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2018年12月

2018年12月30日 (日)

元厚労省の一部局であった国立研究開発法人と独立行政法人間の人事異動命令の違法性が争われた事案

大阪地裁H30.3.7      
 
<事案>
被告は厚労省の一部局が独立行政法人化され、その後に国立研究開発法人となった法人であり、
訴外A機構は、同じく厚労省の一部局が独立行政法人化されて設立された法人。
本件当時、被告もA機構も非公務員型の国立研究開発法人ないしは独立行政法人。

原告は、国家公務員として採用され、厚生事務官として、A機構の前身にあたる組織で働いていたが、A機構の独立行政法人化に伴ってA機構の職員となり、その後、被告で就労。
被告での就労はA機構kの指示によるものであったが、原告が被告で就労するに際しては、A機構では退職手続が、被告では採用手続がそれぞれ取られている。

被告は、原告に対し、A機構への人事異動命令に応じず、被告は、人事異動命令違反を理由として、原告を懲戒解雇⇒雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認やそれを前提とした賃金と賞与の支払を請求
 
<争点>
①被告からA機構への人事異動には、原告の同意が必要か
②被告からA機構への人事異動命令は、人事に関する権利を濫用したものといえるか
③本件の人事異動命令の拒否を理由とする懲戒解雇が懲戒処分として重きに失するといえるか 
 
<主張>
被告からA機構への人事異動はいわゆる転籍出向にあたる⇒原告の同意が必要原告が同意せず、人事異動に応じなかったことは懲戒事由にはあたらない
②仮に原告の同意が不要であるとしても、人事権の濫用として許されない
③仮に人事権の濫用にあたらないとしても、懲戒解雇は懲戒処分として重きに失し無効
 
<判断>
争点①について原告の主張を認めた。
念のためとして、争点②③についても判断し、いずれも原告の主張を認め、請求を認容。
 
<解説> 
●争点①について:
いわゆる転籍出向は、労働者の個別の同意が必要。(通説) 

●争点②について:
労契法 第14条(出向) 
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

判例:
配転命令について、配転命令権を有する使用者が、業務上の必要性に基づいて発した配転命令でも、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるなど特段の事情がある場合は、当該配転命令は、権利の濫用として無効。(最高裁昭和61.7.14)

出向命令が権利の濫用として無効となるかどうかという点についても、同様の観点で判断されよう。

本件:
①原告の配偶者が、重篤な精神疾患を有し、主治医もわずかな環境変化でも症状の悪化に寄与しやすいので、転勤や部署異動も極力避けることが望ましい旨の判断
②原告が不当な理由でA機構への異動を拒んでいるとは認められない
③A機構への異動は、ジョブローテンションの一環であって、高度な必要性があるとまでは言い難い

本件人事異動は人事権の濫用にあたる。

本件では、A機構の方が通勤に便利であり、異動は、客観的にみれば原告の通勤負担を軽減させる側面があった。
本件は、人事異動という環境変化そのものを労働者の不利益と捉えたもので、やや特殊な事例。
 
●争点③について:
労契法 第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

仮に、本件の人事異動が人事権を濫用したものといえなかったとしても、
①原告には、配偶者の精神疾患という人事異動に応じ難い理由があった
②原告が人事異動に応じることができな理由を再三にわたって説明している
③被告やA機構において、において、原告が人事異動に応じなければ著しい支障があるとまでは認め難い

人事異動に応じなかったことを理由とする懲戒解雇は、懲戒処分として重きに失するから無効。

判例時報2384

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2018年12月29日 (土)

私立大学准教授による他人の論文の盗用⇒懲戒解任(有効)

東京地裁H30.1.16      
 
<事案>
Xは、平成12年4月に学校法人Yと雇用契約を締結してその設置する私立大学であるY大学の選任講師に就任。 その後A論文で助教授(准教授)に昇任、その後B論文を発表。

平成26年に外部から告発⇒C学部内で設置された調査委員会で調査で盗用を判断⇒①調査委員会の調査報告、②本件学術院の臨時教授会により設置された査問委員会による査問報告、③教授会の決議⇒平成26年11月21日、Xを懲戒解任。

Xは、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、判決確定日の翌日以降の将来分を含めた雇用契約に基づく賃金及び賞与の支払を求めて本件訴訟を提起。
 
<判断>
①Xが、未刊行の原著論文及びそれらに基づいて公刊された論文の著者に了承等を得ることのないまま、原著論文を実際に書き写すという態様でもってこれに依拠し、
②内容及び形式のいずれにおいても同じく原著論文に依拠した公刊論文を再製したものというべき論文(A論文、B論文)を作成したにもかかわらず、
③それら原著論文に関する言及を一切しない、あるいは複数ある参照文献の1つとして紹介するにとどめるのみで、自身の論文が原著論文の紹介を目的とした論文であることを示すこともなく
かえってX自身の研究成果であることを示唆するなどした
⇒A論文及びB論文はいずれも海外の研究者の著作に係る原著論文をXが故意に盗用して執筆したもの。 

①研究活動の本質、研究者として保持すべき最低限の資質、学校教育法上の大学の目的等に言及した上で、
②Xが行った論文盗用行為は、他者の研究成果を踏みにじるとともに、自らの研究業績をねつ造するものであって、研究者としての基本的姿勢にもとる行為に当たり、研究者としての資質に疑問を抱かせるもので悪質性は顕著
③Xによる論文盗用行為については、研究者としてのX個人のみならず、Xが所属するY大学や本件学術院に対する社会的な信頼も毀損されたことは明らか

懲戒事由該当性を肯定

同行為から本件懲戒解任まで相当長期間(11条及び13条)が経過していることが当然にその非違行為としての評価に大きな影響を及ぼすものとはいえない。

平等原則違反や手続違背があったとはいえない。

本件懲戒解任は懲戒処分ついての相当性を欠くとは認められない
 
<解説>
懲戒解雇については、①就業規則に懲戒規定があるかどうか、②懲戒事由に該当するか、③懲戒権の濫用に当たらないかが問題。 

使用者による懲戒権行使の時期につき、我が国の法制上において特段の期間制限は存在しない⇒懲戒事由発生後相当長期間が経過した後に行われた懲戒解雇の効力については、懲戒権行使に係る濫用の法理の枠組みの中で検討

従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇に該当するとして暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分が権利の濫用として無効とされた事例(最高裁H18.10.6)。

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2018年12月28日 (金)

既に訴訟で損害賠償義務の履行を受けた者と水俣病の患者団体と水俣病を発生させた企業との間で締結された補償協定

大阪高裁H30.3.28      
 
<事案>
水俣病の認定を受けたA及びBの各相続人であるX1及びX2が、水俣病を発生させた企業であるY(チッソ株式会社)に対し、Yと水俣病患者東京本社交渉団との間で昭和48年7月9日に締結された水俣病補償協定(「本件協定」)に基づく補償を受けられるなどの協定上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。 
 
<争点>
過去にYに対する損害賠償請求訴訟において請求を認容する判決が確定し、確定判決に基づいて履行を受けている場合に、A及びBがなお本件協定に基づいてYから補償を受けることができるか? 
 
