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2019年3月

2019年3月31日 (日)

スマホながら運転による前方不注視⇒類型的に犯情が悪い

大阪高裁H30.10.4

<判断>
①一般的に見て、スマホながら運転は、スマートフォンの小さい画面における手指による細密な動作に意識を集中する必要がある(車載のカーナビゲーションや、旧来の携帯電話機のボタン操作と異なり、手探りや指の感覚で操作目的と達成することが難しく、画面の視認が不可欠となる特徴があり、意識を相当程度集中する必要がある)
②運転者が自らの意思でスマホながら運転がながら運転を積極的に選択した行為が招いた事態⇒その意識決定に対する非難の程度も相当に高い。

<解説>
高速道路上でスマートフォンのアプリを閲覧・操作するなどして前方注意を怠り、交通事故を起こして人を死傷させた⇒検察官の求刑を超える刑期の実刑に処した原判決を維持。
スマホながら運転による前方不注視は、著しく危険であって過失運転致死傷罪の中でも類型的に犯情が悪い部類に属する
運転者が自らの意思で積極的に選択した行為が招いた事態⇒その意思決定に対する非難の程度も相当高い と判断。

 

判例時報2392

 

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2019年3月29日 (金)

刑の一部執行猶予についての判断

東京高裁
①H29.7.18
②H29.12.20

 

■①事件
覚せい剤の自己使用と単純所持の事案。
被告人は、累犯関係にある前科3犯を有し、最終刑の執行終了後わずか8か月足らずで本件各犯行

<原審>
刑の一部執行猶予の可否について何ら説示することなく、被告人を懲役2年4月の全部実刑に。

 

<判断>
被告人を懲役2年4月に処した原判決の量刑自体が重すぎて不当であるとはいえない
but
①被告人が、うつ病と診断され、障害等級1級の認定を受けており、統合失調症との診断も受けている
②本件覚せい剤の使用についえtも精神症状の影響がうかがわれる

被告人の覚せい剤への依存を改善し、再犯を防止するためには、その生活全般について必要な支援を受けさせて、生活と精神症状を安定させる必要がある。
刑事施設に引き続き、社会内において、更生保護機関の支援と監督を受けながら、覚せい剤への依存を改善するための処遇を行うことが必要不可欠であると認められる。

刑の一部の執行を猶予することが相当であって、原判決の量刑は、刑の一部の執行を猶予しなかった点で裁量を誤った⇒量刑不当で原判決を破棄。

■②事件
覚せい剤の自己使用と共同所持の事案。
覚せい剤取締法違反等の罪て執行猶予付きの有罪判決を受けてから約2か月で本件各犯行

<原審>
①被告人の姉の監護能力は十分なものといえない
②他に被告人の監護者として適切な者も見当たらない
③被告人のこれまでの生活状況等

被告人に対して実効性のある社会内処遇が適切に実施できるといえるのか疑問⇒
刑の一部執行猶予を付することなく、懲役1年4月の全部実刑

<判断>
懲役1年4月に処したのは相当
but
被告人の姉の監督能力が低いとはいえず、一定程度期待することができる今後の被告人の生活状況に関して特に更生を妨げるような事情は認められない被告人の更生意欲が乏しいともいえない ④被告人の日本語能力を前提にしても実施できる範囲で教育課程を実施することは可能と考えられ、簡易薬物検出検査と併せ同プログラムを受ける機会を与えることが、被告人の再犯防止に必要かつ相当

刑の一部執行猶予の必要性及び相当性の評価を誤った原判決は破棄を免れない

<解説>
刑の一部執行猶予の制度:
「実刑の特別予防の観点からのヴァリエーション」であり、
その適用の可否は、
懲役または禁錮3年以下の実刑相当性を前提に、
再犯防止のための必要性・相当性の要件について、
再犯のおそれ
社会内処遇の有用性
社会内処遇の実効性 という3つのステップによって判断。

 

薬物法による刑の一部執行猶予は、保護観察を付すことが必要的(薬物法4条1項)。

 

刑法による刑の一部執行猶予は、保護観察は任意的(刑法27条の3第1項)が、一部執行猶予の判断の第2ステップにおいて想定した処遇の多くが保護観察を実施することを前提とするものと考えられる⇒保護観察を付することとなることが多い。
but
①重度の精神障碍者又は重度の知的障害者
②日本語を理解できない者などは、
保護観察の実効性という観点から、保護観察所における専門的処遇プログラムから除外されている。

 

判例時報2392

 

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2019年3月25日 (月)

不正競争防止法(平成27年改正前)2条1項13号の不正競争(品質誤認表示)における「品質、内容・・・について誤認させるような表示」

大阪地裁H29.3.16

<事案>
X:地域ブランド品の研究開発、アンテナショップの運営等の事業を行う特定非営利活動法人
Y:組合員の事業の用に供する販売店等の共同施設の設置及び維持管理に関する調査研究等の事業を行う組合で、Y商品に「工楽松右衛門」等のY各表示を表示して、店舗における展示、販売などを行っている。
Xが、Yに対して、Yの行為は、平成27年改正前の不正競争防止法2条1項13号に該当するとして、Y各表示の表示行為、Y商品の販売等の差止め、不法行為に基づく損害賠償等を求めた。

<規定>
不正競争防止法 第二条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

 

十四 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

<解説>
不正競争法は、商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」をする行為を不正競争を定義し、差止や損害賠償の対象としている(3条1項、4条)。

<争点>
Y各表示に含まれる「松右衛門帆」ないし「松右衛門」が行楽松右衛門が創製した帆布の品質ないし内容を示す普通名詞として一般に広く通用しているか?

<判断>
本件で問題となっている商品である帆布の種類等、「松右衛門帆」「松右衛門」に関する文献等に基づいて認定した事実を示した。

 

不正競争法2条1項14号におけるある表示が商品の『品質、内容・・・について誤認させるような表示』といえるためには、当該表示が商品の品質や内容を示す表示であると一般に認識されることが必要

 

他方、本件において、Y各表示は、Y商品に用いられている帆布の種類や内容を示すものであることを明示して使用されているわけではない。

 

結論として、需要者の認識を踏まえれば、「工楽松右衛門」等のY各表示に接した需要者が、それがY商品の品質や内容を示す表示であると認識することは認められない⇒それらが商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」に当たるとはいえない

 

「松右衛門」との表示は、一種のブランドとして認識されることも十分あり得るが、その場合に、その古風な人物名から伝統ある高品質なイメージを生じさせ得るとしても、それは、出所表示に由来する抽象的なブランドイメージにすぎず、そのことをもって、Y商品が一定の内容を有する特殊な帆布で作られたとの認識や、Y商品が工楽右衛門なる人物によって考案ないし製造された帆布で作られたとの認識を需要者に一般的に生じさせるということはできない⇒Y各表示が、商品の「内容」についての表示であるということもできない。

<解説>
不正競争法2条1項14号は、商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」をする行為を不正競争と位置づける。

 

「品質」を誤認させるような表示であると判断された過去の裁判例:
品質の担保が公的機関の認定等に関わるものであったり、
品質の担保に関わる数値が問題とされたものが多い。
ex.
①酒税法上「みりん」とは認められない液体調味料に「本みりん」であるかのように表示
②国や公的機関等による認定・保証があるかのように表示
③ろうそくの燃焼等に発生する煤の量等に関する誤認表示

使用された表示そのものが、商品の品質や内容を示す機能を果たすことについて、争われてはいない。
本件では、使用された表示そのものが、商品の特定の品質や内容を示す機能を果たすのかどうかが問題

 

本判決の考え方:
ある表示が、需要者の間において、商品の品質や内容を示す表示であると一般に認識されるに至れば、不正競争法の規律が適用される。

ある表示について、ある商品の需要者以外の者が特定の商品の品質やない世を示す表示と認識していたとしても(ex.船舶関係の学術書の執筆者や読者)、それを異なる品質を備えた商品に使用することは、必ずしも不正競争法の規律に抵触しない。
but
種類や内容を示すものであることを明示して使用した場合は、別論

 

判例時報2392

 

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2019年3月21日 (木)

