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2019年4月

2019年4月30日 (火)

休日に地域の防災訓練に参加するための移動中、担任する児童宅の犬に咬まれた災害と公務遂行性(肯定)

東京高裁H30.2.28       
 
<事案>
小学校教諭が休日に地域の防災訓練に参加するための移動中、担任する児童宅に忘れ物と届けた⇒飼育されている犬に咬まれて傷害を負った。
 
<争点>
本件災害が「公務」遂行中に起きたか否か。
 
<原審>
本件訪問行為それ自体は、そもそも地方公務員災害補償法1条所定の「公務」には当たらない
②本件防災訓練への参加には「公務」遂行性を認める余地はあるものの、本件訪問行為は「出勤又は退勤の途上にある場合(合理的な経路若しくは方法によらない場合又は遅刻若しくは早退の状態にある場合を除く。)」には当たらない

本件災害は「公務上の災害」には該当しない。 
 
<判断>
公務遂行性の要件に関しては認定基準が設けられており、その1つに、「勤務を要しない日及びこれに相当する日に特に勤務することを命ぜられた場合の出勤又は退勤の途上にある場合(合理的な経路若しくは方法によらない場合又は遅刻若しくは早退の状態にある場合を除く。)」(「本件認定基準」)がある。

本件防災訓練の参加が「特に勤務することを命ぜられた場合」に当たるか否か:
①市教育委員会から、訓練当日は、できるだけ多くの教職員が参加できるようにとの具体的な指導があった
②Xが勤務するA小学校の職員会議で、本件防災訓練は学校をあげて取り組むべき行事と位置づけられていた
③本件防災訓練に参加した教員に対しては代休取得の措置まで講じられた
④A小学校の各教員は、本件防災訓練に参加した児童の人数を教頭に報告することまで求められていたこと等

各教員が本件防災訓練に不参加を申し出ることは事実上困難な状況にあった。
本件防災訓練への参加は、校長の黙示的な職務命令に基づき行われたとみるのが自然「特に勤務することを命ぜられた場合」に当たる

本件訪問行為が「出勤・・・の途上にある場合(合理的な経路若しくは方法によらない場合・・・を除く。)」に該当するか否か
①Xは、本件児童に対して、忘れ物を届けるついでに、本件防災訓練への参加を呼び掛ける目的で、その経路沿いにある本件児童宅を訪れたというものであり、その訪問に要する時間も数分程度であったものと推認。
②本件防災訓練への参加は、A小学校の児童も参加が予定されていた。
と認定。

本件訪問行為は
本件防災訓練への参加・移動(通勤)という通勤目的と無関係な目的で行われたものではない
本件通勤経路(合理的な経路)からの逸脱はない

「出勤・・・の途上にある場合(合理的な経路若しくは方法によらない場合・・・を除く。)」に該当する。

本件認定基準所定の要件を満たし公務遂行性が認められる
 
<解説>
「公務上の災害」に当たるというためには、①公務遂行性②公務起因性の2要件を満たす必要があるところ、本件は①公務遂行性の存否が問題。 
本判決は、公務遂行性について、最高裁昭和59.5.29の示した規範に依拠して、
任命権者の支配管理下にある状態において当該災害が発生したこと」であると判示。

最高裁H28.7.8が、労働者が、業務を一時中断して事業場外で行われた中国人研修生の歓送迎会に途中から参加した後、当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に、研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡した事案について、(業務)遂行性を肯定:
労働者は、事業主の所有する自動車を運転して研修生をその住居まで送っていたところ、研修生を送ることは、歓送迎会の開催に当たり、上司により行われることが予定されていたものであり、その経路は、事業場に戻る経路から大きく逸脱するものではなかった

判例時報2396

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2019年4月29日 (月)

東日本大震災に伴う津波による死亡と国賠請求(否定)

仙台地裁H30.3.30      
 
<事案>
東日本大震災に伴う津波によって死亡したA、B、C、Dの相続人であるXらが、Y市(宮城県名取市)に対し、Aらが津波により死亡したのは、Y市が広報車による避難指示の伝達等のY市地域防災計画に定められた情報提供等を行わなかったこと及びY市が設置していた公の営造物である防災行政無線システム(「本件防災無線」)が地震によって故障し、音声が伝わらなかったことによる⇒国賠法1条1項及び2条1項に基づく損害賠償請求 
 
<争点>
①Y市が、地震発生後、津波到達前に、Y市地域防災計画に定められている広報車による津波予報の伝達、公民館を通じた津波予報の伝達、本件防災無線による広報を行わなかったことの違法性
②本件防災無線が、地震発生時に同無線の親機内部に混入した異物により短絡を起こして故障したこと等につき、営造物の設置又は管理に瑕疵があったといえるか 
 
<判断> 
●争点① 
災害対策基本法及び同法に基づいて策定されたY市地域防災計画の定め⇒Y市長は、津波警報等が発表された場合、避難指示を発令して非難広報を実施する権限及び津波警報を沿岸住民に伝達する権限を有しており、同権限の行使は市長の合理的裁量に委ねられている

権限を行使しなかったことが直ちに国賠法1条1項の適用上違法と評価されるものではなく、その権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限り、違法と評価される

①Y市の職員が大津波警報の発令を知ったのは、津波到達時刻の直前であり、広報車を出す時間的余裕がなかった
②公民館においても、避難者の対応に追われ、無線で連絡を取ることが不可能な状況にあった
③消防署及び消防団が、地震直後から津波襲来まで、津波警報の発令を伝え、非難広報を行っていた

Y市長が広報車による伝達、公民館を通じた伝達を行わなかったことにつき、許容限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない

津波到来までに修理をしたり、他の手段で放送を行うことは不可能⇒防災無線による放送が行われなかったことにつき、許容限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。
 
●争点② 
国賠法2条1項による営造物の設置又は管理の瑕疵とは、
営造物が通常有すべき安全性の欠如をいい、
安全性の欠如とは、当該営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合も含み
また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解すべきとの判例法理。

防災無線の故障自体が直接第三者に危害を及ぼすものではないが、供用目的に沿って利用しようとしても、それが正常に作動しないことによって利用できないことに関連して第三者に危害を生ぜしめる危険性が認められる場合も、
「営造物を供用目的に沿って利用することとの関連において危害を生じさせる危険性がある場合」に当たる。

本件防災無線には、災害時に使用されるものとしての物理的構造的な問題がないとはいえない
but
親機内部に異物が混入し、短絡が生じる確率は相当低く、様々な要因が重なって故障が生じたもので、Y市がこれを予見することは困難

本件防災無線が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえない

判例時報2396

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2019年4月28日 (日)

子と施設(老人ホーム)に入居する両親との面会の妨害を禁止する仮処分決定

横浜地裁H30.7.20      
 
<事案>
認知症で老人ホームに入居している父A及び母Bの長女Xが、長男YにXとA及びBとの面会を妨害されていると主張人格権を被保全権利として、老人ホームとYを相手方とし、XががA及びBと面会することを妨害してはならないとの仮処分命令を申し立てた。
仮処分決定⇒異議申立てをし、仮処分決定の取消しを求めた。
 
<判断>
(1)Xは、A及びBの子であるところ、A及びBはいずれも高齢で要介護状態にあり、アルツハイマー型認知症を患っている

子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、Xは両親に面会する権利を有する

(2)
①両親が施設に入居するに当たりYが関与していること、YがXに両親が入居している施設名を明らかにしないための措置をとったこと、Xが家庭裁判所に親族間の紛争調整調停を申し立てても、Yは、両親の所在を明らかにせず、調停への出頭を拒否したこと、本件審尋期日においても、Yは、Xと両親が面会することについて協力しない旨の意思を示していることなど
Yの意向が両親の入居している施設等の行為に影響し、Xが両親に面会できない状態にあるものといえる

②Yの従前からの態度⇒前記のような状況が改善する可能性は乏しいものと言え、今後も、Yの妨害行為によりXの面会交流する権利が侵害されるおそれがある。
本件仮処分命令申立ては理由があるとし、これを認容した原決定を認可。
 
<解説>
人格権が保護される究極の法的根拠は、憲法13条による幸福追求権に求められるが、民法上、人格権の侵害は不法行為となると認められている。(民法709条、710条) 

通説・判例:
人格権が排他性を有する物権類似の絶対権ないし支配権⇒端的に、侵害される人格権自体に基づく妨害排除ないし予防請求権としての差止請求権を認めている。

判例時報2396

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2019年4月27日 (土)

否認権保全のための処分禁止の仮処分決定が取り消された事案

大阪地裁H29.11.29      
 
<事案>
否認権のための保全処分が認められているときに、法171条3項により保全処分を取り消すことができるか否かが問題となった事案。 

Q2は、本件不動産を所有。
平成28年3月22日に、妻であるQ1に対し本件不動産の持分10分の1を同日付で売却したことを原因として所有権の一部移転登記手続をし、
さらに、同年4月13日に、A社に対し本件不動産の持分10分の9(「本件持分」)を同日付で売却したことを原因として持分全部移転登記手続。
X社は、平成29年4月6日、Q2、Q1、A社との間で、同人らを共同売主として、本件不動産を3800万円で購入し、これに基づき、同日付けで共有者全員持分全部移転登記を経た。

Yは、同年6月12日、YがA社に対し3億8889万円の連帯保証債務の履行請求権を有しており、A社は債務超過の状態にあるなどと主張して、裁判所に破産開始の申立て⇒A社は保証契約の締結を否認するなどして争っている。
Yは、同年6月20日、A社からX社への本件持分の移転は、法160条1項1号に基づく否認権の対象になる⇒法171条1項に基づき本件持分の処分禁止の保全処分を申し立てた
⇒裁判所は、Yの申立てを相当と認め、Yに対し、120万円の担保を立てさせた上で、本件持分の処分禁止の仮処分決定
⇒X社は、同年8月10日、裁判所に、主位的に原決定の取消しを、予備的に増担保を求める本件申立てをした。
 
<規定>
破産法 第一七一条(否認権のための保全処分)
裁判所は、破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間において、否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより又は職権で、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