<原審>
Xらの請求を認容 
 
<判断>
原判決を取り消し、Xらの請求を棄却 

東京交渉団は、Yに対し水俣病の原因者としての不法行為責任を追及し、Yは、東京交渉団の要求を受け、交渉の結果成立した本件協定⇒不法行為に基づく賠償責任の内容と方法について合意したものというべきであり、Yが不法行為に基づく賠償責任以外の債務を新たに負担する合意をしたものではない。

①本件協定は、患者が自主交渉や調停・訴訟等をする負担を負うことがないように、後日、認定された患者がYに対し水俣病による被害の補償を希望した場合は、Yに対し、因果関係のある損害について争わず、本件協定の内容に従った補償をすることにより、損害を賠償すべき義務を課す合意。
②あえてそのような手続を設けたとういことに加え、物価の変動、症状の変化があった場合における対応も予定。

本件協定は、協定に応じた者については、そもそも協定外の手続によって別途補償を行うことを予定していなかった(本件協定による補償と訴訟とは二者択一の手続として想定されていた)。

認定を受けた患者が水俣病にり患したことによる健康被害について、Yに対する損害賠償請求訴訟を提起して判決を受け、これにより確定された民事上の損害賠償義務の履行を既に受けている場合には、当該患者について本件協定に基づく補償を受けることはできないものと解することが相当。

仮に本件協定が不法行為に基づく損害賠償にとどまらず、水俣病患者に対する謝罪と十分な補償を行うことをYの債務として定めたものであるとしても、当該謝罪ないし補償の内容に照らせば、それは水俣病患者に対する一審専属的な債務⇒XらがAから相続するものとは解されない。
 
<解説>
大阪高裁H23.5.31:
水俣病り患という同じ原因により確定判決によってYに対する不法行為による損害賠償請求権が認定前に確定していたときは、この者については、水俣病による過去・現在・将来の損害についてのYとの間の不法行為による損害賠償請求に関する紛争が司法判断により解決
⇒本件協定によって紛争を解決する必要がなくなっており、水俣病患者とYとの間の補償ないし損害賠償をめぐる紛争解決を目的とする和解契約であるという本件協定の性質上当然に、「協定締結以降認定された患者」から除く趣旨で本件協定が締結されたと解するのが相当。 

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2018年12月27日 (木)

放置自転車回収販売事業のフランチャイズ契約の勧誘が詐欺に当たるとされた事案

東京高裁H30.5.23      
 
<事案>
放置自転車回収得販売事業を営む株式会社であるY1及びその代表者であるY2並びに個人で同事業を営むY3らは、フランチャイズシステム(パートナー制度)を作って、放置自転車回収販売事業への参加者を募集。 

パートナー契約の内容:
参加者がYらに対して加盟時に加盟金300万円程度を即金で支払い、システム利用料を毎月3万円程度支払う代わりに、放置自転車回収販売事業のノウハウをYらが参加者に伝授。
参加者として加盟金300万円程度を支払ったX1~X3が、契約締結時にYらに不法行為があったと主張⇒加盟金等の返還を求めた。
 
<原審>
不法行為の内容を情報提供義務違反と評価し、
50%の過失相殺

⇒Xらの請求額の半分程度を認容。
 
<判断>
不法行為の内容を故意による詐欺と評価して、故意による詐欺については違法な手段で利得した利益を加害者に許容すべきではなく、過失相殺は極力避けるべき⇒過失相殺せず⇒Xらの請求を全部認容
 
<解説>
①Yらは、放置自転車回収販売事業に早期に参入して、大口の顧客を確保し、Yら自身は順調に経営を続けていた。
②放置自転車回収販売事業には、既に多数の業者が参入しており、利益の見込めるような大口回収先は既存業者に抑えられているのが普通であった。
③Yらは、自らの顧客の一部をパートナー契約の参加者に譲る意思は、持っていなかった
but
④Yらは、自らが出版した書籍において放置自転車回収販売事業はこれから新規参入してもリスク無く大きな利益が見込める事業であるかのような記述を行い、勧誘セミナーにおいても同様の説明を行った。
⑤具体的には、ライバル業者がいない未開拓市場であるとか、Yらの輸出業者を使って回収自転車をすぐ換金できるとか、既に加入した参加者の大半が売上月額数万円程度と苦しんでいることを殊更に隠して加盟金300万円を数年で回収できるくらい儲かるなどの虚偽の説明を故意に行った
⑥Xらは、Yらの虚偽説明を真実であると信じてしまい、パートナー契約を締結し、加盟金300万円ていどをYらに支払った

端的に詐欺と評価してもおかしくない内容。

過失相殺は、当事者間の公平を図り、損害を公平に分担するために、被害者側の過失を考慮する制度
加害者の行為が故意による不法行為である場合においては、被害者の落ち度を考慮しないことが適当な場合が多い

[判断]
「故意に違法な手段で取得した利益を許容する結果」は相当でない。

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2018年12月26日 (水)

名誉毀損の被害者が名誉回復のために支出した社告及び意見広告の費用の賠償請求が否定された事例

東京高裁H29.11.22      
 
<事案>
Xは、総合スーパー事業を営む会社であり、Yは、書籍の発行等を主たる目的とする会社。 

Yは、Xによる食品偽装に関する記事(本件記事)を週刊誌に掲載し、新聞、社内中吊り及びウェブサイトに広告を掲載。

Xは、週刊誌の掲載記事に対応して新聞に社告(本件記事が読者に誤解を与えるものであること等)及び意見広告を掲載。
後に農林水産省等による立入検査が行われたが、安全性に問題がある米穀が食用に流用された事実は確認されていない。
 
<請求>
Xは、本件記事及び本件広告により名誉が毀損された⇒社告及び意見広告の掲載費用を含む損害賠償請求、謝罪広告の掲載及びウェブサイト広告(目次及び中吊り広告)中の一部記事の削除を求めた。 
 
<規定>
民法 第723条(名誉毀損における原状回復)
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
 
<争点>
①Xによる社告及び意見広告の費用が名誉毀損による損害に含まれるか
②民法723条に基づく名誉回復措置としてどこまで認められるか
 
<判断>
本件記事の本文とその見出し及び本件広告の部分を分けて判断

●本件記事の本文:
納入業者に中国産を含む安価な原料に頼る傾向が生じ、食の安全にリスクが生じているのではないかという問題を提起するもの⇒違法性はない。

●本件記事の見出し及び本件広告の一部:
猛毒を現実に含有する中国産米を原料とする米加工品を現実に販売した事実はないのに、このような事実を摘示し、または、これが真実であると信じる相当な理由があったとは認められない⇒違法性を肯定。

●非財産的損害:
①本件記事の見出し及び本件広告が誤った印象を一般の消費者与え、そのためにXが受けた損害はわずかなものにとどまるとはいえない
but
誤った印象を受けたのは、見出し部分に目を奪われた者に限られる
本件記事の見出し及び本件広告から「猛毒」の2文字を削除した場合には、違法性は認められなかったであろうこと

100万円の限度で肯定。

●営業損害:
売上が有意に減少したと認定することは困難⇒斥ける。

Xが名誉回復のために社告及び意見広告をしたこと
以上の事実を踏まえれば、違法行為による通常生じる損害であるとはいえず、相当因果関係があるとは認められない

●謝罪広告:
本件広告等については社会的評価の低下の程度がそれほど重大であったとは認められず謝罪広告を命ずる必要性があるとまでは認められない
but
ウェブサイト広告(目次及び中吊り広告)については、「中国猛毒米」等のいついずれも「猛毒」の2文字の削除を命じた
 