特許法102条2項の推定覆滅についての判断

東京地裁H30.3.1

<事案>
発明の名称を「ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット」とする2件の特許権(X特許権1,2)を有していたXが、
①Y製品を輸入してY1に販売するY2に対し、X特許権1,2の侵害を理由として(選択的併合)、損害賠償金1億5545万7627円及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
②Y製品を販売するY1に対し、X特許権1,2の侵害を理由として(選択的併合)、損害賠償金3億3443万3199円及び遅延損害金の支払を求めた事案。

<規定>
特許法 第一〇二条(損害の額の推定等)

 

特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

 

2特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する

 

3特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

 

4前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

<解説・判断>
●2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益の額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、
特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、2項の適用が認められると解すべきであり、
特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。

 

覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮要素としては、
侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合
営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、
侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結び付く当該特許発明以外の特徴等)等 が挙げられることが多い。

 

●本判決:
侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合(実施割合)に基づく推定覆滅率を25%、
その他の考慮要素(一般的要素)に基づく推定覆滅率を25%とし、
合計50%の推定覆滅を認めた。

 

●2項の推定覆滅を巡っては、推定覆滅率の算定過程が検証し難く、いかなる事由があればどの程度の推定覆滅が認められるかを予測することが困難であるといわれることがある。
but
推定覆滅の考慮要素の一部には当該要素自体が数値化できるものもあり、少なくともそうしたこうっ要素に係る覆滅の定量化過程を客観化することができれば、当事者から見た紛争処理の予想可能性は高まる。

 

本判決:
推定覆滅事由を
①実施割合と②それ以外の一般的要素に分け、

 

①の実施割合について、
対象製品の同梱品の価値がパッケージ全体の価値に占める割合を数値として認定した上で、当該割合に従って特許発明の実施部分の割合を算出することで推定覆滅率を算出、

 

②それ以外の一般的要素については、
侵害者のブランド力、広告宣伝活動、独自の販売及び取引先等を認定した上で、これらの諸事情を総合して推定覆滅率を算定するという手法によって推定覆滅率を求めている。

比較的、定量化過程の客観化になじみやすいと考えられる考慮要素(①の実施割合)に係る推定覆滅率をそれ以外の考慮要素(②の一般的要素)とは独立に算定することで、推定覆滅率を定量化する過程の一部を客観化しようとした試み。

●特許権者の実施品の競合品が被告製品以外にも市場に多数存在
⇒被告製品の売上がなかったとしても、それが直ちに当該実施品の売上の増加につながらない(すなわち、被告製品以外の競合品に需要が流れる可能性がある)
⇒当該実施品及び侵害品を除く競合品の市場占有率(シェア)が相当程度高いという事情は、推定覆滅事由の1つに当たる。

 

本判決では、被告ら以外にも相当数の事業者が競合品の販売等に算入したと認定されているが、推定覆滅事由として同事情を考慮すべきでないと説示。

被告らの自認に基づき、市場に存在する被告製品以外の競合品が全てX特許権2の侵害品である認定されたため。

 

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2019年3月20日 (水)

卓球部員の転落事故につき、顧問の注意義務違反あり⇒国賠請求肯定

広島地裁H30.3.30

<事案>
Y(広島県府中町)が設置する町立D中学校の女子卓球部に所属していたX1が女子卓球部の練習場所であった校舎の廊下の窓から転落

女子卓球部の顧問であったP1教諭には安全措置を講じる注意義務の違反があったなどと主張し、国賠法1条1項に基づき、
選択的に、営造物である校舎の管理に瑕疵があったと主張して、同法2条1項に基づき、
Y1に対し、
X1が1億4639万円余の損害賠償を、
X1の両親であるX2及びX3が各自100万円の損害賠償を、
求めた事案。

<判断>
●本件事故の態様
●顧問のP1教諭の注意義務違反の有無
部活動の担当教諭は、教育活動の一環として行われる学校の課外の部活動においては、受け持つ生徒の安全を保護すべき義務を負う。
①・・・・下段の窓を開けた状態で下段の窓枠に上がった場合には足を滑らせたりバランスを崩して本件廊下の外側に転落する危険性が高い
②顧問P1でさえ、日常的に、本件廊下の上段の窓を開ける際は、開いた状態の下段の窓枠に上って上段の窓枠を開けていた
③P1教諭が本件事故当日に女子卓球部員に対し本件廊下の上段の窓を開けるよう指示した

P1教諭は、女子卓球部員が下段のン窓を開けた状態で下段の窓枠に上がる可能性が高いこと、ひいては、女子卓球部員が下段の窓枠に上がった際にバランスを崩して本件廊下の外側に転落する危険性が高いことを具体的に予見することができた
P1教諭には、女子卓球部員に本件廊下の上段の窓を開ける指示をする際には、下段の窓を閉めた上で窓枠に上がるよう指導したり、脚立等の高所作業用の道具を使用するなど、転落を防止する措置を採った上で作業をするように指示すべき義務があるにもかかわらず、これを怠った注意義務違反がある。

●過失相殺
①X1は、P1教諭が普段から行っている行動を参考にして下段の窓枠に上がったと考えられるところ、本件事故発生当時、中学2年であり、危険を回避するための判断能力を十分に有していたとはいえない ②X1が体勢を崩さないための動作をしなかったと認めることはできない
本件事故について過失相殺をするのは相当でない

判例時報2392

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2019年3月19日 (火)

サッカーの社会人リーグにおける接触・負傷事故で、不法行為が認められた事案。

東京地裁H28.12.26

 

<事案>
サッカーの社会人リーグにおけるプレー中の選手同士と相手チームの代表者の責任が問題となった事案。

 

<争点>
①Y1の故意・過失の有無
②違法性阻却の成否
③損害の発生・額
④過失相殺の当否

 

<判断>
●争点①
Y1が故意にXの左足を狙って本件行為に及んだとまでは断定できない
but
Y1が膝の辺りの高さまでつま先を振り上げるようにして、足の裏側をXの下腿部の位置する方に突き出しており、そのような行為に及べば、具体的な接触部位や傷害の程度はともかく、ボールを蹴ろうとするXの左足に接触し、Xに何らかの傷害を負わせることは十分に予見できた。
⇒Y1はXとの接触を回避することも十分可能
⇒Y1に過失があった

 

●争点②
サッカーの試合に出場する者は、選手間の接触による危険を一定程度は引き受けて試合に出場しており、たとえ故意又は過失により相手チームの選手を負傷させる行為をしたとしても、社会的相当性の範囲内の行為として違法性が否定される余地がある。
国際サッカー評議会が制定するサッカー競技規則の内容を紹介し、
Y1の本件行為は主審によりファウル、反則行為と判定されていないこと等
⇒競技規則上想定されていない行為とはいえない。
but
本件行為は危険性の高い行為であり、必要な行為であったかは疑問であり、十歳な傷害が生じた
Yのの本件行為は社会的相当性を超える行為であり、違法性は阻却されない。

 

争点③について
保険金の支払による損益相殺を経た後、247万4761円の損害を認め

 

争点④について、過失相殺を否定。

 

Y2の指導監督義務違反を否定。
Y1に対する請求を一部認容し、
Y2に対する請求を棄却。

 

<解説>
プロスポーツ、あるいは社会人等の専門的な技能、経験を有する者のスポーツにおいては、競技に伴う危険を引き受けてスポーツに参加しており、あるいは競技のルールに従って競技が行われている
競技者の負傷事故が生じたとしても、競技者の故意・過失が否定され、行為の社会的相当性が認められるのが通常
公的な団体、競技団体の制定に係る競技のルールがある場合には、ルールの内容、趣旨、違反の危険性等は多様なものがある。

 

このルールに従って競技が行われているときは、ルール上の反則行為に該当しないし、不法行為上も違法にならないだけでなく、
ルールに違反したときであっても、直ちに不法行為上違法になるものではなかろう。
競技のルールについては、個々の規定ごとにその内容、趣旨(競技者の保護を目的とするか等)、違反の危険性等の事情が異なる。
これらの事情を考慮し、ルール違反の内容・程度が著しいかどうか等が検討される必要がある。

 

