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2019年1月11日 (金)

テレビ用ブラウン管の海外子会社への販売価格に係る日本国外での合意について、独禁法の適用の可否

最高裁H29.12.12      
 
<事案>
Xを含む事業者らがテレビ用ブラウン管の販売価格に関して日本国外でした合意(「本件合意」)が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「独禁法」)2条6項所定の「不当な取引制限」に当たる行為(価格カルテル)である⇒Yか(公正取引委員会)から課徴金の納付を命ぜられた
⇒Xが本件課徴金納付根異例の取消しを求めて審判請求⇒同審判を棄却する旨の審決⇒Yを相手として、本件審決の取消しを求めた。 
 
<事実> 
本件合意:
本件合意の参加者(X、A~E社及びその子会社等)は、遅くとも平成15年5月22日頃までに、本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため、日本国外において、本件ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し、おおむね四半期ごとに、A~E社が我が国テレビ製造販売業者との交渉の際に提示する、本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意。 
 
<規定>
独禁法 第2条〔定義〕
⑥この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
 
<独禁法>
第7条の2〔私的独占・不当な取引制限に係る課徴金〕
事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
一 商品又は役務の対価に係るもの
二 商品又は役務について次のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの
イ 供給量又は購入量
ロ 市場占有率
ハ 取引の相手方
 
<争点>
本件合意が日本国外で行われ、本件合意が対象としていたブラウン管の取引も外国

①課徴金納付を命ずるにあたり我が国の独禁を適用することの可否
②課徴金納付を命ずる場合に課徴金額の算定基礎となる独禁法7条の2第1項の「当該商品の売上額」の範囲 
 
<原審>
本件合意は、本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格、購入数量等の重要な取引条件について実質的決定をする我が国テレビ製造販売業者を対象とするものであり、本件合意に基づいて、我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者との間で行われる交渉等における自由競争を制限するという実行行為が行われた
我が国の独禁法を適用することができる
②本件ブラウン管は独禁法7条の2第1項の「当該商品」に該当する。
 
<判断>
上告受理決定の上、上告を棄却。 
本件合意は、日本国外で合意されたものではあるものの、我が国の自由競争社会秩序を侵害するものといえる本件合意を行った上告人に対し、我が国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるものと解するのが相当

本件合意の対象である本件ブラウン管が現地製造子会社等に販売され日本国外で引渡しがされたものであっても、その売上額は、独禁法7条の2第1項にいう当該商品の売上額に当たるものと解するのが相当。
 
<解説>
●我が国の独禁法の適用の可否 
◎ 本件は、国家管轄権のうち、法律をどの範囲の事実や行為に適用するかといういわゆる立法管轄権(規律管轄権)の問題。

立法管轄権:
各国が共通に採用している管轄権原則に準拠する限りでその行使が認められる。

競争法の立法管轄権に関する代表的な見解:
自国内に反競争的効果(競争制限効果)を及ぼす行為には、行為地を問わず自国の競争法を適用できるとする効果主義(効果理論、効果原則、effect theory, effect doctrine)
②国家管轄権についての伝統的な概念の1つである客観的属地主義(国外で開始され、国内で完成した行為に自国法を適用するもの)にしたがって、カルテル合意を実際に実施する行為が一部でも国内で行われた場合には自国法を適用できるとする見解
これと同じ観点に立つものとして、競争法違反行為をカルテルの形成と実施に分け、カルテル合意(形成)が国外でされたとしても、カルテルを実行に移す競争制限行為すなわち実施行為が国内で「実施」された場合に自国法を適用するという実施(行為)理論(implementation doctrine)
 
◎本判決の考え方:
独禁法1条が、公正かつ自由な競争を促進することなどにより、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする旨を定めている
⇒同法は、自由競争経済秩序の保護を直接の保護法益とし、もって、一般消費者の利益を確保し、国民経済の発展を促進することを窮極の目的としている。(最高裁昭和59.2.24)

国外で合意されたカルテルであっても、それが我が国の自由競争経済秩序を侵害する場合には、独禁法の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定の適用を認めていると解するのが相当。
このような場合において、同法所定の実体要件を満たすときは、公正取引委員会は、当該カルテルを行った事業者等に対し、排除措置命令及び課徴金納付命令を発することができる。

不当な取引制限の定義について定める独禁法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいう(最高裁H24.2.20)。

価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には、当該カルテルは、我が国の自由競争経済秩序を侵害する。

「本件のような価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても、当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど」のときは、価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合に当たる。

「市場が」が、供給者、需要者といった人的要素、商品・役務といった物的要素で構成されるところ、その人的要素を当該市場が存する国を判定する上でのメルクマールの1つとするとの考え方。

本件の事実関係の下においては、
本件ブラウン管を購入する取引は、我が国テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が経済活動として一体となって行なったものと評価できる

本件合意は、我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者をも相手方とする取引に係る市場が有する競争機能を損なうものであったということができる。

本件合意を行ったXに対し、我が国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるものと解するのが相当。

本件のような国際カルテルの事案において、その立法管轄権の範囲を判定するために当該カルテルが影響を及ぼす市場を検討するにあたっては、法人格の同一性や契約上の買主等の形式的な事実だけではなく、経済活動の実質、実態に即して判断すべきであるとの考慮。
 
●「当該商品の売上額」の範囲について 
独禁法7条の2第1項:
事業者が不当な取引制限をしたときは、公正取引委員会は、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行った日からそれがなくなる日までの期間(当該期間が3年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼって3年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(「当該商品の売上額」。当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額。)に一定割合を乗じて得た額に相当する額の課徴金の納付を命じなければならないとする。

本件におて、本件ブラウン管の現地製造子会社等に対する引渡しは日本国外で行われていたところ、本件課徴金納付命令においては、現地製造子会社等に対する本件ブラウン管の売上額、すなわち日本国外で引き渡された商品の売上額が課徴金算定の基礎となっている。

X:独禁法7条の2第1項の「当該商品の売上額」は、日本国内で引き渡された商品の売上額に限られる旨主張。

①独禁法及び独禁法施行令には、「当該商品の売上額」を国内での売上額に限るとの規定はない
②独禁法1条に基づきわが国の自由競争経済秩序に影響を与える行為について独禁法の立法管轄権が及ぶという解釈

国外で商品の引渡しが行われた売上げであっても、それが我が国の自由競争経済秩序に影響を与える行為によるものであれば、これについて課徴金を課すことが独禁法の目的、保護法益の範囲を逸脱するものとはいえない
むしろ、外国での行為が我が国の自由競争経済秩序を侵害しているにもかかわらず、商品が国外で引き渡されてるからといって、そこから発生する不当な利得を剥奪できないのであれば、独禁法により規制、抑止効果が実効性を失うことにもなりかねない

判例時報2385

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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