少年を第一種少年院に送致した原決定の処分が不当とされた事案
東京高裁H30.1.19
<事案>
少年(審判時16歳)が、
①家出や無断外泊を繰り返しながら、家族の金銭や神社のさい銭を盗む行為を繰り返しているものであって、保護者の正当な監護に服しない性癖があり、正当な理由がなく家庭に寄り付かない⇒このまま放置すれば、その正確に照らし、将来窃盗等の罪を犯すおそれがあるという、ぐ犯の事実
②自宅において、被害女児に対し、同人の性器に指を入れ、もって13歳未満の女子にわいせつな行為をしたという、強制わいせつの事実
<解説>
少年の要保護性について:
A:犯罪的危険性ないし累非行性、矯正可能性及び保護相当性の3要素で構成(通説)
B: 人格的性情としていの非行と環境的要因の保護欠如性を要保護性と捉え、これとは異なる処分決定上の概念として、保護処分相当性、刑事処分相当性、福祉処分相当性、不処分相当性を考える立場
いずれにしても、要保護性の有無、程度の判断において、非行事実の内容、少年の性格・行状、保護環境といった複合的な要素を考慮する必要があることについては、概ね異論がない。
<原審>
非行事実の重大性や非行性の程度について特段の説示をしておらず、
主として、少年の養父及び実母による監護が適切でなく、養父と少年との関係が極めて悪化した状態にあり、その改善が見込めないといった保護環境の問題を考慮し、社会内処遇による更生が期待できないと判断
⇒少年院送致の処分を選択。
<判断>
本件の非行事実はさほど悪質なものでなく、少年の非行性が特に深化しているともいえないとの判断
従前の保護環境に深刻な問題があることについては原決定の指摘を是認
本件で観護措置がとられるまで少年が祖父母方に預けられ、落ち着いた生活を送っていたこと等
⇒
直ちに少年院送致を選択するのは早計であって、
前記祖父母方等、従前と異なる保護環境における社会内処遇の可能性について、試験観察に付することを含め、十分に検討する必要。
<解説>
少年の保護環境に深刻な問題があり、その改善が認められないような場合には、少年を不良な環境からいったん切り離して環境調整を行ったり、劣悪な環境を乗り越えられる力を身に付けさせるような指導や働き掛けを行ったりすることが、少年の再非行防止のために必要となることもあり、
非行事実が比較的軽微であったり、非行性がそれほど深まっていない少年に対して、保護環境の問題を重視して少年院送致を選択するという判断も、事案によっては十分にあり得る。
but
①保護環境の問題自体は、多くの場合、少年自身にはどうすることもできない部分があり、少年院における矯正教育によって改善し得るものとは限らない。
②少年の性格や行状に深刻な問題があるとしても、それが保護環境に起因するものである場合には、少年院における矯正教育を行うことが、必ずしも問題の改善に資するとはいえない。
⇒このような観点からは、保護環境の問題を重視して少年院送致を選択することには慎重であるべき。
⇒
まずは、保護環境を改善することによって少年の更生を図る余地がないかどうかを十分に検討する必要がある。
判例時報2396
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