競技ルールの違反の有無、程度は、各スポーツの専門家の意見等を重要な情報として参考に判断することは重要であり、
法律の専門家の見解を重視するだけでは、適正な判断基準といい難いし、不当にスポーツ参加者を萎縮させるおそれもある。

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2019年3月17日 (日)

地面師詐欺事件で(前件申請の問題点について)司法書士の責任が認められた事案

東京高裁H30.9.19      
 
<事案>
いわゆる地面師詐欺事件に伴う事案で、被害者であるX(土地の買主)から、Xが所有権移転登記を委任した司法書士(Y2)に対する損害賠償請求事件
本件前件申請を弁護士Y1の法律事務所を実質的に支配する元弁護士のTに(Tが弁護士Y1の名義で行うことを)依頼し
本件後件申請は飼い主が依頼した司法書士Y2に行わせることにした。
 
<解説>
不動産登記の連件申請:
甲⇒乙⇒丙へと転々売買が行なわれた場合において、
①甲⇒乙の所有権移転登記申請(「本件前件申請」)と
②乙⇒丙の所有権移転登記申請(「本件後件申請」)を
同時に行うこと。
①が却下されれば、②も自動的に却下される
 
<問題点>
本件後件申請の代理人が、自らが直接又は委任ていない本件前件申請の添付書類その他の問題点の有無について、自らの委任者である本件申請の申請人(特に権利義務者)に対して、どの程度の注意義務を負うか 
 
<一審>
XのY1に対する請求を全部認容
XのY2に対する請求を全部棄却

Y1に対する判決は確定。
 
<Y2の責任>
一審:
本件後件申請の代理人(司法書士Y2)は、本件前件申請の代理人がその職務を明らかに果たしていない等の特段の事情のない限り、本件前件申請の書類の真偽の確認義務を負わない。 
Tが印鑑証明書を真正なものとして最終的にY2に交付⇒Y2に義務違反はないと判断。

控訴審: 
本件前件申請が無資格者によって行われ申請代理人たる弁護士Y1が全く関与してない⇒弁護士Y1に直接接触すべきであった
②本件前件申請に添付された印鑑登録証明書の偽造の疑いが解消されたかどうかを確認していない

本件後件申請の代理人(司法書士Y2)には職務遂行上の過失があり、依頼者であるC2社及びXに賠償責任を負う

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2019年3月16日 (土)

離婚無効確認訴訟の国際裁判管轄が問題となった事案

東京高裁H30.7.1      
 
<事案>
離婚無効確認訴訟の国際管轄が問題となった事案 

日本で婚姻後米国に移住に米国に帰化(いずれも日本国籍離脱届未了)
米国籍取得後に妻に無断で夫が日本方式の協議離婚届けを提出
夫に遺棄されて日本に帰国したと主張する日本在住の妻が、夫の死亡後に日本の検察官を被告として提起した離婚無効確認訴訟(夫の再婚相手であり日本から米国に帰化した米国在住の女性が被告を補助するため訴訟参加)
 
<判断>
第1審:わが国の国際裁判管轄を否定して訴えを却下

控訴審:わが国の国際裁判管轄を肯定して第1審判決を取り消し、審理を第1審に差戻
⇒上告受理申立てで最高裁に 
 
<解説>
離婚訴訟の国際裁判管轄についての最高裁判決
日本に国際裁判管轄権を認めるには被告の住所がわが国にあることを原則とすべきであるが、、例外的に原告が被告の住所地国の裁判所に離婚訴訟を提起することについての法律上、事実上の障害の有無・程度や当事者間の公平なども考慮して条理に従い決定するのが相当な場合もあり、相手方配偶者に遺棄された原告の住所がわが国にある場合などには日本に国際裁判管轄を認めるのが相当である。(最高裁昭和39.3.25、H8.6.24等) 

本件のような離婚無効確認訴訟の国際裁判管轄権についての判例はない。
but
離婚訴訟と同様に考えていくべき。

平成31年4月1日から施行される改正人訴法の新3条の2は、人事訴訟が日本の国際裁判管轄に属することとなる場合を明文で定める。

改正人訴法の新3条の2の第7号が定める日本の国際裁判管轄を肯定するための要件のうち
「日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき」については、法制審議会の部会では、従前の最高裁判所の判例の趣旨に沿うような解釈が適当という考えで一致。

新3条の2施行後も、原告が遺棄されて日本に住所を有するような場合には、本件ど同様の結論が出されることになろう。

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2019年3月15日 (金)

青酸(シアン)連続不審死事件で死刑判決

京都地裁H29.11.7      
 
<事案>
京都、大阪、兵庫で起きた青酸(シアン)連続不審死事件
被告人(判決時70歳)が、資産家の男性と結婚等をし、その後男性が死亡することが繰り返された事件
起訴された4件(殺人3軒、強盗殺人未遂1件)につきいずれも有罪と認定し、求刑通り死刑。
 
<判断・解説>
●情況証拠による有罪認定 
◎事件性の認定 
第1、第2、第4はいずれも被害者が死亡し、その死因はシアン中毒死とされた。

①血液からシアンが検出されたもの(第1、第2)
②搬送時に内窒息状態(細胞が酸素を使ってエネルギーをつくれなくなる状態)であったことを前提に、除外診断によりシアン中毒に絞り込み、被告人の捜査段階の自白も合わせたもの(第4)

口腔にびらん(軽度溶解)がないこと等⇒被害者はカプセル等に入ったシアン化合物を服用したと認めた。

第3は、被害者が全治不能の高次脳機能障害等を負った
シアン中毒によるものと認定

①搬送時に内窒息状態
②被告人の捜査段階の自白
事故及び自殺の可能性を否定⇒事件性を認定

◎犯人性の認定 
被告人の近辺の土中から、通常入手困難なシアン化合物が発見されており、被告人は各犯行時、シアン化合物を所持しており、これをカプセルに詰め替えることができた
②被告人は各被疑者に、疑いを持たれることなくカプセルを飲ませることができる関係にあった
⇒犯行可能

各被害者がシアン化合物を服用してから中毒を発症するまでの時間が、2、30分以内⇒服用前後の時間帯に一緒にいたと認められる

①被告人は、各被害者の死亡以前からその遺産取得に向けた行動をとっていた
被害者から約4000万円の債務を負っており、これを返済することは困難であった

●本判決の手法の評価 
情況証拠による事実認定については、最高裁H22.4.27が、
情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要する

本判決:各事実につき
被告人が犯人でないとしたら、被告人以外の第三者が、犯行可能性が極めて乏しい中で犯行を行ったことになるが、このような想定は合理性を欠く
「類似事実による犯人性の認定」は採用しなかった。

●認知症による訴訟能力、責任能力への影響 
◎被告人の認知症り患 
精神鑑定によれば、被告人は平成27年頃からアルツハイマー型認知症を発症
but
鑑定時(平成28年9月)には、認知症と判断するか迷うくらいの軽症で、平成25年12月当時(第1事件)は、認知症その他の精神疾患に罹患していなかったと認められる。

①平成25年12月頃のメールのやりとり
②遺産取得に向けた一貫した計画的な行動をとっていたこと
⇒当時認知症を発症していたとは認められない。

◎各犯行時の責任能力 
認知症は進行性の病気⇒同時期以前にも認知症に罹患していなかったと認められる⇒各犯行時に完全責任能力あり。

◎訴訟能力 
①認知症が軽症
②公判廷での応訴態度
⇒被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をする能力を有する。

●手続2分論的な審理の採用 
公訴事実ごとに、犯罪事実の存否に関する立証を行った後に、中間論告、中間弁論を行い、全ての公訴事実につきこれを終えた後に、日を改めて、情状に関する証拠調べを行う。

●死刑判断
①事故の金銭欲のために人の生命を軽視するという非常に悪質な罪質
②落ち度の全くない3名の被害者の死亡、1名の重篤な障害という重大な結果
③巧妙かつ卑劣で計画的な犯行態様など
④結果につき、約6年間という短期間に4回も反復して行われており、その都度、人の生命を軽視して犯行に及んだという点で、各犯行が1つの機会になされた場合と比べても、より強く非難される

