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2018年11月

2018年11月29日 (木)

被爆者援護法同法27条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権の一身専属性(否定)

最高裁H29.12.18      
 
<事案>
長崎市に投下された原子爆弾に被爆したと主張する者が、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律に基づき被爆者健康手帳の交付及び健康管理手当の認定の各申請⇒長崎市長又は長崎県知事からこれらを却下する旨の処分⇒本件申請者らは同法1条3号所定の被爆者の要件を満たすなどと主張して、本件各処分を取消し、被爆者健康手帳の交付の義務付け等を求めた事案。 
 
<争点>
①本件各処分の取消しを求める訴訟及び同取消しに加えて被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める訴訟について、訴訟の係属中に申請者が死亡した場合に、相続人がこれを承継することができるか
②本件申請者らが、被爆者援護法1条3号所定の被爆者の要件(原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者)を満たすか
 
<一審・原審>
被爆者援護法による援護を受ける地位は同法による被爆者の一身に専属するもの⇒相続人らが相続によってこれを承継することはできない⇒死亡した者を原告とするものについては訴訟終了宣言をすべき。

生存している者に係る保険各処分の取消請求に対する判断において、
①科学的知見によれば、長崎原爆が投下された際に爆心地から約5kmまでの範囲内の地域に存在しなかった者は、その際に一定の場所に存在したことにより直ちに原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったということはできない上、
②本件申請者らに長崎原爆の投下後、原爆の放射線による急性症状があったと推認することはできない
⇒その主張には理由がない、
 
<判断>
訴訟承継をいずれも肯定
被爆者援護法1条3号該当性については、本件申請者らに同号該当性が認められないとした原審の判断を是認

(1)本件各処分の取消の訴えに関して、
①原審において訴訟終了宣言がされた者⇒不利益変更禁止の原則により、上告を棄却
②一審が訴訟終了宣言をし、原審において控訴を棄却された者⇒原審の判断を結論において是認できるとして、上告を棄却し、

(2)被爆者健康手帳の交付の義務付けの訴えに関して、
一審が本件各交付申請却下処分は取り消されるべきであるとは認められず、訴訟要件を各としてとうがい訴えを却下

①原審において一審と同じ理由で控訴が棄却された者(本件申請者らのうち生存している者)について、所論に理由がない⇒上告棄却
②原審が訴訟終了宣言をした者(当該訴えを提起していた本件申請者らの相続人ら)⇒原判決を破棄した上、前記の一審判決は相当であるとして、控訴棄却の自判。
 
<解説>
①被爆者援護法の法的性格
②健康管理手当を給付する目的
③同手当の給付に関する同法の規定振り等

同法27条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権は当該申請をした者の一身に専属する権利ということができず、相続の対象となるとして、訴訟承継が成立。 

①被爆者援護法が、いわゆる社会保障法としての他の公的医療給付立法と動揺の性格を持つものである一方で、実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあるとされている(最高裁昭和53.3.30)⇒被爆者援護法の目的が単なる生活困窮者への公的扶助とは異なる点にある
②同法に基づく健康管理手当が、同法所定の障害に苦しみ、不安の中で生活している被爆者に対して毎月定額の手当てを支給することにより、その健康及び福祉に寄与することを目的として給付されるもの
③健康管理手当に係る受給権が、同法27条所定の認定申請を含む所定の各要件を満たすことによって得られる具体的給付を求める権利として規定されている

同条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権は、相続の対象となるものと判断。

判例時報2382

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2018年11月28日 (水)

過重労働の立証の事例

大阪地裁H30.3.1      
 
<事案>
Xの息子であるAは、Y1において調理師として勤務
Y1のc店で平成20年5月から同年8月まで店長として勤務し、同月にb店へ異動した後、同年9月にうつ病を発症して同年12月に休職し、平成21年4月に自殺。 
Xは、Yらが、Aを長時間労働等に従事させたことはAに対する安全配慮義務等に違反し、Aをうつ病にり患させて自殺に至らしめた
⇒Y1及び出向先であるY2に対しては雇用契約上の安全配慮義務違反に基づき、Y3、Y4及びY5に対してはY1又はY2の代表取締役又は取締役としての善管注意義務違反に基づき、損害賠償金の支払を求めた。
 
Y:Aが過重な労働に従事した事実はなく、Aの自殺の原因はアルコール依存による脆弱性や失恋であるなどとして争った。 

Xは、本件に関し、国に対し労災認定を求める訴訟を提起
同訴訟は大阪地裁及び大阪高裁において請求を棄却する旨の判決
 
<判断> 
●Aの勤務時間等についてタイムカード等の客観的記録なし。
Aが受診していた医師の診療録に、Aが3か月間休みなく働いた旨の記載
Y3、Y4及びY5が、Aの親族によるAが3か月間休みなく働いた旨の発言を否定しなかった
Aの同僚であるBらが、Aから3か月間休みがない旨聞いていた旨発言
Aのc店での同僚Cが、Aが3か月間休んでいなかった旨発言

その内容が一致することや利害関係がない医師や虚偽を述べる動機がない者の発言

これらの信用性を否定し、又はこれらと矛盾する有力な証拠がない限り、Aが3か月間休みなく働いた旨の事実を認めるに足りる証拠。

Yらが提出した勤務シフト表や勤務時間表
ほとんどの部分で客観的な裏付けがなく、信用することができない
⇒その一部を除いて退けた。

Aが休みを取っていた旨のB及びCを含む同僚らの労基署に対する証言

Aが休みを取っていいなかった旨発言していたB及びCが証言を変遷させた理由について合理的説明がない
口裏合わせがあった可能性が否定できない
⇒排斥。
Aが82日間にわたり連続して勤務したと認定
 
●Aの勤務時間について、
Aと交代で業務に就くことになっていたCの勤務開始時間等を基に認定。
休憩時間については 口裏合わせをした可能性のある同僚の証言は信用できない
⇒Cの④の際での発言や、Yらに有利な証言をしていない同僚の発言を基に認定。
 
●労災の業務起因性の基準を参考に、
①Aが、82日間の連続勤務をしたこと
②3か月間連続で100時間以上の時間外労働の従事したこと

他にうつ病を発症する原因がうかがわれなければ、過重労働によりうつ病を発症し、自殺するに至ったと認められる。 

Yらが自殺の原因として主張する失恋やアルコール依存による脆弱性は認めるに足りる証拠がないとして排斥。
⇒Aのc店における業務と自殺との間の相当因果関係を肯定。


Aを雇用していたY1並びにその役員であるY3及びY5は、Aが健康を損なうことのないように労働時間の管理等を行う安全配慮義務に違反
⇒Aの自殺についての責任を認め、Xの請求の一部を認容。 
   
<解説>
労働時価についてタイムカード等の客観的な記録による管理がされていなかった場合、労働時間を管理する義務を負う使用者労働時間についての積極否認や反証を行うことが求められる
but
立証責任は一般に労働者側に課せられる
⇒労働者側は厳しい状況に置かれることになる。

本件は、Aが受診した医師、Aの同僚及び役員の発言等を踏まえ、Aの休日の有無、勤務時間及び休憩時間を認定し、使用者側であるYらの提出した証拠の信用性を排斥

判例時報2382

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2018年11月27日 (火)

特許法74条1項に基づく移転登録請求と主張立証責任

大阪地裁H29.11.9      
 
<事案> 
Xが、Yに対し、Yの所有に係る特許権はYの冒認出願により設定登録されたなどとして、特許法74条1項に基づき、本件特許権について移転登録手続をすることなどを求める事案。 
 
Xの主張: 特許権移転登録請求における主張立証責任について、
Xが請求原因として自らの発明と本件特許権に係る発明の同一性を主張立証する必要があるが、XがYに対して自らの発明を開示し、Yがそれを本件特許発明二利用したことまで主張立証する必要はない。
 
<規定>
特許法 第74条(特許権の移転の特例)
特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
 
<判断>
特許法74条1項の特許権の移転請求制度は、真の発明者又は共同発明者がした発明について、他人が冒認又は共同出願違反により特許出願して特許権を取得した場合に、当該特許権又はその持分権を真の発明者又は共同発明者に取り戻させる趣旨によるもの。

同項に基づく移転登録請求をする者は、相手方の特許権に係る特許発明について、自己が真の発明者又は共同発明者であることを主張立証する責任がある。

異なる者が独立に同一内容の発明をした場合には、それぞれの者が、それぞれがした発明について特許を受ける権利を個別に有することとなる。

相手方の特許権に係る特許発明について、自己が真の発明者又は共同発明者であることを主張立証するためには、単に自己が当該特許発明と同一内容の発明をしたことを主張立証するだけでは足りず、
当該特許発明は自己が単独または共同で発明したもので、相手方が発明したものでないことを主張立証する必要があり、
これを裏返せば、相手方の当該特許発明に係る特許出願は自己のした発明に基づいてされたものであることを主張立証する必要があると解するのが相当。

このように解することは、
特許法74条1項が、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者であることと並んで、特許が123条1項2号に規定する要件に違反するときのうちその特許が38条の規定に違反してされたこと(すなわち、特許を受ける権利が共有に係るときの共同出願違反)又は同項6号に規定する要件に該当するとき(すなわち、その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたこと)を積極的要件として定める法文の体裁にも沿う。
 
<解説>
●特許権移転登録請求制度 
いわゆる冒認出願については、
真の権利者が自ら特許出願した後に、偽造された譲渡証に基づいて出願人名義が変更された事案において、特許権の移転登録請求を認めた最高裁判決(最高裁H13.6.12)があるが、
真の権利者が自ら特許出願していなかったことなどを理由として特許権の移転登録請求を認めなかった下級審判決もある。

