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2018年10月

2018年10月31日 (水)

ツイッターのアカウント全体の削除を求めた仮処分が認容された事例

さいたま地裁H29.10.3      
 
<事案。
債権者は、他人が開設したツイッターのアカウントにおいて、債権者が元AV女優Bと同一人物である旨の虚偽の事実が摘示されて名誉権が侵害されていると主張⇒米国のツイッター社に対し、人格権に基づく妨害排除請求権に基づき、アカウント全体の削除と返信ツイートとして投稿された記事の削除を求めて、仮の地位を定める仮処分命令の申立て。 
 
<判断>
本件アカウントは、アカウント名、プロフィール欄の記載、ヘッダ画像及び投稿記事の全てにおいて、債権者が本件アカウント開設したかのように装い偽った上で、閲覧者に対し、債権者が元AV女優であって、投降した画像のアダルトビデオに出演しているかのよな印象を与え、かつ、債権者がそのような画像を投稿したかのような印象を与えることを目的として、開設され表現がされた。

アカウント全体が、どの構成部分をとってみても、債権者の人格権を侵害することのみを目的として、明らかに不法行為を行う内容の表現である。

アカウント全体が不法行為を目的とすることが明白であり、これにより重大な権利侵害がされている場合には、権利救済のためにアカウント全体の削除をすることが真にやむを得ないものというべきである。

例外的にアカウント全体の削除を求めることができる
 
<解説>
名誉権の侵害のおそれを理由に出版を差し止めるなどの表現行為に対する事前抑制は、
表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法21条の趣旨に照らし、
厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうる。(最高裁昭和61.6.11) 

人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができ
どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、
侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為によって受ける被害者側の不利益と
侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較考量して決すべき
であり、
侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるとき侵害行為の差止めを肯認すべき。
(最高裁H14.9.24)

本件:
アカウント全体の削除が表現行為の事前差止めの性質も含む点を考慮して、表現行為の事前抑制に関する判例の趣旨を踏まえ明白かつ重大な権利侵害があることを要件として、例外的にアカウント全体の削除を認めた

民事保全規則9条2項6号に基づき、理由ではなく、理由の要旨を記載。

仮処分決定は、債務者の審尋がされた当日中に無担保で発令

判例時報2378

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2018年10月29日 (月)

株主構成を変化させることで退職慰労金支給決議を再度成立させることを目的⇒訴え提起と独立当事者参加の申立てが訴権濫用として却下された事案

東京地裁H29.10.5      
 
<事案>
Xは、妻Aの父(亡B)及び母(亡C)が設立した「有限会社D」の株主であると同時に代表者。

Aの両親が死亡した後、他の株主である長男Y1(亡Bと亡Cの長男)と亡長女の子Y2(亡Bと亡Cの相続の代襲相続人)を被告として、
X、独立当事者参加人(株式会社E)及びY1らが共有する本件株式(もともと亡B及び亡Cが保有していたD社の普通株式計750株)の分割を求めた。 
X、Y1及びY2は、亡B及び亡Cの相続により、本件株式について各3分の1の割合の準共有持分を有しているが、遺産分割は未了。
Aは、Xに対し、平成28年2月24日付けで、本件株式の持分3分の1を455万9000円で譲渡し(「本件第1譲渡契約」)、X及びAは、参加人Eに対し、平成28年4月4日、Xが有していたD社の株式750株及び本件株式のXの持分3分の1などを1株当たり1万6688円で譲渡した(「本件第2譲渡契約」)

D社においては、平成27年4月30日に、Aに対して8300万円の退職慰労金を支払う旨の株主総会決議(「退職慰労金支給第1決議」)等がされ、平成28年4月18日には、本件第2譲渡契約を承認する旨の決議(「本件譲渡承認決議」)がされ、同月26日には、退職慰労金支給第1決議の取消が確定することを停止条件として、Aに対して退職金8300万円を支給し、その効力を平成27年4月30日に遡って生じさせる旨の決議(「退職慰労金支給第2決議」)をしている。

尚、平成28年3月25日には、退職慰労金支給第1決議について、特別利害関係人であるAが議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとき(会社法831条1項3号)に当たるとして、これを取り消す旨の判決がされている。
 
<判断>
本件第1及び第2譲渡契約については、株主構成を変化させて、Aに対する退職慰労金支給決議を再度成立させることを目的としてされたものであり、
被告Y1を本件株式の権利行為者とする指定の効力が争われている状況下で本件訴訟が提起

本件第1及び第2譲渡契約による株主構成の変更に加え、本件株式の一部について独立して議決権を行使することができる状況を作出することによって、前記目的を実現することを企図している。

Xによる本件訴訟の提起及び参加人の独立当事者参加について、訴権の濫用に当たるとして、これらを不適法却下。 
 
<解説>
●私権と訴権
訴権:
「公法的訴権説」で「本案判決請求権説」通説。
 
●裁判を受ける権利と訴権 
憲法32条は「裁判を受ける権利」を保障する。

①裁判を受ける権利(憲法32条)、
②司法権の範囲(憲法76条1項)、
③法律上の争訟(裁判所法3条1項)、
④裁判の公開(憲法82条1項)
については、判例は、これらを同じ次元で考える「四位一体」論をとっている(最高裁H10.12.1)。
 
●私権の濫用と訴権の濫用
本件:
Aに多額の退職慰労金を支給する目的で、その支給を決議した株主総会決議が不当であるとして取消判決がされたにもかかわらず、その取消事由である特別利害関係株主(A)による議決権行使を回避するために株式譲渡を行った上で、本件共有物分割の訴えを提起⇒訴権の濫用を理由にXの請求を却下
but
原告の権利行使が権利濫用と認めらる場合、
その権利行使のために訴訟を提起したときは、
「私権の濫用」(請求棄却)とするか
「訴権の濫用」(訴え却下)とするか
について争いがあり、
訴権濫用とする場合の処理についても、
その訴訟での主張が信義則に反するとするのか、
訴え提起自体を不適法とするのか
などについても、議論がある。

①訴権は、裁判を受ける権利と類似した権利であり、裁判を受ける権利が基本権を保障するための基本権であって、実定法上、「法律上の争訟」(裁判所法3条)であれば、全ての訴えにつき裁判を受けることが認められている

訴えを却下して裁判を受ける権利を否定するかのごとき処理は問題が多い

請求棄却⇒請求権の不存在について既判力が生じる。
訴え却下⇒それについて既判力が生じない。

判例時報2378

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2018年10月28日 (日)

署名のある媒介契約書の成立の真正の推定が覆された事案

大阪高裁H30.3.8      
 
<事案>
Xが、Yとの間のY所有不動産売却についての一般媒介契約に基づくXの媒介行為により、同不動産の売買契約が成立した⇒本件媒介契約に基づき、約定報酬54万4320円と遅延損害金の支払を求めた。 
 
<一審・二審>
本件媒介契約に関する本件媒介契約書は、Yの署名がある⇒真正に成立したものと推定され、これを覆すに足りる証拠はない
本件売買契約は、Xの媒介契約により成立⇒Xの請求を認容。
 
<判断>
①Yは、他の書類には押印までしたにもかかわらず、あえて本件媒介契約書についてのみ押印しなかったことからすれば、Yには本件媒介契約を締結する意思がなかったことを示すものというべき
②売買契約締結時には、売買代金の決済は行われたが、X側が、売買代金から媒介報酬を控除してYに支払うという処理をしなかった⇒Yが本件媒介契約書への押印を拒否することによって、本件売買契約を締結しない意思を明らかにし、媒介報酬の支払に応じなかったことを示すというべき
本件売買契約締結に至る経緯・・・・⇒Yにおいて、本件売買契約締結に至ったことについて、Xに媒介報酬を支払う意思がなかったため、本件媒介契約書への押印を拒絶したと考えても、格別不自然なことではない。

Yは本件媒介契約を締結する意思がなかったため本件媒介契約書への押印を拒んだものと認められYの署名があることによる本件媒介契約書が真正に成立したとの推定は覆されているというべき。 
 
<規定>
民訴法 第228条(文書の成立)
文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する
 
<解説>
文書に記載された意味内容が証拠に用いられるためには、その文書が真正に成立したものでなければならない。
文書が成立したことは、文書が挙証者の主張する作成者の意思に基づいて作成されたことを意味する。 

押印のある私文書の作成について、推定が破れる事例としては、
印章の紛失、盗難などの盗用型
印章が冒用された場合の冒用型
署名のある私文書については作成が否定された事例は見当たらない。

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2018年10月27日 (土)

改良住宅の入居者が死亡した場合の使用権の承継と京都市市営住宅条例

最高裁H29.12.21      
 
<事案>
本訴:Xが、京都市所有の改良住宅(住宅地区改良法2条6項)である本件住宅を使用する権利をXの母Aから承継したなどと主張しして、京都市に対し、本件住宅の使用権及び賃料額の確認等を求めるもの。
反訴:京都市が、本件住宅を占有するXに対し、所有権に基づく本件住宅の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を求めるもの。 

<事実>
Aは、平成20年1月、改良住宅に入居させるべき者(同法18条)として本件住宅の引渡しを受けて本件住宅に居住していたが、平成25年9月に死亡。
Xは、平成22年5月頃から母Aを介護するため本件住宅に同居していたが、京都市長に対し、京都市市営住宅条例23条1項に規定する同居の承認を申請しなかった
 
<規定>
施行者は、国の補助を受けて建設された改良住宅の管理について必要な事項を条例で定めるものとされており(住宅地区改良法29条1項、公営住宅法48条)、
条例24条1項は、改良住宅の入居者が死亡した場合において、その死亡時に当該入居者と同居していた者で、同居の承認を受けて同居している者等は、市長の承認を受けて、引き続き当該改良住宅に居住することができる旨を規定。 
 
<争点>
改良住宅の入居者Aの相続人であるXが、改良住宅の使用権を相続により承継したといえるか否か。 
 
<原審>
公営住宅の入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅の使用権を当然に承継するものではないと解されるところ(最高裁H2.10.18)、
住宅地区改良法の規定およびその趣旨に照らすと、改良住宅の入居者が死亡した場合についても、当該入居者の相続人が改良住宅の使用権を当然に承継すると解する余地はない。
②本件条例24条1項は、同法の規定の趣旨に違反するとはいえない。

民法等による相続の一般法理が適用されるとするXの主張は理由がないとして、Xによる本件住宅の使用権の承継を否定。 
 
<判断>
住宅地区改良法の規定及びその趣旨
国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合における使用権の承継については、民法の相続の規定が当然に適用されるものと解することはできず施行者が、住宅地区改良法の規定及びその趣旨に違反しない限りにおいて、改良住宅の管理について必要な事項として、条例で定めることができるものと解される。 

本件条例24条1項の趣旨は、改良住宅が、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失った者等の居住の安定を図る趣旨のものであることを踏まえて、改良住宅の入居者が死亡した場合の使用権の承継を、その死亡時に当該入居者と同居していた者で、市長の承認を受けて同居している者等に限定したものと解することができる。

本件条例24条1項は、住宅地区改良法の規定及びその趣旨に照らして不合理であるとは認められないから、同法29条1項、公営住宅法48条に違反し違法、無効であるということはできない。
 
<解説> 
改良住宅の入居後の使用関係については、基本的に私人間の建物賃貸借関係と異なるところはなく、原則として一般法である民法及び借地借家法の適用があるものと解される。(公営住宅に関するものであるが、最高裁昭和59.12.13) 

国の補助を受けて建設された改良住宅の管理等については、公営住宅法の規定の多くが準用されているところ(住宅地区改良法29条)、
公営住宅については、公営住宅法の規定の趣旨から、その入居者の相続人は、被相続人の有していた当該公営住宅の使用権を当然に承継すると解する余地はないとの判断がされており(最高裁H2.10.18)、同最判は、公営住宅法を公営住宅の使用権の相続を否定した特別法であると位置づけたものであると理解されている。

原審:
基本的に、住宅地区改良法を改良住宅の使用権の相続を否定した特別法であると位置付けたもの。
 
●but
改良住宅は、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失う改良地区内の居住者を対象として建設されるものであり、住宅に困窮する低額所得者一般に対し、公募による入居者の募集手続を経た上で賃貸される公営住宅とは、その趣旨目的が異なる

公営住宅の入居者が死亡した場合についての入居の承継を規定した公営住宅法27条6項は、改良住宅には準用されておらず、住宅地区改良法の制定時の国会審議においては、政府委員から「親子の代が変わるという場合には、そのまま引き継いで入居できる」と説明がされている。

同法の解釈として改良住宅の使用権について「当然に承継すると解する余地はない」とまではいえない。 

住宅地区改良法18条は、改良住宅に入居させるべき者について「住宅に困窮すると認められるもの」に限定しており、住宅地区改良事業に伴い住宅を失った者等の全てについて無条件に改良住宅への入居を認めているものではない。
改良地区内の居住者が従前の住宅につき有していた所有権その他の権利に対しては、施行者が金銭をもって補償することが予定されている(同法11条1項、16条1項)。