死刑

判例時報2391

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2019年3月14日 (木)

事件性・犯人性が争われた死刑判決事案

横浜地裁H30.3.22      
 
<事案>
介護施設職員であった被告人が、その勤務する施設で、約2か月の間に入居者3名を次々と高所から転落させて殺害した事案。 
 
<解説>
●間接事実からの総合考慮 
◎事件性:
各被害者の身体能力や精神状態、転落したベランダの構造等⇒
第2事件及び第3事件の各被害者については、自らベランダを飛び越えた可能性はなく、殺人事件であると認められる
第1事件も殺人事件である可能性が極めて高い

◎犯人性:
第1事件ないし第3事件が約2か月という短期間に生じている⇒同一犯による犯行である可能性が高い
①本件施設内部や各居室の施錠状況、各犯行当日の夜勤の状況などの客観的な事実の検討⇒部外者や入居者家族、被告人以外の職員等の犯行は困難
②被告人が被害者のV2及びV3について、第2事件及び第3事件以前に、「そろそろ危ない、次落ちる。」などと犯行を予告するような発言をしていた
母親や妹に「自分がやったんだ。」などと犯行を告白する内容の発言

第3事件については、被告人が犯人であることについて疑念を挟む余地はなく、
第1事件及び第2事件についても、更に被告人に対する嫌疑は高度なものとなるといえ、特段障害となる事情が見当たらなければ犯罪成立を認めて差し支えない程度にまで、被告人が犯人であるという強力な推認が働く

続いて犯人性の認定について障害となる事情が存在するかという観点から捜査段階での自白及び公判供述の信用性を検討。
 
●取調べ録音録画記録媒体について 
◎近時の裁判例:

・検察官から実質証拠として取調べ請求がされた録音録画記録媒体について、取調べの必要性を否定して請求を却下した原審の証拠決定が、裁判所の合理的な裁量を逸脱したものとは認められないとされた事例

・取調べ録音録画記録体を見て自白の信用性を判断することには強い疑問があるとし、再現された被告人の供述態度等から直接的に被告人の犯人性に関する事実認定をおこなった原判決を破棄・自判した事例(今市事件控訴審判決)

◎本件:
被告人の自白調書等の信用性判断のため録音録画記録媒体が採用

信用性の評価の外形的事情:
①取調べ担当警察官が、高圧的な態度をとったり、厳しく問い糾したりしていく場面はみられない
②終始オープン・クエスチョンの形式により進められている
③被告人の応答状況も身振り手振りを交えた自発的かつ円滑なものであって、問いかけに対しても、そのまま同調するものではなく、記憶にないところはその旨応答

供述内容:
①自白に至った心情や遺族への気持ち、被害者らを殺害の対象とした動機について詳しく述べている
②具体的かつ迫真的な供述部分が見られる
③客観的な施錠状況等と完全に符合する内容の供述
~自白の信用性を高める事情

前段:再生によって確認された自発的な供述態度をもって信用性を肯定しているだけではないか?
後段の客観的事情との整合性等:信用性判断としてはやや内容に踏み込みすぎであり、実質証拠との境界が曖昧ではないか?
 
●死刑選択の理由 
氷山基準:
①犯行の罪質、
②動機
③態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性
④結果の重大性ことに殺害された被害者の数
⑤遺族の被害感情
⑥社会的影響
⑦犯人の年齢
⑧前科
⑨犯行後の情状等
を考慮し、その罪質が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には死刑選択が許される

本判決:
何ら落ち度のない3名もの尊い命を奪ったという結果(④)
遺族の峻烈な処罰感情(⑤)
高所から、まるで物でも投げ捨てるかのように転落させたという冷酷な犯行態様(①③)
犯行を隠ぺいする工作(⑨)
日々の業務から生じていたうっ憤や自己顕示のためという動機(②)
一定の計画性があること

これらを総合考慮すれば、複数名を殺害した事案の量刑傾向に照らしても、本件事案の重大性、悪質性は際立っており、被告人の罪質は誠に重大なものといわざるをえない
⇒死刑

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2019年3月12日 (火)

てんかんの発作により意識障害で自動車事故⇒危険運転致死傷罪の故意を認めた事案

東京高裁H30.2.22      
 
<事案>
てんかん発作⇒意識障害の状態に陥り、自車を急発進させて歩行者5人に衝突し死傷させた⇒危険運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律3条2項)の故意を認めた 
 
<解説> 
●てんかんの発作 
てんかんは脳の慢性疾患であり、脳の神経細胞に突然発生する激しい電気的興奮(過剰な発射)による発作を繰り返す。

①原因不明とされる突発性てんかん
②脳外傷や髄膜炎等により脳が傷害を受けたことによる症候性てんかん

①過剰な電気的興奮が脳の一部だけで起きる部分発作
②全体におきる全体発作

抗てんかん薬の内服などによる治療⇒神経細胞の過剰な活動を抑え、発作を起こりにくくする。
 
●運転中の発作による交通事故 
心神喪失時の行為であったと判断されることが多い
てんかんの発作が起きる前の段階、すなわち運転開始時点において運転を差し控える義務を設定し、この義務を怠ったとして過失行為を認定した例も多い

①医師から運転をしないよう指導を受けていた
②運転開始前に運転者自身がてんかん発作の予兆を感じていた
 
自動車死傷法3条の罪
平成25年11月、自動車死傷法が制定され、その第3条では、自動車の運転をする者が、その後の走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態になっている場合に、そのことを認識して運転を開始し、走行中に正常な運転が困難状態に陥って事故を起こし、人を死傷させる行為を処罰

第1項:アルコール又は薬物の影響(多くの場合、自らの意思で摂取)による正常な運転に支障が生じるおそれがある場合を規定
第2項:病気の影響(自らの意思によるものではない)による場合を規定

委任を受けた同法施行令3条2号は、「意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)」と規定

この罪の故意:
運転者において、病気の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがあると認識することが必要
but
その病気に特有の症状が認識されていれば足り、具体的な病名の認識までは必要はないとされている。

道交法:
運転免許の許否(90条1項1号ロ)や取消し等(103条1項1号ロ)の事由として「発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気」を定めているところ、
委任を受けた同法施行令(33条の2の3台2項1号、38条の2第2項)は、
「てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)」と規定。

運転免許の更新時には、病状等に関する質問票に記載して、病状を正確に申告することが求められている(虚偽記載についての罰則も定められた。)。
 
<主張>
検察官:
主位的危険運転致死傷(自動車死傷法3条2項)
予備的過失運転致死傷罪(運転避止義務違反)の訴因を設定。 

被告人:
発進時・発進後に、病気の影響により、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であったことを認識していなかった⇒故意を否認

主治医から運転を禁止されたことはなく、当日も特段の疲労を感じておらず、直前まで正常な運転を続けていた⇒運転避止義務はなかった
 
<原審>
被告人が事故前の約3年間で複雑部分発作を4回起こした
←それぞれの数日~数週間後に被告人が医師に受診した際のカルテの記載(被告人が申告した内容に基づいて、前兆やもうろう状態等の所見が記載)

被告人自身が
①これらの発作で意識障害が生じていたこと
②抗てんかん薬を処方どおり服用していても疲労等の要因により複雑部分発作が起き得ることを認識。

本件当日も長距離の運転で疲労が蓄積していたところ、異臭感を感じた直後に運転を開始した時点で、その後の走行中に複雑部分発作を起こして意識障害に陥る危険性を認識していたと認定

危険運転致死傷罪の故意を認めた。
 
<控訴審>
てんかんにより意識の混濁やもうろう状態を含む意識障害が生じたかに焦点を当て、複雑部分発作自体ではなく、複雑部分発作が起きた可能性が高い意識障害が生じたと認めることで十分。 
 
<裁判例>
単純部分発作を起こした後の時点での実行行為と故意という予備的主張について、前兆を感じてから体が動かなくなるまでの数十mの間に路端に停車させ、結果を回避することが可能であった⇒前兆が発生した時点以降の実行行為と故意を認定した裁判例。 

衝突事故の3分前の時点での運転を実行行為として捉えて、少なくとも意識障害をもたらす発作が再発するおそれを有する何らかの病気により、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを認識していたとした裁判例。