平成23年の特許法改正:
真の権利者が自ら出願していたか否かにかかわらず、真の権利者が、冒認出願等に基づく特許権の特許権者に対して、その特許権の移転登録を請求することができる特許権移転登録請求制度が導入
 
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2018年11月26日 (月)

ツイッターでの著作権侵害と発信者情報開示請求

知財高裁H30.4.25      
 
<事案>
Xが、ツイッターにおいて、Xの著作物である本件写真が、
1⃣氏名不詳者により無断でアカウントのプロフィール画像として用いられ、その後当該アカウントのタイムライン及びツイートにも表示されたこと、
2⃣氏名不詳者により無断で画像付きツイートの一部として用いられ、当該氏名不詳者のアカウントのタイムラインにも表示されたこと、
3⃣氏名不詳者らにより無断で前記②のツイートのリツイートがされ、当該氏名不詳者らのアカウントのタイムラインに表示されたこと
により、Xの写真についての著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)、公衆伝達権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権、名声声望保持権)が侵害された

「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(「プロバイダ責任制限法」)4条1項に基づき、
前記1⃣~3⃣のそれぞれについて、Y1(ツイッターインク)、Y2(Twitter Japan ㈱)に対し、発信者情報の開示を求めた。 
 
<原審> 
Y1に対する請求を、1⃣2⃣の各アカウントのメールアドレスの開示を求める限度で認容、
Y1に対するその余の請求及び
Y2に対する請求を
いずれも棄却。 
 
<判断>
●Y2について
Y2は、ツイッターを運営する者ではなく、ツイッターの利用についてユーザーと契約を締結する当事者でもない
本件証拠上、Y2が発信者情報を開示する権限を有しているとは認められない
⇒Y2に対する請求は理由なし。
 
●本件におけるリツイートがXの著作権を侵害したか 
①Xが著作権を有しているのは、本件写真であるところ、本件写真のデータは、リンク先のサーバーにしかない⇒送信されている著作物のデータは、そのサーバーのデータのみ
②公衆送信は「公衆によって直接受信されることを目的として送信を行うこと」
公衆送信権侵害との関係では、リンク先のデータのみが「侵害情報」というべき
③自動公衆送信の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ、情報を自動的に送信できる状態をつくり出す行為を行う者と解される(最高裁H23.1.18)ところ、本件写真のデータは、リンク先のデータのみが送信されている⇒その自動公衆送信の主体は、リンク先のURLの開設者であって、リツイート者らではない

その侵害を否定し、幇助者にも当たらない。
複製権侵害、公衆伝達侵害についても否定。
 
●本件におけるリツイートがXの著作者人格権を侵害したか? 
同一性保持権につき
①本件においてリツイートによって表示される画像は、リンク元に保存されている画像とは異なるものであり、表示するに際して、リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムやCSSプログラム等により、一や大きさなどが指定されたために、画像が異なっている
②表示される画像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるところ、表示するに際して、HTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどを指定されたため、表示されている画像は前記のような画像となった

リツイートによって改変されたもので、同一性保持権が侵害されている

氏名表示権について
リツイートによって表示されている画像には、Xの氏名は表示されていないところ、表示するに際してHTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどが指定されたために、前記のような画像となり、Xの氏名が表示されなくなった⇒その侵害を認めた

名誉声望保持権の侵害は否定。
 
●Xが開示を求める最新のログイン時IPアドレス及びタイムスタンプは、本件において侵害情報が発信された各行為と無関係であり、
「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令」4号の「侵害情報に係るIPアドレス」及び7号の「侵害情報が送信された年月日及時刻」のいずれにも当たらない。 
1⃣~3⃣についてメールアドレスの開示請求を認めた
 
<解説>
●ハイパーリンク⇒リンク元のウェブページには、リンク先のURLが表示されるだけ。
インラインリンク⇒リンク先のウェブサイトの画像がリンク元のウェブページに自動的に表示される⇒閲覧者はリンク先のウェブサイトの画像を目にすることになる。 
本件においては、インラインリンクについての著作権及び著作者人格権の侵害が問題となった
リンク先のウェブサイトの画像のデータは、リンク先のサーバーから直接送信される⇒リンクを張ることが、ハイパーリンク、インラインリンクともに、著作権(送信可能化権を含む公衆送信権、複製権)の侵害とはならないとする説が多い。
but
インラインリンクについては、著作者人格権の侵害となることがあるとされる。

●ゲームソフトの影像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして最高裁H13.2.13 

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2018年11月23日 (金)

嫡出否認の訴えの提起を子の父のみに認める民法の規定の違憲性及び立法不作為の違法性(否定)

神戸地裁H29.11.29      
 
<事案>
X4は婚姻関係継続中に懐妊⇒嫡出推定⇒不受理⇒X1は無戸籍となった。 

嫡出否認の訴えの提起を子の父(子の母の夫)のみに認める民法774条ないし776条の「本件各規定」は、合理的な理由なく、父と子、夫と妻の間で差別的な取扱いをしており、社会的身分による差別を禁止する憲法14条1項に該当し、同項及び憲法24条2項に違反⇒国会は本件各規定の改正を怠っており、その「立法不作為」は国賠法上違法⇒Y(国)に対し、同法1条に基づき、国賠請求。
 
<争点>
本件各規定の憲法14条1項ないし24条2項適合性の有無とその適合性が否定された場合の立法不作為の違法性。 
 
<規定>
憲法 第14条〔法の下の平等、貴族制度の否認、栄典の限界〕
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

憲法 第24条〔家族生活における個人の尊厳と両性の平等〕
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
 
<判断>
●本件各規定の憲法14条1項適合性 
本件各規定は、父と子及び夫と妻との間において、嫡出否認権の行使について区別をしているということができる。

最高裁H27.12.16を参照し
「立法府に与えられた・・・裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は合理的な理由のない差別として、憲法14条1項に違反すると解される」

民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには、夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる。

最高裁H26.7.17を引用し、
「本件各規定は、憲法14条1項に違反しない」
 
●憲法24条2項適合性
同項の趣旨を踏まえ、
妻や子について、その嫡出否認に係る利益を考慮しても、夫と同様に嫡出否認権を認めることには必ずしも合理性があるということはできない⇒本件各規定について、憲法24条2項の観点からも合理性を欠くということはできず、同条に違反しない。
 
<解説>
民法733条1項の規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分は、平成20年当時において、憲法14条1項、24条2項に違反するに至っていた。
(最高裁H27.12.16)

民法900条4号ただし書前段の規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた。
(最高裁H25.9.4)

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2018年11月22日 (木)

保険会社が代位取得した損害賠償請求権を行使する場合に弁護士費用を請求できるか?(否定)

名古屋高裁H29.10.13      
 
<事案>
上下区分のない幅4.2メートルの道路において、X1~X3が乗車するX1運転自動車と、対抗して進行してきたA運転自動車が衝突し、X1~X3が負傷したとする交通事故の事案。
A運転自動車の保有者であるYに対し、X1~X3が、自賠法3条に基づく損害賠償を請求し、保険会社であるX4が、X1の損害賠償請求権を代位取得したとして保険法25条に基づく請求をした。 
 
<争点>
①事故態様
②過失相殺
③損害
④X4による代位取得の成否 
 
<原審>
・・・X4が保険契約に基づきX1に損害の填補として支払った金額から自動車損害賠償責任保険支払分を控除した額及び弁護士費用について代位取得を認め、X1~X4の請求を一部認容。 
 
<判断>
X4による代位取得の成否においては、原判決認定の弁護士費用を認めなかった。
 
<解説>
●保険会社が損害賠償請求権を代位取得して請求する場合に弁護士費用が認められるか?

最高裁:
弁護士費用について、
事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、不法行為と相当因果関係に立つ損害をいうべきであるとし(最高裁昭和44.2.27)、
使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償についても、不法行為に基づく請求との比較から認めている(最高裁H24.2.24)。

債務不履行は直ちに不法行為を構成するものではなく、とりわけ金銭債務の履行遅滞については、民法419条2項の条文上の制約からも弁護士費用の請求はできないのが本来。(最高裁昭和48.10.11)

原則として否定的に解される。

本判決:
①X4の請求は、本件代位により取得した損害賠償請求権に基づく求償金請求これに要する弁護士費用が当然に賠償の対象となるものではない
②X4が、弁護士費用が賠償の対象となる旨の具体的な主張・立証をせず、他に、これを認めるべき事情もうかがわれない。

X4の弁護士費用を否定

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2018年11月20日 (火)

相続財産の時効取得で占有が問題となった事案

大阪高裁H29.12.21      
 
<事案>
被相続人Pの相続人の1人であるXが、相続財産である本件土地につき、
①主位的に、本件遺産分割協議が成立した時から
②予備的に、本件土地上に自己所有の賃貸物件である本件建物を建築した時から
いずれも20年間自主占有したので時効取得
⇒他の共同相続人らに対し、所有権に基づく妨害排除請求権により、所有権移転登記手続を求めた。 
 
<原審>
本件遺産分割協議の成立を認めず、主位的請求を棄却。
予備的請求を認容。
 
<判断>
共同相続人の1人であるXの本件土地占有は他主占有にとどまる。
①遺産分割協議の成立が認められない
②Xが本件土地を単独で相続したと信じて疑わなかったとは認められない
③共有者の1人であるXが共有土地である本件土地を独占的に占有したからといって、それだけで、当然に自主占有になるものではなく、単独所有になったと信じて占有を始めたなどの自主占有事情が基礎付けられるものではない

取得時効の成立を否定し、原判決を取り消し、Xの請求を棄却。
 
<規定>
民法 第185条(占有の性質の変更)
権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
 
<解説>
占有による所有の意思の有無:
占有取得の原因たる事実によって外形的客観的に定められるべき。(最高裁昭和45.6.18) 

共同相続人の1人が単独で相続財産全部を現実に占有:
他の共同相続人の持分については、権限の性質上客観的に所有の意思がない⇒占有者に単独所有者としての所有の意思はなく、一般的に他主占有と解されている

他主占有から自主占有に占有の性質を変更させるためには、民法185条の要件、
①「自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示」したことか、
②「新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始め」たこと
が必要。

●共同相続人の1人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人が何ら関心を持たず、異議も述べなかった等の事情の下に、前記相続人にがその相続の時から相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したと判示した最高裁昭和47.9.8.

