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2019年1月

2019年1月23日 (水)

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律4条)の事案

札幌高裁H29.1.26      
 
<事案>
自動車死傷法によって新設された、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)における「その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」及び「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」についての解釈を示した裁判例。 

被告人は、事故直後から約6時間半の間、事故現場から逃走し、知人方で過ごすなどして、飲んだ酒の影響の発覚を免れるべき行為をした。
 
<規定>
自動車死傷法 第四条(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)
アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の懲役に処する。
 
<主張>
本件のような、事故現場から立ち去っただけの行為が問題となる事案で、本罪が成立するためには、逸脱目的として、更にアルコールを摂取するいわゆる追い飲み行為に匹敵する程度に、身体のアルコール濃度という重要な証拠収集を妨げる積極的な目的を要する。
but
被告人については、そのような逸脱目的を肯認できない。 
 
<解説>
アルコール等の影響による危険運転致死傷罪(本法2条1号及び3条1項)は、客観的にこれらの影響により「正常な運転に支障が生じるおそれたある状態」にあったことが構成要件となっている
⇒犯人がその場から逃走するなどすれば、アルコール等による影響の程度が立証できなくなる可能性が高い。

その場合、
自動車運転過失致死傷罪と同交法上の救護義務違反の罪(報告義務違反の罪は、これと科刑上1罪となる)との併合罪となり、処断刑の上限は懲役15年。

重い処罰を免れようとして、アルコール等の影響という点について証拠収集を妨げるといった、より悪質性の高い行為に対して、適切な処罰を欠くことになりかねない。

本罪が規定され、その法定刑は12年以下の懲役とされ、本罪が成立する場合でも、救護義務違反の罪は別罪として成立するので、併合罪加重すると、処断刑の上限は懲役18年。 
 
<判断>
客観的行為:
その場から立ち去れば直ちに本罪が成立するのではなく、一定程度の時間が経過し、その間に、摂取した物質の濃度に変化をもたらす(代謝によるものと考えられる。)など、運転時の当該物質の影響の有無又は程度の立証に支障を生じさせかねない程度のものであることが必要。 

逸脱の目的:
アルコール等の得協の発覚を免れる目的は、それが、積極的な原因や動機となっている必要はなく、むしろ、全く別の目的で、その場を離れたような場合を除外する趣旨
 
<解説>
除外される例:
自宅で飲酒していた際に、子どもが急病となったため、病院に連れて行くために自動車を運転して病院に向かう途中で事故を起こしたが、まずは、子供を病院に連れて行き、子供の無事が確認できた後に警察署に出頭 

判例時報2386

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2019年1月21日 (月)

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 3条(私事性的画像記録提供等)違反の罪及びわいせつ電磁的記録媒体陳列罪(刑法175条)の事案

大阪高裁H29.6.30      
 
<事案>
私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 3条(私事性的画像記録提供等)違反の罪及びわいせつ電磁的記録媒体陳列罪(刑法175条)の成立が問題とされた事案。
 
<規定>
私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 第三条(私事性的画像記録提供等)
第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。

刑法 第一七五条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
 
<判断>
ヤフーボックスでは、ユーザー以外の者はファイルを見ることはできないが「公開機能」を使えば、ヤフーボックス内の特定のファイル又はフォルダーを第三者に閲覧させることができる。
・・・
ヤフーユーザーがヤフーボックスに保存したデータを公開設定した時点では、そのユーザーに公開URLが発行されるにすぎず、同データを第三者が閲覧し得る状態にするには、公開設定に加え、公開URLを電子メールで送信するなどの外部に明らかにするヤフーユーザーによる別の行為が必要。 

①被告人が本件データを公開設定した時点では、いまだ同データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められず、
被告人が公開URLを被害者に送信した点についても、特定の個人に対するものにすぎないから、同データの内容を不特定又は多数の者が認識しうる状態に置いたと認めることもできない

結局、被告人は、本件データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められない。
 
<解説>
わいせつ物公然陳列罪のいの意義について、最高裁H13.7.16は、
「その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも必要ないものと解される。」

判例時報2386

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2019年1月20日 (日)

銀行の取締役の責任と、離婚に伴う慰謝料、財産分与及び養育費として支払われた贈与契約と通謀虚偽表示

東京高裁H29.9.27      
 
<事案>
経営破綻した銀行(「B銀行」)の元取締役及びその親族らに対して損害賠償を求めた事案。 
Xは、B銀行の取締役会において、後に破綻したノンバンクから商工ローン債権の買取りをY1らが承認したことが善管注意義務違反に当たるとして、B銀行から、元取締役Y1らに対する損害賠償請求権を譲り受けた上、Y1に対して損害賠償を請求。(①事件)
Y1が、B銀行の破綻前後に、妻であったY2に対しては、離婚に伴う慰謝料、財産分与及び養育費の名目で、実弟のY3に対しては、Y3からB銀行株式を購入した代金として、それぞれ多額の送金

Xは、
Y2及びY3に対して、Y2との金銭の贈与契約は通謀虚偽表示にあたるとして、また、
Y2又はY3に対する送金行為は詐害行為にあたるとして、
債権者代位権による不当利得返還請求権又は詐害行為取消権に基づき、それぞれ損害賠償請求。
 
<原審>
①事件につき、一部認容。 
②事件につき、
Y2(元妻)との関係で一部認容し、
Y3(弟)との関係で全部認容。
 
<判断>
●①事件について:
原審をほぼ引用しつつ
善管注意義務違反に関し、銀行の取締役にいわゆる経営判断の原則が適用されると解されるとしても、銀行の取締役の特殊性に照らし、その分だけ限定的なものにとどまる
 
●②事件について 
Y2に対する請求に関して、
Y1が、B銀行の債権者等から民事責任の追及を受けることを覚悟し、債権者等から預金の仮差押えを受けることを避けるために金銭を移動し、急遽Y2との合意書を作成した⇒本件贈与契約は通謀虚偽表示により無効である。

詐害行為取消権にかかる主張について、
養育費はその性質上定期的に支払われるべきものであるところ、
Y1が支払時期の到来していない養育費をまとめて支払ったことは、期限の利益を放棄した行為であり、その放棄は債務者の義務を履行したとはいえない
代物弁済や担保の提供等と同じ性質の行為として詐害行為となる
 
<解説>
●銀行の取締役の善管注意義務違反については、刑事判例である最高裁H21.11.9において、融資業務における注意義務が一般の株式会社の取締役に比べて高い水準にあり、いわゆる経営判断の原則が認められる余地は限定的である旨が示されていたが、
①民事事件において同様の考えに従うべきことを示した点、及び
②その考えが融資業務ではない与信業務についても適用されることを示した点
で意義を有する。 
 
離婚に伴う財産分与等
財産関係と密接な関係がある法律関係であって、それによって新たな身分関係が生じるわけではなく、民法94条の適用がある(最高裁昭和44.11.14)。 

詐害行為取消権については、
従来、離婚に伴って負担すべき金銭の額を超えて支払った部分につき、その行使が認められてきた(判例)。

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2019年1月19日 (土)

リードが離れ犬がランニング中の者の前に⇒犬を避けようとして転倒負傷⇒保険金支払い請求(一部認容)

大阪地裁H30.3.23       
 
<事案>
原告Xが、路上をランニング中、被告Y1が散歩させていた犬を避けようとして転倒した⇒
①前記犬の占有者であるY1に対し、民法718条に基づき、損害賠償として、
②Y1を被保険者とする、個人賠償責任補償特約等が付された自動車損害損害保険契約を締結した被告Y2会社に対し、同保険契約の約款に基づき、Y1に対する支払請求の判決の確定を条件として、
3940万円余の連帯支払を求めた事案

