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2018年10月 6日 (土)

東京電力福島第一原発京都訴訟第1審判決

京都地裁H30.3.15     福島第一原発事故の避難者集団訴訟のうち、4件目の判決
 
<事案>
Xら174名が、Y1(東京電力ホールディングス㈱)に対しては、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項又は民法709条に基づき、Y2(国)に対しては国賠法1条1項に基づき、それぞれ損害賠償を求めた。
 
<特徴>
Xらのうち、文科省の原子力損害賠償紛争審議会が自主的解決に資するために定めた中間指針の「避難指示等対象区域」の住民が2名のみ
その大半は同中間指針追補が定める「自主的避難等対象区域」の住民
そのほか、自主的避難等対象区域にも含まれない地域の住民が複数含まれる。
Xらが賠償を求める損害は、慰謝料にとどまらず、避難にかかる実費逸失利益等も含んでいる

責任論の判示だけでなく、
前記住民の避難が本件事故と相当因果関係があるか(避難の相当性)、また、避難の相当性が認められるとしても、どの範囲まで損害賠償が認められるか
の判示。
 
<判断> 
●予見可能性の有無 
津波の到来について、Y1及び経済産業大臣のいずれも予見可能性も肯定

予見の対象となる危険は、その趣旨からして、回避措置をとり得る程度に具体的であれば足りる
⇒現実の到来した津波と同程度までは不要であり、敷地高を超える津波の到来で足りる

政府の特別機関として設置された地震本部が公表した「長期評価」の信頼性が問題となったが、
Y1や経産大臣が注意を払うべき最新の知見とは、必ずしも統一的通説的見地である必要はなく、長期評価は、地震に関するY2の専門機関が地震防災のために公表したものであり、学者や民間団体の位置見解とは重要性が明らかに異なる公式的見解
⇒学者間の異論の存在を理由に検討にも値しないものとはいえず、疑問点があればその払拭も含めて、積極的に検討を行うべきであった
⇒同見解をもとに予見可能性を肯定。
 
●Y1の責任について
Y1の予見可能性を肯定した上で、
津波を回避する対応(防護壁の設置や電源設備の水密化・高所配置)を怠ったことは義務を果たすには十分ではなかった⇒通常の過失は認められる。
but
故意と同視できる重過失までは認められない⇒慰謝料の増額事由とはならない
原賠法の趣旨に鑑み、民法709条の責任の成立も否定。
 
●Y2(国)の責任について 
◎権限不行使の違法性を検討する前提として、経産大臣の規制権限の有無を検討。
権限不行使の違法性を認めた上で、Y2の責任範囲についても言及。

◎経産大臣の規制権限の有無について、
いわゆる段階的規制論を前提に、
経産大臣は、原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の安全にかかわる規制権限を有しなかったとのY2の主張に対し、
電気事業法の文言上も権限が詳細設計の場合に限ると明文で規定されているとはいい難く
実質的に考えても、安全確保のためには基本設計部分にも対応する必要がある
経産大臣は、津波対策に関して電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を行使することができた

核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)上の権限にも言及し、
経産大臣はY2が行政指導に従わない場合には、炉規法に基づく設計許可を取り消し、又は原子炉の運転の一時停止を命じることができる。

◎権限不行使の違法性について 
①法の趣旨・目的、②原子力災害の重大性、③予見可能性の程度、④結果回避可能性、⑤権限の性質・影響等、⑥現実に実施された措置の合理性、⑦防災対策に対する意識の高まりとその認識
⇒これらを踏まえると、どれほど遅くとも、平成18年末時点においては、経産大臣は権限行使をすべきであり、権限不行使は違法

最高裁は、従来、
①規制権限の定めた法が保護する利益の内容及び性質、②被害の重大性及び切迫性、③予見可能性、④結果回避可能性、⑤現実に実施された措置の合理性、⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性)、⑦規制権限行使における専門性、裁量性などの諸事情を総合的に検討して、違法性を判断。

●Y2の責任範囲について 
Y1の原賠法上の責任とY2の国賠法上の責任について、いずれもが損害全額に寄与した
共同不法行為の成否にかかわらず、賠償責任としてもY2は、Y1とともに、Xらに対し全額について責任を負う

過去の裁判例:
規制を受ける者が一次的責任を負うべきであり、国は二次的、補充的な責任を負うのみ

国の責任の範囲を4分の1や3分の1等であるとして限定的に解するものが多い。
but
本判決:
Y2の二次的、後見的立場は、Yら間の負担割合に影響するとしても、Xとの関係では責任は限定されない
⇒責任範囲を限定すべきとするY2の主張を排斥。
 
●避難の相当性について 
ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告内容である公衆被ばくに関する線量限度の年間1mSvを超える地域からの避難及び避難継続が全て相当であるとするXらの主張を排斥しながらも、
政府の策定した年間追加被ばく20mSvという基準も、避難指示の基準としては一応合理性を有するが、そのまま避難の相当性を判断する基準ともなり得ない。

そもそも、避難の相当性の判断は、科学的判断そのものではないし、政策判断そのものでもなく、
原子炉の運転等により、原子力損害が生じたといえるか、すなわち本件事故の結果として、当該原告が避難することが相当因果関係のある避難であり、原子力事業者等に損害賠償責任を負わせるべきであるかという法的な判断


低線量被ばくの場合であっても、避難者が放射線に対する恐怖や不安を抱き、放射線の影響を避けるために避難し、その非難が当事者のみならず、一般人からみてもやむを得ないものであって社会通念上相当といえる場合には、本件事故と当該避難との間には、相当因果関係が認められる
いわゆる自主的避難であっても、個々の属性や置かれた状況によっては社会通念上相当である場合はあり得る。

その判断は、
①避難指示等対象区域居住者、②自主的避難等対象区域居住者、③①及び②の区域外居住者に区別し、それぞれに判断を基準や考慮要素を設定し、
②はおおむね避難時期によって、
③はそれに加えて、福島第一原発からの距離や各区域との近接性、放射線量に関する情報、自主的避難者の多寡、避難した世帯に子どもや放射線の影響を特に懸念しなければならない事情を持つ者がいるかなどの事情を踏まえて、個別具体的に検討。
⇒Xら174名中、149名について避難が相当。
 
●損害の範囲 
避難が相当⇒自主的避難の場合であっても、避難後、避難生活の継続することもやむを得ないとして、避難時から2年経過までに生じた損害も、本件事故と相当因果関係のある損害と認めている

直接請求やADR手続で用いられている基準等や、同手続で認められた損害を、事実上の推定を用いて、本判決でも損害額の認定に用いることができる。

各損害項目(避難交通費、一時帰宅・面会交流交通費、世帯分離による生活費増額費用、家財道具購入費用、就労不能損害・営業損害など)やADR手続等により既払金の充当については、
全体の方針を立て、それをあてはめる形で、Xらを世帯ごとにわけて、認定判断

慰謝料について、
概ね中間指針等を踏まえた判断(自主的避難等の場合は額を増額)となっているが、区域外の住民にもそれぞれの状況に応じた慰謝料を肯定。

判例時報2375、2376

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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