原審:本件建物建築時からの占有につき、同最高裁に依拠し、取得時効の成立を認めた。
vs.
本件は、遺産分割協議の成否が問題となったとおり、Xは、共同相続人の1人として共同相続した(他主占有)⇒自己が単独で相続したものと誤信した上で相続開始とともに現実に占有を開始したとはいえない

●Xの相続に始まる本件土地占有とは別に本件建物建築により新たに本件土地の占有を開始した旨の主張
vs.
①時効の起算点を任意に選択できるかという問題
②本件は、本件建物建築による本件土地占有によって新たに独自の所有の意思に基づく占有があったと認めるには困難な事例

判例時報2381

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2018年11月19日 (月)

市と企業との間の土地の無償提供を内容とする契約での土地の返還義務が問題となった事案

名古屋地裁H30.2.8      
 
<事案>
愛知県豊橋市の住民であるXらが、Z(Y補助参加人)は、豊橋市との間で締結されていた、豊橋市が10筆の工場用地をZに無償提供することなどが定められた契約(「本件契約」)上、
本件各土地のうち既に豊橋市に売却済みの二筆を除くもの(「本件売却土地」)を豊橋市に返還すべき債務を負っていたにもかかわらず、Z等においてこれらの土地をA株式会社に売却した上、所有権移転登記をしたことで、前記返還債務を履行不能とした

これはZによる債務不履行又は不法行為に当たるところ、Y(執行機関(豊橋市長))はZに対する損害賠償請求権の行使を違法に怠っている

地自法242条の2第1項4号に基づき、Yに対し、Zに対して損害賠償金63億円(本件売却土地の売却代金相当額)及びこれに対する遅延損害金の支払を請求することを求めた住民訴訟。
 
<争点>
Z等がA社に対して本件売却土地を売却した時点で、Zに、本件売却土地を豊橋市に返還する義務があったか否か。

具体的には、
昭和26年、豊橋市が本件各土地をZに、豊橋事業所の工場用地として無償提供した際に締結された本件契約にいて、Zが本件各土地のうちで「使用する計画を放棄した部分」は豊橋市に返還すると定められていた(「本件条項」)ところ、平成27年頃にZが豊橋事業所を全面閉鎖することに伴い本件売却土地の全部を使用しなくなった際に、Zが本件条項に基づく返還義務を負うか否か。
 
<判断>
①全部の使用計画を放棄した場合でも、放棄に係る「部分」が全部を意味するという解釈が可能⇒文理上、その場合も本件条項から排除されない。
②工場用地としての使用が前提となって無償提供されていた土地の一部の使用計画を放棄した場合に返還義務があるのに、全部の使用計画を放棄した場合には、返還せず第三者に転売して利益を得てよいちう帰結は、均衡を失する上に契約当事者の合理的意思にも反する

本件条項に基づく返還義務を肯定した上で、Zが当該義務を履行不能とさせたことに関し、Yに、不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実がある。
 
<解説>
本件においては、債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実についても選択的に主張。
Zと豊橋市との間に契約関係があった⇒債務不履行の構成で認容する余地も考えられた。
but
債務不履行構成⇒遅延損害金の起算点が損害賠償請求時となり(民法412条3項)、住民訴訟である本件において請求時をいつと捉えるべきかはともかく、少なくとも不法行為構成の方が、起算点に関してX側に有利になる。 

判例時報2381

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2018年11月18日 (日)

政務活動費等の違法な支出についての住民訴訟

神戸地裁H29.4.25      
 
<事案>
兵庫県の住民であるXらが、県議会議員であったZ1~Z7が平成23年度から平成25年度までに県から交付を受けた政務調査費又は政務活動費を違法に支出⇒県に対してその支出額に相当する金額の損害賠償又は不当利得返還の義務を負うにもかかわらず、県の執行機関であるY(兵庫県議会事務局長)がその行使を怠っている⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、Yに対しZらに前記支出額に相当する金員及び遅延損害金の支払を請求するよう求める住民訴訟
(ZらはYに補助参加) 
 
<判断>
●法令等の規定を指摘した上で、
県における政務活動費等は、前記各条例及び規程が定める使途にのみ使用されることが前提とされている。

政務活動費等の交付を受けた議員が、これを前記各使途の基準に適合しない使途に充てた場合は、県に対し、これに相当する額の不当利得返還の義務を負う

前記条例等が定める基準に適合しない使途に充てたことにつき故意又は過失ある場合は、県に対しこれに相当する額の損害賠償の義務を負う。

兵庫県議会議長が作成している、政務活動費等に係る請求、交付、使途規準、収支報告書の提出などの一連の手続を勧める際のマニュアルである手引は、交付された政務活動費等が使途規準に適合する使途に充てられることを確保するとともに、その使途の透明性を確保することをその趣旨とするものであり、
その内容も合理的
⇒政務活動費等の使途の使途規準適合性を判断するに当たって、手引を斟酌すべき。

●政務活動費等の交付を受けた議員に対して損害賠償又は不当利得返還の請求をするよう求める住民訴訟において、政務活動費等が使途規準に適合しない使途に充てられたこと及び議員の故意・過失は、住民においてこれを主張立証しなければならない
but
住民において、収支報告書(政務活動費等の支出の内容を概括的に知ることができる。)の記載に基づくなどして、政務活動費等の支出が使途基準に適合しないことを推認させる一般的、外形的な事実を主張立証した場合、当該支出が使途規準に適合しないこと及びこの点につき当該議員に少なくとも過失があることが事実上推認される。

この場合は、当該支出が使途基準に適合することを主張する県又は議員(支出の具体的使途を最もよく知る者)において前記推認を覆すに足る立証をしない限り、使途基準に適合しない使途に充てられたこと及び議員の過失が認められる。 

手引に沿わない政務活動費等の支出については、使途基準に適合しないことが事実上推認される。

●前記の判断の枠組みに基づいて、本件で問題とされた政務活動費等の支出について個別に検討を加えた。 
Xらの主張にかかる支出のうち
人件費としての支出のうち手引において作成することとされている雇用契約書や政務活動業務実績表等が作成されていない支出
②当該年度に使用しなかった切手や大量に購入された切手の購入費
勤務表の記載に不自然な点がある人件費
知人の会社に委託した県政報告書等の印刷代のうち同会社から実際に下請業者に支払われた部分を除く金額
⑤政務活動等に使用したとする合理的根拠を認め難い車両のリース代
⑥政務活動等に使用していたとは考え難い事務機器等の利用料等
について、
使途基準に適合しない支出であり、県に対して損害賠償又は不当利得返還の義務を負う

●当該年度に使用しなかった切手の購入費について、
①兵庫県においては、政務活動費等は年度単位で交付され、交付を受けた金額から必要な経費に充てるべき金額を控除して残余がある場合には当該残余額に相当する額を返還しなければならないものとされている
②郵便切手は、それが議員の行う政務活動等のために使用されることによって初めて政務活動に要する経費に充てられたと確定的に評価し得るもの

当該年度に使用しなかった切手については、当該年度の政務活動費等を切手の購入に要した費用に充てることはできない。

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2018年11月17日 (土)

給与条例の改正による給与の減額に関しての措置要求の事案

神戸地裁H29.11.29      
 
<事案>
Y(兵庫県三木市)の職員であるXら(一般職に属する地方公務員)が、処分行政庁(三木市公平委員会)に対し、地公法46条に基づく措置の要求⇒却下する判定⇒処分行政庁の所属するYに対しその取消しを求めた。 

Xらがした措置の要求は、Yにおいて一般職の職員の給与に関する条例が改正され、行政職給料表の職務の級及び号給が切り替えられたことを受けて行われたもので、職務の級及び号級の切替えにより大幅減額となった給与につき、現給保障又は激変緩和措置を講じること

行政処分庁:
①本件措置要求を実現するためには給与条例を改正する必要がある
②公平委員会には市議会が条例の制定機関として有する自治立法権に介入する権限はない
③給与に関する条例改正の提案は管理運営事項(地公法55条3項)に該当し、措置要求の対象とならない
④公平委員会には給与勧告の権限は与えられていない
⇒本件措置要求を却下する判定 
 
<規定>
地公法 第46条(勤務条件に関する措置の要求)
職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる
 
<争点>
本件措置要求の求める措置が地公法46条に基づく措置要求の対象となる事項に該当しないとした本件判定における判断の適法性。 
 
<判断>
措置要求の対象となる要件として、
①給与、勤務時間その他の勤務条件に関するものであること(要件①)
②それについて人事委員会、公平委員会又は地方公共団体の他の機関(当局)が一定の措置をとる権限を有すること(要件②)
を掲げたうえで、