改良住宅への入居は、前記事業に伴い住宅を失った者等に対する権利の補償としてではなく、あくまでもその居住の安定という社会政策的な措置として認められたもの。

住宅地区改良法は、改良住宅の使用権の相続を認めたものであるとまで解することは困難であって、その使用権の承継については、住宅地区改良法の規定の趣旨に照らして制定されるべき条例に委ねたものと解するのが相当

判例時報2378

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2018年10月26日 (金)

抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける⇒当該抵当権自体の消滅時効

最高裁H30.2.23      
 
<事案>
Xは、平成13年2月13日、その有する建物共有持分について、債務者をX、根抵当権者をY、債権の範囲を金銭消費貸借取引などとする根抵当権を設定するとともに、Yとの間で金銭消費貸借取引契約を締結し、平成17年11月24日、破産手続開始の決定(同時廃止)を受けた。 
Xが破産手続開始の決定⇒本件根抵当権の担保すべき元本が確定
その後、Xは、免責許可の決定を受け、同決定は、平成18年2月24日に確定
Xが、本件貸金債権につき消滅時効が完成し、本件根抵当権は消滅したなどと主張して、Yに対し、本件根抵当権の設定仮登記の抹消登記手続を求めた。
 
<規定>
民法 第396条(抵当権の消滅時効) 
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。

民法 第167条(債権等の消滅時効)
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
 
<原審>
①本件貸金債権は、免責許可の決定の効力を受ける債権⇒消滅時効の進行を観念することができない。
②民法396条により、抵当権は債務者及び抵当権設定者に対してはその担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しない

Xの請求を棄却。
 
<判断>
原審の前記①の判断は是認することができる。

前記②の判断は是認することができない。
「抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には、民法396条は適用されず、債務者及び抵当権設定者に対する関係においても、当該抵当権自体が、同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかる」
以上のことは担保すべき元本が確定した根抵当権についても同様に当てはまる。
本件根抵当権の行使することができる時から20年を経過していないことは明らか
⇒Xの請求を棄却すべきもの。

原審の判断は、結論において是認することができる。
⇒上告を棄却。
 
<解説>
●破産法 第253条(免責許可の決定の効力等)
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

免責の法的性質:
〇A:その責任が消滅するのであって債務は消滅せず、自然債務として残存する。
B:債務そのものが消滅する。

破産手続きによらないで行使することができる別除権(破産法2条9項、65条1項)が免責の効力を受けないことは、当然のことであると解されている
 
●主債務者である破産者が免責決定を受けた場合に、免責決定の効力の及ぶ債務の保証人がその債権についての消滅時効を援用することができるか? 

最高裁H11.11.9:
免責決定の効力を受ける債権は、債権者におて訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり、右債権については、もはや民法166条1項に定める『権利を行使することを得る時』を起算点とする消滅時効の進行を観念することがきない。⇒破産者が免責決定を受けた場合には、右免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することはできないと解するのが相当。
 
●本判決:
民法396条は、その文理に照らすと、被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提とすることを前提としているものと解するのが相当

そのように解さないと、いかに長期間権利が行使されない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在することになるが、民法がそのような抵当権の存在を予定しているものとは考え難い。 
 
抵当権自体の消滅時効があり得る場合のその時効期間は、民法167条2項により20年であるとするのが一般的な見解。 

大判昭15.11.26:
後順位抵当権者及び抵当物件の第三取得者に対しては、抵当権は同項により20年の消滅時効にかかる。

東京高裁H11.3.17:
法人の破産手続が終結した場合に当該法人に対する債権を担保する根抵当権の消滅時効が問題となった事案において、
当該法人に対する債権は消滅するが、
独立して存続することになった根抵当権については、同項により20年の消滅時効にかかる。

A:抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合の抵当権自体の消滅時効は被担保債権の種類に応じて、5年や10年
vs.
①そのように解することは、前記(免責)の場合にも被担保債権の消滅時効の進行を観念することに等しいものであって、その判断と相いれない。
②法に規定のない消滅時効の制度を創設することになる。
⇒採用できない。

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2018年10月25日 (木)

一審:心神耗弱(弁護人争わず)⇒控訴審:心神喪失で無罪

東京高裁H28.5.11    
 
<事案>
被告人(当時31歳)が、弟(当時28歳)及び祖母(当時89歳)に対し、それぞれ、頚部、腹部等を果物ナイフで多数回突き刺すなどして殺害したという殺人2件の事案。 

<一審>
裁判員裁判で、被告人の責任能力に対し、心身耗弱であったことについて検察官と弁護人との間に争いがなく、量刑のみが争点。

検察官:懲役10年を求刑
弁護人:刑の執行猶予の意見
弁護人の主張に対する判断を示すことなく、被告人の精神症状を簡潔に説示した上、被告人は、本件当時、「広汎性発達障害と妄想型統合失調症が複雑に絡みつつ発展した精神障害により心神耗弱の状態にあった」と判示して、法律上の軽減を行った上で、懲役8年。
   
被告人が控訴。

控訴人の弁護人:
被告人は本件当時心神喪失であったから原判決には事実誤認がある。
量刑不当。
を主張。
 
<判断>
第1審判決について
悪魔に関する妄想の圧倒的な影響をうかがわせる、犯行態様の執拗性、過剰性、異常性に関する事情及び犯行に至る経緯における事情が多数認められるにもかかわらず、これらを適切に考慮することなく、また、・・合理的とはいえない起訴前の精神鑑定に依拠して心神耗弱の認定

論理則、経験則等に照らして不合理な認定をしたものと言わざるを得ず、事実誤認がある。

第1審判決を破棄し、心神喪失であることについて合理的な疑いがある⇒無罪。
 
<解説>
●心神喪失・心神耗弱の認定
◎ 心神喪失と心神耗弱とは、いずれも精神障害の態様に属するものであるが、その程度を異にする。

心神喪失:
精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力がなく又はこの弁識に従って行動する能力がないことを指称

心神耗弱:
精神の障害がいまだ前記の能力を欠如する程度に達していないが、その能力が著しく減退した状態を指称。

(大判昭和6.12.3)
心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは、法律判断
⇒専ら裁判所にゆだねられるべき問題。

その前提となる生物学的、心理学的要素についても、法律判断との関係で究極的には裁判所の評価に委ねられるべき問題。(最高裁昭和58.9.13)

生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度:
その診断が臨床精神医学の本分
⇒専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべき。(最高裁H20.4.25)
but
鑑定の前提条件に問題があるなど、合理的な事情が認められれば、裁判所はその意見を採用せずに、責任能力の有無・程度について、被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判断することができ、
特定の精神鑑定の一部を採用した場合においても、当該意見の他の部分に事実上拘束されることなく、前記事情を総合して判定することができる。(最高裁H21.12.8)

文献。
 
●本判決の位置付け 
①犯行に至る経緯や犯行状況は、悪魔に関する妄想の圧倒的な影響が強く疑われることを指摘。
②D1意思やD2医師の証人尋問等の事実調べを行い、
③被告人の成育歴、家庭環境等を検討。

本件犯行の態様や犯行動機の異常性について妄想型統合失調症に起因する「一時的妄想」の影響を重視し、
本件犯行が広汎性発達障害によるもので、妄想も「二次的妄想」による影響が大きいとしたD1医師の鑑定の推論過程等を合理的でないとした。

検察官の主張(動機は了解可能である、犯行態様は合目的的である、被告人の統合失調症の症状は重症化していない、犯行当時の妄想の確信度は低く、事後的に妄想追想によって体系化されて確信度が高まった)を踏まえて検討しても、被告人は、保険当時、心神喪失であった合理的な疑いがある。

心神喪失・心神耗弱の認定は、究極的には、裁判所に委ねられるべき問題

裁判所は、たとえ、心神耗弱であることについて、検察官と弁護人の間に争いはなく、公判前整理手続において心神喪失や心神耗弱の問題が積極的に争点とされなかったとしても、後半審理における証拠調べに基づき、鑑定に対する評価を含め、慎重に判断することが求められる

判例時報2377

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2018年10月24日 (水)

タイヤ製造工場に勤務していた元社員についての、アスベスト損害賠償請求事件

神戸地裁H30.2.14      
 
<事案>
タイヤの製造工場に勤務していた元社員が、タイヤの製造工程で使う粉末「タルク」に含まれるアスベスト(石綿)などが原因で肺がんや中皮腫等を発症したかが問題となった、アスベスト損害賠償事件。 
BないしG及びX23の7名は、1945年から1961年にかけて、タイヤ製造業者であるYに入社し、Yの向上でタイヤのゴムを練る作業や成型業務等に従事。
Yを退社後、肺がんや中皮腫等を発症。
 
<判断>   
Bら7名の社員の肺がんや中皮腫等の原因がタイヤの製造工程で使う粉末(タルク)に含まれるアスベストか? 

肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があった場合をもって石綿に起因するとみなす考え方、石綿繊維25本/ml×年は肺がんの発症リスクを2倍にするばく露量とjみなす考え方が、肺がんの石綿起因性に関し、確立した医学的知見というべきところ、
平成24年基準(平成24年3月29日基発0329第2号通達)に定められる累積ばく露量の指標が実質的に認められるか否かを検討するのが相当であるという判断基準を判示。

C及びFの2名については、肺がんの発症が工場での勤務に起因するものだあることが高度の蓋然性をもって証明されたといえない⇒損害賠償請求は認められない。
but
E及びX23については、
①ばく露した石綿の量も相当量に達している
②胸膜プラーク所見による裏付けもある

平成24年基準に定められる累積ばく露量の指標が実質的に認められるとして、アスベストと肺がんとの因果関係を認めた。

石綿肺で死亡したB、中皮腫で死亡したD、Gについては、疾病と発症との間に因果関係がある。
 
●Yに安全配慮義務違反があるか? 

生命、健康という被害法益の重大性

安全配慮義務違反の前提として、使用者であるYが認識すべき予見義務の内容は、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない。
本件では、抽象的な危惧が認められる

⇒予見可能性がある。

Yは、
①粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務
②呼吸用保護具を適切に使用させる義務
③粉じん濃度を測定し、その結果に従い改善措置を講じる義務
④安全教育及び安全指導を行う義務
を負っているところ、
これを履行しなかった安全配慮義務違反が認められる。
 
●損害算定にあたり、
E及びX23については、喫煙歴に照らし、
Eについては1割、
X23については2割
を減額するのが相当。 
 
●消滅時効の援用と権利の濫用 
組合による団体交渉の申入れから団体交渉が実現するまでに5年以上の期間を要しているところ、このことは、Yが組合から団体交渉の申入れを拒否した結果、訴訟にまで発展し、訴訟においてYが団体交渉に応じる義務があると判断されている
Y側の不当な団体交渉拒否の態度に起因
⇒消滅時効の援用は権利の濫用に当たり許されない。

判例時報2377

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2018年10月23日 (火)

従業員が業務上の事故により死亡⇒遺族が労働者災害補償保険法に基づく給付を受けた⇒労働保険料増額⇒使用者が加害者に損害賠償請求(否定)

大阪高裁H28.11.29      
 
<事案>
控訴人の従業員Aが、業務上運転をしていた普通乗用自動車に被控訴人が運転していた大型自動二輪車が衝突し、Aが死亡⇒Aの遺族に対し、労災法に基づく給付がされた⇒控訴人の負担すべき平成29年から31年度の労働保険料が合計336万3516円増額⇒これを損害として、控訴人が被控訴人に対し、不法行為による損害賠償を請求。 
 
<メリット制>
「労災保険率は、災害のリスクに応じて、事業の種類ごとに定められているが、事業の種類が同じでも、作業工程、機械設備、作業環境、事業主の災害防止努力の違いにより、個々の事業上の災害率には差が生じる。

労災保険制度では、事業主の保険料負担の公平性の確保と、労働災害防止努力の一層の促進を目的として、その事業場の労働災害の多寡に応じて、一定の範囲内(基本:±40%、例外:±35%、±30%)で労災保険率または労災保険料額を増額させる制度(メリット制)を設けている。 
 
<判断>
①労働保険料は、事業主が、法に基づく義務として、その負担するものであって、その負担額は、第三者の不法行為に起因する業務災害があったか否かにかかわらず、事業主の負担の具体的公平を図るなどの観点から、徴収法により定められているもの。
②事業主が負担する労働保険料は、計算の基となる三保険年度における保険給付の総額等や賃金総額によって変動⇒その増減額は、ある特定の業務災害があったことから直ちに算出し得るものではない
ある特定の業務災害が発生した場合に、具体的にいつ、どのような保険給付がされるかは、労災法施行規則に基づく請求や決定といった手続がされない限り不明

控訴人に生じた労働保険料の増加という負担は、
本件事故につき被控訴人に不法行為が成立するために生じるものではないし、
被控訴人がした不法行為から通常生じる損害ともいえないし、
予見可能な特別の事情による損害ともいえない