 
<規定>
民法 第718条(動物の占有者等の責任)
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
 
<判断>
Y1が、特別な状況でもないにもかかわらず、突然、飼い犬が走り出したことにより手を放してしまい、飼い犬が単独で道路を進行したことにより事故が発生⇒事故の主たる原因は、Y1が飼い犬を係留しない状態にさせたことにある。 

ランニング中のXにおいて前方確認や進行速度を適切に調節することが不十分であり、これが自己の発生に影響したことも否定できない⇒1割の過失相殺

Yらに対し、1280万円余の支払を命じた。

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2019年1月18日 (金)

ネットショップ用ホームページの制作に係る契約の勧誘における説明義務違反(肯定)

東京高裁H29.11.29      
 
<事案>
X:昭和47年生まれの女性であり、
Y1:ネットビジネスを展開する企業に対してホームページの企画、運営等のサポートを提供する事業を営む株式会社
Y2:クレジット業等を営む株式会社 
Xは、Y1との間で、ホームページ制作業務等の提供を受ける契約を締結し、
Y2との間で、その契約に基づき支払うべきウェブシステム構築費につき個別信用購入あっせん契約を締結。
 
<請求>
Xは、
Y1に対し、消費者契約法4条1項に基づく本件HP制作契約の申込みの意思表示の取消しによる不当利得返還請求権又は勧誘の適合性原則違反及び説明義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権により、既払金相当額及びY2に対する未払金の支払を求めるとともに、
Y2に対し、割賦法または信義則に基づいて未払分割支払金の請求を拒絶することができる地位にあることの確認
を求めた。
 
<原審>
①ネットショップも小売業であるから、商品ラインナップの決定、販路の確保・拡大等は事業主体が自らの判断と責任で行うべきで、Xもそのことを認識してしかるべき
②自ら卸売業者等に対して商品の登録を申し込む必要があるところ、本件HP制作契約締結後に、X自身もこれを前提とした行動を取っている

本件HP制作契約の内容自体がXに適合しないものであるとはいえず、説明義務違反はない。 
 
<判断> 
Y1による説明義務違反を認め、原判決を変更し、XのY1に対する請求を一部認容。 

①ネットショップは、内職的な仕事を探している者に勧められる仕事ではなく、商流を有しない素人がホームページだけ先に制作しても月額の固定費用の支出負担がかかるだけ
②Y1が説明に用いたパンフレットには、ホームページ開設の時点で販売すべき商品が準備されていることを前提とする記載があり、他方で、実店舗を有しないか、又は商品の在庫もしくは仕入先を有しない場合についての記載は全くない⇒Y1は、提供するサービスがXに適合しないことを十分認識していたものと推認できる。

本件HP制作契約を積極的に勧誘することは相当でなく本件HP制作契約により負担すべき費用を上回る利益を上げられないリスクが無視できないことについて説明する義務を負っていた。

Aは、「月商10万円位ならすぐに稼げるようになります」などと断定的判断を提供⇒説明義務を果たしているとは認められない。
Y1の不法行為責任を肯定。
 
●Xはインターネットを利用して商品を販売する事業を営むことを目的として本件HP制作契約を締結⇒消費者契約上の「消費者」にあたらない。
同様の理由により、Y2に対する割賦法の適用を前提とする主張には理由がない
 
<解説>
契約締結の過程において、その判断に重要な影響を及ぼすべき情報を提供せず契約を締結して損害が発生情報を提供しなかった当事者は、信義則上の説明義務違反として不法行為による損害賠償責任が認められる(最高裁H23.4.22)。 

消費者と事業者の交渉力の格差に鑑み、平成30年法律第54号により、事業者の情報提供を明文化する消費者契約法3条1項2号が新設された。

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2019年1月17日 (木)

主位的予備的併合訴訟での予備的請求の認諾

東京高裁H30.2.14      
 
<事案>
株式会社Xは、株式会社Y1の代表取締役を務めるY2から勧誘を受けて、合同会社Aを営業者とする匿名組合が裁定取引システムにより外国為替売買で出資金を運用することを事業目的とする投資ファンドに合計6億700万円を出資。 

Xは、Y1及びY2に対し、
主位的に、完成していない裁定取引自動売買システムに関して虚偽の説明を受けた上、リスクの高いアルゴリズム取引が行われたために多額の損失が発生
⇒共同不法行為又は会社法350条に基づき、損害の一部として1億146万2401円の賠償を請求
予備的に、Aとの間で締結された本件ファンドに係る利益配分金の分配債務をもって消費貸借の目的とする準消費貸借契約につき、Y1及びY2との間で連帯保証することを内容とする連帯保証契約に基づき、同額の支払を求めた。
 
<主張> 
Yら:連帯保証契約に基づく請求を認諾する旨の陳述⇒本件訴訟は終了。 
 
<原審・判断> 
予備的請求のみに係る認諾は無効
Y2が本件ファンドに関する虚偽の事実を述べてXを勧誘して出資させ損害を被らせた⇒Yらの不法行為を認めてXの主位的請求を全部認容。 
 
<規定>
民訴法 第136条(請求の併合)
数個の請求は、同種の訴訟手続による場合に限り、一の訴えですることができる。
 
<解説> 
●併合請求(民訴法136条):
①単純併合
②選択的併合
③予備的併合

複数の請求が論理的に両立し得るもの⇒選択的併合
論理的に両立しない⇒予備的併合

予備的併合は、通常、論理的に両立しえない⇒原告による順位付けによって裁判所が拘束される。
論理的に両立し得る請求であっても、特に順位をつけて審判を求めている場合についても、不真正予備的請求の併合として、実務上認めている。
 
請求の認諾は無条件確定的になされる必要がある。 

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2019年1月15日 (火)

債権差押命令の申立てにおいて、申立日の翌日以降の遅延損害金が取り立てた金員の充当の対象となるか

最高裁H29.10.10      
 
<事案>
税理士である債権者Xが、債務者Yに対して有する報酬等の元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払請求権を表示した債務名義による強制執行として、債権差押命令の申立てをした事案。 
本件債務名義による強制執行として既に発せられた債権差押命令(「前件差押命令」)に基づく差押債権の取立てに係る金員(「本件取立金」)が、前件差押命令の申立書に請求債権として記載されていなかった申立日の翌日以降の遅延損害金にも充当されるか否かが争われた。
 
<事実>
Xは、平成28年1月12日、東京地裁に、Yを債務者、荒川区を第三債務者とし、債権差押命令の申立てをし、同月20日、差押命令が発せられた。
①請求債権
②差押債権 
本件債務名義は、元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とするもの。
but
東京地裁では、第三債務者が遅延損害金の額を計算する負担を負うことのないように、債権差押命令の申立書には、請求債権中の遅延損害金につき、申立日までの確定金額を記載させる取扱い(「本件取扱い」)⇒請求債権中の遅延損害金を前記申立日までの確定金額とした。

Xは、平成28年2月22日から同年3月1日までの間に、荒川区から、前記差押命令に基づく差押債権の取立てとして4回にわたり、請求債権に相当する額の支払を受けた。

Xは、平成28年4月11日、原々審に対し、Yを債権者、荒川区を第三債務者とし、債権差押命令の申立て。
①請求債権:本件債務名義に表示された債権のうち、本件取立金が前件申立日の翌日から前記各支払日までの遅延損害金にも充当されたものとして計算された残元金、最終支払日の翌日以降の遅延損害金及び執行費用
 