要件②について、
条例の制定改廃そのものを求める措置要求は要件②を満たさず不適法
but
長が条例の制定改廃の議案を議会に提出することを求める措置要求は、公平委員会に権限がないから、あるいは管理運営事項だからという理由で一律に要件②の充足が否定されることはないが、
個別の事案においてその事情の下で否定されることはあり得る。

本件措置要求は給与に関するもの⇒要件①を満たす。

本件措置要求が求めているのは、条例の制定改廃そのものではなく、市長に対し給与条例の改正案を議会に提出するよう勧告することであると理解できる⇒市長の権限に属する事項
給与条例の内容に変更を加えることや号給の切替に変更を加えることに法律上の支障があるとは認められない。
⇒要件②も満たす。
⇒本件判定は違法。

要求書の記載からは本件措置要求の内容が必ずしも明確でなかったことについて:
①Yの定めた勤務条件に関する措置の要求に関する規則によれば、要求すべき措置は要求書の必要的記載事項
②要求書の提出を受けた処分行政庁はその記載内容について調査する義務を負う

要求書に記載された要求すべき措置が具体的に何を意味するのかを読み取ることができない場合には、処分行政庁は調査の一環として要求書を提出した職員にその補正をさせるべき。
このような場合に補正を求めることなく当該措置要求を却下することは、調査義務を怠るものとして違法。
 
<解説>
いわゆる管理運営事項については、団体交渉の対象から除外されている⇒措置要求の対象とならないという解釈が実務上は有力。
but
法律上これを明確に定めるところがなく管理運営事項の概念自体も明らかでない⇒勤務条件にあたるにもかかわらず、管理運営事項であるという理由で措置要求を排斥することはできないとの見解もある。 

判例時報2381

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2018年11月15日 (木)

前訴確定判決の認定に反する事実を前提とする再度の退職手当支給制限処分の事案

大阪高裁H29.7.20      
 
<事案>
市教育委員会は、X(市立中学の教頭)が酒気を帯びたAに対して最寄り駅まで自動車で送ることを依頼した事実(「運転事実」)を前提として、地公法29条1項1号、3号に基づいき懲戒免職処分及び公立学校職員等の退職手当に関する条例13条1項に基づき退職手当等の全額を不支給とする退職手当支給制限処分(「本件制限処分①」)

Xは、処分行政庁の所属するY(神戸市)を被告として両処分の取消しを求めて訴えを提起⇒本件免職処分の取消請求を棄却し、本件制限処分①の取消請求を認容する判決が確定

処分行政庁は、前訴確定判決の判決結果を受けて、改めて退職手当等の8割相当額を支給しないこととする退職手当支給制限処分(「本件制限処分②」)

Xが、処分行政庁の所属するYに対し、本件制限処分②の取消しを請求するとともに(B事件)、同処分により精神的苦痛を受けたとして国賠法1条1項に基づきYに対し200万円(慰謝料200万円、弁護士費用20万円の合計220万円の一部)の損害賠償及びこれに対する本件制限処分②がされた日から支払済みまでの遅延損害金を請求(A事件)。
 
<争点>
①本件制限処分②が前訴確定判決の認定事実の拘束力に違反するか
② 本件制限処分②に裁量権の逸脱・濫用があるか
③損害の有無及び額
 
<規定>
行訴法 第33条
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
 
<判断>
●争点① 
取消判決が確定した場合は、処分行政庁は、同一の事情の下で同一の理由により同一内容の処分を繰り返すことができない。(行訴法33条1項)

最高裁H4.4.28:
この拘束力が、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断について生じる。

「判決主文が導き出されるのに必要な事実」は要件事実を意味する。
but
退職手当支給制限処分は、多様な事情が考慮されるところ、
本判決は、運転依頼の有無は、判決主文が導きだされるのに必要な事実であると判断

①運手依頼の有無がXの非違行為の悪質性を定める上で重要な事実となり、②前訴においても争点とされ、③前訴確定判決で本件支給制限処分①が違法な処分であることの主要な根拠の1つとされていた。
 
●争点② 
本件制限処分②は、Xが、飲酒しているAに運転依頼をしたという前訴確定判決の拘束力に違反する事実を考慮してされたものであり、当該事実の考慮が処分行政庁の裁量判断に影響を及ぼすることが明らか
⇒違法な処分
 
●争点③ 
①本件制限処分②は、基本的な法律の適用を誤るもの
②Xは、本件制限処分②の取消しを求めて、訴訟の提起を余儀なくされる
③裁判所が本件制限処分②を取り消したとしても、Xは、更に3度目の退職手当支給制限処分がされる可能性のある不安定な法的地位に置かれ続ける

Xは、違法な本件制限処分②がされたことにより、平穏な法律生活を享受する法的利益を違法に侵害された。

慰謝料30万円と弁護士費用5万円の合計35万円及び遅延損害金の限度で請求を認容

判例時報2381

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2018年11月14日 (水)

恵庭OL殺人事件第二次再審第一審決定

札幌地裁H30.3.20      
 
<事案>
著名再審請求事件の1つである恵庭OL殺人事件の第二次再審請求に対する地裁の棄却決定。 
弁護人が提出した科学的証拠を中心とする新証拠が、いずれも確定判決の根拠となった間接事実等の認定や評価に影響を及ぼすものではない⇒新旧全証拠の総合評価段階に至ることなく、請求を退けた
 
<判断等>
●確定判決等が請求人を犯人と認定した判断構造 
本件の犯人として想定可能な人物を絞り込んでいく間接事実が少なからず存在し、これらを総合的に検討して、犯人を請求人と推認、特定。
その旨の推認を妨げる事情の有無等を弁護人の主張等に即する形で検討してこれを否定、排斥。
⇒有罪の判断。
 
●弁護人の主張 
①法医学の専門家の意見書等
⇒被害者の死因は頚部圧迫による窒息とはいえず、確定判決等が依拠した司法解剖医作成の鑑定書が、死因をそのようにいうのは根拠不十分。
被害者は、性犯罪の被害にあって薬物投与により急死した疑い⇒そのような薬物を所持していなかった請求人は犯人ではない。

②燃焼学者等の専門家らの意見書等
⇒被害者の死体は、まずうつ伏せの状態で燃焼され、しばらく後に仰向けに反転させられ、再び燃料を掛けられて燃損されたと認められるが、そうであれば、請求人にはアリバイが成立する。

③確定判決控訴審判決では、灯油10リットルを掛ければ被害者の死体のように相当部分が炭化状態となるまで燃焼することが不可能とはいえないと判断。
but
燃焼学の専門家の意見書等⇒灯油10リットルを掛けて燃焼しても、被害者の死体のように体重が9キロも減少することはなく、第一次再審請求審における即時抗告棄却決定が指摘するように、灯油の燃焼終了後脂肪が独立燃焼を継続することもない。
⇒灯油10リットル以外に燃料を所持していなかった請求人は犯人ではない。
 
●判断
弁護人提出証拠の証拠価値を否定し、ひいては、いずれも刑訴法435条6号にいう明白性を否定。
①・・・・頸部圧迫による窒息の所見が少なからず認められる⇒死因をそのように認定した確定判決等の判断は左右されない
当時科捜研において所要の薬物検査が実施され、被害者の死体からは薬毒物が検出されなかった⇒薬物を使用した性犯罪に伴う急死等の可能性は除外される。

②死体の焼損状況⇒当初から仰向けの状態で焼損されたものとみても説明がつく
まずうつ伏せの状態で焼損され、次いで仰向けの状態にされて焼損されたとすると、臀部など焼損を免れた部位や現場の痕跡など客観的状況の説明がつかない。

燃焼学の専門家等の意見書等は、被害者の死体に掛けられた灯油の燃焼の仕方、死体への熱の伝わり方、燃焼した灯油の分量といった燃焼の条件が実際より過度に単純化され、過小なものとなっている
 
<規定> 
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<解説> 
刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(明白性)とは、
確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせるものであり、
その判断方法としては、新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたら、その確定判決においてなされたような事実認定に到達したかどうかという観点から、新旧証拠を総合的に評価して行うべきものとされている(総合評価説)。

この総合評価:
一般論として、
確定判決が有罪認定の根拠とした旧証拠の構造等を分析した上、新証拠の立証命題や旧証拠の構造の中での位置付けを踏まえ、新証拠がいかなる旧証拠にいかなる影響を及ぼすのかを、そのために必要な範囲の旧証拠に分析を加えながら検討

新証拠が旧証拠に与える影響の度合いを検討するには、その前提として、新証拠それ自体に十分な証拠価値のあることが前提
but
本決定は、弁護人提出証拠の証拠価値をいずれも否定
⇒新証拠への影響の度合いを論じる前提を欠いている。

判例時報2280

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2018年11月13日 (火)

出産のため休業中の女性労働者が、退職扱いされた事案。

東京地裁H29.12.22      
 
<事案>
出産のための休業中であった女性労働者Xが、使用者Yから退職扱いされて育児休業の取得を妨げられた
労働契約又は不法行為に基づき労働契約上の権利を有する地位の確認及び毎月の賃金(一部の機関につき予備的に雇用保険法61条の4所定の育児休業給付金相当額の損害賠償)慰謝料等の支払を求めた事案。 
退職扱いされる直前の賞与不支給についても、賞与又はこれに代わる慰謝料が請求。
 
