政務調査費の支出が違法⇒不当利得として返還請求することを市長に求める住民訴訟(一部認容)
仙台高裁H30.2.8
<事案>
仙台市議会の会派及び議員が同市から交付を受けた平成23年度(平成23年9月分から平成24年3月分まで)の政務調査費のうち一部(合計約1810万円)が条例等により定められた使途規準に反して違法に支出され、前記会派及び議員に不当利得が生じている⇒Xが、市長であるYに対し、前期会派及び議員に対して不当利得の返還を請求するよう求めた住民訴訟。
<論点>
①政務調査費の支出の適法・違法の判断枠組み
②主張立証責任の分配
<解説>
①について:
条例等により定められた使途規準に合致するか否かを適法・違法の判断の基準とし、
具体的には、政務調査費の支出と議員の調査研究活動との間に合理的関連性がない場合を使途規準に合致しない場合として違法とする裁判例が多い。
②について:
いわゆる一般的・外形的な事実説(使途規準に合致した政務調査費の支出がなされなかったことを推認させる一般的・外形的な事実が立証されたときには、適切な反証がされない限り、当該支出が使途規準に合致しないものであることが事実上推認される)に立つ裁判例が多い。
<判断>
Xの請求の一部を認容した原判決を、大筋で支持。
<解説>
●政務調査費の支出対象となる経費が(インターネット利用料など)定額のサービス利用料である場合の使途規準適合性について:
仙台市議会においてこれを具体化する趣旨で作成された内規である「仙台市政務調査費の交付に関する要綱」があり、
その8条は「政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難い場合には、従事割合その他の合理的な方法により按分した額を支出額とすることができるものとし、当該方法により按分することが困難である場合には、按分の割合を2分の1を上限として計算した額を支出することができる」と規定。
原判決:
同要綱は、それ自体が法規範性を有するものではないが、このような取扱いをすることは政務調査費の支出について議員の調査研究活動のための必要性を要求する地自法及び条例等に沿うものとして合理性があると考えられる
⇒
政務調査費の支出対象となった経費の一部が調査研究活動対象以外の目的で支出されたといえる場合には、前記の定めに従って按分した額を超える支出は、結局、使途規準に合致しないものと判断されるべき。
~
本判決もこれを共通の前提としている。
政務調査費の支出対象となる経費が定額のサービス利用料である場合:
原判決:
調査研究活動以外の目的で利用されることがあったとしても、調査研究活動を主目的として利用するとすれば目的外利用の有無にかかわらず一定額の支払をしなければならない
⇒
前記一般論の例外として、定額の利用料については、按分をしないでその全額を政務調査費から支出しても使途規準に合致しないとはいえない。
本判決:
各会派及び議員は、定額の利用料に係る経費を政務調査費から全額支出するか一切支出しないかのいずれかを選択しなければならないものではなく、経費を按分してその一部を政務調査費から支出することができる。
⇒
定額制か従量制等かの違いだけで異なる取扱いをする合理的な理由はない。
●経費の一部について按分により政務調査費から支出することを認める前記ののような要綱の定めを実質的に使途基準適合性の判断に取り込んで支出の違法性を判断することの当否
これを取り込んだ場合に定額の利用料をさらにその例外とすることの是非
について、さまざまな議論があり得る。
判例時報2380
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