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2018年11月14日 (水)

恵庭OL殺人事件第二次再審第一審決定

札幌地裁H30.3.20      
 
<事案>
著名再審請求事件の1つである恵庭OL殺人事件の第二次再審請求に対する地裁の棄却決定。 
弁護人が提出した科学的証拠を中心とする新証拠が、いずれも確定判決の根拠となった間接事実等の認定や評価に影響を及ぼすものではない⇒新旧全証拠の総合評価段階に至ることなく、請求を退けた
 
<判断等>
●確定判決等が請求人を犯人と認定した判断構造 
本件の犯人として想定可能な人物を絞り込んでいく間接事実が少なからず存在し、これらを総合的に検討して、犯人を請求人と推認、特定。
その旨の推認を妨げる事情の有無等を弁護人の主張等に即する形で検討してこれを否定、排斥。
⇒有罪の判断。
 
●弁護人の主張 
①法医学の専門家の意見書等
⇒被害者の死因は頚部圧迫による窒息とはいえず、確定判決等が依拠した司法解剖医作成の鑑定書が、死因をそのようにいうのは根拠不十分。
被害者は、性犯罪の被害にあって薬物投与により急死した疑い⇒そのような薬物を所持していなかった請求人は犯人ではない。

②燃焼学者等の専門家らの意見書等
⇒被害者の死体は、まずうつ伏せの状態で燃焼され、しばらく後に仰向けに反転させられ、再び燃料を掛けられて燃損されたと認められるが、そうであれば、請求人にはアリバイが成立する。

③確定判決控訴審判決では、灯油10リットルを掛ければ被害者の死体のように相当部分が炭化状態となるまで燃焼することが不可能とはいえないと判断。
but
燃焼学の専門家の意見書等⇒灯油10リットルを掛けて燃焼しても、被害者の死体のように体重が9キロも減少することはなく、第一次再審請求審における即時抗告棄却決定が指摘するように、灯油の燃焼終了後脂肪が独立燃焼を継続することもない。
⇒灯油10リットル以外に燃料を所持していなかった請求人は犯人ではない。
 
●判断
弁護人提出証拠の証拠価値を否定し、ひいては、いずれも刑訴法435条6号にいう明白性を否定。
①・・・・頸部圧迫による窒息の所見が少なからず認められる⇒死因をそのように認定した確定判決等の判断は左右されない
当時科捜研において所要の薬物検査が実施され、被害者の死体からは薬毒物が検出されなかった⇒薬物を使用した性犯罪に伴う急死等の可能性は除外される。

②死体の焼損状況⇒当初から仰向けの状態で焼損されたものとみても説明がつく
まずうつ伏せの状態で焼損され、次いで仰向けの状態にされて焼損されたとすると、臀部など焼損を免れた部位や現場の痕跡など客観的状況の説明がつかない。

燃焼学の専門家等の意見書等は、被害者の死体に掛けられた灯油の燃焼の仕方、死体への熱の伝わり方、燃焼した灯油の分量といった燃焼の条件が実際より過度に単純化され、過小なものとなっている
 
<規定> 
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<解説> 
刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(明白性)とは、
確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせるものであり、
その判断方法としては、新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたら、その確定判決においてなされたような事実認定に到達したかどうかという観点から、新旧証拠を総合的に評価して行うべきものとされている(総合評価説)。

この総合評価:
一般論として、
確定判決が有罪認定の根拠とした旧証拠の構造等を分析した上、新証拠の立証命題や旧証拠の構造の中での位置付けを踏まえ、新証拠がいかなる旧証拠にいかなる影響を及ぼすのかを、そのために必要な範囲の旧証拠に分析を加えながら検討

新証拠が旧証拠に与える影響の度合いを検討するには、その前提として、新証拠それ自体に十分な証拠価値のあることが前提
but
本決定は、弁護人提出証拠の証拠価値をいずれも否定
⇒新証拠への影響の度合いを論じる前提を欠いている。

判例時報2280

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