<争点>
①XからYに対する退職の意思表示の有無
②毎月の賃金又は損害賠償の請求が認容される範囲
③賞与又はこれに代わる慰謝料請求の可否 
 
<規定>
雇用機会均等法 第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
 
<判断・解説>
●争点①(退職の意思表示)
退職の意思表示は、その重要性に鑑みて、その認定に慎重を期すべきことが指摘されている。

本判決:
詳細な事実認定⇒Xからの退職の意思表示の事実を否定

雇用均等法9条3項等によって、妊娠、出産、これらに伴う休業等を理由とする不利益な扱いが禁止されており、この「不利益な取扱い」には、労働者の真意に基づかない勧奨退職を含む退職の強要も含まれている
⇒退職の意思表示及びそれが労働者の真意(自由な意思)に基づくことの認定に慎重を期すべき
ことも指摘。

最高裁H26.10.23:
妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格につき、労働者の承諾があっても、その承諾が「自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」でなければ強行規定である雇用均等法9条3項の禁止する不利益取扱いに該当し、違法・無効
 
●争点②(毎月の賃金又は損害賠償の請求が認容される範囲) 
使用者が解雇、退職などを主張して労働者からの労務提供の受領を拒んでいても、労働者に労務提供の意思及び能力が存しないときは、債権者(使用者)の責めに帰すべき履行不能(民法536条2項本文)に当たるとはいえない。(菅野p409)

Xが退職扱いされた当時産後休業中で、引き続き育児休業取得を予定しており、訴訟係属中に新たな子を妊娠・出産

Xに労務提供の意思及び能力が存する期間を認定して、その期間につき毎月の賃金の請求を認容

他方で、Yに、Xを退職扱いし、育児休業給付金の受給を妨げた不法行為の成立を認め、育児休業取得予定であったため賃金支払請求を退けた期間につき、育児休業給付金相当額の損害賠償をj認定

精神的損害による慰藉料も認定。

慰謝料の算定において、Yの訴訟係属中の解散で判決確定後も紛争が継続し、Xが別訴の提起を強いられると見込まれることも考慮。
but
本件では、解散が損害賠償責任の原因事実と主張されているわけではなく、本判決での考慮も、不法行為の後の慰謝料算定に関する事情としての限定的なものにとどまっている。
使用者である法人の解散は、違法な目的(労働組合壊滅等)、事業承継などの事情によっては、法人格の否認や雇用の承継に加えて、損害賠償責任の原因事実ともなりえる。(菅野p715,718)
 
●争点③(賞与又はこれに代わる慰謝料請求の可否) 
賞与制度で賞与の決定が使用者の査定に委ねられているときは、査定が具体的な賞与請求権の発生要件となる(最高裁H27.3.5)。
but
正当な理由なく査定をしなかったり、査定が強行法規に違反したりするときは別途不法行為が成立する。 

本判決:
賞与請求権の発生要件具備は否定
but
さらに期待権侵害の不法行為の成否を検討し、Yの査定の違法性を認め、慰謝料等の請求を認容

Yの査定が休業による不就労分を超える不支給であると認定し、違法な不利益取扱いであると判断

年次有給休暇(年休)取得に対する不利益措置につき、
最高裁H5.6.25は、
諸般の事情を総合して公序に反するときに違法・無効になる。

最高裁H4.2.18では、使用者は年休の取得日の属する期間に対応する賞与の計算上この日を欠勤として扱うことはできない旨が判示。

本判決:Yの不支給の査定が年休取得も理由とし、公序に反する旨を判断。

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2018年11月12日 (月)

小学校教諭が行った指導・叱責行為等に対する損害賠償請求(否定)

さいたま地裁熊谷支部H29.10.23      
 
<争点>
①Y1が、X1に対し、給食後の食器汚れを確認した際、X1の背中に触れたり授業時間中にルール違反の有無につき問い質したりした行為が、体罰に該当するか、るいは、懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱するか。
②Y1が前訴においてXらの記入した連絡帳等を証拠提出した行為が、Xらのプライバシーを侵害する違法なものかどうか。
 
<規定>
学校教育法 第11条〔児童・生徒・学生の懲戒〕
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない
 
<判断>
●Y1の行為の違法性(争点①) 
教諭の行為が学教法11条の懲戒権行使の範囲内にとどまる限り違法性を有しないが、同条ただし書の体罰に該当する場合は違法と評価される。

教諭の行為が懲戒権の行使として相当と認められる範囲内のものかどうか、あるいは体罰に該当するかどうかは、児童の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況、非行等の内容、懲戒の趣旨、教育的効果、身体的・精神的被害の大小・結果等を総合して、個別具体的に判断すべき。

①Y1がX1の背中に触れた行為:
X1に身体的被害も全く生じていない極めて軽微な身体的接触⇒体罰に該当しない。

②Y1が、授業時間中、X1が通学路を守って帰宅したのかどうかを確認した行為:
確認自体に問題はないとしても、事実確認が時間を要したことで、他の児童からの批判にさらされていたX1の精神的負担は大きくなっており、Y1において配慮に欠ける面があったこは否定できない
but
不相当とまではいえない。

③Y1が、授業時間中、X1が鉄棒の練習をしたのかどうかを確認した行為:
他の児童も立たされている状況で、Y1から厳しい口調で発言を求められたことで、X1は相当な精神的負担を受けたと推認でき、Y1において配慮に欠ける面があった
but
全体を通してもれば、X1が他の児童との円滑な人間関係を築くことができるようになり、X1の成長につながると期待されたものと理解でき、そのような懲戒の趣旨や教育的効果不相当とまではいえない
 
●前訴における証拠提出行為の違法性(争点②)
前訴においてY1が連絡帳等を証拠提出したことは、Xらのプライバシーを侵害するおそれがある。
but
訴訟行為については、たとえ相手方のプライバシーを侵害しうるものであったとしても、正当な訴訟活動の範囲内にとどまる限り、違法性を阻却し、
当該訴訟行為が、事件と全く関連性を有しない場合や、訴訟遂行上必要な範囲を超えて、著しく不適切な方法、態様で主張立証を行い、相手方のプライバシーを著しく侵害するような場合に限って、違法性が認められる。

Y1の行為は違法とは認められない。
 
<解説>
体罰相手方に対して肉体的苦痛を与えるものをいう(福岡地裁H8.3.9) 

体罰に該当しなくても、教諭の行為が懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱する場合には、違法とされることがある。

本件では、Y1の言動が、X1に精神的苦痛を与え、人格の尊厳を傷つける、いわゆる言葉の暴力に当たるかが問題とされた。
本判決は、X1が相応の精神的負担を受けたことは認めつつも、
児童が受けた被害の程度だけでなく、
懲戒の趣旨や教育的効果なども総合的に考慮して判断
する立場。

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2018年11月11日 (日)

政務調査費の支出が違法⇒不当利得として返還請求することを市長に求める住民訴訟(一部認容)

仙台高裁H30.2.8      
 
<事案>
仙台市議会の会派及び議員が同市から交付を受けた平成23年度(平成23年9月分から平成24年3月分まで)の政務調査費のうち一部(合計約1810万円)が条例等により定められた使途規準に反して違法に支出され、前記会派及び議員に不当利得が生じている⇒Xが、市長であるYに対し、前期会派及び議員に対して不当利得の返還を請求するよう求めた住民訴訟。
 
<論点>
①政務調査費の支出の適法・違法の判断枠組み
②主張立証責任の分配 
 
<解説>
①について:
条例等により定められた使途規準に合致するか否かを適法・違法の判断の基準とし、
具体的には、政務調査費の支出と議員の調査研究活動との間に合理的関連性がない場合を使途規準に合致しない場合として違法とする裁判例が多い。

②について:
いわゆる一般的・外形的な事実説(使途規準に合致した政務調査費の支出がなされなかったことを推認させる一般的・外形的な事実が立証されたときには、適切な反証がされない限り、当該支出が使途規準に合致しないものであることが事実上推認される)に立つ裁判例が多い。
 
<判断>
Xの請求の一部を認容した原判決を、大筋で支持。 
 
<解説> 
●政務調査費の支出対象となる経費が(インターネット利用料など)定額のサービス利用料である場合の使途規準適合性について:
仙台市議会においてこれを具体化する趣旨で作成された内規である「仙台市政務調査費の交付に関する要綱」があり、
その8条は「政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難い場合には、従事割合その他の合理的な方法により按分した額を支出額とすることができるものとし、当該方法により按分することが困難である場合には、按分の割合を2分の1を上限として計算した額を支出することができる」と規定。

原判決:
同要綱は、それ自体が法規範性を有するものではないが、このような取扱いをすることは政務調査費の支出について議員の調査研究活動のための必要性を要求する地自法及び条例等に沿うものとして合理性があると考えられる

政務調査費の支出対象となった経費の一部が調査研究活動対象以外の目的で支出されたといえる場合には、前記の定めに従って按分した額を超える支出は、結局、使途規準に合致しないものと判断されるべき。

本判決もこれを共通の前提としている。

政務調査費の支出対象となる経費が定額のサービス利用料である場合:

原判決:
調査研究活動以外の目的で利用されることがあったとしても、調査研究活動を主目的として利用するとすれば目的外利用の有無にかかわらず一定額の支払をしなければならない

前記一般論の例外として、定額の利用料については、按分をしないでその全額を政務調査費から支出しても使途規準に合致しないとはいえない。

本判決:
各会派及び議員は、定額の利用料に係る経費を政務調査費から全額支出するか一切支出しないかのいずれかを選択しなければならないものではなく、経費を按分してその一部を政務調査費から支出することができる。

