« 児童自立支援施設で、(追加的)強制的措置許可申請が許可されなかった事案 | トップページ | 固定資産課税台帳に登録された土地の価格と当該土地に接する街路の性質についての市長の判定の意味 »

2019年3月 6日 (水)

裁判官分限事件に関する決定

最高裁H30.10.17      

O裁判官についての裁判官分限事件に関する決定 
 
<規定>
裁判官分限法 第三条(裁判権)

最高裁判所は、左の事件について裁判権を有する
一 第一審且つ終審として、最高裁判所及び各高等裁判所の裁判官に係る分限事件
裁判官分限法 第四条(合議体)

分限事件は、高等裁判所においては、五人の裁判官の合議体で、最高裁判所においては、大法廷で、これを取り扱う。

裁判所法 第四九条(懲戒)

裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。

裁判官弾劾法 第二条(弾劾による罷免の事由)

弾劾により裁判官を罷免するのは、左の場合とする。
一 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。
二 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。
   
●「品位を辱める行状」(裁判所法49条)の意義
◎ 裁判は、これを担当する裁判官の責任の下に、その独立の判断をもって行われるもの⇒裁判がこれを受ける者の心服を得るためには裁判官の地位にある者が、職務の内外を問わず、人格的に、国民から尊敬と信頼の念を集めるにふさわしい品位を保たなければならないことは当然。

同条は、裁判官ががこのような高度の品位保持義務を負っていることを前提として、裁判官の品位保持を図るとともに、その自省自粛を促す目的で「品位を辱める行状があったとき」を懲戒事由の1つに定めたもの。

「品位を辱める行状」
その本来の語感より広く解されており、国民の裁判官あるいは裁判所に対する信頼を揺るがす性質の行為がかなり広くこれに包摂されるものと解される旨の指摘もある。

具体的にいかなる行為がこれに当たるかは、世人の裁判官に対する信頼、ひいては裁判制度そのjものに対する信頼の念を危うくするかどうかにより決すべきであると解されている。

◎裁判官弾劾法2条:
「職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。」
「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。」
同号の弾劾事由から「著しく」を除いた「職務の内外を問わず、裁判官としての威信を失うべき非行」が裁判所法49条所定の「品位を辱める行状」に該当する。

裁判権の行使を委ねられた裁判官は、単に事実認定や法律判断に関する高度な素養だけでなく、人格的にも、一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を兼備しなければならない。
かかる人格的品位を有する裁判官の裁断にして、はじめて一般国民の裁判に対する心服を勝取ることができる⇒裁判官という地位には、もともと裁判官に望まれる品位を辱める行為をしてはならないという倫理規範が内在
この内在的規範に対する違反が外部的行為として現れたとき、「裁判官の非行」と観念される。

裁判官については、その職務の性質上、一般公務員よりも更に高い品位が要求されると考えられる⇒一般公務員に関してはまだ「非行」とはいえない軽微な事由であっても、裁判官に関しては「非行」と評価されるケースがあり得る。

◎本決定:
裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」の意義について、
職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、
およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判の公正を疑わせるような言動をいう旨を判示。 


①裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動と、
②裁判の公正を疑わせるような言動は、
多くの場合一致する。
but
事実認定及び法令の解釈適用を中心とする裁判についての公正を疑わせるには至らないものの、裁判官に対する国民の信頼を損ねるといえる行為は観念し得るところで、
これも「品位を辱める行状」に当たる

両者が一致しない場合もある。 

●「品位を辱める行状」該当性 
◎ 本決定:
裁判官が本件ツイートによって訴訟関係者の感情を傷つけた行為が、裁判官に対する国民の信頼を損ねるとともに、裁判の公正を疑わせるような言動に当たるとして、裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たるとされている。 

本決定は、当該当事者が実際に東京高等裁判所に苦情を述べており、本件ツイートが当該当事者の感情を傷つけたという事実に言及しているが、客観的にみて訴訟関係者の感情を不当に傷付け得る行為であれば、苦情の有無や実際に感情を傷付けた事実の有無にかかわらず、「品位を辱める行状」に該当し得ることとなる。

●表現の自由との関係 
本決定:
表現の自由が裁判官にも及ぶことは当然であると説示した上で、
本件における被申立人の行為は表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱したものである旨を簡潔に説示。
本件ツイートが、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば、民事訴訟における被告の主張や報道記事を要約するにとどまらず、当該訴訟の提起が不当であると被申立人自身が考えていることを伝えるものと受け止めざるを得ないものであるとしている。

裁判官が一市民として表現の自由を有することを踏まえても、被申立人の行為が懲戒事由に該当すると認められることは明らかと考えられることによるものと思われる。

判例時報2391

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

|

« 児童自立支援施設で、(追加的)強制的措置許可申請が許可されなかった事案 | トップページ | 固定資産課税台帳に登録された土地の価格と当該土地に接する街路の性質についての市長の判定の意味 »

判例」カテゴリの記事

行政」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 裁判官分限事件に関する決定:

« 児童自立支援施設で、(追加的)強制的措置許可申請が許可されなかった事案 | トップページ | 固定資産課税台帳に登録された土地の価格と当該土地に接する街路の性質についての市長の判定の意味 »