虚偽内容の供述調書により捜索差押許可状取得⇒違法収集証拠排除により無罪
横浜地裁H28.12.12
<争点>
①違法収集証拠による証拠の排除の可否
②被告人の大麻の所持の認識の有無
<規定>
憲法 第35条〔住居侵入・捜索・押収に対する保障〕
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
②捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
刑訴法 第218条〔令状による差押え・捜索・記録命令付捜索・検証・身体検査、通信回線接続記録の複写等〕
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
<判断>
捜索差押許可状の発付に当たって、参考人の虚偽の供述調書が疎明資料
参考人の了解を得て、虚偽の供述内容を付け加えて書面にした。
①他人の刑事事件に関する証拠を偽造した罪(刑法104条)に当たりうるもの。
警察官は、地方公務員法違反罪のほか、虚偽調書を作成して裁判官に捜索差押許可状を請求して使用したという証拠隠滅罪(刑法104条)により、略式起訴され、罰金50万円の略式命令で確定。
②警察官は、捜索差押許可状の発付の可否の審査という刑事司法作用を誤らせる意図で虚偽調書を主導的に作成した上、捜索差押許可状請求の疎明資料として提出資料として提出して使用し、公判においても、虚偽調書の作成や使用の事実を隠して捜索押収手続には問題がないような証言⇒令状主義を潜脱する強い意図 ⇒
違法行為に至った経緯や態様、違法の重大性、令状主義を潜脱する意図の強さも考慮すると、捜索押収手続の違法性の程度は、憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法 ⇒捜索押収手続によって得られた証拠を、刑訴法317条の事実認定に供する「証拠」として許容することは将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない。
違法収集証拠として排除すべき証拠の範囲:
捜索押収手続によって発見、押収された大麻のみならず、
大麻等の捜索差押調書抄本、鑑定嘱託書謄本、鑑定書、大麻の所持に基づく現行犯人逮捕手続書抄本、捜索差押許可状を執行している状況を写真撮影し又はその写しを作成した捜査報告書、大麻予試験実験結果報告書抄本などの取調べ済みの各証拠も、
捜索押収手続及び捜索押収手続によって発見、押収された大麻と一体性を有する証拠として、
弁護人の同意や異議の有無にかかわらず、職権で、
本件公訴事実を認定するための証拠から排除。
<解説>
●他人の刑事事件に関し、被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べを受けた際、虚偽の供述⇒刑法104条の罪に当たるものではない。
but
他人の刑事事件について警察官と相談しながら虚偽の供述内容を創作するなどして供述調書を作成した場合には証拠偽造罪に当たる(最高裁H28.3.31)。
●排除される証拠の範囲:
最高裁H15.2.14:
「密接な関連を有する証拠」
本判決:
より簡潔に、「一体性 を有する証拠」も排除するのが相当。
弁護人が、審理の当初、本件の大麻や関係する書証について、証拠意見として、
「異議なし」「同意」の意見。
~
本判決:
上記の証拠意見は、重要な部分の錯誤に基づくものであり、しかも、弁護人に帰責事由は見当たらない⇒これを無効とするのが相当。
福岡高裁H7.8.30:
原審において、被告人が、差押調書及び鑑定書の取調べに同意し、覚せい剤の取調べに異議なしの意見を述べていることについては、
①その前提となる捜索差押えに、当事者が放棄することを許さない憲法上の権利の侵害を伴う、前叙の重大な違法が存在
②このような場合に右同意等によって右各証拠を証拠として許容することは、手続の基本的公正に反する
⇒
右同意書があっても右各証拠が証拠能力を取得することはない。
判例時報2392
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