<原審>
Xが本件取扱いに従って前件差押命令の申立書に請求債権として元金、前件申立日までの遅延損害金及び執行費用の各確定金額を記載
⇒前件申立日の翌日以降の遅延損害金は本件取立金の充当の対象とはならないものと解すべき⇒本件取立金が前件申立日の翌日以降の遅延損害金にも充当されたものとする本件申立ては許されない⇒本件申立てを却下すべき。
   
Xが抗告許可の申立て⇒原審が抗告を許可
 
<判断>
債権差押命令の申立書に請求債権中の遅延損害金につき申立日までの確定金額を記載させる執行裁判所の取扱いに従って債権差押命令に基づく差押債権の取立として第三債務者から金員の支払を受けた場合、申立日の翌日以降の遅延損害金も前記金員充当の対象となる

原決定を破棄し、本件申立てを却下した原々決定を取り消した上、本件を原々審に差し戻した。
 
<解説> 
●本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者は、債務名義に表示された元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を受けるため、取立金が取立日までの遅延損害金に充当されたものとして計算した残元金等を請求債権として再度の申立てをすることができるのか、それとも、申立ての際に本件取扱いに従った以上、債務名義に表示された債権の一部執行を申し立てたものとして請求債権の表示(民執規則133条1項、21条2号、4号)による制約を受けることになり、請求債権全額相当を取り立てた場合には取立金が申立日の翌日以降の遅延損害金に充当されず、元金が消滅し、残元金等を請求債権とする再度の申立てをすることは許されないのか?
 
配当手続の場面における関連判例:
最高裁H21.7.14:
本件取扱いに従って申立てをした債権者が、配当額の計算の基礎となる債権額に申立日の翌日から配当期日までの遅延損害金の額を加えて計算された額の配当を受けることができるか?

本件取扱いは、法令上の根拠に基づくものではないが、第三債務者に請求権中の遅延損害金の額を計算する負担を負わせないための配慮として合理性を有している。
本件取扱いに従った債権者は、第三債務者の負担への配慮をする限度で本件取扱いを受け入れたものであり、もはや前記配慮を要しない配当手続の場面では、特段の事情のない限り、債務名義に基づいて、肺と行き実までの遅延損害金の額を配当額の計算の基礎となる債権額に加えて計算された金額の配当を求める意思を有するとの意思解釈。
債権者は前記金額の配当を受けることができる

本決定:
取立金の充当の場面においても、もはや第三債務者への配慮を要しない
⇒前記最高裁H21.7.14が示すところの本件取扱いに従った債権者の通常の意思解釈⇒債権者債務名義に基づいて取立金が充当されるとの合理的期待を有している⇒申立日の翌日以降の遅延損害金も取立金の充当の対象となると判断。
 
<規定>
民執規則 第133条(差押命令の申立書の記載事項)
債権執行についての差押命令の申立書には、第二十一条各号に掲げる事項のほか、第三債務者の氏名又は名称及び住所を記載しなければならない。
民執規則 第21条(強制執行の申立書の記載事項及び添付書類)
強制執行の申立書には、次に掲げる事項を記載し、執行力のある債務名義の正本を添付しなければならない。
二 債務名義の表示
四 金銭の支払を命ずる債務名義に係る請求権の一部について強制執行を求めるときは、その旨及びその範囲
 
請求債権の表示に関する民執規則の規定自体は、最高裁判所の規則制定権(憲法77条1項)の性質及び範囲に鑑み、実体法上の充当関係まで規律するものとは解されない。 
 
●再度の申立てを認める本決定の考え方⇒申立日と取立日には必ずずれがある⇒本件取扱いがされる限りいつまでも元金は消滅しない⇒申立てが繰り返される可能性。
but
債務者が任意に債務を履行しない以上、やむを得ない。 

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2019年1月14日 (月)

第二次納税義務が問題となった事案

津地裁H30.3.22      
 
<事案>
処分行政庁が原告に対して行った、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納税義務者とする告知処分の適法性が争われた事案。 
Aは、甲及び乙において代表社員として登記されている者であり、原告は、甲の業務執行社員として登記されている者。
(原告は、Aとの関係で、地方税法11条の8に規定する特殊な関係にある個人であることは当事者間において争いがない。) 
①乙が、原告に対し、原告の居住する建物の持分3分の2を譲渡したとの登記
⇒処分行政庁は、法人格否認の法理によりAによる行為と同視でき、かつ実際には無償で行われたものと認め
②甲又はAが、原告に対し、平成25年1月1日から平成26年12月31日までの間、月額10万円(合計240万円)を支払ったことにつき、処分行政庁はAが無償で支給していたものと認め
原告に対し、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納付義務者として、本件処分を行なった。

原告は、本件訴え提起に先立ち、前記市県民税を完納した上で、
①につき、乙は法人格の実体がある⇒法人格否認の法理の適用はなく、
また、本件譲渡は無償ではない。
第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合はやむを得ない場合に限定すべきであるが、本件では、やむを得ない事情はない。
②につき、甲から業務執行社員の報酬として支払われたものである
と主張して争った。
 
<争点>
①訴えの利益の有無
②本件処分の適法性(とりわけ、法人格否認の法理の適用の可否) 
 
<判断>
●訴えの利益について 
行政処分の取消判決が確定したときは、その形成力によって当該処分は遡及的に失効することに帰する⇒これにより公法上又は私法上の原状回復請求権の行使が可能となる場合にはなお訴えの利益を肯定することができる

本件処分に係る取消判決が確定すれば、当該処分は遡及的に執行することとなり、原告が納付した市県民税について、被告が保持すべき法律上の原因がないこととなる⇒納付に相当する金額について、不当利得返還請求義務が肯定されることになる⇒訴えの利益を肯定。
 

①乙の本店所在地には事務所としての実体がないこと、
②Aは、乙を関連会社の経理の操作や顧問先の脱税の道具として利用していた
法人格の濫用に当たるとして法人格を否認

第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合にはやむを得ない場合に限定すべきである旨の主張は、同制度の趣旨に照らして採用できない。
 
<解説>
●処分の執行と訴えの利益 
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

行政処分が執行によりその目的を達成する場合、処分の執行完了により、以後の処分をされることはなくなる⇒訴えの利益が消滅することが多い。
but
処分を取り消すことによって法的に原状回復義務が生じると解されるときは、訴えの利益は消滅しないと解される。
地方税法は、過誤納金の還付に関する規定を置く。(地方税法17条)
 
●課税処分と法人格否認の法理 
税法上、実質所得者課税の原則により、法人格否認の法理を用いずとも、課税することが可能な事例が多い

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2019年1月12日 (土)

湖東記念病院事件第二次再審即時抗告審決定

大阪高裁H29.12.20    
 
<事案>
平成15年、看護助手の請求人が、入院患者の人工呼吸器の管を引き抜いて殺害をしたとして起訴された事件。 
 
<特徴>
重大事件について高裁段階で再審開始が認められ、また、
本決定は、新証拠により、被害者の死因につき、酸素供給途絶でなく、致死性不整脈(による自然死)であった合理的疑いが生じたとして、「犯人性」以前の「事件性」のレベルで結論を導いている。
確定判決の証拠構造を整理した上で、原決定や即時抗告理由の項目立てや順序と離れ、死因に焦点を合わせて、旧証拠と新証拠などを比較検討して結論に至っている。 
 
