護権者はXのみとなった上、
被拘束者が米国への帰国を望んでいる
Yの被拘束者の拘束には顕著な違法性がある。 
 
<差戻前>
名古屋高裁金沢支部:
①被拘束者は、現在、日本での生活環境に馴染み、良好な人間関係を構築して充実した学校生活を送っており、家庭内においてもYと親和して、情緒も安定し、年齢相応の発達を遂げて健やかに成育している
②被拘束者は、Yとの同居を望み、事故の希望として日本に居住して現在の生活を継続したい旨述べており、13歳という年齢を考慮しても尊重されるべき
③被拘束者は、Yによって身体の自由を拘束されているとはにわかに認め難く、Xの本件請求は、被拘束者の自由に表示した意思に反する
④実施法に基づく本件返還決定が確定していることは、本件の帰趨に影響しないし、別件米国の裁判によって、Yが被拘束者の監護権を失ったとしても、本件の結論は左右されない。

本件請求を棄却。 
 
<最高裁>
Yによる被拘束者に対する拘束に顕著な違法性がある⇒名古屋高裁に差し戻し。 
 
<判断>
被拘束者が自由意思に基づいて、Yの下にとどまっているとはいえない特段の事情がありYの被拘束者に対する監護は、人身保護法及び同規則にいう拘束に当たるというべきであり、また、本件請求は、被拘束者の自由に表示した意思に反してされたものとは認められない
②国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める自身保護請求において、実施法に基づき、拘束者に対して当該子を条居住地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定してにもかかわらず、拘束者がこれに従わないまま当該子そ監護することにより拘束している場合には、その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り、拘束者による当該子に対する拘束に顕著な違法性がある。
③Yは、近々、本件返還決定の変更を求める申立てを行うことを検討しているが、本件返還決定後に、Yが被拘束者と一緒に渡米することが不可能又は著しく困難な健康状態に陥ったことを認めるに足りる証拠資料もなく、本件返還決定の変更申立てが認容される蓋然性が高いと認めることはできない

Xの人身保護請求は理由があるとして、被拘束者を釈放し、Xに引き渡すべき。 

判例時報2398

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2019年5月17日 (金)

祭祀主宰者、遺骨の分骨等についての争い

大阪高裁H30.1.30      
 
<事案>
X(母)は、Y(父)に対し、
主位的に被相続人の祭祀財産の承継者をXと定める処分を、
予備的に本件遺骨の分骨とその引渡しを
求めた。
 
<原審>
婚姻関係解消の前後を通じ、被相続人の祭祀の主宰者は既にYに定められている
⇒改めて祭祀財産の承継者の指定を求める(民法897条2項)主位的申立ては理由がない。 
同条項は分骨を請求できる根拠とはならない⇒予備的請求も理由がない。
 
<判断>
●主位的申立て(祭祀主催者の指定等):
X・Y間では協議により被相続人(長男)の祭祀主宰者をYとすることが既に定められていた⇒改めて祭祀財産の承継者を指定する(民法897条2項)理由はない。

①Yの改葬の意図目的は、死後、本件墳墓が無縁仏となることを懸念し、その維持管理を図るところにあった⇒それなりの合理性を有する
②Yが改葬に先立ちXに連絡しなかったことは配慮を欠くものの、両者は離婚後20年も没交渉であったからやむを得ない面もある
③Yは、改葬墳墓を祖先の墳墓とは別途設置し、Xの心情や墓参の便宜にも配慮義が見られる

Yが祭祀主宰者としての適格性を喪失したとはいえないから、これを変更すべき理由もない
 
●予備的申立て(分骨等):
①Yは、xの墓参を拒んでいるとはいえない
②改葬墳墓はY家の祖先の墳墓とは別途設置されている
③Yが離婚後も約20年、本件墳墓を管理し、その間Xは自由に墓参し、Yによる祭祀には特段異議を述べることもなく一任してきた
④Yが分骨に強く反対

本件では、本件遺骨の一部をXに分属させなければならない特別の事情はない

分骨請求等についても理由がない。 
 
<規定>
民法 第897条(祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
 
<解説>  
●祭祀に関する権利の承継については、民法897条が規律し、これらの紛争について遺族関係者間の協議で解決できなかった場合、家庭裁判所が調停・審判で決することができる。
本件のような遺骨の帰属をめぐる紛争についても、相続法理によるものではなく、同条の祭祀主宰者ないし承継者に帰属するという解決を志向する

最高裁:
遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者とみられる相続人に帰属するとした原審を是認(最高裁H1.7.18)。


遺骨は物理的に分けることができる⇒
①故人を偲ぶ家族や特別に親密な関係にあった者による分骨請求が認められるか、
②その根拠をどこに見い出すか
が問題。 
 

原審:法的な根拠がない⇒これを否定
vs.
祭祀財産については、特別の事情がある場合にには、複数の祭祀主宰者やその分属が認められている(奈良家裁H13.6.14)
②遺骨の帰属をめぐる紛争についても、相続法理によるのではなく、民法897条の祭祀主宰者ないし承継者に帰属するという解決を志向⇒分骨が可能であり、分骨を必要とする特別の事情がある場合には、同条を根拠として分骨請求を認める余地がある

抗告審:本件では、本件遺骨の一部をXに分属させなければならないとする特別の事情はないとして、分骨請求についても理由がないとした。 

判例時報2398

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(いわゆる)ハーグ条約実施法で、同法28条1項4号の返還拒否事由を認めた事案

東京高裁H27.7.14      
 
<事案>
子の父であるX(トルコ共和国国籍)が、母であるY(日本国籍)に対し、Yによる連れ去りによりXの子に対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、子を常居所地国であるトルコ共和国に返還することを求めた。 
 
<原審>
Xの申立てを認容

Yが即時抗告
 
<判断>
原決定を取り消し、申立てを却下。 
 
<解説>

①子やYに対する暴行等の認定内容及び評価の差
②トルコにおけるDV保護法制に対する評価の差 
 

①について:

原審:
XがYに対し子がいる場で暴力を振るった事実を認めたものの、Xが子に対して暴力を振るった事実や性的に不適切な行為を行った事実を認めるに足りる証拠はない
⇒トルコへの返還後に、子がXから身体に対する暴力等をうけるおそれやYがXから子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれがあるとは認められない。

判断:
子に対する性的に不適切な行為があったと認めた上、XがYに暴行を加えた際、その巻き添えとなって子が怪我を負ったことを認め、今後も同様の事態に至る可能性が高い。 
 

②について:

原審:
①Xに対し、トルコの法律に基づいて、一定期間、Yに対する暴行等の禁止や自宅への接近の禁止等を命じるDV保護命令が発令されている
②このような保護命令の実効性は、違反者に対する身体拘束等により制度上担保されている上、期間延長も可能
③DVの被害者に提供されるシェルターがY及びXが居住していた地域にも存在する
⇒Yが子とともにトルコに入国した場合、Xの暴力から保護されるための手段として、これらのトルコの法制度を利用することができる。

判断:
トルコのDV保護制度の不備を指摘する各種の資料
⇒子及びYがトルコに戻った場合に、DV保護制度によってXの暴力等から適切に保護され得るとすることには疑問が残る。
 