<解説>
名誉毀損の成否の判断に当たっては、表現の自由の保障との関係から、慎重かつ緻密にされるべき(最高裁:北方ジャーナル事件)。
被害者自らが名誉回復措置として行った社告及び意見広告の掲載費用の賠償を認めることは、より一層表現行為を萎縮させる危険がある

名誉毀損による違法性の程度が高く、判決による名誉回復措置を待っていては被害者の社会的評価の回復が困難となるときには、被害者自身による名誉回復措置も考え得るが、それは、自救行為を認めることに帰し、安易に許されるものではない

本判決が対抗言論をもって解決すべきとしたのは、これを想定してのこと

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2018年12月25日 (火)

違法な投資勧誘行為に事務所を使用させる⇒不法行為の幇助に当たるとされた事例

東京高裁H29.12.20      
 
<事案>
Xは、Y3社(代表取締役Y4)から違法な勧誘等を受けて、投資商品の購入をし、さらに、Y3社の社員権の購入をした。
これらの投資商品の説明は、いずれもY1社(代表取締役Y2)の事務所において行われた。 
予備的に、Y3社らによる投資2への違法な勧誘等は共同不法行為にあたり、Y1社その幇助者であるとして、民法719条に基づき投資2に係る損害賠償請求をした。
 
<規定>
民法 第719条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
 
<争点>
Y1社及びY2が、投資2について、Y3社らによる不法行為を幇助したか否か。 
 
<判断>
Y1社及びY2の投資2に対する幇助を認めて、予備的請求を全部認容。 
①Y3社にとっては、繁華な場所に営業所を持たないため、都内のY1社の事務所を自由に使用できることは、都内における一般投資家に対する投資勧誘拠点を確保したことになり、Xに対する違法な勧誘行為を容易にする効果を有する。
②Y1社らにおいて、Y3社が投資商品勧誘業務を行うためにY1社の事務所にパソコン等を持ち込んでいることを知りながら業務遂行を黙認していた。
③Y1社らは、Y4が独自に主催するファンドがいずれも破綻する可能性が高く、その勧誘が違法な勧誘となることを認識していたと推認される。

Y1社らは、Y3社らによるXに対する不法行為を幇助

配当金名目の支払について、出資金を事業に投資したことによる収益ではなく、不法原因給付にあたる
配当金名目の金銭を損益相殺することは不適当。(最高裁H20.6.24)
 
<解説>
不法行為者を幇助した者は共同行為者とみなして、行為者と連帯して損害賠償責任を負う。(民法719条2項)

この場合における幇助
とは、行為者の行為を補助し、又はこれを容易にする行為
民法の不法行為制度は損害の公平な分担を目的とするもの⇒過失による幇助も同条の「幇助した者」に当たる。(裁判例)

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2018年12月21日 (金)

建物共用部分と管理組合の責任

東京高裁H29.3.15      
 
<事案>
マンションの管理組合において、建物共用部分に係る占有者として工作物責任又は瑕疵のない状態にすべき責任を負うかどうかが争われた事案。 
Xは区分所有法3条の管理組合で、Yは本件建物の区分所有権を有する者、。

X⇒Yに、未払管理費等、電気及び水道料金の立替払いを原因とする不当利得返還請求をするとともに、管理規約に基づく弁護士費用等の諸費用の支払請求。

Y:本件建物で水漏事故が発生し、そのためにY専用部分が水漏被害に遭った⇒Xにおいて、民法717条1項の占有者として工作物責任を負い、又は管理規約により老衰の原因となる共用部分を修繕して区分所有者に漏水被害を怠った⇒債務不履行責任を負うことを理由に、これらの損害賠償債権と対当額で相殺
 
<争点>
①管理組合(X)に工作物責任又は債務不履行責任があるかどうか
②それを理由とする損害賠償請求権を自働債権とする相殺の意思表示が認められるか 
 
<原審>
Yによる相殺の抗弁を容れて受働債権が全部消滅⇒Xの請求を棄却。 
 
<判断>
相殺の主張には理由がないとして、原判決を取り消し、Xの請求を全部認容。

●工作物責任に基づく損害賠償請求権:
管理組合は、共用部分を管理しているものの管理責任があるところに占有があるはいえない⇒本件建物の共用部分の占有者ではない

●債務不履行に基づく損害賠償請求権:
管理組合は、建物を建築した建築業者でもなければ、建物の修繕工事を行った修繕業者でもない⇒建物の建築工事又は補修工事の瑕疵について、これらの業者と同様の責任を個々の区分所有者に対して負うべき立場にはなく、建物が瑕疵のない状態にあることを保証すべき責任を、個々の区分所有者に対して負うべき立場にもない⇒その主張には理由がない。

●相殺:
管理組合の財源は区分所有者が拠出した管理費等に頼らざるを得ず、滞納者の存在は運営の基盤を危うくするものであり、管理費の納付を怠ることは、財源不足による共同部分の管理の劣化を招き、共同管理を妨げる行為となる
⇒他の区分所有者や管理組合との関係において信義則に違反する行為になる

 
<解説>
管理組合:
建物、敷地及び付属施設の管理のために、管理規約を定めて管理組合を置くことができ、区分所有者の全員によって構成される(区分所有法3条)。

管理組合が設けられた場合であっても、区分所有者は、建物の共用部分等を共同で管理することに変わりはない管理組合の存在によって、区分所有者が管理の責任から解放されるわけではない
また、管理組合の存在によって、個々の区分所有者の専有部分及び共用部分の占有が否定されるわけではない。 

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2018年12月20日 (木)

郵便物の輸出入の簡易手続として税関職員が無令状で行った関税法上の検査と憲法35条

最高裁H28.12.9    
 
<事案> 
ルーマニア国籍の被告人がイラン国内から、営利目的で覚せい剤約2kgを航空小包郵便に隠し入れて、東京都内に居住する外国人宛に発送したが、税関検査で覚せい剤の在中が発覚して検挙された覚せい剤密輸の事案。 
 
本件郵便物検査では、外装箱解放、外装箱の内部の目視確認、内容物の外視検査、TDS検査(ワイプ材と呼ばれる紙を使用した検査)のほか、極微量の内容物を取り出して、これを仮鑑定・鑑定することも行われていた

弁護人から、発送人・名宛人の承諾も令状もなく行われた本件急便物検査は、令状主義の精神に反する重大な違法があり、本件郵便物検査により発見された本件覚せい剤及びその派生証拠に証拠能力がないと主張

①当時(平成24年8月21日)の関税法上、どのような検査が許容されており、本件郵便物検査が関税法上許容されていると解されるか
②本件郵便物検査が憲法35条に反するか
などが問題。
 
<判断>
2件の大法廷判例(最高裁昭和47.11.22、H4.7.1)の趣旨に徴し、本件郵便物検査が関税法76条、105条1項1号、3号によって許容されていると解することが憲法35条に違反しないとの判断を示し、上告を棄却。
 
<解説>   
● 本判決:
本件各規定の目的・性質について、
「関税の公平確実な賦課徴収及び税関事務の適正円滑な処理という行政上の目的を、大量の郵便物について簡易、迅速に実現するための規定である」とした上で、
令状、承諾の要否に関し、
税関職員ににおいて、郵便物を開披し、その内容物を特定するためなどに必要とされる検査を適時に行うことが不可欠であって、本件各規定に基づく検査等の権限を税関職員が行使するに際して、裁判官の発する令状を要するものとはされておらず、また、郵便物の発送人又は名宛人の承諾も必要とされていないことは、関税法の文言上明らかである」と判示し、