<解説・判断>   
■死因についての判断
●確定判決の骨子 
①遺体を解剖したC医師の鑑定及び公判証言(C鑑定等)により、被害者Aは、人工呼吸器からの酸素供給が途絶したことにより、急性の心停止に至って死亡。
②酸素供給が途絶したのは、何者から故意により管を外し、途絶時に鳴るアラームに作為を加えたことによるものである。
③請求人には犯行が可能な知識、立場があることを前提に、「管を抜き、アラームが鳴らないような作為を加えた」旨の捜査段階の自白が信用できる。
 
●致死性不整脈が生じた可能性について 
①C鑑定の「本件事歴」、「説明」欄の文面をみると、解剖結果のみではなく、「本件事歴」中の「死亡前に人工呼吸器の管が外れた状態が生じていた」という事情を併せて死因を判断していると読める記載をしている。
but
②確定判決は、請求人の捜査段階の自白の信用性を認めて事実認定したことにより、「人工呼吸器の管が外れていたのを発見された」という事実は否定されている。

複数の医学的知見によれば、Aの死因が、酸素供給途絶による低酸素状態であるのか、致死性不整脈が生じたことにあるのかは、解剖所見のみから判定することはできず、これに反するCの供述は信用できない。
解剖時の血中カリウムイオン濃度は低く、これによる致死性不整脈が死因となった可能性があり、カリウムイオン濃度に関する検察官の主張はこれを左右せず、また、他の医学的知見によれば、低カリウム以外の原因による致死性不整脈が生じた可能性も残る
文献によれば、死因が致死的不整脈である可能性の程度は、無視できるほどに低いものではない

請求人の捜査段階の供述を除くと、確定判決①の死因を合理的疑いなく認定するには至らない
 
●請求人供述の信用性について 
①請求人の捜査段階の供述は、A死亡への関与の有無や程度、アラームが鳴り続けたのかどうか、人工呼吸器の管を外したのか外れたのかなど多数の点でめまぐるしく変遷している。
②アラーム無効期間の延長方法をいつ知ったのかという部分につき、請求人の供述は、供述録取者がL警察官から検察官に代わっただけで大きく変遷しているところ、この点は作為的に管を外したという自白の枢要部分であり、誘導に迎合して供述した可能性を示唆する。
③・・・・請求人がL警察官との関係を維持しようとして虚偽自白をしたとも考えられなくはない。
請求人の迎合的な性格、理解・表現能力という事情に照らせば、公判での殺害を自認するかのような供述も重視できない

請求人の供述は、それ単独でAが酸素供給途絶状態により死亡したと認め得るほどに信用性が高いものとはいえず、前記C鑑定等を併せてみても、Aが不整脈により死亡したのではなく、酸素供給途絶状態が生じたため死亡したことが、合理的疑いなく認められるとは評価できない。
 
■判断手法・内容の評価 
解剖所見自体から導かれる点と、
それ以外の事情を加味して導かれる点とを、
明確に区別することが重要。

請求人の義合的な性格
被疑者の中の少なからぬ者がコミュニケーション不全を抱えているといわれている現実
迎合による虚偽自白の危険性について、ますます留意することが必要

判例時報2385

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2019年1月11日 (金)

テレビ用ブラウン管の海外子会社への販売価格に係る日本国外での合意について、独禁法の適用の可否

最高裁H29.12.12      
 
<事案>
Xを含む事業者らがテレビ用ブラウン管の販売価格に関して日本国外でした合意(「本件合意」)が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「独禁法」)2条6項所定の「不当な取引制限」に当たる行為(価格カルテル)である⇒Yか(公正取引委員会)から課徴金の納付を命ぜられた
⇒Xが本件課徴金納付根異例の取消しを求めて審判請求⇒同審判を棄却する旨の審決⇒Yを相手として、本件審決の取消しを求めた。 
 
<事実> 
本件合意:
本件合意の参加者(X、A~E社及びその子会社等)は、遅くとも平成15年5月22日頃までに、本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため、日本国外において、本件ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し、おおむね四半期ごとに、A~E社が我が国テレビ製造販売業者との交渉の際に提示する、本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意。 
 
<規定>
独禁法 第2条〔定義〕
⑥この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
 
<独禁法>
第7条の2〔私的独占・不当な取引制限に係る課徴金〕
事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
一 商品又は役務の対価に係るもの
二 商品又は役務について次のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの
イ 供給量又は購入量
ロ 市場占有率
ハ 取引の相手方
 
<争点>
本件合意が日本国外で行われ、本件合意が対象としていたブラウン管の取引も外国

①課徴金納付を命ずるにあたり我が国の独禁を適用することの可否
②課徴金納付を命ずる場合に課徴金額の算定基礎となる独禁法7条の2第1項の「当該商品の売上額」の範囲 
 
<原審>
本件合意は、本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格、購入数量等の重要な取引条件について実質的決定をする我が国テレビ製造販売業者を対象とするものであり、本件合意に基づいて、我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者との間で行われる交渉等における自由競争を制限するという実行行為が行われた
我が国の独禁法を適用することができる
②本件ブラウン管は独禁法7条の2第1項の「当該商品」に該当する。
 
<判断>
上告受理決定の上、上告を棄却。 
本件合意は、日本国外で合意されたものではあるものの、我が国の自由競争社会秩序を侵害するものといえる本件合意を行った上告人に対し、我が国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるものと解するのが相当

本件合意の対象である本件ブラウン管が現地製造子会社等に販売され日本国外で引渡しがされたものであっても、その売上額は、独禁法7条の2第1項にいう当該商品の売上額に当たるものと解するのが相当。
 
<解説>
●我が国の独禁法の適用の可否 
◎ 本件は、国家管轄権のうち、法律をどの範囲の事実や行為に適用するかといういわゆる立法管轄権(規律管轄権)の問題。

立法管轄権:
各国が共通に採用している管轄権原則に準拠する限りでその行使が認められる。

競争法の立法管轄権に関する代表的な見解:
自国内に反競争的効果(競争制限効果)を及ぼす行為には、行為地を問わず自国の競争法を適用できるとする効果主義(効果理論、効果原則、effect theory, effect doctrine)
②国家管轄権についての伝統的な概念の1つである客観的属地主義(国外で開始され、国内で完成した行為に自国法を適用するもの)にしたがって、カルテル合意を実際に実施する行為が一部でも国内で行われた場合には自国法を適用できるとする見解
これと同じ観点に立つものとして、競争法違反行為をカルテルの形成と実施に分け、カルテル合意(形成)が国外でされたとしても、カルテルを実行に移す競争制限行為すなわち実施行為が国内で「実施」された場合に自国法を適用するという実施(行為)理論(implementation doctrine)
 
◎本判決の考え方:
独禁法1条が、公正かつ自由な競争を促進することなどにより、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする旨を定めている
⇒同法は、自由競争経済秩序の保護を直接の保護法益とし、もって、一般消費者の利益を確保し、国民経済の発展を促進することを窮極の目的としている。(最高裁昭和59.2.24)

国外で合意されたカルテルであっても、それが我が国の自由競争経済秩序を侵害する場合には、独禁法の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定の適用を認めていると解するのが相当。
このような場合において、同法所定の実体要件を満たすときは、公正取引委員会は、当該カルテルを行った事業者等に対し、排除措置命令及び課徴金納付命令を発することができる。