控訴人に生じた保険料増額という負担は本件事故による損害とは認めることができない
 
<1審>
控訴審と結論同じ。

①労災保険の保険料の負担額は、使用者が労災保険により労災補償責任の免除等の利益を受けるための支出と評価できる⇒労災保険により利益を受ける使用者が負担すべきであり、これにより利益を受けない第三者に転嫁することはできない。
②メリット制は、労働者の保護、使用者の具体的公平及び災害防止努力の促進という政策目的を同時に達成するため、徴収法により定められたもの⇒メリット制に基づく労働保険料の増加は、徴収法の政策目的に由来すると評価すべきものであって、第三者である被控訴人の故意・過失により生じたと認めることはできない
③使用者は、労災保険を利用せず、直接労働者に労基法に基づく災害補償責任を履行することができ、これにより、労使合保険給付が生じたことによるメリット労災保険率の上昇を抑えることも可能
メリット制の下における労災保険給付による保険率の上昇は、自ら災害補償責任を履行しないという使用者自身の責任の結果に由来
 
<解説>
●自ら契約していた車両保険を使って車両の修理代を支出⇒契約更新後の保険料が増額⇒加害者が損害賠償請求できるか?
肯定する裁判例もあるが、
否定する裁判例が多数になりつつある。

被害者が加入していた車両保険を利用するか、車両保険を利用せずに自己の保有する金員により修理するかは被害者の自由であるから、車両保険を利用することを選択することにより次に契約する車両保険の保険料が高くなったとしても、それは被害者の自由な選択による結果であり、これをもって本件事故により生じた損害であると言うことはできない。

赤い本:
任意保険が利用者による自衛手段であるとの性質⇒保険料、そしてその増額分は、利用者の負担すべきコストであり、加害者に対して賠償を求めることのできる範囲外と考えるべき。
 
●本件:
その根底には、
労災保険料は(その増額分も含めて)使用者が負担することが法制度上予定されているのであり、このような使用者の負担を、直接の被害者が被った損害分に上乗せして加害者に転嫁することは公平でないとう判断⇒相当因果関係がないという結論。

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2018年10月22日 (月)

「滞納処分による差押え⇒賃借権設定」と民法395条1項1号の「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」該当性(肯定)

最高裁H30.4.17      
 
<事案>
担保不動産競売において抵当建物(「本件建物」)を買い受け、その代金を納付した買受人Xが、滞納処分による差押えがされた後に設定された賃借権により本件建物の使用又は収益をする占有者Yに対する不動産引渡命令を求める申立てをした事案。 
①本件建物の所有者Zを債務者とする抵当権が、平成23年9月、本件建物に設定され、その旨が登記。
②本件建物について滞納処分による差押えが平成24年5月にされ、その旨が登記
③Yは、平成24年10月、Zから本件建物を賃借し、その引渡しを受けた
④本件建物について担保不動産競売の開始決定が平成29年3月にされ、それによる差押えがされた旨の登記がされたう。
⑤Xは、本件建物を買い受け、平成29年10月、その代金を納付して、Yを相手方とする不動産引渡命令を求める申立て
 
<原々審>
不動産引渡命令を発令。 
   
Yが執行抗告
 
<原審>
滞納処分による差押えがされた後の占有者であっても、
競売手続の開始前から賃借権に基づき占有する者であれば、民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に該当


原々命令を取り消し、Xの不動産引渡命令を求める申立てを却下(原決定)。
   
Xが抗告許可の申立て⇒原審はこれを許可
 
<判断>
抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において、
その競売手続の開始前から当該賃借権により建物の使用又は収益をする者は、
当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであっても、
民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たる

 
<規定>
民法 第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
2 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。
 
<解説> 
民法は、かつて、抵当権者と賃借権者との間の利益調整を目的とする規定として、同法602条所定の短期賃貸借は抵当権の設定登記後に対抗要件を具備したものであっても抵当権者に対抗することができるとする短期賃貸借保護制度を定める同法395条を規定。
vs.
①短期賃貸借保護制度を濫用する事例が後を絶たない
②これによる保護の有無及び内容が、当該賃貸借の期間と差押えの時期との関係や競売手続に要する時間の長短などの偶然の事情に左右されるなど、賃借人保護の制度としても合理性に乏しい。

平成15年法律第134号(担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律)により、民法395条を改正して、前記の短期賃貸借保護制度を廃止する一方で、明け渡し猶予制度を設ける

少なくとも対抗要件の具備が抵当権設定登記に後れて設定された賃借権は、一律に抵当権者に対抗することができないことになり、民執法に基づく競売における売却によってその効力を失うことになった。

明渡猶予制度は、抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当建物の使用又は収益をする占有者であって一定の要件を有するものは(前記の短期賃貸借保護制度で保護されていなかった者であったとしても、)その建物の競売による買受けの時から6箇月の間、その建物を明け渡さなくてもよいとすることにより、
その競売手続において必ずしもその進行等についての通知等についての通知等を受けない賃借人が突然に退去を求められる不利益を緩和する趣旨

買受人は、買受けに際して、建物賃借人についての6箇月の明渡猶予期間以上の負担を考慮する必要がなくなった

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2018年10月20日 (土)

ハーグ条約実施法に基づく返還を命じる終局決定に応じない⇒人身保護請求の事案

最高裁H30.3.15      
 
<事案>
米国に居住するX(上告人、父親、日本人)が、Xの妻であるY(被上告人、母親、日本人)によりA(米国で出生した子、13歳、米国籍と日本国籍との重国籍)が米国から日本へ連れ去られ、法律上正当な手続によらないで身体の事由を拘束されていると主張
⇒人身保護法に基づき、Aの釈放を求める。

これに先立ち、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(いわゆるハーグ条約実施法)に基づいてYに対して米国にAを返還することを命ずる旨の終局決定が確定したが、その執行手段が奏功しなかった
⇒本件人身保護請求がなされた。
 
<規定>
人身保護法 第二条
法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。

人身保護規則 第3条【拘束及び拘束者の意義】
法及びこの規則において、拘束とは、逮捕、抑留、拘禁等身体の自由を奪い、又は制限する行為をいい、拘束者とは、拘束が官公署、病院等の施設において行われている場合には、その施設の管理者をいい、その他の場合には、現実に拘束を行つている者をいう。

人身保護規則 第4条【請求の要件】
法第2条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。

人身保護規則 第5条
法第2条の請求は、被拘束者の自由に表示した意思に反してこれをすることができない
 
<判断>
拘束者(母親)により国境を越えて日本への連れ去りをされた被拘束者(子)が、現在、13歳で意思能力を有し、拘束者の下にとどまる意思を表明しているとしても、次の(ア)(イ)など判示の事情の下においては、
被拘束者が拘束者の下にとどまるか否かについての意思決定をするために必要とされる多面性、客観的な情報を十分に得ることが困難な状況に置かれているとともに、
当該意思決定に際し、拘束者が被拘束者に対して不当な心理的影響を及ぼしている
といえる

被拘束者が自由意思に基づいて拘束者の下にとどまっているとはいえない特段の事情があり、拘束者の被拘束者に対する監護は、人身保護法及び同規則にいう拘束に当たる
(ア)
被拘束者は、出生してから来日するまで米国で過ごしており、日本に生活の基盤を有していなかったところ、
前記連れ去りによって11歳3か月の時に来日し、その後、米国に居住する請求者(父親)との間で意思疎通を行う機会を十分に有していたこともうかがわれず
来日以来、拘束者に大きく依存して生活せざるを得ない状況にある。
(イ)
拘束者は、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、拘束者に対して米国に被拘束者を返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず、被拘束者を米国に返還しない態度を示し、子の返還の代替執行に際しても、被拘束者の面前で激しく抵抗するなどしている。

国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める人身保護請求において、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、拘束者に対して当該子を常居所地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず、拘束者がこれに従わないまま当該子を監護することにより拘束している場合には、
その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り、拘束者により当該子に対する拘束に顕著な違法性がある
 
<解説> 
●人身保護法上の拘束の有無
最高裁昭和61.7.18:
意思能力がある子の監護について、当該子が自由意思に基づいて監護者の下にとどまっているとはいえない特段の事情のあるときは、前記監護者の当該子に対する監護は「拘束」(人身保護法2条1項、同規則3条)に当たる

前記の特段の事情の有無については、被拘束者の置かれた環境、被拘束者と拘束者との関係その他の事情に応じて、特に慎重に検討すべき場合があると考えられる。

最高裁昭和61.7.18最高裁H2.12.6は、いずれも、
当該子が拘束者の基にとどまるべきか否かの意思決定をするに当たり、その置かれた具体的状況や当該意思決定の重大性などに鑑みて必要な情報を十分に取得している状況にないと評価すべき場合
拘束者が当該子に対して不当な心理的影響を及ぼしていると評価すべき場合など

基本的に、当該子がその自由意思について監護者の下にとどまっているとはいえない特段の事情が存在するという理解を前提として、当該各事案の具体的内容に応じてその点を慎重に判断した事例。

本判決:
子を監護する父母の一方により国境を越えて日本への連れ去りをされた子が、
当該連れ去りをした親の下にとどまるか否かについての意思決定をする場合において、
当該意思決定には、このような国際的な事案に特有の重大性、困難性があるとともに、
当該子が連れ去りをした親から影響を受ける度合いが類型的に大きい


子が当該意思決定をするために必要な情報を偏りなく得るのが困難な状況に置かれることが少なくない

①当該子による意思決定がその自由意思に基づくものか否かを判断するに当たり、基本的に、当該子が前記の意思決定の重大性や困難性に鑑みて必要とされる多面性、客観的な情報を十分に取得している状況にあるか否か
連れ去りをした親が当該子に対して不当な心理的影響を及ぼしていないかなどといった点
を慎重に検討すべき旨を判示。

その上で、上記(ア)(イ)などの事情を、
AがYの下にとどまるか否かについての意思決定をするために必要とされる多面的、客観的な情報を十分に得ることが困難な状況にあり、
YがAに対して不当な心理的影響を及ぼしていると認めるための重要な要素として斟酌し、前記の特段の事情を肯定。
 
●人身保護法上の顕著な違法性 
人身保護法に基づいて子の引渡し等を求める事件のうち

(1)夫婦間における共同親権に服する幼児に係る人身保護請求について、

最高裁H5.10.19は、
幼児に対する拘束者の監護につき拘束の違法性が顕著であるというためには、同監護が、請求者の監護に比べて、子の幸福に反することが明白であることを要するという判断基準。

最高裁H6.4.26は、この明白性の要件を充足する場合として、
①拘束者の親権の行使が幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判(家事手続法157条1項3号、154条3項)により実質上制限されているのに、拘束者がこれに従わない場合
拘束者の幼児に対する処遇が親権の行使という観点からも容認できないような例外的な場合であるとし、その判断基準を示した。

(2)監護権者から非監護権者に対して人身保護法に基づく幼児の引渡しを請求した場合(離婚した夫婦間で親権者として指定された者から他方に対する請求等)について、

最高裁H6.11.8:
幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、
拘束の違法性が顕著であるとする判断基準。

(3)離婚調停において調停員会の面前でその勧めによってされた合意により、夫婦の一方が他方に対してその共同親権に服する幼児を、期間を限って預けたが、他方の配偶者が、前記合意に反して約束の期日後も幼児を拘束し、前記幼児の住民票を無断で自己の住所に移転

前記拘束に顕著な違法性がある(最高裁H6.7.8)

(4)離婚等の調停の進行過程における夫婦間の合意に基づく幼児との面接の機会に夫婦の一方が前記幼児を連れ去ってした拘束に顕著な違法性があるとして、夫婦の他方からした人身保護法に基づく幼児の引渡請求を認めた最高裁H11.4.26

本判決:
違法性判断に際して、監護者の所在や子の幸福という観点を明示的に採っていない

監護権の所在や内容を一次的な考慮要素とはせず、
拘束者が、確定判決により形成された子の返還義務を履行しないという明白な違法行為に及んでいる状態で子を監護していること自体に着目して、
特段の事情のない限り顕著な違法性があると評価

 
●本判決:
国境を越えて日本への連れ去りをされた子である被拘束者の釈放を求める人身保護請求において、意思能力のある被拘束者が自由意思に基づいて拘束者の下にとどまっているとはいえない特段の事情の存在が認められる限界事例の1つ示すとともに、
拘束者の実施法に基づく子の返還を命ずる終局決定に従わないまま子を監護・拘束している場合における当該拘束の顕著な違法性の判断基準を初めて示したもの。

判例時報2377

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2018年10月19日 (金)

県立公園における朝鮮人労働者を追悼する追悼碑の設置期間の更新不許可処分が違法とされた事案

前橋地裁H30.2.14      
 
<事案>
県立公園群馬の森を管理するY(群馬県)の代表者である処分行政庁(群馬県知事)は、追悼碑の設置を知根氏した団体Aに対し、平成16年3月4日、「設置許可施設については、宗教的・政治的行事及び管理を行わないものとする。」との条件を付して、戦時中に労務動員され、群馬県内でなくなった朝鮮人労働者を追悼する追悼碑の設置を認可(設置期間10年)。
本件追悼碑に関する権利義務を承継したと主張するXは、前記設置許可の期間満了前である平成25年12月18日、処分行政庁に対し、都市公園法5条1項に基づき、本件追悼碑の設置期間の更新申請。
but
処分行政庁は、平成26年7月22日、本件追悼碑の前で本件許可条件に反する政治的行事が繰り返し行われた結果、本件追悼碑は、日韓、日朝の友好の促進という当初の目的から外れ、存在自体が論争となり、街宣活動、抗議活動などの紛争の原因になっており、都市公園の効用を全うする機能を喪失したとして、設置期間の更新不許可処分

