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2019年2月

2019年2月27日 (水)

盗難車による事故につき、車両保有者の運用供用者責任を否定した事案

名古屋地裁H30.6.6      
 
<事案>
盗難自動車(「加害自動車」)と自転車間の自己(「本件事故」)により死亡した自転車運転者の相続人等であるXらが、加害自動車の保有者であるYに対し、自賠法3条による運行供用者責任に基づき、損害賠償金の支払を求めた。 
 
<争点>
いわゆる泥棒運転における加害自動車の保有者Yが自賠法3条による運行供用者責任を負うかどうか。 
 
<判断>
Yの運行供用者責任を認めず、Xらの請求を棄却。 
加害車両が窃取された経緯
⇒加害車両は相当程度窃取されやすい状況にあったと評価すべきであり、窃取時点においては、第三者に対して加害車両の運転を客観的に容認していたと評価されてもやむを得ない状況にあった。

①窃取されてから1時間以内に被害届が提出されている
②窃取から本件事故までの間に約12時間、被害届の提出からでも約11時間経過
③窃取場所から本件事故現場までの距離が直線距離で20.38km、最短走行距離でも24.4kmであること。
④Bは、パトカーに2回追跡されながら逃げ切り、本件事故直前もパトカーに追跡されていた。
⇒Yが加害者であるBに対して加害車両の運転を客観的に容認していたことを否定する方向の諸事情が認められる。
⇒Yの運行供用者責任を認めることはできない。
 
<解説>
●運行供用者については、運行支配と運行利益の2つの要素から判断する考え方(二元説)が判例・通説。 
運行利益:運行全体を客観的に観察して、運行供用者のためにされていれば足りる。(最高裁昭和46.7.1)
運行支配が認められれば、通常、運行利益もあると解される⇒現実の裁判では、運行支配の有無を巡って争われる。

●最高裁(昭和50.11.28):
いわゆる名義貸与者の事案につき、
「自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上自動車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にある場合」には運行支配が認められる⇒当該名義貸与者の運行供用者責任を認めた。

最高裁H20.9.12:
保有者と運転者との間に全く面識がない事案(運転者は保有者の娘と親しい関係にあった者)につき、「容認」という概念を用い、保有者が運転者と面識がなく、その存在すら認識していなかったとしても、客観的外形的に見て、当該運転について、容認の範囲にあったと見られてもやむを得ない場合には運行支配が認められる⇒当該保有者の運行供用者責任を認めた。

●本件:
いわゆる泥棒運転で、保有者と運転者との間に全く面識なし。
上記H20.9.12の考え方:
客観的外形的に見て、保有者の容認の範囲内にあたっと見られてもやむを得ない場合⇒保有者は運行供用者責任を免れない

その判断においては、
駐車場所、駐車時間、車両の管理状況、泥棒運転の経緯・態様、盗用場所と事故との時間的・場所的近接性等を総合考慮することになる。

判例時報2390

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2019年2月26日 (火)

放置され劣化した消火器の破裂事故⇒国賠請求・メーカーへの損害賠償請求(否定)

大阪地裁H30.4.13      
 
<事案>
原告が、屋外駐車場に放置され、腐食が進んでいた加圧式消火器を作動⇒破裂して、原告が傷害を負った

被告国に対しては国賠法1条1項に基づき、
被告社団法人(各消火器メーカーを正会員とする業界団体)及び被告会社(本件消火器の製造メーカー)に対しては不法行為に基づき、
損害賠償を求めた。

本件消火器の品質そのものに問題があって発生したものではない。
 
<争点>
以下のような義務の有無: 
被告国との関係では、平成元年頃までに、自治大臣が消防法(平成5年改正前のもの)21条の2第2項に基づく消火器の規格省令について、
①本件事故の現場のような一定の場所に設置する消火器を、蓄圧式消火器であって消火剤を再充填できない構造のものに限るよう規格を定めるべき義務、
②加圧式消火器の安全性確保のための十分な表示をする規格を定めるべき義務

被告社団法人との関係では、
本件消火器の製造時点において、
①消火器の取扱いについての注意事項を相当な大きさのラベルで表記すべき義務、
②一般消費者に対し、消火器の危険性等について周知徹底を図るべき義務、

本件事故が発生するまでの時点で、
③耐用年数が経過した消火器を回収する制度と構築すべき義務
被告会社との関係では、
本件消火器の製造時点において、
①製造する消火器を蓄圧式消火器に切り替えるべき義務、
②消火器の取扱いについての注意事項を相当な大きさのラベルで表記すべき義務、

本件事故が発生するまでの時点で、
③一般消費者に対し、消火器の危険性等について周知徹底を図るべき義務、
④耐用年数の経過した消火器を回収すべき義務。
 
<判断>
●被告国との関係 
前記①の義務及び②の義務のうち一部の事項について:
自治大臣が消防法による委任に基づいて有する職務上の権限の範囲外

②のその余の事項について:
①消火器の具体的な規格が技術的事項⇒規格省令の改正に係る権限を行使するか否かの判断は主務大臣である自治大臣の裁量事項に属する。
自治大臣が規格省令の改正を行わなかったことがその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていたということはできない
⇒国賠証1条1項上の違法性はない。
 
●被告社団法人及び被告会社との関係
本件事故は、屋外駐車場の管理者が本件消火器を放置し続けていたところ、同駐車場に侵入した原告が本件消火器で遊ぼうとしてこれを作動させたことによって生じた事故

本件事故の発生を回避することが可能であり、回避すべき義務を負っていたのは、同駐車場の管理者であり、
本件消火器を管理しておらず、本件事故の発生を具体的に予見することができない被告社団法人及び被告会社においては、本件事故を回避するための具体的な措置を講じることはできなかった。

本件事故の発生という結果を回避するための作為義務を否定
 
<解説>
規制権限を行使しなかったことが国賠法1条1項の適用上違法となるか否かについて:
当該権限を定めた法令の趣旨、目的や権限の性質に照らし、その不行使が著しく合理性を欠くと認められるときでない限り違法の評価を受けない
(最高裁H1.11.24) 

規制権限の不行使の違法性を検討するに当たっては、まず、当該公務員が当該権限を有しているといえるか否かが問題となる。
 
●不作為による不法行為の成立を認めるためには、
同被告らにおいて、本件事故という結果の発生を回避するための作為義務を負っていることが必要
行動の自由を持つ私人に対し、その自由を制限して作為義務を認めるためには、法律・契約・慣習・条理等に基づいて一定の作為を法的に義務付けるだけの十分な根拠が要求されるところ、
前記作為義務についての判断は、過失における行為義務(結果回避義務)の判断と一致するものとされている。(潮見Ⅰp347)

前記作為義務の存在を肯定するためには、責任を問われる者にいて、結果発生の具体的危険を予見できたことが論理的前提となる。

予見可能性の程度については、物も役務も高度に技術化・組織化して潜在的抽象的危険が増大した現代社会においては、抽象的な予見可能性では足りず、いかなる侵害をもたらすかについてのある程度具体的な予見可能性が必要となる。
but
本件において、同被告らは、本件消火器を管理しておらず、本件事故の発生を具体的に予見することができる立場にはなかった
本件事故を回避するための具体的措置を取ることもできなかったといわざるを得ない。

判例時報2390

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2019年2月25日 (月)

日本放送協会の受信料債権と民法168条1項前段(定期金債権の消滅時効)の適用の有無(否定)

最高裁H30.7.17       
 
<事案>
日本放送協会が、遅くとも、平成7年6月末までに日本放送協会の放送の受信についての契約を締結したYに対し、同契約に基づき、平成23年4月分から平成29年5月分までの受信料合計9万6940円及び遅延損害金の支払を求めた事案。
 
<主張>
Y:日本放送協会が同契約に基づく受信料の支払を20年間請求しなかった⇒民法168条1項前段所定の定期金債権の消滅時効が完成。 
 
<規定>
民法 第168条(定期金債権の消滅時効)
定期金の債権は、第一回の弁済期から二十年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から十年間行使しないときも、同様とする。
2 定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
 
<判断>
日本放送協会の放送の受信についての契約に基づく受信料債権には民法168条1項前段の規定は適用されない⇒上告棄却。 

受信契約に基づく受信料債権は、一定の金銭を定期に給付させることを目的とする債権定期金債権に当たる
but
①放送法は、公共放送事業者である日本放送協会の事業運営の財源を、日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に広く公平に受信料を負担させることによって賄うこととし、
前記の者に致死受信契約の締結を強制する旨を定めた規定を置いていること、
受信料債権は、このような規律の下で締結される受信契約に基づき発生するもの。
②受信契約に基づく受信料債権について民法168条1項前段の規定の適用があるとすれば、受信契約を締結している者が将来生ずべき受信料の支払義務についてまでこれを免れ得ることとなり、前記規律の下で受信料債権を発生させることとした放送法の趣旨に反するものと解される。

受信料契約に基づく受信料債権には民法168条1項前段の規定は適用されない

放送法により、公共放送の財政基盤を支えるため、受信契約の締結が義務付けられているという受信料債権の発生原因の特質を考慮して、民法168条1項前段の適用を否定。
(債権の発生原因に係る法律関係を分析し、定期金債権の消滅時効の適用を認めることにより不合理な結果を招くことがないかを検討するという判断の方法)
 
<解説> 
一定の金銭その他の代替物を定期に給付させることを目的とする債権定期金債権といい、
一定期日の到来によって具体化した給付請求権(支分権)は通常の消滅時効にかかり(民法169条の適用を受けることが多い)、
民法168条1項は支分権を生み出す基本権としての定期金債権の時効について規定。

基本権としての定期金債権が時効消滅⇒その後、支分権は発生しないし、一旦発生した支分権も消滅する。

●学説:
定期金債権に当たるもの全てについて民法168条1項の適用があるとするのではなく、債権の種類毎に民法168条1項の適用があるかを検討し、民法168条1項の適用がないものを認める見解が多い。
ex.
扶養料債権のうち、一定の親族関係にもとづいて法律上当然に生じるもの
賃借料債権・永小作料債権
契約から生じる利息債権
 

大判明40.6.13:
民法168条の定期金の債権は定期毎に若干ずつの金銭又はその他の物の給付を受くべき基本の権利例えば年金権又は養料の類をいう⇒分割払を約した貸金債権はこれに当たらない。

最高裁H26.9.5:
日本放送協会の受信料債権(支分権)の消滅時効について:

原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人(日本放送協会)の放送の受信についての契約においては、受信料は、月額又は6か月若しくは12か月前払額で定められ、その支払方法は、1年を2か月ごとの期に区切り各期に当該期分の受信料を一括して支払う方法又は・・・・⇒上記契約に基づく受信料は、年又はこれより短い時期によって定めた金銭の給付を目的とする債権に当たり、その消滅時効期間は民法169条により5年と解すべきである。
 
●民法169条は、債権法改正で削除。
定期金債権の消滅時効の規定は、債権法改正後も残り、期間を20年間とする時効に加えて、債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないときに時効消滅するという規定が設けられる。

現行法より定期金債権の消滅時効が問題となりやすい。 

判例時報2390

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2019年2月24日 (日)

大阪の外国人を対象とする準学校法人への補助金の不交付の適法性

大阪高裁H30.3.20      
 
<事案>
控訴人(一審原告)は、学教法134条1項に定める外国人を対象とした各種学校を設置運営する準学校法人。
被控訴人大阪府に対して、本件23年度大阪府補助金8080万円の交付申請をし、被控訴人大阪市に対して、本件23年度大阪市補助金2650万円の交付申請⇒大阪府知事及び大阪市長によりいずれも不交付とする旨の決定。 
控訴人が、本件各不交付がいずれも違法であるなどとして、

(1)被控訴人大阪府に対し、
一次的に本件大阪府不交付の取消しと本件23年度大阪府補助金の交付決定の義務付けを求め
二次的に控訴人の本件大阪府交付申請に対する被控訴人大阪府による承諾の意思表示を求め、
三次的に大阪府要綱に基づき控訴人が本件23年度大阪府補助金の交付を受けられる地位にあることの確認を求め、
四次的に本件大阪府不交付により控訴人に本件23年度大阪府補助金相当額8080万円の損害が生じたとして国賠法1条1項に基づく損害賠償請求として同額及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
その余の国家賠償請求として、風評被害等の損害330万円(弁護士費用30万円を含む。)とこれに対する遅延損害金並びに本件23年度大阪府補助金8080万円の支払の遅延により生じた損害金の支払を求め