不当な取引制限の定義について定める独禁法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいう(最高裁H24.2.20)。

価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には、当該カルテルは、我が国の自由競争経済秩序を侵害する。

「本件のような価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても、当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど」のときは、価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合に当たる。

「市場が」が、供給者、需要者といった人的要素、商品・役務といった物的要素で構成されるところ、その人的要素を当該市場が存する国を判定する上でのメルクマールの1つとするとの考え方。

本件の事実関係の下においては、
本件ブラウン管を購入する取引は、我が国テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が経済活動として一体となって行なったものと評価できる

本件合意は、我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者をも相手方とする取引に係る市場が有する競争機能を損なうものであったということができる。

本件合意を行ったXに対し、我が国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるものと解するのが相当。

本件のような国際カルテルの事案において、その立法管轄権の範囲を判定するために当該カルテルが影響を及ぼす市場を検討するにあたっては、法人格の同一性や契約上の買主等の形式的な事実だけではなく、経済活動の実質、実態に即して判断すべきであるとの考慮。
 
●「当該商品の売上額」の範囲について 
独禁法7条の2第1項:
事業者が不当な取引制限をしたときは、公正取引委員会は、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行った日からそれがなくなる日までの期間(当該期間が3年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼって3年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(「当該商品の売上額」。当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額。)に一定割合を乗じて得た額に相当する額の課徴金の納付を命じなければならないとする。

本件におて、本件ブラウン管の現地製造子会社等に対する引渡しは日本国外で行われていたところ、本件課徴金納付命令においては、現地製造子会社等に対する本件ブラウン管の売上額、すなわち日本国外で引き渡された商品の売上額が課徴金算定の基礎となっている。

X:独禁法7条の2第1項の「当該商品の売上額」は、日本国内で引き渡された商品の売上額に限られる旨主張。

①独禁法及び独禁法施行令には、「当該商品の売上額」を国内での売上額に限るとの規定はない
②独禁法1条に基づきわが国の自由競争経済秩序に影響を与える行為について独禁法の立法管轄権が及ぶという解釈

国外で商品の引渡しが行われた売上げであっても、それが我が国の自由競争経済秩序に影響を与える行為によるものであれば、これについて課徴金を課すことが独禁法の目的、保護法益の範囲を逸脱するものとはいえない
むしろ、外国での行為が我が国の自由競争経済秩序を侵害しているにもかかわらず、商品が国外で引き渡されてるからといって、そこから発生する不当な利得を剥奪できないのであれば、独禁法により規制、抑止効果が実効性を失うことにもなりかねない

判例時報2385

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2019年1月 9日 (水)

団体交渉拒否の不当労働行為に当たるとされた事案

東京地裁H30.1.29      
 
<事案>
学園側出席者は、組合側出席者に対し、団交③において、㋐組合側出席者の人数が7名以内でなければ団体交渉の議題に入ることができない旨を述べ、㋑最終的にその場から退席。
 
Z(Y(国)の補助参加人)は、東京都労働委員会に対し、X(学校法人)が労組法7条2号の規定に違反した旨の申立て⇒都労委は、Xの対応が同号に規定する不当労働行為に当たるとして、Xに対し救済命令を発した⇒Xは、Yに対し、前記救済命令を不服として再審査の申立て⇒Yは当該申立てを棄却する旨の命令
⇒Xが、前記命令の取消しを求めた事案 
 
<規定>
労組法 第7条(不当労働行為)

二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。

<解説>
●労組法7条は、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと(同条2号)を使用者による不当労働行為として禁じている。

かかる正当な理由のない団体交渉拒否については、交渉の日時、場所、時間、人数等に関する正当でない理由を主張しての交渉拒否がこれに当たり得る。(菅野)

使用者が負うべき団体交渉義務の基本的な内容として、使用者には労働者の代表者と誠実に交渉に当たる義務がある。(菅野)

団体交渉への出席者の人数に関しては、団体交渉における交渉担当者としての組合代表者を何名にするかは労使双方が協議して決めるのが望ましいが、意見の一致をみない場合には、組合自身の決定に任せるほかはない旨の指摘。

●本判決:
Xの前記㋐の対応については、
Xが組合側出席者の人数を7名以内とするように求めることが相当であると認められるものであるといった特段の事情がない限り、Zがこれを応諾しなかったことを理由に団体交渉の議題に入らないとの態度をとることは許されない。
そのような特段の事情があるとは認められない本件においては、Xは、前記誠実交渉義務の内容として、Zから前記条件を付す理由等について尋ねられた場合にはこれに誠実に回答すべき義務を負っていたとした上、
X、Z双方の対応の合理性等を検討し、
Xに誠実交渉義務違反があったと認めた。

Xの前記㋑の対応について、
団交③におけるZ側の言動にも一定の非があったことを認めた上で、
前記言動がされるに至った経緯、理由や前記言動の程度、態様を検討し、この中で、前記言動がXの合理性のない態度への抗議として行われたものであることや、Xの態度が改善されれば前記言動も改善されたであろう可能性を考慮し、
これらを踏まえ、
Xの団交③における対応を全体としてみれば、Xが正当な理由なく団体交渉を拒否したものと判断したものと理解される。

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2019年1月 8日 (火)

信用取引が違法な過当取引に当たるとされた事案

東京高裁H29.10.25      
 
<事案>
個人投資家であるXが、証券会社Y1及びY1の担当者2名(Y2、Y3)に対し、Y1において行っていた信用取引(本件信用取引)に係る損害賠償を求めた事案。
Xは歯科医師として歯科医院を開業。
Y1の担当者による訪問営業⇒Y1に取引口座を開設、平成21年5月から約2年半の期間にわたり本件信用取引⇒1億3466万円余の差引損が発生

①適合性原則違反、②実質一任売買、又は③過当取引に当たる違法なもの⇒不法行為に基づく損害賠償請求。
 
<原審>
Xの請求を一部認容(過失相殺6割)
 
<判断>
●過失相殺の点を除き(過失相殺7割)、原審の判断を是認。 
 
●適合性原則違反 
最高裁H17.7.14を参照。
信用取引はリスクが高く、その仕組みも特有のものがある。
but
Xの社会的地位や判断能力、投資経験、投資意向、Yらによる説明の程度等

Xが信用取引の仕組みやリスクを理解できず、およそ信用取引を自己の責任で行う適性を欠き、取引市場から排除されるべき者であったということはできない。

同原則違反には当たらない。
 
●一任勘定 
本件信用取引において、Xが自らの意思と判断により積極的に取引を行ったことはなく、Y1の担当者の意見に従うことがほとんどであった
but
Y1の担当者によって個々の取引や取引方法がXに無断で決定されたというものではない点を重視
本件信用取引が一任売買や実質一任売買に該当する違法なものであったとはいえない。
 
●過当取引 
顧客の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財務状態等に照らし、銘柄数、取引回数、取引金額、手数料等において、社会的相当性を著しく逸脱した過当な取引を行わせたときは、当該行為は不法行為法上違法となると解するのが相当
①本件信用取引のほとんどが、Y1の担当者の提案によって行われたこと、
②X自らの意思と判断により積極的に注文や決済を行ったことがないこと
③Y1の担当者の提案の合理性やリスクについて、Xが十分に理解し検討した上で、取引について承諾を与えていたともいい難いこと