定額制か従量制等かの違いだけで異なる取扱いをする合理的な理由はない
 
●経費の一部について按分により政務調査費から支出することを認める前記ののような要綱の定めを実質的に使途基準適合性の判断に取り込んで支出の違法性を判断することの当否
これを取り込んだ場合に定額の利用料をさらにその例外とすることの是非
について、さまざまな議論があり得る。

判例時報2380

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2018年11月10日 (土)

交通事故で低髄液圧症候群の発症が認められなかったもの

横浜地裁H29.10.12    
 
<事案>
交通事故につき、
Xが、Yに対し、
民法709条、710条、自賠法3条に基づく責任がある
人身損害及び弁護士費用並びに交通事故発生日から支払済みまで年5分の割合により遅延損害金の支払を求めた事案。
 
<主張>
X:
本件交通事故はYの一方的な過失によるものであると主張するとともに、
本件交通事故による低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症、
本件交通事故発生日から約2年11箇月後の症状固定を主張 

Y:
①Xが雨傘を差していたこと、夜間であること、周囲に注意を払っていなかったと思われる
⇒15%の過失相殺を主張。
②Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症を否認
③症状固定時期は一般的な交通外傷の症状固定時期である交通事故から半年後が相当である
 
<争点>
Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の有無 
 
<判断>
①国際頭痛分類第3版β版の国際頭痛分類基準
②脳神経外傷学会基準
③厚生労働省研究班による脳脊髄益漏出症画像判定基準・画像診断基準
に照らし

①Xが事故直後の時期に訴えた頭痛の症状は起立性頭痛(頭部全体及び又は鈍い頭痛で、座位及び立位をとると15分以内に増悪する頭痛で低髄液圧症候群発症の1つのメルクマールとなると解されている)であるとは認められないこと
②起床時に頭痛が激しい旨医療記録に記載されたのは、事故から1年以上経過した時点であること
③RI脳槽シンチグラフィー検査(ラジオアイソトープ(RI)という放射性物質をせき髄内に穿刺し、体外に排出される過程を見て脊髄液が漏出する可能性を見出す検査)は、1時間後に明らかな膀胱集積がみられた場合に脳脊髄液の漏出を疑う所見とされているところ、投与後1時間で淡い膀胱の描出、3時間後RI膀胱内集積、24時間後RI残存率の低下で、1時間後の明らかな膀胱集積ではなく、また、2.5時間以内の集積ではない⇒厚生労働省研究班による脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準を満たさない
④明らかな骨折や神経学的所見は認められず、頭蓋内出血など明らかな頭部外傷所見はない
⑤3回にわたり、ブラッドパッチを受けているところ、一時的に頭痛が改善されたこともあったが、直後に頭痛が悪化したりしており、ブラッドパッチにより症状が改善されたとは認められない

Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められない。

症状固定時期について:
本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められないが、
Xの頚部痛等の症状が、他の一般的な交通外傷の事例に比べ、重いと考えられる

本件交通事故から約1年後のA診療所の最終通院の属する月末に症状固定に至ったとみるのが相当。

過失割合について:
Xは横断歩道が設置されていない場所で道路を横断⇒周囲の安全を確認する注意義務があり、一定の過失が認められる。
①現場が住宅街でスクールゾーンであること
②雨が降っていて雨傘を差して歩行したXについて、Yの発見が遅れたこと
③5月の午後8時55分頃であり、夜間で暗かったといえること
等を総合考慮

Yの90パーセント、Xの10パーセントの過失割合となる。
 
<解説>
交通事故の損害賠償請求訴訟において、被害者が低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症を主張する事案は少なくない。 

脳脊髄液減少症:
脳脊髄液腔から脳脊髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって脳脊髄液が減少し、頭痛、頚部痛、耳鳴、視機能障害、倦怠などさまざまな症状を呈する疾患と定義される。

低髄液圧症候群等の診断基準:
国際頭痛学会が
①平成16年に公表した国際頭痛分類第2版、
②平成25年に公表した国際頭痛分類第三版β版
③日本脳神経外傷学会が提案した、外傷に伴う低髄液圧症候群の診断基準
④厚生労働省の研究班が平成23年に公表した「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」
⑤脳脊髄液減少症ガイドライン作成委員会が作成した脳脊髄液減少症ガイドライン2007等
がある。

本件において、②③④は一定の信頼性を有する基準と解されるとして、これらにより判断してXの低髄液圧症候群の発症を認めなかったもの。

判例時報2379

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2018年11月 9日 (金)

弁護士の相手方弁護士に対する名誉毀損等の不法行為(肯定)

東京地裁H29.9.27      
 
<事案>
弁護士が民事訴訟、家事調停の代理人として、相手方の代理人弁護士に対して弁護士法違反、弁護士倫理違反等の内容の弁論期日における発言、準備書面の記載・陳述をしたことにつき、名誉毀損、侮辱、業務妨害に係る不法行為責任の成否が問題になった事案。 
 
<争点>
弁論期日における発言の有無、発言の名誉毀損等の該当性、各準備書面の提出・陳述の名誉毀損等の該当性、違法性阻却の成否、損害・金額 
 
<判断>
本件弁論期日後間もなく作成されたXの作成に係る書面(報告文書)、弁護士日誌等の記載が信用でき、Yの供述を排斥して、Xの主張に係るYの発言を認定。 

本件発言がXの社会的評価を低下させる
準備書面の各記載もxの社会的評価を低下させる
(業務妨害の主張についてはいずれも排斥)

違法性阻却については、
本件発言について全て否定し、
準備書面の記載等につき一部肯定

本件発言の慰謝料として30万円
訴訟の準備書面の記載等の慰謝料として50万円
調停の準備書面の慰謝料として30万円
弁護士費用11万円
を認め、請求を一部認容。

判例時報2379

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2018年11月 8日 (木)

骨髄移植手術を受けた患者が脳梗塞を発症して死亡。看護師の過失との因果関係を否定。

大阪高裁H29.2.9      
 
<事案>
Pの父母であるX1とX2は、Y附属病院の医師の過失により、免疫抑制剤であるプログラフを過剰投与され、その副作用により脳梗塞を発症して死亡したと主張⇒Yに対して、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求。 
 
<原判決>
Xらの請求を棄却 
   
Xらは控訴。
併せて、Y附属病院の看護師の過失、Y附属病院自身の過失の主張を追加するとともに、
適切な医療を受けておれば、その死亡した時点においてなお生存していた可能性等を失い、また、適切な医療を受けることについての期待権を侵害されたとして、不法行為に基づく損害を予備的に追加主張
 
<判断>
プログラフの過剰投与があったことは明らか。
but
①鑑定によれば、過剰投与による脳梗塞の発症の可能性は否定できないものの、プログラフの量は、副作用としての脳梗塞を発症するだけの条件が十分であったとまでは認めることができないし、
プログラフの投与が原因とされる脳梗塞の発症例が多いということはできない

過剰投与と脳梗塞発症との間に相当因果関係を認めることは困難。 

Pの全身状態の悪化等からすれば、過剰投与がなかったからといって、脳梗塞の発症を回避したり、死亡の結果を回避したりすることができる相当程度の可能性があったということはできない
④過剰投与の発生について過失が認められるが、Y附属病院の医療行為が著しく不適切であったということはできない

Yの損害賠償を否定した原判決は結論において相当
 
<解説>
因果関係の立証について、

最高裁昭和50.10.24:
訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、
経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、
その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる

①プログラフは、種々の移植における拒絶反応の抑制に適応するが、これを服用すると、脳梗塞等を発症し、致死的な経過をたどることがあるとされ、
本剤を移植で使用するときは、免疫抑制療法及び移植患者の管理に精通している医師の指導のもとで行わなければならないとされている。
②鑑定でも、過剰投与により脳梗塞を発症した可能性を否定できないとされている。
過剰投与と脳梗塞との因果関係はかなり微妙

判例時報2379

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2018年11月 7日 (水)

自筆証書遺言の有効性の判断と動画の実質的証拠能力

東京高裁H29.3.22      
 
<事案>
XとYは、被相続人Aの法定相続人。
Aは、平成26年7月に死亡。
Xが、Yに対して、自筆証書遺言が偽造されたもので法定の要件を各ため無効⇒遺言無効確認請求訴訟を提起
 
被相続人Aは、株式及び不動産を含む財産一切をXに相続させることを内容とする公正証書遺言を平成24年4月19日に作成。
AがYに対して全財産を相続させることを内容とする自筆証書遺言(作成日は平成25年2月8日)があり、Yの申立てにより遺言書検認手続を行われた。
 
<争点>
本件遺言の作成日に撮影された動画(本件動画)について、その証拠能力及び証拠力をどのように考えるか。 
 
<判断>
●本件動画の証拠能力:
Yが、裁判所やXを欺罔する意図をもって本件動画を加工、編集した事実を認定することはできない⇒証拠能力を否定すべきではない

●実質的証拠力:
本件動画に顕れた被撮影者(被相続人A)の言動、遺言書や動画の保管状況及びこれに関する撮影者(Y)の説明の合理性その他諸般の事情を総合して判断すべき。

①本件動画には、後日の証拠となることが意識されて新聞が何度も映し出されているのに、Aが自書、押印する動作が全く撮影されていない
②添え手を含む何らかの補助を受けて書かれた可能性は否定できない
③公正証書遺言の内容を変更する事情が何ら明らかになっていない

Aが本件遺言を自書、押印したものとは認めず、本件遺言は無効

<解説>
動画は、準文書として扱われ(民訴法231条)、その実質的証拠力も文書に準じて判断されることになる。
文書の実質的証拠力は裁判官の自由心証によって決せられる