さらに、その検査の範囲に関し、
発送人又は名宛人の承諾を得なくとも、具体的な状況の下で、上記目的の実効性の確保のために必要かつ相当と認められる限度での検査方法が許容されることは不合理といえない」と判示。

本件事案における事実関係に即して、
「本件郵便物検査は、前記のような行政上の目的を達成するために必要かつ相当な限度での検査であった」として、「本件郵便物検査を行うことは、本件各規定により許容されていると解される」との事例判断を示している。
 
●行政手続として行われた本件郵便物検査が、令状も承諾もなく許容されていると解することと憲法35条の関係 

◎ 憲法 第35条〔住居侵入・捜索・押収に対する保障〕
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
②捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

◎ 最高裁昭和47.11.22(川崎民商事件):
「憲法35条1項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものではないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」とした上で、
旧所得税法所定の質問検査権が憲法35条1項の法意に反しないとした理由について、
①国家財政の基本となる徴収権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的(=目的の内容・公益性)、
②刑事事件の追及を目的とする手段ではなく、実質上も、刑事資料収集に直接結びつく作用を一般に有しないこと(=手続の一般的性質・機能・刑事手続との関係)、
③強制態様が、罰則による間接的なものであって、直接的物理的な強制ど同視すべき程度にまで達していないこと(=強制の態様・程度)、
④収税官吏による実効性ある検査制度が必要不可欠であり、目的、必要性に鑑みて、強制の程度が不均衡、不合理ではないこと(=目的・必要性との比較衡量による強制程度の合理性
を指摘。

最高裁H4.7.1(成田新法事件判決)も同様の枠組みに基づき、強制的な行政手続の憲法35条の適合性の判断が示された。

◎ 本判決は、このような川崎民商事件判決・成田新法事件判決の判断枠組みに基づき、本件具体的事実関係の下で、本件郵便物検査を行うことが本件各規定により許容されていると解するという関税法の解釈が、憲法35条の法意に反しないとの事例判断を示した。

◎本件各規定に基づく郵便物検査の目的・性質
関税の公平確実な賦課徴収及び税関事務の適正円滑な処理という行政上の目的を、大量の郵便物について簡易、迅速に実現するための手続で、刑事責任の追及を直接の目的とする手段ではなく、そのための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものではない。

国際郵便物に対する税関検査であることに伴う、本件郵便物検査の特質を踏まえて判示。 
 
◎強制の態様・程度に関する事情 
①国際郵便物に対する税関検査は国際社会で広く行われており、国内郵便物の場合とは異なり、発送人及び名宛人の有する国際郵便物の内容物に対するプライバシー等への期待がもともと低い
②郵便物の提示を直接義務付けられているのは、検査を行う時点で郵便物を占有している郵便事業株式会社であって、発送人又は名宛人の占有状態を直接的物理的に排斥するものではない⇒その権利が制約される程度は相対的に低い。
 
◎目的・必要性との比較衡量による強制程度の合憲性 
税関検査の目的には高い公益性が認められ、大量の国際郵便物につき適正迅速に検査を行って輸出又は輸入の可否を審査する必要があるところ、
その内容物の検査において、発送人又は名宛人の承諾を得なくとも、具体的な状況の下で、上記目的の実効性の確保のために必要かつ相当と認められる限度での検査方法が許容されることは不合理とはいえない。
⇒本件郵便物検査が本件各規定によって許容されていると解することが、憲法35条の法意に反しない。
 
●本件においては、通関行政目的に基づいて必要性・相当性の認められる限度で適法に本件郵便物検査が行われた上で、反則調査手続に移行した後に、改めて裁判官の発する許可状を得て本件覚せい剤が差し押さえられ、犯罪調査手続として適法な鑑定などが行われている。

「本件郵便物検査が、犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行われたものでないことも明らかである」 

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2018年12月19日 (水)

強制わいせつ罪と性的意図の要否(否定)

最高裁H29.11.29       
 
<事案>
被告人が、児童ポルノを製造、送信する対価として融資を得る目的で、当時7歳の被害女子に対し、被告人の陰茎を口にくわえさせるなどのわいせつな行為をし、その様子を撮影するなどして児童ポルノを製造し、それらを提供したとして強制わいせつ、児童ポルノ製造、児童ポルノ提供等により起訴された事案。 
 
<一審・原審>
被告人に自己の性欲を満たす性的意図があったとは認定できないとした上で、
強制わいせつ罪の成立には「その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させる性的意図」を要するとした最高裁判例(最高裁昭和45年1月29日)は相当でないとの判断⇒強制わいせつ罪の成立を肯定。
 
<判断>
故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく、昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。 

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2018年12月18日 (火)

有期契約労働者についての労働契約法20条違反が問題となった事案

松山地裁H30.4.24      
 
<事案>
各被告(グループ会社)と有期労働契約を締結し、同一施設内の工場においてトラクター等の農業機械の製造に係るライン業務を担っている各原告らが、同じ製造ラインに配属された無期契約労働者との労働条件の相違が労契法20条に違反すると主張

無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めたほか、
労働契約に基づく賃金請求(主位的請求)及び
不法行為に基づく損害賠償請求(予備的請求。ただし、厳密には、平成27年5月以降支給分については、不法行為に基づく損害賠償のみ請求している。)
をした。 
 
<規定>
労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
 
<判断> 
●労契法20条は、考慮要素として、 「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」を挙げているところ、

「職務の内容」については、各原告らと比較対象となる無期契約労働者との業務の内容に大きな相違があるとはいえず、

業務に伴う責任の程度
「相違していると認めることはできない」(①事件)
「一定程度相違している」(②事件)
とした。

「職務の内容及び配置の変更の範囲」については、
各被告では、無期契約労働者のみ「組長」(現場で部屋の始期をしながら自らも作業に携わる者)に就くことができ、無期契約労働者は、将来、被告における重要な役割を担うことが期待されて、教育訓練と勤務経験を積みながら育成されている
⇒人材活用の仕組みに基づく相違がある。

「その他の事情」
については、
中途採用制度により、無期契約労働者と有期契約労働者の地位が、
「ある程度流動的である」(①事件)又は
「必ずしも固定的でない」(②事件)
ことを挙げた。
 
●両事件とも、賞与については、
各原告らに賞与と同様の性質を有する「寸志」(無期契約労働者の賞与よろりも低額なもの)が支給されている

各原告らの無期契約労働者の相違が不合理なものであるとまでは認められない。

後記各手当を支給しないこと労契法20条に違反し、各原告らに対する不法行為を構成する
当該各手当相当額の不法行為に基づく損害賠償請求を認容した。

①①事件では、物価手当について、労働者の職務内容等とは無関係に、労働者の年齢に応じて支給されているものの、年齢上昇に応じた生活費の増大は有期契約労働者であっても無機契約労働者であっても変わりはない。
②②事件では、家族手当について、生活補助的な性質を有しており、労働者の職務内容等とは無関係に、扶養家族の有無、属性及び人数に着目して支給されているが、配偶者及び扶養家族がいることにより生活費が増加することは有期契約労働者であっても変わりがない。
住宅手当においては、住宅費用の負担の度合いに応じて対象者を類型化してその者の費用負担を補助する趣旨であるが、有期契約労働者であっても、住宅費用を負担する場合があることに変わりはない。
精勤手当には、少なくとも、月給者に比べて月給日給者の方が欠勤日数の影響で基本給が変動して収入が不安定であるため、かかる状態を軽減する趣旨が含まれる。
but有期契約労働者は、時給制であり、欠勤等の時間については、一時間当たりの賃金額に欠勤等の合計時間数を乗じた額を差し引くものとされ、欠勤日数の影響で基本給が変動し収入が不安定となる点は月給日給者と変わりはない。
 