2前項の規定による保全処分は、担保を立てさせて、又は立てさせないで命ずることができる。

3裁判所は、申立てにより又は職権で、第一項の規定による保全処分を変更し、又は取り消すことができる。

破産法 第160条(破産債権者を害する行為の否認) 
次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。

破産法 第161条(相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)
破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分(以下この条並びに第百六十八条第二項及び第三項において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
 
<判断> 
●X社とA社との間における3800万円を対価とする本件持分の移転が、否認権の対象となる行為に該当するか?
法161条による適正価格売買に関する詐害行為の否認は、法160条の特則⇒破産者(A社)が不動産を売却したときに相当な対価を得たかどうかが先決問題。
本件不動産についての7192万8000円との査定、賃借人(パチンコ店)に返還すべき保証金額は2960万円で上記査定に反映されていない⇒3800万円は適正価格。
 
●法161条1項3号によれば、相当な対価を得た取引を否認するためには、「相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと」が必要。 
①X社は、本件不動産の契約締結当時、A社が債務超過に陥っていることや多額の債務を追っていることを認識していたと認めるに足りる証拠がない
②本件不動産の売買では、A社にR2弁護士が付いているところ、R2弁護士は、X社に対し、責任をもって本件不動産の売却について進めていくと説明

X社は、本件不動産の売買によって、A社の債権者を害するおそれがあることを認識していたものとはいい難いとして、X社の悪意を否定

171条3項に基づき、原決定を取り消した。
 
<解説>
債務者が開始決定前にその財産を受益者に詐欺的に譲渡したとすれば、開始決定後に破産管財人は、受益者を相手方として否認権を行使し、目的物を破産財団に取り戻す。
受益者が目的物を他の者に転々譲渡した場合には、破産管財人は、転得者に対する否認権を行使。
but
転得者に対する否認はその要件が厳格
⇒否認権行使の実効性を維持するためには、目的物が受益者から第三者に転々譲渡されることを防ぐ必要がある。

破産法171条で否認権のための保全処分ができることが明記。 

判例時報2396

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執行債務者が(売却許可決定前に)相続放棄した場合に強制競売手続による剰余金を交付されるべき「債務者」が争われた事案

東京地裁H29.9.27      
 
<事案>
亡Aの債務を連帯保証したBは、亡Aの法定相続人3名(配偶者C、子D及びX)に対して、保証債務履行による求償金支払請求訴訟についての仮執行宣言付き請求認容判決を債務名義として、C、D及びXの共有名義であった建物に対する強制競売の申立て
⇒債権及び執行費用の額を上回る価額により売却許可決定がなされ、買受人が代金全額を払い込んだことから剰余金が生じ、弁済金及び剰余金交付手続きを経て、同剰余金相当額については本件建物の登記名義上の持分割合(C:2分の1、D及びX:各4分の1)に従って、C、D及びXをそれぞれ被供託者とする供託。 

XがY(国)に対し、本件建物に係る前記売却許可決定よりも前にDがした相続放棄の申述が受理され、亡Aに係る相続により法定相続人3名の共有名義とされた本件建物は、X及びCの共有(持分各2分の1)であったことになる⇒前記剰余金に係る請求権もX及びCに同様の割合で帰属していたというべきである
本件建物の売却に係る売買代金支払請求権又は不当利得返還請求権に基づき、Dを被供託者とする供託金相当額等の支払を求めた事案。
 
<規定>
民執法 第84条(売却代金の配当等の実施)
執行裁判所は、代金の納付があつた場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。
2 債権者が一人である場合又は債権者が二人以上であつて売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、執行裁判所は、売却代金の交付計算書を作成して、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する。
 
<争点>
民執法84条2項:
強制競売手続において、売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、執行裁判所は、各債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付すると規定。

共同相続人である債務者らのうちDが本件建物の売却許可決定よりも前に相続放棄の申述をして、これが受理⇒Dの持分部分(「本件持分部分」)に対する剰余金を受ける権利を有する「債務者」は、Dであるか、あるいは、実体法上Dの相続放棄により法定相続物が2分の1となるX(民法939条、900条1号)であるか?
 
<判断>
●民執法84条2項にいう「債務者」 とは、当該執行手続における執行債務者又はその一般承継人を指すとし、
能率的かつ迅速な権利の実現を図るという執行手続の目的と性質
⇒執行機関からは慎重・公平な権利の判定という判断作用の負担をできる限り取り除き、執行に専念し得るようにすることが要請されている。

不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分は、債権者の主張、登記簿の記載その他記録に現れた権利関係の外形に依拠して行われるもの(最高裁昭和57.2.23参照)。

執行裁判所においては、、権利関係の外形と実体的権利関係との不適合が、民執法が用意している請求異議の訴え、第三者異議の訴え等の救済手続や、執行抗告、執行異議といった不服申立てにより是正されない場合は、権利関係の外形のみに基づいて執行手続の適法性を判断すべきものと解され、
これらの救済手続等に伴う執行停止の手続等が執られない限りは、そのような権利関係の外形に依拠して執行手続を進行させるべきことが要請されているものというべき。

●本件では、
求償金支払請求訴訟に先立つ仮差押申立事件において、本件建物につき本件持分部分(4分の1)をD名義とする所有権移転登記がされた上で、
①Dを債務者とする仮差押えの執行として本件持分部分に対する仮差押えの登記がされていること、
②本件強制競売手続も、これを前提として、Dら3名を債務者とする執行正本に従って前記仮差押申立事件に係る各仮差押えの本執行への移行として、本件建物についての競売開始決定がなされたものであって、記録上、本件建物についての本件持分部分が執行債務者であるDの責任財産であるとの権利関係の外形が表れていたこと、
③そのよな外形が本件強制競売手続上是正され、あるいは第三者異議の訴え等の救済手続等に伴う執行停止等の手続が執られた事実は認められないこと

本件強制競売手続において民執法84条2項の「債務者」として本件請求に係る剰余金を交付されるべき者は、前記仮差押えの執行当時本件持分部分の責任主体として執行当事者とされたDであるというべき。 

●本件強制競売手続においては、競売開始決定後、債権者法定代理人(成年後見人)より東京家庭裁判所家事訟廷管理官作成に係る「相続放棄等に関する回答書」が執行裁判所に送付されており、同回答書において、Dについて相続放棄の申述が受理された旨が記載。
but
本判決:
家庭裁判所による相続放棄の申述の受理審判は、形式的な申述があったこと公証行為にとどまり、相続放棄の効力の有無を終局的に確定させるものではない
⇒執行裁判所においては、執行債務者による相続放棄の申述が受理されたことを認識したとしても、その外形から同申述に係る相続放棄が有効なものと判断することはできないものであって、第三者異議の訴え等の救済手続においてその有効性が確定されない限り、執行手続上、かかる事実を考慮すべきものということはできない
 ⇒
C及びXから前記相続放棄の申述が有効であることを前提とする第三者異議の訴えが提起されるなどしたとは認められない等の事情を考慮すれば、民執法84条2項の「債務者」として本件請求に係る剰余金を交付されるべき者がXであるとはいえない

判例時報2369

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2019年4月25日 (木)

生活保護法63条に基づく保護費の返還決定についての、処分取消請求(否定)

東京地裁H29.9.21       
 
<事案>
生活保護法に基づく保護の開始決定を受け、保護費を受給⇒その受給期間において就労による収入及び失業手当受給の事実が認められたため、保護費の過払いが生じた⇒支給済みの保護費の一部について処分行政庁から同法63条に基づく保護費の返還決定
⇒本件処分には、返還額の決定にあたり考慮すべき事由を考慮しない違法医療扶助部分の返還の違法(説明義務違反及び利得の不存在)Xの資力の検討をしなかった違法並びに理由の提示の不備の違法があると主張して、本件処分の取消しを求めた
 
<規定>
生活保護法 第六三条(費用返還義務)
被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

行政手続法 第一四条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

2行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
3不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。
 
<主張>
①前記収入を派遣社員としての稼働期間中の宿泊費、生活福祉資金貸付制度に基づく総合支援資金の償還、住宅の滞納賃料の返済、パソコン等の購入代金に充てた⇒返還額の算定に当たって、これらは必要経費として控除し、又は自立更生のためにやむを得ない用途に充てられたものであって、かつ、地域住民との均衡を考慮して社会通念上容認されるものとして、自立更生免除として返還を免除すべき。
②Xは、生活保護法63条によって医療扶助の全額相当額を返還すべき場合があることについて何らの説明も受けていない⇒このことはXの自立の助長を阻害する違法なもの。
生活保護を受給していなかった場合、Xが自ら支払うべきであった金額は健康保険等を利用した場合に患者が負担すべき金額である医療費の3割相当⇒同額を超える算定は違法
③処分行政庁は、本件処分jに際し、Xの資力がどの程度あるかについて検討すべき。
④本件処分の通知書に記載された理由では、どのような事実に基づいてどのような法的理由によって本件処分が行われたのかXにおいて十分認識し得る程度とはいえない⇒本件処分は理由の提示に不備があり、違法。
 
<判断> 

生活保護法63条に基づく返還額の決定に当たっては、被保護者の資産や収入の状況及び地域の実情等を踏まえた個別具体的かつ技術的な判断を要する
⇒返還額の決定は、被保護者の資産の状況等につき調査等の権限を有する保護の実施機関(同機関から保護の決定・実施に関する事務について権限の委任を受けた行政庁を含む。)の合理的な裁量に委ねられている。

返還額の決定が違法となるのは、その返還額に係る判断が生活保護法の目的に照らして著しく妥当性を欠き又は判断の基礎となる事実を欠くなどして、保護の実施機関に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる場合に限られる。 

生活保護法63条に基づく費用の返還については、
原則として、資力の限度において本来受ける必要がなかった支給済みの保護費の全額を返還対象とした上、
全額を返還対象とすることによって当該被保護世帯の自立を著しく阻害すると認められる場合は、一定の額を返還額から控除することができるものとすることが相当。
 

