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2019年2月21日 (木)

日野町第二次再審請求事件:再審開始決定

大津地裁H30.7.11    
 
<事案>
日野町事件第二次再審請求について、大津地方裁判所が再審開始を決定したもの 
 
確定審 一審:
他の証拠と矛盾し、不自然な疑問が多数ある⇒aの自白を信用できない。
but
aにつき、
本件当夜の犯行の機会、被害者方の物色の痕跡(丸鏡にaの指紋が付着)、金庫発見場所及び死体発見場所の知情性、虚偽のアリバイ主張等の間接事実
⇒aの犯人性が推認できる。

控訴審:
aの自白の根幹部分は十分信用できる。
丸鏡からの指紋検出、本件当夜、被害者方付近でaが目撃されたこと、被害者手首の紐による結束方法等の間接事実
アリバイ主張の虚偽性

自白、各間接事実及び虚偽のアリバイ主張を総合すれば、aを犯人と認定できる。 
 
◆再審請求における新証拠の明白性の判断方法
白鳥決定(最高裁):
新証拠と旧証拠を総合的に評価すべきこと
再審開始可否の判断においても「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用されること
を判示。

総合評価の具体的方法については、
新証拠がその立証命題と関連する旧証拠の証明力を減殺するか否かを検討し(限定的再評価による新証拠の証明力判断)
仮にこれが肯定された場合、新旧全証拠を総合的に評価して(全面的再評価による新証拠の明白性判断)、確定判決の有罪認定に合理的疑いが生じれば新証拠の明白性が肯定される
という手法が、近時の再審請求審の判断において主流として採用されている。

①の再評価では、新証拠の持つ重要性及び立証命題が、これと有機的に関連する確定判決の証拠判断及びその結果の事実認定にどのような影響を及ぼすかを審査すべき。

◆本決定の各論部分のポイント 
●金庫投棄場所への引当捜査 
aが金庫投棄場所を案内した引当捜査の帰路において、aが案内しているかのような写真が撮影。

これらの写真も使用した引当捜査報告書が作成された事実を示すネガの分析報告書
同引当捜査担当警察官の本件再審請求審における証言等の新証拠

警察官による直截的な誘導は否定したが、aが正解である金庫発見場所にたどり着けることを強く期待していた警察官が、意図的な断片情報の提供を行ったり、警察官と、自白を維持し警察と協調するaとの間で、正解到達に向かう無意識な相互作用を生じさせたりした結果、金庫発見場所を案内できた可能性が合理的にみて認められる。
 
●殺害態様 
第一次再審請求において裁判所が選任した鑑定人医師の鑑定書等、東京医科大学のg1医師の鑑定書及び同医師の本件再審請求審における証言等を始めとする新証拠から認められる、犯人の左手の顔面に対する圧迫位置

aの自白のうち、左手を頸部の後面に当てていたとする点は、死体の損傷状況と整合しない
 
●自白の任意性の否定 
①新証拠から認められる、aが多くの重要な点で客観的状況と矛盾する自白をしている点
②aは自白を継続する捜査段階から、警察官から暴行及び脅迫的言動を受けて自白したと述べていたこと
aの同供述を裏付ける弁護人の申入書や妻子の供述があること

aは、警察官から暴行を受け、また、脅迫的文言を申し向けられた結果、自白をした合理的疑い

aの自白の任意性を再評価するための直接の新証拠は存在しないものと見受けられるが、自白の信用性及び自白した状況に関して、重要と思われる新証拠が多数列挙されており、本決定は、有機的に関連する任意性についても再検討
実質的にみて、松橋事件に係る福岡高裁H29.11.29がいわゆる「連鎖」と判示したものと同様の見解に立つものと理解。
 
●新旧証拠の総合評価を経た上での各間接事実の総合考慮 
直接の争点はaの犯人性であり、新旧全証拠によって認められる間接事実を総合考慮して、aが犯人であると推認できるか否かを判断する構造。
平野母子殺害放火事件(最高裁H22.4.27)が判示した枠組を用いる。

新旧証拠の総合考慮の結果、aが被害者方付近で目撃されたことなどの間接事実が数個残るものの、推認力は減殺されて小さく、他方、本件当夜、知人方の酒席で眠り込んで宿泊したというアリバイ主張が一定の裏付けを有していることなど、推認を妨げる事情も生じた

aが犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係は含まれていないと結論

判例時報2389

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