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2018年10月15日 (月)

内閣官房報償費の支出に関する行政文書をめぐる情報公開訴訟

最高裁H30.1.9    

<事案>
Xが、平成25年1月1日から同年12月31日までの期間(第二次安倍内閣、菅官房長官)における同支出に関する行政文書のうち、
①政策推進費受払簿、②支払決定書、③出納管理簿、④報償費支払明細書、⑤領収書、請求書及び受領書の各文書(「本件文書」)に記載された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)5条3号及び6号所定の不開示情報(国の安全等に関する情報、事務又は事業に関する情報)に当たるとしてされた不開示決定の取消し及び本件各文書についての開示決定の義務付けを求める事案。
 
<解説>
内閣官房報償費:
内閣官房の行う事務を円滑かつ効果的に遂行するために、当面の任務と状況に応じて機動的に使用することを目的とした経費として、毎年予算措置が講じられているものであり、その取扱いについて定めた基本方針等によれば、
内閣官房報償費の執行は、
政策推進費(施策の円滑かつ効果的な推進のため、内閣官房長官としての高度な政策的判断により、機動的に使用することが必要な経費)
調査情報対策費(施策の円滑かつ効果的な推進のため、その時々の状況に応じた必要な情報を得るために必要とされる経費)
活動関係費(政策推進、情報収集等の活動が円滑に行われ、所期の目的が達成されるよう、これを支援するために必要な経費)
の3つの目的類型ごとに、それぞれの目的に照らして行うものとされている。
 
<規定>
情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない

三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
 
<判断>
①政策推進費受払簿、③出納管理簿及び④報償費支払明細書に記録された情報のうち、調査情報対策費及び活動関係費の各支払年月日、支払金額等を示す情報は、情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に当たる

政策推進費の繰り入れの時期及び金額、一定期間における政策推進費又は内閣官房報償費全体の支払合計額等を示す情報は、前記各号所定の不開示情報に当たらない

①政策推進費受払簿の全部並びに、
③出納官吏簿及び
④報償費支払明細書
のうちそれぞれ調査情報対策費と活動関係費の各支払決定に係る記録部分を除いた部分についての不開示決定を取り消すとともに、
これらについての開示決定を命じた。
 
<解説>
本件では、情報公開法5条3号及び6号所定の各不開示事由の有無が問題
but
それについて説示した最高裁判例はない。 

内閣官房報償費の支出の対象となる事柄の性質や、これらに関する情報が開示された場合の支障等について一般的な説示をした上で、
当該文書または部分に記録された情報から内閣官房報償費の支払相手方や具体的使途が明らかになり、あるいはこれらを相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるかどうかという観点から、
情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報該当性について判断
but
どこまでの情報が明らかになれば支払相手方等を相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるといえるかという点で、(下級審での)それぞれの見解に相違。

本判決の判断は、あくまでも本件各事件の対象となった本件各文書の記載の形式や内容、不開示決定がされた当時における社会の状況等の諸事情を前提としたものこれらの事情に変化があれば、同じ内閣官房報償費の支出に関する行政文書であっても、異なる判断となることがあり得る

判例時報2377

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