第二次納税義務が問題となった事案
津地裁H30.3.22
<事案>
処分行政庁が原告に対して行った、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納税義務者とする告知処分の適法性が争われた事案。
Aは、甲及び乙において代表社員として登記されている者であり、原告は、甲の業務執行社員として登記されている者。
(原告は、Aとの関係で、地方税法11条の8に規定する特殊な関係にある個人であることは当事者間において争いがない。)
①乙が、原告に対し、原告の居住する建物の持分3分の2を譲渡したとの登記
⇒処分行政庁は、法人格否認の法理によりAによる行為と同視でき、かつ実際には無償で行われたものと認め
②甲又はAが、原告に対し、平成25年1月1日から平成26年12月31日までの間、月額10万円(合計240万円)を支払ったことにつき、処分行政庁はAが無償で支給していたものと認め
原告に対し、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納付義務者として、本件処分を行なった。
原告は、本件訴え提起に先立ち、前記市県民税を完納した上で、
①につき、乙は法人格の実体がある⇒法人格否認の法理の適用はなく、
また、本件譲渡は無償ではない。
第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合はやむを得ない場合に限定すべきであるが、本件では、やむを得ない事情はない。
②につき、甲から業務執行社員の報酬として支払われたものである
と主張して争った。
<争点>
①訴えの利益の有無
②本件処分の適法性(とりわけ、法人格否認の法理の適用の可否)
<判断>
●訴えの利益について
行政処分の取消判決が確定したときは、その形成力によって当該処分は遡及的に失効することに帰する⇒これにより公法上又は私法上の原状回復請求権の行使が可能となる場合にはなお訴えの利益を肯定することができる。
本件処分に係る取消判決が確定すれば、当該処分は遡及的に執行することとなり、原告が納付した市県民税について、被告が保持すべき法律上の原因がないこととなる⇒納付に相当する金額について、不当利得返還請求義務が肯定されることになる⇒訴えの利益を肯定。
●
①乙の本店所在地には事務所としての実体がないこと、
②Aは、乙を関連会社の経理の操作や顧問先の脱税の道具として利用していた
⇒法人格の濫用に当たるとして法人格を否認
第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合にはやむを得ない場合に限定すべきである旨の主張は、同制度の趣旨に照らして採用できない。
<解説>
●処分の執行と訴えの利益
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
行政処分が執行によりその目的を達成する場合、処分の執行完了により、以後の処分をされることはなくなる⇒訴えの利益が消滅することが多い。
but
処分を取り消すことによって法的に原状回復義務が生じると解されるときは、訴えの利益は消滅しないと解される。
地方税法は、過誤納金の還付に関する規定を置く。(地方税法17条)
●課税処分と法人格否認の法理
税法上、実質所得者課税の原則により、法人格否認の法理を用いずとも、課税することが可能な事例が多い。
判例時報2386
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