被爆者援護法同法27条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権の一身専属性(否定)
最高裁H29.12.18
<事案>
長崎市に投下された原子爆弾に被爆したと主張する者が、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律に基づき被爆者健康手帳の交付及び健康管理手当の認定の各申請⇒長崎市長又は長崎県知事からこれらを却下する旨の処分⇒本件申請者らは同法1条3号所定の被爆者の要件を満たすなどと主張して、本件各処分を取消し、被爆者健康手帳の交付の義務付け等を求めた事案。
<争点>
①本件各処分の取消しを求める訴訟及び同取消しに加えて被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める訴訟について、訴訟の係属中に申請者が死亡した場合に、相続人がこれを承継することができるか
②本件申請者らが、被爆者援護法1条3号所定の被爆者の要件(原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者)を満たすか
<一審・原審>
被爆者援護法による援護を受ける地位は同法による被爆者の一身に専属するもの⇒相続人らが相続によってこれを承継することはできない⇒死亡した者を原告とするものについては訴訟終了宣言をすべき。
生存している者に係る保険各処分の取消請求に対する判断において、
①科学的知見によれば、長崎原爆が投下された際に爆心地から約5kmまでの範囲内の地域に存在しなかった者は、その際に一定の場所に存在したことにより直ちに原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったということはできない上、
②本件申請者らに長崎原爆の投下後、原爆の放射線による急性症状があったと推認することはできない
⇒その主張には理由がない、
<判断>
訴訟承継をいずれも肯定
被爆者援護法1条3号該当性については、本件申請者らに同号該当性が認められないとした原審の判断を是認
⇒
(1)本件各処分の取消の訴えに関して、
①原審において訴訟終了宣言がされた者⇒不利益変更禁止の原則により、上告を棄却
②一審が訴訟終了宣言をし、原審において控訴を棄却された者⇒原審の判断を結論において是認できるとして、上告を棄却し、
(2)被爆者健康手帳の交付の義務付けの訴えに関して、
一審が本件各交付申請却下処分は取り消されるべきであるとは認められず、訴訟要件を各としてとうがい訴えを却下
⇒
①原審において一審と同じ理由で控訴が棄却された者(本件申請者らのうち生存している者)について、所論に理由がない⇒上告棄却
②原審が訴訟終了宣言をした者(当該訴えを提起していた本件申請者らの相続人ら)⇒原判決を破棄した上、前記の一審判決は相当であるとして、控訴棄却の自判。
<解説>
①被爆者援護法の法的性格
②健康管理手当を給付する目的
③同手当の給付に関する同法の規定振り等
⇒
同法27条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権は当該申請をした者の一身に専属する権利ということができず、相続の対象となるとして、訴訟承継が成立。
①被爆者援護法が、いわゆる社会保障法としての他の公的医療給付立法と動揺の性格を持つものである一方で、実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあるとされている(最高裁昭和53.3.30)⇒被爆者援護法の目的が単なる生活困窮者への公的扶助とは異なる点にある
②同法に基づく健康管理手当が、同法所定の障害に苦しみ、不安の中で生活している被爆者に対して毎月定額の手当てを支給することにより、その健康及び福祉に寄与することを目的として給付されるもの
③健康管理手当に係る受給権が、同法27条所定の認定申請を含む所定の各要件を満たすことによって得られる具体的給付を求める権利として規定されている
⇒
同条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権は、相続の対象となるものと判断。
判例時報2382
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