重大な危険の返還拒否事由は、実務上、子の返還申立事件の審理に当たって、最も頻繁に主張される返還拒否事由とされており、
この事由に関する判断が、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)全体の運用の適否を左右するとも言われている。

子が常居所地国に返還された後にどのような危険が生じ得るのか
常居所地国において、その危険から子を保護するための措置(例えば、DV保護命令制度)によってその危険が低減されるか
という2つの視点から検討を要すると考えられている。

実施法施行後3年間の返還申立事件の終局決定例の判断傾向の分析(依田吉人、家庭の法と判例12.27)
ハーグ国際私法会議において、締約国各国の適切な実務慣行を収集したグッド・プラクティス・ガイド。

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2019年5月15日 (水)

不動産売買契約が公序良俗に反する暴利行為にあたるとされた事例

東京高裁H30.3.15      
 
<事案>
Y:本件各建物を所有し、そのうちの店舗兼共同住宅1階でスナックを経営している者。
X:本件各建物を含む本件各不動産について、Yから買い受けたAから売却を受けた者。
Xが、本件各建物を占有するYに対して、本件各建物の明渡しを求めるとともに、不法行為に基づき賃料相当損害金の支払を求め、これに対し、Yが、Y・A間の売買契約の有無及び効力を争った。 
 
<事実>
Yは、店舗兼共同住宅1階でスナックを経営し、その収入のほか共同住宅や貸地を賃貸することにより賃料収入を得て生活していた。
but
農協からの借入金の返済を遅滞して、内容証明郵便で期限の利益を失い、法的手続により回収する旨の通知。

Yは、根抵当権の設定されていた本件各不動産に対する競売を回避するため、知人のつてでAに融資の申込み。 

AからYへの融資:
平成25年12月24日付で1000万円の金銭借用証書、極度額3000万円の根抵当権設定契約、少なくともYに590万円の入金
H26.6.9:YとAとの間で、本件各不動産を6000万円で売り渡す旨の売買契約書
売渡費用はYの負担、所有権移転登記に関する費用はAの負担
YのAに対する借入金の残金を売買代金にすべて充当
農協借入金の残金をAがすべて支払う
手続に要する費用はAが負担
することを条件として、売買代金が確定。
これらと併せて、YはAに対し、農協借入金の代位弁済を依頼し、その返済は借入債務と併せてY所有の不動産をAの指示に従い売却して返済することに同意する旨の代位弁済同意書が作成。
その後、Aが担保提供者の立場で農協と交渉して、2990万5598円を返済し、農協による根抵当権設定登記は抹消。
Aは本件各不動産の売却先を探し、Yを平成26年12月末までに立ち退かせること、解体造成費用はAまたはYが負担すること、本件各不動産はYとXとの直接取引ではなく、AとXとの取引とするとの条件で、Xが購入する意向(購入価格は1億500万円)⇒Y・A間の売買契約書作成。
その後、Y、A、Xの三者は直接面会し、本件売買契約の代金が6000万円であることはXに伝えられている。
本件各不動産の客観的交換価値は、少なくとも1億3130万円。
 
<争点>
Y・A間の本件各不動産の売買契約が暴利行為に当たるか。 
 
<原審>
Yは本件各不動産の競売回避のために早期に売買代金を必要としていた事情
⇒本件各不動産の売買に際して、時価相当額を下回る価格である6000万円で売買契約が締結されたからといって、暴利行為を評価することはできない。 
 
<判断>
①本件各不動産の客観的交換価値は少なくとも1億3130万円以上であり、売買代金6000万円は、その半分にも満たない
②本件売買契約により、Yは生活の本拠のほか賃料収入も得られなくなり、生活の基盤を完全に失うことになる
③Yが現実に受け取った現金は590万円分のみであり、農協借入金返済額2990万5598円を併せてもYの経済的利益は合計3580万5598円に過ぎない

債務は返済したものの、今後の生活費等は手元に全く残らない状況に陥っており、経済的取引としての合理性を著しく欠くものであり、通常の合理的な判断能力を有する者であれば、およそ行わないような内容の取引

公序良俗に反する暴利行為に当たる。 
 
<解説>
相手方の無知ないし窮迫に乗じて過大な利益を獲得しようとするいわゆる暴利行為は、民法90条によって無効(大判昭和9.5.1)。
いかなる事情をもって暴利行為にあたるというかは、事案によって異なり、諸事情によって判断される⇒当事者による間接事実の提示が重要になってくる。

判例時報2398

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2019年5月14日 (火)

被災者生活再建支援法に基づく支援金の支給決定⇒その後一部損壊に修正され、支給決定取り消し⇒不当利得返還請求(否定)

東京地裁H30.9.27      
 
<事案>
X:被災者生活再建支援法の規定に基づき、宮城県から被災者保生活再建支援金の支給に関する事務の全部の委託を受けた被災者生活再建支援法人であり、東日本大震災に係る地震が発生した平成23年3月11日当時、仙台市A区に所在する建物に居住していたYらから、支援金の支給の申請を受け、Yらに対し、それぞれ支給決定をして支援金を支給
but
その後、本件支給決定を取り消す旨の各決定

Xが、行訴法4条の当事者訴訟として、Yらに対し、支給済みの支援金相当額の不当利得の返還及び遅延損害金の支払を求めた。
 
<解説>
支援法:
自然災害により被災世帯(全壊世帯、大規模半壊世帯等)となた世帯の世帯主に対し、当該世帯主の申請に基づき、支援金の支給を行うことを規定(支援法3条1項)

支援金の支給の申請の際、当該世帯が被災世帯であることを証する書面を提出しなければならない(被災者生活再建支援法施行令4条1項)ところ、
り災証明(災害による住家に係る被害認定をした結果を証明する文書として全国の各市町村において作成され、各種被災者支援制度における基礎資料として利用されている。)が、被災世帯であることを証する書面として利用されている。 

り災諸運命が証明する被害の程度は、内閣府が定めた「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(「内閣府運用指針」)に基づき、一般的な住家を想定した損害割合により判定され、
建築士等の資格を有しない者が調査及び判定を行い得ることを前提として、第一次調査では、外観目視による損傷程度等の把握を行う。
東日本大震災による住家の被害の認定については、内閣府制作統括者(防災担当)付参事官の事務連絡により、さらに簡便な目視による状況把握ができることとされていた。

Xは、支援法11条1項所定の業務規程(「本件業務規程」)を定め、本件業務規程11条は、支援金の支給決定を取り消すことができる場合として、偽りその他不正の手段により支援金の支給を受けたとき(同条1号)等を規定。
 
<事実>
本件マンションは、合計9棟から成るマンション群のうちの1棟。
東日本大震災後の1回目の調査では一部損壊、2回目の調査では大規模半壊と判定⇒Yらは、2回目の調査に係るり災証明書を添付して支援金の支給を申請⇒Xから本件支給決定を受けて、支援金の支給を受けた。 
A区は、一級建築士に依頼するなどして本件マンションについて3回目の調査を実施⇒被害の程度を一部損壊に修正⇒Xは、職権により、本件支給決定がその要件を欠くことになったとして、職権により、本件支給決定を取り消す旨の決定(本件取消決定)
 