本件信用取引は、全体を通じて、Y1の担当者が主導したものとして、Yらの行為の違法性を肯定。
 
●損害 
差引額から配当金を控除した金額を損害

原審の認定に加え、
①Xには、投資者として当然行うべきであったリスク管理を行わなかった点において落ち度があり、
Y1の担当者に強く損害回復を迫ることでハイリスク・ハイリターンの取引を誘発し、自ら損害の拡大を招いた面があること、
③Y1との取引を開始した直後こそ数百万円規模の取引であったものの、1年もしない間に預託金を1億8900万円まで増額させ、少なくとも本件信用取引を開始した時点では、積極的な投資意向を有していたこと等

7割の過失相殺
 
<解説>
過当取引の判断基準:
①取引の過当性
②口座支配(証券会社等の取引の主導性)
③悪意性
の3要件があげられていたが、
本件では①②につき認定し、③については特段の言及なし。

①②から③が推定されることも多い。 

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2019年1月 7日 (月)

自動車の所有権留保で、債権者が売買代金残額を支払った保証会社の場合の別除権としての行使

最高裁H29.12.7      
 
<事案>
A自動車会社(「本件販売会社」)から自動車(「本件自動車」)を購入したBの売買代金債務を連帯保証した信販会社であるXが、保証債務の履行として本件販売会社に売買代金残額を支払い、本件販売会社に留保されていた本件自動車の所有権を法定代位により取得⇒前記支払後に破産手続開始の決定を受けた本件購入者の破産管財人であるYに対し、別除権の行使として本件自動車の引渡しを求めた。 
 
<原審>
前記破産手続開始の決定前に、本件販売会社が第三者に対向し得る本件留保所有権はXによる代位弁済によって法律上当然にXに移転しており、
本件購入者が本件自動車の交換価値を把握していないことの公示もされている

XはXを所有者とする登録なくして本件留保所有権をYに対抗し得るとして、別除権の行使を認め、Xの請求を認容。 
 
<判断>
自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ、
売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後、
購入者の破産手続が開始されたj場合において、
その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは、
保証人は、前記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができる。


上告を棄却。 
 
<規定>
民法 第500条(法定代位)
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。

民法 第501条(弁済による代位の効果)
前二条の規定により債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。この場合においては、次の各号の定めるところに従わなければならない。
一 保証人は、あらかじめ先取特権、不動産質権又は抵当権の登記にその代位を付記しなければ、その先取特権、不動産質権又は抵当権の目的である不動産の第三取得者に対して債権者に代位することができない。
二 第三取得者は、保証人に対して債権者に代位しない。
三 第三取得者の一人は、各不動産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。
四 物上保証人の一人は、各財産の価格に応じて、他の物上保証人に対して債権者に代位する。
五 保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。
六 前号の場合において、その財産が不動産であるときは、第一号の規定を準用する。
 
<解説> 
弁済をするについて正当な利益を有する者が債権者のために弁済をし、当然に債権者に代位する法定代位の場合には、
任意代位の場合に求められる債権譲渡の対抗要件の具備が法律上求められていない上、
随伴性に基づく担保権の移転について独自の対抗要件を具備する必要はないと一般に解されている

保証人である信販会社は、保証債務の履行として販売会社に売買代金債務の弁済をした場合には、販売会社の売買代金債権及びこれを担保するための留保所有権を法定代位により取得し、求償権の範囲内でこれらを行使することができ(民法500条、501条)、
信販会社は販売会社の留保所有権の効力をそのまま第三者に取得することができるものと解される。 

前記取得後に購入者の破産手続が開始した場合には、信販会社は、破産手続上の第三者性を有するとされる破産管財人に対し、留意保所有権を別除権として行使することができる。

民法501条1号は、抵当権等の代位について、担保不動産の第三取得者を保護するため付記登記を求めている
but
破産管財人を同号にいう第三取得者とみるのは困難
自動車の移転登録には付記登記と異なり債務者の協力を要する

破産管財人、ひいては破産債権者を保護するため、付記登記に代えて信販会社を所有者とする登録を要するという考え方は採り難い
(同号は、平成29年法律第44号による民法(債権関係)改正による削除されている。)
 
●最高裁H22.6.4:
自動車の販売とほぼ同時に信販会社が販売会社に対し売買代金残額を立替払し、その後、信販会社に割賦払をしていた購入者の再生手続が開始されたが、その時点では自動車につき販売会社を所有者とする登録がされており、信販会社を所有者とする登録がされていなかった。

当事者の合理的意思解釈により、
信販会社は、残代金相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため、販売会社から代位によらずに留保所有権の移転を受け、これを留保することを合意したものと解し、
民再法45条が一般債権者と別除権者との衡平を図るなどした趣旨をも考慮して、購入者の再生手続開始の時点で審判会社を所有者とする登録がされていても、信販会社が立替金債権及び手数料債権を担保するための留保所有権を別除権ととして行使されることは許されない。 

平成22年最判:
販売会社と信販会社の有する各留保所有権の被担保債権が異なった⇒留保所有権の移転につき代位によらないこととする合意がされたとの解釈
but
本件:
そのような解釈の余地が残らぬよう、留保所有権が法定代位により移転することを確認する合意がされており、法定代位による移転の妨げとなる事情はない。

事案が異なる。

本件の売買代金には、割賦販売の手数料が含まれているところ、
このような手数料は、いずれ販売j会社から信販会社に支払われるものであるとしても、三者間の合以上は販売会社が購入者から割賦払を受けるもので、支払が滞れば信販会社から販売会社に代位弁済されることになる
⇒手数料部分も残代金債権の一部として法定代位により移転すると解すべきことが前提とされている。
 
●平成22年最判以降、自動車割賦販売における三者間の合意において、同最判の事案におけるような立替払方式よりも保証委託方式が多く採用され、法定代位による留保所有権の移転を排除しない趣旨が明示される傾向。 

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2019年1月 6日 (日)

株券が発行されていない株式に対する強制執行手続で配当表記載の債権者の配当額に相当する金額が供託され、その支払委託がされる前に、債務者が破産手続開始決定を受けた場合

最高裁H30.4.18      
 
<事案>
執行裁判所が、株券が発行されていない株式に対する差押命令に係る強制執行の手続が破産法42条2項本文により破産財団に対してはその効力を失うことを前提として、職権により前記差押命令を取り消す旨の決定⇒前記強制執行手続に同項本分の適用があるか否かが争われた。

破産法42条2項本文による失効する強制執行手続等は、破産手続開始の決定時に係属中のもの(未だ終了していないもの)に限られる⇒前記強制執行手続が債務者に対する破産手続開始の決定時に既に終了しているものといえるか否かが問題。
 
<事実>
債権者であるXは、平成27年12月、債務承認及び弁済契約公正証書の執行力ある正本に基づき、債務者であるAに対する貸金返還債務履行請求権等を請求債権とする株式差押命令申立て
⇒A保有の株式(「本件株式」)に対する差押命令

Xのほかに3名の債権者(B、C、D)もそれぞれ本件株式に対する差押命令を得てろ、債権者Bに関しては、Bから請求債権を譲り受けたB’が債権者の地位を承継。 
売却命令による売却⇒平成28年11月、本件株式の売却代金(8315万円)について開かれた配当期日で、配当表に記載されたX及びB’の配当金につき、Cから異議の申出があり、所定の期間内にX及びB’に対する配当異議の訴えが提起

執行裁判所は、配当異議の申出のない部分につき配当を実施した上、X及びB’の配当額に相当する部分については、執行裁判所の裁判所書記官が前記配当額に相当する金額の供託(配当留保供託)をした。