①被告人はB地点で前兆を感じ、意識障害に陥るおそれにある状態にあると認識したものの、発作の影響により車を停止することはできなかった。
②A地点での実行行為について、被告人は、前兆とは異なる気持ちの悪さを感じて漠然と発作が起きるかもしれないと危惧間を抱いていたにせよ、発作が起きる具体的可能性には思い至っていなかった疑いがある。

無罪とした裁判例。

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2019年3月11日 (月)

発電用ダムを管理する電力会社の義務違反(肯定)と損害との因果関係(否定)

福島地裁会津若松支部H30.3.26      
 
<事案>
只見川に設置された複数の発電用ダムを管理する電力会社であるYらに対し、
Yらの過失により平成23年7月新潟・福島豪雨における只見川の洪水位が更に上昇する結果を招き、そのためXらの洪水被害が拡大⇒不法行為に基づく損害賠償を求めた。 
 
<争点>
Y1(東北電力株式会社)については、発電用の利水ダムの設置者として、ダム調整池(いわゆるダム湖)の河床に堆積した堆砂を 浚渫すること等により流域に洪水被害を生じさせないようにすべき注意義務を負っていたか

河床の堆砂が進行して水深が浅くなると、洪水の際に洪水位がせき上げられるバックウォーターと呼ばれる現象。
仮にY1が浚渫義務を負うとした場合に、その違反によってXらの被害が増大したといえるかどうかという相当因果関係の存否及び程度。

Y2(資源開発株式会社)については、上流で係留されていた浚渫用の作業船を過失により流出させ、その一部が下流ダムの洪水吐(放流用ゲート)を閉塞⇒当該ダムの調整池の推移が上昇⇒Xらの被害拡大の事実
 
<判断>   
●Y1について、利水ダムの設置者は堆砂を浚渫すること等により流域に洪水被害を生じさせないようにすべき注意義務を負うとした上で、Y1の浚渫義務違反を肯定。
but
Xらの被害の拡大との間に相当因果関係を認めるには至らない
⇒請求を棄却。

Y2については、流失した作業船が下流のダムの洪水吐を閉塞した事実を認めるに足りる証拠はない⇒請求を棄却。
 
●Xらは、Y1の浚渫義務の具体的な内容として、
①ダム建設当時の河床高まで浚渫する義務
②昭和44年当時の河床高まで浚渫する義務
を主張。 
自然河川においては、ダムが建設されなくとも浸食と堆積が繰り返され、時間の経過とともに河床の形状が変わっていくこと等⇒ダム建設当時の河床高を維持することを前提とする前記①の義務は認められない。

只見川の河川整備計画等における計画だか水流量は50年に1回の規模の洪水を想定して策定
②この水準の流量を安全に流下しないのであれば、洪水被害のおそれが認められる
昭和44年に只見川で発生した洪水の流量は、前記計画高水流量を概ね下回るものであったにもかかわらず、多くの洪水被害が生じた昭和44年当時の河床高のままでは更なる洪水被害のおそれを否定し得ない

Y1は、少なくとも昭和44年以降の堆砂の進行を食い止めるべく、前記②の義務を負っていた
 
●but
証拠上、Y1が昭和44年当時の河床高まで浚渫していればXらの主張する被害場所における物理的な浸水被害を回避し、又は軽減することができたと認めるには至らない。 

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2019年3月10日 (日)

貸金業者が本人に対し直接普通為替証書を送付することが弁護士に対する業務妨害とされた事案

金沢地裁H30.11.8      
 
<事案>
過払金返還請求訴訟での一部認容判決⇒Xの預り金口座に振り込むよう求める⇒Yは2度にわたりAに普通為替証書を送付⇒Yの行為はXに対する不法行為を構成すると主張し、損害賠償請求。 
 
<原審>
①一般に、債務者は代理人弁護士による弁済先の指定に法的に拘束されず、債務者が債権者本人に弁済しても有効であり、不法行為上当然に違法にはならない
過払金返還判決は弁済方法について定めず、弁済方法の合意も成立していない⇒Yは前記指定に法的に拘束されない反面において、Xには指定につき権利・法律上保護される利益を有するとはいえず、各弁済は有効
Yは債権者本人に直接過払金を返還しても違法行為にはならない旨をXに回答した上で第2送金を行っており信義則にも反しない
⇒Xの請求を棄却 
 
<上告審>
貸金業者は、債務整理を受任した弁護士が債務者から依頼を受けて預り金口座を過払金の返還先として指定した場合には、依頼者との委任関係が疑われるなどの特段の事情のない限り、信義則上、これに応ずべき義務を負うところ、同義務に違反して指定された口座への入金を拒絶したときは、債務整理業務を妨害するものとして違法性を有し、不法行為を構成する。
 
<判断>
Xの附帯控訴に基づき原判決を変更し、Yに損害3万円と遅延損害金の支払を命じた。 
・・・・
Xは事前の申し入れにもかかわらずYが第一送金をしたため、異議を申し入れる趣旨の通知書を内容証明郵便で差し出したが、この作成発送手数料(3万円)と郵送料・印刷代(1862円)及び弁護士費用(3000円)は相当因果関係のある損害と認められ、内金請求の限度である3万円の請求は全部理由がある

慰謝料は、特段の事情がない限り、財産損害が賠償されれば精神的損害も回復したとみるのが相当⇒認められない。
 
<解説>
原々審判決は、精神的損害の主張しかされていない⇒慰謝料5000円を損害と認めている。 

損害の認定について
①熊本地裁人吉支部H22.4.27:
貸金業者があえて弁護士の指示に従わず、顧客の預金口座に過払金を振り込んだ場合において、同振込みに不安を感じた顧客と弁護士の間で一連のやりとりがされるなど、余計な労力と時間が費やされたことに係る精神的損害が発生
⇒慰謝料を損害として肯定。

②宮崎簡裁H24.11.28:
貸金業者に対し過払金を弁護士の口座に振り込むよう求めているのに本人の口座に振り込まれた場合に、本人には不安を覚えたことにつき慰謝料を認め、弁護士には、業務上看過できない一定程度の負担を負ったことの損害(無形損害)を認めた
~何を損害として構成するかという問題。

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2019年3月 9日 (土)

強制執行が目的達成せずに終了した場合の執行費用の負担

さいたま地裁越谷支部H30.3.7      
 
<事案>
債権者Xの申立てにより債務者Y1及び債務者Y2の占有する建物の明渡しの強制執行が開始され、執行官が明渡しの催告⇒Y1及びY2において本件建物を明け渡した⇒Xが前記明渡しの強制執行を取り下げた

Xが、民執法20条の準用する民訴法73条1項の規定に基づき、前記明渡しの強制執行の執行費用をY1及びY2の負担とすることを申し立てた。 
 
<規定>
民執法 第20条(民事訴訟法の準用)
特別の定めがある場合を除き、民事執行の手続に関しては、民事訴訟法の規定を準用する。

民訴法 第73条(訴訟が裁判及び和解によらないで完結した場合等の取扱い)
訴訟が裁判及び和解によらないで完結したときは、申立てにより、第一審裁判所は決定で訴訟費用の負担を命じ、その裁判所の裁判所書記官はその決定が執行力を生じた後にその負担の額を定めなければならない。補助参加の申出の取下げ又は補助参加についての異議の取下げがあった場合も、同様とする。
2 第六十一条から第六十六条まで及び第七十一条第七項の規定は前項の申立てについての決定について、同条第二項及び第三項の規定は前項の申立てに関する裁判所書記官の処分について、同条第四項から第七項までの規定はその処分に対する異議の申立てについて準用する。

民訴法 第62条(不必要な行為があった場合等の負担)
裁判所は、事情により、勝訴の当事者に、その権利の伸張若しくは防御に必要でない行為によって生じた訴訟費用又は行為の時における訴訟の程度において相手方の権利の伸張若しくは防御に必要であった行為によって生じた訴訟費用の全部又は一部を負担させることができる。
 