<解説> 
労基法20条の解釈については、最高裁H30.6.1の①ハマキョウレックス事件と②長澤運輸事件。 
同条に挙げられた考慮要素のうち「その他の事情」については、最高裁②事件において、「職務の内容」や「職務の内容」に関連する事情に限定されるものではないと判断されているところ、大阪地裁H30.2.21においても、本件と同様に、正社員登用制度が存在し、正社員と期間雇用社員の地位が必ずしも固定的なものでないことが「その他の事情」として挙げられている。
 
賞与について「有為な人材の獲得のため」といった理由のみで賞与の支給における相違が是認されているわけではない。 

最高裁①事件では、契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員については、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額ななり得るとして、契約社員に住宅手当を支給しないことが不合理であると評価することはできないとされている。

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2018年12月17日 (月)

放送受信契約の取次等の行う日本放送協会からの受託者の労組法上の労働者性(肯定)

東京高裁H30.1.25      
 
<事案>
X(日本放送協会)が、Xとの業務委託契約に基づいて放送受信者との放送受信契約の取次等の業務を行う地域スタッフにより結成された団体Z(Y補助参加人)から団体交渉(団交)を申し入れらられたものの、その労働組合性を否定してそれに応じなかった⇒Zの申立てを受けた大阪府労働委員会から団交拒否は不当労働行為に当たるとされ、中央労働委員会に対する再審査申立ても棄却同委員会の属するY(国)に対し再審査棄却命令の取消しを求めた。 
 
<争点>
地域スタッフが労組法上の労働者に当たるか
団交拒否の正当理由の有無 
 
<判断>
労組法上の労働者は、労働契約によって労務を提供する者のみならず、これに準じて使用者との交渉上の対等性を確保するための労組上の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者も含む

スタッフは、
①Xの事業収入の大部分を占める受信料の取次等への貢献度が高く、事業組織に組み込まれ、その契約条件はXにおいて一方的に決定しており、
②報酬は基本給的な部分や歩合給的なものがあって一定の労務対価性を有し
③個別労務の提供についての具体的な拘束はないものの、Xにおいて営業職員に対するものと類似するある程度強い指揮監督を行っており、
再委託や兼業が現実には難しいことなど顕著な事業者性は認められない

Xとの交渉上の対等性を確保するために、労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切
団交拒否の正当理由も認められない。
 
<解説> 
労働者性の概念について、労契法や労基法と、失業者等も当然にその対象に含む労組法とではその範囲が異なり、後者の方がより広いものと解するのが通説。 

その具体的な判断に当たっては、業務実態に即し、
①その者が当該企業の事業遂行に不可欠な労働者として企業組織に組み込まれているか、
契約内容が一方的に決定されているか
報酬が労務の対価としての性質を有するか
④業務の発注に対し諾否の自由がないか
業務遂行の日時、場所、方法などにつき指揮監督等を受けるかどうか
などの積極的要素と、

⑥その者に顕著な事業者性が認められるかの消極的要素を総合考慮するとするものが多い。

本件地域スタッフの業務は、担当区域内の受信者を訪問して放送受信契約の取次等を行うものであって、
稼働日・稼働時間・訪問場所・順序等は地域スタッフに委ねられているなど、業務遂行上の具体的指示はなく、時間的・場所的拘束が緩やかな場合(④⑤の要素)。

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2018年12月16日 (日)

適切な治療を受ける期待権の侵害(否定)

東京地裁H29.10.26      
 
<事案>
Yの開設する本件病院で脳腫瘍部分切除術を受けた後に頻脈や高熱等の症状が現れ、それから約4か月後にくも膜下出血で死亡するに至った亡Aの相続人(両親)であるXらが、Yに対し、損害の賠償を求めた事案。 
 
<主張>
①亡Aが死亡したのは本件病院の担当医が悪性高熱症の発症を見逃してこれに対する治療を怠ったためであり、適切な治療が行われれば亡Aは悪性高熱症から回復して死亡を回復できた。
②仮に亡Aが悪性高熱症でなかったとしても、適切な治療を受ける期待権が侵害された。

債務不履行又は不法行為に基づいて、合計6553万円余の損害賠償及び遅延損害金の支払を請求。 
 
<判断>
●争点①:亡Aが悪性高熱症を発症していたか 
①現在の医学的知見では、術後悪性高熱症自体が稀
②術後1時間以以上経過して体温が上昇した患者が悪性高熱症発症している可能性はさらに低いものとなるところ、亡Aの高体温が確認されたのが麻酔終了後約8時間を経過した後
悪性高熱症を発症していたとまではいえない
 
●争点②:悪性高熱症の疑いのあった12月7日午前0時又は8日午前0時までにダントロレンを投与しなかったことに過失があるか? 
同時点における亡Aの症状等は悪性高熱症の疑いの程度は高いものではなかった⇒Yの責任を否定。
 
●争点③:亡Aの適切な治療を受ける期待権を侵害したか? 
期待権の侵害が成り立ちうる前提として、当該医療行為が著しく不適切なものである事案である必要
but
本件はそれに当たらない。
 
<解説> 
適切な医療行為を受ける期待権について、
最高裁H23.2.25が、医療行為が著しく不適切なものである事案について検討しうるにとどまると判示。 

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2018年12月15日 (土)

土地売買の確認書に基づく地方公共団体の責任

福岡高裁宮崎支部H29.7.19      
 
<事案>
㈱A(スーパーマーケット経営)は、Y市との間で土地売買契約を締結。
Aの契約上の地位を承継したと主張するXは、Yが買取りをしないとして


(主位的請求ア)土地の所有権移転登記手続と引換えに売買代金請求(5847万円余) 及び
(主位的請求イ)売買契約不履行に基づく損害賠償請求として、過去の固定資産税相当額・建物解体費用相当額(5559万円余)とこれに対する遅延損害金の請求


(予備的請求ア)不法行為又は国賠法1条1項に基づく損害賠償として、土地の売買価格と現在価格との差額(5102万円余)とこれに対する遅延損害金の請求及び
(予備的請求イ)過去の固定資産税相当額・建物解体費用相当額とこれに対する遅延損害金の請求
 
<争点>
①XはAがYに対して有する契約上の地位を承継したといえるか
②本件確認書による売買代金支払請求の当否
③固定資産税相当額の損害賠償請求の当否
④建物解体費用相当額の損害賠償請求の当否
⑤本件土地を売却できなかった損害の賠償請求の当否 
 
<原審>
請求を棄却。 
 
<判断>   
原判決を変更し、Xの予備的請求を一部認容。
 
●主位的請求・・・本件確認書の締結と売買契約の成否
本件確認書には、売買の目的物及び代金額は確定されている上、Y市長の記名押印、A代表取締役の記名押印がされている。
but
①表題が「契約書」でなければならないのに「確認書」とされるなど、Yの財務規則所定の事項の記載を欠いている
②平成11年覚書の内容をその後の事情の変更に合わせて変更した本件確認書、平成12年覚書も売買契約書の形式をとっていない
③売買代金についての予算措置が必要であるのに、これが講じられていなかった