<争点>
①行政処分は適法なものではなければならず、一旦された行政処分も、後にそれが違法であることが明らかになった場合には、法治主義の要請に基づき、権限を有する行政庁において法律上の特別の根拠なく、職権によりこれを取り消することができる。
but
②支援金の支給決定のような授益的な行政処分については、これが取り消されることによって、当該処分による既得の権利利益や、当該処分が適法であり有効に存続するものと期待した者の信頼を害することになる。

判例は、
処分の取消によって生ずる不利益と、取消しをしないことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益を比較考量し、
当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができるものとする。
(最高裁昭和31.3.2) 
 
<判断> 

(1)自然災害により住宅に被害が生じた多数の被災者についてその支援の必要性が高い時期に生活再建資金を援助するという支援法の趣旨及び目的に照らし、
支援金は、被災者において速やかに生活再建のために支出することが当然に予定されており、住宅の被害の程度が事後的に修正された場合に支援金の返還を求められるとすれば、被災者が不安定な立場に置かれるばかりでなく、そのような修正がされていないときであっても、後に支援金の返還を求められる可能性を考慮して、これを速やかに生活再建のために支出することにちゅうちょを覚えるという事態に陥りかねない
①そのような事態は、支援金制度の実行性を失わせるものであり、
②被災者に支給された支援金が生活再建のために支出された後になってその返還を求めることは、
被災者における生活再建のための支出計画に少なからぬ影響を及ぼすとともに、
支援金の支給がなければ存在しなかった負債を被災者に負わせることにもなり、かえって、被災者の生活再建に対する阻害要因となりかねない。

本件支給決定を取り消すことによるYらの不利益は大きい。 

(2)
①支援金の支給についてYらに帰責性はない
②被害位認定調査の手続及び内容は、内閣府運用指針等に沿うものであり、2回目の調査の被害の判定における誤認は、建築の専門家による調査検討を経て初めて判明⇒2回目の調査の当時において公平・公正性及び適正性の観点から問題とされるものではなかった。

事後的な調査の結果に基づき被害の程度が修正されたというだけでは、適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや、多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれが生ずるとはいえない

複数の建物の間で被災世帯該当性の判断に差異が生じることが直ちに不平等に当たるものではない。
処分の取消によって生ずる不利益>取消しをしないことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益
というべきであり、
本件支給決定を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認めることはできず、本件支給決定は、これを取り消すことができない
本件取消決定は違法
 

支援金の支給決定及びこれを取り消す旨の決定は、支援金の支給を申請した当該被災世帯の世帯主に対してにも効力を有するものであり、当該処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要に乏しい

当該処分の瑕疵が支援法の根幹についてのものであり、かつ、支援法に基づく被災者に対する支援行政の安定とその円滑な運営が要請されることを考慮してもなお出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として当該世帯主に処分による重大な不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵が必ずしも明白なものでなくても、当該処分は当然無効であると解するのが相当。(最高裁昭和48.4.26)

本件取消決定は、支援法の根幹にかかわる重大な瑕疵を有するものであり、前記例外的な事情があるというべき

本件取消決定が当然無効であり、不当利得返還請求権は発生しない。

判例時報2398

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2019年5月13日 (月)

長期無断外泊による遵守事項違反を理由とする更生保護法67受2項に基づく施設送致申請⇒第一種少年院送致とした事案

大阪家裁堺支部

H30.5.10      
 
<事案>
更生保護法67条2項に基づく施設送致申請につき、家庭裁判所が、保護観察の継続によっては本人の改善及び更生を図ることができないかどうかを見極めるため本人を試験観察(身柄付き補導委託)に付した上、試験観察中の行状も考慮すると保護観察の継続によっては改善更生を図ることができない
前記申請を認容し、本人を第一種少年院に送致する旨の決定。 
 
<解説>
施設送致申請:
家庭裁判所の決定により保護観察に付された少年(本人)が、
保護観察所長から遵守事項を遵守するよう警告を発せられたにもかかわらず、なお遵守事項を遵守せず
その程度が重いときに、
保護観察所長が、家庭裁判所に対し、本人を施設に送致する決定をするよう求める申請(更生法67条2項)。 

この申請を受けた家庭裁判所が少年法26条の4第1項により施設送致決定をするには、
前記①②が認められることに加え、
保護観察の処分によっては本人の改善及び更生を図ることができないと認められることが必要。
 
<決定>
遵守事項違反の内容は犯罪行為ではないものの、遵守事項違反が警告を受けてから間もない時期であることや、遵守事項違反の理由が友人と遊びたいなどとの安易な理由であるこ、遵守事項違反が反復・継続されていること、無断外泊等が継続していた時期に無免許運転をしていること等の事情⇒遵守事項違反の程度が重い(前記②)。
試験観察中の少年の行状も踏まえると少年の問題性は根深く、保護者の監護能力にも多くは期待できない⇒保護観察によっては本人の改善更生を図ることができない(前記③)。

第一種少年院送致の決定 
 
<解説>
本件では、終局決定に至る前に、「社会内処遇で改善更生を図ることができかを見定めるため」として、試験観察決定(身柄付き補導委託。少年法25条)がなされており、前記③の要件の判断のために試験観察決定が活用されている。

①本人に無断外泊等の継続は見られるものの際立った犯罪行為まではなかった
②観護措置中の本人の反省状況等も踏まえ、慎重な判断を行う

判例時報2397

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2019年5月12日 (日)

児童自立支援施設に入所中の少年についての強制的措置許可申請が許可された事案

東京家裁H30.4.24      
 
<事案>
児福法27条1項3号に基づき児童自立支援施設に入所中である少年について、強制的措置許可申請がなされ、それが許可された事案。 
 
<解説>
児童自立支援施設は、不良行為をなし又はなすおそれのある児童及び環境上の理由により生活指導等を要する児童につき、個々に必要な指導を行い、その自立を支援すること等を目的とした児童福祉施設(児童福祉法44条、7条1項)

そこでの処遇は、任意・開放的に行われ、児童への強制力の行使はできないのが原則
but
児童によっては、任意・開放的な処遇方法では児童自立支援の目的を達することができず、その行動の自由を制限・剥奪する強制的措置を必要とする場合も考えられる。
そのような場合は、児童相談所長等は、事件を家庭裁判所に送致しなければならなず(少年法6条の7第2項、児福法27条の3)、家庭裁判所は、期限を付して、少年に対してとるべき措置を指示して、事件を児童相談所長等に送致することができる(少年法18条2項)

この手続の法的性質は、
事件の支配・処理を家庭裁判所に移す意味を持つ通常の「送致」とは異なり、強制的措置の許可の申請(最高裁昭和40.6.21) 
 
<判断>
①少年が粗暴行為や無断外出等を繰り返すことが強く懸念される状況に至っている
②それは、少年の資質や特性等に起因しており、少年の自立制御が困難な類のもの
少年の母が少年の不安定さに対応しきれない様子をみせている
少年の観護措置中の行動の様子

