所持品検査として違法⇒違法収集証拠排除⇒(覚せい剤事犯で)無罪
東京高裁H30.3.2
<事案>
職務質問を受けていた被告人が、持っていたバッグを約5メートル先にいた知人に渡そうとして投げたが地面に落ちた⇒警察官が拾い上げて承諾なく開披し、覚せい剤を取り出し、写真撮影等をした。
<原判決>
有罪
警察官が被告人を制止し留め置くなどした行為は適法。
but
バッグを開披して内容物を取り出し写真撮影した行為は、所持品検査として許容される程度を超えた捜索⇒違法
but
①バッグに対するプライバシー保護の必要性は相当程度低下
②所持品検査の必要性、緊急性が高かった
③警察官らに令状主義を潜脱する意図があったと認められない
⇒
証拠能力を肯定
<判断>
①被告人がバッグを投げたのは、警察官らに取り囲まれて行動の自由が制約される状況において、バッグを警察官らに渡したくなかったから⇒時間的・場所的近接性からしても、プライバシー保護の必要性が低下したとは評価できない。
②警察官らにおいては、薬物事犯ではなく何らかの犯罪に関わる物品等が在中している限度の疑いしかないし、バッグが持ち去られるなどの危険性は高くない⇒所持品検査の必要性、緊急性は高くなかった
③被告人の承諾を得ようともsえず、しかも全ての内容物を取り出し写真撮影までしている⇒令状なしに捜索することが許される場合でないことは容易に判断できた⇒警察官らに令状主義潜脱の意思があった。
⇒
違法の程度は重大であるとして、違法収集証拠排除法則を適用し、証拠能力を否定。
<解説>
●所持品検査の許容性と限界
所持品検査:
最高裁昭和53.6.20以来、
警職法2条1項の職務質問に附随する行為として許容され、捜索に至らない程度であれば、必要性、緊急性、害される個人的法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、相当な範囲で許容される。
●違法収集証拠排除法則に関する最高裁判例の流れ
最高裁昭和53.9.7:
①令状主義の精神を没却するような重大な違法
②証拠として許容とすることが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない
という要件のもとに証拠能力を否定するとの一般論。
but
具体的事案の解決としては、
所持品検査の違法は重大でない⇒証拠能力を肯定。
その後も、所持品検査は違法としながら、その違法は重大でないとして、証拠能力を肯定する最高裁の死裁判例。
最高裁H21.9.28:
荷物のエックス線検査が違法
but
違法は重大でなく、証拠能力を肯定。
最高裁の裁判例で、違法収集証拠排除法則を提供して証拠能力を否定したもの:
最高裁H25.2.14(逮捕状不呈示)
最高裁H29.3.15(GPS捜査)
●最近の違法収集証拠排除法則の適用状況
職務質問中の留め置き等の違法性を認めながら、その違法の程度は重大でないとして証拠能力を肯定した裁判例と
違法の重大性を認めて証拠能力の否定にまで至った裁判例
がある。
●本判決の特徴・位置づけ
所持品検査が適法であるためには、まず「捜索」でないことが必要。
平成20年代以降、裁判所において違法収集証拠排除法則を適用して証拠能力を否定する方向への変化。
判例時報2393
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