主張①について:
いずれも、必要経費として控除すべき費用ではなく、また自立更生のためのやむを得ない用途に充てられたものともいえない。 
 
主張②について:
本件保護開始時に処分行政庁はXに対して必要な説明を尽くした
生活保護法により保護を受けている世帯に属する者(X)は国民健康保険の被保険者になることはできず、健康保険を利用することができない医療費について健康保険の自己負担分3割のみが利得であるとはいえず、現実に医療扶助を受けた10割相当分を利得
 
主張③について:
生活保護費が過払いとなったにもかかわらず被保護者がこれを費消したために返還の対象とならないものとすると、本来受給することができなかった金員を受給することができなかった金員を受給することを認めることとなり、不合理。

処分行政庁の返還額に係る判断が、保護の実施機関に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められない。
 
主張④について:
①本件処分は不利益処分であり行手法14条1項本文によりその理由を示す必要がある。
本件処分に係る通知書の記載は、処分行政庁が就労による収入及び失業手当を「資力」(生活保護法63条)と認定して生活保護法63条を適用し、これら収入及び失業手当相当額の保護費について本件処分を行ったことをXが了知し得るもの
⇒行手法14条1項本文の理由の提示として欠けるところはない。

判例時報2396

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2019年4月24日 (水)

教職員の再任用職員等の選考についての裁量違反(否定)

最高裁H30.7.19      
 
<事案>
定年等により退職した東京都立高等学校の教職員が、その退職に当たり、東京都公立学校の再任用職員等の採用候補者選考に不合格となり、又はその合格が取り消されたことにつき、東京都教育委員会の裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるなどとして、Y(東京都)に対し、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた。
 
<原審>
一部認容。 
 
<判断>
①再任用制度等が定年等により一旦退職した職員を新たに採用するものであること等⇒その採用候補者選考の合否の判断に際しての従前の勤務成績の評価については、基本的に任命権者の裁量に委ねられている
②少なくとも本件不合格等の当時、再任用職員等として採用されることを希望する者が原則として全員採用されるという運用が確立していたということはできないこと等

再任用制度等において任命権者が有する前記の裁量権の範囲が、再任用制度等の目的や当時の運用状況等のゆえに大きく制約されるものであったと解することはできない

①本件職務命令の趣旨、目的に照らし、その遵守を確保する必要性がある、
②本件職務命令に違反する行為は、学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらすものであって、それにより式典に参列する生徒への影響も伴うことは否定し難い
③Xらが本件職務命令に違反してから不合格等に至るまでの期間が長期に及んでいないこと等

任命権者である都教委が、再任用職員等の採用候補者選考に当たり、従前の勤務成績の内容として本件職務命令に違反したことをXらに不利益に考慮し、これを他の個別事情のいかんにかかわらず特に重視すべき要素であると評価し、そのような評価に基づいて本件不合格等の判断をすることが、その当時の再任制度等の下において、著しく合理性を欠くものであったということはできない

本件不合格等が都教委の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえないと判断し、Xらの請求をいずれも棄却すべきものとした。
 
<解説> 
●定年等により退職した東京都の教職員に係る再任用等の制度:
①地公法上の制度である再任用制度
②東京都独自の制度である再雇用制度及び非常勤教員制度 
いずれの制度についても、高年齢者の生活の安定等をその趣旨として含む

再任用制度等における採用については、新規採用の場合とは異なり、任命権者の裁量権の範囲には制約があるとの見解も考えられる
but
一般に、公務員の任用については、成績に応じた平等な取扱いをすることが求められる一方で(地公法13条、15条参照)、
任用すべき職種や人数、採用に当たっての判断基準を定めること等は内部事情に通暁した任命権者に委ねざるを得ない

任命権者にそのような観点からの裁量があることについては異論がない。
この点は再任用制度等においても同様。
 
●本件不合格等は、Xらに個別の事情としては本件職務命令に違反したことのみを理由としたものであることろ、本判決は、都教委が、これを他の個別事情のいかんにかかわらず特に重視すべき要素であると評価し、そのような評価に基づいて本件不合格等の判断をすることについて、裁量権を逸脱又は濫用したものではないと判断。 

公立の高等学校又は養護学校の教職員が卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を命ずる旨の職務命令に違反したことを理由とする懲戒処分の適否に係る最高裁H24.1.16:
当該職務命令の違反に対し、懲戒処分の中で最も軽い戒告処分をすることは、学校の規律や秩序の保持等の見地からその相当性が基礎付けられるものであること等⇒基本的に懲戒権者の裁量権の範囲内に属する旨を判示。

判例時報2396

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2019年4月23日 (火)

少年を第一種少年院に送致した原決定の処分が不当とされた事案

東京高裁H30.1.19      
 
<事案>
少年(審判時16歳)が、
①家出や無断外泊を繰り返しながら、家族の金銭や神社のさい銭を盗む行為を繰り返しているものであって、保護者の正当な監護に服しない性癖があり、正当な理由がなく家庭に寄り付かない⇒このまま放置すれば、その正確に照らし、将来窃盗等の罪を犯すおそれがあるという、ぐ犯の事実
②自宅において、被害女児に対し、同人の性器に指を入れ、もって13歳未満の女子にわいせつな行為をしたという、強制わいせつの事実 
 
<解説>
少年の要保護性について:
A:犯罪的危険性ないし累非行性、矯正可能性及び保護相当性の3要素で構成(通説)
B: 人格的性情としていの非行と環境的要因の保護欠如性を要保護性と捉え、これとは異なる処分決定上の概念として、保護処分相当性、刑事処分相当性、福祉処分相当性、不処分相当性を考える立場
いずれにしても、要保護性の有無、程度の判断において、非行事実の内容、少年の性格・行状、保護環境といった複合的な要素を考慮する必要があることについては、概ね異論がない。
 
<原審>
非行事実の重大性や非行性の程度について特段の説示をしておらず、
主として、少年の養父及び実母による監護が適切でなく、養父と少年との関係が極めて悪化した状態にあり、その改善が見込めないといった保護環境の問題を考慮し、社会内処遇による更生が期待できないと判断
少年院送致の処分を選択。
 
<判断>
本件の非行事実はさほど悪質なものでなく、少年の非行性が特に深化しているともいえないとの判断
従前の保護環境に深刻な問題があることについては原決定の指摘を是認
本件で観護措置がとられるまで少年が祖父母方に預けられ、落ち着いた生活を送っていたこと等

直ちに少年院送致を選択するのは早計であって、
前記祖父母方等、従前と異なる保護環境における社会内処遇の可能性について、試験観察に付することを含め、十分に検討する必要
 
<解説>
少年の保護環境に深刻な問題があり、その改善が認められないような場合には、少年を不良な環境からいったん切り離して環境調整を行ったり、劣悪な環境を乗り越えられる力を身に付けさせるような指導や働き掛けを行ったりすることが、少年の再非行防止のために必要となることもあり、
非行事実が比較的軽微であったり、非行性がそれほど深まっていない少年に対して、保護環境の問題を重視して少年院送致を選択するという判断も、事案によっては十分にあり得る。
but
保護環境の問題自体は、多くの場合、少年自身にはどうすることもできない部分があり、少年院における矯正教育によって改善し得るものとは限らない
②少年の性格や行状に深刻な問題があるとしても、それが保護環境に起因するものである場合には、少年院における矯正教育を行うことが、必ずしも問題の改善に資するとはいえない。
⇒このような観点からは、保護環境の問題を重視して少年院送致を選択することには慎重であるべき

まずは、保護環境を改善することによって少年の更生を図る余地がないかどうかを十分に検討する必要がある。

判例時報2396

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2019年4月21日 (日)

乳幼児の虐待による傷害致死の事案

①大阪地裁H30.3.13
②大阪地裁H30.3.14
③奈良地裁H29.12.21    
 
<事案>
乳幼児の虐待による傷害致死等の事案。
 
<解説・判断> 
◎事件性を巡っては、受傷や死亡が他人の故意行為によるものか、それとも疾病、転倒等の事故あるいは関係者の過失行為によるものかについて、医師の判断や医学的知見がしばしば対立。
近年は、乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)によるとされる死亡・重症事故が多く照会されている。

SBS:
乳幼児の上半身を把持して激しく揺さぶることで、頭部に回転性加速度減速度運動が起こり、脳の中などに損傷が生じて発症するというものであり、
硬膜下血腫、網膜出血及び脳浮腫などの脳実質損傷三兆候によって診断。

頭部等に目立った外傷がなくても、三兆候が認められて、高位からの落下事故や交通事故等の疑いがなければSBSと診断することができ、その原因は他者による暴力的な揺さぶりであると推定するという考え方がある。


①事件:
架橋静脈の剪断によって急性硬膜下血腫等が発生
その原因は成人による激しい揺さぶり行為であると認定

③事件:
頭部に意図的な強い回転性外力が加えられたと認定

②事件:
架橋静脈の破綻によって急性硬膜下血腫が発生したと認めたものの、
その原因としては転倒等の事故も考えられるとした。
 
◎①事件 
急性硬膜下血腫の原因は成人による激しい揺さぶり行為であると認められた。
被害児(生後1か月余り)は、被告人の通報によって救急隊員が到着した頃には心肺停止の状態。
搬送先で撮影されたCT画像には、少量だが複数の急性硬膜下血腫のほか脳浮腫が認められた。
検察官が依拠した小児科医師D1及び法医学者D2の証言等に基づき、
①被害児には急性硬膜下血腫とともに広範囲の一次性脳実質損傷が発生し、後者により心肺停止に陥って脳浮腫が開始
②急性硬膜下血腫は脳の架橋静脈が複数本剪断されたことによるものであり、これに広範囲の一次性脳実質損傷が生じている

成人による激しい揺さぶり行為による回転性外力が脳に加わったことが、これらの傷害の原因である。
傷害発生当時、激しい揺さぶり行為を行うことができたのは被告人のみ
被告人が犯人
 