(2)被控訴人大阪市に対し、
一次的に本件大阪市不交付の取消しと本件23年度大阪市補助金の交付決定の義務付けを求め
二次的に控訴人の本件大阪市交付申請に対する被控訴人大阪市による承諾の意思表示を求め、
三次的に大阪市要綱に基づき控訴人が本件23年度大阪市補助金の交付を受けられる地位にあることの確認を求め、
四次的に本件大阪市不交付により控訴人に本件23年度大阪市補助金相当額2650万円の損害が生じたとして国賠法1条1項に基づく損害賠償請求として同額及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
その余の国家賠償請求として、風評被害等の損害330万円(弁護士費用30万円を含む。)とこれに対する遅延損害金並びに本件23年度大阪市補助金2650万円の支払の遅延により生じた損害金の支払を求めた。
 
<争点>
本案前について:
本件大阪府不交付及び大阪市不交付の各処分性と本件大阪市確認請求に係る確認の利益

本案について:
大阪府・大阪市各要綱交付対象要件の充足性と手続的違法、被控訴人らの承諾義務、国賠法上の違法及び故意過失と損害額など。 
 
<判断>
本件各不交付及び本件各補助金の交付決定の処分性をいずれも否定。
本件大阪市確認請求に係る確認の利益はこれを認めた。 

本案の争点である被控訴人大阪府が、大阪府要綱において定める補助金の交付対象要件について改正し、各種学校を設置する準学校法人である控訴人が「特定の政治団体が主催する行事に、学校の教育活動として参加していないこと」(特定の政治団体と一線を画すること)の要件を充足しないことを理由として、前記補助金を不交付としたことは、
いずれも憲法13条、14条、23条、26条、人権A規約2条、13条、人権B規約26条、人種差別撤廃条約、児童権利条約3条、教基法16条1項、14条2項、私立学校法1条に違反するものではなく、
裁量の逸脱・濫用はないし、交付対象要件の適用にも誤りはない
と判断

その余の請求をいずれも棄却すべき。

要は、
①憲法、人権規約、条約等は、本件大阪府補助金の交付を受ける具体的な権利、利益を基礎づけるものではない、

②大阪府要綱に定める本件大阪府補助金の交付の法的性質は贈与であって、被控訴人大阪府は、贈与を受けることができる資格をいかに定めるかについて教育の振興という行政目的の実現のため一定の裁量を有する

③本件大阪府補助金は、学校法人が設置する外国人学校においては学教法1条(学校の範囲)に準じた教育活動が行われているため、1条校に準じて助成の措置を行う必要があるとの考えから定められた大阪府要領に基づく、

大阪府要領の改正はこれらの経緯を明確にしたもので、補助金の交付対象要件は、私立学校としての公共性や本件大阪府補助金の経緯等に沿うものとして前記裁量の範囲内にある

⑤本件大阪府不交付は、前記の要件(特定の政治団体と一線を画すること)に該当しないことを理由とするが、私立学校において一条校に準じた教育活動が行われているというためには、一定程度の政治的中立性が確保されていることが必要であり、大阪府要綱に前記の要件を付加することには相応の合理性がある

⑥大阪府要綱は、「特定の政治団体」について、公安調査庁が公表する直近の「内外情勢の回顧と展望」において調査等の対象となっている団体(ただし、政治資金規正法3条2項に規定する政党を除く。)と定義しているが、このような団体が主催する行事に学校の教育活動として参加している学校法人に対し、本件大阪府補助金を交付することを許容するか否かは、被控訴人大阪府の裁量に属する⇒このような要件を設けることに裁量の逸脱又は濫用があるとはいえないし、交付対象要件の適用にも誤りはない

判例時報2390

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2019年2月23日 (土)

定年退職後に再雇用された有期契約労働者と労働契約法20条

最高裁H30.6.1       
 
<事案>
Y(セメント等の輸送事業を営む株式会社)を定年退職した後に、有期労働契約をYと締結して就労しているXらが、無期労働契約をYと締結している従業員との間に、労契法20条に違反する労働条件の相違があると主張し、

主位的に、
前記従業員に関する就業規則等が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、
労働契約に基づき、前記就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額等の支払を求め、

予備的に、
不法行為に基づき、前記差額に相当する額の損害賠償金等の支払を求めた。
 
<一審>
嘱託乗務員と正社員との職務内容等が同一であるにもかかわらず、その賃金額に相違を設けることは、これを正当と解すべき特段の事情がない限り不合理
⇒Xらの主位的請求を全部認容。 
 
<原審>
定年後再雇用に当たり、定年前に比較して一定程度賃金額が減額されることは一般的であり、社会的にも容認されている⇒一審判決を取り消し、Xらの請求を全部棄却。
 
<判断>

精勤手当及び時間外手当(超勤手当)に係る相違は不合理⇒原判決のうち、精勤手当に係る損害賠償(予備的請求)に関する部分を破棄自判
超勤手当に係る損害賠償(予備的請求)に関する部分を破棄して原審に差し戻し。 
 

有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労契法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる。 
 
有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき
 

乗務員である無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で、定年退職後に再雇用された乗務員である有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は、両者の職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である場合であっても、
次の(ア)~(カ)など判示の事情の下においては、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらない

(ア)有期契約労働者に支給される基準賃金の額は、当該有期契約労働者の定年退職時における基本給の額を上回っている。

(イ) 有期契約労働者に支給される歩合給及び無期契約労働者に支給される能率給の額は、いずれもその乗務するバラ車の種類に応じた係数を月稼働額に乗ずる方法によって計算するものとされ、歩合給に係る係数は、能率給に係る係数うの約2倍から約3倍に設定されている。

(ウ) 団体交渉を経て、有期契約労働者の基本賃金が増額され、歩合給に係る係数の一部が有期契約労働者に有利に変更されている。

(エ) 有期契約労働者の賃金体系は、その乗務するバラ車の種類に応じて額が定められている職務給を支給しない代わりに、前記(ア)により収入の安定に配慮するとともに、前記(イ)により労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫されたもの

(オ) 有期契約労働者に支給された基本賃金及び歩合給と合計した金額並びに当該有期契約労働者の賃金に関する労働条件が無期契約労働者と同じであるとした場合に支払われることとなる基本給、能率給及び職務給を合計した金額を計算すると、前者の金額は後者の金額より少ないが、その差は約2%から約12%にとどまる

(カ) 有期契約労働者は、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上、その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間、調整給の支給を受けることができる
 
<規定>
労働契約法 (期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二〇条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
 
<解説> 
●労契法20条の「その他の事情」 
労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたっての考慮要素として、
①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、
②当該職務の内容及び配置の変更の範囲
③その他の事情
を規定。

①②は、労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するかに当たり考慮要素となる事情の例示⇒③を①②に準じるものに限定すべき理由はない
 
●有期契約労働者と無期契約労働者の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かについての判断方法 

会社によっては、ある賃金項目を支給しない代わりに異なる手当を支給しているといった場合もあり得る。

本判決:個々の賃金項目を形式的に比較するのではなく、そのような事情(賃金体系における当該賃金項目の位置付け等)をも踏まえて判断すべき旨を説示。
 
●本件各賃金項目に係る相違の不合理性 

本判決:
本件各賃金項目に係る相違のうち、
①嘱託乗務員に対して精勤手当が支給されないこと、
②正社員の超勤手当の計算に精勤手当が含まれるにもかかわらず、嘱託乗務員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないこと
は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる。
but
それ以外の相違については、同条にいう不合理と認められるものに当たらない。

本件:
労務の内容や成果に対する賃金項目(能率給、職務給、歩合給)についての相違が問題とされている。

本判決:
正社員の賃金項目(基本給、能率給及び職務給)と嘱託乗務員の賃金項目(基本賃金及び歩合給)とを比較し、その賃金体系の趣旨を検討した上、
その格差の程度、嘱託乗務員が定年後に再雇用された者であること、嘱託乗務員の労働条件が団体交渉を経て有利に変更されてきたことといった諸事情を総合勘案
嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件緒相違は不合理とはいえない

これらの賃金項目が、労務の内容や成果に対する対価であり、月例給の根幹(基礎)を成すものとして、同質性を有しているとの理解を前提。

本判決:
嘱託乗務員に対して住宅手当及び家族手当を支給しないという労働条件の相違は不合理であると評価することはできないと判断。

労働者の属性(手当の必要性等に影響する事情)の相違に着目して、福利厚生及び生活保障の趣旨で支給される手当の要否・内容を区別すること自体が不合理とは言い難いとの理解を前提。

本判決:
嘱託乗務員に対して賞与が支給されないとの相違が労契法20条にいう不合理と認められるものには当たらないと判断。

賞与の要否・内容については様々な考え方があり得るとの理解を前提に、本件の事実関係の下においては、その不支給が不合理であるとまではいい難いと判断。
 
●労契法20条違反の効果 
労契法20条の効力により、有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。

Yの就業規則の合理的な解釈として、
①嘱託乗務員であるXらが精勤手当の支給を受けることのできる労働契約上の地位にあると解することはできず
②精勤手当を割増賃金の計算の基礎となる賃金に含めるべきであると解することもできない。

Yが、嘱託乗務員につき従業員規制とは別に嘱託社員規則を定め、その賃金に関する労働条件を嘱託社員労働契約によって定めることとしているという事実関係の下において、正社員に適用される就業規則を嘱託乗務員に適用するとの解釈は合理的とはいい難いと判断

本判決:
精勤手当及び時間外手当に係る予備的請求(不法行為に基づく損害賠償請求)について、いずれもYの違法な取扱いには過失があったとして、
①精勤手当に係る予備的請求につき、正社員であったならば支給された精勤手当の額に相当する金額の損害賠償金等の支払を命じ、
②時間外手当に係る予備的請求につき、Xらの時間外手当の計算の基礎に精勤手当が含まれなかったことによる損害の有無及び額につき更に審理を尽くさせるため、これを原審に差し戻した。

①嘱託乗務員と正社員との間の職務内容及び変更範囲が同一であり、
②その精勤手当に差異を設けるべき事情がうかがわれないこと等
⇒精勤手当の全額(5000円)を算定の基礎にした。

判例時報2389

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不動産売買に当たっての、弁護士である資格者代理人の不法行為責任(否定)

東京高裁H29.6.28      
 
<事案>
Xは、売主Aと称する者か、土地建物を購入。
弁護士Yは、Aとは面識がなかったが、本件不動産の売買契約に当たり、第三者を介して契約への立会いを求められるとともに、Aについて、平成27年法務省令第51号による改正前の不当規則72条に基づく本人確認情報を提供し、登記義務者の代理人として所有権移転登記申請をした。 
自称Aは売主に成りすました他人であり、本件住基カード等の書類も偽造⇒真実の所有者だえるAから所有権移転登記抹消登記手続を求められ、本件不動産の所有権を取得することができなかった。
⇒XはYに対し、不法行為に基づく損害賠償を求める本訴を提起。
 
<判断>
そもそもYが本件売買契約において依頼を受けた内容が必ずしも明らかでなく、売買代金が現金決済であることについて、Yが売買契約締結時まで認識していたとは認められない。 

自称Aが登記名義人であることを疑うに足りる事情があるときは格別、そうでない場合にまで、不登規則72条2項1号による方法以外の本人確認をすべき義務を負うことはない
①本件住基カードに外見上不自然な点はなく、資格代理人にはQRコードを読み取る義務まではなく、
②Yにおいてできる限りの本人確認を行ったこと、
③本件遺産分割協議書の印鑑登録諸運命所の印影と同一ないしは酷似した印影が押印されている⇒相続開始日の誤記から直ちに成りすましまで疑うことはできない