本件確認書をもって本件売買契約が成立したとは認められない
 
●予備的請求 
平成11年覚書をもって売買契約とは認められない。
but
その締結により、A及びYは、その内容に沿った売買契約を締結すべき義務を負ったものと解される。
平成12年覚書・本件確認書は平成11年覚書の内容をその後の事情の変更を踏まえて変更したものであり、いずれも、Y市長の記名押印、A代表取締役の記名押印がされている
A及びYは、その内容に沿った売買契約等を締結すべき義務を負ったものと解される。

Yは前記義務を負ったにもかかわらず、予算措置の問題を理由に売買契約を先延ばしにしていたところ、Yの一連の行為が、Yに買い受けてもらえると信じて他に売却することなく隣接地との境界か確定作業や建物の解体撤去を行ったA及びその地位を承継したXの信頼を著しく裏切るもの
信義衡平の原則に照らし、信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、Yの不法行為責任を生じさせる。

予備的請求ア:
本件事実関係
⇒土地の売買価格と現在価格との差額をもって、売買契約の成立を信じて行動したAらの信頼を裏切った不法行為と相当因果関係に立つ損害であると認められない。

予備的請求イ:
Aが土地の売却の機会を逸したことによる損害は、Yの不法行為と相当因果関係に立つ損害であるところ、本件事実関係の下では、再生手続終結後にA及びXが負担を余儀なくされた固定資産税相当額はYの不法行為と相当因果関係に立つ損害である(合計1313万円余)が、
建物解体費用相当額は相当因果関係を欠く。
 
<解説>
売買契約は、財産権の移転と代金の支払を合意さえすれば成立するもので、契約書ができてはじめて売買が成立したものとみなければならないものではない。(最高裁昭和23.2.10) 

売買契約書が作成されていない場合には、間接事実から売買契約の成否を推認するという手法。
①契約当事者における売買契約の必要性、動機、目的
②交渉の経過
③契約後の当事者の言動(引渡し、占有の状況、登記手続、固定資産税の支払等)
が重要な間接事実となる。

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2018年12月14日 (金)

夫からの同居申立てを却下した事案

福岡高裁H29.7.14      
 
<事案>
X(夫)が、別居中のY(妻)に対し、同居するよう命じる審判を求めた事案。 
   
<事実>
平成21年に婚姻し、平成25年に別居。
Yは、別居の翌年に民法770条1項5号に基づき離婚訴訟を提起。

一審:婚姻関係が破綻⇒Yの請求を認容。

控訴審:平成28年、XとYが真摯に話し合えば婚姻関係の修復の可能性があり得ないとはいえないとして、Yの請求を棄却。 

Xは、Yに対し同居を命じる審判を求める家事審判の申立て(家事手続法別表第2の1項)。
 
<原審>
XがY及び長女Cのみと同居できる住居を定めたときに、Yに同居するように命じる審判。
   
Yが即時抗告
 
<判断>
同居義務が夫婦という共同生活を維持するためのもの
共同生活を営む夫婦間の愛情と信頼関係が失われる等した結果、仮に、同居の審判がされて、同居生活が再開されたとしても、夫婦が互いの人格を傷つけ、又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる場合には、同居を命じるのは相当ではないといえる。

①YがXをストレッサーとする適応障害と診断されている
②当事者の作成した書面の内容等

同居を再開しても相互に個人の尊厳を損なうような状態に至る可能性は高いと言わざるを得ない

原審判決を取り消し、Xの申立てを却下。
 
<規定>
民法 第752条(同居、協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
 
<解説>
最高裁昭和40.6.30:
夫婦の同居に関する事件についての審判は夫婦同居の義務等の実態的権利義務自体を確定する趣旨のものではなく、これら実体的権利義務の存することを前提として、その同居の時期、場所、態様等について具体的内容の定める処分

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2018年12月13日 (木)

再生債務者が再生計画に従い弁済⇒保証人との関係では保証債務全体について債務承認として時効中断効が生じる

東京高裁H29.6.22      
 
<事案>
AがB銀行から借入をするに当たって、Aの委託に基づいてその債務を信用保証したXが、B銀行に対して代位弁済したとして、Aの信用保証委託契約上の債務を連帯保証したYらに対し、連帯保証債務の履行を請求。 
 
<主張>
Yらは、Aの再生計画認可決定確定日から10年を経過したことにより連帯保証債務は時効により消滅したとして、時効を援用。 
 
<規定>
民法 第457条(主たる債務者について生じた事由の効力)
主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。

民再法 第177条(再生計画の効力範囲)
2 再生計画は、別除権者が有する第五十三条第一項に規定する担保権、再生債権者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び再生債務者以外の者が再生債権者のために提供した担保に影響を及ぼさない。
民再法 第179条(届出再生債権者等の権利の変更)
再生計画認可の決定が確定したときは、届出再生債権者及び第百一条第三項の規定により認否書に記載された再生債権を有する再生債権者の権利は、再生計画の定めに従い、変更される。
 
<判断>   
●主たる債務者について再生計画認可の決定が確定した場合において、主たる債務者について生じた事由による時効の中断が保証人に対してもその効力を生ずることを規定した民法457条1項の適用上、主たる債務者(再生債務者)が再生契約の遂行として分割弁済をしても再生計画により減免を受けた部分の債務については保証人との関係において債務承認の効果が生じないとすると、再生計画が再生債務者の保証人に対して影響を及ぼすのと同様の結果をもたらすことになる。

再生債務者の保証人に対する権利を保護した民再法177条2項及び主たる債務の履行担保を目的とする民法457条1項の趣旨に実質的に違反する

主たる債務者による再生計画の遂行としての分割弁済は、保証人との関係では再生手続が開始されていない通常の主たる債務の一部弁済がされた場合と同視すべきであり、保証債務全体についての債務承認として時効中断の効力が生ずるものと解するのが相当
 
再生計画の定めによる免責部分については絶対的に債務が消滅した、あるいは、仮に自然債務として存続する場合でも免除前の債務殿同一性はないとするYらの主張について、当該問題はもっぱら主たる債務者との関係で免責部分の法的性質をどのように解するかという問題であって、民再法177条2項の規定の趣旨に照らせば、その法的性質自体は保証人との関係では何ら影響がないというべきである。 

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2018年12月11日 (火)

親会社の子会社の従業員に対する信義則上の義務違反(否定)

最高裁H30.2.15      
 
<事案>
Y社の子会社である甲社の契約社員としてY社の事業場内で就労していたXが、同じ事業場内で就労していた他の子会社である乙社の従業員(「従業員A」)から、繰り返し交際を要求され、自宅に押し掛けられるなどしたことにつき、国内外の法令、定款、社内規程及び企業倫理(「法令等」)の遵守に関する社員行動基準を定め、自社及び子会社等から成る企業集団の業務の適正等を確保するためのコンプライアンス体制(「本件法令遵守体制」)を整備していたY社において、前記体制を整備したことによる相応の措置を講ずるなどの信義則上の義務に違反した⇒Y社に対する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を求める事案。 
 