◎②事件 
死因となった急性硬膜下血腫等の傷害が他者の故意行為によって生じたと認められず、傷害致死につき無罪
急性鼓膜下血腫が発生したのは午後11時頃から翌日の午前零時25分頃の間であり、その間に被告人方にいたのは被告人と被害児(1歳11か月)の2人。

検察官:
この急性硬膜下血腫は、偶発的な事故では生じ得ない相当に強い外力によるもので、他者の故意行為によるものであると主張し、
その根拠として、
①同血腫が最重度であること
②被害児に多数の皮下出血があること

①について、
同血腫の原因は頭部に外力が加わったことによる架橋静脈2本の破綻であることろ、脳神経外科医師D5の証言によれば、架橋静脈が損傷すると出血量が多量になり血腫も広範囲に及ぶ認められる

血腫の大きさや出血量だけで外力の大きさを推測するのは不十分であり、架橋静脈が損傷するための外力の検討が必要

この外力につき、
D5医師の、小児の架橋静脈は脳実質に回転力がかけられると切れやすく、同血腫の原因としては、故意の打撃のほか転倒等の事故も考えられるという証言に信用性を認め、
転倒等の事故によって生じた急性硬膜下血腫による死亡症例が報告されている

偶発的な事故で死亡結果が生じないとは認められない

②について、
頭部の8か所にある皮下出血の全てが偶発的な事故等によるものとは考え難いが、
いずれの皮下出血が急性硬膜下血腫を生じさせた外力によるものかは特定できないので、皮下出血を根拠に他者の故意行為によると認めるためには、皮下出血の相当数が同一機会に生じたこと(さらに被告人の故意行為によるとするには、急性硬膜下血腫の発症時期に生じたこと)が認められる必要があるが、その立証はされていない。
 
◎③事件 
被害児(生後5か月)が他人の故意行為によって死亡したことは認められたが、
被告人の犯人性が認められなかった
死因は急性硬膜化血腫及びびまん性脳実質損傷によ基づく脳浮腫。

解剖医D8ほか2名の医師の証言等

脳に生じたびまん性軸索損傷は日常生活の中で生じ得る事故等によるものではなく、頭部に意図的な強い回転性外力が加えられた結果であり、かつ、
受傷時期は公訴事実に係る犯行当日の午後6時頃から約4時間半の間。

前記受所時期の当時被告人方にいたのは、
被告人、その妻P5、被害児及び1歳8か月の長男

加害行為者は被告人又は妻に限定される状況。

妻:捜査及び公判において、自分が加害行為をしたとことを否定し、被告人が被害児を抱えて前後に揺さぶったのを見たと供述。
被告人:捜査段階では、この日に長女の前頭部を壁に叩き付けたと自白。
but
同判決は、この自白につき、
壁にぶつけたのが後頭部が前額部か、故意かどうかという核心部分で変遷
妻をかばうために虚偽の自白をした、警察官から示された態様のうち壁にぶつけた態様を選び、後頭部に硬膜下血腫があると聞いたので後頭部をぶつけたと述べ、その後、前額部のあざについて聞かれたので前額部をぶつけたと述べたという被告人の供述は排斥できない
自白の内容が妻の供述と整合しておらず、壁の微物のDNA型が被害児とほぼ一致していることも裏付けにならない

その信用性を否定。

妻の目撃供述についても、
致命傷を与えるような態様が供述されていない不明確なものであるし
内容も不自然で信用性がない。

犯人は被告人であって妻ではないことを示す間接事実として検察官が主張する諸点を総合しても、被告人が犯人であるとは認められず、
妻が自らの暴行を否定している点についても、虚偽供述の動機があり、密接に関連する前記目撃供述が信用性に欠けることから信用性が認められない。
⇒被告人の犯人性を否定。
 
●犯人性
犯人性を巡っては、父母など複数の監護者のいずれが犯人であるかの特定が困難であることが少なくない。 
一方の親が単独犯として起訴された場合、他方の親が、自分は虐待行為をしていない、被告人の暴行を目撃したなどと供述していることがある。
but
認定された受傷時間帯によっては、他方の親にも犯行可能性がある
同人の供述の信用性評価には困難を伴う

被告人が捜査段階で自白
but
他方の親をかばう目的や、
近い時期にした軽度の虐待行為が死因となったという思い込みから、
あるいは子どもの死亡による動揺によって、
虚偽の自白をしたという可能性に留意する必要。

積極的間接事実:
被告人の事情として、
①日頃から虐待行為をしていたこと
②被害者を可愛がっていなかったこと
③精神的に不安定であったこと
③犯行後に犯人性を示す言動をしたこと

他方の親の事情として
①被害児を可愛がっており動機がないこと

被告人の犯人性を積極的に示す間接事実が少ないために、犯行可能な人物のうち、被告人以外の者が犯人ではあり得ないという消極法的な認定が用いられた事例もある

判例時報2395

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2019年4月20日 (土)

少年を第一種少年院に送致した決定が相当とされた事案。

東京高裁H29.12.21       
 
<事案>
少年が、元同級生の被害者を脅迫して現金合計2万1500円を脅し取ったという恐喝保護事件⇒第一種少年院送致 
 
<原決定>
①本件非行自体から少年の共感性の乏しさ、自己中心性が指摘できる
②その問題性は少年の成育歴や家庭環境に根差す根深いもの
③本件非行に至るまでの少年の家庭内での行状等
⇒これまでに家庭内にとどまっていた少年の問題性が家庭外に発現したもので、強力な指導が必要。
④少年の保護環境について、両親の教育力や祖父母の監護に期待することもできない

少年の更生のためには、少年を第一種少年院に送致することが相当。
 
<主張>
①本件の被害金額は少額であり、示談が成立
②少年の問題性が発現したのは本件非行だけであり、矯正教育を要するほど根深いものかどうか慎重に判断する必要
③両親は、現に弟を監護養育している祖父母のもとで少年を生活させることを考えており、その監護養育には十分期待できる
④少年には保護処分歴がなく、ひとまず社会内での更生が可能かどうか見極めるべき 
 
<判断> 
①について:
恐喝できそうな相手として被害者に目をつけ、被害者がやくざである先輩の財布をなくしたかのような状況を偽装作出し、その恐怖心をあおって執拗に数十万円もの金員を要求したという経緯等
⇒被害者の心情をまったく無視した支配的な態度が顕著で、本件非行自体から少年の共感性の乏しさ、自己中心性の大きさが見て取れる。

被害金額は少額とはいえない。
本件非行の悪質さ⇒示談成立の点を処遇決定に際して考慮するにも限界がある。

②について:
父親の暴力を避けるために母親が少年を連れて自宅を離れることが多かったという家庭環境の中で、少年が鬱憤の解消方法として暴力的な姿勢を身に付けるなどし、家庭内で支配的に振る舞うことにより分相応な大金を得る経験を重ねた上、支配的な態度を外部に向けるようになり、本件非行に至った

少年の問題性は成育歴や家庭環境に根差した根深いもの

③について:
不登校に陥って祖父母のもとで生活するようになったという弟の監護養育状況と少年の更生に必要な看護体勢を同列に扱うことはできない。

④について:
少年に保護処分歴がないことを踏まえても、
前記の事情
⇒第一種少年院に送致した原決定の処分は相当。 

判例時報2395

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2019年4月17日 (水)

受刑者の監視カメラの付いた単独室への収容の継続が国賠法上違法とされた事例

熊本地裁H30.5.23      
 
<争点>
①保護室収容要件や更新要件(刑事収容法79条)該当性
②処遇部長の発言が侮辱として国賠法上の違法があるといえるか
③カメラ室への収容につき、国賠法上の違法があるといえるか 
 
<判断>
●争点①について、熊本刑務所長らに職務上の義務違反なし。

●争点②について:
熊本刑務所の処遇部長がXに対し、「カスが、死ね。」と発言したとの事実を認定し、
当該発言はかかる表現を向けられた誰もが名誉感情を害されるといい得る強度の侮辱表現⇒国賠法上の違法がある

●争点③について:
職員による巡回を補完する目的で監視カメラが設置された居室をもうけること自体は、刑事収容法に明文がなくても許容される。
but
被収容者に、拘禁感や圧迫感等を強く感じさせる構造及び設備を備えた単独室を居室として指定するに当たっては、保護室への収容要件に準じて、その必要性を慎重に検討することが要請されているというべきであり、
必要性がなくなってにもかかわらず、漫然と当該居室への収容を継続することは刑事施設の長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったものとして、国賠法上違法との評価を受けることになると解するのが相当。
カメラ室収容前後のXの状況⇒Xをカメラ室へ収容したことについては、必要性が認められる。
but
カメラ室収容後、約3か月半が経過した時点においては、職員に対して反抗的な態度をとるなど、刑事施設の正常な管理運営を阻害するような言動に及ぶことがなくなり、Xの動静を厳重に監視する必要性は相当程度低下し、数日の経過観察の後には、Xの動静を厳重に監視する必要性はなくなった。

その後も漫然とカメラ室への収容を継続したことは、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったもので、国賠法上違法
 
<解説> 
平成18年6月に改正された刑事収容法は、監獄法を全面的に改正したもので、その制定過程においては、従前規定が存在しなかった「保護房」への収容の適正さの確保について議論され、刑事収容法においては、「保護室」に関し、その収容要件や手続等が明確に規定。

保護室収容要件や更新要件(刑事収容法79条)の判断について、収容の判断が刑事施設の長の広範な裁量に委ねられているものとはいい難く、
保護室収容の経過等を認定した上で、要件該当性を判断することになる。 

保護室以外の居室については、「被収容者が主として休息及び就寝のために使用する場所として刑事施設の長が指定する室」(刑事収容法4条3項)とされるのみであり、特に注意して視察する必要がある者が想定されること等
被収容者の処遇において重要な位置を占めるともいえる居室の指定は、行刑上の専門家たる刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられていると解すべき。
but
前記制定経緯等