Yの注意義務違反を認めず、不法行為責任を否定
 
<解説> 
不登法23条4項、不登規則72条2項に定める資格者代理人による本人確認情報制度については、平成27年法務省令第51条による改正前の不登規則72条2項1号が、住民基本台帳カードによる本人確認を認めていた。 
本件は、結果として、地面師による詐欺事件に関与することとなった資格者代理人が、面識のない者について本人確認情報を提供する場合の注意義務について、
住民基本台帳カードに外見上不自然な点はなく、多額の現金決済であったこと、その他の事情に照らしても成りすましを疑うべき事情はなかった⇒Yの注意義務違反を否定。 

判例時報2389

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2019年2月21日 (木)

日野町第二次再審請求事件:再審開始決定

大津地裁H30.7.11    
 
<事案>
日野町事件第二次再審請求について、大津地方裁判所が再審開始を決定したもの 
 
確定審 一審:
他の証拠と矛盾し、不自然な疑問が多数ある⇒aの自白を信用できない。
but
aにつき、
本件当夜の犯行の機会、被害者方の物色の痕跡(丸鏡にaの指紋が付着)、金庫発見場所及び死体発見場所の知情性、虚偽のアリバイ主張等の間接事実
⇒aの犯人性が推認できる。

控訴審:
aの自白の根幹部分は十分信用できる。
丸鏡からの指紋検出、本件当夜、被害者方付近でaが目撃されたこと、被害者手首の紐による結束方法等の間接事実
アリバイ主張の虚偽性

自白、各間接事実及び虚偽のアリバイ主張を総合すれば、aを犯人と認定できる。 
 
◆再審請求における新証拠の明白性の判断方法
白鳥決定(最高裁):
新証拠と旧証拠を総合的に評価すべきこと
再審開始可否の判断においても「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用されること
を判示。

総合評価の具体的方法については、
新証拠がその立証命題と関連する旧証拠の証明力を減殺するか否かを検討し(限定的再評価による新証拠の証明力判断)
仮にこれが肯定された場合、新旧全証拠を総合的に評価して(全面的再評価による新証拠の明白性判断)、確定判決の有罪認定に合理的疑いが生じれば新証拠の明白性が肯定される
という手法が、近時の再審請求審の判断において主流として採用されている。

①の再評価では、新証拠の持つ重要性及び立証命題が、これと有機的に関連する確定判決の証拠判断及びその結果の事実認定にどのような影響を及ぼすかを審査すべき。

◆本決定の各論部分のポイント 
●金庫投棄場所への引当捜査 
aが金庫投棄場所を案内した引当捜査の帰路において、aが案内しているかのような写真が撮影。

これらの写真も使用した引当捜査報告書が作成された事実を示すネガの分析報告書
同引当捜査担当警察官の本件再審請求審における証言等の新証拠

警察官による直截的な誘導は否定したが、aが正解である金庫発見場所にたどり着けることを強く期待していた警察官が、意図的な断片情報の提供を行ったり、警察官と、自白を維持し警察と協調するaとの間で、正解到達に向かう無意識な相互作用を生じさせたりした結果、金庫発見場所を案内できた可能性が合理的にみて認められる。
 
●殺害態様 
第一次再審請求において裁判所が選任した鑑定人医師の鑑定書等、東京医科大学のg1医師の鑑定書及び同医師の本件再審請求審における証言等を始めとする新証拠から認められる、犯人の左手の顔面に対する圧迫位置

aの自白のうち、左手を頸部の後面に当てていたとする点は、死体の損傷状況と整合しない
 
●自白の任意性の否定 
①新証拠から認められる、aが多くの重要な点で客観的状況と矛盾する自白をしている点
②aは自白を継続する捜査段階から、警察官から暴行及び脅迫的言動を受けて自白したと述べていたこと
aの同供述を裏付ける弁護人の申入書や妻子の供述があること

aは、警察官から暴行を受け、また、脅迫的文言を申し向けられた結果、自白をした合理的疑い

aの自白の任意性を再評価するための直接の新証拠は存在しないものと見受けられるが、自白の信用性及び自白した状況に関して、重要と思われる新証拠が多数列挙されており、本決定は、有機的に関連する任意性についても再検討
実質的にみて、松橋事件に係る福岡高裁H29.11.29がいわゆる「連鎖」と判示したものと同様の見解に立つものと理解。
 
●新旧証拠の総合評価を経た上での各間接事実の総合考慮 
直接の争点はaの犯人性であり、新旧全証拠によって認められる間接事実を総合考慮して、aが犯人であると推認できるか否かを判断する構造。
平野母子殺害放火事件(最高裁H22.4.27)が判示した枠組を用いる。

新旧証拠の総合考慮の結果、aが被害者方付近で目撃されたことなどの間接事実が数個残るものの、推認力は減殺されて小さく、他方、本件当夜、知人方の酒席で眠り込んで宿泊したというアリバイ主張が一定の裏付けを有していることなど、推認を妨げる事情も生じた

aが犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係は含まれていないと結論

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今市事件控訴審判決

東京高裁H30.8.3      
 
<概要>
①原判決の間接事実の認定を是認した上、これらの間接事実と被告人が母親に書いた謝罪の手紙を併せてる殺害犯人と被告人との同一性が認められる
②商標法違反の起訴後に行われた本件殺人の取調べは違法だが、殺人の逮捕勾留後に作成された被告人の自白調書の証拠能力は否定されない
③原審が取調べの録音録画媒体を自白の信用性の補助証拠として使用した点は刑訴法317条に違反
④被告人の自白のうち、拉致・殺害・遺棄の犯人であることを自認した部分は信用できるが、それを超えて殺人の経過・態様・場所・時間等に関する部分は信用できない
予備的訴因に従い、殺害の日時・場所を広くとって有罪を認定。 
 
<判断>
●間接事実による殺人の認定
①Nシステムによる通行記録
②遺体に付着していた猫の毛のDNA型
③遺体の右頸部の損傷が、被告人が当時所持していたスタンガンによって生じたものとして矛盾がない
④被告人車両は、拉致現場で目撃された車と同色・同型で、被告人は被害者が拉致された時間帯にその現場まで自動車で行くことが可能な場所にいた
⑤被告人は拉致現場付近の土地勘があった
⑥被告人は事件当時、多数の児童ポルノ画像を収集し、かつ多数のナイフを所持していた(犯人像と整合的)
⑦被告には、本件殺人の取調べ開始直後の時期に、実母に対して「事件」を起こしたことを謝罪する手紙を送っている
 
②については証明力を減殺し、
⑦については証明力を増強した上で、
①から⑥の事実の総合により有罪の蓋然性が相当高い被告人が⑦の手紙を作成したことは被告人が犯人でなければ合理的に説明することが極めて困難な事実

被害者に付着していた粘着テープと遺体表面から採取された資料から被告人由来のDNA型が発見されず、第三者のDNA型が認められたことを考慮しても、被告人を殺害犯人と認めることに合理的疑いを生じさせない。
 
●起訴後の取調べ 
被告人は、平成26年6月3日に殺人容疑で逮捕されたが、それまでの間(すなわち、商標法違反の罪での起訴後の勾留期間中)、警察官は実質21日間(2月18日から3月25日まで)、検察官は実質12日間(2月21日から3月28日まで)、別件の起訴後勾留を利用した余罪(本件殺人罪)の取調べが行われた。
2月25日以降の取調べは任意の取調べとして行なわれたとは認められない⇒違法。
but
本件殺人容疑での逮捕勾留後である平成26年6月20日から6月22日までの間に作成された被告人の検察官に対する自供調査4通については、前記違法な取調べの影響が及んでいないとして、その証拠能力を肯定
 
●録音録画媒体を自白の信用性の補助証拠とした原審の手続 
原判決中の被告人の供述態度についての判示部分を子細に検討した上、
多くの考慮すべき事柄があるにもかかわらず、疑問のある手続経過によって、本件各記録媒体を供述の信用性の補助証拠として採用し、再現された被告人の供述態度等から直接的に被告人の犯人性に関する事実認定を行った原判決には刑訴法317条の違反が認められる

録音録画の制度化に関する刑訴法一部改正は、不当な取調べの有無を事後的に確認できるよにして被疑者取調べの適正化を図るために行われたもの
録音録画記録媒体により再現される取調べ中の被告人の様子を見て、自白供述の信用性を判断しようとすることには強い疑問がある。
 
●予備的訴因の追加とその認定 
原審の訴訟手続に刑訴法317条違反がある。
but
その違法が判決に影響を及ぼすものであるか否かは、本件自白の信用性に関する検討を経た上で判断。
結論として、自らが本件殺人の犯人であることを認める部分は信用できるが、殺害の場所や態様等に関する部分は信用できない。
前記刑訴法317条違反及び殺害の日時場所を当初の公訴事実どおりに認定した事実誤認はいずれも判決に影響を及ぼすことが明らか
⇒原判決を破棄し、控訴審で追加された予備的訴因(殺害の日時及び場所をより概括的にしたもの)について証明があるとして自判し、無期懲役を言い渡した。
 
   
<規定> 
刑訴法 第三二二条[被告人の供述書面の証拠能力]
被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。
 
刑訴法 第三〇一条の二[被疑者取調べ等記録媒体取調べ請求義務、被疑者取調べ等録音録画義務]
次に掲げる事件については、検察官は、第三百二十二条第一項の規定により証拠とすることができる書面であつて、当該事件についての第百九十八条第一項の規定による取調べ(逮捕又は勾留されている被疑者の取調べに限る。第三項において同じ。)又は第二百三条第一項、第二百四条第一項若しくは第二百五条第一項(第二百十一条及び第二百十六条においてこれらの規定を準用する場合を含む。第三項において同じ。)の弁解の機会に際して作成され、かつ、被告人に不利益な事実の承認を内容とするものの取調べを請求した場合において、被告人又は弁護人が、その取調べの請求に関し、その承認が任意にされたものでない疑いがあることを理由として異議を述べたときは、その承認が任意にされたものであることを証明するため、当該書面が作成された取調べ又は弁解の機会の開始から終了に至るまでの間における被告人の供述及びその状況を第四項の規定により記録した記録媒体の取調べを請求しなければならない。ただし、同項各号のいずれかに該当することにより同項の規定による記録が行われなかつたことその他やむを得ない事情によつて当該記録媒体が存在しないときは、この限りでない。
一 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二 短期一年以上の有期の懲役又は禁錮に当たる罪であつて故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件
三 司法警察員が送致し又は送付した事件以外の事件(前二号に掲げるものを除く。)
 
<解説> 
●間接事実による認定 
原審:これらの間接事実のみでは有罪とはできない。
本判決:逆の判断。

被告人が母親宛てに出した「謝罪の手紙」の証明力についての判断の差
原審において証拠の表示⇒刑訴法307条の「証拠物たる書面」として取調べられたものと推測。
but
本判決のような立証趣旨⇒証拠物としての存在を超えて書面の内容の真実性が判断対象となる⇒刑訴法322条1項の要件が問題
 
●録音録画媒体の取扱い
平成28年5月24日に成立した改正刑訴法301条の2により一定の事件について、被疑者取調べの状況の録音録画が義務付け。
その媒体を自白の信用性の判断資料さらには自白そのもの(実質証拠)として利用しようとする検察側の態度。
それを疑問視する判例等。
 
●予備的訴因の認定について
自白の一部分だけを不合理とする理由として、
「被告人が、受ける刑罰を少しでも軽くしようという意図に基づいて本件自白供述をしたものとすれば、自己に不利益な事実をあえて供述しないというにとどまらず、積極的に自己に有利な内容の虚構を作出している可能性も否定できない」

「情状を良くするために犯行を認め、犯行の動機や態様について、実際の犯行よりも犯情の軽い虚偽の事実を供述することは珍しいことではない」

このような可能性や経験則が成り立つか否か。
成り立つとして本件に適用できるか否か。

判例時報2389

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2019年2月20日 (水)

軽微な窃盗保護事件での第1種少年院送致の事案

東京家裁H29.7.14    
 
<事案>
たばこ1箱を万引きしたという軽微な窃盗保護事件において、保護処分歴のない19歳の女子少年を第1種少年院に送致。 
 
<決定>
非行に至る経緯及び家庭裁判所継続歴からうかがわれる
少年の万引きへの抵抗感、規範意識の希薄さ、
少年緒生活歴について、母親の許容もあっての不登校、
中学1年からの喫煙、、万引きといった逸脱行動の出現
母親が処方された睡眠薬等の乱用にみられる少年の薬物依存傾向
就労経験の乏しさ

