市と企業との間の土地の無償提供を内容とする契約での土地の返還義務が問題となった事案
名古屋地裁H30.2.8
<事案>
愛知県豊橋市の住民であるXらが、Z(Y補助参加人)は、豊橋市との間で締結されていた、豊橋市が10筆の工場用地をZに無償提供することなどが定められた契約(「本件契約」)上、
本件各土地のうち既に豊橋市に売却済みの二筆を除くもの(「本件売却土地」)を豊橋市に返還すべき債務を負っていたにもかかわらず、Z等においてこれらの土地をA株式会社に売却した上、所有権移転登記をしたことで、前記返還債務を履行不能とした
⇒
これはZによる債務不履行又は不法行為に当たるところ、Y(執行機関(豊橋市長))はZに対する損害賠償請求権の行使を違法に怠っている
⇒
地自法242条の2第1項4号に基づき、Yに対し、Zに対して損害賠償金63億円(本件売却土地の売却代金相当額)及びこれに対する遅延損害金の支払を請求することを求めた住民訴訟。
<争点>
Z等がA社に対して本件売却土地を売却した時点で、Zに、本件売却土地を豊橋市に返還する義務があったか否か。
具体的には、
昭和26年、豊橋市が本件各土地をZに、豊橋事業所の工場用地として無償提供した際に締結された本件契約にいて、Zが本件各土地のうちで「使用する計画を放棄した部分」は豊橋市に返還すると定められていた(「本件条項」)ところ、平成27年頃にZが豊橋事業所を全面閉鎖することに伴い本件売却土地の全部を使用しなくなった際に、Zが本件条項に基づく返還義務を負うか否か。
<判断>
①全部の使用計画を放棄した場合でも、放棄に係る「部分」が全部を意味するという解釈が可能⇒文理上、その場合も本件条項から排除されない。
②工場用地としての使用が前提となって無償提供されていた土地の一部の使用計画を放棄した場合に返還義務があるのに、全部の使用計画を放棄した場合には、返還せず第三者に転売して利益を得てよいちう帰結は、均衡を失する上に契約当事者の合理的意思にも反する
⇒
本件条項に基づく返還義務を肯定した上で、Zが当該義務を履行不能とさせたことに関し、Yに、不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実がある。
<解説>
本件においては、債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実についても選択的に主張。
Zと豊橋市との間に契約関係があった⇒債務不履行の構成で認容する余地も考えられた。
but
債務不履行構成⇒遅延損害金の起算点が損害賠償請求時となり(民法412条3項)、住民訴訟である本件において請求時をいつと捉えるべきかはともかく、少なくとも不法行為構成の方が、起算点に関してX側に有利になる。
判例時報2381
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