過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律4条)の事案
札幌高裁H29.1.26
<事案>
自動車死傷法によって新設された、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)における「その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」及び「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」についての解釈を示した裁判例。
被告人は、事故直後から約6時間半の間、事故現場から逃走し、知人方で過ごすなどして、飲んだ酒の影響の発覚を免れるべき行為をした。
<規定>
自動車死傷法 第四条(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)
アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の懲役に処する。
<主張>
本件のような、事故現場から立ち去っただけの行為が問題となる事案で、本罪が成立するためには、逸脱目的として、更にアルコールを摂取するいわゆる追い飲み行為に匹敵する程度に、身体のアルコール濃度という重要な証拠収集を妨げる積極的な目的を要する。
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被告人については、そのような逸脱目的を肯認できない。
<解説>
アルコール等の影響による危険運転致死傷罪(本法2条1号及び3条1項)は、客観的にこれらの影響により「正常な運転に支障が生じるおそれたある状態」にあったことが構成要件となっている
⇒犯人がその場から逃走するなどすれば、アルコール等による影響の程度が立証できなくなる可能性が高い。
その場合、
自動車運転過失致死傷罪と同交法上の救護義務違反の罪(報告義務違反の罪は、これと科刑上1罪となる)との併合罪となり、処断刑の上限は懲役15年。
⇒
重い処罰を免れようとして、アルコール等の影響という点について証拠収集を妨げるといった、より悪質性の高い行為に対して、適切な処罰を欠くことになりかねない。
⇒
本罪が規定され、その法定刑は12年以下の懲役とされ、本罪が成立する場合でも、救護義務違反の罪は別罪として成立するので、併合罪加重すると、処断刑の上限は懲役18年。
<判断>
客観的行為:
その場から立ち去れば直ちに本罪が成立するのではなく、一定程度の時間が経過し、その間に、摂取した物質の濃度に変化をもたらす(代謝によるものと考えられる。)など、運転時の当該物質の影響の有無又は程度の立証に支障を生じさせかねない程度のものであることが必要。
逸脱の目的:
アルコール等の得協の発覚を免れる目的は、それが、積極的な原因や動機となっている必要はなく、むしろ、全く別の目的で、その場を離れたような場合を除外する趣旨。
<解説>
除外される例:
自宅で飲酒していた際に、子どもが急病となったため、病院に連れて行くために自動車を運転して病院に向かう途中で事故を起こしたが、まずは、子供を病院に連れて行き、子供の無事が確認できた後に警察署に出頭
判例時報2386
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