知的能力の制約に起因する社会適応力及び生活意識の乏しさや深刻な無力感といった少年の資質上の問題

怠惰な生活を許容し、逸脱行動を助長してきた母子関係をよりどころにする保護環境上の問題

そうした問題の表れともいうべき少年の基本的生活習慣の欠如、
処理しきれないほどの負担を抱え込むことによる対人関係における依存性、逃避傾向
を指摘。
本件は少年が抱える問題の表れとみることができ、現状の生活が続いた場合の再非行危険性は高く、自己の問題に対処する能力及び保護環境を初めとする少年の改善更生に向けた社会的資源の不十分さ

社会内処遇によって少年の再非行を防止し、その改善更生を果たすことは極めて困難。

少年については保護処分歴はないものの、少年院に収容することが必要不可欠。
なお、少年緒保護環境に鑑み、社会復帰後の帰住先の確保に係る環境調整命令を発している。
 
<解説> 
●少年にこれまで保護処分歴がないこと 
収容保護への謙抑的な傾向や段階的処遇が指摘される一方、
非行性が深化することのないよう適時適切な保護処分の必要性も指摘される。
少年保護手続が個々の少年の資質・環境・非行内容等を総合的に判断し、最適な処遇を個別に追求し、その健全育成を図ることを目的

事案の内容と要保護性の程度に即して健全な判断を個別的に下していくほかなく、初回係属でも少年院送致を選択することが必要な場合もある。

本決定:
少年の再非行危険性とその背景にある少年の社会適応力の乏しさ、生活意欲の乏しさ、深刻な無力感といった根深い少年の資質上の問題に加え、
少年の睡眠薬等への依存傾向の深刻さ、不適切な養育態度により怠惰な生活が許容され、逸脱行動が助長されるような母子関係をよりどころとする長期間にわたる保護環境の問題などからうかがわれる少年の要保護性の高さを重視
収容処遇を選択
 
●非行内容自体がたばこ1箱の万引きという軽微なものであること 

手続面における少年審判における審判対象は何か(実体面からみた場合の保護処分の要件)という問題に関連するとともに、処遇決定における非行事実の機能をどう捉えるかという問題。
A:少年の保護・教育に最適な処遇を目指す健全育成(少年法1条)のためには要保護性が審判対象で非行事実の存在は審判条件にすぎないとする人格重視説

〇B:非行事実も要保護性とともに審判対象であるとする非行事実重視説

少年審判の私法的機能や適正手続の理念を重視
 

非行事実がに認定され、裁判所が少年を保護処分に付す必要がある判断した場合、いかなる保護処分を選択するかはその少年の要保護性に応じて決定。 

要保護性の意義:
①犯罪的危険性(少年の性格、環境に照らして将来再び非行に陥る危険性)
②矯正可能性(保護処分により犯罪的危険性を解消できる可能性)
③保護相当性(少年の処遇にとって保護処分が最も有効、適切な手段であること)
で構成されるとするのが通説・実務の立場。
 

非行事実を重視する立場⇒非行事実の軽重と保護処分の間に一定の均衡が必要とされ、少年審判の司法的機能等を強調する立場⇒非行事実が保護処分の限界を画する。
vs.
非行事実との均衡を要求すると、場合によっては、少年の要保護性に対応しないがゆえにその改善教育には役立たない保護処分を課すことになり、それを避けようとすれば、少年に要保護性が認められるにもかかわらず不処分とせざるを得なくなる。 

非行事実については、
その動機・目的・経緯、常習性ないし同種非行歴、保護処分歴、保護環境が非行にもたらす影響などを総合的に考慮して非行事実の軽重を判断すべきであり、これらの事実を少年の問題点を解明するための重要な事情と捉え、非行事実の結果は大きくなくとも軽微な非行とみるべきではない場合がある。

本件:
たばこ1箱の万引き
but
少年は中学1年のころから喫煙と万引きを行うようになり、
いずれも審判不開始ではあったものの3件の同種非行歴を有し、
本件万引きに至った経緯や前日にも同様の状況の下でたばこを万引き

少年の万引きへの抵抗感、規範意識は極めて希薄であり、
少年の資質上の問題と保護環境上の問題は根深く深刻

本件非行事実が軽微であるとはいえない

判例時報2388

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2019年2月19日 (火)

無線LANアクセスポイントへの接続に必要なWEP鍵は、電波法109条1項にいう「無線通信の秘密」に当たらないとされた事例

東京地裁H29.4.27      
 
<事案>
被告人は、フィッシングメールを利用して、企業が管理するインターネットバンキングのログインのパスワード等を不正に取得し、不正ログインやそれに引き続く不正送金を行ったという
不正アクセス法違反、電子計算機使用詐欺などの罪で起訴されたほか、
被告人方の向かいの家(V8)に設置された無線LANへのただ乗りが電波法違反の罪にあたるとして起訴。 
 
<争点>
無線LANアクセスポイントへの接続に必要な「WEP鍵」をハッキングツールを用いて割り出し、それを利用して同アクセスポイントに接続することが、電波法109条1項にいう「無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を・・・・窃用した」といえるか。 
 
<規定> 
電波法 第109条 
無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を漏らし、又は窃用した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 
<判断>
電波法109条1項の「無線通信の秘密」とは、当該無線通信の存在及び内容が一般的に知られていないもので、一般に知られないことについて合理的な理由ないし必要性のあるものをいう。

WEP鍵は、あくまで暗号文を解いて平文を知るための情報であり、その利用は平文を知るための手段・方法に過ぎない
②WEP鍵を計算によって求めるためには、必ずしも無線LANルータと端末機器との間で送受信されるパケットを取得する必要はなく、ARPリプライ攻撃によってパケットを発生させることでも足りる⇒WEPカギは通信内容の如何にかかわらず取得することができる

WEP鍵は、無線通信の内容として送受信されるものではなく、「無線通信の秘密」にあたる余地はない。

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日雇派遣ないし日々職業紹介での「即給サービス」での振込手数料の天引きが違法とされ、慰謝料の支払いも命じられた事案

東京高裁H30.2.7      
 
<事案>
Xは、派遣スタッフとして登録していたY1から日雇派遣労働者としてY2に派遣されて、合計7日程度就労し、その後、Y1の日々職業紹介により、Y2に日々雇用されて、合計19日就労。 
Xの給料の支払に当たって、給料日前日に給料を受け取るには105円ないし315円の振込手数料を要する「即給サービス」というシステムを用い、給料から同振込手数料を天引き
⇒賃金の全額払いの原則を定めた労基法24条1項に違反するところ、Yらに対し、民法709条、719条1項に基づき、他の不法行為の分と合わせて、連帯して慰謝料300万円及びこれに対する遅延損害器の支払を求めた。
 
<一審>
Xの請求をいずれも棄却。 
 
<判断>
● ・・・即給サービスの利用手数料の負担者については、Y1の「銀行口座振込依頼書(兼 即給サービス利用申込書)」によれば、利用者である労働者とされているが、YらがXの賃金と即給サービスの利用手数料を相殺することができるためには、Xが相殺に同意していることだけでは足りず、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在しなければならない(最高裁H2.11.26)。

本件の場合、Yらは、Xら就業者に対し、即給サービスの利用を誘導しているといわざるを得ないところ、これにより、Yらは現金による賃金支払の事務の負担を免れることができる一方、Xら就業者は、日雇派遣及び日々職業紹介という不安定な雇用に置かれている者であり、不本意ながら即給サービスを利用せざるを得ない立場にあるといえ、現に45パーセントに及ぶ就業者が即給サービスを利用している

Xら就業者の同意があるとしても、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由客観的に存在する場合に当たらず、Xの賃金から即給サービスの利用手数料を控除することは、労基法24条1項に違反する。

●労基法24条1項は、賃金の全額払いを確保することができる労働者の権利・利益を保護するもの⇒これに違反することは、労働者の権利・利益を侵害するものとして、民法の不法行為における違法性を構成
①ここでの労働者の権利・利益には、賃金が労働者の生活の基盤であることからすると、単に経済的利益だけでなく、人格的利益も含まれるとするのが相当。
②Yらは、賃金全額を支払っていないことを認識していた⇒Xの権利・利益を違法に侵害することについて、過失があった。
Xの請求を1万円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容
 
<解説>
最高裁H2.11.26:
労働者が相殺に同意していることだけでは足りず、
当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在しなければならない。
⇒条件付きで労基法24条1項の賃金の全額払いの原則に反しない。 

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2019年2月18日 (月)

虚偽の有価証券報告書の提出で罰金・課徴金⇒幇助者にその賠償請求(否定)

東京高裁H29.6.15      
 
<事案>
Xは、長年にわたり損失の会計処理に窮していた⇒経営コンサルティング会社を営むYらの関与により、損失隠しのスキーム及び損失解消のスキームを構築してその実行:
Xの新規事業の投資先とされていたベンチャー企業を利用して、その株式を簿外ファンドに取得させて、それを不当に高額に評価して買い取り、さらに実態の伴わない過大なのれんを計上する不適切な会計処理を行い、これに基づく虚偽の有価証券報告書を作成して提出
⇒有価証券報告書虚偽記載の罪に問われて罰金7億円及び課徴金1986万円を納付

Xは、Yらによって、不当な管理手数料や報酬などのほか、ベンチャー企業の株式取得原価とXの購入価格の差額分572億9540万円及び課徴金相当額の損害を被った

主位的に、ベンチャー企業の株式取得原価とXの購入価格の差額分及び課徴金相当額が損害であるとし、
予備的に、ファンド管理手数料等としてYらに支払った費用等並びに罰金及び課徴金相当額が損害であるとして、
その一部を請求。 
 
<原審>
①罰金及び課徴金相当額の損害賠償請求につき、Yらが加担したことによって、罰金刑の言渡しという不可分の1個の結果を招来したものと認められる
②罰金や課徴金は、それを科された者が自ら納付すべきものであるとしても、財産的な損失であることに変わりはない
⇒不法行為と相当因果関係のある損害であると判断。 
 
<判断>
主位的請求について:
そのうちベンチャー企業の株式取得原価とXの購入価格の差額分については最終的にXに償還されたものとして、損害に当たらず

罰金及び課徴金相当額について
刑罰は一定の法益の剥奪であり、犯罪行為者に加えられるもの⇒本質的に一身専属的な性質を有する
本犯者の従犯者に対する全額の損害賠償請求を許容することは、刑罰の他に転嫁するに等しい

信義則に照らして、罰金及び課徴金相当額の損害賠償請求は許されない

予備的請求であるファンド管理手数料等については、控訴審における請求の拡張分までこれを認容。
 
<解説>
刑の言渡しは、犯罪行為者に対するもの⇒言渡しを受けた本人以外に効力は及ばず、その他の者に刑を執行することは許されないのが原則。 
例外:刑訴法491条、492条。

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2019年2月17日 (日)

暴力団員への責任追及と使用者責任

広島地裁H30.5.30      
 
<事案>
性風俗店を経営しているXらが、暴力団員から、それぞれ
①X1が、みかじめ料の要求、車両の襲撃及び金員の喝取等の脅迫行為を、
②X3社及びその代表者であるX2が、みかじめ料の要求及び車両の襲撃等の一連の脅迫行為を、
③X4が、みかじめ料の要求並びに車両及び事務所の襲撃等の一連の脅迫行為を受けたと主張して、

①及び②につき、指定暴力団の参加暴力団の各組長であるY2及びY3並びに構成員であるY4の共謀による共同不法行為責任を、
Y2又はY3とY4の共謀が認められない場合に、Y2又はY3の使用者責任を、
③につき、Y3及びY4の共謀による共同不法行為責任を、
Y3とY4の共謀が認められない場合、Y3の使用者責任を、また、
①から③までにつき、
当該暴力団からみて最上位に当たる指定暴力団(A会)の会長であるY1の使用者責任又は暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(「暴対法」)31条の2所定の責任を、
それぞれ主張し、損害賠償を請求。 
 