<事実>
Xは、甲社に契約社員として雇用され、Y社の事業場内にある工場において、甲社が乙社から請け負っている業務に従事。
従業員Aは、乙社に課長の職にあり、前記事業場内で就労。 
Y社は、自社とその子会社である甲社、乙社等とでグループ会社を構成し、本件法令遵守体制を整備し、その一環として、本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受けるコンプライアンス相談窓口を設け、前記の者に対し、本件相談窓口制度を周知してその利用を促し、現に本件相談窓口における相談への対応を行っていた。
・・・・Y社は、本件申出を受け、甲社及び乙社に依頼して従業員Aその他の関係者の聞き取り調査を行わせるなどしたが、甲社から本件申出に係る事実は存しない旨の報告があったこと等を踏まえ、Xに対する事実確認は行わず、平成23年11月、従業員Bに対し、本件申出に係る事実は確認できなかった旨を伝えた
 
<原審>
従業員Aの不法行為責任及び甲社の雇用契約上の付随義務(「本件付随義務」)違反による債務不履行責任を認めた上、Y社に対する債務不履行に基づく損害賠償請求を一部認容。 
Y社は、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、本件相談窓口を含む本件法令遵守体制を整備⇒人的、物的、資本的に一体といえる本件グループ会社の全従業員に対して、直接またはその所属する各グループ会社を通じて相応の措置を講ずべき信義則上の義務を負うところ、
①Xを雇用していた甲社が本件付随義務に基づく対応を怠ったこと、
②Y社自身もその担当者が本件申出の際に求められたXに値する事実確認等の対応を怠ったこと

Y社は、Xに対し、本件行為につき、前記信義則上の義務違反を理由とする債務不履行席にを負うべき。
   
Y社が上告受理申立て
 
<判断>
原判決中Y社敗訴部分を破棄し、XのY社に対する請求を棄却した一審判決は結論に置いて是認することができる⇒前記部分に関するXの控訴を棄却する旨の自判。

Y社が、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、自社及び子会社である甲社、乙社等のグループ会社から成る企業集団の適正等を確保するための体制を整備し、その一環として、前記グループ会社の事業所内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける相談窓口を設け、前記の者に対し、前記相談窓口に係る制度を周知してその利用を促し、現に前記相談窓口における相談への対応を行っていた場合において、甲社の従業員が、前記相談窓口に対し、甲社の元契約社員であって退職後は派遣会社を介してY社の別の事業場内で勤務していたXのために、Xの元交際相手である乙社の従業員AがXの自宅の近くに来ているようなので事実確認等の対応をしてほしいとの相談の申出をしたときであっても、次の(1)~(3)など判示の事情の下においては、Y社において前記申出の際に求められたXに対する事実確認等の対応をしなかったことをもって、Y社のXに対する損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の義務違反があったとはいえない
(1) 前記体制の仕組みの具体的内容は、Y社において前記相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない
(2) 前記申出に係る相談の内容は、Xが退社した後に前記グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり、Aの職務執行に直接関係するものとはうかがわれない。 
(3) 前記申出の当時、Xは、既にAと同じ職場では就労しておらず、前記申出に係るAの行為が行われたから8か月以上経過していた。
 
<解説> 
●Xが主張すするYの責任原因:
①Y社は、本件法令遵守体制を整備するなどしたこと⇒本件グループ会社の事業場内で就労する者に対し、信義則上、その安全に配慮し、法的保護に値する利益を保護すべき義務を負う⇒雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律所定の事業者として、前記の者が職場で行ったセクハラ行為についての安全配慮義務の一内容として措置義務を負担する、
②Y社は、本件行為1につき、Xが直属の上司に相談して対応を求めたことにより、本件法令順守体制に基づく措置義務を履行すべきであったのにこれを怠った、
③Y社は、本件行為1につき、Xが従業員Bの援助を受け、従業員Bにおいて本件相談窓口に対して本件申出をしたにもかかわらず、原告に対する事実確認を怠った、
④したがって、Y社は、本件行為につき、前記①の義務違反を内容とする債務不履行責任又は不法行為責任を負う。 
 
●甲社による本件付随義務の不履行との関係 
◎  使用者がいわゆるセクシュアル・ハラスメントに関して適切な対応を怠った場合につき、労働契約上の職業環境配慮義務違反を理由として使用者固有の債務不履行責任を認める裁判例
but
これらは、使用者が被用者を直接雇用していた事案に関するもの

大津地裁H22.2.25:
派遣元からの派遣労働者が、派遣先において、親会社から出向中の社員によるセクシュアル・ハラスメントを受けたとして、親会社の使用者責任又は債務不履行責任が問題となった事案において、
親会社の事業場は、親会社をはじめとする関連会社がそれぞれ独立して企業活動を行っているにすぎない⇒親会社がその事業場で働く全ての労働者に対して職場環境配慮義務を負うとは言えない⇒親会社の債務不履行責任を否定。 

直接の労働契約関係にない労働者間で安全配慮義務が認められるか否かについて、
最高裁昭和55.12.18は、
両者間に労務提供の場における指揮監督・使用従属の関係が存在するという実態に着目して、「雇用契約に準ずる法律関係上の債務不履行」として認める立場。

学説上も、労働契約と同視できるような関係(労務の管理支配性=実質的指揮監督関係)の存在が必要であると解されている。

親会社が、子会社の従業員間で行われたセクシュアル・ハラスメントにつき、労働契約上の職場環境配慮義務違反を理由として固有の債務不履行責任を負うとされるのは、少なくとも親会社が被害者(子会社の従業員)に対してその指揮監督権を行使する立場にあったり、被害者から実質的に労務の提供を受ける関係にあったことが必要であり、
親会社が法令遵守体制を整備したことのみをもって、子会社が被害者との間で使用者として負うべき雇用契約上の付随義務(労働契約上の職場環境配慮義務)を履行する義務を負うものではない。
but
例えば、親会社が、法令遵守体制として、子会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務(労働契約上の職場環境配慮義務)を親会社自らが履行し又は親会社の直接間接の指揮監督の下で子会社に履行させることとした場合は、親会社がそのような法令遵守体制を整備したことを理由に前記のような義務を履行する義務を負う余地はある。
 
男女雇用機会均等法は、セクシャル・ハラスメントに関する法規制として、事業主に指針に従ったその防止と苦情処理のための雇用管理上の措置を義務付ける規定(同法11条1項、2項)を置いているところ、
この規定は作為・不作為の請求権や損害賠償請求権を与えるような私法上の効力を有するものではないと理解されている。
but
同項所定の措置が不法行為法上の注意義務や労働契約上の安全配慮義務の内容に取り込まれることがあり得るとする見解もある。
but
男女雇用機会均等法上の「事業主」とは、事業の経営の主体とされており、同法11条1項の「その雇用する労働者」との文言等⇒同項の措置義務を負う事業主は、他の法令の定めがない限り、労働者を雇用する者をいうものと解される。
 
●本件相談窓口における本件申出への対応について 
◎ 甲社・乙社の親会社であるY社が、本件法令遵守体制を整備し、その一環として、甲社・乙社等の本件グループ会社の構内で就労する者に対して本件相談窓口を設けて対応するなどしていた場合において、甲社・乙社の従業員間で行われた不法行為について適切な対応をすべき信義則上の義務違反による損害賠償責任を負うか?