<解説> 
強制執行がその目的を達成せずに終了した場合の執行費用の負担について

最高裁H29.7.29:
債権者が、確定判決の正本に基づき、賃料相当損害金を請求債権として債務者の有する不動産の共有持分に対する強制競売手続を申し立て、同手続が開始されたところ、債務者が民法494条に基づき同請求債権に係る弁済金を供託した上で、当該供託により同請求債権が消滅したとして提起した請求異議の訴えについて、これを認容する判決が確定し、当該確定判決の正本が執行裁判所に提出されたため、前記強制競売手続が取り消された事案:
既にした執行処分の取消し等により強制執行が目的を達せずに終了した場合における執行費用の負担は、執行裁判所が、民事執行法20条において準用する民訴法73条の規定に基づいて定めるべきものと解するのが相当」 
請求異議の訴えにかかる請求が認容された理由が、強制競売の開始決定後に債務者が弁済供託をしたことにより同強制競売に係る請求債権が消滅したというものという事情の下では、
民執法20条において準用する民訴法73条1項の裁判の申立てを受けた執行裁判所は、上記強制競売が終了するに至った事情を考慮して、同条2項において準用する同法62条の規定に基づき、同強制競売の執行費用を抗告人の負担とする旨の裁判をすることができる
 
<判断> 
①本件明渡執行事件はXの取下げにより終了したものであるが、それは、本件明渡執行の手続において、執行官が、本件建物を専有していたY1及びY2に対して、明渡しの催告(民執法168条の2第1項)を行ったのを受け、同人らが本件建物を明け渡したという事情によるもの。
②このような場合、Xによる本件明渡執行事件の申立ては、民訴法73条の準用する同法62条の「行為の時における訴訟の程度において相手方の権利の伸長・・・に必要であった行為」に当たるものと考えることができる。

民執法20条、民訴法73条2項、同法62条により、本件明渡執行に係る執行費用の負担をY1及びY2に負担させた。

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2019年3月 8日 (金)

米国法人のグーグル検索サービスでの検索結果削除請求(否定)

東京高裁H30.8.23      
 
<事案>
X:インターネット上における広告業務及び広告代理業務等を目的とする株式会社
Y:インターネットで検索サイト(グーグル)を管理、運営する米国法人 
 
<主張>
①Yが管理運営する日本向けグーグル検索サービスにおいて、検索すると本件検索結果が表示される。
本件検索結果は、XないしXの代表取締役がXの事業として詐欺商材を販売し、詐欺行為をしているの事実を摘示している
③②の事実摘示は、Xの社会的評価を低下させるものであり、名誉毀損が成立する。

Xが、人格権に基づき、日本向けグーグル検索サービスにおける本件検索結果の削除を求めた。
 
<原審>
本件検索結果は、Xの社会的評価を低下させるもの。
but
その表現行為は、公益を図る目的のものであり、
これらの摘示事実が真実でないと認めることができない


Xの請求を棄却。 
 
<判断>
①本件検索結果で摘示された事実が真実でないことが明らかであると認めることはできない
②Xの「詐欺」、Xの代表者の「詐欺師」は反事実であり、これが表示されたままでは回復困難な損害が生じる「おそれ」がある旨のXの主張は採用することができない。
と付加訂正するほか、原判決の理由を引用し、Xの請求を棄却すべきものとした。 
 
<解説>
名誉毀損行為に対する差止請求権の有無及びその根拠については、実定法上明文の規定がなく、すべて民法の解釈に委ねられている。 

人格権としての名誉権に基づく出版物等の事前差止めは、
①その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的でないことが明白であって、かつ、
被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに限り、
例外的に許される。

最高裁H14.9.24(「石に泳ぐ魚」事件):
侵害行為によって受ける被害者側の不利益
侵害者側の不利益とを
比較衡量して決すべき。

侵害行為が明らかに予想され、
その侵害行為によって被害者が重大な損害を受けるおそれがあり、かつ、
その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときに、侵害行為の差止めが許される。

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2019年3月 7日 (木)

固定資産課税台帳に登録された土地の価格と当該土地に接する街路の性質についての市長の判定の意味

最高裁H30.7.17      
 
<事案>
京都市所在の四筆の土地につき、これに接する街路が建基法42条1項3号所定の道路に該当することを前提として決定された平成21年度の価格の適否が争われた事案。 

建基法43条1項本文は、建築物の敷地は道路に2m以上接しなければならないとする接道義務を定めており、同法42条が道路の定義を定めているところ、
本件街路が3号道路に該当するためには、
本件街路が所在する区域について同法第3章の規定が適用されるに至った昭和25年11月23日時点で、本件街路が幅員4m以上の道として存在したことが必要。

京都市では、ある道が建基法上の道路に該当するか否かについて判定の依頼があったときは、これを調査した上で、市長が判定をする扱い。
京都市長は、平成18年11月8日、本件街路が3号道路に該当する旨の判定。

<主張>
Y(京都市):
本件街路が3号道路の要件を客観的に満たしている。
本件道路判定は行政処分に当たり、これについて取消訴訟を提起せずにその適否を争うことはできない。 
 
<判断>
道路判定は行政処分に当たらない。 
建築確認に際し、建築主事等が道路判定と異なる判断をすることは妨げられず、本件街路が3号道路となる要件を客観的に満たさない場合には、本件道路判定がされていても、建築主事等は、本件各土地が3号道路に接していることを前提とした建築確認をすることはできない
⇒原判決を破棄し、本件を原審に差し戻し。
 
<解説>
●評価基準における街路の42条道路該当性の位置付け
評価基準の定める市街地宅地評価法においては、土地の接する街路が42条道路に該当するかどうかなどについて考慮すべきものとする明示的な定めはない。
but
接道義務を満たさない土地については、原則として同土地上に建築物を建築することにつき建築確認を受けることができず、これを受けるためには、接道義務を満たすような措置を講じたり、特定行政庁の許可を受けたりする必要
②このような利用上の制約があることが、当該土地の減価要因とすることは明らか

本判決:
①評価基準が、市街地宅地評価法にいて、その他の街路の路線価を付設するに当たり「街路の状況」等について総合的に考慮すべきものとしている
②画地計算法として無道路地等に関する評点算出法を定めている

評価基準が土地の価額の算出に当たり当該土地が42条道路に接しているかどうかなどについて考慮すべきものとしている。
 
●道路判定の処分性 
道路判定が行政処分⇒道路判定が取り消され、あるいはこれが当然に無効でない限り、その効果を争うことができず、また、固定資産評価や建築確認に際しては、道路判定の判断内容を前提としてこれを行うべきこととなる。
but
①建基法42条1項3号は、同号所定の要件を満たす道について、同号の規定により直接に同法上の道路とする趣旨であって、ほかに特定行政庁の指定処分等何らの手続を要しない
②道路判定は、同号所定の要件を満たす道について新たに同法上の道路とする効果を有するものではない⇒これによって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を画定するものとはいえない
③建基法やその関連法令等に3号道路の「判定」について定めた規定はなく、市町村長等がその判定をする権限を有するとの法令上の根拠もない

道路判定は行政処分に当たらない

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2019年3月 6日 (水)

裁判官分限事件に関する決定

最高裁H30.10.17      

O裁判官についての裁判官分限事件に関する決定 
 
<規定>
裁判官分限法 第三条(裁判権)

最高裁判所は、左の事件について裁判権を有する
一 第一審且つ終審として、最高裁判所及び各高等裁判所の裁判官に係る分限事件
裁判官分限法 第四条(合議体)

分限事件は、高等裁判所においては、五人の裁判官の合議体で、最高裁判所においては、大法廷で、これを取り扱う。

裁判所法 第四九条(懲戒)

裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。

裁判官弾劾法 第二条(弾劾による罷免の事由)

弾劾により裁判官を罷免するのは、左の場合とする。
一 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。
二 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。
   
●「品位を辱める行状」(裁判所法49条)の意義
◎ 裁判は、これを担当する裁判官の責任の下に、その独立の判断をもって行われるもの⇒裁判がこれを受ける者の心服を得るためには裁判官の地位にある者が、職務の内外を問わず、人格的に、国民から尊敬と信頼の念を集めるにふさわしい品位を保たなければならないことは当然。

