軽微な窃盗保護事件での第1種少年院送致の事案
東京家裁H29.7.14
<事案>
たばこ1箱を万引きしたという軽微な窃盗保護事件において、保護処分歴のない19歳の女子少年を第1種少年院に送致。
<決定>
非行に至る経緯及び家庭裁判所継続歴からうかがわれる
少年の万引きへの抵抗感、規範意識の希薄さ、
少年緒生活歴について、母親の許容もあっての不登校、
中学1年からの喫煙、、万引きといった逸脱行動の出現
母親が処方された睡眠薬等の乱用にみられる少年の薬物依存傾向
就労経験の乏しさ
知的能力の制約に起因する社会適応力及び生活意識の乏しさや深刻な無力感といった少年の資質上の問題
怠惰な生活を許容し、逸脱行動を助長してきた母子関係をよりどころにする保護環境上の問題
そうした問題の表れともいうべき少年の基本的生活習慣の欠如、
処理しきれないほどの負担を抱え込むことによる対人関係における依存性、逃避傾向
を指摘。
本件は少年が抱える問題の表れとみることができ、現状の生活が続いた場合の再非行危険性は高く、自己の問題に対処する能力及び保護環境を初めとする少年の改善更生に向けた社会的資源の不十分さ
⇒
社会内処遇によって少年の再非行を防止し、その改善更生を果たすことは極めて困難。
⇒
少年については保護処分歴はないものの、少年院に収容することが必要不可欠。
なお、少年緒保護環境に鑑み、社会復帰後の帰住先の確保に係る環境調整命令を発している。
<解説>
●少年にこれまで保護処分歴がないこと
収容保護への謙抑的な傾向や段階的処遇が指摘される一方、
非行性が深化することのないよう適時適切な保護処分の必要性も指摘される。
少年保護手続が個々の少年の資質・環境・非行内容等を総合的に判断し、最適な処遇を個別に追求し、その健全育成を図ることを目的
⇒
事案の内容と要保護性の程度に即して健全な判断を個別的に下していくほかなく、初回係属でも少年院送致を選択することが必要な場合もある。
本決定:
少年の再非行危険性とその背景にある少年の社会適応力の乏しさ、生活意欲の乏しさ、深刻な無力感といった根深い少年の資質上の問題に加え、
少年の睡眠薬等への依存傾向の深刻さ、不適切な養育態度により怠惰な生活が許容され、逸脱行動が助長されるような母子関係をよりどころとする長期間にわたる保護環境の問題などからうかがわれる少年の要保護性の高さを重視
⇒収容処遇を選択。
●非行内容自体がたばこ1箱の万引きという軽微なものであること
~
手続面における少年審判における審判対象は何か(実体面からみた場合の保護処分の要件)という問題に関連するとともに、処遇決定における非行事実の機能をどう捉えるかという問題。
A:少年の保護・教育に最適な処遇を目指す健全育成(少年法1条)のためには要保護性が審判対象で非行事実の存在は審判条件にすぎないとする人格重視説
〇B:非行事実も要保護性とともに審判対象であるとする非行事実重視説
←
少年審判の私法的機能や適正手続の理念を重視
◎
非行事実がに認定され、裁判所が少年を保護処分に付す必要がある判断した場合、いかなる保護処分を選択するかはその少年の要保護性に応じて決定。
要保護性の意義:
①犯罪的危険性(少年の性格、環境に照らして将来再び非行に陥る危険性)
②矯正可能性(保護処分により犯罪的危険性を解消できる可能性)
③保護相当性(少年の処遇にとって保護処分が最も有効、適切な手段であること)
で構成されるとするのが通説・実務の立場。
◎
非行事実を重視する立場⇒非行事実の軽重と保護処分の間に一定の均衡が必要とされ、少年審判の司法的機能等を強調する立場⇒非行事実が保護処分の限界を画する。
vs.
非行事実との均衡を要求すると、場合によっては、少年の要保護性に対応しないがゆえにその改善教育には役立たない保護処分を課すことになり、それを避けようとすれば、少年に要保護性が認められるにもかかわらず不処分とせざるを得なくなる。
非行事実については、
その動機・目的・経緯、常習性ないし同種非行歴、保護処分歴、保護環境が非行にもたらす影響などを総合的に考慮して非行事実の軽重を判断すべきであり、これらの事実を少年の問題点を解明するための重要な事情と捉え、非行事実の結果は大きくなくとも軽微な非行とみるべきではない場合がある。
本件:
たばこ1箱の万引き
but
少年は中学1年のころから喫煙と万引きを行うようになり、
いずれも審判不開始ではあったものの3件の同種非行歴を有し、
本件万引きに至った経緯や前日にも同様の状況の下でたばこを万引き
⇒
少年の万引きへの抵抗感、規範意識は極めて希薄であり、
少年の資質上の問題と保護環境上の問題は根深く深刻
⇒
本件非行事実が軽微であるとはいえない。
判例時報2388
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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