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2019年3月14日 (木)

事件性・犯人性が争われた死刑判決事案

横浜地裁H30.3.22      
 
<事案>
介護施設職員であった被告人が、その勤務する施設で、約2か月の間に入居者3名を次々と高所から転落させて殺害した事案。 
 
<解説>
●間接事実からの総合考慮 
◎事件性:
各被害者の身体能力や精神状態、転落したベランダの構造等⇒
第2事件及び第3事件の各被害者については、自らベランダを飛び越えた可能性はなく、殺人事件であると認められる
第1事件も殺人事件である可能性が極めて高い

◎犯人性:
第1事件ないし第3事件が約2か月という短期間に生じている⇒同一犯による犯行である可能性が高い
①本件施設内部や各居室の施錠状況、各犯行当日の夜勤の状況などの客観的な事実の検討⇒部外者や入居者家族、被告人以外の職員等の犯行は困難
②被告人が被害者のV2及びV3について、第2事件及び第3事件以前に、「そろそろ危ない、次落ちる。」などと犯行を予告するような発言をしていた
母親や妹に「自分がやったんだ。」などと犯行を告白する内容の発言

第3事件については、被告人が犯人であることについて疑念を挟む余地はなく、
第1事件及び第2事件についても、更に被告人に対する嫌疑は高度なものとなるといえ、特段障害となる事情が見当たらなければ犯罪成立を認めて差し支えない程度にまで、被告人が犯人であるという強力な推認が働く

続いて犯人性の認定について障害となる事情が存在するかという観点から捜査段階での自白及び公判供述の信用性を検討。
 
●取調べ録音録画記録媒体について 
◎近時の裁判例:

・検察官から実質証拠として取調べ請求がされた録音録画記録媒体について、取調べの必要性を否定して請求を却下した原審の証拠決定が、裁判所の合理的な裁量を逸脱したものとは認められないとされた事例

・取調べ録音録画記録体を見て自白の信用性を判断することには強い疑問があるとし、再現された被告人の供述態度等から直接的に被告人の犯人性に関する事実認定をおこなった原判決を破棄・自判した事例(今市事件控訴審判決)

◎本件:
被告人の自白調書等の信用性判断のため録音録画記録媒体が採用

信用性の評価の外形的事情:
①取調べ担当警察官が、高圧的な態度をとったり、厳しく問い糾したりしていく場面はみられない
②終始オープン・クエスチョンの形式により進められている
③被告人の応答状況も身振り手振りを交えた自発的かつ円滑なものであって、問いかけに対しても、そのまま同調するものではなく、記憶にないところはその旨応答

供述内容:
①自白に至った心情や遺族への気持ち、被害者らを殺害の対象とした動機について詳しく述べている
②具体的かつ迫真的な供述部分が見られる
③客観的な施錠状況等と完全に符合する内容の供述
~自白の信用性を高める事情

前段:再生によって確認された自発的な供述態度をもって信用性を肯定しているだけではないか?
後段の客観的事情との整合性等:信用性判断としてはやや内容に踏み込みすぎであり、実質証拠との境界が曖昧ではないか?
 
●死刑選択の理由 
氷山基準:
①犯行の罪質、
②動機
③態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性
④結果の重大性ことに殺害された被害者の数
⑤遺族の被害感情
⑥社会的影響
⑦犯人の年齢
⑧前科
⑨犯行後の情状等
を考慮し、その罪質が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には死刑選択が許される

本判決:
何ら落ち度のない3名もの尊い命を奪ったという結果(④)
遺族の峻烈な処罰感情(⑤)
高所から、まるで物でも投げ捨てるかのように転落させたという冷酷な犯行態様(①③)
犯行を隠ぺいする工作(⑨)
日々の業務から生じていたうっ憤や自己顕示のためという動機(②)
一定の計画性があること

これらを総合考慮すれば、複数名を殺害した事案の量刑傾向に照らしても、本件事案の重大性、悪質性は際立っており、被告人の罪質は誠に重大なものといわざるをえない
⇒死刑

判例時報2391

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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