<判断>
①から③までの各脅迫行為の事実があったこと、①及び②につき、Y2、Y3及びY4の、③につきY3及びY4の、共謀の事実がそれぞれあったことを認定し、各共同不法行為責任を肯定するとともに、Y1の使用者責任も肯定。
実損額が加え、慰謝料として、X1及びX2につき各400万円(請求額は各500万円)の、X4につき600万円(請求額は800万円)の損害を認めた。

Y1の使用者責任:
①最上位の暴力団(A会)が、指定暴力団に指定されている
⇒暴対法3条1号及び3号の要件を満たすものと判断されている、
②A会は、その傘下組織がA会の威力を利用した資金獲得活動として性風俗店等からみかじめ料を徴収することを促し、これを管理していた上、その一部を上納金として受け取っていた
③A会の「代表者等」(暴対法3条3号)に当たる会長であるY1は、参加組織を含めた暴力団の構成員に対し、自らの指示や意向に従わせる統制下におき、指揮監督をする関係にあった

事業のために他人であるY2、Y3及びY4らを使用する者にY1が当たる。
各脅迫行為は、当該暴力団及びその傘下組織の威力を利用した資金獲得活動として、Y1の事業の執行として行われたもの。
 
<解説>
暴力団の上位者である組長らに対して使用者責任に基づく損害賠償責任を追及する訴訟の1つであり、
最高裁H16.11.12:
階層的に構成されている暴力団の最上位の組長下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立しているとされた事例
の法理に従った事例判断。

①みかじめ料の支払を断った性風俗店経営者らの運転する車両を襲撃しフロントガラスをたたき割るなどした暴力団員による悪質な不法行為について、最上位の指定暴力団の代表者等の使用者責任を肯定した事例であるとともに、
当該不法行為が生命や身体にまで危害を加えかねない著しい恐怖を与える態様のものであったことなどを考慮して高額の慰謝料を認めた事例

判例時報2388

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2019年2月15日 (金)

医師の過誤を認めたが(脳性麻痺等との)因果関係を否定した事案

京都地裁H30.3.27      
 
<事案>
平成23年4月に出生したX1、X1の両親であるX2及びX3が、X1が脳性麻痺となったのは、医療法人Y1の代表者理事長であり、X1の担当医であったY2の診療行為の過失により低酸素状態に至らしめた⇒Y1及びY2に対し、不法行為を理由に損害賠償金約1億円を請求⇒X1が訴訟係属中に死亡⇒X2及びX3が法定相続分に応じX1を承継。 
 
<判断>
被告医師の注意義務違反は認めたが、
注意義務違反とX1が罹患した分娩中の低酸素症、脳性麻痺との間には因果関係は認められない⇒請求棄却。 

①脳性麻痺の発症原因は様々なものがあり、一概に特定できないケースが多い⇒分娩中の低酸素が脳性麻痺の原因になり得ると判断する条件について、米国産婦人科学会の産科臨床委員会の基準(「ACOG基準」)が広く用いられている。
②の脳性麻痺のうち、分娩時の低酸素症や新生児仮死が原因であるものは約10パーセントであるとされているデータもある⇒本件がそのケースに該当すると認定判断するためには、ACOGの基準を充足しているかが重要な考慮要素になる。
③ACOGの基準によれば、4つの項目をすべて満たす必要があるところ、1つが証拠上不明

因果関係の存在を否定。

ACOGの基準を満たさないとしても、被告医師の注意義務違反とX1の脳性麻痺との間に因果関係を認める余地がないかをさらに検討
but
X1の脳性麻痺が、分娩中の被告医師の注意義務に起因する低酸素を原因としているものとは認められないとして、これを否定。

判例時報2388

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2019年2月14日 (木)

北朝鮮によるミサイル攻撃を受ける危険を理由に、高浜原発の運転差止めを求めた事案

大阪地裁H30.3.30      
 
<事案>
大阪府に居住するXが、高浜原発3号機及び4号機を設置している電気事業等を営むY(関西電力)に対し、本件原発が北朝鮮より弾道ミサイルで攻撃された場合には、放射性物質が大量に放出されて債権者の人格権(債権者の生命、身体、健康及び平穏生活権)が侵害される⇒人格権に基づく妨害予防請求として、稼働中の本件原発の運転を仮に差し止めることを命じる仮処分命令を求めた。 
 
<争点>
①本件差止請求の要件と疎明責任の所在
②北朝鮮が本件原発をミサイルで攻撃する具体的危険性があるといえるか 
 
<判断>
●本件差止請求の要件と疎明責任の所在 
一般に、実態的権利に基づく妨害予防請求権が認められるためには、少なくとも、当該実体的権利が違法に侵害される高度の蓋然性が認められることが必要であり、債権者において、これについて主張、疎明責任を負う

発電用原子炉施設の設置主体である事業者が、北朝鮮からのミサイル攻撃のような他国からの武力攻撃に関しては、専門的技術的知見及び資料を十分に保持しているとは認められない

①北朝鮮からのミサイル攻撃の危険性に関し、Yが疎明責任を負担するという疎明責任の転換や
②Xの人格権侵害があるとの事実上の推定が認められたり、
③Xの疎明責任が軽減されたりすると解することはできない。
 
●北朝鮮が本件原発をミサイルで攻撃する具体的危険性があるといえるか

北朝鮮が本件原発をミサイル攻撃する具体的危険があることについて、疎明されたとはいえない。

判例時報2388

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共同親権についての米国の記事

https://marylandreporter.com/2018/01/18/shared-parenting-brightens-the-lives-of-children-of-divorce/

Ned Holstein, M.D., is founder and chair of the board of National Parents Organization. Dr. Holstein was previously appointed by a Massachusetts Chief Justice to a task force charged with reviewing and revising the state’s child support guidelines. A graduate of Harvard College, Holstein also earned a master’s degree in psychology from the Massachusetts Institute of Technology. His medical degree is from Mount Sinai School of Medicine.

これを書いているNed Holstein 氏は、ハーバード大学卒、マサチューセッツ工科大学で心理学の修士号を取得。
医学学位も取得。マサチューセッツ州の首席裁判官によって、州の子供サポートガイドラインの調査と改訂のタスクフォースに指名され、全国ペアレント組織の創設者であり会長。

While this is true for many children, research makes it crystal clear that millions of other children suffer deeply, mostly those who do not have shared parenting.

親が離婚を経験した子ども達が深く苦しみ、特に共同親権でない子ども達がそうであるという現実。

Additionally, perhaps the child’s overworked, single parent doesn’t have the time or energy to enforce homework over television or texting, and the child may very well long for her court-ordered, absentee non-custodial parent.

一人親はオーバーワークで、子供に、テレビを見たりスマホをせずに宿題をさせる時間もエネルギーもない。
子は、裁判所に命じられ参加できない非監護親を切望するかもしれない。

First, federal statistics tell us that 71% of high school dropouts come from single parent homes. And that children whose every-other-weekend non-custodial parents are involved in their education have markedly better grades. Also, that those with shared parenting — those who live at least 35% of the time with each parent — do better on at least a dozen measures of wellbeing, including education, compared to children raised mainly in the home of one parent.

子どもの教育成績・幸福度:
「共同親権でない場合でも、隔週の週末に非監護親が子どもの教育に関与する子ども達>そうでない子ども達。」
「共同親権の子ども達(35%以上を各親と暮らす子ども達)>主に片親で育つ子ども達。」

Additionally, in Sweden, where shared parenting after divorce has been routine for years, the children with this arrangement due just a bit worse than children of intact families. Those still raised by a single parent do far worse – and this despite an extremely generous social safety net guaranteeing that the children of single parents are not impoverished.

離婚後の共同親権が何年も前に導入され、一人親の子供が貧困にならないことを保障する(=貧困のせいではない)スウェーデンでも、片親に育てられた子どもの方が悪い。

And finally, that children with shared parenting are simply happier, calmer kids.

共同親権の子ども達は、より幸せで、落ち着いている。

The benefits of shared parenting for education are mirrored by numerous other measures in almost 60 peer-reviewed studies from multiple countries.

教育における共同親権の恩恵は、多数の国での60もの専門家の研究における他の多くの測定によって再現される。

With this simple change in custody law, we can improve education, decrease substance abuse, decrease truancy, gang involvement and trouble with the law, decrease bullying and aggression, improve both mental and physical health, increase child support payments, and decrease stress and anxiety.

Unlike most other suggested remedies for the multiple problems of our children, all of this can be accomplished with no cost to the taxpayer.

共同親権により、教育を改善し、薬物中毒を減らし、無断欠席、ギャングとの関与や触法問題を減らし、いじめと攻撃性を減らし、精神的及び身体的健康を改善し、児童サポート支給を増やし、ストレスと不安を減らすことができる。

それは、(他の施策と異なり)納税者への負担なく果たすことができる。

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米国における親の憲法上の権利

http://www.fathersforlife.org/families/sprmcrt.htm

 

The United States Supreme Court noted that a parent's right to "the companionship,  care, custody and management of his or her children" is an interest "far more    precious" than any property right. May v. Anderson, 345 U.S. 528, 533; 73 S.Ct.    840, 843, (1952).

 

米国最高裁:「自分の子ども(と)の交わり、世話、監護、マネジメント」についての親の権利は、いかなる財産権よりも「はるかに価値のある」利益である。

 

The U.S. Supreme Court implied that "a (once) married father who is separated or    divorced from a mother and is no longer living with his child" could not  constitutionally be treated differently from a currently married father living with his child. Quilloin v. Walcott, 98 S.Ct. 549; 434 U.S. 246, 255-56, (1978)

 

米国最高裁:「母親と別居あるいは離婚し、もはや子どもと住んでいない(かつて)結婚していた父親」は、子どもと同居し現在結婚している父親と、憲法的に異なって扱われ得ない。

 

Law and court procedures that are "fair on their faces" but administered  "with an evil eye or a heavy hand" was discriminatory and violates the equal protection clause of the Fourteenth Amendment. Yick Wo v. Hopkins, 118 U.S. 356, (1886)

 

「形式的に公正」であるが、悪意のこもった目つきで、あるいは圧政的に運営される法と司法手続は、差別的であり、第14修正の平等保護条項に違反する。

 

The Constitution also protects "the individual interest in avoiding disclosure of personal matters." Federal Courts (and State Courts), under Griswold can protect, under the "life, liberty and pursuit of happiness" phrase of the Declaration of    Independence, the right of a man to enjoy the mutual care, company, love and affection of his children, and this cannot be taken away from him without due process of law. There is a family right to privacy which the state cannot invade or it becomes actionable for civil rights damages. Griswold v. Connecticut, 381 U.S. 479, (1965)

 

連邦裁判所(と州裁判所)は、Griswold 判決の下、独立宣言の「生命、自由及び幸福追求」の言葉の下で、子ども(と)の相互のケア、交際、愛と親愛を享受する権利を守ることができ、これは法の適正手続によらなければ取り上げられ得ない。

 

Parent's rights have been recognized as being "essential to the orderly pursuit of happiness by free man." Meyer v. Nebraska, 92 S.Ct. 1208, (1972)

 

親の権利は「自由人による適正な幸福追求にとって本質的」であると認識されてきた。

 

The Due Process Clause of the Fourteenth Amendment requires that severance in the parent-child relationship caused by the state occur only with rigorous protections for individual liberty interests at stake. Bell v. City of Milwaukee, 746 F 2d 1205: U.S.    Ct. App. 7th Cir. WI., (1984)

 

第14修正の適正手続条項は、州裁判所による親子関係の断絶は、あやうくされる個人の自由権の厳格な保護をもってのみ行なわれることを要請する。

 

■結論

米国では、親の子供と交わり、世話し、監護し、愛と親愛を享受する権利が、憲法上の権利として認められていることを再確認した。
日本でも、同様の権利が、憲法13条の幸福追求権によって認められるべきだと思う。

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2019年2月13日 (水)

雑誌の記事が人格権侵害に当たる⇒雑誌の販売、頒布の禁止等を命ずる仮処分(肯定)

