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2018年10月16日 (火)

県議会議長の県議会議員に対する発言の取消命令と司法審査

最高裁H30.4.26      
 
<事案>
愛知県の県議会議員であるXが、県議会議長から、地自法129条1項に基づき、県議会の一般質問における県知事に対する発言の一部を取り消すよう命じられたXは、前記発言は社会通念上相当な内容のものであるなどとして、Y(県)を相手に、本件命令の取消しを求めた
 
<規定>
地自法 第104条〔議長の権限〕
普通地方公共団体の議会の議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表する。

地自法 第129条〔議場の秩序保持〕 
普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終るまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。

地自法 第120条〔会議規則〕
普通地方公共団体の議会は、会議規則を設けなければならない。

地自法 第123条〔会議録〕
議長は、事務局長又は書記長(書記長を置かない町村においては書記)に書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この条及び第二百三十四条第五項において同じ。)により会議録を作成させ、並びに会議の次第及び出席議員の氏名を記載させ、又は記録させなければならない。
 
<判断>
最高裁昭和35.10.19を引用した上で、
地方議会の運営に関する事項については、議会の議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく、その性質上、議会の自律的な権能が尊重されるべきものであり、
法は、議員の議事における発言に関しては、議長に当該発言の取消しを命ずるなどの権限を認め、もって議会が当該発言をめぐる議場における秩序の維持等に関する係争を自主的、自律的に解決することを前提としている。

議事を速記法によって速記し、配布用会議録を関係者等に配布する旨を定めた本件規則の規定は、配布用会議録には県議会議長が取消しを命じた発言を掲載しない旨の規定と併せて、法123条1項が定める議長による会議録の調整等について具体的な規定を定めたものにとどまると解するのが相当であり、
県議会議員に対して議事における発言が配布用会議録に記載される権利利益を付与したものということはできない。 

県議会議長により取消しを命じられた発言が配布用会議録に掲載されないことをもって、当該発言の取消命令の適否が一般市民法秩序と直接の関係を有するものと認めることはできず
その適否は県議会における内部的な問題としてその自主的、自律的な解決に委ねられるべきものというべき
 
<解説>
●裁判所法3条1項の法律上の争訟と司法権の限界

裁判所法 第3条(裁判所の権限)
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

憲法 第76条〔司法権、裁判所、特別裁判所の禁止、裁判官の独立〕 
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

判例・通説:
憲法76条1項の司法権の範囲=裁判所法3条1項の法律上の争訟
と解しており、
判例は、法律上の争訟につき、
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令適用によって終局的に解決することができるもの」と定義。
but
国会ないし各議院の自律権に属する行為や団体の内部事項に関する行為など、
法律上の係争ではあるが、事柄の性質上裁判所の審査に適しないものは、司法審査の対象外であると解されている。
 
●地方議会の内部事項と司法審査の範囲 

判例は、昭和35年最判が、
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰決議について、
裁判所法3条の一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の争訟という意味ではなく
自律的な法規範を持つ社会ないし団体にあっては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも裁判に待つのと適当としないものがあるとし、議員の権利行使の一時的制限にすぎない出席停止の懲罰はこれに該当するとして司法審査の対象外であるとした(除名処分のような議員の身分の喪失に関する重大な事項は、単なる内部規律の問題にとどまらないとした。)。
これに対し、
議員の議場外の個人的行為又は私的紛争についての言動に関する地方議会の懲罰決議等の適否については、司法審査の対象としている。(最高裁昭和28.11.20、最高裁H6.6.21)

判例は、
議員の議場外の個人的行為又は私的紛争についての言動に関する地方議会の懲罰決議等の適否については、一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして司法審査の対象としている
②議員としての行為につき、除名処分のような議員たる身分の得喪に関する処分については司法審査の対象とする一方、
議員の権利行使の一時的制限にすぎない懲罰決議等の適否については、内部規律の問題として自治的措置に任せるのを適当とし、司法審査の対象外としている。

団体の内部事項に関する行為に対する司法審査についての判断について、
その自律性、自主性を支える憲法上の根拠に応じて個別具体的に判断しているものと理解することが可能であり、地方議会については自律権が根拠となるものと考えられる。
 
●本件命令の適否と司法審査 

憲法 第94条〔地方公共団体の権能〕
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

地方公共団体は、地方公共団体が処理する事務を実施すに際して条例を制定することができ(憲法94条)、これは実質的な意味においては、形式的意味における条例のみならず各種規則も含まれるところ、
この条例制定権は「法律の範囲内」に限られること(同条)から、
法120条によりその制定が義務付けられる普通地方公共団体の会議規則も、このような法の規定の枠内で制定し得るものと解するのが相当。

県議会議長が取消しを命じた発言を掲載しない旨を規定した本件規則123条は、議長に議場における秩序の維持等の権限を認めた方104条及び法129条1項の規定を前提として定められたものと解するのが立法者の意思や(地方自治)法との自治体規則との関係に照らして合理的。

本件命令をXに対する制約と解しても、
①県議会議長による発言の取消命令に関しては、法129条1項により、その対象は当該発言部分に限られ、命令に従わないときも、その日の会議が終わるまでの発言を禁止すること等が具体的に規律されており、翌日以降にわたることは許されないと解されている⇒取消命令による効果は一時的な制約にとどまる
②本件規則123条の定める県議会議長による取消命令の対象となった発言が配布用会議録に掲載されない事態は、法104条及び129条1項により議長に議場における秩序の維持等の権限を与え、もって議会が自主的、自律的に解決することにしたことに伴って生じるものであり、議場の公開を促進するものとして議会の外部と接点があるとしても、県議会議員が議事においてした発言の一部が配布用会議録の掲載されないことは、取消命令の対象となった発言部分の公開が制限されるという部分的な制約にすぎず、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる
 
●標準的な会議規則の定めとの関係 

総務省、議会関係者及び学識関係者による検討の結果作成された標準的な会議規則(標準都道府県議会会議規則、標準市議会会議規則)も、本件規則と同様の規定を設けている。

判例時報2377

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