DV加害者とされる者の代理人弁護士からの戸籍の附票の交付申出に対する拒否についての取消請求(否定)
大阪高裁H30.1.26
<事案>
住民基本台帳事務処理要領によれば、市町村長は、ドメスティック・バイオレンス(「DV」)等の加害者が、戸籍の附票の写しの交付等の制度を不当に利用して被害者の住所を探索することを防止するため、支援措置を講ずる。
この場合、加害者とされる者から被害者に係る戸籍の附票の写しの交付等の申出がされた場合にはこれを拒否するものとされている。
本件申出がされるまでに、Bから、AをDVの加害者とする支援措置の実施を求める申出を受け、その必要性を確認した上、Bにつき支援措置を開始
⇒本件申出に対し、Bに係る戸籍の附票の写しを交付しないとする本件処分
⇒Xは、Y(橋本市)を相手に、本件処分は裁量権の逸脱・濫用の違法があるとしてその取消しを求める本件訴訟を提起。
<原審>
裁量権の範囲の逸脱し、又はこれを濫用した違法なもの⇒Xの請求を認容。
<判断>
支援措置の運用に関して国が定めた事務処理要領によれば、DVの加害者とされている者からの被害者に係る戸籍の附票の写しの交付申出については、原則として住基法20条3項各号に掲げる者に該当しないとして、同法に基づきこれを拒むとされている。
~
住民のプライバシー保護に配慮するという住基法の目的に合致するとともに、国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に基づきDV被害者の適切な保護を図る責務を果たすという観点からも合理性を有する
⇒住基法の解釈を誤ったものとはいえない。
市町村長は、DV被害者等の保護のための支援措置を講ずることとした場合には、被害者に係る戸籍の附票の写しの交付については、事務処理要領に従って運用し、裁量権を行使すべき。
事務処理要領によれば、
戸籍の附票の写しの交付については、加害者が判明しており、加害者から申出がなされた場合には、住基法20条3項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否するとされ、
利用目的の厳格な審査の結果、特別の必要があると認められる場合にも、加害者に得交付しないで目的を達成することが望ましいとされている。
~
戸籍の附票の写しが交付されることで、被害者の住所等の情報が、加害者に知られるという事態を可及的に抑止しようとするものであり、合理性のあるもの。
加害者の代理人に被害者に係る戸籍の附票の写しを交付した場合、代理人を通じて被害者の住所が加害者に知られるおそれがあることは否定できない
⇒
加害者の代理人からの申出も、原則として加害者本人からの申出に準じた処理がされるのもやむをえない。
本件において、橋本市長は、本件申出がされるまでに、Bから、Aを加害者とし、B自信をDV被害者とする支援措置の実施を求める申出を受け、その必要性について第三者機関(橋本警察署)から意見を聴取して確認した上、Bにつき支援措置を開始した。
本件申出は、加害者としてされているAの代理人(X)からの申出ではあるが、本件処分は、A本人からの申出があった場合に準じて、事務処理要領に定めるところに従い、Aが住基法20条3項各号に掲げる者に該当せず、かつ本件申出が相当なものとは認められないとして、これを拒否。
⇒
裁量権の逸脱・濫用の違法があるとはいえない。
<解説>
全国の市長村長は、支援措置の運用に関し、事務処理要領の定めに従って行っており、これと異なる取扱いをすることは基本的に想定されていない。
支援措置の目的は、DVの加害者等が、戸籍の附票の写しの交付等の制度を不当に利用して被害者の住所を探索することを防止することにあり、被害者の生命・身体を保護するためには被害者の住所情報が加害者側に知られるという事態を可能な限り抑止しなければならない。
本判決:
特に高い倫理性が要求される弁護士が代理人となって申出をした場合でも、加害者本人から申出があった場合に準じて事務処理要領の定めに従って裁量権を行使すべきであって、被害者に係る戸籍の附票の写しを交付しないとした本件処分には裁量権の逸脱・濫用の違法がないと判断。
判例時報2375、2376
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
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