Xは、本件更新不許可処分の取消しとともに、処分行政庁に対する本件更新申請の許可の義務付けを求めて本件訴えを提起
 
<規定>
法2条2項:
「公園施設」の定義について、「都市公園の効用を全うするため」当該都市公園に設けられる施設をいう旨規定。

法5条1項:
法の規定により都市公園を管理する者(「公園管理者」)以外の者が、都市公園に公園施設を設け、又は公園施設を管理しようとするときは、公園管理者の許可を受けなければならない。

同条2項:公園管理者が前記許可をすることができない条件を規定。 
 
<判断>
●Xが、本件許可条件所定の政治的行事を行ったか 
本件追悼碑の設置許可申請に至る団体名や碑文の変更に関する経緯⇒少なくとも、本件追悼碑に関して「強制連行」の文言を使用して、歴史認識に関する主義主張を訴えることを目的とする行事は、「政治的行為」に含まれ、かつ、そのことをXも認識していた
⇒そのような内容の発言が「政治的行事」に含まれ、Yが政治的発言に該当すると主張した各発言のうち、一部の発言は、いずれも政治的発言に該当する。

これらの一部の発言がなされた追悼式自体が政治性を帯びることは否定できない

平成17年及び平成18年開催の各追悼式は、いずれも「政治的行事」に該当し、Xは本件許可条件に違反。
 
●本件追悼が都市公園としての効用を全うする機能を喪失したか
①前記政治的発言がされた後、平成24年に至るまでは、Yに対しても本件追悼碑に関する抗議や意見が寄せられたことはなく、追悼式の開催、運営に支障や混乱が生じたと認めるに足りる証拠はない
②Y自身も、本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失したとは考えていなかった

本件更新不許可処分は、本件追悼碑が都市公園の効用を全うする機能を喪失していたとは考えていなかったと認めるべき事情がある

本件更新不許可処分は、本件追悼碑が都市公園の効用を全うする機能を喪失していたといえないにもかかわらずなされた処分であり、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められ、裁量権を逸脱しtあ違法があるとして、Xの本件更新不許可処分の取消しの訴えを認容。
 
●処分行政庁が、本件更新申請に対する許可処分をしないことが、裁量権の逸脱又は濫用となるか 
公園管理者が、更新申請者に対し、具体的にいかなる期間の更新を許可すべきかは、公園管理者の合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当

処分行政庁が10年間と期間を特定した本件更新申請を許可しないことが、その裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となるということまではできない

Xの本件更新申請の許可の義務付けの訴えを棄却
 
<解説>
ある施設が「都市公園の効用を全うする」(法2条2項)か否かは、
個々の公園の特殊事情に応じて、具体的に決すべき問題であり、公園管理者の裁量が認められる。
but
公園管理者の判断に裁量権の逸脱又は濫用があると認められる場合には、違法となる。 

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2018年10月18日 (木)

特例解散制度による解散する厚生年金基金における選択一時金の支給を停止する旨の規約変更の有効性

名古屋地裁H29.2.9      
 
<事案>
平成25年法律第63号による改正前の厚生年金保険法(「旧厚年法」)に基づき設立された厚生年金基金であるYの設立事務所であったA株式会社の従業員又は元従業員であるXらが、Yに対し、Y厚生年金基金規約(平成26年5月21日に厚生労働大臣により認可を受けて改正される前のもの。(「本件規約」))附則に基づく選択一時金の請求⇒Yから、Y代議員会の議決により選択一時金の支給を停止する旨の規約の変更がされたことを理由とする各不支給決定を受けた

本件規約変更はXらの権利を侵害する著しく不当な不利益変更である上、本件規約変更には手続上の瑕疵があるなどと主張して、本件各処分の各取消しを求めるとともに、
本件規約附則に基づき、処分等一覧表「選択一時金額」記載の各金員等の支払を求める事案。 
 
<経緯>
A社は、平成23年2月25日、Yに対し、本件規約に基づいて算出した脱退時特別掛金を納付し、同月28日にYを脱退。
Xらは、同日までYの加入員であったが、A社が同日、Yを脱退したため、同年3月1日、Yの加入資格を喪失。 

平成25年6月19日、保有する年金資産総額が老齢厚生年金の代行部分(基金が国に代わって給付を行う老齢厚生年金の報酬比例部分)の給付に必要な積立額(最低責任準備金)に満たない、いわゆる代行割れ基金の早期自主解散を促して基金制度を原則として廃止することを目的として、「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」が成立し、平成26年4月1日に施行。

Yは、平成26年2月18日開催の通常代議員会で、特別解散制度により解散する旨の解散方針の意思決定を議決し、年金資産保全のために本件規約附則に基づく選択一時金の支給を停止する旨の規約変更をする旨の議決をした。
Yは、同年3月7日、厚生労働大臣に対し、本件規約の一部変更の認可申請をし、同年5月21日、厚生労働大臣の認可を受けた。

Xらは1名(X31)を除き、Yに対し、本件規約附則に基づき、処分等一覧表「選択一時金額」欄記載の各金員を請求したが、Yは、Xらに対し、選択一時金を支給しない旨の本件各処分。
⇒C厚生局社会保険審査官に対し、各審査請求をしたが、C厚生局社会保険審査官は、本件Xらに対し、前記各審査請求をいずれも棄却する旨の各決定。
 
<規定>
行政事件訴訟法 第八条(処分の取消しの訴えと審査請求との関係)
処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない

2前項ただし書の場合においても、次の各号の一に該当するときは、裁決を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。
一 審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないとき。
二 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。
三 その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。
 
<判断> 
●X31の訴えの適法性:
Yがした本件規約に基づく選択一時金を支給しない旨の処分に不服がある者は、社会保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服がある者は、社会保険審査官に対して再審査請求をすることができる一方で、その取消訴訟は、再審さ請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができない旨法定
but
X31は審査請求をしておらず、このため社会保険審査会の採決を経ていない

X31に係る処分の取消しを求める訴えは、適法な不服申立てを前置しておらず、行訴訟8条1項ただし書等に基づき、不適法。

X31について「裁決を経ないことにつき正当な理由」(行訴法8条2項3号)があるとはいえない。

X31の訴えを却下。
 
●年金等支給契約の成否 
旧厚年法が厚生労働大臣の認可を通じて基金の規約、設立及び解散を規制

基金、受給者及び事業主の権利・法律関係につき、基金の安定的運営、権利・堡塁津関係の画一的処理等の公益上の要請から、個別の契約ではなく、法令と基金の規約によって規律されるものと解すべき

基金がした裁定等の処分は、行訴法3条2項所定の行政庁の処分と同様の効力を有すると解される。

基金が減少設立事業所の事業主に対してした脱退時特別掛け金の告知や、同事業主による脱退時特別掛金の支払をもって、第三者のためにする契約が成立したとみる余地はなく、本件Xらの裁定を求める「請求」を受益の意思表示と観念する余地もない。

●本件規約変更の効力をXらに対して主張することの可否
①本件規約変更は、代議員会において議決され、厚生労働大臣による認可を受けて適法にされたものであり、Y厚生年金基金規約は、その適用日である平成26年2月18日から適用されるものと認められる。
Yの財政状況や2%の掛金の引き上げにも耐えられないような設立事務所の経営状況などに鑑みるとYの本件規約変更に際しての対応はやむを得ないものであり、信義則違反と評価できるような違法性があるとはいえない
③本件Xらは、平成23年4月15日頃には、選択一時金の請求をすることが可能であったため、その意味では選択一時金を請求する機会が全くなかったわけではない。
本件規約変更は特例解散に伴うものであり、財政状況が悪化している基金において旧厚年法改正法の施行に伴う特例解散を行うという極めて特殊な状況の下では、関係者に相応の負担が生じることを回避することは困難といわざるを得ない。
元加入員に対する手続保障がなければ規約変更の効力が否定されるわけではない

本件規約変更の効力を本件Xらに主張することが信義則違反にんるということはできない


本件Xらの請求を棄却。 
 
<解説>
東京高裁H21.3.25:は、通常の基金において規約変更により具体的に発生している年金受給者の給付額の切下げをした事案であるところ、
本件は、代行割れとなって特例解散をする基金において未発生の選択一時金の支給の停止をした事案
⇒本判決は、両者は事案を全く異にするとし、前掲東京高裁判決が判示した要件を用いることはできないとしている。 

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2018年10月16日 (火)

県議会議長の県議会議員に対する発言の取消命令と司法審査

最高裁H30.4.26      
 
<事案>
愛知県の県議会議員であるXが、県議会議長から、地自法129条1項に基づき、県議会の一般質問における県知事に対する発言の一部を取り消すよう命じられたXは、前記発言は社会通念上相当な内容のものであるなどとして、Y(県)を相手に、本件命令の取消しを求めた
 
<規定>
地自法 第104条〔議長の権限〕
普通地方公共団体の議会の議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表する。

地自法 第129条〔議場の秩序保持〕 
普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終るまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。

地自法 第120条〔会議規則〕
普通地方公共団体の議会は、会議規則を設けなければならない。

地自法 第123条〔会議録〕
議長は、事務局長又は書記長(書記長を置かない町村においては書記)に書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この条及び第二百三十四条第五項において同じ。)により会議録を作成させ、並びに会議の次第及び出席議員の氏名を記載させ、又は記録させなければならない。
 
<判断>
最高裁昭和35.10.19を引用した上で、
地方議会の運営に関する事項については、議会の議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく、その性質上、議会の自律的な権能が尊重されるべきものであり、
法は、議員の議事における発言に関しては、議長に当該発言の取消しを命ずるなどの権限を認め、もって議会が当該発言をめぐる議場における秩序の維持等に関する係争を自主的、自律的に解決することを前提としている。

議事を速記法によって速記し、配布用会議録を関係者等に配布する旨を定めた本件規則の規定は、配布用会議録には県議会議長が取消しを命じた発言を掲載しない旨の規定と併せて、法123条1項が定める議長による会議録の調整等について具体的な規定を定めたものにとどまると解するのが相当であり、
県議会議員に対して議事における発言が配布用会議録に記載される権利利益を付与したものということはできない。 

県議会議長により取消しを命じられた発言が配布用会議録に掲載されないことをもって、当該発言の取消命令の適否が一般市民法秩序と直接の関係を有するものと認めることはできず
その適否は県議会における内部的な問題としてその自主的、自律的な解決に委ねられるべきものというべき
 
<解説>
●裁判所法3条1項の法律上の争訟と司法権の限界

裁判所法 第3条(裁判所の権限)
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

憲法 第76条〔司法権、裁判所、特別裁判所の禁止、裁判官の独立〕 
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

判例・通説:
憲法76条1項の司法権の範囲=裁判所法3条1項の法律上の争訟
と解しており、
判例は、法律上の争訟につき、
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令適用によって終局的に解決することができるもの」と定義。
but
国会ないし各議院の自律権に属する行為や団体の内部事項に関する行為など、
法律上の係争ではあるが、事柄の性質上裁判所の審査に適しないものは、司法審査の対象外であると解されている。
 
●地方議会の内部事項と司法審査の範囲 

判例は、昭和35年最判が、
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰決議について、
裁判所法3条の一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の争訟という意味ではなく
自律的な法規範を持つ社会ないし団体にあっては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも裁判に待つのと適当としないものがあるとし、議員の権利行使の一時的制限にすぎない出席停止の懲罰はこれに該当するとして司法審査の対象外であるとした(除名処分のような議員の身分の喪失に関する重大な事項は、単なる内部規律の問題にとどまらないとした。)。
これに対し、
議員の議場外の個人的行為又は私的紛争についての言動に関する地方議会の懲罰決議等の適否については、司法審査の対象としている。(最高裁昭和28.11.20、最高裁H6.6.21)

判例は、
議員の議場外の個人的行為又は私的紛争についての言動に関する地方議会の懲罰決議等の適否については、一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして司法審査の対象としている
②議員としての行為につき、除名処分のような議員たる身分の得喪に関する処分については司法審査の対象とする一方、
議員の権利行使の一時的制限にすぎない懲罰決議等の適否については、内部規律の問題として自治的措置に任せるのを適当とし、司法審査の対象外としている。

団体の内部事項に関する行為に対する司法審査についての判断について、
その自律性、自主性を支える憲法上の根拠に応じて個別具体的に判断しているものと理解することが可能であり、地方議会については自律権が根拠となるものと考えられる。
 