居室指定が常に全くの自由裁量であると解することも適切ではなく、
居室の拘禁感や圧迫感により被収容者の受ける影響は、居室指定に際して大きな考慮要素となり、当該居室への指定の必要性(監視の必要性等)が過度に重視されるような場合には、社会通念に照らし著しく妥当性を欠き、裁量の逸脱濫用となる場合があり得るというべき。
自殺企図や逃亡のおそれが高い場合に比して、粗暴性を理由とする場合には、カメラによる厳重な監視を行う必要性が相対的に低いとの評価から、考慮要素の重み付けを判断。

判例時報2395

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2019年4月16日 (火)

国際的な子の返還請求事案(子の異議により返還を否定した事案)

大阪高裁H28.8.29      
 
<事案>
Xは、平成28年、本件を申し立て、子を常居地国であるフランスに返還するよう求めた。
 
<争点>
①本件留置に同意又は承諾があったか(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律28条1項3号)
②子が、フランスに返還されると心身に実害を及ぼす重大な危険があるか(方28条1項4号)
③子の異議が認められるか(法28条1項5号) 
 
<原審>
子は
①16歳に達しておらず(27条1号)
②日本国内に所在し(2号)
③常居地国であるフランスの法令によると、Xは子を監護する権利を有し、Yによる本件留置がこの権利を侵奪しており(3号)
④本件留置の開始時点でフランスは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の締結国であった(4号)

子の返還事由がある。 

返還拒否事由について
争点①の本件留置の同意・承諾について:
XはYが子と一緒に日本へ帰省することは容認していたが、想定していた滞在期間は、Yの母の葬儀等に要する期間程度であり、これを超えて子が日本に留まることを容認していたと認めるに足りる資料はない
本件留置には同意も承諾も認められない

争点②の重大な危険があるか:
①子がXから暴力等を受けるおそれを認めることはできず、XのYに対する暴行が子の面前でされたと認めるに足りる資料もない
②Xの言動が、子に心裡的外傷を与える暴力等に該当するとまではいうことができない
③Yはフランスに入国すると身柄を拘束されるおそれがあるから子を監護することは困難であるが、Xの飲酒の影響により生活が困難であるとかうつ病にり患していると認めるに足りる資料はない
④Xは公的扶助を受けてうたことはあるが、現在は新たな職につくための研修を受けるなど稼働意欲や能力自体は認められる。

監護者としての適否の問題としてはともかく、Xがフランスにおいて子を監護すること自体が困難であると認めることはできない。

子がフランスにおいて心身に害悪を及ぼす重大な危険も認められない。

争点③の子の異議が認められるか(法28条1項5号):
(1)子の年齢(調査時点で11歳11か月)と陳述態度⇒その意見を考慮し得る程度に成熟している。
(2)フランスに返還されることを拒み、日本で生活したいという意見を述べているが、それは、
両国の生活体験に基づくもので、
その内容な適切な状況理解に基づく具体的なものであり、
その意思は強固で率直なもので、Yの影響や働きかけを受け手のものとは認められない

本件では常居所地国であるフランスに返還されることを拒む子の意見を考慮することが適当であり、法28条1項5号の返還拒否事由がある

裁量にる返還(法28条1項ただし書)も相当でない。
⇒Xの申立てを却下。
 
<判断>
原審と同様で、抗告棄却。 
 
<解説>
子の異議が争点となる事案では、
家裁調査官の調査結果を基に、子の現状認識、常居所地国への帰国に関する子の意見、子がそのような意見を持つに至った理由等を踏まえて、
①子がその意見を考慮に入れることが適当な年齢及び成熟度に達しているか
②子の意見が常居所地国に返還されることに対する異議といえるか
が判断される。 
本件のように、10歳(小学生高学年)以上になるとその意見が考慮される例が多くなる傾向

子の発達の程度:
家裁調査官の調査における
①子の回答内容や態度、②学校の成績表、③その他の資料が考慮要素となる。
子に問われるのは、常居所地国に戻ることについての意見であって、監護者(母)と監護権を侵害された者(父)のどちらと暮らしたいのかという意見ではない

常居所地国に返還されることが必ずしも監護者と引き離されることを意味しないということが理解できているか
監護者やその親族の意向とは区別された自らの意思を自己の体験に基づいて回答できているか
中長期的な観点から常居所地国に戻った場合と日本に留まった場合とのメリット・デメリットを比較検討した上で戻りたくない理由を具体的に説明できているか
ということが考慮される。

子が返還を拒む理由として監護者との同居を継続できないことへの不安や懸念を抽象的にしか述べていないような場合には、
監護者による監護の継続を希望するにすぎないとして、
常居所地国への返還を拒否する意見表明とは評価されない傾向。

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2019年4月14日 (日)

面会交流の間接強制金を不履行1回につき20万円とした事案(義務者の収入・権利者の婚姻費用等の事情あり)

大阪高裁H30.3.22      
 
<事案> 
平成27年に別居、Yは未成年者(平成25年生)を監護。
XはYに対し、平成27年、大阪家裁に面会交流の申立⇒平成29年に、大阪家裁は毎月1回の面会交流を命じる審判⇒Yは即時抗告⇒大阪高裁は、平成29年に、前件審判を一部変更し、当初3回は2か月に1回の頻度とし、第三者の立会いを認める決定。 
Yは、別居後前件調停までの間、Xに3回ほど未成年者に会せたことがあったが、前件調停の前後を通じ、面会交流を一貫して拒否し、前件審判手続における親子交流場面調査にも出頭せず。
Xは、Yが高裁決定の定めた初回の面会交流にも応じない⇒平成29年に間接強制申立て。
平成30年、原決定で強制金(不履行1回につき5万円)の支払を命じられた後、未成年者との面会交流に2回程度応じている。

Yは、歯科医師の資格を有し、年収476万円。
XはYに対し、婚姻費用の分担金として月額21万円を支払うべき義務。
 
<原審>
間接強制金の金額を不履行1回につき5万円と判断。 
   
Xが抗告 
 
<判断>
原決定を変更し、間接強制金の金額を不履行1回につき20万円に増額。
 
<解説>
間接強制金の額は、一般的に、履行命令違反の阻止と債務名義上の執行債権の実現に必要な金額を、心理的強制の目的に即した執行裁判所の合理的裁量によって決する

その考慮要素:
①執行債権の性質(金銭による代替的満足の可否)、②不履行による債権者の損害、③債務者の不履行の程度(変更決定による対処の可否)、④履行の難易、⑤不履行継続による債務者の利益、⑥不履行の社会的影響など

面会交流における間接強制金の金額は、裁判例では、
不履行1回当たり2万円、5万円、から20万円などの例。

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2019年4月13日 (土)

遺留分減殺請求と遺産分割

大阪高裁H29.12.22      
 
<事案>
遺産分割の事件。 
被相続人が死亡した時点の相続人:
被相続人の妻と長女、二女
その後、妻は、全財産を長女に遺贈する旨の遺言をした上で死亡。
二女は、長女に対し、本件遺言による遺贈について遺留分減殺請求。
 
<原審>
①長女と二女が、相続分に関し、長女が8分の5、二女が8分の3とする旨の合意をししていること
②遺産分割方法について、二女は換価分割の方法を希望し、長女は特に希望を有していない
ことを前提とし、
③双方の特別受益に関する主張を排斥し、
遺産である不動産の競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した残額を、長女8分の5、二女8分の3の割合で分配する旨の審判。 
   
長女が即時抗告
主張:
最高裁H8.1.26(「平成8年判決」)によって、包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有さないとされており、
本件の場合、
遺産分割の対象となるのは、妻が相続した相続分2分の1を除く、各遺産の2分の1に限られるべき⇒原審判は分割対象を誤っている。
原審段階:遺産分割の対象となる遺産が、不動産のみ

抗告審:株式の存在が指摘され、
最高裁H28.12.19によって、被相続人名義の預貯金が全相続人の合意がなくても遺産分割の対象⇒被相続人名義の定期預金が遺産分割の対象。
 
<解説>
平成8年判決:
特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、・・・特定遺贈に対して遺留分減殺請求を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない
遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではない。
その射程が、本件のように遺言によって承継された「相続分」に及ぶ

妻が、本件遺言で被相続人の相続に係る2分の1の相続分を長女に承継させたことによって、それに対応する被相続人の遺産の2分の1は、被相続人の遺産分割対象から逸出し、もはや被相続人の遺産分割の対象とはならないことになる。

最高裁H17.10.11(平成17年決定):
第一次被相続人の相続が開始して遺産分割未了の間に第一次相続の相続人である第二次被相続人が死亡した場合、
第二次被相続人が取得した第一次被相続人の遺産についての相続分に応じた共有持分権は、実体上の権利であると判示。

最高裁H13.7.10や最高裁H26.2.14は、
相続分の譲渡の法的性質について、
積極財産はもとより消極財産を含む遺産全体に対して共同相続人の1人が有する包括的持分権ないし相続人たる地位を譲渡することであり、これにより共同相続人の1人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移転し、譲受人は遺産分割協議及び遺産分割審判の当事者となるという法的効果を発生させるものと理解。

相続分が譲渡された場合、その譲受人は、譲り受けた相続分をもって遺産分割手続に参加することになる
⇒譲り受けた相続分に対応する遺産についての遺産共有状態が解消されることはない。

相続分は、他の共同相続人に対しても、第三者に対しても譲渡が可能(民法905条)なものであるが、仮に、第三者が相続分を譲り受ければ、第三者が遺産分割手続に参加すrことになるのであって、共有物分割手続を行うことにならない。

相続分の譲渡は、共同相続人が遺産を構成する個々の財産に対して有する物権的持分の譲渡とは異なるものであると理解⇒平成17年決定は、平成8年の射程に影響を及ぼさず、平成8年判決の射程は、遺言によって相続分が譲渡された場合には及ばない。
 
<判断>
本件以後による包括遺贈は、相続分を含んでいる点で平成8年判決と事案を異にし、包括遺贈の対象とされた相続分がただちに遺産分割の対象財産としての性質を失うものではない。 

判例時報2395

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2019年4月11日 (木)

