卒業式等において国歌斉唱の際に起立斉唱を命じる職務命令違反の事案
東京高裁H30.4.18
<事案>
Xら13名は、都立学校の教職員又は元職員であるところ、
その所属校において行われた卒業式等において、国歌斉唱時には指定された席で国旗に向かって起立し、国家を斉唱することを求める校長の職務命令に違反して起立しなかった⇒処分行政庁から地公法32条及び33条に違反するものとして、同法29条1項に基づき戒告、減給又は停職の各懲戒処分を受けた。⇒その取消し及び国賠法に基づく損害賠償を求めた。
<判断>
●職務命令においてある行為を求められることが、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなり、その限りにおいて、当該職務命令が個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があると判断される場合にも、職務命令の目的及び内容には種々のものが想定され、また、前記の制限を介して生ずる制約の態様等も、職務命令の対象となる行為の内容及び性質並びにこれが個人の内心に及ぼす影響その他の諸事情に応じて様々である。
⇒このような間接的な制約が許容されるか否かは、職務命令の目的及び内容並びに前記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して、当該職務命令に前記制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当。
①学習指導要領の趣旨、②本件通達の目的、③Xらが住民全体の奉仕者として法令等及び職務上の命令に従って職務を遂行すべき地位に在ることなどの諸事情⇒本件職務命令には前記制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる。
信教の自由や自由権規約18条に基づくXらの思想及び良心又は宗教の自由に対する制約についても同旨の判断。
⇒
本件通達及びこれに基づく職務命令に瑕疵はない。
●本件職務命令の違反に対し、教職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分である戒告処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは認め難い。
but
減給又は停職の処分を選択することが許容されるのは、過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等に鑑み、学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」が認められる場合であることを要すると解すべき。(最高裁H24.1.16)
⇒
Xらに対する各懲戒処分のうち減給又は停職をいずれも取り消した。
●Xらの国賠法に基づく損害賠償請求:
これらの各懲戒処分がいずれも前記平成24年最高裁判例が出される前にされたものであり、処分行政庁がこれらの各懲戒処分を選択したことが、それぞれの処分当時において、職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものと評価することはできない⇒棄却。
判例時報2385
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