●本件命令の適否と司法審査 

憲法 第94条〔地方公共団体の権能〕
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

地方公共団体は、地方公共団体が処理する事務を実施すに際して条例を制定することができ(憲法94条)、これは実質的な意味においては、形式的意味における条例のみならず各種規則も含まれるところ、
この条例制定権は「法律の範囲内」に限られること(同条)から、
法120条によりその制定が義務付けられる普通地方公共団体の会議規則も、このような法の規定の枠内で制定し得るものと解するのが相当。

県議会議長が取消しを命じた発言を掲載しない旨を規定した本件規則123条は、議長に議場における秩序の維持等の権限を認めた方104条及び法129条1項の規定を前提として定められたものと解するのが立法者の意思や(地方自治)法との自治体規則との関係に照らして合理的。

本件命令をXに対する制約と解しても、
①県議会議長による発言の取消命令に関しては、法129条1項により、その対象は当該発言部分に限られ、命令に従わないときも、その日の会議が終わるまでの発言を禁止すること等が具体的に規律されており、翌日以降にわたることは許されないと解されている⇒取消命令による効果は一時的な制約にとどまる
②本件規則123条の定める県議会議長による取消命令の対象となった発言が配布用会議録に掲載されない事態は、法104条及び129条1項により議長に議場における秩序の維持等の権限を与え、もって議会が自主的、自律的に解決することにしたことに伴って生じるものであり、議場の公開を促進するものとして議会の外部と接点があるとしても、県議会議員が議事においてした発言の一部が配布用会議録の掲載されないことは、取消命令の対象となった発言部分の公開が制限されるという部分的な制約にすぎず、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる
 
●標準的な会議規則の定めとの関係 

総務省、議会関係者及び学識関係者による検討の結果作成された標準的な会議規則(標準都道府県議会会議規則、標準市議会会議規則)も、本件規則と同様の規定を設けている。

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2018年10月15日 (月)

内閣官房報償費の支出に関する行政文書をめぐる情報公開訴訟

最高裁H30.1.9    

<事案>
Xが、平成25年1月1日から同年12月31日までの期間(第二次安倍内閣、菅官房長官)における同支出に関する行政文書のうち、
①政策推進費受払簿、②支払決定書、③出納管理簿、④報償費支払明細書、⑤領収書、請求書及び受領書の各文書(「本件文書」)に記載された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)5条3号及び6号所定の不開示情報(国の安全等に関する情報、事務又は事業に関する情報)に当たるとしてされた不開示決定の取消し及び本件各文書についての開示決定の義務付けを求める事案。
 
<解説>
内閣官房報償費:
内閣官房の行う事務を円滑かつ効果的に遂行するために、当面の任務と状況に応じて機動的に使用することを目的とした経費として、毎年予算措置が講じられているものであり、その取扱いについて定めた基本方針等によれば、
内閣官房報償費の執行は、
政策推進費(施策の円滑かつ効果的な推進のため、内閣官房長官としての高度な政策的判断により、機動的に使用することが必要な経費)
調査情報対策費(施策の円滑かつ効果的な推進のため、その時々の状況に応じた必要な情報を得るために必要とされる経費)
活動関係費(政策推進、情報収集等の活動が円滑に行われ、所期の目的が達成されるよう、これを支援するために必要な経費)
の3つの目的類型ごとに、それぞれの目的に照らして行うものとされている。
 
<規定>
情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない

三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
 
<判断>
①政策推進費受払簿、③出納管理簿及び④報償費支払明細書に記録された情報のうち、調査情報対策費及び活動関係費の各支払年月日、支払金額等を示す情報は、情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に当たる

政策推進費の繰り入れの時期及び金額、一定期間における政策推進費又は内閣官房報償費全体の支払合計額等を示す情報は、前記各号所定の不開示情報に当たらない

①政策推進費受払簿の全部並びに、
③出納官吏簿及び
④報償費支払明細書
のうちそれぞれ調査情報対策費と活動関係費の各支払決定に係る記録部分を除いた部分についての不開示決定を取り消すとともに、
これらについての開示決定を命じた。
 
<解説>
本件では、情報公開法5条3号及び6号所定の各不開示事由の有無が問題
but
それについて説示した最高裁判例はない。 

内閣官房報償費の支出の対象となる事柄の性質や、これらに関する情報が開示された場合の支障等について一般的な説示をした上で、
当該文書または部分に記録された情報から内閣官房報償費の支払相手方や具体的使途が明らかになり、あるいはこれらを相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるかどうかという観点から、
情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報該当性について判断
but
どこまでの情報が明らかになれば支払相手方等を相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるといえるかという点で、(下級審での)それぞれの見解に相違。

本判決の判断は、あくまでも本件各事件の対象となった本件各文書の記載の形式や内容、不開示決定がされた当時における社会の状況等の諸事情を前提としたものこれらの事情に変化があれば、同じ内閣官房報償費の支出に関する行政文書であっても、異なる判断となることがあり得る

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2018年10月12日 (金)

道交法上の救護義務違反・報告義務違反が成立するための要件

東京高裁H29.4.12      
 
<事案>
被告人が、
①赤色信号を殊更に無視し、時速約80kmで進行して歩行者に衝突して負傷させ死亡た事実(危険運転致死)と、
②自己の運転に起因して他人を負傷させたのに、直ちに車両の運転を停止して救護等の措置を講じず、自己について警察官に報告しなかった事実(道交法違反)で起訴 
 
<規定>
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

第二条(危険運転致死傷)
次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

道交法 第72条(交通事故の場合の措置)
交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない
 
<判断・解説>
●他車に追跡されていると感じた者の危険運転 
原判決:
他の車両のドライブレコーダーの映像の解析等⇒被告人車の事故交差点の通過時の速度は時速80kmであったと認定。
事故交差点に至る前も終始かなりの高速度で走行していたと推認。
信号表示を意に介することなく、赤信号であってもこれを無視する意思で進行したと推認
「被告人が誰かに追われていると思っていたとしても、信号表示を守って運転しているつもりであった」との供述は信用できない。

控訴審:
①W1交差点出口から事故交差点までの320mを長くとも約14秒で走行⇒平均速度を時速約80kmと推認
②信号機が赤信号を表示している交差点を連続して通過した点を指摘

被告人は、赤色信号を認識しながらあえて通過したか、
およそ信号表示に従う意思がなく信号表示を見なかった
ものとして、
原判決を支持。
 
●交通事故があったとき、当該事故に係る車両の運転者が救護及び報告の義務を負うのは、事故の発生を認識したことが前提。 

原判決:
被告人が2人組の男に暴行を受けた

救護及び報告の義務の履行が可能であった期間を事故発生時点からY地点に停止させる時点までの間に限定し、
被告人が事故発生を認識したのはどの時点かを検討。

事故発生時に直ちに人身事故であると認識したとは認められない
but
①事故時に衝撃があり、衝突音が発生したこと
②フロントガラスに大きな破損が生じたこと
⇒遅くともX2交差点手前で停止した時点までには人身事故を起こしたことを認識したと推認できる

本判決も同様の推認。

運転者が交通事故の発生と同時又は直後にこれを認識することができないまま走行を続けた裁判例もある。
 
●時間経過後の事故発生を認識した運転者のとるべき行動 
◎ 原判決:
被告には被害者に衝突した後もそれを認識しないまま走行を続け、X2交差点に至って自己の発生を認識。

人身事故を起こしたことを認識した運転者は、停車可能な場所にすぐさま自車を停止させ、救護及び報告の義務を履行すべき。
but
①走行中に事故発生を認識した場合に内心が動揺・混乱することがあり、瞬時に履行の決意をすることは容易ではなく、決意をしてもその時の信号表示や車の流れに従って一旦走行してしまうことや、適切な停車場所をうかがううちに数十秒が経過してしまうことがあり得る。
②被告人が人身事故を起こしたことを認識した時点からY地点で停止し2人組の男に追い付かれる時点までの時間は数十秒程度
③被告人が数十秒程度車両を走行させ、Y地点で停止したことをもって直ちに自車の運転を停止しなかったとすることには疑問が残る。
④被告人はY地点で自らの意思で停車した後、必要な連絡をとるために携帯電話機を探しており、二人組の男に襲われて義務の履行が困難になるまでにわずかな時間しかなかった可能性がある。

直ちに自車の運転を停止して救護義務及び報告義務を履行しなかったとは認められない。

◎ 控訴審:
被告人は、X2交差点で停止した時点までに、人身事故を起こしたことひいては救護及び報告の義務があることを認識したにもかかわらず、自車を再発進したのは、義務の履行と相容れない行動
but
事故交差点から約300mのY地点に自らの意思で停車し、その後連絡がとれるようにして交差点に戻ろうと思って携帯電話機を探していた

Y地点から事故交差点に引き返して救護義務及び報告義務を果たそうとしていた可能性は否定できない。

検察官:
原判決が運転者の内心の動揺や混乱を救護義務及び報告義務の履行遅滞の正当理由として認めるかのような解釈をしたのは、「直ちに車両等の運転を停止して」の解釈を誤ったもの。
vs.
本判決:
人身事故を起こした運転者が救護義務及び報告義務の履行と相容れない行動をとれば、直ちにこれらの義務に違反する不作為があったとまではいえず、一定の時間的場所的解離を生じさせて、これらの義務の履行と相容れない状態にまで至ったことを要する
⇒原判決に法令解釈の誤りはない。


①本件の被告人は、事故現場から2つ目の交差点まで走行してようやく事故発生を認識した後、再発進して現場から遠ざかる方向へ更に約150m走行し、停車した後、連絡をとろうとして携帯電話機を探しているうちに、二人組の男に襲われたために、自己交差点に戻って救護及び報告を行うことができなくなってしまった。
②再発進して現場から遠ざかる方向へ走行したのは、直ちに停車して救護と報告を行うべき義務の履行と相容れない行動であるということはできる
but
事故発生を認識した後の運転者の心理状態やそのときの道路交通の状況等の事情によればそのようなこともあり得るのであり、これだけをとらえて救護義務・報告義務の違反とするのは相当ではない。

事故現場から遠ざかる方向に走行したとしても、救護義務・報告義務の違反が成立するためには、事故発生時から相当の時間が経過し、事故現場から相当の距離が生じて、それらの義務の履行を相容れない状態に陥ることを要する
とした点に、本判決の意義がある。

大津地裁H6.4.6:
仮眠状態に陥って追突事故を起こした運転者が、頭部を打った衝撃等により事態を認識できない状態となり、そのまま運転を続けた。
その後意識を取り戻すまでの間については救護義務違反を問うことはできず、意識を取り戻した後も、事故現場の所在を認識していない運転者が現場に戻って負傷者を救護することは不可能⇒救護義務違反は成立しない
降車した際自車が大破している⇒何らかの交通事故の発生を認識したものと考えられ、その時点で警察官に報告する義務があった

名古屋高裁金沢支部昭和39.7.21:
運転者の負傷等のため事故直後から他人を介しても報告することが不可能である事態が続く限り、法はその者に自己報告を期待しない。
その後報告の可能状態が生じた直後に報告すれば、それが事故と時間的に隔たっていても直ちに報告したものというとができる

判例時報2375、2376

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2018年10月11日 (木)

ハーグ条約実施法で、相手方による不法な留置の開始時期・留置の同意・承諾が問題となった事案

大阪高裁H27.8.17      
 
<事案>
父であるXが、母であるYに対し、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づき、Yが日本に不法に留置している両者の子Cをその常居所地国であるカナダに返還することを求めた事案。 
 
<争点>
①Yによる留置開始時期が実施法の施行日である平成26年4月X日より後であったか(実施法は、その附則2条によって、その施行前に開始された不法な留置には適用されない)
②XがYによる留置に同意又は承諾したか(実施法28条1項3号の返還拒否事由があったか)
 
<判断> 
●争点①
原決定:
常居所地国以外の国で子を監護している父母その他の者が子を常居所地国へ返還しない意思を示したと客観的に判断できる時点留置が開始されたということができる。
Yが日本への帰国に際して購入した往復航空券による復路の予約を取り消して同航空券を失効させ、カナダに戻らないことをXに伝えた平成26年6月をもって留置が開始
⇒本件に実施法が適用される。

本決定もこの判断を是認。 
 
●争点②
留置の同意又は承諾があるというためには、返還申立ての申立人において、子が新たな居住地に定住することを承認し、子の返還を求める権利を放棄したことが客観的な証拠により認定される必要がある。
本件においては、そのような同意又は承諾は認められない。
 
<解説>
留置の開始時期は、
返還事由の有無を認定する際の前提となるだけではなく、
実施法28条1項1号及び2号の返還拒否事由を判断する際の基準時としての意味を持つ。

法 第二八条(子の返還拒否事由等)
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。

判例時報2375、2376

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2018年10月10日 (水)

ハーグ条約実施法28条1項4号及び5号の返還拒否事由の主張を排斥し、子の常居所地国(米国)への返還を命じた事案

東京高裁H27.3.31      
 
<事案>
米国に居住していたX及びYの夫婦間に生じた国際的な子の連れ去りに関する紛争。 

Y(父)は、X及び子らと別居するに至った後、Aを除く4名の子らとの宿泊付きの面会交流中に本件子らとともに日本に帰国し、そのまま日本国内に居住


Xが、Yに対し、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(いわゆるハーグ条約実施法)に基づき、本件子らを米国に返還することを求めた。
 
