青酸(シアン)連続不審死事件で死刑判決
京都地裁H29.11.7
<事案>
京都、大阪、兵庫で起きた青酸(シアン)連続不審死事件
被告人(判決時70歳)が、資産家の男性と結婚等をし、その後男性が死亡することが繰り返された事件
起訴された4件(殺人3軒、強盗殺人未遂1件)につきいずれも有罪と認定し、求刑通り死刑。
<判断・解説>
●情況証拠による有罪認定
◎事件性の認定
第1、第2、第4はいずれも被害者が死亡し、その死因はシアン中毒死とされた。
←
①血液からシアンが検出されたもの(第1、第2)
②搬送時に内窒息状態(細胞が酸素を使ってエネルギーをつくれなくなる状態)であったことを前提に、除外診断によりシアン中毒に絞り込み、被告人の捜査段階の自白も合わせたもの(第4)
口腔にびらん(軽度溶解)がないこと等⇒被害者はカプセル等に入ったシアン化合物を服用したと認めた。
第3は、被害者が全治不能の高次脳機能障害等を負った
シアン中毒によるものと認定
←
①搬送時に内窒息状態
②被告人の捜査段階の自白
事故及び自殺の可能性を否定⇒事件性を認定
◎犯人性の認定
①被告人の近辺の土中から、通常入手困難なシアン化合物が発見されており、被告人は各犯行時、シアン化合物を所持しており、これをカプセルに詰め替えることができた
②被告人は各被疑者に、疑いを持たれることなくカプセルを飲ませることができる関係にあった
⇒犯行可能
各被害者がシアン化合物を服用してから中毒を発症するまでの時間が、2、30分以内⇒服用前後の時間帯に一緒にいたと認められる
①被告人は、各被害者の死亡以前からその遺産取得に向けた行動をとっていた
②被害者から約4000万円の債務を負っており、これを返済することは困難であった
●本判決の手法の評価
情況証拠による事実認定については、最高裁H22.4.27が、
「情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要する」
本判決:各事実につき
「被告人が犯人でないとしたら、被告人以外の第三者が、犯行可能性が極めて乏しい中で犯行を行ったことになるが、このような想定は合理性を欠く」
「類似事実による犯人性の認定」は採用しなかった。
●認知症による訴訟能力、責任能力への影響
◎被告人の認知症り患
精神鑑定によれば、被告人は平成27年頃からアルツハイマー型認知症を発症
but
鑑定時(平成28年9月)には、認知症と判断するか迷うくらいの軽症で、平成25年12月当時(第1事件)は、認知症その他の精神疾患に罹患していなかったと認められる。
①平成25年12月頃のメールのやりとり
②遺産取得に向けた一貫した計画的な行動をとっていたこと
⇒当時認知症を発症していたとは認められない。
◎各犯行時の責任能力
認知症は進行性の病気⇒同時期以前にも認知症に罹患していなかったと認められる⇒各犯行時に完全責任能力あり。
◎訴訟能力
①認知症が軽症
②公判廷での応訴態度
⇒被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をする能力を有する。
●手続2分論的な審理の採用
公訴事実ごとに、犯罪事実の存否に関する立証を行った後に、中間論告、中間弁論を行い、全ての公訴事実につきこれを終えた後に、日を改めて、情状に関する証拠調べを行う。
●死刑判断
①事故の金銭欲のために人の生命を軽視するという非常に悪質な罪質
②落ち度の全くない3名の被害者の死亡、1名の重篤な障害という重大な結果
③巧妙かつ卑劣で計画的な犯行態様など
④結果につき、約6年間という短期間に4回も反復して行われており、その都度、人の生命を軽視して犯行に及んだという点で、各犯行が1つの機会になされた場合と比べても、より強く非難される
⇒
死刑
判例時報2391
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