憲法9条を内容とする俳句を公民館だよりに掲載せず⇒国賠法上違法とされた事案

東京高裁H30.5.18      
 
<事案>
Xの「梅雨空に「九条守れ」の女性デモ」が秀句に選出⇒公民館のたよりへの掲載拒否 
 
<請求>
XがYに対し、
①本件句会とG1公民館は、本件句会がG1公民館に提出した俳句を同公民館が発行する本件たよりに掲載する合意をしたと主張し、同合意に基づき、本件俳句を本件たよりに掲載することを求める
②G1公民館が、本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことにより掲載しなかったことにより精神的苦痛を受けた⇒国賠法1条1項に基づき、慰謝料の支払いを求めた。
 
<原審> 
①Xの掲載請求につき、本件合意の内容は、法的な訴求力のある権利ないし義務を発生させるものではない⇒これを否定
 
<判断>
原審①と同様。

慰謝料について、
Xの学習権及び表現の自由に対する侵害を否定
but
後述解説の考え方

本件俳句を本件たよりに掲載しない取扱いがXの人格的利益を侵害し、違法であると判断し、その慰謝料額は、5000円とするのが相当。
追加請求の、公民館職員によるXの名誉毀損は認められない。
 
<解説>
Xが本件俳句を本件たよりに掲載しない取扱いをした公民館の職員の行為が違法であるとして設置者Yに対し国賠請求をするには、Xがその取扱いによって法律上保護される利益を侵害されたことが必要。 

原判決:Xの俳句が掲載されるとの期待の侵害を認めた。

本判決:
Xの期待の侵害という構成は採用せず、
社会教育法等の趣旨から公民館の目的、役割及び機能を検討して公民館の職員の職務上の公正取扱義務を導き出し、
公民館の職員が、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき、その思想、信条を理由に他の住民と比較して不公正な取扱いをしたときは、当該住民の人格的利益を侵害するものとして国賠法上違法となると判示。

最高裁H17.7.14:
公立図書館の職員が、閲覧に供されている図書の廃棄について、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをすることは、当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国賠法上違法となる

判例時報2395

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2019年4月10日 (水)

地方議会の議員に対する出席停止処分が司法審査の対象となる場合

仙台高裁H30.8.29      
 
<事案>
Y(宮城県岩沼市)の市議会が、同市議会議員であるXの議会運営委員会における発言を理由として、23日間の出席停止処分
⇒Xが、本件処分の違憲、違法を主張して、Yに対し、その取消しを求めるとともに、地自法203条及びYの条例に基づき、本件処分によって減額された議員報酬及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
 
<規定>
憲法 第93条〔地方公共団体の機関とその直接選挙〕
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
 
<判断>
①地方議会は、憲法93条1項によりその設置が定められるなど自律的な法規範をもつ団体そこにおける法律上の係争については、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主性、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法判断の対象とはならない。(最高裁昭和35.10.19)
②出席停止は、議会への出席を一定期間停止されるだけであって、議員としての活動そのものが制限されたり身分を奪われたりするものではない⇒原則として、その適法性は一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる。
but
・・・これを担う議員の活動を実行あるものとするため、地自法は、地方公共団体はその議会の議員に対して議員報酬を支給しなければならないこととしている

議員は、少なくとも、議会の違法な手続によっては減額されることのない報酬請求権を有しているというべきであって、出席停止といえども、それにより議員報酬の減額につながるような場合には、その懲罰の適否の問題は、憲法及び法律が想定する一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして裁判所の司法審査の対象となる

本件条例によって、Y市議会議員の報酬は月額36万3000円とされ、出席停止の懲罰を受けた議員に係る議員報酬は、その出席停止の日数分に相当する額が減額
⇒裁判所の司法審査の対象となる。
 
<解説>
判例:
地方議会の議員に対する懲罰決議のうち、除名は議員の身分の喪失に関する重大事項であるため司法審査の対象となる(最高裁昭和35.3.9)
but
出席停止は内部規律の問題として自律的措置に委ねるべきであって司法審査の対象外(最高裁昭和35.10.19) 

本判決:
原則として、出席停止の適法性は一般市民秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる
but
出席停止が議員報酬の減額につながるような場合には、その懲罰の適否の問題は、一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして裁判所の司法審査の対象となる
⇒議員報酬の減額につながった本件処分の適法性は司法審査の対象となる。

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2019年4月 8日 (月)

■偉大なカリスマ的指導者の神話

世間の注目を集めるカリスマ的スタイルは、ビジョナリー・カンパニーの基礎を固めるのに、まったく不必要。
むしろ、カリスマ性が非常に強いスタイルは、ビジョナリー・カンパニーを築くことと逆相関

3Mのマックナイト:
穏やかな口調の紳士、聞き上手、謙虚、控え目、うつむきかげんに歩く、慎み深い、口調が穏やか、物静かで思慮深く真面目
ソニーの井深大:控え目で、思慮深く、内省的な人物。

ビジョナリー・カンパニーで優秀な経営者が輩出し、継続性が保たれているのは、こうした企業が卓越した組織であるからであって、代々の経営者が優秀だから、卓越した企業になったのではない。

ウェルチがCEOに選ばれたのは、組織がしっかりしていたから。
その組織をつくったのは、チャールズ・コフィンらの歴代の経営者であり、ジョージ・ウエスチングハウスとは違って、会社を築くにあたって、建築家のような方法をとった人々。

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2019年4月 7日 (日)

■企業そのものが究極の作品である

会社を製品の手段として見るのではなく、製品を会社の手段として見るように、発想を転換。

ウエスチングハウス:
時を告げる。
最高傑作は交流方式。

〇コフィン:
「アメリカ初の企業研究所」、ゼネラル・エレクトリック研究所の設立。
時計を作った。
最高傑作はGE

成功した会社の創業者:
幸運の女神は、どこまでもねばり抜く者にほほえむ(p47)。
「絶対に、絶対に、絶対にあきらめない」を座右の銘。

何をねばり抜くのか?
答えは会社。
アイデアはあきらめたり、変えたり、発展させることはあるが、
会社は絶対にあきらめない

製品開発(のプロセス)は、当社にとってとくに重要な製品・・HPウエイ(HP)

井深大の最高の「製品」:ソニーという企業であり、その企業文化。
ウォルト・ディズニーの最高傑作:ディズニー社であり、人々を幸せにする同社のたぐいまれな能力
サム・ウォルトンの最高傑作:ウォルマート社、新しい小売りの形態を大規模に、世界中のどの会社よりも見事に実現できる企業
ウィリアム・プロクターとジェームズ・ギャンブルの最大の貢献:決して時代遅れにはならないもの。適応能力が高く、世代を超えて受け継がれる深く根づいた基本的価値観という「伝統ある精神」を持つ会社

会社を窮極の作品と見る

製品ラインや市場戦略について考える時間を減らし、組織の設計について考える時間を増やすべき
時を告げるために使う時間を減らし、時計をつくるために使う時間を増やすべき

ビジョナリー・カンパニーが、すばらしい製品やサービスを次々に生み出しているのは、こうした会社が組織として卓越しているから

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2019年4月 6日 (土)

■「すばらしいアイデア」の神話

〇ビル・ヒューレットとデーブ・パッカード:最初に会社をはじめることを決め、そのあとで、何をつくるかを考えた。
テキサス・インスツルメント:設立時の構想が大成功を収めた。

 

〇ソニー:井深大が会社を設立したとき、具体的な製品のアイデアはなかった。
ケンウッド:具体的な製品分野を念頭においていた。

 

〇サム・ウォルトン:
「何をはじめるのか、先はみえなかったが、仕事にはげみ、顧客を大切にするかぎり限界はないと、いつも信じていた」
20年経った頃、郊外のディスカウント・ショップという「すばらしいアイデア」にぶつかった。
ウォルトンと同じことをやろうとしていた小売り企業はほかにもあった。ウォルトンは、同じことをほかのだれよりもうまくやっただけだ(p42)。

 

■「すばらしいアイデア」を持つのは、悪いアイデアかもしれない
「すばらしいアイデア」を出発点としているものの比率は、比較対象企業より、ビジョナリー・カンパニーの方がはるかに低かった。
ビジョナリー・カンパニーは、企業として早い時期に成功したものの比率が、比較対象企業よりも低かった。
企業として早い時期に成功することと、ビジョナリー・カンパニーとして成功することは、逆相関している。

 

長距離レースで勝つのはカメであり、ウサギではない。

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2019年4月 5日 (金)

■ビジョナリー・カンパニーについての12の崩れた神話


×すばらしいアイデアが必要。
具体的なアイデアをまったく持たずに設立されたものもあり、スタートで完全につまずいたものも少なくない
スタートで後れをとるが、長距離レースには勝つことが多い。

 


×ビジョンを持った偉大なカリスマ的指導者が必要
〇偉大な指導者になることよりも、長く続く組織を作り出すことに力を注いだ

 


×利益の追求を最大の目的としている。
目的はさまざまで、利益を得ることはそのなかのひとつにすぎず、最大の目標であるとはかぎらない。
but
利益を最優先させる傾向が強い比較対象企業よりも、ビジョナリー・カンパニーの方が利益をあげている

 


×「正しい」基本的価値観がある。
〇基本的価値観に「正解」と言えるものはない。
決定的な点は、理念の内容ではなく、理念をいかに深く「信じて」いるか
会社の一挙一動に、いかに一貫して理念が実践され、息づき、現れているか。
「われわれが実際に、何よりも大切にしているものは何なのか」という問いを立てる。

 


×変わらない点は、変わり続けることだけである。
基本的価値観は揺るぎなく、時代の流れや流行に左右されることはない。
基本理念をしっかりと維持しながら、進歩への意欲がきわめて強いため、大切な基本理念を曲げることなく、変化し、適応できる。

 


×危険を冒さない。
「社運を賭けた大胆な目標」に挑むことをおそれない。
胸躍るような大冒険⇒人は引きつけられ、やる気になり、前進への勢いが生まれる。

 


×だれにとってもすばらしい職場。
その基本理念と高い要求にぴったりと「合う」者にとってだけ、すばらしい職場
存在意義、達成すべきことをはっきりさせている⇒厳しい基準に合わせようとしなかったり、合わせられない者には、居場所はどこにもない。