少年が粗暴行為や無断外出を繰り返すおそれが十分に高く、そうなった場合の少年の心情安定や安全確保のために強制措置が必要。 

強制的措置をとることができる日数:
問題行動のおそれの高さ⇒向こう1年6か月の間に90日間の強制的措置を認めることはやむを得ない。
 
<解説>
●上記①について:
少年が従前と同様に感情的な粗暴行為や無断外出等を繰り返す懸念があることを、強制的措置許可の根拠の中心としている。
粗暴行為や無断外出のおそれがある少年には、強制措置が必要となり得る。 

●上記②について:
社会調査の結果を踏まえ、前記問題行動を繰り返す原因を明らかにしている。
強制的措置の許可の申請の性質を持つ本手続において、観護措置をとることができるか?
認める見解が一般

①本手続が少年保護事件に準じて取り扱われるものであること
②少年法17条1項の文理
本件でも、観護措置がとられた。
 
●前記②③
⇒少年の粗暴故意や無断外出に対応するための手段として強制的措置が真にやむを得ない。 
 
問題行動を起こした少年に対する強制的措置の期間が、原則として、1回につき3週間以内とされている。

判例時報2397

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2019年5月11日 (土)

被告人を犯人と認めた原判決には事実誤認があるとして、被告人を無罪とした事例

東京高裁H30.2.9      
 
<事案>
被告人は、三階建て倉庫併用住宅の1階倉庫内において、何らかの方法で火を放ち、本件建物の一部を焼損したとして起訴された。 
 
<原審>
●出火場所が2か所であり、失火や自然発火の可能性がない⇒放火が強く推認される。 
付近の防犯カメラで撮影された不審者の行動及び出火の状況(午前4時18分頃、何者かが自転車に乗ってきて降車し、徒歩で本件倉庫方向の死角に入ると約18秒後に現れて自転車で走り去り、その数分後に本件倉庫付近が明るくなった)⇒本件火災はこの不審者が放火したものと認定。

●次の理由で、被告人を犯人と認めた。 

A:前記防犯カメラに映った不審者(犯人)
B:午前4時19分頃、付近の別の防犯カメラに映った人物、
C:午前2時58分頃と午前6時11分頃に現場近くのコンビニエンスストアの防犯カメラに映った被告人の各映像・画像
D:被告人提出の着衣と使用自転車の画像
E:警察官がDの着衣と自転車でAとBの各防犯カメラに映った影像・画像等を資料として、犯人と被告人の異同識別を鑑定。

人物が類似し、同一人物であるとして矛盾がないという証人の評価、判断は十分信用することができる。
犯人と被告人の着衣及び自転車はいくつかの点でその特徴が類似しており、それらは特異性の高いものではないが、これらがいずれも合致することは常識に照らしても極めて稀⇒犯人と被告人の同一性を相当程度推認させる。


現場周辺の防犯カメラ映像⇒犯人は、犯行のすぐ前後に自転車で被告人の居住場所付近を通過しており、それぞれの際、同居住場所付近で一定期間停止⇒犯人は被告人の居住場所に関わりがある人物であることが強く推認される。
 
被告人が犯人でないとすれば、被告人が犯人であることを相当程度推認させる上記が偶然に重なり合う事態は通常想定し難い。
 
<判断> 
●原審の指摘する事情は、それぞれが被告人の犯人性を推認させる十分な事情とはいえず、そのような両事情を併せて考えても、偶然、被告人と似た服装をし、被告人使用自転車と同様の特徴を有する自転車に乗った第三者が、被告人の居住場所付近で自転車を止めた可能性を払拭することはできない⇒被告人を犯人と断定するには足りないとして、無罪。
 
●原判決が着衣及び自転車の特徴が一致するとした諸点
vs.
①メーカーや型番のような強い一致点がなく、傷や汚れのような固体特有の特徴の一致もない
②着衣、着用方法及び自転車に特異性がない
③ABの映像・画像の色や形は明瞭ではなく、一致の程度が高いとはいえない

証人が指摘した特徴の全てが合致することは常識に照らして極めて稀
vs.
各特長の出現頻度や相関関係は不明であって根拠に乏しい

着衣等の特徴の一致という事実からは、被告人が犯人である可能性がある程度認められるにとどまり、その同一性を相当程度推認させるとした原判断は誤った経験則を用いたもの。
 

犯人が被告人の居住場所付近で具体的にどのような行動をしたのかは、映像が不鮮明なために不明。
往路及び復路において同居住場所付近で一旦停止したという事情のみでは、被告人が犯人であっても矛盾がないという程度の事情にとどまる。

原判決:被告人の居住場所に関わりのある人物でなければ往路復路の双方において同所付近で停止すべき合理的な事情が見当たらない。
vs.
そのように断定しうる経験則は認められない。 
 
<規定> 
刑訴法 第382条〔事実誤認と判決影響明白性〕
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
 
<解説> 

①最高裁H24.2.13:
刑訴法382条にいう「事実誤認」は、
第一審判決の事実認定が論理則、経験則に照らして不合理であることをいう」
と判示し、
控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要」であり、このことは、「裁判員制度の導入を契機として、第一審において直接主義・口頭主義が徹底された状況においては、より強く妥当する」

被告人の故意を認めなかった第一審判決を事実誤認とした控訴審判決を破棄。

第一審判決を事実誤認として控訴審判決につき、第一審判決が論理則、経験則に照らして不合理であることを具体的に示したものとはいえないとして破棄した事例

②最高裁H26.3.20:
保護責任者遺棄致死事件。
第一審判決が被告人らの故意(要保護状態の認識)を認めたこと事実誤認とした控訴審
vs.
被害者の衰弱状態を述べた医師らの証言につき、信用性を支える根拠があるのに考慮しないなど、証言の信用性評価を誤っている

③最高裁H30.j3.19:
保護責任者遺棄致死事件
第一審判決が被告人の故意(要保護状態の認識)を認めなかった点を事実誤認とした控訴審判決
vs.
第一審判決の評価が不合理であるとする説得的な論拠を示しているとはいい難く、第一審判決とは別の見方もあり得ることを示したにとどまる

④最高裁H30.7.13:
強盗殺人事件
第一審判決が犯人性を認めた点を事実誤認とした控訴審判決
vs.
第一審判決の説示を分断して個別に検討するのみで、情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実の総合判断という観点からの検討を欠いている


第一審判決を事実誤認とした控訴審判決を是認

⑤~⑨

以上の最高裁判決・決定

第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であるかどうかは、供述証拠の信用性評価、客観的証拠の証拠価値ないし間接事実の推認力の評価、間接事実の総合評価などの局面で問題となるが、
その不合理さは、それを具体的に指摘できるだけの実質を持ったものであることが必要で、そのことは破棄判決の説示によって実証されなければならない。
 
●本件:
事実認定論にとっても、被告人が黙秘権を行使している状況において、着衣等の類似性その他の情況証拠がどの程度揃えば合理的な疑いを超えて犯人性が認められるかという点で、有益な素材を提供。 
 
映像・画像による人や物の異同識別鑑定については、画像資料の鮮明度は被写体の撮影範囲・角度による制約、鑑定手法の科学的根拠、そして、同一性判定の客観性や統計的確率の要否、確率計算の根拠といった問題があり、その評価は定まっていないのが現状。 
同一である可能性が高いとする判定を採用しない場合でも、複数の特徴が一致ないし類似することをもって、どの程度犯人性が推認できるかという問題が残っている。