動画が証拠として提出された場合には、その内容について、裁判官の自由な心証によって判断することができる。 

民訴法 第231条(文書に準ずる物件への準用)
この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。

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2018年11月 6日 (火)

通信制限に関する広告及び説明が重要事項の不実告知に当たる⇒消費者契約法4条1項による取消しが認められた事例

東京高裁H30.4.18      
 
<事案>
無線通信事業者であるYらが、本件の契約料金プラン(「本件料金プラン」)において採用した通信制限の方法は、ユーザーが使用した通信料が一定の値(3日で3GB制限)を超えることを、そのユーザーに対する速度制限の発動条件(トリガー)とし、発動後24時間程度の間、通信速度を低下させるといもの。 

<問題>
通信制限の必要性そのものではなく、通信制限の存在及び内容(ユーザーの利便を損なう程度)が、販売の際に消費者に分かりやすく適切に説明されたかどうか
適切な説明がなかったとすればそれが民法96条の詐欺又は消費者契約法4条1項の重要事項の不実の告知に当たるかどうか
 
<主張>
Y1と本件料金プランの契約をした消費者であるXは、
通信サービスを使用すると、Yらの広告や契約時の説明と異なり、通信制限を受けることが多く、通信制限下では使いものにならないと主張

民法96条又は消費者契約法4条1項に基づき、契約を取り消した上で、
支払済みの契約金の返還等を求めた
。 
 
<原審>
請求棄却。
 
<判断>
請求を認容。 
Yらは、本件料金プランにつき、広告中には3日3G制限が発動される場合の具体例や3日3G制限発動後の通信制限下での具体的な使用状況は記載せず、
3日3G制限の存在のみを豆粒のような文字で記載して、できるだけ3日3G制限の存在に気付かせずに、顧客を販売店に誘引しようとした。

Yらは、販売店においては、重要事項説明書の3日3G制限の説明(概略、直近3日間の通信料合計が3GB以上となると通信速度を翌日にかけて制限する場合があるというもの)を棒読みし、3日3G制限が発動される場合の具体例はYouTubeを標準画質で見ることができるとだけ説明して販売。

本件料金プランの広告及び店頭説明は、高速、通信量制限ないし、使い放題という利便性のみを強調し、通信制限の存在を目立たせないようにしており、
サービス(特に通信制限時)の水準が一部のヘビーユーザーのニーズに合わないことの説明がなく、
通信制限のトリガーを引かないためには通信料を自主規制せざるを得ないこと、通信料の多い使用方法の具体例及び通信制限下での通信速度等の通信状況の具体的内容の説明もない


Xがこれら通信制限の実情を知らされていれば契約締結はなかったもので、重要事項についての不実の告知にあたる。

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2018年11月 5日 (月)

病院の患者に(第三者が医師に交付した患者の)資料を開示しないことが正当化された事例

東京高裁H29.8.31      
 
<事案>
患者が病院に対して、第三者が交付した患者の資料につき、個人情報保護法25条1項に基づき、開示を求めた。 
Xは、平成21年から平成22年にかけて、Yの運営するA病院(精神科)で診察を受けた者。この間、Xの友人であるBが、A病院を訪れて医師に対し、Xの病状に関する資料を交付。
その後、Xは、Bを告訴する目的で、Yに対し、本件持参資料の記録謄写の申請⇒Yは、Bの利益を害するおそれがあるとして、本件持参資料の写しを交付しなかった。
⇒Xは、Yに対し、本件持参資料の開示を求めて提訴。

 
<争点>
Yが開示をしないことが、改正前の個人情報保護法25条1項1号に定める「第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合」に該当するか? 
 
<原審>
Xの請求を棄却。
厚生労働省策定の「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日)8項によれば、
診療情報の提供を拒みうる場合として、
診療情報の提供が第三者を害するおそれがあるときを挙げ、
その想定される事例として、患者の家族や関係者が医療従事者に患者の状況等について情報提供を行っている場合に、
これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、
患者とその家族や関係者との間の人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがあるときを掲げている
ことを指摘。

本件持参資料が開示されて、Xの症状に関するBの認識を知ることで、XがBに対して悪感情を募らせ、既に悪化しているXとBとの間の人間関係がさらに悪化して、Bの利益を害するおそれがある
⇒本件開示請求は、改正前の個人情報保護法25条1項1号の開示しないことができる事由に該当

 
<判断>
原審判断を是認。 

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2018年11月 4日 (日)

大阪市長に対するメールの公開請求の事案

大阪高裁H29.9.22      
 
<事案>
大阪市情報公開条例2条2項:
同条例における「公文書」を、
「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものという」と規定。 

Y(大阪市)は、
大阪市長が職員との間で、いわゆる庁内メールを利用して1対1で送信した電子メールについて、
①公用パーソナルコンピュータの共有フォルダで保有しているもの
②紙に出力したものを他の職員が保有しているもの
③当該1対1メールの内容を転送先の公用PCで保有しているもの
については、公開請求の対象となる公文書に該当し、
その余のものは公文書に該当しないとの取扱いをしている。

Xは、同条例に基づき、大阪市長に対し、同市長とYの職員との1対1メールのうち、Yにおい公文書として取り扱っていないものの公開を請求
⇒大阪市長は、公開しない旨の決定

 
<原審>
本件文書の中には、同条例2条2項所定の公文書に該当する文書が含まれている⇒本件非公開決定は違法。 

大阪市情報公開条例2条2項の解釈及び「組織的に用いるもの」に該当するか否かの判断基準について、情報公開法2条2項に関するものと同旨の解釈及び判断基準を採用
①大阪市長と職員との間で職務に関してやり取りされたものである以上、すべからく組織共用文書となると解するものではない
but
メールである以上、1対1メールであっても、その作成及び利用について大阪市長及びYの職員が送信者又は受信者として関与しており、一方当事者の廃棄の判断にゆだねられているとはいえず、組織として保有するものに該当することも十分あり得る
③大阪市長と職員との間の1対1メールが職務上の指示又は意見表明に利用される場合、組織において業務上必要なものとして利用又は保存されているということができる場合があり、
証拠に表れた前市長と職員との間のメールの利用の実態に鑑みれば、1対1メールがこのように利用されていないということはできず、本件文書の中に公文書に該当するものがあったということができる


本件非公開は違法
 
<判断>
原審判断を是認 
 
<争点>
本件文書が同条例2条2項の「組織的に用いるもの」に該当するか否か 
 
<解説> 
同条例の公文書に関する定義は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)2条2項における行政文書の定義と同旨。 

情報公開法 第2条(定義)
2 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
二 公文書等の管理に関する法律(平成二十一年法律第六十六号)第二条第七項に規定する特定歴史公文書等
三 政令で定める研究所その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(前号に掲げるものを除く。)

同条項の立法過程においては、
①決裁、供覧等の文書管理規程上の手続要件で対象文書の範囲を画することは適切ではない
②職員の個人的メモなど、組織としての業務上の必要性に基づく保有しているとは言えないものまで含めることは、法の目的との関係では不可欠なものではなく、法の的確な運用に困難が生じたり、適切な事務処理を進める上で妨げとなるおそれもある

職務上作成・取得と組織共用・保有が要件となった。

組織共用・保有
作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該行政機関の組織において業務上必要なものとして利用・保存されている状態のものをいう。

判例時報2379

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2018年11月 2日 (金)

地方公共団体に勧告の義務があることの確認を求める訴訟の確認の利益の有無(否定)

東京高裁H29.12.7      
 
<事案>
控訴人は、本件給食センターは本件地区計画において定められた地区整備計画に違反して建築が許されないものであるにもかかわらず、訴外会社からの建築の届出に対し、被控訴人が都計法58条の2第3項に基づく勧告をしなかったとして、
被控訴人をして同項に基づき必要な是正措置を執るよう勧告する義務があることの確認を求める訴えを公法上の当事者訴訟として提起。 

ここで求める勧告の内容は、
当初の時点では、給食センターの建築が未完成⇒「本件給食センターを建築しないよう勧告する義務」
平成29年8月に建築が完成⇒
控訴審段階では、
主位的に「本件給食センターの建物を除却するよう勧告する義務」があることの確認
予備的請求として「本件給食センターの操業に関し、排出させる油煙等の量等を常時計測し、従来維持されていた環境より栗木マイコン地区の環境が悪化するおそれが生じたときは工場の操業を一時停止するなどの措置を執るよう勧告する義務」のあることの確認。
 
<争点>
①行政指導にすぎない「勧告」義務があることの確認を求める本件訴え(公法上の当事者訴訟)に確認の利益があるといえるか
②控訴人の求める内容の勧告をする義務を被控訴人(川崎市)が負うといえるか(被控訴人に勧告をするか否か及び勧告内容について裁量があるか、あるとして本件で被控訴人に裁量権の逸脱濫用が認められるのか) 
 
<規定>
都市計画法 第58条の2(建築等の届出等)
3 市町村長は、第一項又は前項の規定による届出があつた場合において、その届出に係る行為が地区計画に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、その届出に係る行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを勧告することができる。
 
<一審>
●訴えを却下 
 
●傍論として、「被告(被控訴人)が訴外会社に対し、都計法58条の2第3項に基づき、本件給食センターの建築をしないよう勧告する義務を負っていると認められるか否か」
都市計画の決定の判断は、政策的・技術的な見地から行政庁の広汎な裁量に委ねられているところ、同項に基づく勧告をするか否かの判断も、同様に政策的・技術的な見地からの行政庁の広範な裁量に委ねられている