Aは、前記供託の事由が消滅する前の平成29年1月11日、破産手続開始の決定⇒同月13日、その破産管財人が執行裁判所に本件差押命令の取消しを求める旨の上申書。
 
<規定>
破産法 第42条(他の手続の失効等)
破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行、企業担保権の実行又は外国租税滞納処分で、破産債権若しくは財団債権に基づくもの又は破産債権若しくは財団債権を被担保債権とするものは、することができない。
2 前項に規定する場合には、同項に規定する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行及び企業担保権の実行の手続並びに外国租税滞納処分で、破産財団に属する財産に対して既にされているものは、破産財団に対してはその効力を失う。ただし、同項に規定する強制執行又は一般の先取特権の実行(以下この条において「強制執行又は先取特権の実行」という。)の手続については、破産管財人において破産財団のためにその手続を続行することを妨げない。
 
<原々審>
平成29年1月16日、職権により本件差押命令の取消しを求める旨決定。 
   
Xが執行抗告
 
<原審>
本件差押命令に係る強制執行手続には破産法42条2項本文の適用がある
⇒執行裁判所は職権により本件差押命令を取り消すことができる
⇒執行抗告を棄却 
   
Xが許可抗告
 
<判断>
株券未発行株式に対する強制執行の手続において、当該株式につき売却命令による売却がされた後、配当表記載の債権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたために前記配当額に相当する金銭の供託がされた場合において、
その供託の事由が消滅して供託金の支払委託がされるまでに債務者が破産手続開始の決定を受けたときは、当該強制執行の手続につき、破産法42条2項本文の適用がある。 
 
<解説> 
●破産法24条2項:
同条1項に規定する強制執行の手続で、破産財団に属する財産に対して既にされているものは、破産財団に対してはその効力を失う旨を規定。

破産債権者及び財団債権者間の公平・平等及び破産手続の円滑な進行を確保するという同条1項と同様の趣旨から、破産手続開始の決定があった場合における個別執行手続の失効を定めたもの。

同条2項本文により失効するのは、破産手続開始の決定時に係属中の個別執行手続に限られ、既に終了した個別執行手続に同項本文の適用はない。 

個別執行手続の失効後、破産管財人が形式的に残存する執行処分の取消しを求めることができるか:
近時の有力説と実務:
破産管財人の上申がある場合には、破産手続開始の決定がされたことを理由として執行処分(差押命令等)を取り消すことを認めている。
第三債務者が供託⇒執行裁判所の支払委託の方法により、破産管財人が供託金を受け取ることができる
 
●一般に、個々の強制執行手続は、その手続の最終段階に当たる所定の行為が完結した時点に終了すると解されている。
債権強制執行手続において売却命令に基づく債権の換価⇒配当手続が終了した時(民執法161条、166条1項2号)に終了。 
 
●株券未発行株式に対する強制執行手続(売却命令による換価が行われる場合):
①差押え⇒②差押えに係る株式の換価⇒③売却代金の配当等という各段階を順次経て進行する手続。
③の売却代金の配当等においては、配当の実施がされた時点が「開始された手続の最終段階に当たる所定の行為が完結した時点」。

民執法は、配当異議の申出がされた場合の配当手続について、
①配当異議の申出のない部分⇒その限度で配当を実施して終了させる(民執法89条2項)一方、
②配当異議の申出に係る部分⇒配当異議の訴えの提起を条件に、その配当等の額に相当する金銭を供託させ(配当留保供託。民執法91条1項)、その供託の事由が消滅する、すなわち配当異議の訴えの結論が出るのを待って当該金銭(供託金)の追加配当を実施(民執法92条1項)。

配当留保供託は、強制執行の1つの段階として、執行目的物の売却代金の管理と権利者への払渡しとを供託手続により行うもの(執行供託)。

最高裁H27.10..27:
担保不動産競売の手続で配当留保供託がされた後、配当表記載のとおりに追加配当が実施される場合における供託金の充当方法に関し、法定充当の時期を供託金の支払委託(民執規則173条1項、61条、供託規則30条)がされた時点を判示。

前記の場合における執行裁判所による配当手続が当該支払委託によって終了することを前提とするものであり、株券未発行株式に対する強制執行手続における配当手続に関しても同様に解することができる。 
 
●Xの主張:
株券未発行株式に対する強制執行手続が形式的には終了していないとしても、実質的には、換価財産が換価手続の完了時点で差押債務者の一般財産から分離されたとして、当該強制執行手続が差押債権者との関係では既に終了したとみるべき。

売却命令による売却がされた場合の配当等を受けるべき債権者が、売却命令により執行官が売得金の交付を受けた時までに差押え、仮差押えの執行又は配当要求をした債権者に限られており(民執法167条1項、165条3号)、
そのような定めが設けられた趣旨として、差押えの目的物が金銭に転化し、債務者の一般財産から分離して配当財産として特定される時点をもって配当要求の終期としたとの説明。
vs.
民執法は、いわゆる優先主義(執行手続が開始された場合に、申立竿権者に優先的権利を与える主義)を採用せず、債権者平等主義(執行手続が開始された場合には、申立債権者か否かを問わず、債権者を平等に取り扱おうとする主義)を基本としたものとされており、
民執法165条は、その文言等に照らし、配当手続において配当等を受けるべき債権者の範囲を画する基準を定めたにとどまり、実体法上、換価財産からは配当等を受けるべき債権者のみが優先的に弁済を受けられるとすることまでは予定していない
民執法165条のみを根拠として、差押えに係る財産の換価手続が完了した場合に、換価財産が配当財団として差押債務者の一般財産から分離され、当該配当等を受けるべき債権者に帰属したものと解することはできない。 

判例時報2385

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2019年1月 5日 (土)

違法な政務活動費の支出について、市長に返還請求をすることを求める住民訴訟

神戸地裁H30.4.11      
 
<事案>
兵庫県尼崎市の住民である原告らが、同市議会の会派であるA及びB(「本件各会派」)が市から交付された政務活動費を会派が発行している広報紙(「本件各広報紙」)に係る支出に支出したところ、これが違法⇒市に対してその支出額に相当する金員の不当利得返還の義務を負うにもかかわらず、市の試行機関である被告(尼崎市長)がその行使を怠っている⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、被告に対し、本件各会派に対して前記支出額に相当する金員及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するよう求めた住民訴訟。 
 
<争点>
本件各広報紙に係る費用に政務活動費を支出することが違法となるか。 
 
<判断>
・・・・
当該広報紙の全体の趣旨、目的に加え、紙面における議員個人情報等の割合等を総合的に考慮し、
広報紙面が専ら会派活動報告等を内容とするものであった場合⇒その費用全額につき政務活動費の支出が許される
議員個人の広報目的が混在議員個人情報等に相当する部分は目的外支出⇒かかった費用をその割合で按分した金額については、違法な支出となる。

各広報紙ごとにその記載内容から、会派活動報告等が記載されている面積と、議員個人情報等が記載されている面積をそれぞれ割り出し、
いずれの広報紙も専ら会派活動報告等を内容とするものではなく議員個人の広報目的が混在。

それぞれ掛った費用につき、議員個人情報等が記載されている面積比で按分した金額については目的外支出であって、不当利得返還請求権が発生。 
 
<解説>
地自法100条14項は、政務活動費を充てることができる経費の範囲等については条例で定める旨規定しており、これを受けて各自治体がそれぞれ条例及び規則を制定し、同論点について争われた裁判例はいずれも条例及び規則の解釈適用という事例判断としての側面が強い 