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2019年5月10日 (金)

腰痛等により整形外科等に通算500日以上入院⇒「入院」に該当せず⇒入院保険金請求が否定された事案

鹿児島地裁H29.9.19      
 
<事案>
保険会社Yとの間で医療保険契約を締結し、腰痛等によりA整形外科等に総日数500日以上入院したXが、Yに対し、本件各入院が本件保険契約における入院保険金の支払事由としての「入院」に該当⇒入院保険金462万円及び遅延損害金の支払を求めたもの。 
 
<争点>
本件各入院が本件保険契約における入院保険金の支払事由としての「入院」に該当するか。 
 
<判断>
本件保険契約における入院保険金の支払事由としての「入院」に該当するか否かの判断は、契約上の要件の該当性の判断であり、
本件保険契約における「入院」の定義からしても、
単に当該入院が医師の判断によるということにとどまらず、
同判断に客観的な合理性があるか、すなわち、患者の症状等に照らし、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性が客観的に認められるかという観点から判断されるべき。 

担当医師による判断の具体的な内容やその医学的な根拠は、前記の、「入院」該当性の判断に際して1つの重要な事情とはなるものの、
通常、医師の判断によらない入院を想定できない
医師による判断の存在という外形的な事情のみからは、直ちに「入院」該当性が推認されるとまではいえない

本件各入院(当事者間に争いのない入院を除く)は、いずれも、入院保険金の支払事由としての「入院」に該当しない
⇒請求棄却
 
<解説>
各保険会社の保険約款においては、入院給付金(入院保険金)の支払事由である「入院」の定義につき、
本件保険契約の約款と同様に
医師による治療が必要であり、かつ、
自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念すること
をいうと定められている。

札幌高裁H13.6.13:
本件保険特約が設けられている趣旨およびその内容

本件入院要件の有無の判断は、通常は医師の判断を尊重して決定されるであろうが、いかなる場合においても、一旦なされた医師の判断を無条件に尊重して決定されなければならないというものではなく、・・・客観的、合理的に行われるべき。

このように解することは、保険契約が有する射幸性による弊害を防止し、保険契約者一般の公平を守るという点に照らしても、妥当である。

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2019年5月 9日 (木)

集団予防接種によるB型慢性肝炎発症による損害の除斥期間の起算点

福岡地裁H29.12.11      

<事案>
B型肝炎の患者であるX1及びX2が、乳幼児期にY(国)が実施した集団ツベルクリン反応検査及び集団予防接種を受けた際、注射器の連続使用によって、B型肝炎ウイルスに持続感染し、成人になって慢性肝炎を発症

Yに対し、国賠法1条1項に基づき、
X1においては1375万円(包括一律請求としての損害金1250万円及び弁護士費用125万円)
X2においては1300万円(包括一律請求としての損害金1250万円及び弁護士費用50万円)
及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断> 
●集団予防接種等とHBV感染との因果関係の有無 
①X1はHVB持続感染者であるところ、出生後、満一歳となるまでの間に集団予防接種等を受け、その際にHBVに感染した可能性強い。
②全証拠によっても、X1は、集団予防接種以外に、HBV感染の原因となり得る事情は認め難い

集団予防接種等によってHBVに持続感染
X2も、0歳から6歳頃までに集団予防接種等によりHBVに感染。
 
●除斥期間の経過
Xら:B型慢性肝炎という疾病の特質及び実態⇒除斥期間の起算点はXらがHBe抗体陰性慢性肝炎を発症した時と主張
Y:最初の発生時と主張

B型慢性肝炎を発症したことによる損害は、その損害の性質上、加害行為(集団予防接種等)が終了してから相当期間が経過した後に発症
除斥期間の起算点は、加害行為の時ではなく、損害の発生の時
Xらが罹患したHBe抗原陰性慢性肝炎は、先行するHBe陽性慢性肝炎と比較して、より高頻度に肝硬変や肝細胞がんへ進展するリスクがあるなどの意味において、より重篤
②Xらにおいて、最初にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症した時点において、その後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害を請求することは客観的に不可能

Xらの主張を採用
 
●包括一律請求の可否 
HBe抗原陰性慢性肝炎の発症によって、致死性、難治性及び進行性等の点において、先行するHBe抗原陽性慢性肝炎より更に進行した重篤な肝炎疾患にり患したものであると認定。
XらはHBe抗原陰性慢性肝炎の発症(慢性肝炎の再発)による被害等の個別事情を主張するとともに、損害項目ごとの主張をも一定程度行っている

Xらが包括一律請求によって損害賠償請求を求めることが不適切であるとはいい難い。
 

Xらの請求を認容 

<解説> 
最高裁H16.4.27:
加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合における民法724条後段所定の除斥期間の起算点は、当該損害の全部又は一部が発生した時。 

最高裁H18.6.16:
乳幼児期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染しB型肝炎を発症したことによる損害につき、B型肝炎を発症した時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点

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2019年5月 8日 (水)

東京電力福島第一原子力発電所の事故と土壌を取り除いての客土等を求めた請求

①仙台高裁H30.3.22
②仙台高裁H30.9.20      
 
<事案>
福島県内に田畑を所有し、農業を営む控訴人らが、東日本大震災による原子力発電所の事故により土壌が放射性物質により汚染されたと主張
東京電力に対し、所有権に基づく妨害排除請求として、放射性物質の除去等を求めた。 
 
請求
㋐主位的請求:
土地に含まれる原子力発電所由来の放射性物質の除去を求め

㋑第1次予備的請求:
土地に含まれる放射性物質セシウム137の濃度を1キログラム当たり50ベクレルまで低減させることを求め、

㋒第2次予備的請求:
土地の表面から30センチメートル以上の土壌を取り除いて客土することを求め、

㋓第3次予備的請求:
土地の所有権が原子力発電所から放出された放射性物質により違法に侵害されていることの確認を求めた
 
原審
㋐~㋒:請求の特定を欠く
㋓:確認の利益を欠く
⇒不適法として却下 
 
判断
㋐㋑:
請求する具体的な作用の内容が明らかでなく、請求が特定されていない⇒不適法な訴えとして控訴を棄却

①原子力発電所由来の放射性物質を特定できない
控訴人らの土地において何をすることが許されるかが明らかでない
東京電力にとって、放射性物質の除去のために、可能な作為及び作為の内容を特定することができない。 

㋒:
客土工は現実に広く行われている農業土木工事であり、土地に立ち入って土壌を取り除き、造成、整地などして控訴人らの所有物を変容させることを承認することも明らかになっている
作為の内容が明らかでないとはいえず、請求が特定されている⇒訴えは適法