同条は、裁判官ががこのような高度の品位保持義務を負っていることを前提として、裁判官の品位保持を図るとともに、その自省自粛を促す目的で「品位を辱める行状があったとき」を懲戒事由の1つに定めたもの。

「品位を辱める行状」
その本来の語感より広く解されており、国民の裁判官あるいは裁判所に対する信頼を揺るがす性質の行為がかなり広くこれに包摂されるものと解される旨の指摘もある。

具体的にいかなる行為がこれに当たるかは、世人の裁判官に対する信頼、ひいては裁判制度そのjものに対する信頼の念を危うくするかどうかにより決すべきであると解されている。

◎裁判官弾劾法2条:
「職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。」
「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。」
同号の弾劾事由から「著しく」を除いた「職務の内外を問わず、裁判官としての威信を失うべき非行」が裁判所法49条所定の「品位を辱める行状」に該当する。

裁判権の行使を委ねられた裁判官は、単に事実認定や法律判断に関する高度な素養だけでなく、人格的にも、一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を兼備しなければならない。
かかる人格的品位を有する裁判官の裁断にして、はじめて一般国民の裁判に対する心服を勝取ることができる⇒裁判官という地位には、もともと裁判官に望まれる品位を辱める行為をしてはならないという倫理規範が内在
この内在的規範に対する違反が外部的行為として現れたとき、「裁判官の非行」と観念される。

裁判官については、その職務の性質上、一般公務員よりも更に高い品位が要求されると考えられる⇒一般公務員に関してはまだ「非行」とはいえない軽微な事由であっても、裁判官に関しては「非行」と評価されるケースがあり得る。

◎本決定:
裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」の意義について、
職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、
およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判の公正を疑わせるような言動をいう旨を判示。 


①裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動と、
②裁判の公正を疑わせるような言動は、
多くの場合一致する。
but
事実認定及び法令の解釈適用を中心とする裁判についての公正を疑わせるには至らないものの、裁判官に対する国民の信頼を損ねるといえる行為は観念し得るところで、
これも「品位を辱める行状」に当たる

両者が一致しない場合もある。 

●「品位を辱める行状」該当性 
◎ 本決定:
裁判官が本件ツイートによって訴訟関係者の感情を傷つけた行為が、裁判官に対する国民の信頼を損ねるとともに、裁判の公正を疑わせるような言動に当たるとして、裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たるとされている。 

本決定は、当該当事者が実際に東京高等裁判所に苦情を述べており、本件ツイートが当該当事者の感情を傷つけたという事実に言及しているが、客観的にみて訴訟関係者の感情を不当に傷付け得る行為であれば、苦情の有無や実際に感情を傷付けた事実の有無にかかわらず、「品位を辱める行状」に該当し得ることとなる。

●表現の自由との関係 
本決定:
表現の自由が裁判官にも及ぶことは当然であると説示した上で、
本件における被申立人の行為は表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱したものである旨を簡潔に説示。
本件ツイートが、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば、民事訴訟における被告の主張や報道記事を要約するにとどまらず、当該訴訟の提起が不当であると被申立人自身が考えていることを伝えるものと受け止めざるを得ないものであるとしている。

裁判官が一市民として表現の自由を有することを踏まえても、被申立人の行為が懲戒事由に該当すると認められることは明らかと考えられることによるものと思われる。

判例時報2391

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2019年3月 3日 (日)

児童自立支援施設で、(追加的)強制的措置許可申請が許可されなかった事案

東京家裁H30.2.2      
 
<事案>
ぐ犯による保護処分として児童自立支援施設に送致されるとともに、1年半の間に通算30日を限度として強制措置をとることができる旨の決定を受けた少年について、その強制措置をとり得る大枠の期間(「大枠期間」)内に再度の強制的措置許可申請(「再申請」)がなされたが、それが不許可となった事案。
 
<解説> 
児童自立支援施設は、不良行為をなし又はなすおそれのある児童及び環境上の理由により生活指導等を要する児童につき、個々に必要な指導を行い、その自立を支援すること等を目的とした児童福祉施設(児福法44条、7条1項)⇒そこでの処遇は、任意・開放的に行われ、児童への強制力の行使はできないのが原則
but
児童に逃走癖が強かったり、児童が心理的・行動的に不安定で自傷他害のおそれがあったりして、任意・開放的な処遇方法では児童自立支援の目的を達することがでいないときには、児童の行動の自由を制限・剥奪する強制的措置を必要とする場合も考えられる。

そのような場合には、児童相談所長等は、事件を家裁に送致しなければならなず(少年法6条の7第2項、児福法27条の3)、家裁は、期限を付して、少年に対してとるべき措置を指示して、事件を児童相談所長等に送致することができる(少年法18条2項)。

事件の支配・処理を家庭裁判所に移す意味を持つ通常の「送致」とは異なり、強制的措置の許可の申請(最高裁昭和40.6.21) 
 
●大枠期間内の再申請の可否 
①強制的措置の必要性と程度の予測は不確定な要素が多く困難であり、変転する少年の処遇の過程で適時適確に再申請をして福祉的措置を継続することが少年の福祉に合致する場合もある
②再申請を認めても、許可の必要性は裁判所が判断⇒濫用的な強制的措置が抑止される制度的保障がある
③同効力のある事案とない事案を区別することが困難

前件決定の主文中大枠期間を設定した部分に同期間内の再申請禁止の効力を認めない見解が一般的。

実務:
大枠期間内の再申請自体は許容した上で、これを許可する必要があるか否かについては、濫用的な強制的措置が抑止されるように慎重に判断するとの姿勢。
 
<経緯> 
少年には、新入時の検査や動機付けを目的とした強制的措置が14日間にわたってとられており、少年に強制的措置をとることができる日数は、専らそのために減ることとなった。
強制的措置が実施されている国立の児童自立支援施設においては、新入児童に対し、このような趣旨での強制的措置を、ほぼ一律にとる運用がなされている。 
 
<判断>
本件再申請に対し、不許可。

施設における少年への処遇の状況や今後の処置の見通しも勘案すると、少年の在所中に強制的措置が必要となる可能性は低い
②仮に今後少年に強制的措置が必要になっても、まずは既に許可された期間(残日数の16日間)内の措置で対処し、それでは不十分と見込まれる具体的状況が生じてから再申請する余地もある。

判例時報2390

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心神喪失等の状態で重大な他害行為⇒医療及び観察等に関する法律による処遇と憲法14条、22条1項、31条(違反なし)

最高裁H29.12.18      
 
<事案>
統合失調症及び精神遅滞に罹患している対象者が、妄想状態の強い影響下で傷害事件⇒検察官から心神耗弱であるとして不起訴処分とされた上、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律による入院等の決定を求める申立て⇒入院決定⇒抗告・棄却⇒再抗告
 
<争点>
医療観察法による処遇制度の合憲性 
 
<規定>
憲法 第14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
 
憲法 第22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
 
<判断・解説> 
●医療観察法の目的
①心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、①精神障害を有していることに加えて、②重大な他害行為を犯したという二重のハンディキャップを背負っており、このような者が有する精神障害は、一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高い
再び精神障害のため重大な他害行為が行われることになれば、本人の社会復帰の大きな障害となることは明らか

そのような事態にならないよう必要な医療を確保することが、本人の円滑な社会復帰のために極めて重要⇒医療観察法による処遇制度
本決定:医療観察法の目的(1条1項)は正当
 
●医療観察法による処遇制度 
対象者に対する処遇として、
①医療を受けさせるために入院をさせる処遇(「入院処遇」)と
②入院によらない医療を受けさせる処遇(「通院処遇」)
裁判所が入院処遇又は通院処遇の決定をするための要件を定め(42条1項1号、2号)、入院処遇及び通院処遇に関する諸規定。

本決定:入院処遇又は通院処遇に関する諸規定を検討⇒
医療観察法の目的を達成するため必要かつ合理的なものであり、かつ、
処遇の要件も、その目的に即した合理的で相当なもの
と認められる。
 