札幌高裁H30.5.22      
 
<事案>
雑誌の出版社であるY(相手方)が発行した月刊誌において、公共交通等を事業内容とするA社の代表取締役であるX(抗告人)について、Xが業務上横領により告発されたことに関する記事(旅費が振り込まれたX名義の口座番号を含む銀行口座の情報など)を掲載⇒Xにおいて、本件記事によりXの名誉及びプライバシーが侵害されたとし、Yに対し、人格権(名誉権及びプライバシー権)に基づき、本件記事を切除又は抹消していない本件雑誌について販売等の禁止等を求めた。 
 
<原審>
①本件記事によるXの名誉権侵害及びプライバシー権侵害が重大なものであるとは言い難い
②Xの損害又は危険が仮処分命令によりYの被る不利益を比較して著しく大きいものともいい難い
③公共交通等を事業目的とし、公益性もあるA社の代表取締役につき業務上横領による告発がなされたという、公共の利害に関する事項についての表現行為という面を有する

Xの損害又は危険は事後的な損害賠償等によって対処すべきものであり、仮処分命令を必要かつ相当とするほどの保全の必要性があるとは認められない

Xの申立てを却下。 
 
<判断> 
●被保全権利の存否
本件記事は、「一般の読者に対し、Xが業務上横領で告発された事実自体を伝えるにとどまらず、XがA社の代表取締役就任前であり同社から旅行費用の支払を受ける根拠がないにもかかわらず、不当に高額な旅行費用を絶対服従といえるような関係にある同社の経理責任者に支払わせたとするもの」⇒Xが実際に業務上横領という犯罪を犯したという印象を与えるもの⇒Xの社会的評価を低下させ、名誉を毀損するというべき

人格権(名誉権)の侵害を肯定。

本件記事には、
X名義の預金の銀行名、口座の種類、口座番号等の情報が示されており、これらが通常、私生活上秘匿されるべき情報であり、公開を欲しない情報であって、プライバシーにわたる情報といえる。
とりわけ銀行口座の口座番号等も含む情報は、第三者に悪用される可能性が高く、極めて高い秘匿性を有する情報であって、これがマスキングもされずに公開された点において、プライバシー侵害の程度は著しい。

マスキングもせずに公開することについて何らの公益性は認められない

人格権(プライバシー権)の侵害も肯定。
 
●本件雑誌は既に販売されているが、名誉毀損及びプライバシー侵害の程度は高く、これによる被害の更なる拡大やインターネットによる拡散を防ぐ必要性も高い

保全の必要性も肯定
 
<解説>
●雑誌等による名誉毀損行為を理由とする差止請求の可否:
人の社会的評価に係る事実の摘示や意見表明は言論活動の一環であることが多く、これについて安易に事前の差止めを認めることになれば、民主主義の根幹を形成する自由な言論市場における意見の交換を妨げる危険性が生じることになる⇒表現の自由との関係の調整が必要。 

●本決定:
最高裁昭和61.6.11(北方ジャーナル事件)を参照しつつ、
名誉権に基づく出版物の頒布等に対する事前差止めは、表現行為に対する重大な制約となる⇒憲法21条の趣旨に照らし、原則として許されない。
but
その表現内容が真実でないか、又は専ら公益を図る目的でないことが明白であって、
かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合には、
これが許されると解するのが相当。

本件雑誌が既に発売されており、その意味において事前の差止めとは異なる
but
出版物の販売禁止やその回収等を求めている
⇒表現行為に対する制約となるもの⇒前記同様の要件の下に申立ての適否を検討するのが相当。

●プライバシー侵害と差止請求の可否:
実務では、
①出版する記事等の対象が債権者のプライバシーに属するものであること
②出版する記事等の内容が社会の正当な関心事でないか、表現内容、表現行為が正当なものでないこと
③出版する記事等の公表によって、債権者が重大な損害を受けること
が求められている。 

最高裁H14.9.24:
名誉、プライバシーを含む人格権侵害の事案について、
公共の利益にかかわらないプライバシーにわたる事項を表現内容に含む小説の公表により公的立場にない者の名誉、プライバシー、名誉感情が侵害され、小説の出版等により重大で回復困難な損害を被らせるおそれがある

出版等の差止請求を認容した原審の判断に違法はないとする。

判例時報2388

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2019年2月12日 (火)

同居親(母親)が試行的面会交流の実施を拒絶⇒面会交流実施の諸条件が整っていない⇒面会交流否定

札幌高裁H30.2.13      
 
<事案>
別居している離婚訴訟中の夫Xが、妻Yに対し、未成年の子ら(12歳と9歳)との面会交流を求めた事案。 
 
<原審>
Yは、Xに対し、本審判確定の日の属する月の翌月以降、Xが未成年者らとそれぞれ2か月に1回程度面会することを許さなければならない。 
   
Yが不服として抗告
 
<判断>
父母が別居した場合であっても、子が非監護親と面会交流することは、子が非監護親からこれまでと変わらぬ愛情を注がれていることを知り、親子の間の深い結びつきを感じ取る機会となるのみならず、子の養育及び発達について配慮すべき責務を有する非監護親にとっても、子の置かれた状況や心情などを認識し、当該責務をより的確に全うすることにつながるものといえる

子の利益が害されると認められる特段の事情がない限り、子と非監護親が面会交流をすることを禁止すべきではない
but
原審で試行的面会交流が実施できなかったことにより、面会交流の実施可能性を見極め、面会交流の具体的内容や条件の検討をすることが困難になっており、
当事者間の紛争の実情に鑑みると面会交流を実施できるだけの信頼関係と協力関係が形成されているとも言い難く
当事者間で面会交流の実施に向けた具体的協議をすることも困難

現時点でXと未成年者らとの面会交流を実施するにあたっての諸条件が整っているとは認められない

Yが試行的面会交流の実施を拒否したことは、試行的面会交流の意義、目的を考えると遺憾と言わざるを得ないが、その拒否の事実を面会交流実施の可否を判断するにあたって、面会交流を実施する方向での一事情とすることは未成年者らの福祉の観点からは相当とは言い難い

本件においては、現時点でXと未成年者らとの面会交流を実施することが相当であると認めることができない。
 
<解説>
XがYに対して損害賠償請求を提起したこと、
長期間婚姻費用の分担を行わなかったこと
などの事実を認定した上、
原審で試行的面会交流の実施ができなかったことを重視し、
Xの面会交流を否定。 

判例時報2388

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2019年2月11日 (月)

老親に対する扶養義務についての兄弟間の紛争

広島高裁H29.3.31      
 
<事案>
Z(参加人(母)・事件本人)の二男X(申立人・抗告審相手方)が、Zの長男Y1及び三男Y2に対し、
①Zの扶養料として月3万円ずつをZに支払うこと、
②XのZ及び亡きP(Zbの夫)に対する金銭的援助につき、過去の扶養料の求償として、Xの負担した合計額の3分の1ずつをXに支払うこと
を求めた。 
 
<原決定> 
Y1及びY2に対し、
Zの扶養料として、X、Y1及びY2の収入に応じて按分した分担額(Y1につき月額1万7200円、Y2につき月額4万6700円)をZに支払うこと、

過去の扶養料の求償として、金銭的援助と認めた額を扶養義務者らの収入に応じて按分した金額(Y1につき168万6081えん、Y2につき457万4763円)をXに支払うことを命じた。
   
Y1のみが即時抗告。
Zの扶養料につき、Y1の分担額を月額5000円、Y2の分担額を月額5蔓延とすること、
過去の扶養料の求償を認めないこととする
裁判を求めた。
 
<判断>
子の親に対する扶養義務=生活扶助義務(自らの社会的地位等に相応する生活をした上で余力がある限度において負担する義務)

扶養料の額は、原則として、
被扶養者が実際に要する生活費ではなく、
被扶養者が生活を維持するために必要な最低生活費から収入を差し引いた額を超えず、かつ、扶養義務者の余力の範囲内の金額とするのが相当。 

●被扶養者(Z及びP)の必要生活費:
生活保護基準によって算出した最低生活費を基礎として算出し、
これと収入(年金支給額)との差額を不足分
として、
扶養義務者らの収入に応じて按分した分担額を算出。

●扶養義務者らの余力:
人事院が算定した標準生計費(平成26年人事院勧告の参考資料)に依拠し、

Y1は、収入が標準生計費に満たないものの、Y1の妻が看護師として稼働(収入資料が提出されていないため、賃金センサスの年収額を斟酌)しており、Y1世帯の生活費の分担能力があることを前提として、Y1に自己の分担額を負担する余力があると判断

Y2:
自己の収入だけで生活費を負担しても、自己の分担額及びより多額である原審判が命じた額を負担する余力があることに加え、Y2の妻が会社員として稼働し、Y2の長女にもパート収入があること、Y2が、Xとの協議に基づき、平成27年1月以降、月5万円(同月4月以降は5万5000円)を負担していると主張し、原審判に抗告していないこと等⇒原審判で定めた額のとおり。

●Xは、 標準生計費及び収入によると負担する余力はない
but
過去の扶養料については、Y1及びY2の分担額をもって不足額を満たす
⇒それを超える金額を求償することはできず、
Zの扶養料については、現にZ及び亡Pに対して経済的援助を継続できている⇒Y1及びY2の分担額と不足額との差額(約3000円)を分担すべき。
 
<解説>
扶養義務者の扶養義務の程度については、
夫婦間及び親の未成熟子に対する生活保持義務(被扶養者に扶養義務者の生活程度の生活を保持すべき義務)と、
前記以外の直系血族及び兄弟姉妹間等における生活扶助義務(自らの社会的地位等に相応する生活をした上で余力がある限度において負担する義務)に区別されるとするのが一般的。 

本決定:
子の親に対する扶養義務について、生活扶助義務であると解した上で、被扶養者の生活保護基準に基づく最低生活費を基準とした。

扶養義務者が複数ある場合の分担額:
各人の余力(扶養義務者の収入ー社会的地位に相応する生活費用)に応じて分担させることも考えられるが、
本決定は、扶養義務者らの収入額に応じて按分して原則的な分担額を算定した上で、それとの関係で余力の有無について判断。

扶養義務者の配偶者(扶養義務者でない)の収入を扶養義務者の収入と合算して余力の有無を判断することは、実質的に扶養義務者でない者に負担させる結果となるため相当でないが、
扶養義務者世帯が分担することが相当と考えられる額を検討する際に、配偶者の収入を斟酌することは許容されると考えられる。

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2019年2月 9日 (土)

ハーグ条約実施法の事案

大阪高裁H29.7.12       
 
<事案>
子の父であるX(米国在住)が母であるY(日本在住)に対し、Yによる連れ去りによりXの子に対する監護の権利が侵害されたとして、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づき、子を常居所国である米国に返還することを求めた事案。 
原審がXの申立てを認容⇒Yが即時抗告
 
<事実>
Xが提起した離婚訴訟が米国の裁判所に係属し、その過程で、Xの書面による同意又は裁判所の命令がない限り、Yが子を連れて当該州の外に出ることを禁じる裁判所の命令が発令されているにもかかわらず、Yが子とともに日本に帰国。 
YがXによるDVを主張しており、その主張がYによる連れ去りの背景を成している。
 
<争点>
争点①:子の常居所地国 
 
Yの主張 日本へに単身帰国した時点ですでにX及びYの婚姻生活は破綻し、Yは米国での生活を引き払って日本で生活を開始したものであり、その後の米国への帰国も米国での裁判のための一時的なもの
⇒日本への単身帰国以降、Yの常居所地国は日本であり、その期間中に日本で出生した子の常居所地国も日本。 
 
<判断>
常居所とは、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当期間にわたって居住する場所をいうものと解され、
その認定は、居住年数、居住目的、居住常況等を総合的に勘案してすべき。
とりわけ、連れ去り時に未だ生後7か月余りの本件子について常居所地国を判断するに当たっては、その監護者の意思が重要な要素となる。

①出生からYとの渡米までの子の日本滞在期間が51日間であるのに対し、米国滞在期間は、日本への連れ去りまでで180日間となっている
②Y及び子の渡米後のX及びYとの電子メールのやりとりにおいて、Yが日本に帰る意思がない旨等を述べていた
③渡米時に子が片道チケットを使用し、日本に帰ることを当然の前提としていなかった