 


×綿密で複雑な戦略を立てて、最善の動きをとる。
最善の動きのなかには、実験、試行錯誤、臨機応変によって、そして、文字どおりの偶然によって生まれたものがある
「大量のものを試し、うまくいったものを残す」方針の結果であることが多い。

 


×根本的な変化を促すには、社外からCEOを迎えるべき。
〇比較対象企業と比べて、社外の人材を経営者として雇用する確率が6分の1
根本的な変化と斬新なアイデアは社内からは生まれないという一般常識は、崩されている。

 


×競争に勝つことを第1に考えている。
自らに勝つことを第1に考えている。
「明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるか」と厳しく問い続けた結果、自然に成功が生まれてくる。
どれほど目標を達成しても、どれほど競争相手を引き離しても、「もう十分だ」とは決して考えない。

 


×2つの相反することは、同時に獲得することはできない。
「ANDの才能」を大切にする。
AとBの両方を同時に追求できるとする考え方。

 


×経営者が先見的な発言をしているから。
基本理念を活かすために、何千もの手段を使う終わりのない過程をとっており、これは、ほんの第1歩にすぎない。

 

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所持品検査として違法⇒違法収集証拠排除⇒(覚せい剤事犯で)無罪

東京高裁H30.3.2

<事案>
職務質問を受けていた被告人が、持っていたバッグを約5メートル先にいた知人に渡そうとして投げたが地面に落ちた⇒警察官が拾い上げて承諾なく開披し、覚せい剤を取り出し、写真撮影等をした。

<原判決>
有罪
警察官が被告人を制止し留め置くなどした行為は適法。
but
バッグを開披して内容物を取り出し写真撮影した行為は、所持品検査として許容される程度を超えた捜索⇒違法
but
①バッグに対するプライバシー保護の必要性は相当程度低下
②所持品検査の必要性、緊急性が高かった
③警察官らに令状主義を潜脱する意図があったと認められない

証拠能力を肯定

<判断>
被告人がバッグを投げたのは、警察官らに取り囲まれて行動の自由が制約される状況において、バッグを警察官らに渡したくなかったから時間的・場所的近接性からしても、プライバシー保護の必要性が低下したとは評価できない
②警察官らにおいては、薬物事犯ではなく何らかの犯罪に関わる物品等が在中している限度の疑いしかないし、バッグが持ち去られるなどの危険性は高くない⇒所持品検査の必要性、緊急性は高くなかった
③被告人の承諾を得ようともsえず、しかも全ての内容物を取り出し写真撮影までしている⇒令状なしに捜索することが許される場合でないことは容易に判断できた⇒警察官らに令状主義潜脱の意思があった

違法の程度は重大であるとして、違法収集証拠排除法則を適用し、証拠能力を否定

<解説>
●所持品検査の許容性と限界
所持品検査
最高裁昭和53.6.20以来、
警職法2条1項の職務質問に附随する行為として許容され捜索に至らない程度であれば、必要性、緊急性、害される個人的法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、相当な範囲で許容される。

●違法収集証拠排除法則に関する最高裁判例の流れ
最高裁昭和53.9.7:
令状主義の精神を没却するような重大な違法
証拠として許容とすることが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない
という要件のもとに証拠能力を否定するとの一般論。
but
具体的事案の解決としては、
所持品検査の違法は重大でない⇒証拠能力を肯定。
その後も、所持品検査は違法としながら、その違法は重大でないとして、証拠能力を肯定する最高裁の死裁判例。

最高裁H21.9.28:
荷物のエックス線検査が違法
but
違法は重大でなく、証拠能力を肯定。
最高裁の裁判例で、違法収集証拠排除法則を提供して証拠能力を否定したもの:
最高裁H25.2.14(逮捕状不呈示)
最高裁H29.3.15(GPS捜査)

●最近の違法収集証拠排除法則の適用状況
職務質問中の留め置き等の違法性を認めながら、その違法の程度は重大でないとして証拠能力を肯定した裁判例と
違法の重大性を認めて証拠能力の否定にまで至った裁判例
がある。

●本判決の特徴・位置づけ
所持品検査が適法であるためには、まず「捜索」でないことが必要。
平成20年代以降、裁判所において違法収集証拠排除法則を適用して証拠能力を否定する方向への変化

判例時報2393

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自己破産の申立てを受任した弁護士が債務者の財産散逸防止義務に違反したとして破産管財人に対し損害賠償責任を負うとされた事例

東京地裁H26.4.17    

 

自己破産の申立てを受任した弁護士が債務者の財産散逸防止義務に違反したとして破産管財人に対し損害賠償責任を負うとされた事例 
 
<争点>
①Xの主張する財産差につ防止義務違反の成否
②損害額 
 
<判断>
自己破産の申立てを受任し、その旨を債権者に通知した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、速やかに破産手続開始の申立てを行い、また、債務者の財産の散逸を防止するための措置を講ずる法的義務を負いこれらの義務に違反して破産財団を構成すべき財産を減少・消失させたときは、不法行為を構成し、破産管財人に対し損害賠償責任を負う。 

 

本件事実関係によれば、YはBの顧問弁護士でもあり、A・B間の事業譲渡契約を認識していたが、A代表者から譲渡代金の明確な説明を受けることができなかったが、Bに問い合せれば譲渡代金がAに支払われていないこと、代金が第三者の銀行口座に振り込まれたことを知ることができ、その銀行口座への振込を止めるようBに求めれば、Bがこれを拒否したとは考えられず、一定時期以降の譲渡代金の第三者の銀行口座への振込は防止することができたところ、YはBに問い合わせること等をしなかったのであるから、財産散逸防止義務に違反した過失がある。

 

Yは速やかに破産手続開始の申立てを行う義務には違反していない。

 

Aの銀行口座いから引き出した金員については、破産財団を構成すべきものとはいえない。
 
<解説>

自己破産の申立てを受任した弁護士に債務者の財産散逸防止義務があるか?
本判決はこれを肯定。
「破産の申立てを受任した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、財産が散逸することのないよう必要な措置を採るべき法的義務を負う」(東京地裁H25.2.6)
 

本判決は、破産手続開始の申立ての費用の関係から速やかに申立てを行うことができなかった⇒同義務違反はない。 

会社から自己破産の申立てを受任した弁護士が2年間申立てを放置し、その間に資産が消失した場合に、破産財団の損害について弁護士の不法行為責任が認められた事例(東京地裁H21.2.13)。
 

Yが依頼者Aの事業譲渡を受けたBの顧問弁護士でもあること、A・B間の事業譲渡契約の譲渡代金について、Aから明確な説明を受けることができなかったとしてBに問合せ、かつ、譲渡代金につき第三者の銀行口座への振込みを止めるよう求めれば拒否したとは考えられないという個別の事実関係から、財産散逸義防止義務違反と評価。 

 

判例時報2230

 

 

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2019年4月 4日 (木)

労働者性が否定された事案

東京地裁H30.8.28

<事案>
Yに対し
①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と
②同契約に基づく賃金(解雇後の日である平成28年2月25日から本判決確定の日まで、弁済期である毎月25日限り144万8000円及びこれに対する遅延損害金)の支払を求めた

<規定>
労契法 第6条(労働契約の成立) 
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

<解説>
●労契法6条は、「 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」と規定

使用者における就業規則が労働条件とされる場合があること(労契法7条)を踏まえても、就労時間やそれに対する賃金額及びその支払方法等の具体的な労働条件が労働契約の内容として労働者及び使用者の間で合意されることによって労働契約が成立

 

本判決の判断の主幹は、
Yから雇用されることを可決承認されたとXが主張する平成27年11月15日に開催されたYの理事会での出席理事らの議論を中心として、XがYとの間の労働契約締結に至ったとする過程のいずれにおいても、結局のところ、Xの労働条件が何ら具体的に決められていないという点にある。

労働契約が労働条件に関する労働者と使用者の合意で成立するという基本的な考えに根差したもの。

●労働契約は、民法上の雇用契約(民法623条)と同一の概念。
請負契約や有償の委任契約と対比した場合の雇用契約の重要な特色として、
労働それ自体の提供が契約の目的とされ、仕事の完成や統一的な事務処理が契約の目的となるものではないこと、
②(それ故に)労働を行う者の労働を経営目的に沿って適宜に配置、按配して一定の目的を達成させることは、使用者の権限(労働指揮権)となり、基本的に、労務を提供する側が労働内容を自主性・独立性・裁量性をもって決定するものではないことが挙げられる。

「労働契約」の該当性判断に当たっても、
契約の形式(契約書の文言等)いかんにかかわらず、これらの特色を有するか否かといった点が受視され、
一般に、労働者に該当するというためには、
使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること、
労務に対する対償を支払われる者である
という2つの要件を併せて
「使用従属性の要件」と称している。

 

本判決:
①Xがこれまで顧問としてYの指揮監督下に必ずしも置かれないままに振る舞ってきた状況と、
②そのような状況を前提に、そのようなXとYとの関係性に係る状況が全く変わることがないというP2前理事長の説明の下で、XのYにおける処遇が決められていること
③その他の捕捉的な事情
を踏まえて、Xの労働者性を否定。

判例時報2393

 

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2019年4月 3日 (水)

地面師詐欺事件で、本人確認情報の提供を行った弁護士の責任を認めた事案。

東京高裁H30.9.19

<事案>
地面師詐欺事件で、本人確認情報の提供、不動産売買契約への立会い及び所有権移転登記申請を実行した弁護士の真実の所有者に対する損害賠償責任が認められた事案。
地面師グループは、弁護士Bに対して、最初は売買契約への立会人になること、その後に不登法23条4項1号の本人確認情報提供制度における資格者代理人となることを依頼。
弁護士Bは、地面師グループが用意した偽造住民基本台帳カード(住基カード)の確認や自称Aへの人定質問等を行い、自称AをA本人と誤信⇒自称AがA本人である旨の本人確認情報を提供。
A本人は、
弁護士Bが不登法23条4項1号の資格者代理人として必要な自称Aに対する本人確認が不十分であたっため、A本人は第三者や買主との仮処分、訴訟などに支払った費用の損害を被った⇒1400万円余りの損害賠償の支払を求めた。