<規定>
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律 第二八条(子の返還拒否事由等)
 
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。

四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。

五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
 
<争点>
①実施法28条1項5号のいわゆる子の異議の返還拒絶事由の有無
②同項4号のいわゆる重大な危険の返還拒絶事由の有無 
 
<判断>
●争点① 
原決定を是認
原決定:
同号の文言

子が、その意見を考慮に入れることが適当である年齢及び成熟度に達していること
子の意見が、常居所地国に返還されることに対する異議であること
が要件。

家庭裁判所調査官によって行われた本件子らの意向及び心情の調査結果等
いずれの子についても両要件がともに満たされることは無く、前記返還拒否事由があるとはいえない

最年長のB(調査時11歳)は、前記調査時に、主に兄弟のAやXとの関係に係る懸念を示して、日本にいたい旨を述べた。

原決定:
Bはその意見を考慮すべき年齢及び成熟度に達している
but
その意見の実質は、X及びAの下に返還された際に、Aとの喧嘩があり得ることや、それについてXが適切な対応をしてくれるかについての懸念を示すものにすぎず、
Bは米国で生まれ育ち、米国での生活を拒否するような客観的な事情がうかがわれない


常居所地国である米国に返還されること自体に対する異議を述べているものとはいえないとして、②の要件を満たさない。
 
●争点② 
原決定を是認
原決定:
Xによる本件子らの監護状況等について詳細に事実を認定した上で、
①Xとの同居生活中に本件子らに軽度のけがを負うことがあったこと、
②Xが本件子らを自宅に残して外出し、児童福祉機関によりネグレクトと認定されたこと等、
Xの監護状況に不適切な面がなかったとはいえない
but
そのけがが通常の日常生活の中で生じ得る程度のものであったこと
Xの対応に前記ネグレクト以外に不適切といえるものはなかったこと


本件子らの監護状況に重大な問題があったとまでは言い難い

①本件子らを米国に返還した場合の危険性の検討のためには、返還後、米国において、本件子らを保護しその危険性を減ずる措置がとられるかという点も重要な考慮要素。
本件子らが居住していた州では、州の児童福祉機関や裁判所等の関係機関の関与を通して子の保護が図られる制度があり、連れ去りまでの間、本件子らの監護について、これらの制度が有効に機能していた。
実施法28条1項4号の返還拒否事由があるとはいえない

判例時報2375,2376

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2018年10月 9日 (火)

農業委員会の会長を解任した総会決議の効力等が問題となった事案

千葉地裁H29.12.19      
 
<事案>
農業委員会において、Xに対し、農業委員会等に関する法律(平成27年法律第63号による改正前のもの)5条7項に基づき会長の職を解任する決議。

Xは、会長の職を解任されたことについて、同解任に係る総会決議は無効であると主張して、
農業委員会の会長の地位にあることの確認を求めるほか、
違法な選任決議により名誉を侵害されたとして国賠法に基づく損害賠償等を求めた。
 
<本案前の争点>
①法5条7項により農業委員会が行った会長解任決議の効力に係る紛争が、裁判所法3条1項所定の「法律上の争訟」として司法審査の対象になるか?
②会長解任の要件である法5条7項の「農業委員会は、その所掌事務を行うにつき会長を不適当と認めるとき」の解釈 
 
<判断>   
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争で、法令の適用によって終局的に解決できるものは、原則として司法審査に服する
純粋な内部問題の場合は、団体の自治を尊重して司法審査を控える場合がある。 

農業委員会の会長という団体内部の地位の問題として司法審査を控えるべきかが問題。
but
①農地法、土地改良法等による権限等を有する農業委員会の事務処理の結果は、農業者の権利義務に大きな影響を及ぼし(農地法3条等)、農業者以外の国民の権利にも影響を及ぼす場合がある(同法5条2項等)
その農業委員会の代表者である会長の地位が争われている

市民法秩序と直接的な関連を持たず内部の問題にとどまるものとはいえず、司法審査の対象になる法律上の争訟に当たる
 
●農業委員会の会長の解任に関し法5条7号は
「農業委員会は、その所掌事務を行うにつき会長を不適当と認めるときは、その決議によりこれを解任することができる」とのみ定め、不適当と認められるべき具体的な解任事由を規定していない⇒その法解釈が争われた。

農業委員会における所掌事務の処理に不適当と認められるかについては、農業委員会の合議体としての裁量的判断を尊重し、農業委員会による会長を解任する旨の判断は、それが社会通念上著しく妥当性を欠いており、農業委員会に委ねられた裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合に限り、違法と評価するのが相当。

①Xは、農業委員会の農業委員15名の3分の1以上に当たる11名の者から、会長不信任案を付議するための臨時総会の招集を書面で要求された⇒この請求に応じて臨時総会の招集をすべき義務。
②Xが、臨時総会の招集に応じなかったことは、法21条の2項の規定に違反し、かつ、会長として適格性を疑わせる行為。
③Xの対応は他の委員らとの間に軋轢を生じさせるものであったから、Xが会長であることは合議体である農業委員会における所掌事務の遂行に支障を生じさせ、それを困難とするもの。

Xを会長から解任する旨の判断には裁量権の逸脱又は濫用は認められない⇒解任が無効であるとはいえない

判例時報2375、2376

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2018年10月 8日 (月)

DV加害者とされる者の代理人弁護士からの戸籍の附票の交付申出に対する拒否についての取消請求(否定)

大阪高裁H30.1.26      
 
<事案>
住民基本台帳事務処理要領によれば、市町村長は、ドメスティック・バイオレンス(「DV」)等の加害者が、戸籍の附票の写しの交付等の制度を不当に利用して被害者の住所を探索することを防止するため、支援措置を講ずる。
この場合、加害者とされる者から被害者に係る戸籍の附票の写しの交付等の申出がされた場合にはこれを拒否するものとされている。 

本件申出がされるまでに、Bから、AをDVの加害者とする支援措置の実施を求める申出を受け、その必要性を確認した上、Bにつき支援措置を開始
⇒本件申出に対し、Bに係る戸籍の附票の写しを交付しないとする本件処分
⇒Xは、Y(橋本市)を相手に、本件処分は裁量権の逸脱・濫用の違法があるとしてその取消しを求める本件訴訟を提起。
 
<原審>
裁量権の範囲の逸脱し、又はこれを濫用した違法なもの⇒Xの請求を認容。
 
<判断>
支援措置の運用に関して国が定めた事務処理要領によれば、DVの加害者とされている者からの被害者に係る戸籍の附票の写しの交付申出については、原則として住基法20条3項各号に掲げる者に該当しないとして、同法に基づきこれを拒むとされている。

住民のプライバシー保護に配慮するという住基法の目的に合致するとともに、国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に基づきDV被害者の適切な保護を図る責務を果たすという観点からも合理性を有する
住基法の解釈を誤ったものとはいえない

市町村長は、DV被害者等の保護のための支援措置を講ずることとした場合には、被害者に係る戸籍の附票の写しの交付については、事務処理要領に従って運用し、裁量権を行使すべき。

事務処理要領によれば、
戸籍の附票の写しの交付については、加害者が判明しており、加害者から申出がなされた場合には、住基法20条3項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否するとされ、
利用目的の厳格な審査の結果、特別の必要があると認められる場合にも、加害者に得交付しないで目的を達成することが望ましいとされている。

戸籍の附票の写しが交付されることで、被害者の住所等の情報が、加害者に知られるという事態を可及的に抑止しようとするものであり、合理性のあるもの。

加害者の代理人に被害者に係る戸籍の附票の写しを交付した場合、代理人を通じて被害者の住所が加害者に知られるおそれがあることは否定できない

加害者の代理人からの申出も、原則として加害者本人からの申出に準じた処理がされるのもやむをえない。

本件において、橋本市長は、本件申出がされるまでに、Bから、Aを加害者とし、B自信をDV被害者とする支援措置の実施を求める申出を受けその必要性について第三者機関(橋本警察署)から意見を聴取して確認した上、Bにつき支援措置を開始した。
本件申出は、加害者としてされているAの代理人(X)からの申出ではあるが、本件処分は、A本人からの申出があった場合に準じて、事務処理要領に定めるところに従い、Aが住基法20条3項各号に掲げる者に該当せず、かつ本件申出が相当なものとは認められないとして、これを拒否

裁量権の逸脱・濫用の違法があるとはいえない
 
<解説>
全国の市長村長は、支援措置の運用に関し、事務処理要領の定めに従って行っており、これと異なる取扱いをすることは基本的に想定されていない。 
支援措置の目的は、DVの加害者等が、戸籍の附票の写しの交付等の制度を不当に利用して被害者の住所を探索することを防止することにあり、被害者の生命・身体を保護するためには被害者の住所情報が加害者側に知られるという事態を可能な限り抑止しなければならない

本判決:
特に高い倫理性が要求される弁護士が代理人となって申出をした場合でも、加害者本人から申出があった場合に準じて事務処理要領の定めに従って裁量権を行使すべきであって、被害者に係る戸籍の附票の写しを交付しないとした本件処分には裁量権の逸脱・濫用の違法がないと判断。

判例時報2375、2376

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2018年10月 7日 (日)

地方自治法92条の2に該当する旨の決定⇒補欠選挙⇒決定取消判決but議員の地位は回復せず

最高裁H29.12.19       
 
<事案>
村議会は、地方自治法127条1項に基づき、Xが地方自治法92条の2に該当する旨の決定。

Xが、本件決定の取消しを求める訴えを提起した上、これを本案として、行訴法25条2項に基づき、本件決定の効力の停止を求めた。 
 
<事実>
村議会は、平成28年7月14日、本件決定をし、これによりXは議員の職を失ったものとされた。
Xは、同年11月16日、本件訴えを提起。 
Xが村議会の議員の職を失ったことに伴う補欠選挙について、平成29年3月21日、その選挙期日を同月26日とすることを告示。

Xは、これに先立つ同月3日、本件訴えを本案として、本件決定の効力を本案の判決の確定まで停止することを求める本件申立て
⇒札幌地裁は、本件補欠選挙の選挙期日の3日前である同月23日、本件決定の効力を本案の第1審判決の言渡し後30日を経過するまで停止する旨の決定(原々決定)。
but
本件補欠選挙は、同月26日にその投票及び開票が行われ、X以外の者が当選。
本件補欠選挙及び前記当選の効力に関し、公選法202条1項又は206条1項所定の各期間内に異議の申出はされなかった。
 
<規定>
地方自治法 第127条〔失職、資格決定〕
普通地方公共団体の議会の議員が被選挙権を有しない者であるとき又は第九十二条の二(第二百八十七条の二第七項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に該当するときは、その職を失う。その被選挙権の有無又は第九十二条の二の規定に該当するかどうかは、議員が公職選挙法第十一条、第十一条の二若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法(昭和二十三年法律第百九十四号)第二十八条の規定に該当するため被選挙権を有しない場合を除くほか、議会がこれを決定する。この場合においては、出席議員の三分の二以上の多数によりこれを決定しなければならない。

地方自治法 第92条の2〔関係諸企業への関与禁止〕
普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。
 
<Yの主張>
原々決定に対し、Y(村)が抗告:
本件補欠選挙について所定の期間内に公選法に基づく異議の申出がされなかった⇒Xの議員の地位は回復することができない状態にあり、本件訴えは訴えの利益を欠き却下されるべきであり、本案について理由がない
 
<原決定> :
Xは原々決定により本件補欠選挙の投開票がされる前に村議会議員の地位を暫定的に回復⇒同選挙について公選法に基づく異議申出期間が経過したからといって、その地位を喪失することはないとして、Yの抗告を棄却。
 
<判断>
公選法に定める選挙又は当選の効力は、同法所定の選挙争訟等の結果無効となる場合のほか、原則として当然無効となるものではない。
本件補欠選挙について所定の期間内に異議の申出がなされなかった⇒同選挙及びその当選の効力はもや争い得ない。

Xは、本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって、本件決定時から議員の地位を回復することはできない

Xは、本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって、本件決定時から議員の地位を回復できなかった時までの議員報酬を請求し得る
⇒本件訴えについては訴えの利益がなお認められる。
but
現時点においてもはや議員の地位を回復できない
本件決定の効力の停止を求める利益はない
⇒原決定を破棄し、原々決定を取り消した上、Xの本件申立てを却下。
 
<解説> 
●地方公共団体の議会の議員や長を失職させる行為(資格決定、除名処分、不信任議決等)(「失職処分」)が選出され、その選挙や当選の効力についての争訟手段が所定の期間内にとられなかった場合に、失職処分を受けた者はなおその地位を回復することができるのか? 