勧告の不行使が裁量権の行使として違法になるのは、法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下においてその不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に限定される。

行政指導としての勧告の性質
⇒勧告しないことが「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く」と認められるためには、「相手方が勧告に従うことについての高度の蓋然性がある場合であることが必要」
本件で勧告をしなかったことについての裁量権の逸脱濫用はない
 
<判断> 
●都計法上、同法58条の2第3項の規定による市町村長の勧告については、相手方に当該勧告に従うことを義務付ける規定はなく、勧告に従わないことに対する罰則や行政上の制裁措置は設けられていない
⇒当該勧告に法的効力はなく、当該勧告は行政指導としての性質を有するものと解することができる。 

勧告による指導の内容が実現されるか否かは当該勧告を受けた相手方の任意の協力が得られるか否かに委ねられる(行手法32条1項)行政庁が当該勧告をしたとしても、相手方がこれに従うことが確実とはいえず、本件給食センターの建築を防止するという控訴人の目的が直接的に達成されるわけではない。

①訴外会社と被控訴人との間には、本件給食センターの建築及びその後の給食事業の実施の委託につき契約関係があり、この契約関係は、本件敷地に本件給食センターを建築し、操業することが可能であること、及び、本件地区計画の存在により契約内容が左右されないことを前提として成立したもの
②都計法58条の2第3項の勧告は、訴外会社に対し、前記契約上の債務とは別に、本件地区計画への適合性を担保するための措置を求めるものであり、訴外会社が任意にこれに従う可能性の低いことは明らか
他方で
③本件給食センターの操業により控訴人が財産的被害を受けるというのであれば、当該被害又はその発生のおそれの存在につき主張立証した上で、不法行為等に基づき、訴外会社に対し本件給食センターの操業差止めを、又は被控訴人に対し、本件給食センターへの委託に係る給食事業の差止めを求める民事訴訟を提起する手段が存在し、これに勝訴すれば、直接的に控訴人の目的を達成することができる。
予備的請求についても、本件地区の環境が悪化するおそれが生じた場合に本件給食センターの操業を一時停止すること等を勧告の内容とするもの⇒訴外会社が当該勧告に従う見込みがあるとはいえない。

本件において、被控訴人に勧告義務があることの確認を求めることは、紛争の解決に有効適切であるとは認められない⇒本件訴えは、確認の利益を欠くとして、本件訴えを全部却下。
 

①本件給食センターが本件地区計画に適合しないという事態が生じたのは、被控訴人が、自らの事業の立地として、既存の被控訴人所有地から本件敷地を選択した結果であり、
②当該選択は、主として被控訴人自身の事情(財政面の制約等)によるもの

このような選択の結果、前記不適合を自ら惹起した被控訴人が、都計法58条の2第3項の勧告に関し広範な裁量を有するといえるかについては疑問の余地がある。 
 
<解説> 
●確認の利益一般
確認の訴えの利益は、一般的には、原告が提示した訴訟物たる権利関係について、確認判決をすることが、原告の権利又は法律関係に対する現実の不安・危険を除去するために、必要かつ適切な場合に認められる

①確認の訴えは、権利関係の存否を観念的に確定すること通じて紛争を解決すると同時に、将来の派生的紛争を予防しようとするもの。
⇒その性質上、権利の強制的実現の裏打ちがない
確認の訴えの対象は論理的には無限定

当該紛争について、権利の確認という紛争解決手段が有効適切に機能するかという実効性及び
解決を必要とする紛争が現実に存在するかという現実的必要性
の観点から、
確認の利益の存否を吟味・検討することによって、
紛争解決にとって無益な確認の訴えを排除して、制度効率を維持ないし高める必要がある。

その観点から、確認の利益を訴訟要件とされている。
 
●地区計画と都計法58条の2第3項の勧告
地区計画の地区整備計画においては、建築物の敷地、構造、建築設備、又は用途に関する事項が定められる(都計法12条の5第7項)が、
地区計画の区域内において建築行為を行おうとする場合の地区計画適合性を担保するため、
建築行為を行おうとする者は、当該行為に着手する日の30日前までに市町村長に届出を義務付け(都計法58条の2第1項)、
市町村長は、届出内容を審査した上で、それが地区計画に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、その届出に係る行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを勧告(同条3項)。

建築行為が都計法29条1項の開発許可を要する場合に当たるときは前記届出を不要とし(都計法58条の2第1項5号)、適合性は開発行為の許可の際に審査するもの(都計法33条1項5号)としているし、
市町村の条例において、地区計画の内容として定められた建築物の敷地、構造、建築設備又は用途に関する事項を取り込み、制限として定めた場合(建基法68条の2)には、地区計画適合性は建築確認の際に審査される(建基法6条)。

開発許可を要する場合や地区計画で定められた事項が条例で制限として定められた場合を除くと、
地区計画適合性は、地区計画に適合しない建築行為の届出に対し、市町村長が是正の勧告をするという形で担保していくというのが都計法の制度設計になっている。


この「勧告」は、行政指導の一種であり、勧告に従わない場合に氏名を公表するということも制度的には予定されていない。
市町村長は、それ以上の権限を有しない。
開発許可を要する場合や条例に取り込まれた場合を除くと、地区計画適合性は勧告という相手方の任意の協力がなければ実現しないやわらかい手段によって担保。
 

最高裁の判例には、行政指導の勧告を抗告訴訟の対象になる処分と捉え、抗告訴訟のルートに乗せたものもある(最高裁H17.7.15)。

行政指導は相手方の任意の協力を求めるものであるが、事実上それに従わせる力が働くことは公知の事実

最近の行手法の改正において
「違法な行政指導の中止の求め」(36条の2)
「行政指導の求め」(36条の3)

の制度が設けられた。
これを訴訟の場面でみると、
行政指導としての勧告は、原則として抗告訴訟の対象となる処分に当たらない

公法上の当事者訴訟としての確認の訴えを利用して、
行政指導に従う義務のないことの確認とか、行政指導をする義務のあることの確認という訴訟形式で争うとうことが考えられる。

行訴法の改正で同法4条の公法上の当事者訴訟に「確認の訴え」が明記された点も、この議論の1つの支えになり得る。

行政指導というのも、任意の協力を求めるという建前はともかく、事実上それに従わせる力がある
⇒その中止を義務付けたり、行政指導するように義務付けることは、紛争の解決方法として取り上げるに値する。
訴訟の場では、それは公法上の確認の訴えという形式になり、これが紛争解決の方法として有効適切と捉えられる余地もある

判例時報2379

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2018年11月 1日 (木)

代表取締役に対する取締役会の招集通知を欠いたが、取締役会決議の結果に影響がないと認められるべき特段の事情があるとして、決議が有効とされた事例

東京地裁H29.4.13    
 
<事案>
Y社の代表取締役であったXが、Y社に対し、取締役会決議について、Xに対する適法な招集通知を欠いているとして、無効であることの確認を求めた事案。 
 
<事実>
Xは、Y社の代表取締役として、Y社内で必要な手続を経ないまま、X以外の取締役をいずれも解任し、Xの息子を執行役員社長に選任したこと等を内容とする人事発令。

Xを除くY社の取締役らがXらの行動への対応策を協議し、臨時取締役会を開催することとした。 
その日の午後11時23分、Xを含む全取締役及び監査役のY社内で割り当てられている各メールアドレスに対し、翌日午前9時30分からY社内会議室において、本件取締役会を開催すること等を内容とする電子メールを送信。

Xを除く取締役ら6名及び監査役が出席し、Xを代表取締役から会食する議案を出席取締役6名のうち1名(棄権)を除く5名の賛成により可決し、Xを代表取締役から解職する旨の決議が成立。
 
<争点>
①Xに対して本件取締役会の招集通知がされたといえるか
②Xが本件取締役会に出席してもなお本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるか 
 
<判断>
取締役会の招集通知は、各取締役に到達することを要し、招集通知が各取締役に到達したというためには、当該取締役の了知可能な状態に置かれること(いわゆる支配圏内に置かれること)を要する
②Xは自らパソコンを操作することがなく、Y社内におけるXのパソコンはY社内の秘書室において管理されていた上、本件メール送信時においても、秘書室においてXのメールアドレスの受信状況を確認していなかったことがうかがわれる⇒本件メールがXのメールアドレスに係るメールサーバに記録されたことをもって、Xの了知可能な状態に置かれた(支配圏内に置かれた)ということはできない。 

取締役会の開催に当たり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠く場合には、その招集手続に瑕疵があり、取締役会の決議は無効になる。
but
その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認められるべき特段の事情があるときは、前記瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になる。

①Xを除く取締役らは、本件取締役会の前夜、顧問弁護士らも交えて協議をし、Xの息子が判断能力の低下したXを利用してY社に混乱をもたらすこと等を防止するため、Xを代表取締役から解職するとの意見を形成するに至り、
このことについて反対の意見を述べたり、賛成することにとどまったり、意見を留保したりした者がいたとの事情はうかがわれない。
②前記意見は、相応の根拠に基づく強固なものであったと推認される

XがY社の取締役会において相当に強い影響力を有していたこと等を考慮しても、Xが本件取締役会に出席してもなお本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情がある
 
<解説>
「特段の事情」とは、
決議と反対の側に投票されても、票数の上で決議を動かすに足りないということのみならず、
その取締役が他の取締役との関係で取締役会において占める実質的影響力、その取締役について予想される意見、立場と決議の内容との関係などから判断して、同人の意見が決議の結果を動かさないであろうことが確実に認められるような場合がこれに当たるとされる。 

判例時報2378

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