●医療観察法の審判手続 
職権探知による審判手続を採用し、審判期日も非公開。
医療観察法の処分は、本来的な司法の分野ではなく、むしろ行政処分的な性格
その判断の中立公正性を保つため、裁判所の裁判によるこいととされた
~特殊な非訟手続
ということができる。

付添人制度を設け、付添人に意見陳述権や資料提出権、審判への出席権、記録等の閲覧権を認め、
入院又は通院に係る審判については、弁護士である付添人を必ず付けることとし、
審判期日の開催を原則として必要とし、
審判期日では、対象者に対し、供述を強いられることはないことを説明した上で、
対象者及び付添人から意見を聴かなければならない。

対象者及び付添人に抗告権、退院の許可又は処遇終了の申立権を認める規定を置く。

本決定:対象者に必要な医療を迅速に実施するとともに、対象者のプライバシーを確保し、円滑な社会復帰を図るため、適正かつ合理的な手続が設けられていると説示。
 
●合憲性判断 
憲法 第31条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

憲法31条については、人身の自由について基本原則を定めたものであり、手続要件と実体要件の双方について、適正な内容が法定されていることを要求

この規定は、本来刑罰を科する際の刑事手続に関する規定であるが、その保障は刑事手続以外の行政手続についても準用又は適用されるとする考え方が一般的。

判例:行政手続にも憲法31条による保障が及ぶ余地があることを認めている。(最高裁H4.7.1)
医療観察法による入通院処遇制度は、対象者の意思と無関係に一方的にその行動の自由等を制限・干渉する制度⇒憲法31条による法定手続保障の趣旨をできるだけ及ぼしていくことが相当
but
入通院処遇制度の特質に応じて必要とされる保障内容の修正・変容は、当然許容されるべき。

本決定:
医療観察法の目的の正当性、同法の規定する処遇及びその要件の必要性、合理性、相当性、手続保障の内容等
医療観察法による処遇制度は、憲法14条、22条1項に違反するものではなく、憲法31条の法意に反するものということもできない。

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2019年3月 2日 (土)

再審決定⇒特別抗告⇒刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法がある

最高裁H29.12.25      
 
<事案>
請求人が、共犯者A及びBと共謀の上、滞納処分の執行を免れるため、Aが実質経営する風俗店の営業をBに譲渡したかのように装って財産を隠ぺいしたという国税徴収法違反被告事件についての再審請求事件 
Aの陳述書(請求人が財産の隠ぺいに関与していたとの確定審の公判供述は虚偽であり、真実は、請求人は財産の隠ぺいには関与していないとの内容(「Aの新供述」))等の新証拠11点を提出⇒これらが「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)に当たるとして、再審を請求。
 
<原々審>
再審請求を棄却 
⇒即時抗告
 
<原審>
事実の取調べとしてAの証人尋問を実施し、
Aの新供述等の新証拠を踏まえると、Aの公判供述及びBの捜査段階供述の信用性に大きな疑問が生じ、請求人の共謀を認定することに合理的な疑いが残る。⇒Aの新供述等の新証拠は、刑訴法435条6号所定の請求人に対し無罪を言い渡すべき新規かつ明白な証拠に当たる⇒原々決定を取り消し、再審を開始する旨の決定。
⇒検察官が特別抗告
 
<判断>
確定審における審理経緯に照らすと、Aの新供述が請求人に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠といえるかどうかを判断するに当たっては、供述を変更するに至った経緯・過程を含め、その内容が、Aの公判供述の信用性を動揺させるに足りる事情を供述するものであるかについて、
原審で行われた証人尋問におけるAの供述も踏まえた上で、慎重に吟味する必要
がある。

Aの新供述につき具体的に検討を加え、刑訴法435条6号該当性を認めた原決定には、同号の解釈適用を誤った違法がある。
 
<解説> 
確定審における証人の供述は、証人尋問や当事者の主張を踏まえて、その信用性についての検討・判断がなされてきている。
⇒そのような証人の供述と異なる内容の供述が新証拠として提出された場合、それが刑訴法435条6号の新証拠に当たるかについては、確定審で虚偽供述をした理由、供述を変更するに至った経緯を含め、供述内容の合理性、真摯性等について慎重に判断する必要がある。
再審請求審では、新供述が、陳述書や供述書など書面の形式で提供される⇒当該供述者に対する証人尋問(事実取調べ)の実施を検討すべき場合もある

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2019年3月 1日 (金)

有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違と労契法20条

最高裁H30.6.1      
 
<事案>
一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であるYとの間で有期労働契約を締結してトラック運転手として配送業務に従事していたXが、
Yと無期労働契約を締結している労働者(「正社員」)とXとの間で、
無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給及び退職金に相違があることは労契法20条(平成24年改正後のもの)に違反している

Yに対し、
(1)労働契約に基づき、XがYに対し、本件賃金等に関し、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める(「本件確認請求」)とともに、

(2)

①主位的に、
労働契約に基づき、平成21年10月1日から同27年11月30日までの間に正社員に支給された無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び通勤手当(「本件諸手当」)と、同期間にXに支給された本件諸手当との差額の支払を求め(「本件差額賃金請求」)、

②予備的に、
不法行為に基づき、前記差額に相当する額の損害賠償を求めた(「本件損害賠償請求」)。 
 
<規定>
労契法 第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
 
<判断>
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労契法20条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。

労契法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関して生じたものであることをいう。

労契法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。

乗務員のうち無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で、有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、次の(ア)~(ウ)など判示の事情の下においては、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる

(ア) 前記皆勤手当は、出勤する乗務員を確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものである。
(イ) 乗務員については、有期契約労働者と無期契約労働者の職務の内容が異ならない
(ウ) 就業規則等については、有期契約労働者は会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるが、昇給しないことが原則であるとされている上、皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。
 
<説明>
●労契法20条の趣旨
有期契約労働契者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と無期契約労働契約を締結している労働者の労働条件と相違

労働契約の相違は、
労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(「職務の内容」)、
当該職務の内容及び配置の変更の範囲
その他の事情
を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を規定。

本判決:
同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(「職務の内容等」)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。

相違に応じた均衡のとれた処遇を求める規定。
 
●労契法20条違反の効力について 
A:契約補充効は認められない
←労契法12条や労基法13条のような契約補充効を認める旨の規定がない
B:契約補充効を認めるべき
←不合理な格差と認められた労働契約部分を無効にするだけでは問題が解決しない

本判決:
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当

契約補充効を否定

契約補充効を否定⇒不合理と認められる有期契約労働者の労働条件を、関係する労働協約、就業規則、労働契約の合理的な解釈・適用により補充することが可能か?

本判決:
Yにおいては、正社員に適用される就業規則と、契約社員に適用される就業規則とが、別個独立のものとして作成されていること等
⇒両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、正社員に適用される就業規則の定めが契約社員であるXに適用されることとなると解することは、就業規則の合理的な解釈としても困難
⇒Xの本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではない。


本判決:
本件確認請求及び本件差額金請求については、
仮に本件賃金等に係る相違が労契法20条に違反するとしても、Xの本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではない
⇒いずれも理由がない。
 
●労契法20条の要件について 
◎「期間の定めがあることにより」 
本判決:
「同条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である」

「関連して生じたものである」とされたのは、期間の定めがあることと労働条件の相違との間に因果関係が必要であるとの見解に立ちつつ、
因果関係があることを緩やかに認める趣旨によるものと解される。

本件諸手当に係る労働条件の相違は、契約社員と正社員とでそれぞれ異なる就業規則が適用されることにより生じている⇒当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができ、労基法20条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たる。
 
◎「不合理と認められるもの」 
本判決:
「同条にいう「不合理と認められるもの」とは、
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当」
 
●本件諸手当の不合理性について 
本判決:
本件損害賠償請求に関し、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、職務の内容等を考慮して不合理と認められるものに当たるか否かを賃金項目ごとに検討し、
本件諸手当のうち、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当及び通勤手当に係る相違は同条にいう不合理と認められるものに当たるとし、
住宅手当に係る相違は同条にいう不合理と認められるものには当たらない。

同日に言い渡された最高裁H30.6.1は、
「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、
両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、
当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」
と判示。

判例時報2390

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