裁判例での判断手法:
広報紙の記載を、法令により支出が許可されている目的との合理的関連性が認められている部分と認められない部分に分け、
その割合等に基づき紙面全体の目的を判断し、
①後者が無視できるほどに少ない⇒全体として支出目的に沿った支出と評価。
②無視できない分量⇒それに応じた割合の返還請求を認める。
③専ら支出が認められない議員個人の宣伝等を目的とするもの⇒全額の返還を求める。

政務活動費は、地方議会の活性化を図る趣旨から、議員の調査活動の基盤を強化する等の目的で制度化されたもの⇒議員個人としての政治活動・選挙活動等に係る費用に支出することはできないというのが、地自法の姿勢。

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2019年1月 4日 (金)

卒業式等において国歌斉唱の際に起立斉唱を命じる職務命令違反の事案

東京高裁H30.4.18       
 
<事案>
Xら13名は、都立学校の教職員又は元職員であるところ、
その所属校において行われた卒業式等において、国歌斉唱時には指定された席で国旗に向かって起立し、国家を斉唱することを求める校長の職務命令に違反して起立しなかった⇒処分行政庁から地公法32条及び33条に違反するものとして、同法29条1項に基づき戒告、減給又は停職の各懲戒処分を受けた。⇒その取消し及び国賠法に基づく損害賠償を求めた。 
 
<判断>
●職務命令においてある行為を求められることが、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなり、その限りにおいて、当該職務命令が個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があると判断される場合にも、職務命令の目的及び内容には種々のものが想定され、また、前記の制限を介して生ずる制約の態様等も、職務命令の対象となる行為の内容及び性質並びにこれが個人の内心に及ぼす影響その他の諸事情に応じて様々である。
このような間接的な制約が許容されるか否かは、職務命令の目的及び内容並びに前記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して、当該職務命令に前記制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当。 

①学習指導要領の趣旨、②本件通達の目的、③Xらが住民全体の奉仕者として法令等及び職務上の命令に従って職務を遂行すべき地位に在ることなどの諸事情⇒本件職務命令には前記制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる

信教の自由や自由権規約18条に基づくXらの思想及び良心又は宗教の自由に対する制約についても同旨の判断。

本件通達及びこれに基づく職務命令に瑕疵はない。

●本件職務命令の違反に対し、教職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分である戒告処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは認め難い。
but
減給又は停職の処分を選択することが許容されるのは、過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等に鑑み、学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」が認められる場合であることを要すると解すべき。(最高裁H24.1.16)

Xらに対する各懲戒処分のうち減給又は停職をいずれも取り消した

●Xらの国賠法に基づく損害賠償請求:
これらの各懲戒処分がいずれも前記平成24年最高裁判例が出される前にされたものであり、処分行政庁がこれらの各懲戒処分を選択したことが、それぞれの処分当時において、職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものと評価することはできない⇒棄却。

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2019年1月 3日 (木)

児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」の意義等

最高裁H28.6.21      
 
<事案>
高校の常勤講師の被告人(当時28歳)が、同校生徒の被害児童(当時16歳)に対し、2度にわたり自己を相手に性交させたという児童福祉法違反の事案。 
 
<主張>
弁護人:
①被告人は同児童と交際していた⇒本件各性交は児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」に当たらない
②被告人が同児童に事実上の影響力を及ぼして働きかけていない⇒同号にいう「淫行させる行為」はしていない
③同号の構成要件が不明確であるから、同号は憲法31条に違反する 
 
<判断>
被告人に同号違反の成立を認めた原判決の判断を結論において是認して上告を棄却。 
 
<規定>
児童福祉法 第1条〔児童福祉の理念〕
すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。
②すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。

児童福祉法 第34条〔禁止行為〕
何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
六 児童に淫行をさせる行為

児童福祉法 第60条
第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 
<判断・解説> 
●「淫行」の意義
A:性道徳上非難に値する性交又はこれに準ずべき性交類似行為
vs.
「性道徳」として想起されるところには、かなりの広がりがある上、その判断は、それぞれの人が抱く価値感によって差が生じかねない。

本決定:
児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」とは、同法の趣旨(同条1条)に照らし、児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当。

①児童福祉法の趣旨に照らし、端的に、「児童の心身の健全な育成を阻害するおそれ」があるかどうかによって、決せられるべき事柄。
児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあるかどうかは、一般人であれば共通のイメージを抱くことができき、明確な解釈基準になり得る。
 
●「させる行為」の解釈 
本決定:
同号にいう「させる行為」とは、直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいう。

昭和40年判例の、「させる行為」該当性について、
①「事実上の影響力」を児童に及ぼしているか
②児童が淫行をすrことを助長し促進する「行為であるか、
の2つの観点から判断する解釈を踏襲。

「させる行為」に該当するかどうかについては、
行為者と児童の関係、助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度、淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯、児童の年齢、その他当該児童の置かれていた具体的状況も総合考慮して判断するのが相当」

「淫行させる行為」が、立法当初の解釈に比べて相当に広範囲なものを含む解釈が定着している中で、本号による重い処罰にふさわしい行為に限定されていなければならないとの要請も充たしつつ、
児童保護の観点からも適切な処罰範囲を画するために、本罪に該当するとされた裁判例の集積を踏まえ、「させる行為」を判断する際の具体的考慮要素を明示して判断方法を明らかにすることにより、
処罰範囲の明確化を図ろうとした。

本決定

「させる行為」に当たるかどうかを評価するに際しては、
当該児童に及んでいる「事実上の影響力」の程度を踏まえた上で、
「させる行為」と評価できるような「助長・促進行為」があるかどうかを、
当該児童が淫行に及んだ具体的状況に照らして個別に検討していくことになる。
 
●本決定:
本件各性交が、被害児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないようなものを相手とする性交であること、
②被告人と同児童との関係について、被告人が同児童(当時16歳)の通う高等学校の常勤講師であったこと、
被告人の具体的行為として、校内の場所を利用するなどして同児童との性的接触を開始し、ほどなく同児童と共にホテルに入室して性交に及んだこと

本件においては、協力といえるような助長・促進行為はないものの、高校講師である被告人が被害児童に及ぼした「事実上の影響力」を踏まえれば、本件各性交をした行為が、「児童に淫行をさせる行為」に当たると判断。 

判例時報2384

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2019年1月 1日 (火)

参考人としての虚偽の供述が刑法103条の「隠避させた」に該当するとされた事例

最高裁H29.3.27      
 
<事案>
不良集団を率いていた被告人が、同集団構成員(A)が起こしたひき逃げ事件に関し、共犯者らと共謀して、警察官に対し、参考人として、犯人は別人であるとする旨の虚偽の供述⇒刑法103条(平成28年改正前のもの)の「隠避させたに当たる⇒犯人隠匿罪に問われた」 

<規定>
刑法第103条(犯人蔵匿等) 
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
 
<判断>
被告人は、、前記同労交通法違反及び自動車運転過失致死の各罪の犯人がAであると知りながら、同人との間で、A車が盗まれたことにするという、Aを前記各罪の犯人として身柄の拘束を継続することに疑念を生じさせる内容の口裏合わせをした上、参考人として警察官に対して前記口裏合わせに基づいた虚偽の供述をした

このような被告人の行為は、刑法103条にいう「罪を犯した者」をして現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為と認められるのであって、同条にいう「隠避させた」に当たるとするのが相当である。

被告人について、犯人隠避罪の成立を認めた原判断は是認できる。 

判例時報2384

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