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2018年10月18日 (木)

特例解散制度による解散する厚生年金基金における選択一時金の支給を停止する旨の規約変更の有効性

名古屋地裁H29.2.9      
 
<事案>
平成25年法律第63号による改正前の厚生年金保険法(「旧厚年法」)に基づき設立された厚生年金基金であるYの設立事務所であったA株式会社の従業員又は元従業員であるXらが、Yに対し、Y厚生年金基金規約(平成26年5月21日に厚生労働大臣により認可を受けて改正される前のもの。(「本件規約」))附則に基づく選択一時金の請求⇒Yから、Y代議員会の議決により選択一時金の支給を停止する旨の規約の変更がされたことを理由とする各不支給決定を受けた

本件規約変更はXらの権利を侵害する著しく不当な不利益変更である上、本件規約変更には手続上の瑕疵があるなどと主張して、本件各処分の各取消しを求めるとともに、
本件規約附則に基づき、処分等一覧表「選択一時金額」記載の各金員等の支払を求める事案。 
 
<経緯>
A社は、平成23年2月25日、Yに対し、本件規約に基づいて算出した脱退時特別掛金を納付し、同月28日にYを脱退。
Xらは、同日までYの加入員であったが、A社が同日、Yを脱退したため、同年3月1日、Yの加入資格を喪失。 

平成25年6月19日、保有する年金資産総額が老齢厚生年金の代行部分(基金が国に代わって給付を行う老齢厚生年金の報酬比例部分)の給付に必要な積立額(最低責任準備金)に満たない、いわゆる代行割れ基金の早期自主解散を促して基金制度を原則として廃止することを目的として、「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」が成立し、平成26年4月1日に施行。

Yは、平成26年2月18日開催の通常代議員会で、特別解散制度により解散する旨の解散方針の意思決定を議決し、年金資産保全のために本件規約附則に基づく選択一時金の支給を停止する旨の規約変更をする旨の議決をした。
Yは、同年3月7日、厚生労働大臣に対し、本件規約の一部変更の認可申請をし、同年5月21日、厚生労働大臣の認可を受けた。

Xらは1名(X31)を除き、Yに対し、本件規約附則に基づき、処分等一覧表「選択一時金額」欄記載の各金員を請求したが、Yは、Xらに対し、選択一時金を支給しない旨の本件各処分。
⇒C厚生局社会保険審査官に対し、各審査請求をしたが、C厚生局社会保険審査官は、本件Xらに対し、前記各審査請求をいずれも棄却する旨の各決定。
 
<規定>
行政事件訴訟法 第八条(処分の取消しの訴えと審査請求との関係)
処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない

2前項ただし書の場合においても、次の各号の一に該当するときは、裁決を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。
一 審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないとき。
二 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。
三 その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。
 
<判断> 
●X31の訴えの適法性:
Yがした本件規約に基づく選択一時金を支給しない旨の処分に不服がある者は、社会保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服がある者は、社会保険審査官に対して再審査請求をすることができる一方で、その取消訴訟は、再審さ請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができない旨法定
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X31は審査請求をしておらず、このため社会保険審査会の採決を経ていない

X31に係る処分の取消しを求める訴えは、適法な不服申立てを前置しておらず、行訴訟8条1項ただし書等に基づき、不適法。

X31について「裁決を経ないことにつき正当な理由」(行訴法8条2項3号)があるとはいえない。

X31の訴えを却下。
 
●年金等支給契約の成否 
旧厚年法が厚生労働大臣の認可を通じて基金の規約、設立及び解散を規制

基金、受給者及び事業主の権利・法律関係につき、基金の安定的運営、権利・堡塁津関係の画一的処理等の公益上の要請から、個別の契約ではなく、法令と基金の規約によって規律されるものと解すべき

基金がした裁定等の処分は、行訴法3条2項所定の行政庁の処分と同様の効力を有すると解される。

基金が減少設立事業所の事業主に対してした脱退時特別掛け金の告知や、同事業主による脱退時特別掛金の支払をもって、第三者のためにする契約が成立したとみる余地はなく、本件Xらの裁定を求める「請求」を受益の意思表示と観念する余地もない。

●本件規約変更の効力をXらに対して主張することの可否
①本件規約変更は、代議員会において議決され、厚生労働大臣による認可を受けて適法にされたものであり、Y厚生年金基金規約は、その適用日である平成26年2月18日から適用されるものと認められる。
Yの財政状況や2%の掛金の引き上げにも耐えられないような設立事務所の経営状況などに鑑みるとYの本件規約変更に際しての対応はやむを得ないものであり、信義則違反と評価できるような違法性があるとはいえない
③本件Xらは、平成23年4月15日頃には、選択一時金の請求をすることが可能であったため、その意味では選択一時金を請求する機会が全くなかったわけではない。
本件規約変更は特例解散に伴うものであり、財政状況が悪化している基金において旧厚年法改正法の施行に伴う特例解散を行うという極めて特殊な状況の下では、関係者に相応の負担が生じることを回避することは困難といわざるを得ない。
元加入員に対する手続保障がなければ規約変更の効力が否定されるわけではない

本件規約変更の効力を本件Xらに主張することが信義則違反にんるということはできない


本件Xらの請求を棄却。 
 
<解説>
東京高裁H21.3.25:は、通常の基金において規約変更により具体的に発生している年金受給者の給付額の切下げをした事案であるところ、
本件は、代行割れとなって特例解散をする基金において未発生の選択一時金の支給の停止をした事案
⇒本判決は、両者は事案を全く異にするとし、前掲東京高裁判決が判示した要件を用いることはできないとしている。 

判例時報2377

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