農業委員会の会長を解任した総会決議の効力等が問題となった事案
千葉地裁H29.12.19
<事案>
農業委員会において、Xに対し、農業委員会等に関する法律(平成27年法律第63号による改正前のもの)5条7項に基づき会長の職を解任する決議。
⇒
Xは、会長の職を解任されたことについて、同解任に係る総会決議は無効であると主張して、
①農業委員会の会長の地位にあることの確認を求めるほか、
②違法な選任決議により名誉を侵害されたとして国賠法に基づく損害賠償等を求めた。
<本案前の争点>
①法5条7項により農業委員会が行った会長解任決議の効力に係る紛争が、裁判所法3条1項所定の「法律上の争訟」として司法審査の対象になるか?
②会長解任の要件である法5条7項の「農業委員会は、その所掌事務を行うにつき会長を不適当と認めるとき」の解釈
<判断>
●当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争で、法令の適用によって終局的に解決できるものは、原則として司法審査に服する。
純粋な内部問題の場合は、団体の自治を尊重して司法審査を控える場合がある。
農業委員会の会長という団体内部の地位の問題として司法審査を控えるべきかが問題。
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①農地法、土地改良法等による権限等を有する農業委員会の事務処理の結果は、農業者の権利義務に大きな影響を及ぼし(農地法3条等)、農業者以外の国民の権利にも影響を及ぼす場合がある(同法5条2項等)
②その農業委員会の代表者である会長の地位が争われている
⇒
市民法秩序と直接的な関連を持たず内部の問題にとどまるものとはいえず、司法審査の対象になる法律上の争訟に当たる。
●農業委員会の会長の解任に関し法5条7号は
「農業委員会は、その所掌事務を行うにつき会長を不適当と認めるときは、その決議によりこれを解任することができる」とのみ定め、不適当と認められるべき具体的な解任事由を規定していない⇒その法解釈が争われた。
農業委員会における所掌事務の処理に不適当と認められるかについては、農業委員会の合議体としての裁量的判断を尊重し、農業委員会による会長を解任する旨の判断は、それが社会通念上著しく妥当性を欠いており、農業委員会に委ねられた裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合に限り、違法と評価するのが相当。
①Xは、農業委員会の農業委員15名の3分の1以上に当たる11名の者から、会長不信任案を付議するための臨時総会の招集を書面で要求された⇒この請求に応じて臨時総会の招集をすべき義務。
②Xが、臨時総会の招集に応じなかったことは、法21条の2項の規定に違反し、かつ、会長として適格性を疑わせる行為。
③Xの対応は他の委員らとの間に軋轢を生じさせるものであったから、Xが会長であることは合議体である農業委員会における所掌事務の遂行に支障を生じさせ、それを困難とするもの。
⇒
Xを会長から解任する旨の判断には裁量権の逸脱又は濫用は認められない⇒解任が無効であるとはいえない。
判例時報2375、2376
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