地方自治法92条の2に該当する旨の決定⇒補欠選挙⇒決定取消判決but議員の地位は回復せず
最高裁H29.12.19
<事案>
村議会は、地方自治法127条1項に基づき、Xが地方自治法92条の2に該当する旨の決定。
⇒
Xが、本件決定の取消しを求める訴えを提起した上、これを本案として、行訴法25条2項に基づき、本件決定の効力の停止を求めた。
<事実>
村議会は、平成28年7月14日、本件決定をし、これによりXは議員の職を失ったものとされた。
Xは、同年11月16日、本件訴えを提起。
Xが村議会の議員の職を失ったことに伴う補欠選挙について、平成29年3月21日、その選挙期日を同月26日とすることを告示。
Xは、これに先立つ同月3日、本件訴えを本案として、本件決定の効力を本案の判決の確定まで停止することを求める本件申立て
⇒札幌地裁は、本件補欠選挙の選挙期日の3日前である同月23日、本件決定の効力を本案の第1審判決の言渡し後30日を経過するまで停止する旨の決定(原々決定)。
but
本件補欠選挙は、同月26日にその投票及び開票が行われ、X以外の者が当選。
本件補欠選挙及び前記当選の効力に関し、公選法202条1項又は206条1項所定の各期間内に異議の申出はされなかった。
<規定>
地方自治法 第127条〔失職、資格決定〕
普通地方公共団体の議会の議員が被選挙権を有しない者であるとき又は第九十二条の二(第二百八十七条の二第七項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に該当するときは、その職を失う。その被選挙権の有無又は第九十二条の二の規定に該当するかどうかは、議員が公職選挙法第十一条、第十一条の二若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法(昭和二十三年法律第百九十四号)第二十八条の規定に該当するため被選挙権を有しない場合を除くほか、議会がこれを決定する。この場合においては、出席議員の三分の二以上の多数によりこれを決定しなければならない。
地方自治法 第92条の2〔関係諸企業への関与禁止〕
普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。
<Yの主張>
原々決定に対し、Y(村)が抗告:
本件補欠選挙について所定の期間内に公選法に基づく異議の申出がされなかった⇒Xの議員の地位は回復することができない状態にあり、本件訴えは訴えの利益を欠き却下されるべきであり、本案について理由がない。
<原決定> :
Xは原々決定により本件補欠選挙の投開票がされる前に村議会議員の地位を暫定的に回復⇒同選挙について公選法に基づく異議申出期間が経過したからといって、その地位を喪失することはないとして、Yの抗告を棄却。
<判断>
①公選法に定める選挙又は当選の効力は、同法所定の選挙争訟等の結果無効となる場合のほか、原則として当然無効となるものではない。
②本件補欠選挙について所定の期間内に異議の申出がなされなかった⇒同選挙及びその当選の効力はもや争い得ない。
⇒
Xは、本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって、本件決定時から議員の地位を回復することはできない。
Xは、本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって、本件決定時から議員の地位を回復できなかった時までの議員報酬を請求し得る
⇒本件訴えについては訴えの利益がなお認められる。
but
現時点においてもはや議員の地位を回復できない
⇒本件決定の効力の停止を求める利益はない。
⇒原決定を破棄し、原々決定を取り消した上、Xの本件申立てを却下。
<解説>
●地方公共団体の議会の議員や長を失職させる行為(資格決定、除名処分、不信任議決等)(「失職処分」)が選出され、その選挙や当選の効力についての争訟手段が所定の期間内にとられなかった場合に、失職処分を受けた者はなおその地位を回復することができるのか?
最高裁昭和31.10.23:
村長が議会の不信任議決により失職し、新村長の選挙が行われて他の者が当選した事案:
①公選法に定める選挙又は当選の効力は、同法に定める争訟の結果無効となる場合のほか、原則として当然無効となるものではない。
②新村長の選挙によりその就任が確定し、旧村長はその地位に復する余地はない
⇒旧村長が提起した不信任議決の無効確認を求める訴えは法律上の利益を失う。
最高裁H11.1.11:
町議会議員が議会から除名処分を受けて失職し、その4日後に繰上補充が行われた後に、旧議員が除名処分の取消訴訟を提起するとともに効力停止の申立てをした:
「除名処分の効力停止決定がされることにより同処分の効力は将来に向かって存在しない状態に置かれ、議員としての地位が回復されることになり、これに伴って、除名による欠員が生じたことに基づく繰上補充による当選人の定めは、その根拠を失うことになる
⇒町選挙管理委員会は、効力停止決定に拘束され、繰上補充による当選人の定めを撤回し、その当選を将来に向かって無効とすべき義務を負う。」
旨説示した原審の判断は、正当として是認できる。
~
選挙争訟等の結果によらず当選の効力を否定することを認めたもの。
●本件の事実経過に照らせば、本件補欠選挙について、原々決定により欠員が生じていないこととなったにもかかわらず行われた無効なものであることが異議の申出の事由となる。
~
裁判所の効力停止決定により選挙の実施要件が失われたにもかかわらず選挙が行われたという根本的な瑕疵がある場合には、選挙争訟等において選挙の無効事由として主張しうるとしたもの。
~
救済手段の確保の必要性という点で、本件は平成11年最決の事案とは状況を異にすることになり、このことも考慮して、選挙の法的安定性を重視する昭和31年最判に則った判断をした。
判例時報2375、2376
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