連れ去りがされた時点で子の常居所地国は米国
 
<争点>
争点②:重大な危険の例外 
 
Yの主張 Yは、XがYに対して銃口を向けたとか、重量のある箱をぶつけたとかいったYによる暴行等を主張するとともに、XがYと子を車で轢こうとしたと主張し、実施法28条1項4号のいわゆる重大な危険の例外の適用を求めた。
 
<判断>
前者の主張:
それらの事実を認めるに足りる客観的な証拠がない

後者の主張:
Xが子との面会交流後にYと子をYと子が入居しているDV保護シェルターまで送ろうとしたことでトラブルとなり、Yが子を抱いて車から逃げ出し、警察官が出動する騒動になったことは認められるものの、
XがY及び子を轢こうとした事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

判例時報2388

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2019年2月 7日 (木)

東京都建築安全条例32条6号に違反するとされた事案

東京地裁H30.5.24      
 
<事案>
Xらが建築主となって建築する共同住宅(「本件マンション」)の建築計画について、指定確認検査機関であるAが建基法6条1項前段に定める建築確認処分及び同項後段に定める建築計画変更確認処分

Z2(被告参加人)を含む本件マンションの周辺住民らが本件処分の取消しを求めて審査請求

東京都建築審査会(裁決行政庁)は、本件マンションの建築計画には条例違反の違法があるなどとして、前記審査請求を認容し、本件処分を取り消す旨の裁決。

建築主であるXらが、Y(東京都)を相手に、本件裁決の取り消しを求める事案。
 
<争点>
本件マンションの建築計画の東京都建築安全条例(「都条例」)32条6号違反等に関する本件裁決の判断の誤りの有無等。 
 
<判断>
南側道路出入口が「直接知情へ通ずる出入口」(施行令13条1号)に当たるとした上で、
①南側道路出入口が、本件建築物一の南棟2階とほぼ同じ高さに設けられているのに対し、本件駐車場は、南棟1階とほぼ同一水面上にある北棟1階に設けられており、南棟2階とほぼ同一水面上である北棟2階にはゲストルーム等が設けられている
②本件駐車場の床面(スロープが設けられていない部分)と南側道路出入口の床面との高低差は、約2.5メートルであり、これは、本件駐車場の床面から天井面までの高さにほぼ相当するという形状

本件駐車場は、南側道路出入口のある階、すなわち「直接地上へ通ずる出入口のある階」に設けられているとは認められないとして、「避難階」に設けられているとはいえない。

①都条例32条6号の「避難階段」は施行令ににいう「避難階段」と同義であって、施行令123条の定める避難階段の構造を有するものをいうと解するのが相当⇒避難階段A及びBは都条例32条6号所定の避難階段に当たらない。

②都条例32条6号所定の避難階段は、当該「建築物の部分」(都条例31条)に設けられなければならないところ、ある階段が自動車車庫等の部分に設けられているといえるか否かは、当該階段と自動車車庫等の用途に供する部分との位置関係を考慮するのみならず、都条例32条6号等の趣旨をも考慮して判断するのが相当。
本件駐車場は北棟に設けられているのに対し、避難階段Cは東棟に設けられている⇒避難階段Cが、本件駐車場から避難しようとする者のための避難施設であるといえないことは客観的に明らか。
本件駐車場から避難階段Cまで円滑に移動することができないおそれがあり、避難階段Cが本件駐車場との関係で都条例32条6号所定の避難階段に当たると解すると、都条例の規定の趣旨に沿わないものとなる。

避難階段Cについても都条例32条6号所定の避難階段に当たらない。

Xらの請求を棄却。
 
<解説>
本件マンションのように建築物内部に自動車車庫が設けられているマンションは珍しいものではなく、自動車車庫について建基法及び施行令に避難施設に関する定めはないところ、特殊建築物である自動車車庫の規模等に応じ、条例で直通階段の設置等の制限(建基法40条)を附加する例がみられ、
条例の解釈において、建基法や施行令との関係が問題となり得る。 

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2019年2月 6日 (水)

捜査の違法により覚せい剤及び尿に関する証拠の証拠能力が否定された事案

東京地裁H29.5.30      
 
<事案>
侵入窃盗及び車両窃盗、覚せい剤使用及び所持の各事案に係る窃盗、建造物侵入、覚せい剤取締法違反被告事件。 

覚せい剤取締法違反の各事実につき、GPS捜査(被告人使用車両と窃盗共犯者の使用車両に、被告人らの承諾なく密かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する捜査)及び警察官によるけん銃使用とこれに引き続いてなされた覚せい剤及び尿の押収手続には、令状主義の精神を没却する重大な違法があり、それと密接に関連する覚せい剤及び尿に関する証拠を許容することは、将来における違法捜査抑制の見地から相当でない⇒証拠能力を否定し無罪。
 
<争点>
①無令状による本件GPS捜査の違法性
②本件GPS捜査の違法性の程度と覚せい剤や尿の鑑定書等の証拠収集手続との関連性の程度
③警察官によるけん銃使用とこれに引き続く覚せい剤の押収手続の違法の有無と程度 
 
<判断>
●争点①
最高裁大法廷H29.3.15:
GPS捜査が、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に密かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり、令状がなければ行うことができない強制の処分である旨判示。

本判決:無令状により行われた本件GPS捜査が、強制処分法定主義(刑訴法197条1項但書)に違反し違法であると判示。
 
●争点②
本件GPS捜査の実施期間や規模、位置情報の精度、警察内部の運用要領や実施態様
被告人や共犯者らを含む個人のプライバシーの侵害の程度が大きかった

①本件GPS捜査の目的は、被告人に対する窃盗被疑事件について逮捕状の発付を受けた後は、被告人の所在確認と身柄確保にあり、かつ、GPS捜査の期間を通じて現行犯人逮捕等の令状を要しない処分と同視すべき事情ははなかったこと
警察組織全体で保秘の徹底を図って司法審査を困難にし、違法捜査の問題が生じ得ることを把握した後の公判中にGPS捜査に関する捜査メモを廃棄したこと
などの警察官らの態度

本件GPS捜査の違法の程度は、令状主義の精神を潜脱し、没却する重大なもの

本件GPS捜査と証拠との関連性:
①警察の捜査方針(窃盗被疑事件の逮捕状を執行するのではなく、違法薬物の任意提出を受けて違法薬物所持の被疑事実で現行犯人逮捕する方針)⇒本件GPS捜査の目的が覚せい剤所持の捜査目的を兼ね備えていた
②実際に本件GPS捜査の結果を直接的に利用して収集されたものであり、密接な関連性を有する。
③覚せい剤押収から4時間後の尿に関する証拠も、覚せい剤使用の事実での令状の請求や令状発布などの司法審査が一切されていない⇒違法状態を直接的に利用したものであり違法性を帯びる

本件GPS捜査及び及びこれに引き続いて行われた覚せい剤及び尿の押収手続には、令状主義の精神を没却する重大な違法がある
 
●争点③ 
被告人について既に窃盗の逮捕状が発付され、また、未成年者略取の容疑があった⇒警察官らがけん銃を携帯したこと自体は必要かつ相当。
but
①それ以上に、釣り竿以外には何も所持せず、抵抗や逃走の気配もない被告人にいきなり銃口を向けて構えて「動くと撃つぞ。」などと複数回警告した警察官の行為は、犯人逮捕等のために例外的に武器の使用を認めた警職法7条本文に違反し、違法。
②その後も被告人に銃口を向けて所持品の提出を求め、徹底的に行った所持品検査や身体検査は、任意捜査の限界を超えた明らかな違法捜査。
けん銃使用から約20分後になされた覚せい剤の押収手続は、その経緯や時間的な接着の程度から、違法なけん銃使用とこれに引き続く違法な身体検査、所持品検査を直接利用してなされたもので違法性の程度は高い。
警察官らがけん銃の使用について明らかな虚偽証言をして違法行為を隠ぺいしている。

けん銃使用に引き続く覚せい剤の押収手続には、令状主義の精神を潜脱し、没却するような重大な違法がある。
 
<解説>
●無令状のGPS捜査は違法

残された問題は、
①GPS捜査の違法が刑事手続に及ぼす影響の有無や程度、
②GPS捜査により得られtら証拠の証拠能力 

本判決:
GPS捜査のみならず、けん銃使用とこれに引き続く違法な身体検査、所持品検査という2つの違法が重畳的に存在。
but
違法が重畳的に存在した結果重大な違法があるとしたのではなく、いずれの違法も独立して重大であり、それぞれに密接に関連する証拠を排除相当として証拠能力を否定

●最高裁昭和53.9.7:
①証拠の収集手続に令状主義の精神を没却するよな重大な違法があること(違法の重大性)と、
手続の違法に密接に関連する証拠を許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地から相当でないこと(排除相当性)
の2つの要件により証拠能力を判断する相対的証拠排除の立場を採用し、その後の最高裁判例においても踏襲されてきた。 

最高裁H15.2.14:
違法の重大性と排除相当性のいずれの要件をも充足する証拠につき、最高裁として初めて違法収集証拠排除の判断を示すとともに、
違法な手続と密接に関連する第一次証拠に基づいて獲得された派生証拠については、関連性が密接でなく違法の重大性の要件が欠けるとしてその証拠能力を肯定。

本判決:
GPS捜査と押収された覚せい剤及び尿との間にはいずれも密接関連性があり、また、
けん銃使用とこれに引き続く所持品検査、身体検査によって押収された覚せい剤との間に密接関連性がある
として、いずれの違法も重大で排除相当であるとし、証拠能力を否定。

●平成29年大法廷判決後に無令状のGPS捜査が実施されたとすれば、捜査機関の令状軽視の態度が著しいことは容易に認定されよう。 

警察庁:
「検証として行うものも含め、移動追跡装置を用いての車両の位置情報を取得する捜査を控えるよう指示する」旨通知。

判例時報2387

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2019年2月 4日 (月)

吸収分割による地位の承継で賃借人の地位の変更による違約金債務を免れることは信義則に反するとされた事案

最高裁H29.12.19      
 
<事案>
Y:土木建築請負業を主たる事業とし、資本金は5000万円、平成27年6月30日現在の純資産額は約8億5000万円。 
XとYは、平成24年5月、Xが老人ホーム用の建物(「本件建物」)を建築し、YがXから賃借する旨の本件賃貸借契約(期間20年、賃料月額499万円)を締結。
20年契約が継続することを前提にXが投資

中途解約禁止

Yが契約当事者を実質的に変更した場合にはXは本件賃貸借契約を解除することができる旨の条項(「本件解除条項」)
及び
本件解除条項による解除の場合には、YはXに対し15年分の賃料から支払済みの賃料額を控除した金額を違約金として支払う旨の条項(「本件違約金条項」)
が付されていた。

平成28年5月17日にYが資本金100万円全額を出資することによってAが設立。
同月26日、YとAとの間で、効力発生日を同年7月1日として、本件事業に関する権利義務等のほか1900万円の預金債権がYからAに吸収分割(「本件吸収分割」)により移転、
Yは本件事業に関する権利義務等についての本件吸収分割後は責任を負わないものとする旨の契約が締結。

Yは、同年5月27日、債権者が翌日から1か月以内に異議を述べることができる旨を公告⇒異議を述べた債権者はいなかった。

Xは、平成28年12月9日、Y及びあに対し、Yが本件賃貸借契約の契約当事者を実質的に変更したことを理由に、本件解除条項に基づき、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

本件:Xが、Yが本件吸収分割によって賃借人の地位を移転したことを理由に本件賃貸借契約を解除した上で、Yに対して、本件違約金条項に基づく違約金債権(「本件違約金債権」)を請求債権として、Yの第三債務者に対する請負代金債権に仮差押命令の申立てをした事案

Y:本件吸収分割がされたことを理由に、本件違約金債権に係る債務(「本件違約金債務」)の責めを負わないと主張。
 
<原決定>
本件解除条項及び本件違約金条項を認識しながら本件吸収分割を行ったYが本件違約金債務を免れるとすると、Xは、純資産約8億5000万円を有するYではなく純資産100万円を有するにすぎないAから本件違約金債権を回収しなければならず著しく不合理⇒Xの申立てを認容 
   