最高裁昭和31.10.23:
村長が議会の不信任議決により失職し、新村長の選挙が行われて他の者が当選した事案:
①公選法に定める選挙又は当選の効力は、同法に定める争訟の結果無効となる場合のほか、原則として当然無効となるものではない。
②新村長の選挙によりその就任が確定し、旧村長はその地位に復する余地はない
⇒旧村長が提起した不信任議決の無効確認を求める訴えは法律上の利益を失う。

最高裁H11.1.11:
町議会議員が議会から除名処分を受けて失職し、その4日後に繰上補充が行われた後に、旧議員が除名処分の取消訴訟を提起するとともに効力停止の申立てをした
「除名処分の効力停止決定がされることにより同処分の効力は将来に向かって存在しない状態に置かれ、議員としての地位が回復されることになり、これに伴って、除名による欠員が生じたことに基づく繰上補充による当選人の定めは、その根拠を失うことになる
町選挙管理委員会は、効力停止決定に拘束され、繰上補充による当選人の定めを撤回し、その当選を将来に向かって無効とすべき義務を負う。」
旨説示した原審の判断は、正当として是認できる。

選挙争訟等の結果によらず当選の効力を否定することを認めたもの。
 
●本件の事実経過に照らせば、本件補欠選挙について、原々決定により欠員が生じていないこととなったにもかかわらず行われた無効なものであることが異議の申出の事由となる。

裁判所の効力停止決定により選挙の実施要件が失われたにもかかわらず選挙が行われたという根本的な瑕疵がある場合には、選挙争訟等において選挙の無効事由として主張しうるとしたもの。

救済手段の確保の必要性という点で、本件は平成11年最決の事案とは状況を異にすることになり、このことも考慮して、選挙の法的安定性を重視する昭和31年最判に則った判断をした。

判例時報2375、2376

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2018年10月 6日 (土)

東京電力福島第一原発京都訴訟第1審判決

京都地裁H30.3.15     福島第一原発事故の避難者集団訴訟のうち、4件目の判決
 
<事案>
Xら174名が、Y1(東京電力ホールディングス㈱)に対しては、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項又は民法709条に基づき、Y2(国)に対しては国賠法1条1項に基づき、それぞれ損害賠償を求めた。
 
<特徴>
Xらのうち、文科省の原子力損害賠償紛争審議会が自主的解決に資するために定めた中間指針の「避難指示等対象区域」の住民が2名のみ
その大半は同中間指針追補が定める「自主的避難等対象区域」の住民
そのほか、自主的避難等対象区域にも含まれない地域の住民が複数含まれる。
Xらが賠償を求める損害は、慰謝料にとどまらず、避難にかかる実費逸失利益等も含んでいる

責任論の判示だけでなく、
前記住民の避難が本件事故と相当因果関係があるか(避難の相当性)、また、避難の相当性が認められるとしても、どの範囲まで損害賠償が認められるか
の判示。
 
<判断> 
●予見可能性の有無 
津波の到来について、Y1及び経済産業大臣のいずれも予見可能性も肯定

予見の対象となる危険は、その趣旨からして、回避措置をとり得る程度に具体的であれば足りる
⇒現実の到来した津波と同程度までは不要であり、敷地高を超える津波の到来で足りる

政府の特別機関として設置された地震本部が公表した「長期評価」の信頼性が問題となったが、
Y1や経産大臣が注意を払うべき最新の知見とは、必ずしも統一的通説的見地である必要はなく、長期評価は、地震に関するY2の専門機関が地震防災のために公表したものであり、学者や民間団体の位置見解とは重要性が明らかに異なる公式的見解
⇒学者間の異論の存在を理由に検討にも値しないものとはいえず、疑問点があればその払拭も含めて、積極的に検討を行うべきであった
⇒同見解をもとに予見可能性を肯定。
 
●Y1の責任について
Y1の予見可能性を肯定した上で、
津波を回避する対応(防護壁の設置や電源設備の水密化・高所配置)を怠ったことは義務を果たすには十分ではなかった⇒通常の過失は認められる。
but
故意と同視できる重過失までは認められない⇒慰謝料の増額事由とはならない
原賠法の趣旨に鑑み、民法709条の責任の成立も否定。
 
●Y2(国)の責任について 
◎権限不行使の違法性を検討する前提として、経産大臣の規制権限の有無を検討。
権限不行使の違法性を認めた上で、Y2の責任範囲についても言及。

◎経産大臣の規制権限の有無について、
いわゆる段階的規制論を前提に、
経産大臣は、原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の安全にかかわる規制権限を有しなかったとのY2の主張に対し、
電気事業法の文言上も権限が詳細設計の場合に限ると明文で規定されているとはいい難く
実質的に考えても、安全確保のためには基本設計部分にも対応する必要がある
経産大臣は、津波対策に関して電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を行使することができた

核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)上の権限にも言及し、
経産大臣はY2が行政指導に従わない場合には、炉規法に基づく設計許可を取り消し、又は原子炉の運転の一時停止を命じることができる。

◎権限不行使の違法性について 
①法の趣旨・目的、②原子力災害の重大性、③予見可能性の程度、④結果回避可能性、⑤権限の性質・影響等、⑥現実に実施された措置の合理性、⑦防災対策に対する意識の高まりとその認識
⇒これらを踏まえると、どれほど遅くとも、平成18年末時点においては、経産大臣は権限行使をすべきであり、権限不行使は違法

最高裁は、従来、
①規制権限の定めた法が保護する利益の内容及び性質、②被害の重大性及び切迫性、③予見可能性、④結果回避可能性、⑤現実に実施された措置の合理性、⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性)、⑦規制権限行使における専門性、裁量性などの諸事情を総合的に検討して、違法性を判断。

●Y2の責任範囲について 
Y1の原賠法上の責任とY2の国賠法上の責任について、いずれもが損害全額に寄与した
共同不法行為の成否にかかわらず、賠償責任としてもY2は、Y1とともに、Xらに対し全額について責任を負う

過去の裁判例:
規制を受ける者が一次的責任を負うべきであり、国は二次的、補充的な責任を負うのみ

国の責任の範囲を4分の1や3分の1等であるとして限定的に解するものが多い。
but
本判決:
Y2の二次的、後見的立場は、Yら間の負担割合に影響するとしても、Xとの関係では責任は限定されない
⇒責任範囲を限定すべきとするY2の主張を排斥。
 
●避難の相当性について 
ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告内容である公衆被ばくに関する線量限度の年間1mSvを超える地域からの避難及び避難継続が全て相当であるとするXらの主張を排斥しながらも、
政府の策定した年間追加被ばく20mSvという基準も、避難指示の基準としては一応合理性を有するが、そのまま避難の相当性を判断する基準ともなり得ない。

そもそも、避難の相当性の判断は、科学的判断そのものではないし、政策判断そのものでもなく、
原子炉の運転等により、原子力損害が生じたといえるか、すなわち本件事故の結果として、当該原告が避難することが相当因果関係のある避難であり、原子力事業者等に損害賠償責任を負わせるべきであるかという法的な判断


低線量被ばくの場合であっても、避難者が放射線に対する恐怖や不安を抱き、放射線の影響を避けるために避難し、その非難が当事者のみならず、一般人からみてもやむを得ないものであって社会通念上相当といえる場合には、本件事故と当該避難との間には、相当因果関係が認められる
いわゆる自主的避難であっても、個々の属性や置かれた状況によっては社会通念上相当である場合はあり得る。

その判断は、
①避難指示等対象区域居住者、②自主的避難等対象区域居住者、③①及び②の区域外居住者に区別し、それぞれに判断を基準や考慮要素を設定し、
②はおおむね避難時期によって、
③はそれに加えて、福島第一原発からの距離や各区域との近接性、放射線量に関する情報、自主的避難者の多寡、避難した世帯に子どもや放射線の影響を特に懸念しなければならない事情を持つ者がいるかなどの事情を踏まえて、個別具体的に検討。
⇒Xら174名中、149名について避難が相当。
 
●損害の範囲 
避難が相当⇒自主的避難の場合であっても、避難後、避難生活の継続することもやむを得ないとして、避難時から2年経過までに生じた損害も、本件事故と相当因果関係のある損害と認めている

直接請求やADR手続で用いられている基準等や、同手続で認められた損害を、事実上の推定を用いて、本判決でも損害額の認定に用いることができる。

各損害項目(避難交通費、一時帰宅・面会交流交通費、世帯分離による生活費増額費用、家財道具購入費用、就労不能損害・営業損害など)やADR手続等により既払金の充当については、
全体の方針を立て、それをあてはめる形で、Xらを世帯ごとにわけて、認定判断

慰謝料について、
概ね中間指針等を踏まえた判断(自主的避難等の場合は額を増額)となっているが、区域外の住民にもそれぞれの状況に応じた慰謝料を肯定。

判例時報2375、2376

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2018年10月 5日 (金)

従業員の自殺について、業務起因性を認定し、勤務先会社の損害賠償責任が認められた事例

名古屋高裁H29.11.30    
 
<事案>
Aが、被控訴人Y2及びY3からいじめ等を受け、かつ、被控訴人Y1(勤務先)は、前記事態を放置した上、十分な引継をすることなくAの配置転換をして、過重な業務を担当させた結果、Aが強い心理的負荷を受けてうつ状態に陥り自殺

Aの両親である控訴人Xらが、
被控訴人Y2及び被控訴人Y3に対しては、不法行為に基づき、
被控訴人Y1に対しては、債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為に基づき、
損害賠償金の支払を求めた。

労働者災害補償保険において、平成25年12月、Aの死亡について業務起因性を認定。
 
<原審>
Aは仕事上の入力ミスなどが比較的多かったが、
被控訴人Y3が、平成23年9月移行、Aに対して、仕事上のミスがあると、厳しい口調でかつ頻繁にわたり叱責し、
営業事務に配置転換となった以降も、ミスがある毎に、Aを呼び出して、被控訴人Y2と一緒に同様に叱責していたことは、
業務上の注意や指導の範囲を超えて、Aに精神的苦痛を与えるもので、
不法行為に該当
する。

被控訴人Y2は、Aの前記配置転換後の業務遂行状況を踏まえて、Aに対する適宜の支援を行うべき職責を負っていたが、これを怠ったほか、
配置転換後のAに対する叱責行為は、不法行為に該当する

被控訴人Y2及びY3の前記各不法行為及び配置転換後の業務の負担と、
Aの自殺との相当因果関係:
①Aがうつ病を発症していたとは認められず、
②前記配置転換後の業務負担がAの心身の健康の喪失に繋がるようなものでなく、業務外の原因が影響した可能性もある
⇒否定

Aの損害について、165万円の限度で認容。
 
<判断>
Y3の責任については、原審と同様。

Y2の責任について、
Aに対する叱責行為は原審判決と同様に不法行為になる。
Aに対する適宜の支援を行うべき義務を怠った点については、
従業員の業務分配の決定権は、上司であるB(取締役)にある
⇒この点はBの注意義務違反。

Aは、被控訴Y2及びY3から厳しい叱責を受け、かつ、Bが叱責を制止せず、本件配置転換後のAの業務内容や業務分配の見直しが必要であったのはこれを検討しなかったことにより、Aが受けた心理的負荷の程度は、全体として強いものであったと認められ、客観的に見てうつ病を発症させる程度のものと評価することができる

Aは遅くとも平成24年6月中旬には、うつ病を発症していたと認められ、これらの不法行為とAの自殺との間には、相当因果関係がある

Y2及びY3の各不法行為については、それのみでうつ病を発症させる程度のものと評価することはできず、Aの自殺との間の相当因果関係は認めなかった

Aの損害については、
被控訴人Y1(勤務先)の不法行為について、控訴人Xら固有の損害を含めて約5574万円を認め
被控訴人Y2及びY3の不法行為については、限定的な範囲で認めた
 
<解説>
使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う。’(最高裁H12.3.24) 

●不法行為とAの自殺との相当因果関係の判断
原審判決:
①配置転換直前からの時間外労働時間が月約50時間から67時間程度であってそれほど長時間とはいえない
②周囲の従業員らでAが精神障害に関連する症状を発症していると感じた者がいなかった
③家庭生活においても明らかな異常は見られず、精神障害に関連する受診歴がなく
④配置転換後も趣味に関するツイートがある
⑤異性との交際問題が自殺に影響した可能性もある

Aがうつ病を発症したとは認めなかった

本判決:
時間外労働時間が配置転換前と比較して明らかに増加傾向にある
身なりにかまわなくなったこと、③食慾が減退し、趣味に関するツイート数が大幅に減少し、被控訴人Y2及びY3から叱責されて落ち込んでいた

Aが受けた心理的負荷の程度は、全体として強いものであったと認められ、中等症うつ病エピソードの患者と診断できる状態にある

自殺との相当因果関係を肯定。

判例時報2374

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2018年10月 4日 (木)

会社の上場実現及び維持のために有価証券報告書等の虚偽記載に故意に加担した会計士が所属する監査法人の責任(肯定)

