湖東記念病院事件第二次再審即時抗告審決定
大阪高裁H29.12.20
<事案>
平成15年、看護助手の請求人が、入院患者の人工呼吸器の管を引き抜いて殺害をしたとして起訴された事件。
<特徴>
重大事件について高裁段階で再審開始が認められ、また、
本決定は、新証拠により、被害者の死因につき、酸素供給途絶でなく、致死性不整脈(による自然死)であった合理的疑いが生じたとして、「犯人性」以前の「事件性」のレベルで結論を導いている。
確定判決の証拠構造を整理した上で、原決定や即時抗告理由の項目立てや順序と離れ、死因に焦点を合わせて、旧証拠と新証拠などを比較検討して結論に至っている。
<解説・判断>
■死因についての判断
●確定判決の骨子
①遺体を解剖したC医師の鑑定及び公判証言(C鑑定等)により、被害者Aは、人工呼吸器からの酸素供給が途絶したことにより、急性の心停止に至って死亡。
②酸素供給が途絶したのは、何者から故意により管を外し、途絶時に鳴るアラームに作為を加えたことによるものである。
③請求人には犯行が可能な知識、立場があることを前提に、「管を抜き、アラームが鳴らないような作為を加えた」旨の捜査段階の自白が信用できる。
●致死性不整脈が生じた可能性について
①C鑑定の「本件事歴」、「説明」欄の文面をみると、解剖結果のみではなく、「本件事歴」中の「死亡前に人工呼吸器の管が外れた状態が生じていた」という事情を併せて死因を判断していると読める記載をしている。
but
②確定判決は、請求人の捜査段階の自白の信用性を認めて事実認定したことにより、「人工呼吸器の管が外れていたのを発見された」という事実は否定されている。
③
複数の医学的知見によれば、Aの死因が、酸素供給途絶による低酸素状態であるのか、致死性不整脈が生じたことにあるのかは、解剖所見のみから判定することはできず、これに反するCの供述は信用できない。
④解剖時の血中カリウムイオン濃度は低く、これによる致死性不整脈が死因となった可能性があり、カリウムイオン濃度に関する検察官の主張はこれを左右せず、また、他の医学的知見によれば、低カリウム以外の原因による致死性不整脈が生じた可能性も残る。
⑤文献によれば、死因が致死的不整脈である可能性の程度は、無視できるほどに低いものではない。
⇒
請求人の捜査段階の供述を除くと、確定判決①の死因を合理的疑いなく認定するには至らない。
●請求人供述の信用性について
①請求人の捜査段階の供述は、A死亡への関与の有無や程度、アラームが鳴り続けたのかどうか、人工呼吸器の管を外したのか外れたのかなど多数の点でめまぐるしく変遷している。
②アラーム無効期間の延長方法をいつ知ったのかという部分につき、請求人の供述は、供述録取者がL警察官から検察官に代わっただけで大きく変遷しているところ、この点は作為的に管を外したという自白の枢要部分であり、誘導に迎合して供述した可能性を示唆する。
③・・・・請求人がL警察官との関係を維持しようとして虚偽自白をしたとも考えられなくはない。
④請求人の迎合的な性格、理解・表現能力という事情に照らせば、公判での殺害を自認するかのような供述も重視できない。
⇒
請求人の供述は、それ単独でAが酸素供給途絶状態により死亡したと認め得るほどに信用性が高いものとはいえず、前記C鑑定等を併せてみても、Aが不整脈により死亡したのではなく、酸素供給途絶状態が生じたため死亡したことが、合理的疑いなく認められるとは評価できない。
■判断手法・内容の評価
①解剖所見自体から導かれる点と、
②それ以外の事情を加味して導かれる点とを、
明確に区別することが重要。
請求人の義合的な性格
被疑者の中の少なからぬ者がコミュニケーション不全を抱えているといわれている現実
⇒迎合による虚偽自白の危険性について、ますます留意することが必要。
判例時報2385
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