㋒以下の予備的請求を却下した部分につき、原判決を取り消し、審理を福島地裁に差し戻した。
 
<上告>
上告棄却及び上告不受理決定⇒判決が確定。 
 
<解説>  
訴えを提起するには、請求の趣旨及び原因を訴状に記載しなければならず(民訴法133条2項2号)、これによって請求を特定しなければならない

審判の対象を明らかにすることで、相手方にとって防御ができるようにする。 

本件:他人の土地上での放射性物質の除去という作為を求める請求の性質上、相手方の土地において何をすることが許されるかは、作為の内容を具体的に特定する重要な要素となる。
抽象的な放射性物質の除去及び濃度の低減の請求は、求める具体的な作為の内容が明らかでないから、請求が特定されていないと判断。
 
●物権的妨害排除請求の当否の問題 
~土地上に放射性物質がある状態は、原因行為者である東京電力が土地の使用収益を妨害している状態にあるといえるかという問題。
 
◎②事件:
原告が、土砂採取業を行うため放射性物質を除去する必要がある⇒東京電力に対し、物権的妨害排除請求として、土地上の樹木を伐採・抜根し、地表から5センチメートル以上の表土とともに撤去することを求めた請求について、

裁判所は、
原発事故により放射性物質が飛散したとはいえ、現状は、東京電力が除去作業をしなければ土地の円滑な利用という所有権の円満な実現が回復できない状態ではない原告が所有権に基づき本件土地を使用収益することを東京電力が妨害している状態にあるという評価はできない⇒請求棄却。

東京電力が土地上の放射性物質を管理支配しているわけでなく
原告が樹木の伐採・抜根及び表土の撤去をすることができ、東京電力がこれをしなければ原告の計画を土地の使用収益をすることができなくなる事情もない。 

◎ドイツ民法1004条1項に定められている所有権に基づく侵害除去請求権について、
近時のドイツの有力説が、
土地汚染の事例では、請求の相手方に有害物質の所有権を観念できない限り、土地の所有権の侵害がない
有害物質が土地に付合した場合は、有害物質について相手方の所有権がないから侵害がない

有害物質の除去義務を負わない。

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2019年5月 7日 (火)

危急時遺言が無効とされた事案

東京高裁H30.7.18      
 
<事案>
遺言者である亡Mは、大正15年生まれで、
平成25年4月からA病院に入院
平成25年9月18日に本件危急時遺言
平成26年1月に死亡。 
 
<争点>
本件危急時遺言の有効性:
亡Mが遺言時に死亡の危急が迫っていたことに争いなし
「遺言時の遺言能力」と「遺言の方式違反」が争点。 
 
<規定>
民法 第976条(死亡の危急に迫った者の遺言) 
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
 
<原審>
遺言能力:
①A病院に勤務する亡Mの主治医であり本件危急時遺言の証人の1人であるS医師が遺言能力があると判断
②本件危急時遺言についての遺言確認事件(民法976条4項、5項参照)で遺言確認の審判がされた
③その過程における家裁調査官による調査の結果

遺言能力を肯定

口授の要件:
証人の1人であるR弁護士の発問に対して、かすかな発語と首を振って応答したことをもって、これを満たすと判断。
 
<判断> 
●遺言能力
カルテ上の客観的資料であるJCS(意識障害の深度の分類)に着目し、
遺言の前日がJCS10(刺激を止めると眠り込むが普通の呼びかけで一時的に覚醒する状態)、
遺言の当日がJCS3(覚醒しているが自分の名前・生年月日がいえない状態)

遺言能力を欠いた状態であると推認。

①S医師は、循環器内科の意思であって、意思能力の有無の鑑別の専門医ではない
S医師による遺言能力肯定の根拠は、傾眠傾向から一時覚醒状態に戻った(意識が戻った)にすぎない点にあるとみられる
⇒S医師の判断は採用できない。

遺言確認審判の過程における家裁調査官の調査結果は、
家裁調査官が意思能力の有無の鑑別についての専門家ではないこと(後見開始審判は意思能力を鑑別した医師の意見を聴いて発令され、調査官調査のみを資料とする発令はしないのが実務の通例)、
②(調査結果は)S医師の前記意見に依拠
⇒採用できない。

確認審判の存在は、格別重視していない。
 
●口授の要件 
原則的要件(遺言者自身が遺言の趣旨を自らの声で述べる)を満たさない
⇒例外的要件を満たすかどうかについて検討。

例外的要件:
遺言の直近の時期に遺言者から適切な方法で遺言内容が確認されて文書化され、
証人が当該文書を読み上げて遺言者がこれを肯定する発言をすることと設定。
but
本件において、遺言の直近の時期に遺言内容が遺言者から確認された事実も、
確認内容が記載された文書が作成された事実も証明されていない
⇒例外的要件も満たさない。
 
<解説>
●本件においては、R弁護士が、遺言者本人ではなく、遺言者の子の1人である第一審被告乙山から口頭で聞いた内容を、R弁護士が自己の記憶に基づいて遺言者の面前で誘導尋問的に発問し、JCS3の状態にある遺言者がかすかな発語と動作で応答したにとどまる。 

遺言内容の確認は遺言の直近の時期にされることが必要とした。

半年前や1年前に遺言者から確認したのでは、遺言の直近の時期とは言えない。
控訴審判決の判断内容は、危急時遺言や公正証書遺言における口授の要件を緩和する累次の大審院や最高裁の事例判例の趣旨に沿うもの。
 
●危急時口頭遺言制度と確認審判制度 
危急時遺言の確認の申立てを却下する審判が確定⇒危急時遺言が無効。
~確認審判は、危急時遺言の効力発生要件。
but
確認審判は、危急時遺言の効力発生の必要条件ではあるが、効力発生の十分条件ではない。
確認審判には既判力がなく、遺言の有効性は、最終的には、既判力を有する本案訴訟の判決で確定。

確認審判申立てについては、有効である可能性がわずかでも残っていれば確認の審判をせざるを得ないという実情

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2019年5月 6日 (月)

生産委託契約において、委託者の、受託者が工場の再稼働に伴う初期投資費用を回収し採算を維持することができるよう配慮すべき契約上の付随義務(肯定)

東京高裁H29.11.30      
 
<事案>
XはYとの間で子供服の生産委託契約を締結。
Xは、Yに対し、
①主位的に、Yは年間1億5000万円の売上高に相当するだけの生産を委託する義務(「発注義務」)を負っていたのにこれを怠った
⇒債務不履行に基づき、契約期間を通じた発注不足額に相当する逸失利益合計3億1482万円余の損害賠償請求をし、
②予備的に、当初の契約期間については、最低売上高1億5000万円が維持されるとの信頼ないし期待を侵害して不測の損害を与えることのないよう配慮すべき契約上の付随義務ないし保護義務があるのにこれを怠った
⇒1億1070万円余の損害賠償請求。 
 
<原審>
発注義務について否定。
契約上の付随義務ないし保護義務について:
本件契約に至る経緯や契約条項などの諸事情⇒Yが目安とされた生産委託規模に見合う水準の発注量を確保できるよう配慮すべき契約上の義務を負っていた。
but
目安となる受注に達しなかったものの、Y側も、発注量を維持するための相応の努力をしていたことが窺われる
⇒前記の配慮義務を怠ったと評価するに足りる事情を認めることはできない。
 