◎ 最高裁:
契約関係がなくても契約準備交渉段階に入った当事者間では、相手方に損害を被らせないようにする信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償責任を認められる場合があるとし、
安全配慮義務に関しては、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」とし、元請企業が(直接的には雇用契約を締結していない)下請企業の労働者に対して安全配慮義務を負うとの事例判断を示したものもある。

直接の契約関係が存在しなくても、ある法律関係に基づいて(当事者の信頼が基礎にある)特別な社会的接触の関係に入った当事者間では、相手方に損害を被らせないようにする信義則上の作為義務が認められる場合があり得る。

学説でも、いわゆる附随的義務等については、債権・債務関係が既に成立している場合に限定されず、契約の準備段階において同種の義務としてその存在を認めることができるとされている。

関係的契約規範として「(当事者の信頼が基礎にある)一定の契約関係に入った当事者は、相手方の損害の発生や拡大を容易に回避しうるときは、そのための作為義務を負う」との契約的原理が認められる(内田)。

◎ 本判決は、本件グループ会社の事業場内で就労した際に、法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が、本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をした場合には、その申出の具体的状況如何によっては、Y社は、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組の内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合がある旨を説示。

判例時報2383

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2018年12月10日 (月)

普天間飛行場代替施設等の建設差止請求

那覇地裁H30.3.13      
 
<事案>
漁業権を管轄する地方公共団体が、国の進める普天間飛行場代替施設等の建設に際して、規則により必要とされる県知事の許可を得ずに岩礁破砕等の行為が行われるおそれがある
⇒当該行為の差止めを求め、また予備的に、かかる行為の不作為義務の存在の確認を求めた。 
 
<判断>
本件請求は裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に該当しない⇒裁判所が固有の権限に基づいて審判することはできず、Xによる各訴えをいずれも却下。

最高裁H14.7.9(宝塚パチンコ店等建築規制条例事件)に依り、
①国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであり、法律に特別の規定がある場合に限り、提訴することが許され、
例外的に、
②財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たる。

判例時報2383

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2018年12月 3日 (月)

大崎事件の第三次請求即時抗告審決定

福岡高裁宮崎支部H30.3.12   
 
<事案>
原審の再審開始決定⇒検察官の即時抗告⇒即時抗告を棄却

第一次再審第一審:再審開始の決定⇒即時抗告審:再審請求棄却⇒特別抗告審:即時抗告審を維持「なお、記録によれば、申立人提出に係る新証拠の明白性を否定して本件再審請求を棄却すべきものとして原判断は、正当として是認することができる
第二次再審:第一審、即時抗告、特別抗告も棄却
第三次再審請求
 
<原審>
「法医学鑑定」(A鑑定)⇒死因を頚部圧迫による窒息死と推定した①旧鑑定の証明力を減殺、

供述心理学鑑定(捜査官が録取したDの供述調書を鑑定資料として実施したB・C新鑑定)⇒Dの目撃供述の信用性判断においては慎重な判断をする必要があることを明らかに⇒D供述によって補強されていたF、Gらの供述の信用性評価に影響を与える可能性

新旧全証拠を用いて(FGHの各供述の信用性判断を改めて行うことを含めて)事実認定全体の再評価を行うもの。
 
<判断>
●検察官の即時抗告を棄却 
B・C新鑑定(供述心理学鑑定)の明白性を肯定した原決定の判断は、何ら合理的根拠を示さない不合理な判断。
B・C新鑑定は、その鑑定手法及び鑑定内容も不合理⇒B・C新鑑定の明白性を否定。

A鑑定(法医学鑑定)につき、「頚部圧迫による窒息死であることを積極的に認定できる所見がない」という限度で肯定した原決定につき
A鑑定は①旧鑑定をいささかも左右しないのに、①旧鑑定の証明力を減殺したものと評価している点において不合理な判断。

●A鑑定の証明力につき、「『Kの死因につき窒息死と推定し、頚項部に作用した外力により窒息死したと想像した』とする①旧鑑定が誤りであり、『タオルで頚部を力いっぱい絞めて殺した』とする確定判決の認定事実とKの解剖所見は矛盾しており、Kの死因は転落事故等による出血性ショック死の可能性が高い」としたA鑑定の結論部分は、十分な信用性を有している
A鑑定が旧証拠に及ぼす影響につき詳細に検討し、さらに、確定一審判決の心証形成の過程も具体的に検討して、
A鑑定が確定審において取り調べられた場合には、確定審におけるF、G、Hらの供述は、信用性を基礎付ける客観的根拠が喪われることにより、その信用性には重大な疑義が生じる。
⇒A鑑定の明白性を認める判断。

 
<解説>
本決定:
「新証拠の証明力評価」を先行させ、「新証拠が旧証拠に及ぼす影響」を検討し、「確定審の心証形成の過程」を確認した上で、新証拠が旧証拠に及ぼす影響が確定判決の事実認定にどのような影響を及ぼしたのかを検討。

第一次再審即時抗告審と同様「限定的再評価説」の流れに属する。

判例時報2382

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2018年12月 1日 (土)

甲子園出場を決めた高校の後援会による補助金の目的外使用について、返還請求を求める住民訴訟

盛岡地裁H30.4.20      
 
<事案>
その硬式野球分が甲子園全国大会出場を決めたA高校を後援するために設立されたB後援会(権利能力なき社団)に対し、C市から1000万円の補助金が交付されたことについて、X(C市住民)が、執行機関であるY(C市長)に対し、本件補助金がC市の補助金交付規制及び要綱所定の用途(出場生徒の交通費・宿泊費)以外の用途に使用された⇒補助金交付決定を取り消して本件補助金の返還請求をしていないこと(怠る事実)の違法確認とB後援会に対して返還請求をすることを求めた住民訴訟
 
<差戻前一審> 
Xの主張する不当利得返還請求権は、補助金交付決定が取り消されて初めて発生するところ、これを取り消すべきか否かは行政管理上の判断事項⇒前記不当利得返還請求権は地自法242条1項所定の「財産」に当たらない 
 
<控訴審>
本件補助金が他用途に使用されたと認められる場合、その返還を求めるに際し交付決定の取消しをすることは手続上の要件にすぎず、Yには、特段の事情のない限り、本件補助金の返還を求めない裁量はない。 

同返還請求をしないことは、本件補助金の交付決定を行わないことも含めて、地自法242条1項所定の「財産」の管理を怠る行為に該当
⇒差戻前一審判決を取り消した。
 
<判断>
B後援会は、解散後も清算の目的の範囲内で権利能力なき社団として存続⇒本件訴えは適法。

①本件補助金は、根拠放棄であるC市の補助金交付規制及び要綱に従って交付されているところ、これら規定によれば、補助金の交付対象となる経費は大会出場者の交通費及び宿泊費(交通費等)に限定されている
②・・・目的外使用となるのは、本件補助金か1000万円から交通費等に充当された金額を控除した、420万6275円
補助金の目的外使用があった場合、補助金の返還を請求しないことを相当とする特段の事由が存しない限り、執行機関はその返還を求めん変えればならないと解されるところ、単にB後援会が解散したというだけでは特段の事情があるとはいえない。
本件補助金のうち目的外使用がされた部分以外については、これを取り消すかどうかはYの一般行政管理上の裁量判断による⇒当該措置の是非は住民訴訟の対象として想定されていない。

前記420万6275円の支払請求を怠ることの違法確認とこれをB後援会に対して支払請求することを求める限度で、原告の請求を認容

拘束力(行訴法33条1項)⇒本件補助金の交付決定を取り消す義務を主文に掲載する必要はない。
 
<解説>
認容判決に特有の本案上の論点に関し、
公金からの収入と他の収入とが混和し支出がいずれによるものか区分できない場合の公金返還の範囲の点について、
①公金と全体の支出の比による按分計算によって例と
②公金から目的内支出を差し引くことによる差額計算によった例
がある。

判例時報2382

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