Yから抗告許可の申立て⇒許可
 
<解説・判断> 
●会社分割:
会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、
吸収分割の場合は分割後承継会社に、
新設分割の場合は分割によって設立する設立会社に
承継される行為(会社法2条29号、30号参照)。 

債権者の同意なく、契約上の地位等を承継会社又は設立会社に移転することができる⇒企業再編のための有用な制度
but
会社分割契約の内容いかんによって、分割会社の一部の債権者の債権の引当財産を恣意的に減少させるように利用されるおそれ。

優良な資産や事業を分割会社から移転し、残存する分割会社の債権者を害する会社分割の事案に関して、
最高裁H24.10.12は分割会社に残存する債権者が新設分割について詐害行為取消権を行使することを認めた。

平成26年法律第90号による会社法改正において、残存債権者保護規定(会社法759条4項等)が設けられた。
 
●本件のように、不採算事業を分割会社から移転する会社分割の事案において、会社分割後に分割会社に対して自らの債務の履行を請求することができない債権者は、会社分割の効力発生前の定められた期間内に異議を述べれば、分割会社から相当の担保が提供される(会社法789条)などの保護。 
 
<判断>
本決定:
本件違約金債務の請求を受ける地位を含む本件賃貸借契約上の権利義務が、本件吸収分割によって、YからAに承継されるとの前提。
その上で、

本件違約金条項は、Xが賃借人の変更による不利益を回避することを意図して設けられたものであり、YもXの前記意図を理解して本件賃貸借契約を締結した。

Aは、本件吸収分割前の資本金が100万円で、本件吸収分割によっても本件違約金債務を大幅に下回る額の資産しかYから承継しておらず、支払能力を欠くことが明らか

③Xの本件違約金債権は本件解除条項に基づいて解除の意思表示をすることによって発生するものであって、本件吸収分割に対して会社法789条による異議を述べることができたとはいえない

本件吸収分割後は責任を負わないとするYの主張は信義則に反し、Yは本件吸収分割後も本件違約金債務を負う。 
 

①⇒Xの信頼を害することが著しい⇒信義則違反であるとの判断にあたっての事情の1つとして考慮。
会社分割に備えた契約の条項の工夫?

②について:
吸収分割前の承継会社の資力や吸収分割によって分割会社から承継会社に移転された資産の額などを考慮した結果、承継に係る債権の債権者が吸収分割によって著しい不利益を受けるとまではいえない場合
例えば、承継会社において前記債権に対して引当となる資産の割合が、仮に前記債権を吸収分割の効力発生前に分割会社に請求した場合に分割会社における引当となる資産の割合を下回ることのない場合には、分割会社の吸収分割後責任を負わない旨の主張が信義則に反するとまではいえない?

③について:
①将来発生する本件違約金債権のような内容の債権に基づき異議申立てが可能かについては疑問もあるところ。
②本件違約金債権は、本件吸収分割が効力を生じて本件賃貸借契約の賃借人の地位がYからAに移転した後に、Xが本件解除条項に基づき解除の意思表示をすることによって発生するところ、本件賃貸借契約の契約内容等に照らしてXが解除を即断し得たか疑問もある。

Xが本件吸収分割の効力発生前の異議を述べることができる期間(会社法789条2項4号)には異議を述べることができなかったとした

判例時報2387

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2019年2月 3日 (日)

販売用の写真素材と著作権

東京地裁H30.3.29      
 
<事案>
写真等のコンテンツの販売、撮影業務等を目的とするXが、
YにおいてXの販売する写真素材(「本件写真素材」)をXに無断で参照して描き、自らの作品に使用して販売した行為が、Xの本件写真素材に係る著作権(複製権、本案権及び譲渡権)を侵害
⇒Yに対して、不法行為に基づき、損害賠償金の支払を求めた事案。
 
<争点>
①本件写真素材の著作物性
②本件写真素材に係る著作権(複製権、翻案権及び譲渡権)侵害の成否 
 
<判断>
●本件写真素材の著作物性(争点①)
写真は被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる1つの表現であり、そこに撮影者等の個性が何らかの形で表れていれば創作性が認められ、著作物に当たるというべきである。

本件写真素材は、被写体の配置や構図、被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現において撮影者の個性が表れているものといえる⇒本件写真素材は総合的表現を全体としてみれば創作性が認められる⇒著作物性を肯定。
 
●本件写真素材に係る著作権侵害の成否(争点②) 
争点①で判示した本件写真素材の創作性⇒本件写真素材の表現上の本質的特徴は、被写体の配置や構図、被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現に認められる
本件写真素材と本件イラストを比較対照

両者が共通するのは、右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の、右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分のみであり、
他方、本件イラストと本件写真素材の相違点としては、
①本件イラストでは、本件写真素材における被写体と光線の関係は表現されておらず、かえって、本件写真素材にはない薄い白い線が加入されていること、
②本件イラストでは、本件写真素材における色彩の配合は表現されていないこと、
③本件イラストでは、本件写真素材における被写体と背景のコントラストは表現されていないこと、
④本件イラストでは、本件写真素材における被写体の頭髪の流れやそこへの光の当たり具合、被写体の鼻や口は再現されておらず、さらに、本件イラストでは本件写真素材における被写体のシャツの柄も異なっていること等

本件イラストは、本件写真素材の総合的表現全体における表現上の本質的特徴(被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等)を備えているとはいえず本件写真素材の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえない
⇒複製権及び翻案権等の侵害を否定。
 
<解説> 
●写真の著作物性:
撮影者による撮影の工夫に撮影者の個性が表現されていること創作性を基礎付けるものとされている。
さらに、被写体の選択や組合せ、配置等を考慮要素に含めるか?
A:肯定説
B:否定説
C:折衷説:被写体に関する工夫も写真の著作物性の根拠になるものと解しつつ、被写体自体が完結した独立の表現物を構成するものと評価し得る場合には、被写体はもはや写真の著作物の構成要素ではなく、写真の著作物とは別個の著作物として保護されるべきであるとするもの。
 
●翻案の意義:
最高裁:翻案の意義について、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更を加えて、新たに思想または感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為

判断方法:
①原告作品と被告作品の同一性を有する部分を抽出し、それが思想または感情の創作的な表現に当たるか否かを判断する濾過テストと呼ばれる手法
②原告作品の著作物性を認識してから、被告作品における複製・翻案を判断する二段階テスト

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2019年2月 2日 (土)

監査請求人の氏名、住所、職業等が記載された名簿の写しを市議会議員の全員協議会の出席者に配布⇒プライバシー侵害の違法行為(肯定)

大津地裁H30.2.27      
 
<事案>
Y市議会議員全員から成る全員協議会が、前議員及びP市長の出席の下、開催された。
3名の議員が、A監査委員事務局長に対し、監査請求人の名簿の開示を求めた⇒A事務局長は、P市長の指示の下、監査請求書の当事者目録(本件名簿)の写しを本件全員協議会に出席していた議員らに配布(本件開示行為) 
Xらは、本件開示行為がプライバシー権を侵害する違法行為であるとして、国賠法1条1項に基づき、Y市に対し、1人につき12万円の支払を求めて本件訴訟を提起。
 
Y市
①本件名簿の情報はインターネット上で公開され、周知のもの⇒プライバシー情報に当たらない
②監査結果は公表が予定されており、住民訴訟が提起されてれば本件名簿の情報は公開される⇒推定的同意がある
③Y市議会議員において、本件監査請求の適法性、従前の監査請求との関係を確認し、住民訴訟となった場合の対応を検討するために誰が監査請求人であったかを知る必要があり、配布の態様も目的に適った相当なもの⇒本件開示行為はプライバシーを違法に侵害する行為ではなかった 

違法性阻却事由として、全員協議会における情報提供要求は地自法98条所定の検査権の行使と同視できるとも主張。
 
<判断>
本件名簿に記載された情報は、秘匿性の高いものではない
but
自己の欲しない他者にみだりにこれを開示されたくないという期待は保護されるべき
プライバシーに係る情報として法的保護の対象になる

①インターネット上にXらが監査請求人であることやその住所、印影などは公開されておらず、本件名簿記載の情報の全てが周知となっていない
②Y市における監査結果の従前の公表の在り方を踏まえると、Xらが事前に市議会議員全員に本件名簿が開示されることまで同意していたと推定できない、
③誰が監査請求したかを議員が知る必要のある場合が想定されず、本件名簿の開示により、どのような具体的な対応に結び付いたのかも一切明らかにされていない⇒開示の必要性は存在しなかった

本件開示行為はXらのプライバシーを違法に侵害するものであると判断
Y市に対し、Xら1人につき6000円の支払を命じた

検査権の行使による違法性阻却の主張については、地自法所定の手続きを経ていないとして排斥。
 
<解説>
個人を識別する住所、氏名等のように秘匿性が高いとはいえない単純な情報であっても、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となることは、平成15年判決及び平成29年判決において確認されている。

プライバシー情報は周知のものでないことが前提⇒本件でも、Yが、Xらのインターネットでの活動を捉え、この点を争った。
but
本判決:インターネットで一定の個人情報が公表されているだけでは周知のものとはいえないとした。
 
杉原最高裁H15解説:
相関関係説を前提に、プライバシー侵害が違法となるか否かは、
①それについての定型的な推定的同意が認められるか否か
受忍限度の範囲内といえるか否か
公益が優先される場合か否か
などといった観点を踏まえ当該情報の内容や開示の態様を総合考慮して判断。

違法性阻却事由として、被害者の承諾、正当業務等を挙げる。

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2019年2月 1日 (金)

警察署に保管中の押収物である現金が盗難被害⇒被押収者による請求(否定)

広島地裁H30.4.24      
 
<事案>
自ら及びその関係先から現金を押収されたXが、警察署内に保管されていた押収物である同現金が何者かに窃取される盗難被害に遭い、これに司法警察職員の過失があり、占有権又は押収物還付請求権を侵害されたと主張

同警察署を設置運営するY(広島県)に対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償請求。 

Yの主張:
①Xは押収物について占有権を有しない
②Xの押収物還付請求権はいまだ発生していない
 
<判断>
占有権侵害の点:
押収物については被押収者による占有が継続しているものではない⇒Xの占有権が侵害されたとはいえない。
(仮に、被押収者の間接占有が認められるとしても、損害の発生が認められない。)

還付請求権侵害の点:
押収物の盗難によってもこれが発見される可能性がないとはいえない⇒Xの還付請求権の行使が不能になったとまでは認められない
押収物の留置の必要性が失われたものではない⇒Xの還付請求権はいまだ発生していない
 
<解説> 
●占有権について: 
捜査機関のする押収により被押収者がその占有を失うか?

A:公法占有説(公権力による占有の取得によっては私法上の占有は何らの影響を受けない)⇒被押収者の押収物に対する占有は間接占有として持続。
vs.
私法的にみた場合に公権力による占有と従前の占有との関係がどうなるかが問題であり、これらの占有が民法上の占有の要件を備えていれば、民法上の占有として取り扱うべきであって、公権力による占有が民法上の占有権の得喪に全く無関係であるとすることには理論的な難点がある。
②刑事手続上の押収は、証拠物のほか没収すべき物についてもなされるもので、被押収者の間接占有という観念に親しまない

B:押収後に被押収者の占有を否定
 
●還付請求権について: 
捜査機関による押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない(刑訴法222条1項、123条1項)。
その還付は、被押収者が還付請求権を放棄するなどして原状を回復する必要がない場合又は被押収者に還付することができない場合のほかは、被押収者に対してすべき(最高裁H2.4.20)。

いつまでも(還付請求権が)不能にならないというものではなく、社会通念等に照らして発見が不可能な事態に至ったと認められる場合には、不能といことも考えられる

本判決:現時点(口頭弁論終結日)においては、いまだ発見が不可能な事態に至っていないと判断。

◎ 公判手続が終了するなどして留置の必要性がないとされ、かつ、原告に直ちに還付されるべき状況にあるといえる場合
⇒原告の還付請求権が観念でき、権利侵害が認められると解する余地もあろう。 

判例時報2387

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