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2018年10月29日 (月)

株主構成を変化させることで退職慰労金支給決議を再度成立させることを目的⇒訴え提起と独立当事者参加の申立てが訴権濫用として却下された事案

東京地裁H29.10.5      
 
<事案>
Xは、妻Aの父(亡B)及び母(亡C)が設立した「有限会社D」の株主であると同時に代表者。

Aの両親が死亡した後、他の株主である長男Y1(亡Bと亡Cの長男)と亡長女の子Y2(亡Bと亡Cの相続の代襲相続人)を被告として、
X、独立当事者参加人(株式会社E)及びY1らが共有する本件株式(もともと亡B及び亡Cが保有していたD社の普通株式計750株)の分割を求めた。 
X、Y1及びY2は、亡B及び亡Cの相続により、本件株式について各3分の1の割合の準共有持分を有しているが、遺産分割は未了。
Aは、Xに対し、平成28年2月24日付けで、本件株式の持分3分の1を455万9000円で譲渡し(「本件第1譲渡契約」)、X及びAは、参加人Eに対し、平成28年4月4日、Xが有していたD社の株式750株及び本件株式のXの持分3分の1などを1株当たり1万6688円で譲渡した(「本件第2譲渡契約」)

D社においては、平成27年4月30日に、Aに対して8300万円の退職慰労金を支払う旨の株主総会決議(「退職慰労金支給第1決議」)等がされ、平成28年4月18日には、本件第2譲渡契約を承認する旨の決議(「本件譲渡承認決議」)がされ、同月26日には、退職慰労金支給第1決議の取消が確定することを停止条件として、Aに対して退職金8300万円を支給し、その効力を平成27年4月30日に遡って生じさせる旨の決議(「退職慰労金支給第2決議」)をしている。

尚、平成28年3月25日には、退職慰労金支給第1決議について、特別利害関係人であるAが議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとき(会社法831条1項3号)に当たるとして、これを取り消す旨の判決がされている。
 
<判断>
本件第1及び第2譲渡契約については、株主構成を変化させて、Aに対する退職慰労金支給決議を再度成立させることを目的としてされたものであり、
被告Y1を本件株式の権利行為者とする指定の効力が争われている状況下で本件訴訟が提起

本件第1及び第2譲渡契約による株主構成の変更に加え、本件株式の一部について独立して議決権を行使することができる状況を作出することによって、前記目的を実現することを企図している。

Xによる本件訴訟の提起及び参加人の独立当事者参加について、訴権の濫用に当たるとして、これらを不適法却下。 
 
<解説>
●私権と訴権
訴権:
「公法的訴権説」で「本案判決請求権説」通説。
 
●裁判を受ける権利と訴権 
憲法32条は「裁判を受ける権利」を保障する。

①裁判を受ける権利(憲法32条)、
②司法権の範囲(憲法76条1項)、
③法律上の争訟(裁判所法3条1項)、
④裁判の公開(憲法82条1項)
については、判例は、これらを同じ次元で考える「四位一体」論をとっている(最高裁H10.12.1)。
 
●私権の濫用と訴権の濫用
本件:
Aに多額の退職慰労金を支給する目的で、その支給を決議した株主総会決議が不当であるとして取消判決がされたにもかかわらず、その取消事由である特別利害関係株主(A)による議決権行使を回避するために株式譲渡を行った上で、本件共有物分割の訴えを提起⇒訴権の濫用を理由にXの請求を却下
but
原告の権利行使が権利濫用と認めらる場合、
その権利行使のために訴訟を提起したときは、
「私権の濫用」(請求棄却)とするか
「訴権の濫用」(訴え却下)とするか
について争いがあり、
訴権濫用とする場合の処理についても、
その訴訟での主張が信義則に反するとするのか、
訴え提起自体を不適法とするのか
などについても、議論がある。

①訴権は、裁判を受ける権利と類似した権利であり、裁判を受ける権利が基本権を保障するための基本権であって、実定法上、「法律上の争訟」(裁判所法3条)であれば、全ての訴えにつき裁判を受けることが認められている

訴えを却下して裁判を受ける権利を否定するかのごとき処理は問題が多い

請求棄却⇒請求権の不存在について既判力が生じる。
訴え却下⇒それについて既判力が生じない。

判例時報2378

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