大阪市長に対するメールの公開請求の事案
大阪高裁H29.9.22
<事案>
大阪市情報公開条例2条2項:
同条例における「公文書」を、
「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものという」と規定。
Y(大阪市)は、
大阪市長が職員との間で、いわゆる庁内メールを利用して1対1で送信した電子メールについて、
①公用パーソナルコンピュータの共有フォルダで保有しているもの
②紙に出力したものを他の職員が保有しているもの
③当該1対1メールの内容を転送先の公用PCで保有しているもの
については、公開請求の対象となる公文書に該当し、
その余のものは公文書に該当しないとの取扱いをしている。
Xは、同条例に基づき、大阪市長に対し、同市長とYの職員との1対1メールのうち、Yにおい公文書として取り扱っていないものの公開を請求
⇒大阪市長は、公開しない旨の決定。
<原審>
本件文書の中には、同条例2条2項所定の公文書に該当する文書が含まれている⇒本件非公開決定は違法。
大阪市情報公開条例2条2項の解釈及び「組織的に用いるもの」に該当するか否かの判断基準について、情報公開法2条2項に関するものと同旨の解釈及び判断基準を採用。
①大阪市長と職員との間で職務に関してやり取りされたものである以上、すべからく組織共用文書となると解するものではない
but
②メールである以上、1対1メールであっても、その作成及び利用について大阪市長及びYの職員が送信者又は受信者として関与しており、一方当事者の廃棄の判断にゆだねられているとはいえず、組織として保有するものに該当することも十分あり得る
③大阪市長と職員との間の1対1メールが職務上の指示又は意見表明に利用される場合、組織において業務上必要なものとして利用又は保存されているということができる場合があり、
証拠に表れた前市長と職員との間のメールの利用の実態に鑑みれば、1対1メールがこのように利用されていないということはできず、本件文書の中に公文書に該当するものがあったということができる。
⇒
本件非公開は違法。
<判断>
原審判断を是認
<争点>
本件文書が同条例2条2項の「組織的に用いるもの」に該当するか否か
<解説>
同条例の公文書に関する定義は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)2条2項における行政文書の定義と同旨。
情報公開法 第2条(定義)
2 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
二 公文書等の管理に関する法律(平成二十一年法律第六十六号)第二条第七項に規定する特定歴史公文書等
三 政令で定める研究所その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(前号に掲げるものを除く。)
同条項の立法過程においては、
①決裁、供覧等の文書管理規程上の手続要件で対象文書の範囲を画することは適切ではない
②職員の個人的メモなど、組織としての業務上の必要性に基づく保有しているとは言えないものまで含めることは、法の目的との関係では不可欠なものではなく、法の的確な運用に困難が生じたり、適切な事務処理を進める上で妨げとなるおそれもある
⇒
職務上作成・取得と組織共用・保有が要件となった。
組織共用・保有:
作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該行政機関の組織において業務上必要なものとして利用・保存されている状態のものをいう。
判例時報2379
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