東京高裁H30.3.19      
 
<解説>
株式市場における適正な価格形成の実現には、上場企業が開示する財務・経営に関する情報の真実性、正確性の確保が不可欠。 
金商法は、企業その他の関係者に開示情報の真実性・正確性の確保を求めるとともに、そのエンフォースメンとの持効性を強化する手段として、行政処分、課徴金、刑事責任などとあわせて、民事責任規定(金商法18条、21条、22条、24条の4等)を充実強化
民事責任規定を、被害者救済手段だけでなく、開示規定違反行為の抑止手段とするという立法意思は明確であって、民事責任規定による巨額の賠償リスク・倒産リスクは、違法行為抑止の手段として位置付け。
 
<事案>
公認会計士が企業の粉飾決算に故意に加担した事案であり、
有価証券報告書等に係る金商法193条の2第1項に規定する監査証明において、財務諸表等の記載が虚偽でない旨の監査証明をした公認会計士の所属する監査法人が、金商法の賠償責任を問われた事案。 
監査証明時に当該公認会計士が所属していた監査法人を吸収合併した別の監査法人が被告⇒監査法人のM&Aのリスクを示す。
 
<経緯>
株式会社Aの上場実現のため、C監査法人所属のB公認会計士とA社の社長らは共謀して、故意に、財務諸表中の売上高や利益の額の大幅な水増しという粉飾決算を実行
A社は、粉飾した財務諸表を提出して上場審査を受け、平成17年12月にJASDAQ市場への上場を実現。 
A社は、上場の際株式の募集や売出し等のために、平成17年11月に有価証券届出書(金商法4条、5条)を提出。
A社は、上場企業の義務として、平成18年9月に有価証券報告書(金商法24条)を提出。

売上高や利益の額を大幅に水増しするという粉飾が施された財務諸表が添付されていた。

C監査法人所属のB公認会計士は、故意に粉飾に加担していたにもかかわらず、これらの有価証券届出書や有価証券報告書に係る金商法193条の2第1項に規定する監査証明において、財務諸表等のj記載が虚偽でない旨の監査証明。
平成18年10月に、Y監査法人はC監査法人を吸収合併し、公認会計士法34条の19第4項の規定により、C監査法人の権利義務を承継。

A社は、証券取引等監視委員会の調査を受けて粉飾の事実を摘発され、平成20年9月19日に証券取引等監視委員会がA社の粉飾決算の事実を公表。
A社の株価は公表前の200分の1未満の水準まで暴落し、同年10月27日に上場廃止
⇒民事再生法による再生計画(再生型の再生計画)の認可を経て、最終的に破産手続開始決定。

株主らが原告となり、C監査法人を吸収合併したY監査法人に対して株価の下落による損害の賠償請求
をした。
 
<根拠規定>
(ア)平成17年11月の有価証券届出書提出後に上場の際の株式募集や売出しに応じてA株を取得⇒金商法21条 
(イ)平成17年11月の有価証券届出書提出後、かつ同年12月の上場後に、JASDAQ市場でA株式を取得⇒金商法22条
(ウ)平成18年9月の有価証券報告書提出後にJASDAQ市場でA株式を取得⇒金商法24条の4((イ)でも請求可)
 
<原審>
請求を全部棄却 
 
<判断>
請求の大部分を認容 
 
<判断・解説> 
●要件
金商法21条等の規定する要件(重要な事項についての虚偽の記載)の該当性をみるのに、有価証券届出書や有価証券報告書中の財務諸表に赤黒転換(真実は赤字なのに黒字と虚偽記載)
重要事項に虚偽記載あり。 

金商法21条1項3号の要件も満たす。

金商法21条の責任を追及する場合には、同条2項2号において故意過失がなかったことを、免責を求める賠償義務者側の立証責任
としている。
⇒本件では不適用。

金商法22条及び24条の4の責任を追及する場合には、賠償権利者側が虚偽記載について善意であることの立証責任を負う
本判決:善意の証明あり。
 
●損害額
株式の取得価額の全額を損害算定の基礎とした
粉飾の事実が上場審査時に発覚したらA社株式の上場は実現しなかった。 

有価証券報告書中の重要事項の虚偽記載があった場合の損害算定が問題となった西武鉄道最高裁判決(最高裁H23.9.13):

株式の取得価額の全額を損害算定の基礎とした上で、
「株式取得価額と株式処分価額又は事実審口頭弁論終結時の株式価格との差額」を算定し、更に
「虚偽記載に起因しない価額の下落分(経済情勢、市場動向、当該会社の業績等に起因する価額の下落分)」があればこれを控除する
という考え方。

◎ 本判決:
公表後事実審口頭弁論終結時(上場廃止時)までに処分(売却)した株式の前記①の段階の損害額算定:
株式取得価額から処分(売却)価額を控除した額を、この段階の損害算定額とした。

公表後事実審口頭弁論終結時までに処分できずに保有し続けている株式の前記①の段階の損害算定:
事実審口頭弁論終結時の株式価格がゼロ円と判断⇒株式取得価額をそのまま損害算定額とした。

◎前記②の段階の損額算定:
虚偽記載に起因しない価額の下落分(経済情勢、市場動向、当該会社の業績等に起因する価額の下落分)については存在しない(存在するとしても、損害額の算定上無視し得る程度の微々たるものにすぎない。)と判断。
⇒前記②の段階において控除すべき金額はない。 

西武鉄道最高裁判決の事実関係との相違:

西武鉄道事案:
上場廃止後も金融機関からの信用を失わず、倒産状態にも陥らず、中心的事業の経営が継続され、その後の企業再編を経て上場廃止企業の完全親会社が株式再上場を果たしている
上場廃止後も株式は無価値になっておらず、株価に影響を与える他の要因も検討する必要があった。

本件:
A社は上場廃止時には粉飾の発覚により金融機関からの信用を全面的に失い、
倒産状態
に陥った。
清算型の再生計画が認可され、上場廃止後の株式は無価値になった。

前記②の段階において控除すべき金額はない。

粉飾公表時期がいわゆるリーマンショックによる株価水準一般の暴落時機と重なった。
but
公表後上場廃止時までのA社株式の株価の推移を具体的かつ詳細に事実認定した上で、
リーマンショックの影響とは無関係に、A社が倒産して株式が無価値になるという市場参加者一般の予測により、A社株式は公表前の株価よりも99.5%以上も下落したと認定判断

判例時報2374

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2018年10月 3日 (水)

財産分離(民法941条)の請求と財産分離の必要性

大阪高裁H29.4.20      
 
<事案>
大阪家裁は、平成28年、Dについて後見開始の審判をし、弁護士であるBを成年後見人に選任。
Aは、Dの財産を生前から事実上管理していたが、Bが成年後見人の職務としてのDの財産の開示、引渡しを求めてもこれに応じなかった。
Dは同年に死亡し、法定相続人は、Dの子であるAとCの2名。
Bは、後見事務を処理するのに立て替えた費用等についてDに対して債権を有している。
Bは、大阪家裁において、第一種財産分離の申立てをした
 
<規定>
民法 第941条(相続債権者又は受遺者の請求による財産分離)
相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。
 
<原審> 
①被相続人Dの財産を生前から事実上管理していた相続人Aは、後見人Bが職務上、Dの財産の開示、引渡し等を求めても応じることはなく、
②Dが平成28年に、死亡したことにより、Dの債権者の債権の引当てとなるべき被相続人Dの財産と相続人A及びCがDの相続開始前から有する固有財産(債権の引当となる固有の財産を有すると認めることはできない。)とが混合するおそれが生じた

相続人らの固有財産から被相続人の相続財産を分離するのが相当。

民法941条1項に基づき財産分離を命ずるとともに、
同法943条1項に基づき、職権で相続財産管理人としてBを選任する旨の審判をした。
 
 
<判断>
民法941条1項の定める第一種財産分離は、相続人の固有財産が債務超過の状態にある場合(もしくは近い将来において債務超過となるおそれがある場合)に相続財産と相続人の固有財産との混合によって相続債権者又は受遺者の債権回収に不利益を生じることを防止するために、相続財産と相続人の固有財産とを分離して、相続債権者又は受遺者をして相続人の債権者に優先して相続財産から弁済を受けさせる制度

家庭裁判所は、相続財産の分離の請求があったときは、申立人の相続債権、申立期間といった形式的要件が具備されている場合であっても、前記の意味における財産分離の必要性が認められる場合にこれを命じる審判をなすべきものと解するのが相当。 

本件においては、抗告人A及び相続人Cについて、その固有財産が債務超過の状態(もしくは近い将来において債務超過となるおそれがある状態)にあるかどうかは明らかではなく、財産分離の必要性について審理しないまま、財産分離を命じた原審の判断は相当ではない
この点について原審においてさらに審理を尽くす必要がある
 
<解説>
財産分離は、債権者がその債権回収について不利益を被ることがないように、相続財産と相続人の固有財産との混合を阻止して、まず、相続財産について清算を行う制度
相続債権者等が請求する第1種財産分離(民法941条以下)と
相続人の固有の債権者が請求する第2種財産分離(同法950条) 

第一種財産分離は、その間、遺産分割ができなくなるなど相続人の財産管理等や第三者にも大きな影響を及ぼすもの
⇒これを認めるためには、それなりの合理的な理由(財産分離の必要性)を要すると解すべき。

●本決定に対し、財産分離の要件に関する部分について抗告許可

最高裁H29.11.28:
本決定のいう「財産分離の必要性」の内容について
相続人がその固有財産について債務超過の状態にあり、またはそのような状態に陥るおそれがあることなどから、相続財産と相続人の固有財産とが混合することによって相続債権者等がその債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難になるおそれがあると認められる場合」であるとされ、本決定もその趣旨をいうものとして是認。

相続人の固有財産が債務超過の状態にある場合でも、例えば、相続財産が極めて多額に及ぶケースでは、なお相続債権者が害されるおそれはないといえる。

家庭裁判所としては、事案に応じて、相続債権者等が債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難となるおそれがあるかどうかを総合判断することになる。

●抗告審: なお書きで、原審判が財産分離を命じるとともに申立人の自薦に基づき申立人自身を相続財産管理人に選任
本件において、相続財産管理人の職務内容に鑑みれば、相続債権者を相続財産管理人に選任するのは相当でない旨を付言。

相続財産管理人の選任(民法943条、家事手続き法別表第1の97項)のみ独立して不服申立てができない(家事手続法202条2項)。

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2018年10月 1日 (月)

除斥期間による請求権の消滅の阻止と訴訟での一部請求

札幌高裁H30.3.15      
 
<事案>
X:
平成6年5月17日、交通事故により、頭部外傷、脳挫傷等の傷害。
平成23年8月8日 脳外傷後高次脳機能障害と診断。

平成26年5月14日:
本件訴訟を提起したが、訴え提起当初、1億4112万3225円の損害額の一部であることを明示して、2000万円および事故日からの遅延損害金の支払を求めた。

平成26年11月20日:
1億位2309万8584円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求に請求を拡張。
 
<争点>
①Xの高次脳機能障害が交通事故により生じたものか
②症状固定時をいつとすべきか
③消滅時効が完成しているか 
 
<規定> 
民法 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする
 
<判断>
民法724条後段について、消滅時効を定めたものではなく、除斥期間を定めたもの
その趣旨について、不法行為を巡る法律関係の速やかな確定を図るため、一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を定めたものであって(最高裁H1.12.21)、
これによる請求権の消滅を妨げるためには、同期間内に裁判上の権利行使をする必要がある

Xにおいては、一部請求であることを明示した上で本件訴訟を提起しており、残部請求部分について訴えが提起されたとはえいえず、
明示的一部請求の残分について裁判上の催告としての効果があるとしても(最高裁H25.6.6)、裁判上の請求としての効果は認められない

民法724条後段の除斥期間による請求権の消滅を妨げるには足りない
⇒当該部分の請求権が除斥期間の経過により消滅。

 
<解説>   
●除斥期間による請求権の消滅を妨げるためには、期間内に訴えを提起する必要があるか、それとも裁判外における権利行使で足りるか? 

最高裁H4.10.20:
民法566条3項の1年の除斥期間について、
売主の瑕疵担保による損害賠償請求を保全するためには、売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、
裁判上の権利行使をするまでの必要はない


このような短期の除斥期間については裁判外の権利行使をもって請求権を保全することができると解しているものが多い。

学説上、
少なくとも723条後段の除斥期間に関しては、裁判上の権利行使を必要とするものが多い
 
除斥期間といっても、その期間も性質も様々であり、
除斥期間が定められた権利の保存方法についても、
その期間制限が付されている権利の性質や期間制限された趣旨を踏まえた考察が必要。
 
●明示的一部請求の訴えの提起が残部についていかなる効果をもたらすか? 
最高裁H25.6.6:
数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合、
当該訴えの提起による裁判上の請求としての消滅時効の中断の効力は、
その一部について生ずるのであって、
当該訴えの提起は、
残部について、裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない。

but
明示的一部請求の訴えが提起された場合、
債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り、
当該訴えの提起は、
残部について、裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずる

明示的一部請求の訴えにおける残部については、
裁判上の催告としての効力は認められるものの、
裁判上の請求あるいはこれに準ずるものといった効果は認められない

判例時報2374

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