私立大学准教授による他人の論文の盗用⇒懲戒解任(有効)
東京地裁H30.1.16
<事案>
Xは、平成12年4月に学校法人Yと雇用契約を締結してその設置する私立大学であるY大学の選任講師に就任。 その後A論文で助教授(准教授)に昇任、その後B論文を発表。
平成26年に外部から告発⇒C学部内で設置された調査委員会で調査で盗用を判断⇒①調査委員会の調査報告、②本件学術院の臨時教授会により設置された査問委員会による査問報告、③教授会の決議⇒平成26年11月21日、Xを懲戒解任。
Xは、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、判決確定日の翌日以降の将来分を含めた雇用契約に基づく賃金及び賞与の支払を求めて本件訴訟を提起。
<判断>
①Xが、未刊行の原著論文及びそれらに基づいて公刊された論文の著者に了承等を得ることのないまま、原著論文を実際に書き写すという態様でもってこれに依拠し、
②内容及び形式のいずれにおいても同じく原著論文に依拠した公刊論文を再製したものというべき論文(A論文、B論文)を作成したにもかかわらず、
③それら原著論文に関する言及を一切しない、あるいは複数ある参照文献の1つとして紹介するにとどめるのみで、自身の論文が原著論文の紹介を目的とした論文であることを示すこともなく、
④かえってX自身の研究成果であることを示唆するなどした
⇒A論文及びB論文はいずれも海外の研究者の著作に係る原著論文をXが故意に盗用して執筆したもの。
①研究活動の本質、研究者として保持すべき最低限の資質、学校教育法上の大学の目的等に言及した上で、
②Xが行った論文盗用行為は、他者の研究成果を踏みにじるとともに、自らの研究業績をねつ造するものであって、研究者としての基本的姿勢にもとる行為に当たり、研究者としての資質に疑問を抱かせるもので悪質性は顕著
③Xによる論文盗用行為については、研究者としてのX個人のみならず、Xが所属するY大学や本件学術院に対する社会的な信頼も毀損されたことは明らか
⇒
懲戒事由該当性を肯定。
同行為から本件懲戒解任まで相当長期間(11条及び13条)が経過していることが当然にその非違行為としての評価に大きな影響を及ぼすものとはいえない。
平等原則違反や手続違背があったとはいえない。
⇒
本件懲戒解任は懲戒処分ついての相当性を欠くとは認められない。
<解説>
懲戒解雇については、①就業規則に懲戒規定があるかどうか、②懲戒事由に該当するか、③懲戒権の濫用に当たらないかが問題。
使用者による懲戒権行使の時期につき、我が国の法制上において特段の期間制限は存在しない⇒懲戒事由発生後相当長期間が経過した後に行われた懲戒解雇の効力については、懲戒権行使に係る濫用の法理の枠組みの中で検討。
従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇に該当するとして暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分が権利の濫用として無効とされた事例(最高裁H18.10.6)。
判例時報2384
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