<判断>
原審と同様
①Yの要請を受けて、閉鎖していた工場を再稼働することになったこと、
②事業規模についても、早期の段階である程度の想定がされ、それに基づいて工場再稼働の計画が進められていたこと
③Xから覚書案が送付された後、格別の指摘がないまま7か月近く推移したにもかかわらず、向上の再稼働後に契約内容の修正を迫られ、事業撤退の困難な段階で契約が締結されてこと
④合理的な理由なく委託規模が著しく減少することのなよう努力するとの条項が設けられたこと等

少なくとも当初の契約期間は、Xが工場の再稼働に伴う初期投資費用を回収し、採算を維持することができるよう配慮すべき契約上の付随義務を負うものと認めた。

発注量が目安の3分の1にとどまったことについて、
新生児服の具体的な需要の推移等の関係で合理的な理由に基づき発注量が目安に満たなかった事情や努力義務を尽くしたとみるべき事情は認められない

付随義務違反による損害賠償請求を認めた
 
<解説>
原判決、本判決とも、
①Yの要請を受けて、閉鎖していた工場を再稼働することになったこと、
②事業規模についても、早期の段階である程度の想定がされ、それに基づいて工場再稼働の計画が進められていたこと
③ そのための設備投資がおこなわれていたこと


工場再稼働に伴う初期投資費用を回収し、採算維持ができるように配慮すべき契約上の付随義務を認めた。

義務違反の成否について、

原審:発注量が目安に到達しなかったことについて、合理的な理由もなくそのような状況に至ったと断じることはできないとし、Y側にも相応の努力があったことを認めた。

控訴審:Y側に合理的な理由があったことが認められないとした。

発注量が目安に到達しなかった合理的な理由をY側で主張、立証することが必要となる。

契約上の付随義務について:
雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務
診療契約上の義務としての説明義務
不動産売買契約上の説明義務


いずれの契約においても、当該契約の内容や契約締結に至る経緯等から判断されている。

判例時報2397

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2019年5月 4日 (土)

形式上の要件に適合しない申請であることを理由とした行政手続法7条に基づく申請に対する拒否処分が違法とされた事案

山形地裁H30.8.21      
 
<事案>
採石業を営むXは、森林法10条の2第1項に基づく開発行為の変更許可申請をするに当たって、処分行政庁が制定した規則(「Y規則」)において、申請に添付すべきと定められていた、地方公共団体等との間における残置森林等の保全に関する協定等を証する書面を添付しなかった⇒処分行政庁は、保全協定等は、森林法施行規則4条の規定する申請書に添付すべき書類に含まれるものであり、本件変更許可申請は、法令上要求されている書類に不備があるとして、行手法7条に基づき拒否処分をした

Xが、Y(山形県)に対し、本件変更許可申請は法令に定められた申請の形式上の要件を満たしていると主張して、本件処分の取消を求めた。 
 
<規定>
行政手続法 第7条(申請に対する審査、応答)
行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。
 
<判断>  
行手法7条の「申請の形式上の要件」とは、申請が有効に成立するために法令において必要とされる要件のうち、当該申請書の記載、添付書類等から外形上明確に判断し得るものをいい、それは法令の規定する実体的要件の判断のために不可欠となる必要最小限のものに限られると解するのが相当。
 
森林開発許可に係る判断を担う都道府県知事は、
森林法及び同法施行規則の規定に反しない限り、
規則所定の計画書として必要な具体的事項を定めることができる。
but
Y規則において規定されている添付書類の全てが、必ずしも「申請の形式上の要件」となるわけではない。
 
保全協定等の性質や、関連通達における保全協定等の有無の位置付け、Xが本件変更許可申請に添付した計画書の記載内容などを考慮

Y規則が、森林法施行規則4条所定の「開発行為に関する計画書」に添付すべき書類として保全協定等を規定しているのは、当該申請に関して法令の規定する実体的要件の判断のためぬい不可欠となる必要最小限のものとして申請の形式上の要件とする趣旨ではなく、申請に係る審査をより厳密に行うこと等を目的として資料の提出を求めているものにすぎない

保全協定等の添付が「申請の形式上の要件」になると解することは、森林法及び同法施行規則に反する。

本件処分は違法であるとして、これを取り消した。
 
<解説> 
●行手法7条は、いわゆる申請権の具体化として、
①行政庁について、申請が到達したときに遅滞なく当該申請の審査を開始する義務が生ずる旨を確認的に規定し、
②行政庁の応答義務のうち、特に、当該申請が申請の形式上の要件に適合しない場合について、申請者がいたずらに不安定な立場に置かれることを防止するため、行政庁の措置義務(当該申請の補正を求めて審査を継続するか、当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない)と規定したものであり、
いわゆる申請後受理前の行政指導を否定するために「受理」の観念を排除し、申請に対する処分の迅速で公正な処理を確保しようとするもの。

●行手法7条が規定している「法令に定められた申請の形式上の要件」とは、申請が有効に成立するために法令において必要とされる要件のうち、当該申請書の記載、添付書類等から外形上明確に判断し得るものをいい、ほとんど、同条が例示に掲げた事項(「申請書に必要な書類が添付されていること」など)で尽きていると考えられる。
このような形式上の要件に対し、
申請をすることができる事項についての申請であることや、
申請資格を有する者による申請であること、
申請内容が真正であること
などについては、
一般に、申請の内容審査を経ないと判断できない問題
「申請の形式上の要件」には該当しないと解されている。

判例時報2397

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2019年5月 3日 (金)

給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について、法定納期限の経過後にその原因となる行為の錯誤無効の主張による適否を争うことの可否

最高裁H30.9.25      
 
<事案>
権利能力のない社団Xが、理事長Pに対し、借入金債務の免除(本件債務免除)をしたところ、所轄税務署長から、これに係る経済的な利益(本件債務免除益)がPに対する賞与に該当⇒給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分を受けた⇒国を相手にその取消しを求めた。 
 
<概要>
Pは、債権回収会社Aとの間で、借入金の一部を弁済した場合にはその余の支払義務の免除を受ける旨合意して分割弁済⇒平成17年、同社から残債務の免除(ア)を受けた。
その後、Pの資産に増加はなかった。 
所轄税務署長は、平成19年8月、Pの平成17年の所得税の更正処分等についての異議申立てに係る決定の理由中において、前記アの債務免除益については平成26年6月27日付け課個2-9ほかによる改正前の所得税基本通達36-17(本件通達)の適用がある旨の判断。

本件旧通達:
債務免除益のうち、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合に受けたものについては、各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入しない。
PのXに対する借入金債務の額は、平成19年12月10日当時、55億円余。
Xは、Pらから、不動産を総額7億円余で買い取り、その代金債務と前記借入金債務とを対当額で相殺するとともに、Pに対し、前記相殺後の前記借入金債務48億円余を免除(本件債務免除)(イ)。
 
<主張>
X:前記イの決定において、Pについて「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難と認められる場合」に当たるとして本件旧通達が適用されたため、本件債務免除益についても本件旧通達の適用により課税の対象とならないと考え、Pとその旨確認の上、本件債務免除をした。
⇒本件債務免除益が納税告知処分の対象となるのであれば、XとPが確認した前提条件に錯誤があり、これは要素の錯誤であるから、本件債務免除は無効。
 