 

<一審>
資格者代理人が本人確認情報を提供する場合において、原則として不登規則72条に規定された方法による本人確認を行えば足りるが、
資格者代理人が知り得た諸事情に照らしなりすまし等を疑うべき事情がある場合には、その他の方法による本人確認をすべき義務がある。
偽造住基カードは外観から一見明白に不自然な点はなく、なりすまし等を疑うべき事情がなかった⇒弁護士Bに過失があるとはいえない。

<判断>
自称Aが買主候補者からの子についての質問に沈黙したという証拠が発見⇒当該事実が弁護士Bの過失を基礎づける事実として追加主張。

 

控訴審では、自称Aの証人尋問が実施。
①「弁護士Bは、買主候補者と自称Aとの面談において、買主候補者からのA本人の子についての質問に対して、自称Aが答えられずに沈黙したことから、買主候補者が自称AがA本人とは信用できないとして席を立つという場面に立ち会う経験をした」という事実の証明あり
②この事実は、住基カードによる本人確認をしたとしても、なお、自称AがA本人ではないことを疑うべき事情
住所地訪問、架電、転送不要郵便物の送付などの方法による本人確認をすべき。 それをしなかった弁護士Bには過失がある。

<解説>
弁護士Bが本人確認情報提供業務の依頼を受けてから本人確認情報提供業務についての調査を開始。
調査不足のため、売買決済当日まで、本人確認情報提供義務を行った弁護士が登記申請代理人にあんるべきことや、本人確認情報に資格者代理人の資格を証明する弁護士会発行の印鑑登録証明書の添付が必要であるあることを知らなかったことが認定。

 

判例時報2393

 

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2019年4月 2日 (火)

四国電力伊方原発三号機愛媛訴訟抗告審決定

高松高裁H30.11.15

 

四国電力伊方原発三号機愛媛訴訟抗告審決定 :
被保全権利の疎明無⇒抗告を棄却

<事案>
愛媛県所在の伊方発電所3号機に関して、同県内に居住するXらが、本件3号機を設置、運転する電力会社であるY(四国電力㈱)に対し、
本件3号機には安全性に欠けるところがあり、事故が発生して多量の放射性物質が放出されるとXらの生命、身体、精神及び生活に関する利益等に重大かつ深刻な被害が発生するおそれがある

人格権による妨害予防請求権に基づき、本件3号機の原子炉の運転の差止を命じる仮処分を申し立てた。

原審が被保全権利があるとは認められないと却下⇒即時抗告

<争点>
①差止請求の要件等
②基準地震動策定の合理性
③耐震設計における重要度分類の合理性
④使用済燃料ピットの安全性
⑤制御棒に関する安全性
⑥地すべり及び液状化に対する安全性
⑦津波に対する安全性
⑧火山の影響に対する安全性
⑨テロリズム対策
⑩重大事故等対策
⑪その他の本件3号機の安全性に関する問題点
⑫避難計画の合理性
⑬保全の必要性

<判断>
●差止請求の要件等
人格権に基づく妨害予防請求として本件3号機の運転差止めが認められるための危険性の程度について:
最大規模の自然現象の発生頻度(発生確率ないしリスク)が零になることがない⇒このようなリスクを許容するか否か、許容するとしてどの限度まで許容するかは、社会通念を規準として、発電用原子炉の事故発生の危険性が社会的に容認できる水準以下であるか否かを判断

 

抗告人:
福島第一原発事故のような過酷事故については絶対に起こさないという意味での「限定的」絶対的安全性又は絶対的安全性に準じて、深刻な被害が万が一にも起こらない程度の極めて高度な安全性と解すべきと主張。
vs.
改正原子炉等規正法が原子炉等の重大事故に対して深層防護に基づく多段階の対策を講じたことを指摘し、合理的な予測を超えた水準での絶対的な安全性又はこれに準じるような安全性を求めることが社会通念となっているとまではいえない⇒採用せず。

 

原子炉事故発生の危険性の立証責任:
Y:
新規制基準に不合理な点がないこと並びに本件3号機が新規制基準に適合することとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことないしその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がないこと主張、疎明することができれば、本件3号機がXらの生命等に直接的かつ重大な被害を与える具体的危険性が存在しないといえ
Xら:
Yの前記主張、疎明を妨げる主張、疎明ができた場合には、新規制基準に不合理な点があり、又は、当該発電用原子炉施設が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があることが事実上推定される。

●火山の影響に対する安全性
◎ 川内原発運転禁止仮処分抗告審決定:
立地評価に関する火山ガイドの定めは、発電用原子炉施設の安全性を確保するための基準として、その内容が不合理であると説示。

 

伊方原発運転禁止仮処分抗告審決定が、火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害にはいわゆる破局的噴火も含むとした上で立地評価及び影響評価ともに不相当であると説示し、
同異議決定が、立地評価に関する火山ガイドの定めには不合理な部分があると説示。

 

◎ 本決定:
原子力規制委員会が策定した原子力発電所の火山影響評価ガイド(火山ガイド)の合理性について検討するに当たり、
原子力規制庁が平成30年3月7日にまとめた「原子力発電所の火山影響評価ガイド(火山ガイド)における設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価に関する基本的な考え方について」と題する文書について、原子力規制委員会がこれまで火山ガイドに従って立地評価及び影響評価の審査を行ってきたところと整合する上、現在の我が国の法令等の社会通念にも合致 ⇒合理性あり。

 

火山ガイドについて、「基本的な考え方」を踏まえて解釈適用す以上は合理性がある。
阿蘇について、本件3号機の運用期間中に破局的噴火が生じる可能性が相応の根拠をもって示されているとまではいえない⇒本件3号機が火山の影響に対する安全性の確保の観点から立地不適とは考えられないとした原子力規制委員会の判断は合理性がある。
Yが、伊方発電所において考慮すべき降下火砕物の厚さを評価するに当たり、検討対象火山はいずれも巨大噴火直前の状態ではなく、降下火砕物の厚さを15センチと評価したことも十分に保守的。

●避難計画について
現行法制度の下において、避難計画が合理性ないし実効性を欠くものであるとしても、直ちに原子力事業者による周辺住民等の人格権(生命、身体に係る権利)に対する違法な侵害行為のおそれがあるということはない。

 

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2019年4月 1日 (月)

虚偽内容の供述調書により捜索差押許可状取得⇒違法収集証拠排除により無罪

横浜地裁H28.12.12

<争点>
①違法収集証拠による証拠の排除の可否
②被告人の大麻の所持の認識の有無

<規定>
憲法 第35条〔住居侵入・捜索・押収に対する保障〕
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
②捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

 

刑訴法 第218条〔令状による差押え・捜索・記録命令付捜索・検証・身体検査、通信回線接続記録の複写等〕
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

<判断>
捜索差押許可状の発付に当たって、参考人の虚偽の供述調書が疎明資料
参考人の了解を得て、虚偽の供述内容を付け加えて書面にした。

 

①他人の刑事事件に関する証拠を偽造した罪(刑法104条)に当たりうるもの。
警察官は、地方公務員法違反罪のほか、虚偽調書を作成して裁判官に捜索差押許可状を請求して使用したという証拠隠滅罪(刑法104条)により、略式起訴され、罰金50万円の略式命令で確定。
②警察官は、捜索差押許可状の発付の可否の審査という刑事司法作用を誤らせる意図で虚偽調書を主導的に作成した上、捜索差押許可状請求の疎明資料として提出資料として提出して使用し、公判においても、虚偽調書の作成や使用の事実を隠して捜索押収手続には問題がないような証言令状主義を潜脱する強い意図
違法行為に至った経緯や態様、違法の重大性、令状主義を潜脱する意図の強さも考慮すると、捜索押収手続の違法性の程度は、憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法 ⇒捜索押収手続によって得られた証拠を、刑訴法317条の事実認定に供する「証拠」として許容することは将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない。

 

違法収集証拠として排除すべき証拠の範囲:
捜索押収手続によって発見、押収された大麻のみならず、
大麻等の捜索差押調書抄本、鑑定嘱託書謄本、鑑定書、大麻の所持に基づく現行犯人逮捕手続書抄本、捜索差押許可状を執行している状況を写真撮影し又はその写しを作成した捜査報告書、大麻予試験実験結果報告書抄本などの取調べ済みの各証拠も、
捜索押収手続及び捜索押収手続によって発見、押収された大麻と一体性を有する証拠
として、
弁護人の同意や異議の有無にかかわらず、職権で、
本件公訴事実を認定するための証拠から排除


<解説>
●他人の刑事事件に関し、被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べを受けた際、虚偽の供述⇒刑法104条の罪に当たるものではない。
but
他人の刑事事件について警察官と相談しながら虚偽の供述内容を創作するなどして供述調書を作成した場合には証拠偽造罪に当たる(最高裁H28.3.31)。

●排除される証拠の範囲:
最高裁H15.2.14:
「密接な関連を有する証拠」

 

本判決:
より簡潔に、「一体性 を有する証拠」も排除するのが相当。
弁護人が、審理の当初、本件の大麻や関係する書証について、証拠意見として、
「異議なし」「同意」の意見。

本判決:
上記の証拠意見は、重要な部分の錯誤に基づくものであり、しかも、弁護人に帰責事由は見当たらない⇒これを無効とするのが相当

 

福岡高裁H7.8.30:
原審において、被告人が、差押調書及び鑑定書の取調べに同意し、覚せい剤の取調べに異議なしの意見を述べていることについては、
①その前提となる捜索差押えに、当事者が放棄することを許さない憲法上の権利の侵害を伴う、前叙の重大な違法が存在
②このような場合に右同意等によって右各証拠を証拠として許容することは、手続の基本的公正に反する

右同意書があっても右各証拠が証拠能力を取得することはない。

 

判例時報2392

 

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