前訴確定判決の認定に反する事実を前提とする再度の退職手当支給制限処分の事案
大阪高裁H29.7.20
<事案>
市教育委員会は、X(市立中学の教頭)が酒気を帯びたAに対して最寄り駅まで自動車で送ることを依頼した事実(「運転事実」)を前提として、地公法29条1項1号、3号に基づいき懲戒免職処分及び公立学校職員等の退職手当に関する条例13条1項に基づき退職手当等の全額を不支給とする退職手当支給制限処分(「本件制限処分①」)
⇒
Xは、処分行政庁の所属するY(神戸市)を被告として両処分の取消しを求めて訴えを提起⇒本件免職処分の取消請求を棄却し、本件制限処分①の取消請求を認容する判決が確定。
⇒
処分行政庁は、前訴確定判決の判決結果を受けて、改めて退職手当等の8割相当額を支給しないこととする退職手当支給制限処分(「本件制限処分②」)
⇒
Xが、処分行政庁の所属するYに対し、本件制限処分②の取消しを請求するとともに(B事件)、同処分により精神的苦痛を受けたとして国賠法1条1項に基づきYに対し200万円(慰謝料200万円、弁護士費用20万円の合計220万円の一部)の損害賠償及びこれに対する本件制限処分②がされた日から支払済みまでの遅延損害金を請求(A事件)。
<争点>
①本件制限処分②が前訴確定判決の認定事実の拘束力に違反するか
② 本件制限処分②に裁量権の逸脱・濫用があるか
③損害の有無及び額
<規定>
行訴法 第33条
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
<判断>
●争点①
取消判決が確定した場合は、処分行政庁は、同一の事情の下で同一の理由により同一内容の処分を繰り返すことができない。(行訴法33条1項)
最高裁H4.4.28:
この拘束力が、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断について生じる。
「判決主文が導き出されるのに必要な事実」は要件事実を意味する。
but
退職手当支給制限処分は、多様な事情が考慮されるところ、
本判決は、運転依頼の有無は、判決主文が導きだされるのに必要な事実であると判断。
←
①運手依頼の有無がXの非違行為の悪質性を定める上で重要な事実となり、②前訴においても争点とされ、③前訴確定判決で本件支給制限処分①が違法な処分であることの主要な根拠の1つとされていた。
●争点②
本件制限処分②は、Xが、飲酒しているAに運転依頼をしたという前訴確定判決の拘束力に違反する事実を考慮してされたものであり、当該事実の考慮が処分行政庁の裁量判断に影響を及ぼすることが明らか
⇒違法な処分。
●争点③
①本件制限処分②は、基本的な法律の適用を誤るもの
②Xは、本件制限処分②の取消しを求めて、訴訟の提起を余儀なくされる
③裁判所が本件制限処分②を取り消したとしても、Xは、更に3度目の退職手当支給制限処分がされる可能性のある不安定な法的地位に置かれ続ける
⇒
Xは、違法な本件制限処分②がされたことにより、平穏な法律生活を享受する法的利益を違法に侵害された。
⇒
慰謝料30万円と弁護士費用5万円の合計35万円及び遅延損害金の限度で請求を認容。
判例時報2381
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