<原審>
法定納期限の経過後に源泉所得税の納付義務の発生原因たる法律行為につき錯誤無効の主張をすることは許されない。 
 
<判断>
Xの上告受理申立てを受理した上、
給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について、法定納期限が経過したという一事をもって、当該源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことが許されないとはいえない

原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものである。
Xは、納税告知処分が行われた時点でまに、本件債務免除により生じた経済的成果がその無効であることを基因して失われた旨の主張をしてない

Xの主張をもってしては、納税告知処分等のうち原審が適法とした部分が違法であるということはできない
⇒上告を棄却。
 
<説明> 
経済活動ないし経済現象は、第一次的には私法によって規律されている
課税は、原則として私法上の法律関係に即して行われるべき(金子)。
but
課税の前提となる私法上の法律関係についての行為が無効であるとしても、課税対象が私法上の行為それ自体ではなく、それによって生じた経済的成果(例えば所得)である場合には、その原因たる私法上の行為に瑕疵があっても、経済的効果が現に生じている限り、課税は妨げられない

最高裁H2.5.11:
譲渡所得発生の基因となった土地持分譲渡契約が後に合意解除されたが、当該持分価額相当の金員が契約の相手方に返還されておらず、契約によって生じた譲渡収入は現実に消滅していないという事案において、
前記合意解除の存在を前提とせずにされた更正処分等を適法と判断。
 
税負担問題は、私法上の意思決定において考慮に入れるべき最も重要なファクターの1つ⇒平均的経済人の立場から見てそれが合理的であると認められる場合には、これに関する錯誤を意思表示の無効原因と考えてよい場合がある。(金子) 
私法上の行為が税負担㋑関する錯誤により無効となる場合があることを前提とするものとして、最高裁H1.9.14。
 
●申告納税方式の租税について、その納税義務を成立させる支払の原因となる行為の錯誤無効が問題となった事案で、
裁判例(原審も同様)では、
わが国は、申告納税方式を採用し、申告義務の違反や脱税に対しては加算税等を課している⇒安易に納税義務の発生の原因となる法律行為の錯誤無効を認めて納税義務を免れさせたのでは、納税者間の公平を害し、租税法律関係が不安定となり、ひいては申告納税方式の破壊につながる⇒法定申告期間の経過後に課税負担の錯誤が当該法律行為の要素の錯誤に当たり、それが無効であることを主張することはできない。 
but
その理論的根拠を十分に説明できていない。

判例時報2397

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2019年5月 2日 (木)

飯塚事件再審即時抗告審決定

福岡高裁H30.2.6   
 
<事案>
有罪の確定判決(死体遺棄、略取誘拐、殺人の罪による死刑判決)について、福岡地裁H26.3.31の再審請求決定に対する即時抗告審決定
 
<証拠> 
●自白はなく、状況証拠のみによって事実認定が行われた。 
 
●A有罪方向の証拠 
①犯行の日時場所に近接して、事件本人所有の車と似た車を見たとのTの目撃供述
②本人は事件関係場所の土地鑑を有しておりかつ事件当日のアリバイがない
③本人所有の車両から血痕及び尿痕が検出され、かつ血痕は被害者と血液型及びDNA型のGc型が同じであるとの鑑定結果
④被害者両名の着衣に本人所有のシートの繊維と類似する繊維片が付着していたとの鑑定結果
⑤被害者の膣内部およびその周辺から採取された血液の血液型が本人の血液型(B型)と同一であるといとの鑑定結果並びに本人が当時亀頭包皮炎にり患していて出血傾向があったとの診断結果
 
●B無罪方向の証拠 
①HLADQα型のDNA型判定では、真犯人は〇〇型であるのに対して本人××型であるとする鑑定結果(本田一次鑑定)
②MCT118型鑑定の原資料で認められる△△型が真犯人のDNA型であり、本人の型と一致しないとする鑑定結果(本田二次鑑定)
③HLA-DQB型及びミトコンドリアDNA型による各DNA型判定では、真犯人由来と考えられる資料から本人の型が検出されなかったとする鑑定結果(石山鑑定)
④被害者の膣内部及びその周辺から採取された血液の血液型(真犯人の型)はAB型であって本人の血液型(B型)と異なるとする鑑定結果(本田三次鑑定)
 
<主張> 
Tの目撃供述(A①):
目撃実験結果と比較してT供述が詳細に過ぎ、結果を既に知っていた捜査官による誘導があった

本人所有の車のシートにあった血痕と尿痕(A③):
血痕や尿痕は他の機会に付着した可能性
血痕の血液型やGc型のDNA型はその種類の少なさに照らして犯人特定の手段にはならない

被害者の衣服に付着していた繊維と染料の鑑定結果(A④):
問題の繊維の原糸は本人所有車両以外にも他車・他種の車両のシートに広く使われており、また繊維の線量配合比のスペクトラム分析に誤りがある

被害者の膣内部およびその周辺から採取された血液の血液型の鑑定結果(A⑤):
資料採取の方法及びその鑑定方法の科学性に問題があり、血液型を本人と同型のB型とした点は誤りで、採取された血液の型は本田三次鑑定のようにAB型
本人の亀頭包皮炎は当時治癒していた
 
<判断> 
●無罪方向の証拠に対する判断
 
B①について::
犯人のDNAが壊れていた可能性や検出感度の差によってそのような結果になったとも考えられる。

B②について:
本田二次鑑定が真犯人の型という××型は、エキストラバンド(電気泳動時に生じる虚像)であり、真犯人の型ではない。
足利事件と異なり、現場資料の再鑑定が実施できない本件では、本田二次鑑定を前提としても、犯人と本人のMCT118型が一致したと認めることはできないが、逆に一致しないとも認めることもできない

B③について:
対象資料が少なかったために検出できなかった可能性がある

B④について:
A型とB型との反応に強弱が認められる⇒資料(真犯人)の血液型はAB型ではない。


これらの情況事実は、いずれも単独では事件本人を犯人と断定することができるものではないが、それぞれ独立した証拠によって認められ、事件本人が犯人であることが重層的に絞り込まれている
事件本人以外に、こうした事実関係のすべてを説明できる者が存在する可能性は抽象的なものにとどまると考えられ、事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がなされていると認められる。 
 
<解説>
情況証拠によって認定される情況事実の証明の程度については、その各々について合理的な疑いを超えた証明が必要であるとするのが通説。
白鳥決定(最高裁昭和50.5.20)を前提とすれば、その理は通常審と再審とで異ならない。 

本件:
各積極的情況事実の立証に関してそれぞれ請求人側からこれを弾劾する主張と証拠が提出されている。
本決定が「合理的な疑いを超えた高度の立証」という文言を使っているのは、その末尾における総合評価の場面だけであり、そこに動員された情況事実の証明度に関しては、請求人側の主張を排斥するに止まり、その証明程度については明言されていない

本決定は、提出された消極的な情況証拠について、他の解釈を容れる可能性があるとしてこれらを排斥。
but
「疑わしきは被告人の利益に」という原則との関係で、これら消極的情況事実の立証の程度が問題に。
総合評価の際には、これらの消極的情況事実がそれぞれ独立して重層的に存在している状況も考慮される必要。

判例時報2396

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