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2018年10月 4日 (木)

会社の上場実現及び維持のために有価証券報告書等の虚偽記載に故意に加担した会計士が所属する監査法人の責任(肯定)

東京高裁H30.3.19      
 
<解説>
株式市場における適正な価格形成の実現には、上場企業が開示する財務・経営に関する情報の真実性、正確性の確保が不可欠。 
金商法は、企業その他の関係者に開示情報の真実性・正確性の確保を求めるとともに、そのエンフォースメンとの持効性を強化する手段として、行政処分、課徴金、刑事責任などとあわせて、民事責任規定(金商法18条、21条、22条、24条の4等)を充実強化
民事責任規定を、被害者救済手段だけでなく、開示規定違反行為の抑止手段とするという立法意思は明確であって、民事責任規定による巨額の賠償リスク・倒産リスクは、違法行為抑止の手段として位置付け。
 
<事案>
公認会計士が企業の粉飾決算に故意に加担した事案であり、
有価証券報告書等に係る金商法193条の2第1項に規定する監査証明において、財務諸表等の記載が虚偽でない旨の監査証明をした公認会計士の所属する監査法人が、金商法の賠償責任を問われた事案。 
監査証明時に当該公認会計士が所属していた監査法人を吸収合併した別の監査法人が被告⇒監査法人のM&Aのリスクを示す。
 
<経緯>
株式会社Aの上場実現のため、C監査法人所属のB公認会計士とA社の社長らは共謀して、故意に、財務諸表中の売上高や利益の額の大幅な水増しという粉飾決算を実行
A社は、粉飾した財務諸表を提出して上場審査を受け、平成17年12月にJASDAQ市場への上場を実現。 
A社は、上場の際株式の募集や売出し等のために、平成17年11月に有価証券届出書(金商法4条、5条)を提出。
A社は、上場企業の義務として、平成18年9月に有価証券報告書(金商法24条)を提出。

売上高や利益の額を大幅に水増しするという粉飾が施された財務諸表が添付されていた。

C監査法人所属のB公認会計士は、故意に粉飾に加担していたにもかかわらず、これらの有価証券届出書や有価証券報告書に係る金商法193条の2第1項に規定する監査証明において、財務諸表等のj記載が虚偽でない旨の監査証明。
平成18年10月に、Y監査法人はC監査法人を吸収合併し、公認会計士法34条の19第4項の規定により、C監査法人の権利義務を承継。

A社は、証券取引等監視委員会の調査を受けて粉飾の事実を摘発され、平成20年9月19日に証券取引等監視委員会がA社の粉飾決算の事実を公表。
A社の株価は公表前の200分の1未満の水準まで暴落し、同年10月27日に上場廃止
⇒民事再生法による再生計画(再生型の再生計画)の認可を経て、最終的に破産手続開始決定。

株主らが原告となり、C監査法人を吸収合併したY監査法人に対して株価の下落による損害の賠償請求
をした。
 
<根拠規定>
(ア)平成17年11月の有価証券届出書提出後に上場の際の株式募集や売出しに応じてA株を取得⇒金商法21条 
(イ)平成17年11月の有価証券届出書提出後、かつ同年12月の上場後に、JASDAQ市場でA株式を取得⇒金商法22条
(ウ)平成18年9月の有価証券報告書提出後にJASDAQ市場でA株式を取得⇒金商法24条の4((イ)でも請求可)
 
<原審>
請求を全部棄却 
 
<判断>
請求の大部分を認容 
 
<判断・解説> 
●要件
金商法21条等の規定する要件(重要な事項についての虚偽の記載)の該当性をみるのに、有価証券届出書や有価証券報告書中の財務諸表に赤黒転換(真実は赤字なのに黒字と虚偽記載)
重要事項に虚偽記載あり。 

金商法21条1項3号の要件も満たす。

金商法21条の責任を追及する場合には、同条2項2号において故意過失がなかったことを、免責を求める賠償義務者側の立証責任
としている。
⇒本件では不適用。

金商法22条及び24条の4の責任を追及する場合には、賠償権利者側が虚偽記載について善意であることの立証責任を負う
本判決:善意の証明あり。
 
●損害額
株式の取得価額の全額を損害算定の基礎とした
粉飾の事実が上場審査時に発覚したらA社株式の上場は実現しなかった。 

有価証券報告書中の重要事項の虚偽記載があった場合の損害算定が問題となった西武鉄道最高裁判決(最高裁H23.9.13):

株式の取得価額の全額を損害算定の基礎とした上で、
「株式取得価額と株式処分価額又は事実審口頭弁論終結時の株式価格との差額」を算定し、更に
「虚偽記載に起因しない価額の下落分(経済情勢、市場動向、当該会社の業績等に起因する価額の下落分)」があればこれを控除する
という考え方。

◎ 本判決:
公表後事実審口頭弁論終結時(上場廃止時)までに処分(売却)した株式の前記①の段階の損害額算定:
株式取得価額から処分(売却)価額を控除した額を、この段階の損害算定額とした。

公表後事実審口頭弁論終結時までに処分できずに保有し続けている株式の前記①の段階の損害算定:
事実審口頭弁論終結時の株式価格がゼロ円と判断⇒株式取得価額をそのまま損害算定額とした。

◎前記②の段階の損額算定:
虚偽記載に起因しない価額の下落分(経済情勢、市場動向、当該会社の業績等に起因する価額の下落分)については存在しない(存在するとしても、損害額の算定上無視し得る程度の微々たるものにすぎない。)と判断。
⇒前記②の段階において控除すべき金額はない。 

西武鉄道最高裁判決の事実関係との相違:

西武鉄道事案:
上場廃止後も金融機関からの信用を失わず、倒産状態にも陥らず、中心的事業の経営が継続され、その後の企業再編を経て上場廃止企業の完全親会社が株式再上場を果たしている
上場廃止後も株式は無価値になっておらず、株価に影響を与える他の要因も検討する必要があった。

本件:
A社は上場廃止時には粉飾の発覚により金融機関からの信用を全面的に失い、
倒産状態
に陥った。
清算型の再生計画が認可され、上場廃止後の株式は無価値になった。

前記②の段階において控除すべき金額はない。

粉飾公表時期がいわゆるリーマンショックによる株価水準一般の暴落時機と重なった。
but
公表後上場廃止時までのA社株式の株価の推移を具体的かつ詳細に事実認定した上で、
リーマンショックの影響とは無関係に、A社が倒産して株式が無価値になるという市場参加者一般の予測により、A社株式は公表前の株価よりも99.5%以上も下落したと認定判断

判例時報2374

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